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【正論】筑波大学大学院教授・古田博司 禍根残す素人集団の無償化報告

2010.10.5 04:58
このニュースのトピックス正論

 日本は不思議な国である。いかに歴史的な経緯があるにせよ、国内に「人さらいテロ国家」の出先機関が現在もなお健在で、その傘下に独裁体制の思想を授業で学ぶ“神学生”の学校がある。

 8月31日、文部科学省が驚くべき報告書を公表した。その学校に高校授業料無償化を適用するかどうかを協議した挙げ句、「具体的な教育内容を基準にすべきではない」と、専門家会議が断を下したというのである。

 ≪国民不在の密室会議≫

 専門家会議のメンバーを文科省はあえて公表しない。国民不在の純然たる密室会議である。新聞報道によると、教育専門家ら6人で構成されているということだが、筆者の知る限り、朝鮮学校や北朝鮮に詳しい専門家は含まれていないようである。

 ある情報によれば、専門家会議の中心的なメンバーは中央教育審議会の元副会長の木村孟氏だという。木村氏は東京工業大学長などを務めた優れた工学者だと聞いている。東京都教育委員長の経歴から教育の専門家とはいえるが、朝鮮学校や北朝鮮の実態に詳しい専門家だとは聞いたことがない。

 その教育内容に詳しくない人々が、教育内容を基準にすべきではないと言うのだから、ある問題の素人集団がその問題から特殊性自体を故意に外した、ということになるだろう。ゆえに、審議対象が朝鮮学校である必要性がそもそも無くなってしまうことになる。

 朝鮮学校の授業料無償化適用をめぐる結論は、菅直人首相の判断で先送りされたため、会議がまとめた判断基準がすぐさま適用されることはない。次の段階への踏み台として残されたことになろう。

 ≪特殊性を排除した報告書≫

 文科省は、民主党内の反対論に配慮して慎重な姿勢を取っているが、この報告書がある限り、党の政策調査会さえ通過すれば、国内10の朝鮮学校を報告書に基づいて個別に審査し、無償化を判断する考えだという。その際には、独立の第三者機関として、この会議に朝鮮学校を審査させる可能性が高いというのだ。そうなれば問題からその特殊性を排除した集団が、その問題の対象を審査するということになるだろう。恐るべき理性の欠如といわなければならない。

 朝日新聞は9月5日付で、「日本社会の度量を示そう」という社説を掲載している。そこで、民主党内には、経済制裁対象としている北朝鮮の影響を受ける学校を支援すべきでないという意見があり、拉致被害者家族からも「対北朝鮮で日本が軟化したと取られる危険が大きい」と反対があるものの、子どもの学びへの支援と拉致問題への対応を同じ線上で論じるのはおかしいとの論が展開されている。ここでも、教育内容は故意に外され、「子どもの学びへの支援」といったように、普通の学校への教育支援という形で、この民族学校の特殊性が除外されてしまう。それでは度量は示せても、理性は示せないであろう。

 国家間のことは度量や感情に委ねてはならない。先の菅首相談話が北朝鮮でどう受け取られたかを次に示そう。8月21日付の朝鮮労働党機関紙、労働新聞の「『日韓併合』は日本が強行した前代未聞の国家テロである−朝鮮中央通信社告発状−」という記事である。

 「(菅)首相と与党が8月22日(日韓併合条約締結日)を迎え、発表した談話で謝罪と補償に言及することさえせず、そのうえ、『日本の立場は変わり得ない』と強弁した。これは過去の清算を望むわが人民と世界人民に対する愚弄(ぐろう)であり、挑戦である。(中略)日本がこの地に第2の『日韓併合』を強要するならば、わが軍隊と人民はすべての自衛的抑制力を総発動し、日本という島国を全面打撃し、世紀をついでわが民族に対してしでかしたすべての罪過を総決算するであろう」

 ≪「度量」か「理性」か≫

 日韓併合条約は1910年であり、侵略戦争を違法と見なすベルサイユ条約(19年)以前だから、「国家テロ」ということ自体に無理がある。だが、それ以上に重要なことがある。ここで彼らはこの首相談話は朝鮮に対する新たな挑戦状であり、機会があれば韓国哨戒艦撃沈事件の時のように、「示威的核抑止力」を使って脅しをかけると予告しているのである。これからの東アジアは、核があるから抑止が効くという時代ではない。比較的小さな物理的攻撃を相手にしかけ、核抑止力を使って威嚇し反撃を封じるという「抑止力攻撃」の時代になることだろう。

 9月7日の中国漁船衝突事件も、その可能性の線上にあるということは留意しておいてよい。

 将来、拉致以上のテロを北朝鮮から受ける可能性ももちろんあるだろう。世のごうごうたる批判と非難が文科省とこの会議に浴びせかけられるであろうその時、彼らは毅然(きぜん)として理性の立場に立つことができるのだろうか。それとも、「度量」の立場からテロ国家とその出先機関の側につき、朝鮮学校に対する授業料無償政策を継続することになるのだろうか。(ふるた ひろし)

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