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[22305] 【短編】アドレナリンをぶっ飛ばせっ!
Name: #十六日#◆c8cd5039 ID:e0445489
Date: 2010/10/02 22:40
~~~~~ 前書き ~~~~~

こんにちは、#十六日#です。

○当該作のコンセプトは、真面目にふざけろ、です。
○プロットは練っていますが、基本、勢いだけで書いてます。
○当該作は短編です。10話前後で終わらせる予定です。
○感想、批評、アドバイス、ご指摘等等ありましたら、なるべく書き込んでいただけると嬉しいです。

以上です。



[22305] vol_001 事件発生
Name: #十六日#◆c8cd5039 ID:e0445489
Date: 2010/10/02 22:41
草間純二(くさまじゅんじ)は現職の警察官である。
紺色を基調とした制服に身をつつみ、愛車に乗って縦浜町内を巡回するのも仕事のひとつ。
無論、昼日中のいまはそんな仕事の真っ最中だった。


「もうお昼かぁ、今日も平和だなあ」


のどかなパトロールの時を愉しみつつ、ペダルを漕いで整備された目抜き通りをつらつら走る。
ちらり仰げば間抜けなくらいに空が青く、うるさいほどに太陽がまぶしい。
縦浜町商店街は常と変わらず今日も平和――のはずだった。


しかし、不意に平穏は切り裂かれる。


「銀行強盗だぁっ!」

「えっ?」


突如、純二の耳にだれぞの悲鳴が飛び込んできた。
おもわず素っ頓狂な声をあげてしまう。
もっともそこはさすがに警察官。
束の間、ついと戸惑いを垣間見せたとはいえ、即座に心の平静を取り戻す。


町の治安を担う自分がパニくってどうする?


心中、ひそかに襟を正し、乱れたおもいを改め直す。
聞こえてきたセリフの内容を鵜呑みにすると、事態が急を要しているのはあきらかだ。
考え込む暇があるのなら即行動。
なにはさておき、純二は現場に急行した。




*****




場景は息の詰まりそうな緊張感にひたされていた。
また、すでに場面も混沌としていた。
いまだわずかに距離を残しているとはいえ、十分にそれが察せられた。
通りに面した縦浜銀行の入口、その自動ドア付近に黒い目出し帽、端的にいうと覆面をかぶった男らしき体躯のふたり組が立っている。
両者とも手にゴム紐の張ったY字の得物、いわゆるパチンコを構えていた。


まずいな。


一瞥しただけでそうと理解できる。
装填した弾とともにつまんだゴム紐を力任せに引き絞っている覆面男らのさまは、いわずもがな。いつでも射撃可能な状態にあるといえた。
かれらの使用する弾の種類は、おそらく生分解性プラスチック製の6mmBBB(Biotech Ball Bullet)弾とみてまずまちがいなだろう。
なるほど6mmBBB弾はパチンコのそれとしては最もポピュラーな代物であり、そのバランスのよい性能はなかなかどうして信頼性が高い。
警官仲間のあいだでも6mmBBB弾の人気はたしかなもので、かくいう純二も愛用者のひとりであった。
つまり6mmBBB弾の威力は国家公務員のお墨付き。
ともなれば、現場が一触即発の気配に充たされていたのも道理といえる。


覆面男たちのかもしだす、いましも撃ちそうな雰囲気に純二は動揺をおぼえそうになった。
だが、


いやいや、だからパニくってどうする。


そう首を左右に振るや、ペダルを漕ぐ脚に一層のちからをこめた。
すれば現場に向かう速度がより加増されるというもの。
次いで、


まずは正確な現状把握が必要不可欠だ。


と、純二は思考する。
幸い問題の銀行には大きなガラス窓が幾つか設けられており、そこから建物内の様子を目視することが可能となっていた。


銀行内には自動ドアのまえで身構えているふたり組とはべつな覆面男数名の姿がちらちら視認できた。
あるいは銀行職員とおぼしき制服姿の者たちと逃げ遅れたであろう様相を呈している一般人、合わせて十余名のありさまもみとめられた。


「くそ。おもっていたより多いな」


予想外にも多かった覆面男たちの人数に純二は、ちっ、と舌打ちをひとつ。
なるほどたしかに銀行強盗犯というより、銀行強盗団と表したほうがしっくりくるか。
相手はそんな大所帯だった。
さらには全員、漏れなくパチンコを携帯している。


ひとりでは無理だな。


相手の戦力に正直、純二は肝を冷やした。
警察官として純二も最低限の武器、イコール強盗団らと同種のパチンコと弾は携帯しているが、さりとて単独でどうにかできるような状況ではない。
もっとも、一定の距離をおいて銀行のそばに群がった野次馬たちの人数はまだ少なく、そのために事件発生からさほど時間は経過していないようにおもえた。
ようするに味方の応援は現状、期待できないということ。


あと10分もすれば駆けつけてくるかもしれないが――

「とりあえず、いまはひとりで頑張るっきゃないってことだよな」


純二はつぶやき、ため息混じりに覚悟を決めた。
そうして自動ドアまえの覆面男ふたり組と野次馬集団のあいだに自転車ごと自身を急停車させた。



[22305] vol_002 対決、銀行強盗
Name: #十六日#◆c8cd5039 ID:e0445489
Date: 2010/10/03 22:02
「武器を捨てろっ。警察だっ!」


恫喝一声、愛車からひらり降り、腰の革ベルトに納めておいたパチンコを引き抜き、それを隙なく構える。


そんな純二の乱入に対し、覆面男らふたりも動きをみせた。


かれらにとっては天敵ともいえる警察官の登場に――
なるほど別段、慌てるふうでもなく互いの顔を見合わせ、ほどなく。


ッ!?


覆面男のうちひとりが、ゴム紐を引き絞ったままに構えていたパチンコを振り向きざまに撃ち放った。
その狙いは、いや、改めて説くまでもないだろう。場面の流れからして純二以外にだれがいるというのか。
刹那、


やられるっ!?


と、そう全身を強張らせる純二。
犯罪者ながら完璧なタイミングの不意打ちだった。
その俊敏な動きは称賛に値するやもしれない。
ただし、結果を顧みれば褒められたのはそこだけともとれる。


おもわず純二が目をつぶってしまった直後、撃ち放たれた直径6mmのプラスチック弾は直撃した。
が、ふと気づけば無傷である。
なぜか。
被弾箇所が腹部、つまりは制服のうえだったからだ。
警官の制服というものは一般人の着る服に比べ、かなり厚く丈夫なつくりとなっている。
それゆえ、プラスチック弾程度の威力ならやすやす弾けてしまう。


パシン、と乾いた音をたてたのち、勢い失い足もとにぽとり落ちる6mmBBB弾。
純二がゆるり目をひらく。
そうして自身の無事がみとめられるや、ほっと一息つくとともに唇の端をにやり持ちあげた。


「おほおっ、残念だったな。頭を狙われていたらアウトだったよ」


いって純二は悠然とパチンコを改めて構え直し、同時に狙いを定める。
覆面男ふたり組の片割れ、いまだパチンコの弾を撃っていないほうにおのが得物の照準を合わせたわけである。
これ以上ないと断じてもいいくらいの形勢逆転に純二の気分は高調した。
なれば自然、口数が多くなる。


「というよりも、俺だったらはなから頭を狙っていたな」


と、ここでふとひとつの仮説が閃く。


「いいや、ひょっとしておまえたちに狙うだけの腕がないだけか?」

「……くっ」


それは覆面越しからでも十二分に理解できる意思表示。
覆面男ふたりのうちどちらかのもらしたうめき声は、あきらかに純二の仮説が図星であったことを証明してしまっていた。


純二の胸中が高揚に加え、余裕すらも生みだしてみせた。


「ははっ。どうやらそのまさかだったみたいだな」


堪えきれず自慢を孕む笑声が漏れてしまう。
純二は自分の射撃技術に関してはそれなりの自信があった。
だからこそ、無様な腕にしかおもえない覆面男どもにいってやる。
つまり調子に乗った。


「俺はおまえらとはちがうぞ。狙った的は外したことがないっ」


相手のかぶる覆面の素材は毛糸に似ている。
すなわち薄手といってよく、ということはプラスチック弾でも十分に衝撃を与えられる公算が高かった。
ぎりぎりきしむほどに構えたパチンコのゴム紐を、純二は弾と一緒に人差し指と親指でつまみつつ引き絞り、溜めて溜めて――


はなした。
と、直径6mmの小粒大の白球が、寸分たがわず純二の狙い定めていた覆面男の眉間に直撃する。


「ぐわあっ」


覆面男が構えていたパチンコを取りこぼしたと同時に両手で額を押さえつけるや、もんどりうって倒れ伏す。
また、その拍子に後頭部をしこたま硬いコンクリートの地面にぶつけていた。
それはごつんと明確に聞こえてきたほどで、おそらく後者のほうがより痛かったのだろう。
すぐに両手を後頭部へと移し変えた。


「ふつうに倒れていればよかったのにな」


リアクション過多な相手に純二は嘲笑を示し、次いでズボンの右ポケットから次弾を掴み取る――が、敵もさる者。
いくら射撃の腕が未熟だったからとはいえ、それでほかの部分まで等しく未熟だというわけではなかった。
当然といえば当然のことである。
純二が仲間を撃つ時間を利用し、残された覆面男は如才なく次弾の装填を済ませていたようだ。
いまだ地べたで後頭部をさすっている相棒には一瞥もくれず、再度、その覆面男、仮称Aはパチンコより6mmBBB弾を撃ち放つ。


――で、まあ、とりあえず結果だけをさきに述べてしまうと、覆面男Aの二度目の攻撃もはずれに終わった。
今回、当たった箇所は右肩。もちろん、そこも制服のうえである。
覆面男Aの動きや判断力はかなり優れているといっても過言ではないだろう。
そしてそれら高スペックな能力が唯一、残念な射撃技術を一層にきわだたさせており、ひどく憐れにおもえた。


いや、はっきり憐れと断じてもよいかもしれない。
なにせ警察官の制服の両肩には厚手のパットが仕込んであるため、むしろ一度目のときより純二の受けた衝撃は軽くなっていたといえる。
場面に最適な行動を最速で選択したにも関わらず、得られた成果が以前よりも悪化しているとは――


「なんつーか、ほんとに残念だったな」


純二は勝利を確信し、ほのかな同情心すら敵に抱いてやった。
余裕たっぷりに弾を装填、パチンコを構え、泰然たるさまの自身に酔って声を張る。


「これが最後の警告だ。武器を捨てて銀行内の仲間にも犯罪行為をやめるようにいえ。さもないとおまえの眉間にも撃ってやるぞっ!」


腕のない覆面男Aにもはや打つ手はないはずだった。
こちらの要求にすんなり答えてくれるだろうと純二が楽観したのも無理はない。
しかし、黙して語らず。
覆面男Aはなにも応えなかった。


馬鹿が。


純二は心中、大いに吐き捨てた。
ひょっとしたら覆面男Aは純二のセリフを脅し程度にしか受けとめていないのかもしれない。
だとするとそれは心底、愚かにすぎるといえた。
純二は本気で撃つつもりなのだ。
というより、相手が折れてくれるまで何度でも撃ってやるつもりだった。
覆面男Aの攻撃は純二にあたらないのだから、これから予想し得る敵の将来像はサンドバックだろう。
ならば痛みなく降伏したほうが利口というもので、それゆえに純二は微動だにしない覆面男Aをひそかに罵倒できた。


愚者と賢者の境界線を感じながら純二は、おもむろに指の拘束からパチンコのゴム紐と弾を解放してやる。
無論、本日、二発目となるそれも狙い通り覆面男Aの眉間に直撃し、


なにっ!?


純二は驚愕した。
弾が覆面男Aに直撃したのはたしかなはずである。が、かれは痛がるそぶりすらみせず平然とそこに立っていた。
次いで不思議と純二にはそれがはっきり分かってしまった。
目出し帽であるゆえ覆面から唯一、覗けるかれの両眼、それがにたり笑みのかたちにゆがんでいる。


「ば、馬鹿な」


ついとふたたび驚愕の声をこぼしてしまう純二。
これに対して覆面男Aがおもむろに目出し帽のふちを掴み、それを一気に口もとあたりまでたくしあげた。


なにを――って、まさかっ!?


なんと驚け。たくしあげられた覆面のしたには、もう一枚の覆面らしきもののすがたがみえる。
そう。つまりは、


「二枚重ねかよ」


純二はつぶやき、気持ち肩を落としてわずかに弱い息を吐く。
すると覆面男Aが、


「くくく……」


と、あきらかに相手を小馬鹿にするかのような面持ちで含み笑った。
あるいはさきほど自身の腕が純二にけなされたため、それの仕返しといった腹づもりもあるのかもしれない。
まあ、その真意がどうであれ、現状、純二にできることがなくなったのは事実だった。


ややもすると、たっぷり笑声をこぼし終えたのちに覆面男Aが隣でダメージから復活しつつある仲間、仮称Bの肩をぽんとひとつ叩く。
それは撤退の合図だったのだろうか。
純二は覆面男らの行動を制止しようと構えた。
だが、目出し帽二枚重ねの覆面男Aをして6mmBBB弾の威力がなんら意味をなさないであろうことは分かっている。


動けないし、なにもできない。


純二のパチンコはもはや威嚇にすらならず、それは当然、覆面男Aも理解しているはず。
だからこそ覆面男Aと場に完全復帰したBは、なるほどさほどの警戒心をみせず銀行内へと引っこむことができたにちがいない。
結局、純二は敵の行動をただ観察しているだけに終始した。


純二の心中に、ずぶり苦い幾重もの口惜しさが募りゆく。
が、ここは早々に気持ちを切り替えねばならない。
あの覆面男らが銀行にはいっていった以上、敵が籠城戦に持ちこもうとしているのは明白だった。
ならばと、純二は味方の応援が駆けつけてくるまでの間、せめてそれまでは犯人の動向を見張りつづけておこうと考える。
さらにいうなら、もし目を離した隙に逃げられでもしたら、それこそことであった。
そうして、


次はしくじらない。絶対にっ!


おそらくもういちど迎えるであろう犯人との戦闘に備え、そう純二は心に固く誓ったのである。



[22305] vol_003 助っ人は想いびと
Name: #十六日#◆c8cd5039 ID:e0445489
Date: 2010/10/04 22:17
銀行強盗犯らが籠城をはじめてから十二三分後、ようやくにして応援が駆けつけてきた。
といってもたったひとりだが。


「どう。状況は?」


女性用の警官服を着た黒髪の女が純二に問いかける。
隣でするどく視界をめぐらし、警戒を怠っていないかの女の名は、


「多村智子(たむらともこ)」


警官服を着用していることからもわかるとおり、智子は純二の同僚である。
ちなみに補足するなら純二のひそかな想いびとでもあった。


かなり急いでここまで駆けつけてきたらしく、智子の呼吸がかなり荒々しい。
と、そんなかの女の吐息の調子にやや色気を感じつつ、純二は答えた。


「さっきまで覆面男がふたり、銀行まえを陣取っていた」

「そう。それで、そのふたりはどこ? いまはみえないようだけど」

「あ、ああ、その……だな」


これにはさすがに純二も口ごもる。


なにもできず、銀行内に逃げられてしまいました。


とは、なんとも恥ずかしいやらなにやらで口にしづらい。
対して智子、眉をひそめる。


「なに? なんかいいにくそうだけど」

「すまん。取り逃がした」


それでもいわねばならなかった。
さらに謝る必要もなかったのだが、ついと口にでてしまう。
情けない行為と知りつつも死ぬほど弁解したかった心情のあらわれか。
もっとも、智子は相手の失敗をとりわけ責めたてるような性質の持ち主ではない。
あくまでそれが取りかえしのつくミスだったらの話だが。
ゆえに智子は、


「まさか、街なかへ逃がしちゃった……とか」


などと純二とはべつな部分を危惧し、最悪の状況を想像したらしかった。
これには純二、否とはっきり首を横に振り、次いで簡単に現状を説明する。


「いや、さすがそれはない。銀行内に逃げこまれてしまったんだ。つまりいま、犯人はなかで籠城している」

「なんだ。じゃ、そんなに問題はないじゃない。でも、逃げられたってことは犯人を撃たなかったの? それとも外した?」


智子の口調は別段、純二を責めるようなものではなかった。
だが、それでも純二は大いに反応してしまう。
やはりさきほどの無力な自身は情けなく、さりとてなにもしていなかったとはおもわれたくないからだ。
まあ、結果としてはなにしていないに等しいのだが。


「もちろん撃ったさ。それに外してもいない。ただ……な」

「ただ?」


純二のセリフを繰り返しつつも、きょろきょろあたりをうかがって警戒に隙をみせない智子。
わずかなためらいののち、純二、セリフのつづきを口にする。


「覆面が二枚重ねだったんだ」


えっ、と智子の動きがとまり、表情が強張った。


「ほ、ほんとうに?」


純二の顔をひたり見据え、智子は念を押すようたずねた。
一方で、はん、と疲れたように息をもらした純二が、弱い笑声とともにいう。


「嘘をついてもしょうがないだろ?」

「むっ。そりゃ、まあ」


気持ち声をつまらせたそぶりをみせるや、納得して智子、うつむき加減に黙りこんだ。
二の句が告げないといった様相であり、それは純二も同じだ。


しばしふたりの間を気まずい沈黙が時を刻む。


そして次に声を発したのは智子だった。


「ったく、犯人ども。準備は万端ってわけか」


あごに片手をあてがい、そう毒づく。


「まあ、そうなるな。俺もそれと知ったときは愕然としたよ」


おどけるくらいの余裕はでてきたため、純二はひょいっと肩をすくめてみせた。
すると智子、なにかをおもいだしかのようにぱっと顔をあげる。


「ひとつ訊きたいんだけど」

「なんだ?」

「最初、純二が対峙した犯人ってふたり、だったわよね?」

「ああ、それが?」

「そのふたりとも二枚重ねだったの?」

そういえばいってなかった。


純二は内心で自身の伝えた情報に漏れがあったことを反省した。


「いいや、ちがうな。実のところ、ひとりには6mmBBB弾がヒットしたんだ。いちどは倒れたから、十分なダメージも与えられていたとおもう」

「とすると、犯人全員が二枚重ねというわけじゃないのか」


智子がふたたびうつむき、と今度はなにやらぶつぶつつぶやきはじめた。
さりとて純二、この光景には慣れている。
なぜなら、なにごとか思案するとき考えを口にだしてしまう。それは智子の悪癖だったからだ。


「だったら二枚重ねとそうでないやつが判別できれば……だめね。籠城中じゃ、判別するなんて到底、むずかしい。となれば、どうするべきか――」

「ここは応援を待つしかないんじゃないか」


ここで純二のいう「応援」とは智子のような個人ではなく、正規部隊のことである。
これだけの騒ぎになっているのだ。すでに最寄の警察施設が援軍をこちらによこしてきているはずと想像するのは自然な流れといえた。


「やっぱそれしかないか――て、わたし、また口にだしてた?」

「おう。そりゃ、まあ、はっきりと」

「やっぱりかあ。この癖、直そう直そうとはおもってるんだけどね」


純二、そのはにかんだ笑みがまた可愛らしい、とおもった。


「無理に直す必要はないんじゃないか。癖なんてそう簡単に直るものじゃないしな」

「かもしれないけど。でも、結構、ほかのひとから変な目でみられちゃうのよね、この癖」

「ま、たしかに不気味っちゃあ、不気味か。俺は慣れちまってるけど」

「でしょ。ああ、どうにかしてすぐにでも癖の直る方法がみつからないかな」


ため息まじりにぼやく智子。
それをみて、おもわず純二はくすり笑った。
と、智子も釣られてなのか。心持ち照れた表情をみせてから破顔し、


「なんて雑談に興じても仕方がない」


瞬時に顔の色を真剣なそれに戻す。


「なにか現状でもできる犯人への突破口をみつけなきゃ」

「だから応援がくるまで待つんじゃないのか?」


もう忘れたのか、とでもいいたげな口調で純二はさきほどの提案を繰り返した。
対して智子が右手ひとさし指を口もとのまえでまっすぐ立て、それをぴこぴこ左右に振りながら、


「なかなか応援がこなかったらどうするのよ。敵も馬鹿じゃないわけだし、じっと待っててくれるなんて保障がどこにあるの?」

「ああ、それは――と、なんだ。どうやらその心配の必要はないみたいだな」


純二が北東の方向を指さし、いった。
すれば智子も示された方角へと視線を移し、


「なに、なにかあるの?」


どうやら聞こえていないらしい。


「耳を澄ましてみろよ」

「耳を?」


智子がいぶかしげに眉根をよせつつも目をつぶった。
そうしてすこし時間をおくや、


「なるほどね」


合点がいったらしい。
件の方向から小さく――だが、大量に聞こえてきている甲高い金属音。
きぃんきぃん、と軽快なリズムを小刻みに。
それは自転車のハンドル部分に備えつけられたベル、警笛の鳴り響く音でまちがない。
さらに警笛を連続して鳴らし続けてよいのは警察官だけである。


きたか。


純二と智子、ふたりはお互いの顔をみやり、にっと笑みを交わしあった。



[22305] vol_004 応援部隊到着
Name: #十六日#◆c8cd5039 ID:e0445489
Date: 2010/10/05 22:10
ベルの音が聞こえはじめてから数分後。
総勢32台の自転車とそれに乗っていた同数名の警察官が現場に集結した。
そして犯人どもの籠城する銀行を完全に包囲する。


「それでどうだ? 首尾は?」


態勢を整えるなり、智子とほぼ同じ意味の質問を口にしたのは、


「牟田秋道(むたあきみち)」


いわずもがな、純二の、あるいは智子にとっても牟田は上司にあたり、とても偉い。
その証拠に今回の事件の指揮すらも一任されている。
つまりはこの牟田が現場監督というわけだ。


「犯人は銀行内部に潜伏中。敵の狙いはおそらく籠城戦にあるとおもわれます」


びしり直立不動と緊張した面持ちで精一杯の敬礼を上司にしめす純二。
対して牟田、鷹揚にうなずき、


「うむ。報告ご苦労」


と部下を事務的にねぎらってから、ぽつりぼやく。


「しかし自動ドアも窓もすべてガラス張りか。こいつは突入が難しいな」

「はい、自分もそうおもいます。さらに建物内には一般人の姿が多数みとめられ、人質をとられるとの可能性も捨てきれないかと」

「そうだな。ことは慎重を要する。気を引き締めねばなるまい」


いわれずともといった様相で牟田の表情がより一層に険しさを増す。


「それで、これからどうされるおつもりですか?」


と、これは智子のセリフ。
問われて牟田、純二からかの女へと視線を移し、


「まずは相手の反応をうかがってみるよりほかあるまい」


いって銀行の真正面に歩を進めゆく。
そのうしろ姿からは、さすがと評すべきか。ひとの上に立つ者のまとう独特の風格が感じられた。


牟田は大いにひとつ息を吸いこむと、銀行を、いや、正確にいえば銀行に立て籠もる犯人らをきっと見据え、吠えた。


「犯人たちに告ぐ。武器を捨て、大人しく投稿しなさい。いまならばそれなりの恩赦も提供しよう。
 だが、あくまで抵抗をつづけるとなれば、不本意ながら我ら警察官もそれ相応の対応をとらざる負えないっ!」


牟田の声質は直接、腹に響き渡るほどの重低音であった。
ために取り調べの最中、被疑者を精神的に圧迫してしまい、気絶にまで追いこんだなどという逸話まであるそうだ。
こうして牟田を目の当たりにするまでは、所詮は噂と歯牙にもかけていなかった純二であるが、


納得できるかもな。


牟田の声音を間近で耳にし、自身に向けられた言葉ではないと理解していても、正直、純二はびくついてしまう。
それはある意味で武器といってもよいかもしれなかった。


ただ、そんな牟田の自慢の武器(?)も犯人どもには通じていないようで、銀行の建物そのものも変わらず静寂にひたされている。
と、しばしその静かな光景を黙ってみつめていた牟田が、くるり振りかえり、純二ら部下にかっと初の指示を口にした。


「犯人どもに投降の意志はない。撃てえいぃっ!」


怒号にも似た牟田の号令を受け、現場に集いし警察官、その全員がパチンコを構え、弾丸を放つ。
数十の6mmBBB弾がガラスに、あるいは壁に連続してぶつかり、弾け散る。
そのさま一斉射撃。
まさしく大粒の雨が間断なく横殴りに降りしきっているかのごとき場景を想わした。


もっとも、プラスチック製の弾では頑丈なガラスや壁に傷ひとつつけられるはずもない。
無論、それは牟田にも分かっていたはずであり、これはあくまで威嚇、あるいは警告のための攻撃だったにちがいなかった。


「撃ちかたやめえぇいっ!」


ふたたび牟田の号令があがった。
もっとも、今度のものの意味合いはさきほどと真逆であり、それに従い、純二や智子を含めた警察官らは射撃の手をぴたりとめる。
なるほど警察側の攻勢時間はなかなかどうして控えめといってもよい。
まあ、それも当然の判断か。
いくらいまの一斉射撃が単なる警告のためのそれだったとはいえ、さりとてあまり犯人を刺激しすぎるのは褒められた行為ではないはずだからだ。
万が一にも相手が逆上してしまっては最悪である。
ゆえに――


そう。すくなくとも警察側はそれ以上の刺激を犯人どもには与えなかった。
なれば犯人側に更なる刺激を与えたのは、事件現場からわずかな距離をとり、まさに傍観者よろしくことのなりゆきを見物していた野次馬たちである。
具体的には、うちのひとりがまず叫んだ。


「母さんをかえせぇっ!」


牟田とはあきらかにちがう質の高い声。変声まえの子供、そんな感じの声音だった。
純二がはたと振り向けば、そこには予想どおりというべきか。
野次馬集団の輪より一歩まえ、そのはずれた場所で仁王立ちとなるみため七八歳の男児の姿があった。
そしてかれのちいさな右の手のひらのうちには、子供の拳よりやや大きめな石らしき得物がしかとにぎられている。


やばくないか。


純二の心のつぶやきは、この場にいるだれしもがおもったことにちがいない。
さきの言葉と件の得物をみやれば、純二でなくとも男の子がなにをしたいのか。その最悪な事態が想定できてしまうからだ。
すれば直後、純二の、いや、純二たちの危惧は現実のものとなる。



[22305] vol_005 幼き凶行
Name: #十六日#◆c8cd5039 ID:e0445489
Date: 2010/10/06 22:54
男の子が得物をにぎった手にちからをこめ、それをいっぱいに振った。
ともすると、その反動とともに宙へと石が放り投げられる。


純二の目に映えたそれ以降の光景はまるでスローモーションだった。
またはコマ送りのようでもあり、とにかくひどくゆっくり緩慢におもえた。
なるほど多少、大袈裟な表現になってしまうが、それは走馬灯といえる現象にちかかったのかもしれない。


丸いと断ずるにはやや凹凸の目立ついびつな形の石――
これが宙にゆるい弧をえがき、純二ら警察官たちの頭上を越え、吸いこまれるようにして10ちかくある銀行の窓ガラス、
そのひとつに向けて滑空してゆく。


情けないかな。純二の頭のなかはまっ白になっていた。
混乱を極めていたといいかえてもよい。
純二が唯一、できたことは傍らにいる想いびと、智子のことを背にかばうことだけである。
市民を守ることこそ最優先事項であるはずの警察官が、その市民を放置して同立場の同僚を守ったなど、なんと馬鹿げた話だろうか。
まあ、余裕がないために晒してしまった純二の本心がこれだったのだから仕方ない。


一方で牟田はちがっていたようだ。
その証拠にかれの切羽詰った、けれど周囲の安否、それへの気づかいを忘れなかったゆえの声が純二の耳にとどいてきた。


「伏せろっ!」


直後、がちゃん、と石くれが窓ガラスを直撃。数十の透明な破片が広範囲に撒かれる。
純二は刹那、どきり胸が跳ねるのを感じてしまう。
が、幸い砕けた窓ガラスとは距離が十分、離れていたため、純二自身、また智子にも怪我はなかった。
次いで当然ながら背後の野次馬たち、もとい。善良な一般市民であるかれらにも負傷者はいない。
ともすれば、はたと純二はおもう。


牟田さんは無事か。


牟田は窓ガラスが割れる直前まで純二らのまえにいた。
すなわち牟田こそが最も被害にあう公算が高い。
牟田の身を案じた。


ちなみに最も危険性のある場所に居合わせた牟田の身を案じるタイミングが遅すぎるとの声もあろうが、
そこは純二の抱く本質的な優先順位がそうなのだからいまさらといえよう。
ともあれ、智子、野次馬ときて三番目に純二は牟田の様子を確認し、


あっ。


と、地べたにうつ伏せとなって倒れた上司の姿をみとめ、ぞくり悪寒が奔った。
いわずもがな。なんとも嫌な想像をしてしまったのだ。


「む、牟田さんっ!?」


不安をそのまま吐くよう呼びかけながら純二、牟田のそばまで一足飛びで駆け寄ってみせ、するや純二の声に反応したのだろうか。
牟田の肩あたりがぴくり動き、加えて多少、よろよろ二度三度と傾きながらも2本の足ですっくとかれが立ちあがってきた。


「無事でしたか?」

「ああ、ひとまず仔細はない」

牟田の口調は相変わらず凛としていた。


「よかったです」


純二、つい優秀な上司を失わなかったという事実から安堵の微笑をこぼす。


「ふむ。どうやら心配をかけたようだな」


牟田も笑った。ただし、こちらにはやはり幾分か余裕も風格もあり、純二のように純粋な感情だけではないようだった。
やはり上司としての態度といった含みもあるのだろう。
また、そんな表情すらも即座に抑えてしまう牟田からは重大な責務という気配も感じとられた。
なるほど真剣な面持ちで牟田、ひとりごとのようにつぶやく。


「しかし、まさか子供がこのような行動とってしまうとは――」


みなまでいわれるまでもなく牟田のセリフ、そのあとにつづく真意を純二は察し、応える。


「あの男の子の母親は、おそらく銀行内にいるのでしょう。それが原因かと」

「それはわたしにも分かるよ。それでも、な」

「それでも、なんです?」

「理由がどうであれ、子供がガラス窓を割ってしまうという行為自体に驚いてしまったんだ。犯罪の低年齢化、これを再確認させられた気分だよ」

「ああ、そういうことですか。確かに、もし飛び散った窓ガラスの破片がだれかに傷でも負わせ、血を流させてしまっていたなら、
 文字どおり流血事件にまで発展してしまいますからね。例え母親のためとはいえ、はたして自分が子供のときに同じ愚行ができたどうか」

「まあ、とにもかくにも、もしの事態にならなくてよかった――いや、被害者になりえるのは、なにもこちら側だけの話ではなかったな」


弾けるように牟田の視線が割れた窓ガラスへと移行し、そういや、と純二もそれに気づく。
だが、同時に推察できることもあった。


「大丈夫です。銀行内でも被害者はでていないでしょう」

「むっ、なぜそうといいきれる?」


純二の言葉を根拠のないものとでもおもったのか。牟田の口調が心持ちきつい。


「さきほどガラスの割れる直前、窓付近にひと影がみあたりませんでした。おそらく最初に行った威嚇射撃のおかげでしょう。
 犯人たちもなにかの拍子に窓ガラスが割れてしまうことを恐れて避難していたのだとおもわれます」

「ほう、そうだったのか。さしもの犯人どもも、やはり流血が怖かった、と」


ややひょうきんさをまじえて牟田が豪快に笑った。
苦笑する純二。


「自分も怖いですよ。なにせ流血ですからね」

「それは私も同じだよ」


いってまたもや牟田は豪快に笑う。
が、笑声はすぐにおさまり、かれの表情に常と変わらない厳格な表情が戻った。


「おっと、こうして笑っている場合ではないか。あの堅固な窓ガラスや自動ドアをどうにかして突破する方策を考えねばな。
 ふうむ、締め切った建物のなかだ。時間が経てば、あるいは犯人たち自らが息苦しくなって窓を開けるかもしれん。それまで待つか」

「あの、お言葉ですが。その可能性は非常に低いかとおもわれます」


牟田の考えを純二は真っ向から否定した。


「なぜだ?」

「犯人どもは覆面をかぶっているのです。それも二重に――」


なに、と顔を険しくさせる牟田。それはまるで怒っているかのような形相だった。
牟田とさして親しくない者がみれば、なるほど必ず勘ちがいしてしまったにちがいない。
が、実際のところはひどく驚いただけであり、並以上には付き合いの多い純二からしてみるとそれは容易に知れた。
だからこそかまわず話をつづける。


「つまり敵は、はなから息苦しくなるのを覚悟で籠城戦に持ちこんだのだろうと予測できます。
 ゆえに向こうから窓を開けてくるという見込みは皆無にちかいでしょう」

「覆面を二重にかぶる、か。確かにそれならば警察の攻撃に対してかなり有効な防衛策となるな」


ここで牟田、含んだ微笑を挟む。


「まっ、息苦しさを我慢できればの話だがな。なかなかどうして犯罪者とはいえ根性があるじゃないか、かれらは」


牟田が犯人らの振る舞いをまちがっているとしたうえで、その根性には称賛の声をもらす。
これには純二も同感だった。


もし自分だったら5分ともたないだろうな。


純二は自嘲気味におもった。けれど、それが普通なのである。
犯人たちの根性が常人のそれを遥かにうわまわっているということはだけはみとめねばならない。
例えその方向性に誤りがあったとしても事実は事実だった。


「しかし、そうすると突破口がないな。割れている窓が一枚だけではどうしようも……
 いや、待てよ。そういえば結果オーライって言葉があったよな」


牟田はセリフの途中でなにごとかを閃いたらしく、にやり唇の端をゆがませて余裕を孕んだ視線を純二に送る。


「おまえは戻っておけ。あとで全員に指示をだす」

「はっ」


牟田がなにを考えついたのか気にはなったが、ひとまず純二、指示に従って持ち場に戻った。



[22305] vol_006 現場責任者の決断
Name: #十六日#◆c8cd5039 ID:e0445489
Date: 2010/10/07 22:23
「なにを話してたの? 牟田さん、珍しく笑ってたみたいだけど」


不思議そうな表情をうかべた智子が、もとの位置に戻ってきた純二に問いかける。


「ああ、あれはくだらないことさ。どんな人間でも怖いものは怖いんだなって分かっただけだよ」

「ええっ、牟田さんに怖いものなんてあったの? それは知っておきたいわね。教えてよ」


興味津々。智子の双眸が爛々と輝きはじめた。
まあ、あの牟田に怖いものがあるんだと知れたら、まちがいなく純二もこうなっていたことだろう。
それが容易に想像できるからこそ、純二はふたつ返事で問いに答えた。


「流血さ」

「うげっ、そりゃ、そうでしょ。そんなの私だって嫌よ、っていうか、だれだって嫌なんじゃない、流血は」


それを聞いてあからさまな嫌悪感を満面にしめす智子。無理のない反応か。
流血はだれにだって降りかかってくる災厄であり、ゆえにどんな輩だって怖い。


そうだよな。


そう純二は智子の言葉に同意しようとし、それを口にすることを直前で封じられてしまう。
なにがあったのか。なるほど智子と雑談に興じていられる時間には限りがあったのだ。
さきほど牟田は、あとで、といっており、ようするにそのときがきたのである。


「よしっ、全員、石を拾えっ! それで窓や出入り口の自動ドアに備えつけられたガラスをすべて割れっ!」

『へ?』


牟田のいきなりな、それでいて突拍子もない命令に純二と智子は揃って間の抜けた声をあげた。
これはほかの仲間たちも同様だったようで、現場に居合わせた警察官らすべてが途端に色めきだつ。


「これは命令だ。すべての責任は私がもつ。だから黙って石を拾うんだっ!
 さっき少年が教えてくれただろう。敵は窓付近にはいないのだ。流血事件に発展することまずありえないっ!
 これしか方法はない。さあ、やってやるんだっ!」


額に青筋を浮かべるかのごとき勢いで改め命令をくだす牟田。
さきほどなにごとかを閃いたようにみえたのは、なるほどおもい過ごしではなかったらしい。


ガラスをすべて割るなんて……牟田さんの決断力はなんてすごい。


これこそ牟田のみいだした策だったのだ。
ひそかに感服しながらも純二、指示どおり手近にあった石を拾う。無論、他の者も現場監督の命に逆らうようなことはしない。
逡巡をみせる者はすくなからずいたようだが、とはいえ最終的にはすべての警察官が石くれを手にとっていた。
それらをみてとるとついに牟田が声を張り、


「投げろっ!」


と、純二や智子を含めた警察官ら全員の掌中に構えられた石が一斉に投げ放たれ、
さもありなん。暴風のごときつぶてとなって、さきのかれの指示どおり、10以上のガラスを見事、破砕せしめる。


「射撃体勢用意。敵の姿を捉え次第、撃てえいぃっ!」


さらに牟田、間をおかずして次なる命令をくだし、同時にパチンコを構えてみせた。
あわてて自らも得物を構える純二。それは残るみなも同じである。


そうしてひと呼吸ののち、ガラスをぽっかり失い、ただの四角い穴となった窓やら入口やらの陰から、殺気だった十数名の覆面男たち……
いわずもがな。犯人どもが警察官らと同様、パチンコを構えて姿をみせてきた。


明々白々な敵意、あるいは視覚に訴えてくる宣戦布告。


相手の様相が戦闘開始の合図となり、堰を切ったように数多の弾丸が虚空を飛び交いはじめる。
なんとも銀行付近は余すところなく戦場と化してしまった。




*****




戦況は次第に警察側が優勢となっていった。
敵側の射撃技術があきらかに低く、5分10分と時間がすすむにつれ、犯人らはひとり、またひとりと確実にその数を減らしていっている。
どうも最初に純二が対峙したふたり組の腕が特別に下手だったというわけではないようで、それはかれらすべてにいえたことらしい。


加えて自らがそうなるよう仕向けたにもかかわらず、犯人らの籠城戦に対する備えはひどくお粗末なものにおもえた。
なぜなら警察側は事前にダンボールの盾を用意していたため、犯人らの攻撃を防ぐことが容易い状況となっていたからだ。
なるほど銀行強盗犯が武装していることを想定するなど当然であり、ならばダンボールの盾を警察側が準備するは必至にちがいない。
であるのに、どうしてか犯人らはダンボールの盾という相手の装備に対応しきれていないふしがある。
犯人側の攻撃はダンボールに邪魔され、一方で警察側の攻撃はまともにヒット。そんな光景が幾度となく繰り返されていた。


あるいは、まさか警察がすべてのガラスを割るという強攻策にでるとは予想できずにいたか。
もしガラスが割れていなければ、それを盾代わりにして攻撃することも可能だろう。
なるほどガラスの盾があるならダンボールの盾よりも強固となり、現状は装備の差で逆転していたかもしれない。
まあ、あくまで想像であり、真相は犯人にしか分からないところだが。


ともあれ、現実の戦場では警察側が犯人らに次々と弾丸を命中させている。
狙うはかれらの額。どうしてか。
身体は衣服で覆われているためにさほどダメージが期待できず、そこならば覆面一枚だけの防御力しかないからであった。
もちろん前述していたとおり、そうでない例外もいる。


そう。確かにすべては順調、かにおもえた。
が、


「敵の数が減らなくなったな」

「そうね。半数くらいには減ったみたいだけど、それからが一向に変わってない」


ぽつり純二が傍らに視線を移してつぶやくと、それに応えて智子がうなずく。


「理由は分かってるよな」

「そりゃあ、ね。おそらく残った敵は全員、二枚重ねの奴らね。このまま攻撃をつづけてもジリ貧だわ」

「ああ、このままじゃあ、そうなるだろうな」


と、ここで純二、ふと言葉をきり、いやいやと首を横に振る。


「ひょっとすると俺たちのほうが不利になるかもしれないぞ」

「なんで? さすがにそれはないでしょ。敵に攻撃が効かないとはいえ、腕はわたしたちのほうが断然、上なのよ?」

「おいおい、腕が上でも相手は無傷なんだぜ」


いって純二はやや大袈裟に肩をすくめてみせた。


「対して俺たちにミスは許されない。精神的には断然、向こうのほうが有利だ。集中力なんてものは永遠に継続できるものじゃないからな」

「なる。だからこのままじゃまずい、と」

「そういうこと。なにか策を考えねえ――」


それはほんとうに唐突な出来事だった。
純二と智子の会話。これをさえぎり、ふたりの間近で、ぐわっ、と声をあげた者がいる。


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