夢じゃないか−。日本中の人々が一瞬、自分の目を疑った。だが大歓声の中で、ザッケローニ監督だけは冷静だ。派手なアクションはなく、スタッフと握手を交わして“初白星”を噛み締めた。
「デビュー戦でこの結果に、とても満足している。アルゼンチンは私が思うに今、スペインと並んで世界最強チーム」
相手は先月、南アW杯王者スペインに4−1で大勝したばかり。日本も過去6戦全敗と歯が立たなかったが、FW岡崎が決めた1点を死守。20年以上指揮したイタリアで最も美しい勝利とされる『UNO(1)−ZERO(0)』を、日本でいきなり体現した。
「信じれば結果はついてくる。“チーム力”で勝とう!」と選手を送り出した、国際Aマッチ指揮の初陣。入場の際には先発選手と一緒にピッチへ進み、苦笑いで下がる姿には初々しさもあった。だが、試合が始まればほとんど座らずに指示。後半にはFW前田、MF阿部らを投入と、1点を守るための交代カードも的確だった。
「選手は指示したことを本当によくやってくれた」。4日の合宿初日には守備面で、「裏のスペースを気にするから寄せが甘い。1つに集中しろ。体を常に相手に相手に向けろ」と猛烈指導。6日には攻撃面でも、「もっとシンプルに縦に攻めろ」などと具体的に戦術指導した。
「選手のクオリティは本当に高い。自分で気づいていないだけ」。日本選手の技術を信じ、自身の味を加えることで、アルゼンチン相手でも対等に戦えると信じていた。
イタリア・チェゼナティコの実家はホテルを経営していた。一時は家業にも携わり、旅人たちが夢見る眠りを支えていたが、幾多の運命を経て、極東の地での指揮にたどり着いた。
「これからも一緒に成長していきたい。ヨロシクオネガイシマス」。ザック・マジックで、日本は夢を見られそうだ。4年後のブラジルW杯まで目を覚ましたくない。(須田雅弘)