- 3 -
●世界的に見れば日本はパッケージの売り上げが善戦していますが、これは時間の経過と共に欧米同様に落ち込み、配信などの新たなメディアの割合が大きくなってくるとお考えですか?
吉田:もちろんそうなっていくと思います。アルバムがあるからまだパッケージは堅調に見えているだけで、シングルは数字を見ていると本当に厳しいです。今後はパッケージに代わりモバイルの着うたや着うたフルになっていくんでしょうけど、音楽の所有の仕方が変わってくるだけで、音楽そのものとユーザーの距離や関係は変わらないじゃないですか。そこが変わらない限りは僕らはそう悲観することはないかなと思っています。
そういった状況の中でパッケージとしてのアルバムを売るという事は曲を売るのではなく、コブクロというアーティストを売るという事だと考えています。「『桜』のコブクロ」と言われるか、「コブクロの『桜』」と言われるか、そこは全然違うんです。やはり何年か経ったときに「コブクロの『桜』が好きなんです」と言われるようにならなくてはいけないと思っています。
●アーティスト自身を売るということは、ファンクラブの会員数を増やすという発想に近いかもしれませんね。
吉田:近いですね。100万枚CDが売れてもファンクラブの会員が少ないアーティストもいれば、CDは20万枚しか売れないけれどファンクラブには5万人会員がいるというアーティストもいるでしょう。僕らが目指さなくてはいけないのは間違いなく後者だと思います。ずっと応援してくれるファンがたくさんいるようなアーティストを作っていかないといけませんね。
●その状態さえ作れれば息の長いアーティストになるだろうと。
吉田:そうです。例えメディアが変わっていこうと売れていくと思います。また僕らはレコード会社なので曲というツールを使ってアーティストを売るんですが、その人自身を好きになってもらうことによって「360°ビジネス」を展開させることができます。360°のうち音楽は120°くらいでしょうか。だとしたら、あとの240°はレコード会社ではなかなか踏み込めなかったり、プロダクションの領域だったりするのが現状です。ですので、今後360°全てのアーティストの権利やビジネスに僕らが踏み込むには、新人アーティストを僕らの手で発掘し、マネージメントをして行くことが必要だと考えています。
●ワーナーとしてもそういう体制作りをしているのですか?
吉田:着々と準備をしています。去年の10月にはプロダクションのタイスケの株を70%取得させてもらったので、Superflyはワーナーグループのアーティストという認識でビジネスしています。ウルフルズやBONNIE PINKもそうですね。
●360°ビジネスとなりますとライブも大きな割合を占めてきますよね。
吉田:もちろんです。ライブはおそらく60°〜80°くらいありますね。昔、丸山さんがEPICソニー時代に仰っていたことを思い出します。レコード会社はそのアーティストを売るために何千万も宣伝費をかけて、売れた途端にプロダクションはライブをたくさんやって、その会場では物販ブースに人が群がっている。と、その儲けは全部プロダクションでしょう。「最終的なあがりはプロダクションか・・・」と丸山さんはボヤいてました(笑)。僕はその言葉が耳について離れないんですよ(笑)。
●(笑)。でもよく考えると、昔のレコード会社は作家や歌手と専属契約していたわけですから、再びそこに戻っているのかもしれませんね。
吉田:確かにそうですね。原点回帰しているのかもしれません。今まではレコード会社とプロダクションは共存共栄でやってきました。マネージメントはプロダクション、新人発掘はレコード会社とそれぞれに役割分担があって、レコード会社はアーティストをプロダクションに預けるみたいなスタイルでした。しかし、今のプロダクションは発掘からやりますし、発掘して作って宣伝してタイアップも入れてマネージメントもしてということになると、プロダクション側から見るとレコード会社はいらなくなりますよね。実際、ディストリビューションはどこでもいいわけで、そうなってしまうとレコード会社の存在意義はなくなってしまいます。
●今後はやはり原点に戻ると言いますか、発掘した人が育ててビジネスにするということになるんでしょうね。
吉田:そうですね。ですからレコード会社の中に金の卵をふ化させるだけの強さ、例えばタイアップ力とかクリエイティブ力があれば、他に預ける必要はないんですよ。
●つまり今後のレコード会社の使命としては、自ら才能を見つけ、高い確率でヒットを産みだし、そして360°ビジネスを展開させることであると。
吉田:それが理想ですね。現状をキープしてヒットを出しつつ、360°ビジネスを自社で展開できる新人を育てることによって、今までの収益構造を変えていくことが今後の目標ですね。そうなるともうレコード会社とは呼べなくなるかもしれません。エンターテイメント・カンパニーと言いますか、いわゆる従来のレコード会社ではないですよね。
●そういったエンターテイメント・ビジネスの先鋭集団にワーナーがなるのが今後の目標なんですね。
吉田:そうなったら素晴らしいと思います。
●最後になりますが、ワーナーとしての具体的な今後の予定を教えて下さい。
吉田:CEOに就任する10月1日から新しい期が始まるんですが、ワーナーミュージック・ジャパンならではの洋・邦取り混ぜたコンベンションを来期もどこかのタイミングで引き続きやりたいと思っています。また、竹内まりやのデビュー30周年を記念した初のコンプリート・ベスト・アルバム『Expressions』が10月1日に発売になります。年内はこの作品が一番の目玉になると思います。
●ワーナーミュージック・ジャパンの益々のご発展と吉田さんのご活躍を楽しみにしております。本日はお忙しい中ありがとうございました。
|