自力で兵器をつくれない国になる日本

予算縮減の中で瀕死の状態の防衛産業

2010.09.30(Thu) 桜林 美佐

国防

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最新型戦車を誰がつくっていくのか

 今、技術の継承ができないと、将来のダメージはもちろん、現在、運用されている「90(きゅうまる)式戦車」のメンテナンス作業にも影響が出てくると予想される。アフターケアやオーバーホールにも技術者が必要だからだ。

 そんな中、陸上自衛隊は今年6月、2011年度に配備予定の「10(ひとまる)式戦車」を報道陣に公開した。

 90式戦車では50トンだった重量が44トンへと軽量化に成功、90式の場合は輸送困難などの理由から北海道での運用にほぼ限定されていたが、10式は一般国道の橋梁の84%(90式は64%)が走行可能で、本州全土に行動範囲が広がることになった。

 最大の特徴は、GPSなどを駆使した「C4Iシステム(指揮、統制、通信、コンピューター、情報)」機能を有すること。これにより、ネットワークに組み込まれた戦車同士が互いの位置や現場状況の情報を共有できる。また、普通科(歩兵)部隊と一体化した作戦行動が可能となるなど、わが国のハイテク技術が集約されていると言える。

 しかし、製造ラインが動かなければ、長年かけて開発されたこの究極の「匠の技」も、失われる日を待つばかりとなりかねない。これが「防衛産業」の現実である。

これでは「国家を最後まで守る意思がない」のと同じ

 そもそも皆さんは「防衛産業」と聞いて、どんな印象をお持ちだろうか? 実は、該当する企業の方々も決して「防衛産業」という名称を好んで使っていない。世間で抱かれている印象が悪すぎるからであろう。

 「ぼろ儲け」「死の商人」「天下り先」など、実像とかけ離れた形容詞が付けられがちで、そこに従事する人々のことは、あまり知られてこなかった。防衛装備品を扱っているという性質から、機密保持という理由も、もちろんある。

 また、いわゆる「防衛産業」と言っても、大手メーカーだけではなく、2次、3次のベンダー企業が数千社連なっているのだ。戦車に限らず、戦闘機が約1200社、護衛艦が約2500社と言われている。その関連企業のほとんどが、今、危機に瀕しているのである。

 国を守るための防衛装備品、それを製造する企業が機能できなくなれば、日本の防衛はままならない。

 「専守防衛」を掲げているわが国にとって、この窮状を放置することは、すなわち「国家を最後まで守る意思がない」ということでもある。これは、先人たちが守ってきた国土を簡単に諦めてしまおうという「忘恩行為」と言われても仕方がないのではないか。

 また、兵器を輸入に依存すれば、相手国が「輸出を止める」と言えばなす術もなく、また、こちらに技術がないと知れば、相手はいくらでも高くふっかけてくるのが商売の常識だ。防衛予算をケチったつもりが、結果的に「高くつく」こともよく理解する必要がある。

 「国の宝」とも言える防衛産業が、ここまで追い詰められたのはなぜなのか。引き続き、防衛産業の実情をお伝えしていきたい。

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