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希望難民ご一行様 古市憲寿さん

[掲載]2010年10月3日

  • [文]加来由子 [写真]麻生健

写真:古市憲寿(ふるいち・のりとし)さん(25)拡大古市憲寿(ふるいち・のりとし)さん(25)

■あきらめさせてくれない社会

 「若者のキャリアアップの仕組みが整備されていないのに、やればできるって鼓舞される。そんな“あきらめさせない社会”のほうが問題だと思う」

 今の自分よりも輝く自分がいるはず、などと現実と希望とのギャップで苦しむ“希望難民”の若者たち。彼らへの処方箋(せん)として、「コミュニティー」や「居場所」が万能薬のように語られることが多い。それらは若者に承認を与えるだけでなく、社会を変えるための拠点になると考えている人も少なくないという。「だがそれは本当か?」と本書は問う。

 著者は社会学を専攻する東大の院生。たまたま乗ることになった世界一周クルーズ船「ピースボート」での若者たちへの調査をもとに、「居場所」が若者にどんな可能性を持つかを探った。浮かび上がるのは、目的を抱えて船に乗った若者の多くが、旅を終えたあとは目的を「あきらめ」て、船上でつくった友人たちと「そこそこ楽しく」暮らす様子だ。船で問題がおきても団結して抗議するのは年配者ばかり、若者たちは年配者のふるまいに嫌悪感を隠さない……。本書にみる若者像は総じて従順で優しい印象。結局、居場所は社会を変える力にはならず、単なる居場所のまま。

 「でもそれでもいいと思う。仲間がいて楽しくて、満足しているのなら」

 本書は声高に何かを主張するわけではない。冷めている。だがちまたの若者を励ます言説が、若者とはすれ違ってしまっているのではないかと思わせる何かがある。

 本人も冷めた感じかと思ったら、物腰のやわらかい好青年だった。友人とベンチャー企業を経営し、マーケティングなどにかかわっているという。

 巻末には、社会学者の本田由紀さんが「解説、というか反論」を寄せている。こちらは熱い。その温度差がまた面白い。

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