昨晩からノーベル化学賞のことで騒がしいけど,受賞者たちがどうして選ばれたかを知ってる人って,どれだけいるんだろうか(笑)
Pd パラジウムという金属は Ni ニッケルや Pt 白金と同じ10属つまり白金属に属する金属で,2価と4価の原子価を持つ.一般的にはニッケルや銅や亜鉛の鉱石の製錬時に副産物として出てきた「ゴミ」だった.しかも南アフリカでしか採れず,年間採掘量はわずか 200tという希少金属なので,非常に高価なのだ.
このパラジウムは PdH3 とか PdH0.75 という水素化物を作って,自分の体積の 900倍の水素を吸着する性質がある.それで第二次大戦直後,ドイツでパラジウムを触媒にして,エチレンに水を反応させてアセトアルデヒドを合成する「ワッカー法」が発明されたという歴史がある.
その後 60年代になると東工大の辻らが「辻・トロスト反応」で直接炭素原子同士を結合させることに成功する.その論文をもとにして,リチャード・ヘックが「ヘック反応」という,有機合成反応をパラジウム触媒を用いて行う方法を確立した.実は今回のノーベル賞受賞者の3人目のアメリカ人こそ,このヘック氏なのである.マスコミはなぜかパイオニアのヘック氏を全く紹介しないのがおかしいと思うのだが,皆さんはどう思われるだろうか.
さらに 70年代になって,今度はパラジウムより原子量が小さい (軽い) ニッケル化合物を用い,理化学研究所で「熊田・玉尾・コリュー・カップリング」が発明されたのだけど,今回のノーベル賞対象にはなっていない.
そして帝人の岩国工場を退職してアメリカへ渡った根岸はニッケルからパラジウム触媒へ戻り,安価な亜鉛を組み合わせることでコストダウンさせることに成功し,ようやく工業化への道が開けた.つまり根岸氏のノーベル賞受賞理由は「工業化への端緒」だとも言えよう.他にも薗頭カップリングとか右田・小杉・スティル・カップリングなどが有名な有機合成反応で,初歩的な有機合成化学の教科書には必ず載っているので,興味がある人は勉強してみると良い.
個人的にはノーベル賞というのは「よく生き延びたで賞」と思っているので,パイオニアとしてパラジウム触媒での有機化学反応を確立した「ヘック反応」と,現在でも化学企業が用いている「鈴木カップリング」が本当に意味のあるものじゃないかという気もしている.
例えば「鈴木カップリング」で作られた医薬品の例として,血圧降下薬の Novartis の「ディオバン」を示そう.普通は14錠つまり2週間分で1シートなのだけど,あいにく手許のはハサミでばらばらにしたものなので,セロテープの跡は勘弁して欲しい(笑)

北大の鈴木氏 (鈴木・宮浦反応) の凄い所は,とにかく総説論文の引用件数が 5000件を越えていることである.また,反応容器を洗浄したあと,水を完全に切らなくても良い事で生産性が上がる,つまり工業化に非常に向いているということも優れている.
また,鈴木氏の若い頃の勉強の態度も学ぶべき所が多い.母子家庭の彼は自分で学費や生活費を稼ぐ必要があった.だから集中力が物凄い (当然,バイトをするヒマができる理学部へ進学.昔の北大は東大同様,学部を後で選択できた).そして二十歳くらいまでは数学に興味を持っていた,つまり物理化学など基礎的な分野をしっかり学んでいたので,後で泥縄で基礎分野を勉強する必要がなかった.だから理学部を卒業したあと,工学部で活躍できたという側面もある.
一時期,教養部で遊んでしまうというデマが流れて教養部がなくなってしまったが,それは大学側の責任放棄だと私は考えている.私も最初に入った国立大学では2人の教授から「君はこの大学に向いていないのではないか」と言われ,担任の教授はわざわざ実家に来られて,再受験を勧めたことがあった.私の日ごろの行動とか成績とかレポートの内容などから,再受験をした方が良いと言われた教授たちとは今でもつきあいがある.死んだ親父も旧制八高だったのだけど,同じ官立の大学とは言え,面倒見の良さに驚いていた.どちらにしても,教養部でどれだけ何を学ぶか,学部の間は遊んで,大学院や卒業後に何をするかが大事かというのは一般的に言えるのではないかと考えたりする.文科系の人は具体的に分からないかも知れないけれど.
Pd パラジウムという金属は Ni ニッケルや Pt 白金と同じ10属つまり白金属に属する金属で,2価と4価の原子価を持つ.一般的にはニッケルや銅や亜鉛の鉱石の製錬時に副産物として出てきた「ゴミ」だった.しかも南アフリカでしか採れず,年間採掘量はわずか 200tという希少金属なので,非常に高価なのだ.
このパラジウムは PdH3 とか PdH0.75 という水素化物を作って,自分の体積の 900倍の水素を吸着する性質がある.それで第二次大戦直後,ドイツでパラジウムを触媒にして,エチレンに水を反応させてアセトアルデヒドを合成する「ワッカー法」が発明されたという歴史がある.
その後 60年代になると東工大の辻らが「辻・トロスト反応」で直接炭素原子同士を結合させることに成功する.その論文をもとにして,リチャード・ヘックが「ヘック反応」という,有機合成反応をパラジウム触媒を用いて行う方法を確立した.実は今回のノーベル賞受賞者の3人目のアメリカ人こそ,このヘック氏なのである.マスコミはなぜかパイオニアのヘック氏を全く紹介しないのがおかしいと思うのだが,皆さんはどう思われるだろうか.
さらに 70年代になって,今度はパラジウムより原子量が小さい (軽い) ニッケル化合物を用い,理化学研究所で「熊田・玉尾・コリュー・カップリング」が発明されたのだけど,今回のノーベル賞対象にはなっていない.
そして帝人の岩国工場を退職してアメリカへ渡った根岸はニッケルからパラジウム触媒へ戻り,安価な亜鉛を組み合わせることでコストダウンさせることに成功し,ようやく工業化への道が開けた.つまり根岸氏のノーベル賞受賞理由は「工業化への端緒」だとも言えよう.他にも薗頭カップリングとか右田・小杉・スティル・カップリングなどが有名な有機合成反応で,初歩的な有機合成化学の教科書には必ず載っているので,興味がある人は勉強してみると良い.
個人的にはノーベル賞というのは「よく生き延びたで賞」と思っているので,パイオニアとしてパラジウム触媒での有機化学反応を確立した「ヘック反応」と,現在でも化学企業が用いている「鈴木カップリング」が本当に意味のあるものじゃないかという気もしている.
例えば「鈴木カップリング」で作られた医薬品の例として,血圧降下薬の Novartis の「ディオバン」を示そう.普通は14錠つまり2週間分で1シートなのだけど,あいにく手許のはハサミでばらばらにしたものなので,セロテープの跡は勘弁して欲しい(笑)
北大の鈴木氏 (鈴木・宮浦反応) の凄い所は,とにかく総説論文の引用件数が 5000件を越えていることである.また,反応容器を洗浄したあと,水を完全に切らなくても良い事で生産性が上がる,つまり工業化に非常に向いているということも優れている.
また,鈴木氏の若い頃の勉強の態度も学ぶべき所が多い.母子家庭の彼は自分で学費や生活費を稼ぐ必要があった.だから集中力が物凄い (当然,バイトをするヒマができる理学部へ進学.昔の北大は東大同様,学部を後で選択できた).そして二十歳くらいまでは数学に興味を持っていた,つまり物理化学など基礎的な分野をしっかり学んでいたので,後で泥縄で基礎分野を勉強する必要がなかった.だから理学部を卒業したあと,工学部で活躍できたという側面もある.
一時期,教養部で遊んでしまうというデマが流れて教養部がなくなってしまったが,それは大学側の責任放棄だと私は考えている.私も最初に入った国立大学では2人の教授から「君はこの大学に向いていないのではないか」と言われ,担任の教授はわざわざ実家に来られて,再受験を勧めたことがあった.私の日ごろの行動とか成績とかレポートの内容などから,再受験をした方が良いと言われた教授たちとは今でもつきあいがある.死んだ親父も旧制八高だったのだけど,同じ官立の大学とは言え,面倒見の良さに驚いていた.どちらにしても,教養部でどれだけ何を学ぶか,学部の間は遊んで,大学院や卒業後に何をするかが大事かというのは一般的に言えるのではないかと考えたりする.文科系の人は具体的に分からないかも知れないけれど.