春の祭典
祝祭の起源となるもの
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永く暗い冬が徐々に終わりを告げ、日一日と太陽の光が輝きを増していく、胸踊る季節となりました。春の訪れは、全ての生き物に新たな生命を吹き込む再生の季節でもあります。世界の各地、とりわけ寒い地方では、大いなる歓びとともに春の到来を祝う伝統的な祝典が催されます。神殿には感謝の供物が捧げられ、豊穣を願う様々な民族舞踊が彩りを添えます。
あらゆる民族に固有の伝統的な春の祭典は、ノーシスにおける3つの主要な教義である「死」「誕生」「献身」を私達に思い起こさせます。私達の中には、季節を問わず、永遠に死ななければならない要素が存在し、そのためには意識ある犠牲が必要とされます。これらの過程を経て、新たな生命が誕生します。
今回の特集では、われわれ人類に真の「誕生」を可能にする、性の神秘について紹介されている、サマエル・アウン・ベオールの著作「完全なる結婚」の序文の抜粋をお届けします。
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<総括の知識>
アクエリアスの新しい時代は、1962年2月4日の午後2時と3時の間から始まった。この新たな時代の戦いの中で、われわれは次のことを学はなけれはならなかった。誠実でありながら道を誤った人たち、あるいは大変良い意図を持ちながら無知ゆえに間違えた人たちで、奈落(地獄)はいっぱいであるということを。「完全なる結婚」と「コスミック・クリスト」は、すべての宗教・学派・教団・宗派・秘密結社・ヨガ等の「総括」である。多くの人々が実用的な総括を見出したにもかかわらず、いりくんだ迷路のような理論に陥ったために、ノーシスから離れてしまうことは本当に残念である。
伝説によれば、迷宮の中心には総括が存在したと言われる。その総括は、寺院の十字旗(Labarum)と呼はれた。迷宮(Labyrinth)という言葉は、語源的にこの十字旗に由来する。
この「ラバルン」ほ、男性と女性の性的力のシンボルとしての両刃の斧を意味した。本当の総括を見出した者がこの中心から外に出て、マインドの迷宮を作るありとあらゆる理論の迷路に戻ってしまうとなれば、それは最大の愚行である。「クリスト」と「性の神秘」は、宗教的総括を表わしている。
もし、それぞれの宗教を比較研究してみれば、すべての学派・宗教・秘教的宗派の基礎に男根崇拝が存在していることを発見するだろう。愛のために鳩に変身した愛の女神のお供の精、ベリステラを思い出してみよう。美徳のヴィーナスを、そじて、ロ−マ皇帝シーザー達の荘厳なる古代ローマ帝国時代のプリアポス神の行列を思い出してみよう。そこでは、神殿に仕える巫女たちが、神木から作られた巨大な男根像をエクスタシーに満たされておごそかに運んでいた。まさにこのようなことから、精神分析の創始者フロイトは、「宗教は、その起源を性にもつ」と言ったのである。
「完全なる結婚」とは、その内に「火の神秘」を宿すものである。火を崇拝するすべての信仰は、性に関するものである。ベスタ神は本当の愛の巫女であった。現代の巫女たち(尼僧たち)は不幸にも、性の神秘の鍵を知らない。また現代の司祭や僧たちも性の秘密の鍵を忘れ去っているのは残念である。ヨガの至高の鍵である性の神秘、つまりすべてのヨガ体系の総括を無視するたくさんのヨガ行者たちを見ることは、大変探い悲しみである。
性の神秘を知る時、人々はふるえあがる。しかし反対に神聖な性を獣のような情欲にゆだねることには何のためらいも感じない。
親愛なる読者よ、ここにはすべての宗教・学派・宗派の総括がある。われわれの教えは総括の教えである。
歴史の長い夜の中に、力強い文明と偉大な神秘が存在した。神殿の中に愛の巫女が不在であるということは決してなかった。マスター(導師)は、性の神秘によってわれわれの内に生れるべきものである。
魂に通ずるすべての自己教育システムは、究極の実用的総括、すなわち性の神秘を持っている。すべての宗教、すべての秘教的信仰は、総括としての性の神秘を持っている。
われわれの目的・目標・目ざすべきものはただひとつ、「クリスト化」である。人間一人一人が自分自身をクリスティックに変える必要がある。クリストを体現する必要がある。「クリスト」とは一個人ではなく、普遍的で宇宙的な非人格的原理であり、それぞれの人が性の神秘を通して己れに同化すべきものである。
「ゼンド・アべスタ」の教えは「エジプトの、死者の書」の中の教義原理と共通して、クリストの原理を含んでいる。ホーマーの叙事詩・ヘブライ聖書・ゲルマン民族のエッダ・古代ロ−マのシピラの書にも、同じクリストの原理が含まれている。これらは「クリスト」がナザレのイエス以前に存在したという十分な証拠である。「クリスト」は一個人ではない。「クリスト」は性の神秘を通じてわれわれ自身の物理的・心理的・肉体的・精神的な本性に同化すべき宇宙的原理である。
ペルシャ人の間で、クリストはオルムズ、アフラマズダであり、われわれの内に住むアーリマン(魔王)の恐ろしい敵である。ヒンズー教徒のクリストはクリシュナであり、クリシュナの福音はナザレのイエスのそれとよく似ている。エジプトではオシリスがクリストである。オシリスを体現する者はすべて、オシリス化された人間となる。また中国では伏義が法の書「易経」を構成した宇宙的クリストである。彼は龍の使者を任命した。ギリシャでのクリストはゼウス、神々の父ジュピターであり、アステカでは、ケッツァルコアトルと呼ばれるメキシコのクリストがある。ゲルマンのエッダの中では、バルデルがクリストである。バルデルは戦争の神ホウダーが放った寄生木の矢で暗殺された。このように紀元前(イエス・クリスト生誕以前)の古い時代から、また数多くの文書の中にコスミック・クリストを見ることができる。すなわち「クリスト」とは、あらゆる宗教の本質的原理の中に含まれている宇宙原理に他ならないということを、われわれに理解させる。
本来、唯一の宗教、宇宙的宗教が存在する。そしてこの宗教が時代により、また人類の必要性によりさまざまな宗教形態をとって伝えられるということである。それゆえ、宗教間の争いはおろかなことである。元をただせばすべての宗教は宇宙的普遍的宗教が形を変えたものに他ならない。
現代人は偉大なるマスター・イエスと、イエス以前に彼と同様なクリスト化を果たした先人とを分離するという間違いを犯してしまった。それが現代の人間に少なからず害を与えてきた。全ての宗教が唯一の宗教であることを日に日に深める必要がある。
イエスの母マリアはイシス、ジュノー、デメテル、ケレス、マイヤなどと同じであり、コスミック・クリストを産む宇宙の母、あるいはクンダリニー (性の火) のことである。マグダラのマリアはサランボ、ミトラ、イシュタル、アスタルテ、アフロディーテ、ヴィーナスなどと同じであり、彼女とともにわれわれは火を目覚めさせるために性の神秘を実践しなければならない。
殉教者、聖者、聖母、天使または智天使(ケルビム)などは異教の神話の中のタイタン、女神、空気の精、キュクロプスといった神々、半神あるいは神々の使者達と同じである。
キリスト教の宗教原理は全て異教的である。今の宗教形態が消える時、その原理は未来の新しい宗教形態に同化されるであろう。
無原罪 (聖母) の胎児の意味するところを理解する必要がある。「完全なる結婚」が、人間の心臓の内にクリストを誕生させることを可能にする唯一の道であることを知らなければならない。クリストを具現するために「クンダリニー」の火を目覚めさせることは緊急を要することである。クンダリーにを目覚めさせる者は、ガニメデスのように魂の鷲の羽根に乗ってオリンポスの山に登り、言葉に絶する神聖な神々に使える。
カトリックの司祭たちが古い時代の多くの貴重な文書や宝物を破壊してしまったことは嘆かわしいことである。しかし幸いにも、すべてを破壊できたわけではなかった。ルネッサンス時代に、勇敢な司祭たちによって、驚くべき数冊の本が発見された。それゆえ、ダンテ・アリギェーリ、ボッカチオ、ペトラルカ、エラスムス等は、僧職者たちによる迫害にもかかわらず、神秘科学と性の神秘に関する文書や、かの有名なホーマーの叙事詩「イリアス」と「オディッセイア」などを翻訳することができたのである。彼らは他にもヴァージルの「アエネーイス」、ヘシオドスの「神統紀」「仕事と日々」、オヴィッドの「変身譚」を翻訳した。他にもルクレチウス、ホラティウス、ティプルルス、リビウス、タキトゥス、アプレイウス、キケロ等の作品を翻訳した。
これらすべてが純粋なノーシス(霊的認識・神秘的直観)である。われわれはノーシスのすべての偉大な宝を研究し、すべての古代宗教の基礎となる核心を吟味し、あらゆる信仰の土台にある性の神秘の至高の鍵を見い出した。今、われわれはこの宝を、この鍵を、苦しめる人類にさし出している。
われわれはいかなる宗教・学派・宗派・教団・秘密結社とも対峙するものではない。なぜならは、すべての宗教形態は宇宙のすべての分子の中に潜在している宇宙的・普遍的かつ無限の大いなる宗教の表示であるからである。
サマエル・アウン・ベオール「完全なる結婚」の序文からの抜粋
プリアポス神----ギリシァ・ローマ伝説における男性生殖力の神。
ベスタ神----かまどの女神。火の神に仕える処女(ギリシァ・ローマ神話)。
ゼンド・アベスタ----ゾロアスター教の経典。
ホーマー----紀元前十世紀頃のギリシァの詩人。「イリアス」「オデッセイア」の著者。
エッダ----古代北欧神話の詩歌集。
シビラの書---ギリシャ語で書かれた古代ローマの神託集。
オルムズ、アフラマズダ----両方ともゾロアスター教の神の名。
ケッツァルコアトル----羽をつけた蛇で象徴される神。マヤのククルカン。
バルデル----エッダの神。オディンとフリッダの子。美しく善良で、温厚・賢明。
キケロ----紀元前106〜43。ローマの政治家、雄弁家、著述家。
イシス----古代エジプトで信仰された神々の中で最高の女神。豊饒の大母神。
ジュノ----ローマ神話。ローマ最高の女神で、女性および結婚の守護神。
デメテル----ギリシャ神話。大地の穀物生産を司り、社会秩序を守る女神。
セレス----ローマ神話。五穀の女神。ギリシァのデメテルにあたる。
メイヤ----−ギリシァ神話。アトラスの七人の娘の中でいちばん年上。ゼウスに愛されてヘルメスの母となった。
イシュタル----古代パピロニアの女神で、愛と戦いの女神。
アスタルテ----古代セム族の女神で、豊作と生殖を司る。バビロニア人、アッシリア人のイシュタルに相当する。
アフロディテ----ギリシァ神話。恋愛と美の女神で、ローマ神話のヴィーナスに相当する。
タイタン----ギリシァ神話。ウラヌス(天)とガイア(地)の子。アトラス、プロメテウスなどの巨神族。
キュクロープス----ギリシァ神話のひとつ目の巨人。
ガニメデス----ギリシァ神話。ゼウスはこの美しい少年を寵愛し、鷲に姿を変えてさらってきた。
オリンポスではゼウス自身の酒盃に酒を注ぐ名誉ある役を与えられた。彼は今でも水瓶座の名で空に輝いている。
ダンテ・アリギェーリ----イタリアの詩人、「神曲」の著者。
ボッカチオ----イタリアの作家、詩人。「デカメロン」等の作品がある。
ベトラルカ----イタリアの詩人、人文主義者。
エラスムス----オランダの人文主義者、神学者。文芸復興運動の先覚者。
バージル----紀元前70〜19。ローマの詩人。
アエネーイス----十二巻からなる叙事詩。主人公アエネーイスがトロイ落城後、諸国を漂泊し、後にローマを建国する物語。
ヘシオドス----紀元前ギリシャの叙事詩人。「神統紀」「仕事と日々」の著者。
オヴィッド----紀元前ローマの詩人。
ルクレチウス----紀元前ローマの哲学者、詩人。
ホラティウス----紀元前ローマの叙情;m?M!#
ティブルルス----紀元前ローマの詩人。
リピウス----紀元前ローマの歴史家。著書「ローマ史」142巻のうち35巻が現存。
タキトゥス----ローマの歴史家。著書に「年代記」「歴史」「ダルマニア」等。
アプレイウス----紀元前二世紀ごろのローマの哲学者、風刺家。