旧海軍:「高度方位暦」発見 自機の位置割り出す早見表

2010年8月14日 21時54分 更新:8月14日 22時14分

初めて実物が確認された「高度方位暦」=甲府市武田の山梨大で、小林悠太撮影
初めて実物が確認された「高度方位暦」=甲府市武田の山梨大で、小林悠太撮影

 太平洋戦争末期、太陽や星の見え方から海軍機の乗員が自機の位置を割り出すため作られた冊子「高度方位暦」14冊を、山梨大工学部の高橋智子准教授(科学技術史)が海上保安庁の書庫で発見した。天体観測を担う旧海軍水路部が作ったとされていたが、実物は確認されていなかった。内容はいわば早見表で、未熟な乗員も動員せざるを得なかった当時の戦況をうかがわせる資料と言えそうだ。【小林悠太】

 活動内容が知られていない水路部を研究する高橋准教授が、業務を継いだ海保海洋情報部(東京都中央区)書庫を6日調査し見つけた。1944(昭和19)年6~12月分と45(同20)年7~10月分で「基地歸(帰)投用」「(秘)」と表紙に明記。44年版はマニラなど占領地を含む16基地の記述があるが、戦線が縮小した45年版は那覇・鹿屋・硫黄島・木更津の4カ所に減っている。

 内容は24時間、20分間隔で▽太陽▽月▽ベガ・スピカ・シリウスなどの恒星▽土星▽木星--について、各基地から見上げた高さと方位を角度で表した数字が並ぶ一覧表だ。高橋准教授によると、乗員が現場で実測した数字と見比べると、そのずれから現在位置が簡単に算出できる。

 戦時中は当初、日本本土を基準にした同様の資料「天測暦」が使われた。使いこなすには熟練が必要だったため早見表が作られたとみられる。

 資料には訂正の書き込みも。基になる天体データは学徒動員の女学生の手計算だったため誤ったらしい。東京府立第一高等女学校(現都立白鴎高)から動員された中山一江さん(84)は「水路部の人に『間違えると兵隊が迷ってしまうぞ』と脅された」と振り返る。米軍機は現在位置が分かる計器を積んでいると聞き「女学生が手計算している日本は負けると思った」という。

 海保水路部の元職員、井上圭典さん(81)は「焼却処分と聞いていたので大変貴重だ。戦争末期は燃料が乏しく、未熟な乗員も実戦投入されていた。最短距離で確実に基地に帰還させるために作られたのではないか」と話している。

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