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【風を読む】論説委員長・中静敬一郎 領海侵犯罪がない不思議
最近の東シナ海での領海侵犯などの事件は、国家の領域を守る基本的枠組みの不備や欠落をあぶりだしている。
なんとも不思議なことは、国家主権を侵害する不法行為である領海侵犯を取り締まるのに漁業法や入管難民法(不法入国)の違反容疑で対処していることだ。
海上保安庁が8日、尖閣諸島付近の日本領海を侵犯した中国漁船の船長を公務執行妨害容疑で逮捕したのは、巡視船に漁船を衝突させ、海上保安官の職務を妨害したためだ。初めての適用だが、ほとんどの領海侵犯は漁業法違反で摘発している。
漁業法違反は検査に応じない場合の立ち入り検査忌避容疑である。罰則は懲役6月以下または30万円以下の罰金にすぎない。重大な対国家犯罪を形式犯のように扱っている。
欠落とは、領土や領海を不法に侵害する行為を排除することが法制化されていないことだ。領海内の無害でない活動に対して、必要な措置をとることを国際法は認めているが、日本は国内法で規定されていないとして、主権を守る措置をとろうとしないのである。領空を除き、領土、領海の警備は自衛隊創設以来の宿題だが、自衛隊の権限が広がることを嫌って放置されてきた。
こうした「守りの空白」は、最前線の踏ん張り、さらには日米安保体制の抑止力でカバーされていた。
だが、日米同盟の弱体化につけこむように中国が力で押してくるとなると空白や不備が白日の下にさらされかねない。中国は今回、漁業監視船を派遣したが、日本領海内に居座った場合、海保は退去要請しかできない。自衛隊に海上警備行動が発令されても、警察権の行使しかできず、海保と同じだ。
今まで考えなかったというより、考えたくなかった事態といえる。尖閣への部隊配備も含め、国の守りを総点検すべきだ。憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義」に信頼しては「われらの安全と生存」は維持できなくなっている。