地の底は2万年前
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「氷龍本洞」大ホールの壁一面を覆う鍾乳石。光も音も届かない地の底に、乳白色の空間がこつ然と現れた(岩手県岩泉町で) |
樹林に覆われた山肌を登っていくと、ぽっかりと口を開けた直径2メートルほどの穴が見えてくる。のぞき込むと闇が広がり、顔に冷気が吹きつける。
一本の登山用ロープに体を預け、ヘッドランプを頼りに宙づりになって下降する。40メートルのロープがいっぱいまで伸びたところで、ようやく両足が地底をとらえる。コウモリが飛び交う空洞の先に、横穴がさらに奥へと続いている。
岩手県岩泉町にある日本最大級の洞穴「氷渡洞(しがわたりどう)」。2007年5月、NPO法人「日本洞穴探検協会」(松山市)が、行き止まりと思われていた洞内に「氷龍(ひりゅう)本洞」を発見した。
洞口から横穴や縦穴を3時間ほど進み、最後に肩幅ほどの岩のすき間を腹ばいになってくぐり抜けた先に、氷龍本洞の大ホールはあった。純白の鍾乳石が横50メートル、高さ18メートルにわたって壁一面に広がる。
付近では、国内初の貴重な鍾乳石などの発見が相次いでいる。石筍(せきじゅん)やケイブキューブなどの鍾乳石については、現在学術調査が進められている。
「氷龍本洞が形成されたのは2万年以上前のこと。石筍が白いのは、縄文時代に気候変動などで海面が後退し、河川からの濁った水の流入が止まったからではないか」。折れた石筍をCTスキャンなどで調べた産業技術総合研究所(茨城県つくば市)の丸井敦尚(あつなお)・地下水研究グループ長は、そう分析している。
隅々まで開発され、探検の余地もない日本の国土。しかし、その足元数百メートルの地底には、いまだに未知の空間が広がっている。
(写真と文 宮坂永史・中村光一)
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国内で初めて確認された、1辺5ミリほどのサイコロのような立方体の鍾乳石「ケイブキューブ」。このような形になった原因は、解明されていない |
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純白の石筍に裏側からライトを当てると、光が透けて淡く輝いた。褐色が多い石筍がこれほど白いのは、地下水の不純物が少ないためと考えられている |
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大ホール反対側の壁面には、高さ十数メートルの巨大な石筍が連なる |
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細かな針のような結晶に覆われたキノコ状の石筍。天井から落ちる水滴の石灰分が、1万年以上の年月をかけて不思議な造形物を作り上げた |
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壁一面にフローストーン(鍾乳石)が広がる氷龍本洞の大ホール |
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壁一面にフローストーン(鍾乳石)が広がる氷龍本洞の大ホール |
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日没近くになると、数百羽のコウモリが洞穴内から地上に飛び立つ |
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国内で初めて確認された立方体の鍾乳石「ケイブキューブ」と、楕円(だえん)形をした「ケイブパール」 |
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登山用のロープに宙づりになりながら、地底に向けて下降する |
(2009年9月28日 読売新聞)