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【産経抄】10月7日
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鳩山由紀夫前首相が、米軍普天間飛行場の移設に関する日米合意の見直しを掲げて、迷走を続けていたときのことだ。米紙ウォールストリート・ジャーナルは、国民受けを狙う「カブキ・ショー」と酷評した。
▼ASEM首脳会議の途中で行われた日中首脳会談こそ、「カブキ」と呼ぶのにふさわしい。廊下ですれ違い、「やあやあ座りましょう」と偶然を装う菅直人首相のヘタな芝居を、誰がまともに受け取るだろう。中国の温家宝首相という手ごわい役者との競演なら、周到な準備をすべきだった。
▼歌舞伎には、黒装束で役者の介添えをしたり、小道具を出したりする黒衣(くろこ)が欠かせない。日本では、通訳も「黒衣」と呼ばれている(『通訳者と戦後日米外交』鳥飼玖美子著)。その黒衣が、日本側だけについていなかったのはまずかった。
▼同書によれば、日本では、正確な通訳が重要とされるが、中国では国益を優先し、必ずしも言った通りに訳さなくてもいいらしい。通訳文化の違いは、カブキをますますチグハグなものにしたはずだ。
▼案の定、中国外務省は、「会談」ではなく言葉を交わしただけの「交談」と表現した。釣魚島(尖閣諸島)を中国の領土とする主張は変わらない。そもそも、菅首相が大見えを切るべき舞台は、首脳会議だったはずだ。アジアや欧州諸国に、日本の正当性をなぜ訴えなかったのか。
▼関係修復の糸口はつかめたとはいえ、日本人1人の拘束は続いたままだ。東シナ海のガス田問題でも進展はない。菅首相はきのう、唯一の交渉カードといえるビデオ映像を公開するかどうかの判断まで、捜査当局に丸投げする姿勢を示した。カブキの外題はやはり、「外交敗北」だ。