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[21555] 【チラ裏出身】英霊達とリリカルまじかる頑張ります 無印開始
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/06 13:27
これはリリカルなのはとFateのクロスモノです。サーヴァント達がなのは達と出会うものです。元はネタ的なものでした。

なるべく原作通りのキャラを維持しようとしていますが、作者は未熟者故にキャラが崩れる事があるかもしれません。

更に、設定なども作りが甘く、違和感や疑問を感じる事もあるかと思います。

なので、それを許容し、尚且つ指摘などして頂けると嬉しいです。

現在、Strikersまでを構想しています。

オリジナルキャラは出しません!てか、出せません!そんな力量も技術もないので……。

原作乖離著しい上に、バトルは基本苦手なのでそこもご了承ください。



更新情報

9/27 前書き作成 三話中編加筆修正
9/28 三話後編加筆修正
9/29 四話前編加筆修正
9/30 四話中編加筆修正
10/4 幕間1を投稿
10/6 幕間2を投稿 五話後編を加筆修正 幕間2を加筆修正



[21555] 0-1 始まりの夜 N&F&H
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/06 06:33
「サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上した」

 ワケがわからない。それがなのはの感情だった。
 自分はただ、いい子でいなくてもいい相手が欲しかっただけ。だから神様にお願いした。

(私が本音を言い合える『誰か』が欲しい)

 いい子でなくても傍に居てくれる誰かが。父が入院している現在、なのはは家族の邪魔にならないように『いい子』を懸命に努めている。
 でも、なのはも子供だ。甘えたい時やワガママを言いたい時もある。だから、本音を言い合える相手が欲しい。それがなのはの偽らざる気持ちだった。

「でも、こんなのはないよ……」

 そんな願いをした途端、目の前に金髪の女性が現れ、しかも鎧や剣といったおとぎ話のような出で立ちときている。
 驚きよりも残念と言う面持ちのなのはに対し、セイバーはその凛々しい表情のまま、なのはにこう問うた。

「問おう。貴方が私のマスターか」

「……違うよ。マスターじゃない」

 幼いなのはに、マスターの意味は理解できなかった。でも、それは自分の求めるものじゃない事だけは、なんとなく感じ取っていた。
 セイバーは、幼い少女の言葉に先程までの表情ではなく、どこか不思議そうな顔をして、なのはを見つめた。

「私は、なのはは……あなたと、ともだちになりたいの」

 自分の言葉に軽く驚くセイバーを見て、なのはは嬉しかった。自分はそんなものじゃないくらい驚かされたのだ。その十分の一でも返す事が出来て満足したのだ。
 そんななのはの笑顔を見て、セイバーも笑みを浮かべた。二度目の召喚時は月光の中で。今回は星光の中、幼い少女に呼ばれた。イリヤスフィールよりも幼い彼女からは、強大な魔力を感じる。だが、それはどうでもよい事だった。

「友、ですか……。なら、失礼ですが貴方の名前を聞かせて頂きたい」

 セイバーは、自分が出来うる限りの優しい声でそう言った。

「あ、はい。私はなのは。高町なのはです」

「ナノハ? ……なのは、ですね。私はセイバー。セイバーと呼んでください」

 こうして少女は、初めての友を得るのと同時に、永遠の友をも得た。星の光が差し込む部屋に、二人の笑みが輝いていた……。


 突然の出来事に、フェイトは戸惑っていた。それは傍にいたアルフやリニスも同じ。
 フェイトが様々な魔法に挑戦していた最中、転移魔法を構成した時、それは突然現れた。

「おいおい、今度は子供かよ。ま、十年後に期待か、こりゃ」

 全身を青いタイツのようなものでつつみ、手には紅い槍を所持している。
 アルフとリニスは全身で警戒感を示しているが、男はそんなものはどこ吹く風とばかりにフェイトを見つめている。

「そんな警戒すんな、って言っても無駄だわな」

 やれやれと両手を挙げて、男はフェイトの前で膝をついた。

「サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。お嬢ちゃんがマスターって事でいいか?」

 真面目だったのは途中まで。名乗りを終えると再び立ち上がり、フェイトの頭に手を乗せる。
 それをなぜか不快に思えない事に、フェイトは驚いていた。その手は暖かく、自分を安らげるように、ぶっきらぼうではあるが優しく撫でている。

そんなランサーの態度に、まず安堵したのはリニスだ。本能も、理性も、勝てない、と判断した相手。それがひとまず敵ではない。それがわかっただけでも良かった。

(フェイトも無意識に甘えているようですし、安心ですね)

「え? え? ランサー? マスター?」

「ああ。ま、主人って意味だ」

「主人? ……えっと、多分違うと「フェイトから離れろ!」て、アルフ?!」
 
 見ればアルフがランサーの腕に噛み付いている。それを止めようとするフェイトと、決して放すまいとするアルフ。そして、噛まれているにも関わらず、笑みを浮かべてフェイトを撫で続けているランサー。
 そんな光景を眺め、リニスは思う。この男ならば、もしもの時から二人を守り抜いてくれるのでは、と。

 そして、願わくばその時が訪れないようにと、強く強く念じながら、微笑みを浮かべて三人の傍へと歩き出した。


「えっと……」

「ふむ、今回はまともな召喚のようだ」

 はやては唐突な現状に、必死に頭を回転させていた。冷静になれ、とまだ十歳にも満たない少女が自分に言い聞かせていた。
 両親が亡くなり、独りになってまだ日も浅い。そんな中、突如として現れた謎の男。はやては冷静に、いたってシンプルな結論に辿り着く。

「うん。ケーサツや」

「ちょっと待て」

 何やら呟いていた男を無視し、電話をしに行こうとした途端、不審者が若干焦りを帯びた声で待ったをかける。
 はやてはそれでも止まらない。制止を流し、車椅子を動かそうとして――――男が目の前にいた。

「君の考えは理解出来る。だが、私の話を聞いてほしい」

「おじさん、ドロボーやろ」

「こんな格好の泥棒がいるかい?」

 そう言われて、はやては改めて男を見る。赤いコートのようなものに、黒い服。おまけに白髪ときている。
 確かに、泥棒には相応しくない格好だ。泥棒は、渦巻きのような模様の袋を背負って、頭巾をしているものだった。
 はやてはそう思い出し、男をドロボーとは言わない事にした。

「ならなんや?」

「サーヴァントだ」

 男の言葉に再び頭が混乱し出すはやて。そんな少女の姿に、男は何かを思い出し、微かに笑う。
 自分も『あの時』こうだったのだ、と。日常に非日常が入り込んだあの日。なら、自分がすべきは赤い彼女の役割だと。

「まあ落ち着け。サーヴァントは使い魔の最上級だと思ってくれればいい。つまりは……」

 そこまで言って、彼は言葉を濁す。目の前の少女にわかるように説明するには、あの時自らが拒否した言葉しか浮かばなかったからだ。
 即ち、召使い。だが、それは己の誇りに賭けても使ってはならない。
 そこまで考えて、男は何かに気付く。先程から少女以外、誰も出て来ない事に。

「なぁ……」

 そんな彼を思考から引き戻したのは、消え入りそうなはやての声。見れば、俯いて膝に置かれた手が震えている。

「何かな」

 穏やかな声だった。思えば初めから気配が少女以外なかった。それから導き出される答えは一つ。

「おじさんは……ツカイマさんなんか?」

「そうだよ」

「それって、わたしのそばにいてくれるって事?」

「君が望むなら」

「なら――――――っ!!」

 勢いよくはやてが顔を上げると、そこには男の笑顔があった。見る者を穏やかにするような笑顔があった。
 思わず言葉を失うはやてに、男はしゃがんで、はやての震える手にそっと手を重ねた。

「選んで欲しい。このまま一夜の夢として忘れて生きるか、私と共に生きてみるか」

 我ながらズルイと、男は思う。こんな聞き方を一人で暮らす子供にすれば、後者を選ぶに決まっている。だが、男はどんな形であれ、少女に決めて欲しかった。
 車椅子での生活。まだ小学校に通い立てかその直前か。どちらにしろ、この少女に待っているのは大人でも辛い生活だ。
 それを支えてやりたい。だが、押し付けではなく、少女の意志でそれを選んで欲しい。それが男の問いかけの真意。
 彼女が望むなら、どんな相手にも立ち向かおう。彼女が願うなら、どんな事をも成し遂げよう。この身は一振りの剣。故に己が望み等はなく、主の望みが我が望み。

「どうかな?」

 男の声に、少女は我を取り戻したように、数回瞬きをした。そして、男の予想通りの答えを…………。

「いやや」

 言わなかった。それどころか、両方とも蹴った。

「忘れる事も出来んし、共に生きる事も違う」

「では――――」

 どうするのか?と続けようとした。が、それははやての言葉に遮られた。

「家族や」

「なっ……」

「わたしの家族になって、一緒に暮らす。共に生きるって、なんか違う気がするんよ。一緒に暮らすって言う方がしっくりくる」

 先程まで弱々しい雰囲気をしていたとは思えない程の断言。はやては男の目を見つめたまま、そう言って笑った。
 その力強さに、男も黙った。なぜなら、その言葉にある女性を見たから。

(ああ、どうやら俺は、よっぽど気の強い女性に縁があるらしい)

 穏やかな表情を浮かべ、どこか遠い眼をする男を見て、はやては胸が高鳴るのを感じた。
 それが何を意味するかなど、まだ幼いはやてに知る由もない。しかし、それが不思議と悪い感じがしない事だけは、確信を持って言えた。

「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はアーチャー。サーヴァントアーチャーだ」

「あ、わたしははやて。八神はやてや」

 そうやって互いに名乗りあったところで、なぜだかはやては笑い出した。それを不可解そうに見つめるアーチャー。
 どうかしたのかと尋ねても、ただただ笑うのみ。
 ややあって、はやては笑うのをやめ、なぜ笑い出したのかを話し出した。
 曰く、アーチャーの名前を聞いた時、くだらないダジャレを思いついたらしい。それがツボに入り、苦しかったと、はやては語った。

「あまり聞きたくはないが、どんなものだ」

「ぷくっ……ア、アチャーなアーチャーや」

 そう言うと、再びはやては笑い出す。どうやら相当気に入ったらしい。
 一方のアーチャーは「やはり聞くのではなかった」と言って苦い顔をした。それがますますはやての笑いを刺激する。
 そんなはやてを見ながら、アーチャーは小さく微笑む。この日、孤独だった少女に、久方ぶりの笑いが戻った……。





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ひとまずこんなところで。本当はアリサやすずかの所も考えたけど、力尽きました。

気分転換の作品なので、未熟な箇所はご容赦ください。

思いつきでやった。今は反省してる。



[21555] 0-2 始まりの夜 S&A
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/06 06:39
 その日、すずかは不安の只中にいた。来月から、すずかは小学校に通う事になっている。
一般的な子なら、不安よりも期待が強いのだろう。だが、彼女は一般人と呼ぶ事が出来ない理由があった。

「私は……吸血鬼」

 『夜の一族』と呼ばれる吸血一族。それが、彼女の心に重くのしかかっていた。
 初めは、何が何だか分からなかった。次は、どうしてそんな事を教えたのかと、姉の忍に怒鳴り、終いには喚き散らして部屋に籠った。
 先程、ファリンが様子を伺いに来たが、放っておいてと追い払った。

「すずかも、そろそろ知っておいた方がいいと思ってね」

 夕食後の姉の言葉に、嫌な感じはしていた。そして、話を理解した時、少女の頭にはある単語しか浮かばなかった。

『化物』

「普通の子は血なんか飲まない。なら、私は?私はどうして普通じゃないの!」

 そう泣きながら叫んで、すずかは部屋のベッドへ飛び乗った。スプリングが軋み、嫌な音を出す。
 この時の彼女はしらないが、この異様な身体能力の高さも、彼女を特殊たらしめている要因の一つだった。
 感情に任せた動きが、ベッドに六歳が乗ったとは思えない程の負荷を掛けているのが、その何よりの証拠だ。

(普通じゃない私は、他の子みたいに生きていけないんだ。だって、私は……)

「『化物』、なんだから」

 呟くと同時に、風がすずかの頬を撫でる。それが、すずかには自分の言葉を肯定しているように思えた。

―――――彼女を見るまでは。

 綺麗な髪をたなびかせ、見た事もない眼帯なのだろうか。両目をそれで隠し、胸元が露わになっている黒い服を着こなしている。
 だが、すずかが一番驚いたのは彼女の雰囲気だった。

(私に……似てる気がする)

 驚きで動けないすずかに、女性は無言で歩み寄って行く。何か声を出さなければ、と思うのだが、なぜか声を出してはいけない気がしている自分がいる。
 そんな事を考えているうちに、女性はすずかの前に辿り着き、おもむろにその手をすずかの頬に当てた。

「泣いて、いたのですか」

 綺麗な声だった。女性は優しく涙を指で拭うと、視線の高さをすずかに合わせる。
 瞳は見えない。でも、見つめられている。すずかは確かにそう感じた。
 女性は呆けるような表情のすずかに、微かではあるが笑みを浮かべた。

「似ていますね……」

「えっ………?」

「いえ、気にしないでください」

「……私、似てますか?」

「……ええ。とても」

 女性の言葉にすずかは、自分が間違っていないと確信した。
 誰かは分からないが、この人なら自分を受け入れてくれる。なにせ、自分を似てると言ってくれたのだから。
 厳密に言えば、女性の指した似ていると言うのは、すずかと自分ではなく、別人となのだが。それを指摘する程、彼女はすずかを知らなかった。

 一方の女性は、目の前の少女を見ながら、ある者の面影を重ねていた。

(本当に似ています。マスターとサーヴァントは、どこか共通点があると言いますが、まさかここまでとは)

 どれくらい時間が経ったのだろう。二人はお互いを見合ったまま、一言も発せずにいた。
 すずかは、どう切り出そうと考え、女性はただそれを待っていた。時計の秒針が刻む音だけが、部屋の中に響いていく。
 そして、すずかが話を切り出そうとしたその時。

「すずかお嬢様、寝てしまいましたか? そろそろお風呂に入られた方がいいですよ」

 心配そうなファリンの声に、すずかはやっとの思いで固めた勇気を、完膚無きまでに砕かれた。そんなすずかを見て、女性が小さく微笑む。
 未だに声を掛け続けるファリンに、すずかはどこか疲れた声で返していた。それを聞き、嬉しそうに返事をするファリン。そんな会話を、女性はただ静かに聴いていた。

 やがてファリンが下がると、すずかは拗ねたような顔をした。おそらく、自分の決意を見事に無にしてくれた事を思い出しているのだろう。
そんなすずかの顔を見て、女性は嬉しそうに語りかけた。

「良かったですね」

「何がですか」

「先程より、いい表情をしています」

 そう言われて、すずかは気付いた。あれほどあった不安が、今は微塵もなかったからだ。
 不思議そうな顔のすずかに、女性は笑みを浮かべてこう言った。

「貴方は一人ではない、と気付いたからです」

 女性は語る。自分にも、人とは違う事に悩み苦しんでいた『家族』がいた事を。 その女性も最後には、自分を受け止めてくれる人達がいる事を思い出し、強く生きていった事を。そして、自分もまたそうしてもらった一人であると。
 その話を聞いて、すずかは己の状況を改めて考え直してみる。
 姉がいる、ノエルがいる、ファリンがいる。例え、自分が何であろうと受け入れてくれる『家族』が、自分にはいる。
 そう思った時、女性がすずかの髪を撫でながら言い切った。

「それに、世の中には色々なヒトがいます。私や彼女を友人と言ってくれた者だっていたのですから」

 意外と、世界は捨てたものじゃないですよ。そう言って、女性は優しく微笑んだ。

 その微笑みに、すずかもまた笑みを返す。そして、先程女性の名を聞こうとした事を思い出した。

「あ、あの、私! 月村すずかといいますっ!」

 そう言いながら、すずかは自分に驚いていた。大声を出す事などほとんどない彼女にとって、自分が出した声量は他人のものに感じられた程だった。
 すずかは自分の動揺を隠せないまま、女性をただ見つめて問い掛ける。

「あ、貴方の名前を教えてください」

 聞き様によっては、初心な口説きにも取れそうな声。だがその瞳に映る輝きは、女性を少し驚かせた。
 一瞬の間の後、女性はその口元を緩めて答えた。

「私はライダー。サーヴァントライダーです」

 その声に込められた想いを、すずかは知らない。そしてライダーも、ソレを気付かない。
 何故ならそれは、姉が妹を得たかの様な嬉しさが滲んでいたのだから……。



 突然だが、アリサ・バニングスは言葉を失っていた。誘拐されたからでも、今から乱暴される所だったからでもない。
 誘拐など、もう何度も経験している(ここまで危ないのは初めてだが)し、乱暴されるのも覚悟していた(それでも怖くはある)からだ。
 アリサが言葉を失っているのは、視界に映っている光景だった。

 廃ビルの窓。そこのむき出しのコンクリートに腰掛け、長い刀を抱えている侍。折から吹く風に、着物が微かに揺れて音を立てる。
 アリサの周囲にいた誘拐犯達も、同じ様に言葉を失っていた。それもそうだ。なぜなら、先程までそこには誰もいなかったのだから。

「よい月夜よなぁ」

 誰もが言葉を失う中、侍はそう言い出した。まるでそれは独り言でも漏らしたように。

「俗世は様変わりしておるが、月の美しさは変わらぬ」

 すっと左手を上に上げ、その形を何かを持つように変えた。アリサには、それが何か理解できた。父親がよくお酒を飲む時にする仕草だったからだ。

「このような時は静かに杯を傾け、雅を感じるがよいのだが……」

 そこまで言って、侍はアリサ達を初めて見た。
 それだけでアリサは安心感を感じていた。侍が何者かは知らない。もしかいたらこの廃ビルの幽霊かもしれない。それでも、それでもだ。

(ああ、アタシ助かったわ)

 そう確信し、アリサが安堵したのを契機に、誘拐犯達は侍に向かって動き出した。
 その手には、ナイフや拳銃と言った凶器が握られていたが、侍はそれらをまるで気にも留めず、ただ一言。

「無粋よな」

 それだけ言うと、いつの間にかアリサの傍へ立っていた。戸惑う誘拐犯達を眺め、侍は静かに手にした刀を構える。
 それだけ。それだけにも関われず、誘拐犯達は動けなくなった。
 彼らは、誘拐のプロフェッショナルチームであった。当然、修羅場等も経験している。今更、刃物を所持した男が一人現れた所でどうという事はない。

――――――はずだった。

 だが、現実には誰も動こうとしない。いや、出来ない。本能が、理性が告げる。
 コレからは助からない。逃げろ、とさえ思えない。ここにいる全員が同じ心境だった。
 死んだ、と。

 侍はまったく動かない誘拐犯達を見て、僅かに、傍にいたアリサさえ気付かない程の声で呟いた。

「幼子には目の毒よな」

 そして放たれた斬撃は、誘拐犯達を全員倒した。『死』ではなく『気絶』という形をもって。
 事の全てを見ていたアリサだったが、流石に一撃で終わるとは思っていなかったのか、何度も目を瞬かせていた。
 すると、アリサは急に体が軽くなるのを感じた。見れば、体を縛っていた縄が綺麗に切られている。

「これで動けるであろう」

「ありがとう。誰だか知らないけど、ひとまずお礼は言っとくわ」

 アリサの言葉に侍が軽く驚いた。自分のどこかに変な所でもあったのだろうか? そんな風にアリサが思っていると、答えは予想の斜め上をいっていた。

「なんと、異国の娘が流れるような日本語を「ちょぉぉぉっと待ちなさい!」

 古風だとは思っていたが、どうやら目の前の侍は、本気で時代錯誤の存在らしい。簡単な話を聞けば、気が付くとここに居て、自分が襲われそうになっているのを見つけたのだと言う。
 アリサはそんな事を飄々と語る侍を、心底胡散臭いものを見るように見つめていた。

「まあいいわ。とにかく助けてもらったんだし、お礼はちゃんとするから」

「ふむ、私は別に構わぬが……」

「アタシが構うの! とりあえず名前を聞かせて。いつまでもお侍さんじゃ、呼びにくいわ」

「それもそうよな。私はアサシンのサーヴァント。名を佐々木小次郎と言う」

 そんな風に二人が話していると、俄かに下の方から声がしてきた。その中の声の一つに、アリサがよく知るものがあった。
 本当にこれで助かった。そうアリサが思った時、小次郎がゆっくりとアリサの頭に手を置いた。
 何を、と言おうとして、アリサは言えなかった。視界が滲んできたからだ。何でと疑問に思う前に、小次郎が呟いた。

「幼き身でよく耐えたものよ。だが、恐怖に涙するは恥でない」

「べ、別に――っく……アタシは……怖く、なんて」

「そうであろう。そなたが涙するは嬉し涙よ。なら、何を躊躇う事がある。思う存分流せばよい。私と月以外は誰もおらぬし―――」

私は何も見ておらぬ。

 それが切欠だった。アリサは流れ出す涙を止める事が出来なかった。ただ声を押し殺して泣いていた。
 それを視界から外し、小次郎は月夜を眺める。手から伝わる温もりと、流す涙の暖かさに、アリサはある決意を固める。

(アタシを泣かせてタダですむと思わない事ね! 絶対お返ししてやるんだからっ!)

 余談だが、この後現れたSP達が小次郎を誘拐犯と勘違いし、アリサが鮫島達を一喝するのだが、その様子を見て小次郎が大いに笑った事だけ記しておく。




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ひとまず、ジュエルシード事件までで召喚されたのはこの五人です。残りは別の場所での召喚となりますので、しばらく出番なし。

当面はこの五組それぞれに焦点を当てた話を書く予定です。

七騎のぶつかり合いを期待していた方、本当に申し訳ないです。


文才が、欲しいです。



[21555] 0-3 ファーストデイズ(S&R)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 14:09
「ではスズカ、ファリンと買い物に行って来ます」

「うん。ライダー、ファリンをよろしくね」

「ふふっ、わかっています」

 笑みを浮かべるライダーにつられる様に、すずかも笑う。最近序列変更があり、ファリンはライダーの妹分になってしまっている。まあ、本人も「ライダーお姉様」と呼んでいる辺り、満更でもないようだが。

「では……」

「行ってらっしゃい」

 メイド服を翻し、ライダーは歩き出す。歩きながら、少しずれた眼鏡を指で直す。既に違和感がなくなりだした格好を思いながら、ライダーは思う。自分も変わったな、と。
 あの日、彼女に似た面影を持つすずかに出会った『始まりの夜』から、既に半月。月村の家にも慣れ、メイド服にも慣れた。清楚な雰囲気にどこか妖艶さが漂うのは、ライダーが着ているせいだろう。初め家主である忍は、ミニスカートタイプを着せようとしたが、ライダーとすずかの抵抗&弁護により阻止され、ノエル達と同様のロングとなった。



令嬢と騎乗兵のファーストデイズ



 柔らかな日差しと鳥のさえずり。それを目覚ましに、すずかはゆっくり目を覚ます。すると、何か違和感を感じた。

「あれ……?何で……」

 窓とカーテンは開いていたはず。そう続けようとして、意識が覚醒する。

「そうだ!ライダーは!?」

「呼びましたか?」

 どこか不思議そうに答えた声に、すずかは慌てて振り向く。そこには、昨夜と同じ格好で眼鏡を掛けたライダーの姿があった。
その手にした絵本がどこかシュールだ。

「えっと…」

「はい」

「お、おはよう。……ライダー」

「おはようございます、スズカ」

 その何とも言えない光景に、すずかは若干戸惑うも、何とか挨拶を交わす。ライダーはそれを平然と受け入れ、返した。そして、またその視線を絵本へ戻す。
 ちなみに、手にした絵本はすずかのお気に入りだったりする。

 しばらくライダーのページをめくる音だけが部屋に響く。その光景を見つめ、すずかはある疑問を浮かべた。

「ライダー……」

「はい?」

 すずかの声に、ライダーは再び視線を戻す。その瞳の美しさにすずかは魅入られそうになるものの、何とかそれを抑え付ける。
そう。疑問はそこにある。

「その眼鏡は?」

「以前いた場所で頂いたものです。思い出の品、といえば品ですね」

 まさか、残っているとは思いませんでしたが。言って、ライダーはそう感慨深そうに呟いた。
すずかは、ライダーになぜ最初から眼鏡ではなかったのかを尋ねた。それならあんなにビックリしなかったのに、と。
 その言葉に、ライダーは笑みを浮かべて答えた。仮にこの状態でも、スズカは驚いたと思います、と。
それは否定できない推理だったが、すずかは反論する。ビックリの度合いが違う。それにライダーが反論―――するかと思ったのだが、彼女は申し訳なさそうな顔をした。

「そうですね。それは確かに…。すみませんスズカ」

「えっ?」

 想像した事と違う反応に、すずかは戸惑う。違う、そうじゃない。自分は謝ってほしかった訳じゃない。ただ、ライダーともっと話がしたかっただけなのだ。そう思い、何か言わなければと思った時だった。

 ライダーが、笑っていた。

 それはどこか悪戯を成功させたように。だけど、どこか詫びるように。そこですずかも気付いた。

「もしかして……」

「はい、少しからかってみました。ですがあまり気分はよくないですね。スズカ相手では……」

 そう言って、ライダーは心底後悔しているのだろう。顎に手を当て、何事かを呟いている。セイバー相手ならばとか、リンはなぜあんなにも嬉しそうに……等と言っている。
 聞き慣れない名前ばかりだったが、すずかはそれよりも聞きたい事があった。

「ライダー……?」

 すずかがそう声を掛けた瞬間、ライダーが少しだけ固まった。どうしたんだろう、とすずかが見つめていると、ライダーは何か慌てたように視線を動かした。

「な、なんですかスズカ」

「何で眼鏡を掛けるの?」

「いえ、それは……えっ?」

 想像した言葉と違ったのか、ライダーは何かを弁明しようとして、聞かれた事を理解した。だが、それがどうして気になるのかがライダーにはわからなかった。

「目が悪いって事じゃないんでしょ?どうして眼鏡を掛けるの?すごくキレイな瞳なのに」

 もっとはっきり見たいな。そんなすずかの言葉に、知らずライダーは喜んでいた。そして同時に悲しんでもいた。なぜなら、その事を話す事はすずかの望みに応えられない事を意味するのだから。

「分かりました。なぜ私が瞳を隠していたのか、それを教えます」

 ライダーは、静かに語り出す。己の本当の名と、それにまつわる事実を。
蛇の怪物メドゥーサ。その名はすずかも聞いた事があった。見た者を石に変え、恐ろしい姿をした『化物』。ライダーはすずかに理解し易いように、難しい言葉や単語は使わず、簡単に話した。その語り口には何の感情もなかったが、姉が出てくる話の箇所だけは、懐かしむような響きがあった。

 すずかは、その話をするライダーを見て酷く心が痛んでいた。ライダーは何か悪い事をしたわけではない。それなのに、怪物にされ、実の姉をその手にかけさせられた。自分の意思に関係なく、望まぬ状況に置かれた。すずかは、そこでやっと気付いた。自分が感じた感覚は、この事を無意識に感じとっていたんだと。
 そして、それを理解したすずかは、自分の最後を語りだそうとしたライダーに……。

「もういい!もういいよっ!!」

 叫んだ。聞きたくないと言わんばかりに。怒りの感情そのままに、すずかは激しく首を振る。
そんなすずかに、ライダーは言葉がなかった。わかったからだ。なぜ、すずかが怒っているか。何に対して激怒しているか。

(優しい子ですね、本当に)

 すずかは泣いていた。それは怒りの涙。理不尽に対する抗議の証。神様という存在に、少女は初めて憤りを感じていた。
ただ愛された。その相手に奥さんがいて、怒りが愛した夫にではなく、ライダーに向かった。ライダーが誘った訳でも、近付いた訳でもない。
 なのに、悪いのはライダーにされた。住む場所を追われ、姿を変えられ、大切な姉達を亡くし、最後には命さえ奪われた。

 自分が泣く事で、何かが変わる訳じゃない。それでもすずかは思った。自分がライダーの味方になろうと。例え世界を、神様を敵にしても、自分だけは、絶対に自分だけはライダーの傍にいようと。
 奇しくもそれは、ライダーの二人の姉が出した結論と同じだった。そして、すずかはライダーに抱きつき、強く抱きしめる。

「スズカ……」

「もう大丈夫だよ。ライダーには、私がいるから」

 ずっと傍にいるから。その言葉に、ライダーも優しくすずかを抱きしめる。自分の事を我が事のように感じ、泣いているすずかに。ありったけの感謝と想いを込めて。

 それは、すずかを起こしにきたファリンが来るまで続いた……。



「あの後大変だったなぁ…」

 あの日の事を思い出し、すずかは笑う。部屋に入ってきたファリンが、ライダーを侵入者と判断して大騒ぎになったのだ。ノエルに忍までやってきて、すずかは説明に苦労したのを思い出す。困った事に、ライダーがファリンとノエルに勝ってしまったため、余計にややこしい事態になったのも要因の一つだ。

 結局、すずかの言葉とライダーの態度で理解はされたが、そこからがまた大変だった。
ライダーが伝説の存在だと言う事、現れた理由が分からない事、そして彼女もまた吸血種(本当は違うが、ライダーがそうした方がいいと判断した)である事がわかったからだ。
 戸惑う忍ではあったが、すずかの様子から、ライダーが既にすずかの中でどういう存在か把握し、それに免じて不問とした。この判断に、ライダーは忍にリンを重ねた。

 その後、例の格好の話となり、そこでも色々とあったのだが……。

(でも、ライダーは楽しそうだったよね)

 無理難題をふっかける忍とそれを助長するファリン。それを落ち着いて嗜めるノエルに慌てるすずか。それを眺め、ライダーは確かに笑っていたのだ。
 すずかは知らない。そのやりとりが、かつての衛宮邸を彷彿とさせていた事を。ライダーがそれを思い出し、自分の立ち位置に内心苦笑してたのを。

 そしてライダーはすずか付きのメイドとなり、ファリンが教育を担当(忍の悪戯めいた発案)したのだが……。

「これはですね……」

「こうですか?」

 衛宮邸での暮らしで、家事をある程度していたライダーに隙はなく、ファリンが逆に教わる方が多かった。
それでも、先輩としての意地を見せようとするファリンだったが、持ち前のドジを如何なく発揮。それをライダーがフォローする結末になり、見かねたノエルがライダーの教育を変わる事となり……今の形に納まるに至る。

「それにしてもサーヴァントかぁ。私だけの護衛みたいなモノだってライダーは言ってたけど……」

 すずか付きなのは、ライダーがサーヴァントの意味をすずかにそう語ったからだ。

 テーブルの上にある写真立てを眺めて、すずかは思う。来週からは小学生だ。
あの時あった不安はもうほとんど消えた。色々なヒトがいるから、友達だってできるはず。初めから打ち明ける事は出来なくても、いつかそれを打ち明けたい友達が出来る。それで嫌われてもいい。いざとなれば自分には家族がいる、ライダーがいる。それに……。

「意外と、世界は捨てたものじゃないんだから」

 ライダーの言った言葉に、すずかは勇気付けられた。ライダーがそう思ったのなら、きっと世界はそうなのだと。テーブルの写真立てには、月村家全員で撮った写真と、慣れないメイド服に照れているライダーとの2ショットが飾られていた。

「ライダーの様に、私もなれるといいな」

 誰かを勇気付けられる人に。そう呟くすずかの顔には、希望と言う名の確かな輝きが宿っていた……。




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すずか&ライダー編のファーストデイスをお送りしました。

原作改変になりすぎないようにしていますが、どっちがいいんですかね?

改変がありすぎてもいいのか?否か?

多分、改悪ならダメで改善ならいいと思われるのですが……基準が分からない。

ま、サーヴァントいる時点で改変もいいとこですけどね(苦笑)



[21555] 0-4 ファーストデイズ(F&L)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 14:10
腕に付いた噛み痕。そしてそれを付けた狼を眺め、ランサーは目を細める。その体から感じるのは魔力。つまり、狼はそれを持つ存在。

(使い魔、か。それもかなりのモンだ。こりゃ、本気で今回は当たりだな)

 それにと、ランサーの視線がその狼の隣へ移る。その先には金髪の少女がいた。名はフェイト。彼を呼び出した存在だ。
その身に宿す魔力は並外れたモノがあり、ルーン魔術の使い手である彼から見ても驚くものがある。
 そんなフェイトだが、今彼女はリニスのお説教を聞いている。まあ、本来はアルフに対するものなのだが、自分が止め切れなかったのも悪いと、二人揃ってリニスに怒られていた。

 その様子を眺め、ランサーは力関係を把握した。どうやらフェイトは立場は一番上だが、力量はリニスに劣り、アルフはそのどちらもリニスに劣る。よってリニスが現状一番上にいるようだ。そうランサーは理解し、苦笑を一つ。

 その様子は、姉に叱られる妹とペットにしか見えなかったからだ。しかも聞こえてくるのが、無闇に人を噛んではいけないとか、フェイトの言う事をキチンと聞きなさいなどとくれば、それはもう微笑ましいものだ。
 場違いだな、とも思いながらランサーは呟く。

「で、俺はいつまで突っ立っていりゃいいんだ?」

 その表情はどこか呆れるように、だが楽しそうに見えた……。



テスタロッサ家と槍騎士のファーストデイズ



 お説教が終わった後、ランサーを待っていたのは質問攻めだった。しかし、それらはランサーのとっては予想通りのものばかりだったため、比較的早くすんだ。ただ気になったのは、ランサーがサーヴァントの説明をした際のリニスの反応。どこか驚きながらも、最後には悔しそうな顔をしたからだ。
 それよりも問題は別の所にあった。それはランサーがフェイトに質問した事。ここはどこだ、と言う問いかけ。それにフェイトではなく、リニスが答えた。

「時の庭園です」

「なんだ、そりゃ」

 次元世界、管理局、ミッドチルダに魔導師とランサーの聞き覚えのない言葉ばかり。試しにと、リニスがやってみせたのは『バインド』と呼ばれる拘束魔法。
 突然現れた光の輪に驚くランサーだったが、それが魔力で出来ている事を認識した途端、音も立てずにバインドが消えた。

『っ!?』

「便利な代物だが、構造が甘いんだよ」

 ランサーがやったのは、バインドの魔力に自分の魔力を加えただけ。ルーン魔術の使い手たるランサーから見れば、基本デバイスありきの魔法は、穴だらけなのだ。この身がキャスターとして召喚されていれば、おそらくもっと早く解除できたと語るランサーに、リニス達は心の底から思う。
 この男が敵でなくて良かった、と。



 長い通路を歩くフェイト達。向かう先はフェイトの母プレシアのいる部屋。
母さんに紹介しなきゃ、とフェイトが言い出し今に至るのだが、ランサーには気になっている事があった。それはリニスとアルフの雰囲気と、リニスの忠告。

「決して過去から来たなどと話してはいけません」

 ランサーとフェイトに強く告げるその表情に、フェイトでさえ戸惑い、ランサーも鬼気迫るモノを感じたのだ。更に、ランサーの話や現状を説明している時と違い、明らかに不安そうな顔をしている。今もフェイトが母親の事を語るたびに、何とも言えない表情を浮かべていた。
 聞くべきか否かと思ったが、会えば原因も分かるだろうとランサーは結論付けた。その考えは良くも悪くも的中する……。

「入るね、母さん」

 アルフとリニスは外で待つと言い、フェイトが開けた一際大きな扉の先にいたのは黒髪の女性。その身体に宿る魔力はフェイトを凌ぎ、全身から他者を圧倒する気配を漂わせている。
 だが、ランサーが反応したのはもっと別の事だった。

(魔力が安定してねぇ……これは――――病か?)

 魔力探知に長けるサーヴァントだからこそ分かる。その体が弱っている事は。しかし、目の前の女性―――プレシアはそんな様子を一切見せず、フェイトとランサーを見つめる。

「……その男は?」

「あ、ランサーと言って……その、私が召喚しました」

 実の娘に話しているとは思えない態度に、ランサーは怒りを通り過ぎて驚いていた。プレシアはまったく表情を変えず、ただモノでも見るかのようにフェイトとランサーを見ていたからだ。今も経緯を説明するフェイトを、路傍の石でも見るかの如き目で見下ろしている。

(おいおい、マジかよ。やっとマシなマスターかと思えば、こんなとこに厄介事が隠れてやがった)

 内心、ランサーはやはりとも思っていた。
なぜリニスとアルフが部屋に入らなかったか、なぜフェイトが母親の事を話すたびに気まずそうにしたのか。その答えが眼前にあった。

 フェイトの話にプレシアが興味を抱いたのは、バインドを壊した方法だった。ランサーが使い魔である事にも興味があったようだが、それよりも相手の魔力に自分の魔力を加える等の聞いた事がない事に意識が向いたからだ。
 その話を詳しくと言われ、フェイトは嬉しそうに語り出す。ランサーに説明された事を懸命に思い出しながら、フェイトは語る。合間合間にプレシアが聞く事に詰まりながら、ランサーに助けてもらって答えるフェイト。
 それをランサーはただ黙って支えた。途中、プレシアが自分に直接尋ねた時には一計を案じた。

「わりぃが何言ってるかわからねえ。フェイトの言葉しか俺の知ってる言葉に聞こえねぇんだ」

 フェイトが何か言おうとするが、プレシアがフェイトに通訳をさせるように促し、フェイトが無視される事を回避させたのだった。
そうして十分ほど話し、プレシアはもう聞く事はないとばかりに二人を追い出した。それでもフェイトは、愛する母と長く話せた事に喜んでいた。
 そんなフェイトを、ランサーは複雑な心境で見つめていた。リニスもアルフも、今日初めて会ったランサーでさえ気付いている。
プレシアは、フェイトを何とも思っていない。娘どころか人として見てるかすら怪しい。にも関わらず、フェイトはプレシアを慕っている。

(だが、俺が何とかする問題じゃねぇ)

 自分がするべきは、来るべき戦いに備えてフェイトを鍛える事。まだまだこれから伸びていくフェイトを、一人前の戦士にする。それだけが自分がすべき事だと、ランサーは分かっている。分かっているが……。

(だからってほっとけるかよ)

 このままでは、フェイトは報われない。プレシアはフェイトが強くなっても何も思わないのだろう。自分の役に立つモノにしか興味を抱かない。それも、すぐになくなる。アレは人として壊れた奴の目だ。ランサーはそう思い、ある男を思い出していた。
 忘れようのない相手。自分の誇りを踏み躙り、利用価値がなくなった途端あっさりと捨てる事を選んだ男。その男の目に、プレシアの目はどこか似ていた。

 外で待っていた二人に「今日は母さんがたくさん話してくれたんだ」と告げるフェイト。その後ろを歩きながら、ランサーは誓う。それは声にならない想い。それは誰も知らない誓約ゲッシュ

(フェイトの想いを、あいつの努力を報われるようにしてやるか。この―――槍に賭けて!!)

 槍騎士はそう誓い、苦笑を一つ。我ながら、らしくない。そう思いながら、ランサーは歩みを速める。

「で、悪いが何か食わせてくれ。腹が減ったんでな」

「ラ、ランサー、頭が重いよ」

 フェイトの頭に腕組みし、そうリニスへ告げるランサー。その行為に弱くも抗議の声を上げるフェイト。

「わかりました。じゃあ、食事の支度をしますね」

「ちょっと!フェイトが嫌がってるだろ!」

 どこか呆れたように返すリニスに、今にも噛み付かんとするアルフ。

 怒るアルフ、嗜めるリニス、うろたえるフェイト。そして、笑みを浮かべながら逃げ出すランサー。逃がさんとばかりに追いかけるアルフに、置いてかないでと走るフェイト。ため息をつきながらそれでも笑みを見せるリニス。そんな光景を見ながら、ランサーは思う。

ああ、こういうのも悪くねぇ――――と。







おまけ

「出来ましたよ~」

『待ってました!』

「ふ、二人共、落ち着いて」

 今にも掴みかかろうとする二人を、フェイトは何とか宥める。

「じゃあ早速……」

 食事に手を伸ばそうとするランサー。同じようにアルフも食べようとして、何かに気付いたのか動きが止まった。

「さすがにこのままじゃ食べにくいね」

 その言葉と同時に、アルフの姿が変わる。狼から人間の女性へと。

 ランサーはその光景に口笛一つ。視界に映っているのは、美人と呼んで差し支えない女だったからだ。

「で、どうなってんだ?」

 口笛を吹いておきながら、ランサーは悪びれもせずリニスに尋ねる。その手には、アルフが狙っていたチキンステーキがしっかりと握られている。
 フェイトは、手掴みなんて……と驚き半分憧れ半分の視線でそれを見つめ、アルフはそのキレイな顔を歪めて唸っていた。

「使い魔は、アルフのように動物が素体です。ですが、主の魔力を消費する事で人の姿になることが出来るのです」

 ちなみに私もそうですよ。そうリニスが告げると、ランサーは驚いた顔をした。だがそれも一瞬。すぐにいつもの顔に戻して呟く。

「ま、しかしそう考えると……」

 アルフとリニスを交互に眺めるランサー。その視線に、リニスは恥ずかしがり、アルフは首を傾げた。

「いい女だよな、お前ら」

『っ?!』

 軽い調子ではあるが、その声に込められたものは本音の称賛。生まれてこのかた口説かれる事などなかった二人に、ランサーの一言は強烈だった。そんな二人の様子に、ランサーは面白がって言葉をかける。
 どうだ、本気で俺の女にならねえか?と言ってみれば、リニスは赤面しアルフは怒鳴る。初心だねぇ~とからかえば、二人揃って首を横にし無視の姿勢をとる。

 そんな風に盛り上がるランサー達を、フェイトは一人不思議そうに眺めて呟いた。

「早く食べないと、食事冷めるよ?」



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ファーストデイズ二本目をお送りしました。

今回、魔法に関して独自解釈がありますが、寛容な心で見てやってください。

ほのぼの分がなさすぎたので、おまけで投入したら……あれ?フラグか、これ?

次回はどの組か。ヒントは男女の組み合わせ。

9/5 加筆修正しました



[21555] 0-5 ファーストデイズ(A&A)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 14:10
 淡く日差しが大地を包み、穏やかな風が心地よい早朝。バニングス邸に、大きな違和感が存在していた。
まるで時代劇から抜け出してきたかの如き格好の男は、『物干し竿』と呼ばれる刀を縦横無尽に振り回す。
 いや、それは振り回しているのではなく、一見無秩序に見えながらも美しい剣舞をなしていた。

「ふむ、西洋の庭もまた良きモノよ」

 そう呟く男の名は佐々木小次郎。アサシンのサーヴァントにして、アリサの命の恩人であった。
あの後、彼は是非お礼をと言うアリサ達の招きを受け、ここバニングス邸に厄介になった。
 昨夜はアリサの両親からもお礼を述べられた(名乗った際に驚かれはしたが)後、豪勢な晩餐(見た事無いものばかりで戸惑った)を味わった小次郎だったが、その内心は複雑だった。

「よもや『ぼでぃーがーど』なるものになってくれとは……」

 昨夜の宴席で、アリサの両親からそう提案されたのだ。行くあてがないと告げた途端の申し出。しかも、アリサがそれを肯定したため、小次郎がそれを断ろうとすると、すかさずアリサが、疲れたから寝る、と言って断るキッカケを無くしてしまったのだ。

(あの時の娘、女狐と同じ匂いがしておった。まこと女というのは油断ならん)

 立ち去る時のアリサの顔を思い出し、小次郎はそう断じた。その顔は笑っていたのだ。どこからか「にひっ」と聞こえそうなぐらいに。

 そうやって笑うアリサと、キャスターの笑みが重なり、知らず小次郎は懐かしむように笑みを浮かべる。そんな彼を、朝日だけが見つめていた……。


お嬢様と傾奇者のファーストデイズ




「いい天気ね!」

 窓を開け、伸びをし終えて、アリサはそう言い切り、着替えを手に取る。
本来なら、大財閥の令嬢ともなれば手伝い等をするメイド等がいてもおかしくないのだが、バニングス邸には、いやアリサの周囲にはそのような者は敢えて付けられていなかった。
 アリサが望まなかった事と、両親の教育方針でもある『人の上に立つならば、立たれる者の気持ちを知れ』の精神で、アリサは同年代の子が自分でする事は全て自分でこなすように育てられていた。

 着替えを終え、アリサはすぐさま部屋の外へと出た。そして出迎えた鮫島に、挨拶もそこそこにこう尋ねた。

「小次郎はどこ?」



 アリサが捜しているとも知らず、小次郎は庭を散策していた。柳洞寺にいた頃は山門から動けず退屈していた事もあり、自由に動き回れる事に、小次郎は喜びを噛み締めていた。
 それに、バニングス邸は西洋式の庭園であった事もそれに拍車をかけた。日本庭園にはない味を、雅を感じながら小次郎は歩く。

「いささか侘び寂びが足らぬが、これはこれでまた良いモノよ」

 小次郎が特に気に入ったのは庭の中心にある噴水だった。枯山水とは正反対の発想に、小次郎は驚きと感心を抱いたのだ。

「水をこうも惜しげなく……贅沢ではあるが、これもまた文化の違いか」

 ま、雅には違いないと呟き、そろそろ屋敷に戻ろうとして――――その動きが止まった。

 そこには、仁王を思わせるような雰囲気の腕組みしたアリサの姿があった。無論、小次郎にとってアリサがそんな姿勢をした所で、脅威でも何でもない。だが、その目に宿った光が小次郎を止めるに至った。

「勝手にウロウロするなぁぁぁぁぁ!――はぁ――はぁ――っおかげで、庭を走り回るはめになったじゃないっ!!」

 鮫島から小次郎が庭にいると聞いたアリサは、早速とばかりに庭に出たのだが、小次郎は既に戻り始めていたため、庭をほぼ一周するはめになった。
 勿論その最中に何度も、どこかに行ってしまったんじゃないか?と言う不安を抱き続けて走る事にしたのだが、その疲れと苦しみを全て小次郎へと叩きつけたのだ。

 そんなアリサの剣幕も、小次郎には微笑ましいものにすぎない。それどころか、面白がって顔に笑みさえ浮かべて答えた。

「それは健脚であるな。幼子にしては大した者よ」

「幼子って呼ぶな!名前で呼べって言ってるでしょ!居候なんだから少しは言葉ってもんを……」

「はて?私は構わぬと言ったものを、礼だと言って連れてきたのはそなたではなかったか?」

 どこか嬉しそうに問いかける小次郎の言葉に、アリサは答えに詰まる。小次郎が言っている事は事実。目の前の侍は、確かに礼には及ばないと言った。それを強引に連れてきたのは自分である。ならば、小次郎の立場は居候ではなく、客人が妥当になる。
 幼いながらも、アリサはそこまで考え、そして悔しがった。それはもう誰の目からも明らかな程に。

 俯き手を握り締めているアリサを、小次郎は楽しそうに見つめる。昨夜のお返しにと、少しばかり大人気なく理屈で攻めたのだ。しかし、アリサはいかに頭の巡りが良いとはいえ、まだ子供。小次郎も、少しやり過ぎたかと思ったその瞬間。

「男のくせに細かい事気にするなぁぁぁぁっ!」

、アリサが吠えた。それはもう見事に。獅子か虎かと思わんばかりの咆哮だった。
その声に、小次郎は確かに空気が震えるのを感じた。その証拠に、表情は唖然としている。そして、耳鳴りが小次郎を襲い、頭を鈍く痛めつけた。

 肩で息をしながら、アリサはどうだと言わんばかりに胸を張る。その光景を眺め、小次郎は思う。
ああ、この女子は虎の子か、と。だから髪が黄金色をしておるのかと納得した。

「と・に・か・く!もう朝食の時間なんだから、早く来なさいよ」

「承知した。さて、異国の朝餉はいかなモノか」

「だから、ウチを異国扱いするのやめなさい」

 並んで歩く二人。時代がかった姿の小次郎と西洋人形の如きアリサの組み合わせは、違和感を感じさせながらも、どこかしっくりくるものがあった……。



用意された朝食は洋風。パンにスープ、サラダにベーコン。それにサニーサイドアップと呼ばれる半熟の目玉焼きが並んでいた。
 一般的なメニューには、昨夜の食事を小次郎があまりにもあれこれ聞くものだから、アリサの母が誰でも知っている方が、気を遣わずに食べられるだろうと、そう手配してくれたのだが……。

「この汁物は?」

「コンソメよ。野菜や鳥なんかを一緒に煮込んで作るはずよ」

「この菜物の盛り合わせは?」

「サラダ。色んな野菜を食べ易い大きさにして、ドレ……タレをかけて食べるの」

 ほらこれとアリサに手渡され、小次郎はドレッシングのビンを眺める。日本語と英語が書かれたそれを、面白そうに小次郎は眺めた。
アリサはそれを横目で見やり、ため息一つ。母の気遣いは、どうやら無駄に終わったようだ。小次郎にしてみれば、アリサの家にある物全てが珍しい。純日本と呼べる物でない限り、小次郎の興味は尽きないのだ。

 だけど、とアリサは思う。知らない物を尋ねる時、小次郎の顔はどこか幼く見える。純粋に未知との触れ合いを楽しんでいるのだ。だから子供の自分にさえ、素直に聞く事が出来る。
 それに引き換え自分はどうだ。大人に負けじと物を知ろうとし、塾や習い事をし共に遊ぶ相手もなく、同い年の子とは違う生き方をしている。もし、自分が小次郎の立場なら、素直に子供に物を聞くなど出来ない。
 それはプライドが邪魔をするからだろう。小次郎にはプライドがないのだ。だからそう出来るのだと、アリサは結論付ける。それは大きな間違いなのだが、生憎それを指摘する事は誰にも出来ない。

「どうかしたか?」

「…へ?」

「何やら思い詰めた顔をしておったのでな」

 そう言って小次郎はスープを啜る。れっきとしたマナー違反だが、日本人たる小次郎にそんな事は関係ない。
両手で皿を持ち、静かに啜るその姿はどこか浮いていた。ちなみに、小次郎の手元にもスプーンやフォークは置かれている。
 その光景を見て、アリサは頭を抱える。

(教える事が多すぎる!)

 物の名前や使い方。果ては文化やマナー等、これではまるで先生ではないか。そう思った時、アリサの脳裏にある提案が閃いた。うまくいけば、自分を子供扱いする小次郎に一泡吹かせられる作戦を。



以下、アリサのイメージです。


「いい、小次郎。あんたは外国の事を知らなさ過ぎ」

「ふむ」

「だから、アタシが教えてあげるから感謝なさい」

「おお、それはかたじけない。よろしく頼む」

「うむ!じゃ、これからアタシの事はお嬢様と呼びなさい」

「畏まりましたお嬢様……これでよいか?」

「よいよい。苦しゅうないぞ~」



「これだ!」

 アリサがそう思い、小次郎に声を掛けようとした時には―――。

もう小次郎の姿はなかった。

 慌てて周囲を見渡すも、小次郎の姿はどこにもない。見れば、小次郎の食事は綺麗に平らげられていた。
 なら外か。そう結論付け、席を立って食卓を後にしようとした所で―――。

「なんだ。もう食べぬのか?」

 もったいないと言いながら、小次郎が厨房の方から現れた。その手にしているのはコンソメが並々と入った皿。
呆気に取られるアリサを横切り、小次郎は静かに席に着く。そして先程のようにスープを啜り出す。一切ぶれる事のないその所作に、アリサは感心すら覚え始めていた。

 そんなアリサを小次郎は一瞥すると、視線をアリサの食事へ向ける。それは、アリサに食べないのかと言わんばかりであった。
それに気付き、アリサも席に着く。残っていた食事を下品にならない程度に急いで食べ、アリサは隣へと視線をやる。
 小次郎はゆっくり味わうようにコンソメを飲んでいた。その表情は心なしか嬉しそうだった。

「そんなに気に入ったの?」

「うむ。先程板前に聞いてきたが、そなたの言う通りの作り方であった。大地の恵みをふんだんに煮込んで作るとは、贅沢よな」

 そう答え、小次郎は空になった皿を見つめる。アリサの気のせいだろうか、その横顔がどこか悲しそうに見えたのは。
声を掛けようにも、その悲しみは深い事が分かる。そうしてアリサが迷っていると、小次郎が口を開いた。

「しかも色が琥珀とくれば、目にも雅なモノよ。大地の恵みに人の知恵、二つの結晶には恐れ入る」

 まさに珠玉の一杯よ。そう語る小次郎は、既にいつもの小次郎であった。
アリサはそれに安堵するが、同時に先程見せた表情が気になって仕方なかった。

 アリサは知らない。小次郎は元々百姓の出で、佐々木小次郎等という存在ではなかった事を。元百姓だからこそ、己の現在を鑑みて、その不条理さに思いを馳せたのを。
 今のアリサには、知る事が出来なかった……。



 食事を終えたアリサは、さっき思いついた提案を小次郎へ告げた。
それを聞き、願ってもないと応じる小次郎。と、ここまではアリサのシナリオ通り。だが、そうは簡単に運ばないのが世の中というもの。

「じゃ、これからはアタシを―――」

 お嬢様と呼びなさい。そう続けようとした。だが、それを遮るように小次郎は言った。

「わかっておる。ちゃんとありさと呼べばよいのであろう?」

 小次郎の言葉に、アリサは何も言えなくなった。名前で呼べと言ったのは自分だ。なら、この流れでそう言われてもおかしくない。
しかし、その顔にはありありと怒りが浮かんでいた。発音が違う。それが怒りの訳。だが、小次郎は気付けない。西洋の言葉も、一部を除き片言に近いのだ。

「如何したありさ。名前で呼んではならぬのか?」

「それでいいけど、そうじゃな~~~~いっ!!」

アリサの心からの絶叫は、屋敷全体に響き渡ったのだった……。




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ファーストデイズ三本目です。

おそらく、五組の中で一番漫才のような関係になるこの二人の話。

書いてて、一番難しいですが、楽しくもあります。

本編突入前の日常編は、今の所各組二話を予定しています。




予定=未定(汗



[21555] 0-6 ファーストデイズ(H&A)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/16 14:03
 淡く太陽がアスファルトを照らし、その日差しを浴びながら新聞配達人が駆けて行く。そんな朝が動きだす音で、アーチャーは目を覚ました。

「む、少し寝すぎたか?」

 そう小さく呟き、隣の少女に視線を移す。そこには、安らかな寝息をたてて眠るはやてがいた。

 あの後、詳しい話は明日にしようと告げ、アーチャーは居間で寝ようとしたのだが……。

「一緒が、ええんやけど……」

 そう消え入る声で言われてはしょうがない。アーチャーは渋々ながら、はやての要望に応じる事にした。
その際、こんなやりとりがあった……。



「わかった。ただし、今回だけだぞ」

「え~、ええやんか。わたしが大きくなるまで一緒に寝よ?」

「一応聞くが、大きくとはいくつまでだ?」

「十二!」

「断る」

「ぶ~」

「膨れてもダメなものはダメだ」

「ケチ、アホ、イジワル、人でなし、カイショウナシ、ドロボーネコ、ウワキモン!」

「待て。今、最後の方は聞き捨てならぬものがあったぞ」

「お昼のドラマでよ~聞くんよ。ちょう意味は知らへんけど」

「……そのドラマは君には早い」



 そのやりとりを終え、ベッドにはやてと共に横になるアーチャーだったが、興奮しているのだろう。はやては一向に眠る気配なく、アーチャーの腕に抱きついて質問を続けていた。

 どこの出身等のアーチャー自身の事から、明日はどうすると言った事まで様々だ。相手をしていればその内眠るだろうと、アーチャーは思っていたが、その勢いが弱まる事がなかったため、ある提案をした。

 それは、朝自分より早く起きたら、質問に何でも答えると言うモノ。はやてはそれを聞き――わずか三分で寝た。
それを見て、アーチャーは苦笑すると共に、何があっても負けられないと決意したのだった。

「さて、食事の支度でもするか」

 寝息をたてるはやての頭を軽く撫で、アーチャーは静かに部屋を後にするのだった……。



夜天の主と弓兵のファーストデイズ





 八神家のキッチンに佇むアーチャー。その背からは、戦場を詳細に観察するかの如き雰囲気が漂う。否、ここは戦場なのだ。
彼にとって、家事それも料理とはまさに戦いと呼べるもの。故に、敗走はなく、必勝こそが彼の必然。
 しかし、彼はキッチンをしばし眺めて呟いた。足りんな、と。

 彼の腕を十全に振るうためには、この調理器具だけでは力不足。ならば、どうするのか?簡単だ。ないのなら、創ればいい。

「投影、開始」トレース オン

 自分にとって言い慣れた言葉と共に魔術回路が動き出す。そして、アーチャーの手から―――。

「ふむ、こんなところか」

 包丁や鍋などが手品のように現れていた。それらは世間では高級品と言われるモノばかり。どこかの万年金欠宝石少女がいれば、間違いなく売り飛ばして資金にする事請け合いの光景だ。
 アーチャーはそれらと元々あったものと交換する。そして、それらを邪魔にならぬよう収納スペースへ入れた。

(彼女の母親の形見かもしれんしな)

 捨てずにしまったのはそれが理由。この家について、アーチャーは知らぬ事が多すぎる。それもあって、彼は手始めとばかりに食事を作ろうとしていたのだが、冷蔵庫の中を見て固まった。

 そこには、飲み物や調味料以外何も入っていなかったのだ。まさかの事態に、さしもの皮肉屋も沈黙した。そして、彼はゆっくり冷蔵庫の扉を閉じた……。

 はやては一人で暮らしている。そして、車椅子での生活。おそらく食事等は配達で賄っているのだろう。そう判断し、アーチャーはその顔を歪ませる。早朝から開いているスーパーはあるにはある。だが、それがどこにあるかわからない今、どうする事も出来ない。だからといって諦めるのは許されない。何もせずに諦めるなど、彼には決して出来ない結論だからだ。

「不本意ではあるが、それしかあるまい」

 苦渋に満ちた声。活路はある。だが、それは彼の中では苦肉の策。

「時間は有限。ならば、急ぐとしよう」

 そう結論を出し、彼は静かに走る。はやての部屋へ消え、即座に戻り玄関へ向かう。そしてドアを開け、閑静な住宅街を駆けるアーチャー。幼き少女のため、そして己の信念のために!



 包丁が野菜を刻み、軽快な音を響かせ、コンロにかけられた鍋が僅かに震えている。黒い無地のエプロンを着け、無言でアーチャーは調理をしていた。
 彼が向かった先はコンビニエンスストア。最近は生鮮食品も扱っていた事を思い出し、何軒か梯子したのだ。結果として食材は手に入ったものの、その鮮度などは納得のいくものではない。しかし、しかしである。

(食材を生かすも殺すも腕次第。ならば、私の腕で足りぬ分を補えば済む事っ!)

 無論、目利きをし、少しでも状態の良いものを選んではきている。ギリギリ及第点なら、後は工夫と技術で勝負。それがアーチャーの結論。持てる全てをぶつけ、彼はこの調理に挑んでいた。



 一方、静かな死闘が行われているキッチンから離れたはやての部屋。心地良い眠りに浸っていたはやてだが、漂ってくる匂いと音に意識が覚醒し始めた。

(あれ……?ええ匂いや……お出汁の匂いやな。この音は……包丁か)

 そこまでぼんやりと思い、次の瞬間目が覚めた。誰がこれをしているのか。そして、それが何を意味するのか。

「負けてしもた……」

 聞きたい事は山ほどあった。でも、答えてくれないかと思うような事もある。だからこそ、アーチャーに勝って色々聞こうとはやては意気込んでいたのだが、結果は見事に惨敗だ。
 しかし、どうやってアーチャーは料理をしているのだろうとはやては思う。食事は宅配にしているから、冷蔵庫には使える物は何もないはずだ。それに、買うにしてもスーパーはまだ開いていないし、お金も持ってるとは思えない。

 それだけ考え、はやてはまず着替える事にした。身体をベッドから動かし、車椅子へ。そして、タンスの中から着る物を引っ張り出していく。

(でも、朝ご飯かぁ……。こんなに楽しみなんは久しぶりや)

 知らず鼻歌混じりに着替えるはやて。そんな時、ドアがノックされ―――。

「起きたのか、はやて。何か手伝う事はないか?」

 アーチャーの声がした。開けない所に、彼の気遣いが見える。はやては少しビックリしながらも、笑顔で答える。

「特にないわ。おおきにな、アーチャー」

「そうか。なら、顔を洗ったらテーブルに着いてくれ。食事の用意が出来ている」

「うん。すぐ行く」

 はやてがそう答えると、アーチャーは待っていると言い残し、またキッチンへと戻っていった。その足音を聞きながら、着替えを再開したはやてだったが、視界が滲んでいる事に気付いた。
 どうしてと思った時、はやてが思い出したのはアーチャーの一言。

―――待っている。

 両親を亡くして以来、一人で済ませていた食事。それが、今日からは違う。自分を待ってくれる人が、食事を作ってくれる人が、『家族』がいる。それが、涙の理由。昨夜から出来た新しい同居人、アーチャー。彼は自分の『家族』になると言ってくれた。それが、こんな形で証明されるとは、はやては思っていなかった。

(神さまに謝らなアカンな。アーチャーと会わせてくれて、ホンマにありがとうございます)

 両親を亡くした日、はやてはなぜ自分も一緒に死なせてくれなかったのかと、神を恨んだ。たった一人で生きていく。それが幼い少女にどれ程辛い事かは、言葉に出来ない。だが、神ははやてを見捨てなかったようだ。

(でも、もしかしたら恨んだからアーチャー連れてきたのかもしれん)

 はやての脳裏に、手を合わせ謝る白髭の老人の姿が浮かぶ。そして、そんな事を思って笑いながら涙を拭う。許してやろう。相手はよぼよぼのおじいちゃんなんやから、とはやては思い、また笑う。そして、車椅子を動かし洗面台へと向かうのだった……。



 用意された食事に、はやては目を疑った。豆腐の味噌汁、だし巻き卵、ほうれん草のおひたしに焼き海苔と、実に純和風の献立が並んでいたのだ。ただ、白米だけは既製品をほぐしただけのようだが。それでも驚くはやてに、アーチャーは語る。
 自分がもっとも得意とする和食を作る事は、夜の内から決めていた事を。そして、食材を揃えるためとはいえ、申し訳なかったがはやての財布を借りた事を。けれど、自分が苦労した事などは一切触れない。はやての性格を、アーチャーは既に把握し始めていたからだ。下手な事を言えば、顔を曇らせてしまう。だからそれらの事を聞き、はやてが笑った時、アーチャーも笑った。

「ま、御託はこれぐらいにして、まずは食べてくれ」

「せやな。いただきま~す!」

 後にはやては語る。あの時の衝撃は、一生忘れないと。

「う……」

 だし巻き卵を口にし、はやては固まった。その反応に、僅かだがアーチャーにも緊張が走る。秒針の音だけが、静かに響く。どちらも微動だにしない。ややあって、はやての口が咀嚼を再開する。心なしかゆっくりに見えるそれを、アーチャーは真剣な眼差しで見つめる。
 今ならば、ランサーの動きさえ見切るのではないかと言わんばかりの眼力で。

 やがて、名残惜しそうに嚥下するはやてを、アーチャーはただ黙って見守る。

「ど……」

「……ど?」

 ゴクリと息を呑むアーチャー。想像と違う言葉に、その顔は戸惑いを隠せない。

「どうしてこんなに美味しいんや~~~~っ!!」

 はやての絶叫に、アーチャーは小さく安堵し、笑みを浮かべる。

「当然だ。私にかかれば、この程度の味など造作もない」

 すまし顔で語るアーチャー。その表情からは、絶対の自信が溢れている。そんなアーチャーを無視し、はやては既に他の物を食べ始めていた。それも、美味しいと目を輝かせながら。その光景を見て、アーチャーはただ嬉しそうに微笑むのだった。



「ホンマにアーチャーは料理が上手いんやなぁ……」

 食後のお茶を飲みながら、ぼんやりとはやては呟いた。その視線の先には、食器を洗うアーチャーの姿がある。本当は色々話しながら食べようと思っていたのに、あまりに美味しい食事に会話も忘れて食べ続けてしまった。結局、話は片付けが終わってからになった。

 後片付けをしているアーチャーを見ながら、はやては思う。

(意外とガンコなんやな、アーチャーって。今日は全部自分でやる!なんて……)

 手伝いを申し出たはやてに、アーチャーはこう断った。

「気持ちは嬉しいが、今日は私に全てやらせてほしい。なにしろ、久しぶりの事なのでね。勘を取り戻しておきたい」

「でも……」

「その代わり、明日からは頼む」

 そう笑みと共に言われては、はやても引き下がるをえない。仕方ないのでお茶を淹れ、こうしてくつろいでいるのだが……。

(なんや、変な感じやな。まるで歳の離れた兄妹や)

 そんな事を思い、はやては笑う。そして、もしここに両親がいたらなどと思ってしまう。
屈託なく笑う母と微笑む父。二人に手をつながれて歩く自分。それを後ろから呆れながらもついてくるアーチャー。
 そんな光景を幻視し、はやては瞼を強く閉じる。涙がこぼれないように、アーチャーに気付かれないように。
そんなはやての肩に、何かが触れた。

「どうした。埃でも目に入ったか?」

 アーチャーの手だった。その問いに無言で首を横に振るはやて。声を出さないのは、それで分かってしまうと思ったからだろう。しかし、アーチャーには無駄な事だった。
 彼はそれだけで何かを悟ると、笑みを浮かべて語り出した。

「はやて、君は確かこう言ったな。私と『家族』になってほしいと」

 無言で頷くはやて。それを確認し、アーチャーは続ける。

「なら、我慢しないでくれ。言いたい事なら言えばいい。やりたいならやればいい。ダメならそう言うし、出来るのなら力になろう」

 支え合い分かち合うのが家族だから。まるで、一人で抱え込むなと言っているようなその言葉に、はやては涙が止まらなかった。抑えていた声も、もう限界だった。
 流れる涙も拭わず、ただアーチャーの手の温もりを嬉しく思いながら泣いた。そんなはやてを、アーチャーは黙って見つめた。今必要なのは、言葉ではない。自分以外の温もりなのだと、アーチャーも知っているから。

 こうして、二人は『家族』としての第一歩を歩き出す。二人は知らない。その姿を、一匹の猫が注意深く見つめていた事を……。




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ファーストデイズ四本目。

はやてがおマセになった理由は、良くも悪くも保護者がいなかったからだと俺は思います。

さて、いよいよ次がファーストデイズ最後の一組!

……意外と早かったなぁ、ここまで



[21555] 0-7 ファーストデイズ(N&S)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 14:12
 突然だが、セイバーは困っていた。最優のサーヴァントとして名高きセイバーが、なす術なく固まっている。そんな状況を作りだしているのは、なんと――――。

「ふみゅぅ……」

 なのはだった。その手はセイバーの服(苦労して鎧だけを消した)の袖をしっかりと掴んでいる。
早朝に目覚めたセイバーだったが、身体を起こそうとして、この状況に気付いた。振りほどくにも、強く掴んでいる以上、下手をすれば起こしかねないと判断したのだが、ずっとこのままという訳にもいかなかった。

(退屈なのですが……何かないでしょうか)

 元来体を動かす事が好きなセイバーは、この状況が中々辛い。必要であれば平気だ。自分は王を務めていた事もある。その程度は造作もない―――はずなのだが。

 ただ何もせず、じっとしているのは耐え難い。本を読もうにも動けないし、瞑想しようにも正座も出来ない。
まさに進退窮まったその時、家の中の気配が動くのを感じた。しかもただの気配ではない。それは戦士の類だとセイバーは知っている。

(この家の気配は、なのはを除き三つ……その内二つがソレとは)

 その二つの気配は、家を後にし、外へと出て行った。遠ざかる気配にセイバーは思う。なのはに聞く事がまた増えたと。
出会いの後、簡単な話(ここが日本である事と、海鳴という町である事)をなのはから聞き、時間を考えセイバーが寝る事を勧めた。そのため、セイバーは高町家の事を何も知らない。

「仕方ありません。私ももう少し寝ましょう」

 可愛らしい寝顔のなのはを見つめ、セイバーは笑みを浮かべるとその目を閉じる。そうやって眠ろうとするセイバーに、世界は残酷だった。

「さ、朝食の支度をしなきゃ」

 なのはの母である桃子が、普段よりも少し早くから食事の支度を開始。その音と匂いに、セイバーはすぐに目を覚ます事となったのだった……。



高町家と騎士王のファーストデイズ





 (何があったんだろう?)

 気持ちよく目を覚ましたなのはが見たのは、『待て』を極限までさせられている犬の様な雰囲気を発しているセイバーの顔だった。
そんな事を感じていると、そのセイバーと目が合った。

「あうっ」

「お早うございます、なのは」

 その視線の強さに、思わずなのははたじろいた。そんななのはの様子に気付かず、セイバーは挨拶と共に体を起こす。
全身から怒気とも呼べる空気を漂わせ、彼女はなのはを見据えた。その目は、昨夜よりも真剣だ。何を言われるのだろう。そうなのはが覚悟した時だった。

「朝食の時間です」

「へっ?……あ、そうだね」

「早く着替え、居間に行きましょう」

「そ……そうだね」

 セイバーの有無を言わさない雰囲気に、なのははただ頷くしか出来なかった。家族がセイバーの事を知らない事も忘れるぐらいに、今のなのはは動揺していた。それはセイバーも同様である。昨夜から今まで何も食べておらず、更には食欲をそそる匂いを一時間以上嗅がされていたのだ。そのため、騎士王は食いしん王に変化していた。

 急かすようなセイバーの視線を受けながら着替えを終えるなのは。それを確認するやなのはを抱き抱えて部屋を出るセイバー。声を出す事も叶わず、なのはは初めてのお姫様抱っこを同性にされるという、非常に稀有な体験をした。

「着きました」

「あ、ありがとうセイバー」

 唯一の救いは、家族がそれぞれ用事があり、居なかった事か。恭也と美由希は学校の日直、桃子は士郎の世話と出掛けていて、テーブルには桃子の字で「あたためて食べてね」と書いてあるメモが一枚と、ラップをかけられたまだほのかに暖かい料理の数々。それをなのははどこか寂しそうに眺めるが、セイバーは既に今か今かとなのはを待っている。そんなセイバーに、なのはは犬の姿を再び重ね、笑みを一つ。

「セイバーは座ってて。私がご飯よそうから」

「わかりました。では、大盛りでお願いします」

「にゃはは。あ、ラップ取ってくれるとうれしいな」

「ええ、心得ています」

 そんなセイバーを横目に、なのはは茶碗を取り出す。自分用のものと、父の使っていたものを手にジャーを開け、ご飯をよそう。
それをそわそわしながら待つセイバー。そして、なのはから茶碗を受け取り……。

『いただきます!』



 食事は比較的早く終わりを告げた。元々なのは分しかご飯がなかった事、セイバーが凄まじい速度で御代わりした事が重なり、ご飯が綺麗になくなったのだ。
 空の御釜を見せられた時のセイバーは、まさに青天の霹靂といった顔を浮かべた。なのははそれを見て、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

 食後のお茶(これはセイバーが淹れた)を飲みながら、なのははセイバーに様々な事を話した。家族の事、家庭の事、自分の事。それをセイバーは黙って聞いてくれた。時に脱線し、思い出話になっても遮る事無く相槌を打ち、言葉に詰まりそうになるなのはをただ優しく待ち、全てを話し終えた頃には、お昼近くになっていた。

「……よくわかりました。なのはは、お父上が良くなってくれれば、また家族で過ごせるのですね」

「うん。お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、お父さんがにゅういんしてるから、なのはの相手ができないんだと思うの」

 どこか悲しそうに答えるなのはに、セイバーは何かを決意すると静かに立ち上がる。

「なのは、その病院に行きましょう」

「え?なんで?」

 突然の申し出に、なのはは目を瞬かせる。自分が行っても邪魔になるだけ。その考えが脳裏をよぎる。そんななのはの思考を読み取ったのだろう。セイバーは微笑むと、力強く断言した。

「私にいい考えがあります」



 セイバーと共に、なのはは聖祥大付属病院へとやってきた。見舞いには何度か来ていたため、道に迷う事はなかったが、セイバーの格好が目立ったせいで道中好奇の目で見られた。
 二人は士郎のいる病室へと向かう。なのははセイバーに、道すがらどんな事をするのかと尋ねたのだが、セイバーは答えてはくれなかった。ただ、任せてほしいとだけ告げて。

 病室のドアの前に立ち、なのはは恐る恐るノックする。そして意を決して声を掛けた。

「なのは、だよ。入るね」

「えっ?なのは?」

 想像もしない娘の来訪に驚く桃子。その声に若干の罪悪感を感じるも、肩に置かれたセイバーの手に勇気を出してドアを開ける。
そこには、こちらを見て驚く両親の姿があった。
 生死不明の重症を負いながらも、不屈の精神で一命を取り留めた士郎だったが、意識は取り戻したものの未だに退院のメドは立っていない。そんな夫を献身的に支える桃子。それを聞いたセイバーは、なのはにイリヤスフィールの姿を重ね、ここまで来たのだ。

 愛娘と共に現れた金髪の少女に、二人は言葉を失うが、セイバーは出来うる限りの柔らかな声で自己紹介を始めた。

「初めまして。私はセイバー、なのはの友人です。今日はお父上のお見舞いに来ました」

 その言葉に再び両親は驚く。家から出た事がないはずのなのはが、年上の、それも外国人の友人を作った事に。一方のなのはは、セイバーの友人という言葉に喜びを隠せず、満面の笑顔だった。
 簡単な挨拶だったが、娘の初めての友人が見舞いに来てくれた事に士郎も桃子も笑みを浮かべて歓迎した。そして、セイバーは先程までの表情を変え、真剣な面持ちでこう切り出した。

「そして、その怪我を直しにも」

 セイバーはそう言うと、その手を掲げて呟く。

「全て遠き理想郷」アヴァロン

 次の瞬間、眩い光がセイバーを包み、その手に何かが現れる。それは聖剣の鞘にして、万物から身を守るセイバーの切り札。
セイバーが死後辿りつくと言われている理想郷の名を冠した癒しの力。

 何が起きたのか戸惑う三人。セイバーはそれを気にも留めず、アヴァロンを士郎の体に置く。やがて淡い光を放ち、士郎を輝きが包む。それを見ながら、桃子もなのはも動けずにいた。その光はとても優しく、暖かな気持ちにさせてくる。そんな印象を受け、ただ黙って見守る二人。そして、輝きが消えた先には、何も変わらぬ士郎の姿とアヴァロンがあった。

 だが、目に見えぬ変化は起きていた。

「……痛みが消えた……?」

 信じられないとばかりに呟く士郎。そして、ゆっくりと起き上がり、自身の体を動かし始める。それを見て、セイバーは笑みを一つ浮かべアヴァロンを回収する。やがて、完全に直った事を理解した士郎が桃子に笑顔を向ける。それで全てを理解したのだろう。桃子も両目から涙を浮かべ、その胸に飛び込んだ。
 互いに涙を浮かべ抱き合う両親の姿に、なのはも知らず涙を浮かべる。そんななのはに、セイバーは優しく寄り添うのだった……。



 両親に手を繋がれ、嬉しそうに歩くなのは。それを見つめ、微笑むセイバー。
あのすぐ後、士郎は担当医を呼び、退院したい旨を告げた。無論、そんな事が許される訳はないのだが、士郎たちの懇願と根気についに病院側も折れ、退院の運びとなって現在に至る。

「ね、お父さんお母さん。お願いがあるんだけど」

 なのはの声に、士郎は分かってると言わんばかりに笑みを浮かべる。桃子も同様だ。

「セイバーちゃんの事だろ?」

「勿論いいわよ」

「部屋をどうするかだな」

 なのはの言葉を待たずして、二人はそう言って考えを巡らせる。驚いたのはセイバーだ。まさかこんなあっさりと結論を出されるとは思っていなかったからだ。

「ま、待ってください!貴方達はそれでいいのですか!?」

 それは暗に、あんなものを見ても何も聞かないのかと言っていた。それを感じたのだろう。士郎は真剣な眼差しでセイバーを見る。

「確かに色々と聞きたい事はある。でも、それは君が話したくなったらで構わない」

「そうよ。不思議な光景だったけど、それが?貴方はなのはのためにああしてくれた。それに、大切なのはあれが何なのかって事じゃなくて―――」

 セイバーちゃんがなのはのお友達って事よ。そう言って、桃子はセイバーに微笑む。それに士郎も応じ、微笑みを向ける。なのはも微笑み、セイバーを見つめる。三人の笑顔に、セイバーは一瞬呆気に取られるが、何かを思い出したのか笑みを浮かべ、答えた。

「そうですか。ならば、貴方達の気持ちに感謝を……」

「そんな固い態度はなし。これから一緒に暮らすんだから。私、桃子よ」

「そうだな。俺は士郎。士郎で構わないよ」

 二人の雰囲気にセイバーは面食らうが、士郎の名を聞いた時に軽い驚きを見せると、小さく呟く。

「何かの縁なのでしょうか……。よもやまた『シロウ』をアヴァロンが癒すとは……」

 そんなセイバーに、三人は顔を見合わせる。どこか懐かしむような顔に遠い視線。そして、そこはかとない哀しみを湛えた雰囲気に、何か気になる事でも言ったのかと思ったからだ。
 そんな三人に気付かず、セイバーはそうしてしばらく立ち尽くす。そんな彼女を現実に引き戻したのは、自分の体が訴える空腹の声だった。
恥ずかしがるセイバーに、笑いながらも早くお昼の支度をしないと、と歩き出す桃子。それに苦笑しながら同意する士郎となのは。
 そうして歩き出す四人の顔に浮かぶは満面の笑み。仲良く歩く親子と、それを眺めて微笑む少女。誰が見ても、幸せそのものの光景がそこにはあった……。



おまけ

 ただ沈黙のみが支配していた。呆気に取られる士郎と桃子に、苦笑いのなのは。そして……。

 もくもくと食べ続けるセイバー。その勢いは止まる事を知らず、既にご飯は四杯目だったりする。

「―――モモコ、御代わりを」

「え、ええ」

―――まだ食べるのか!?

 そんな心境で見つめる士郎に、もう開き直ったのか笑みさえ浮かべる桃子。ちなみに、なのはも士郎も既にセイバーの食事を見守っている。
そして、桃子が茶碗を持ち、ジャーを開けて……動かなくなった。
 どうしたのかと思うセイバー。だが、残りの二人には想像が出来た。

「ごめんなさい。もう、なくなっちゃって……」

 夕食時と同じぐらい炊いたのに、と呟く桃子。それにセイバーは驚きのち照れの表情だ。士郎はそんなセイバーに笑みを浮かべ、なのはも笑う。

「これは、もう一つジャーを買った方がいいかしら?」

「そうだな。それにセイバーの服なんかも必要だし」

「じゃあ今度のお休みにみんなで買い物に行こう!お兄ちゃんやお姉ちゃんも一緒に!」

 はしゃぐなのはに、笑みで応じる士郎と桃子。セイバーはそれを聞き、辞退しようとするが踏み止まる。なぜなら―――。

「みんなでお出かけするの、楽しみだなぁ」

 そんな風に笑うなのはを見たから。そして、その『みんな』に自分も入っている事を理解したから。

(それでは、友ではなく家族ですよ、なのは)

 そんな事を思いながらも、セイバーの顔はどこから見ても嬉しそうだった……。




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ファーストデイズラストでした。

これで各組の初日は終了です。

次からは本編準備編となります。

ランサーとアーチャーが重要です……(書く事多くて)



[21555] 0-8-1 とある一日(S&R)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 14:13
「ライダーは聞いた?」

 突然の忍の言葉に、紅茶を注ぐライダーの手が止まる。

「何をですか?」

「すずかが喧嘩の仲裁したって事」

 忍の意外そうな表情に、ライダーは笑みを浮かべて応じる。そう、ライダーは知っていた。すずかが喧嘩を止めた事も、それがキッカケで友人を作った事も。昨夜、寝る前の他愛のない雑談の際、本人から聞かされたのだ。
 だから、ライダーは知らないであろう忍に、取っておきの情報を教える事にした。

「ええ。それに友人が出来た事も」

「へえ、そうなんだ」

「アリサとナノハと言うらしいですよ」

 その顛末を話していた時、すずかはこの上なく上機嫌だった。ライダーに何度も何度も語っては、嬉しそうに名前を呟いていたから。
そして、今日はその一人であるアリサの家へ遊びに行っている。
 出掛ける際のすずかの笑顔は、ライダーにも分かる程に輝いていた。

 ライダーの話に、忍は笑みを浮かべると、手にした本を閉じる。そして、残っていた紅茶を飲み干し空を仰ぐ。

「仲良くしてるかしら?」

「スズカなら大丈夫でしょう」

 即座に答えたライダーに忍は苦笑しながら、それもそうかと呟くのだった……。


月村家と騎乗兵のとある一日



 帰宅したすずかは、夕食後にやや興奮気味にバニングス邸での事を話した。自宅に負けぬような邸宅だった事、SPと呼ばれる人達がいた事、洋風の庭なのに、和服(作務衣)を着た小次郎と言う専属庭師がいた事等、話題は尽きなかった。
 ライダー達はそれを嬉しそうに聞き、すずかの話に相槌を打つ。今度は自宅に呼びたいと言うすずかに、ノエル達が笑みを見せる。

「では、屋敷の大掃除をしなければいけませんね」

「後は庭の手入れも重点的に、ですね」

「ファリンはあまり張り切らぬ方がいいと思いますよ」

 かえってドジを踏みますから。そう断言するライダーに、ファリン以外が笑う。言われたファリンは、拗ねた表情でライダーを睨む。それを見て忍が放った子供みたいとの一言で、ファリンが叫んだ。

「忍お嬢様ぁ~~!」

 怒り心頭のファリンに、忍も謝るが笑っていてはしょうがない。ノエルが嗜めるがどこかノエルも楽しそうだ。ライダーはそんな光景を眺め、視線をすずかへ移す。
 すずかも笑みを浮かべ、三人を見つめている。だが、ライダーの視線に気付いたのか、視線をライダーへと移した。

「どうかした?」

「いえ、賑やかだと思いまして……」

 どこか懐かしそうに答えるライダー。その声に、すずかは答える。

「ライダーが来てからだよ?こんなに賑やかなのは」

 すずかの言葉が意外だったのか、ライダーは驚いた顔ですずかを見つめた。それを微笑ましく思い、すずかは笑みを返す。
ライダーが来てから、月村家には笑いが絶えない。以前からファリンと忍がムードメーカーだったが、ライダーが来て以来、それが余計に際立っていた。ライダーの的確な意見や鋭い指摘に、二人がリアクションを返すからだ。それにノエルやすずかまで笑い、それが更なる笑いに繋がる。

 今も、ファリンに詰め寄られて忍が困っているが、いつもなら仲裁役のノエルも、どこか楽しそうにそれに参加している。そんなやりとりを横目で見ながら、すずかは告げる。

「本当にライダーが来てくれてよかった」

 ライダーがもし居なければ、すずかはアリサやなのはと友達になれなかった。
その友人を得るキッカケ。それは、クラスの一人がアリサの髪の色をからかった事に端を発した……。



 クラスの自己紹介が終わり、担任の教師がいなくなった途端、一人の少年がアリサの髪を指差し、外人色と言い出した。無論、アリサはそれを無視していたが、あまりにもしつこいためについにアリサも我慢の限度を超えた。
 その少年へ無言で近付き、勢い良く蹴り飛ばしたのだ。たまらず後ろへ倒れる少年に、追い討ちをかけるようにアリサは言った。

「男のクセにしつこい!自分が日系色だからって、外人外人うるさいのよ!!」

 蹴られたショックで少年は呆然としていたが、自分が馬鹿にされた事は理解できたらしい。顔を真っ赤にして、アリサへ掴みかかろうとした。
だが、そんな少年を止めた者がいた。すずかである。

「ダメっ!気持ちは分かるけど、手を出したらいけないよ」

「そうだよ!それに、先に人を怒らせたのは君なんだから」

 少年を諭すすずかに、同調する声。それがなのはだった。なのははすずかの前に立つと、少年にこう言った。

「自分が嫌な事は人にしちゃいけないの。でも……」

 そこまで告げ、なのははアリサへ振り向く。その視線に、アリサは僅かに怯む。なのはは怒っていたからだ。

「嫌なら嫌って言わなきゃなの。言葉にしないと、何も伝わらないんだよ」

 はっきりと言い切るなのはに、アリサは言葉がなかった。そして、何かを考えた後、バツが悪そうに少年へ顔を向ける。

「わ、悪かったわ。その、蹴って……ごめんなさい」

 それを聞いて、すずかもなのはも笑みを浮かべる。少年も毒気を抜かれたのか、それに謝罪で応じた。そんな事があり、その後すずかは、なのはとアリサから少年を抑えた事を感心されたのだ。
 それにすずかは照れながらも、お返しとばかりになのはとアリサを誉めた。自分の意見をはっきり告げたなのはと、素直に間違いを認めて謝ったアリサを。そんなやりとりを経て、三人はそれぞれの名前を再確認し、友人となった。



 すずかは思う。あの時、少年を抑えなければ二人と友達になる事はなかったと。そして、あの時そう出来たのは、ライダーから勇気を貰ったから。何かを待つのではなく、自分で何かを起こす。その勇気をライダーからもらったから、動く事が出来たのだとすずかは思っていた。
 そこにすずかを現実へ引き戻す声が響いた。

「ねぇライダー、ちょっと助けてよ!」

 さすがに旗色が悪いと判断したのか、忍がライダーに助けを求めたのだ。それに、ライダーは口の端を歪めてこう言った。

「欲しい本があるのですが……」

 どうでしょう?と言わんばかりの声であった。ライダーは、月村家で養われているが、メイドとして働いている扱いにもなっている。そのため、週に一度僅かだがお金を貰い、書店まで本を買いに行っている。
 そのジャンルの雑多さに、すずかと忍も驚いたものだ。そして、今彼女が欲しがっているのは女性向けのファッション誌を始めとした三冊。なので、渡りに船とばかりに、ライダーはそう告げたのだ。

「い、いいわ。来週は二倍出す。だから――っ!」

 助けて。その言葉を言う前に、ライダーがファリンを取り押さえていた。正確には、二倍のにの音辺りで動き出していた。あまりの事に、忍もノエルも、当のファリンも言葉がなかった。
 ライダーは、ファリンの耳へ口を寄せると静かに囁きだす。

「ファリン、それぐらいでいいでしょう……」

「ら、ライダーお姉様……息が……」

「あまりシノブを困らせてはいけません。もう十分反省しています……」

「は、はい……」

「では―――後片付けは私とノエルがやりますので、ファリンはお茶を淹れてください」

 妖艶な雰囲気を一変させ、ライダーはそう言い放ち、食器を手に厨房へと消える。後に残されたファリンは、顔を真っ赤にして床に座り込んでいる。そしてノエルも後を追うように食器を手にして動き出し、すずかは呆然とそれを眺める。そして、呆気に取られている忍へ、ライダーが厨房から舞い戻り告げる。

「約束をお忘れなく」

 それだけ告げ、再び厨房へと消えるライダー。それを呆然と見送るすずかと忍。ファリンは小さく「脈拍が……血圧が……」と呟いているが、その顔がどこか嬉しそうに見えるのはきっと気のせいだろう。そんなファリンが再起動したのは、ライダー達が食器を洗い終わった後だった……。



 ファリンの淹れた紅茶を飲みながら、再び穏やかな雰囲気に包まれる月村家。それぞれの手には本があり、忍は工学関係、すずかは推理小説、ライダーが礼儀作法、ノエルは心理学、ファリンがドジをなくす百の方法であった。

 元々月村姉妹は読書家だった。それにライダーが加わり、読書の輪が広がったのだ。忍はライダーへ、ライダーはすずかへ、すずかが忍へと本を薦めあう事が盛んになった結果、月村家全体が読書家になっていった。
 ノエルはライダーのように感情溢れるヒトになるために、ファリンは初めは三人の話についていくためだったが、最近は自分を変える系の本を読んでいる。

「ね、ライダーはどんなジャンルが好きなの?」

「ジャンル、ですか……?」

 忍の問いかけに、ライダーは困ったように表情を曇らせる。ライダーにとって、好きなのは読書そのものであり、ジャンルにこだわり等ないのだが、最近特に読み漁っているものを思い出し、ライダーはそれを答える事にした。

「本屋さんがオススメするものです」

「は?」

「本のプロが読んだ方がいい、と宣伝されているものです」

 まさかのライダーの返しに、忍は言葉を失う。それは聞いていたすずかとファリンも同じだ。
戸惑う三人に、ライダーはおかしな事を言ったでしょうか?と言わんばかりの顔をする。
 そこへ、ノエルがピシャリと言った。

「ライダー、それはジャンルではなくコーナー名です」

 ノエルの突っ込みに全員が頷く。ライダーはそれに、そこまで大差ないと思いますがと不思議顔。だが、ノエルが首でそれを否定。
そんな二人だが、すずかは知っている。よく二人が互いに薦めあうのが、部下のうまい操縦法等の本である事を。
 そして、それを見てファリンが軽く凹んでいた事も。

「では、ノエルは何なのですか?」

「私は人間心理です」

「あ、私は恋愛小説です」

「私は……ま、ファリンと同じでいいわ」

「私はファンタジーかなぁ」

 ノエルの言葉を皮切りに、次々と好きなジャンルを告げていく月村家。それを聞き、ライダーは何やら悩みながら問いかける。

「私も……何か絞った方がいいのでしょうか」

「いいんじゃない?別になくても」

 あっけらかんと忍はそう告げた。彼女としては軽い雑談として聞いたのであって、ここまで大袈裟に捉えられるとは考えてなかったのだ。
だからこそ、忍はライダーに微笑みかける。

「だってライダーは、読書は好きなんでしょ?」

「……はい」

「なら、それでいいの。無理に話合わせようとしないで、ないならないって言ってくれればそれでいい」

 こんなの他愛のない家族の会話よ。そう告げた忍に、ノエルとファリンも頷く。すずかもライダーに笑って頷く。
その言い方に、ライダーは心に迫るものを感じた。この月村家に来て一月弱。まだそれだけしか経っていないのに、自分を家族と言い切る忍達に言い様のない感情を抱いたのだ。

(これが感動と言うのですか……?ああ、涙が溢れそうとはこんな気持ちなのですね)

 最後に泣いたのはいつだったか。そんな事を思いながら、ライダーは微笑む。その目に、微かに光るモノを浮かべて……。




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準備編一本目です。

読書のジャンル云々はホロウでもありましたが、あちらでは士郎とのやりとりに対し、こちらは四人となっています。

しかし、中々家族と呼べない衛宮家と違い、完全に家族の月村家では言う事がストレート。

家族、という言葉にライダーが感じたもの。それはきっと衛宮邸で知った温もりの更に上を行く『何か』だと思います。

……でもきっと、凛や士郎達だって忍と同じ事を思っていたと、俺は思っています。



[21555] 0-8-2 とある一日(A&A)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 14:13
 作務衣を着た長髪の男が、洋風の庭で作業をしている。その横に、アリサが寄り添うように立っていた。男の名は小次郎。なぜ作務衣を着ているかというと、あの格好は流石に目立つので、アリサがスーツと共に普段着(ここだけの話、作務衣姿の小次郎をアリサは気に入っている)として用意したのだ。

「ほう、友人が出来たか」

「そ、すずかとなのは。明日、早速すずかが遊びに来るから」

 なのはは予定があって無理らしいわ。そう告げる表情はどこか残念そう。そんなアリサを横目に、庭の植木を手入れしながら小次郎は笑う。その笑みにアリサは嫌なものを感じた。

「それは重畳。その娘にはここは虎の巣だと分かったか」

「誰がトラだぁぁぁ!たくっ、とりあえず粗相のないようにね」

 そう小次郎に告げると、アリサは屋敷へ戻っていく。その後姿に、小次郎は思う。

(余程嬉しいのであろうな。足取りが踊っておるわ)

 笑みを浮かべて植木に視線を戻し、小次郎は普段よりも更に丁寧に手入れをしていく。

 アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。彼はなんだかんだでアリサに優しいのであった。



お嬢様と傾奇者のとある一日





 門の前で立ち尽くす一人の少女。彼女、月村すずかは、生まれて初めて自宅以外の豪邸を見た。その横で自慢げに立つアリサだったが、彼女は知らない。自分が月村家に訪れた際、まったく同じ反応をし、すずかに同じ事をされる事を。

「ま、こんなとこで立ってるのもなんだし、早く行きましょ」

「そ、そうだね」

 アリサについていきながら、すずかは辺りを見渡す。西洋風の庭は見慣れているが、それでも他人の家だとどこか違うように見受けられたからだ。だが、そんな中に完全に浮いている存在がいた。
 それは、枝きりバサミを手に、肩にタオルをかけた作務衣姿の小次郎だった。そんな違和感全開の姿に、すずかは呆然と立ち尽くす。それに気付いたアリサが、視線の先を追い―――その場から駆け出した。

「こんの、バカモノぉぉぉぉぉ!!」

 叫びと共に繰り出された跳び蹴りを、小次郎は逃げるでもなく、上体をそらし空いている手で受け止める。跳び蹴りの状態で固定されるアリサ。足首を掴まれ、何とかしようとバタバタと暴れるが、小次郎に何かを言われ、大人しくなった。ただ、その顔を真っ赤にしていたが。
 すずかはそれを見て、驚き苦笑する事しか出来なかった。

以下、そのやりとり。

「放しなさいよ!」

「それは出来ぬ」

「どうしてよ!?」

「服に土が着いてしまうのでな」

「いいから放せ!」

「暴れるでない。すかーとがめくれあがっておるぞ?」

「なっ――?!」



 小次郎に静かに降ろされ、アリサはブツブツ文句を言いながらも、どこか恥ずかしそうにすずかの所へ戻ってくる。そんなアリサに、すずかは尋ねた。
 あの人は誰なのかと。それにアリサはこう答えた。小次郎と言って、住み込みの専属庭師であると。そして、自分を丁寧に扱わない奴だとも言った。

「そのわりには、アリサちゃんと仲がいいんだね」

「べ、別にそこまでってワケじゃないけどね」

 他に比べていいだけよ。そう答えて、アリサは急ぎ足で玄関へ向かって歩き出す。それはどう見ても照れ隠し。そんなアリサをすずかは小さく笑みを浮かべて追いかける。小次郎は、そんな二人を眺め、おもむろに植木の手入れを始めるのだった。



 その後、すずかと色々な話をし、アリサがやっている習い事の一つにすずかも興味を持った事で、会話は更に盛り上がった。今度はなのはも一緒にと約束し、すずかが帰った時には、時計が六時を過ぎていた。

 初めて同年代の、しかも同性と話した事はアリサにとって大きな出来事であった。興奮冷めやらぬ彼女は、夕食時にもすずかとの話をし、小次郎を呆れさせた。だが、それを顔に出さない辺りに小次郎の優しさがある。しかし……。

「それでね……」

「ありさ、手が止まっておるぞ」

 食事が始まって既に五分が経つが、未だにアリサの食事は一品たりとも減っていない。さすがに小次郎もそれは見過ごせないのか、手にしたナイフとフォークでハンバーグを一口大に切断し、それをフォークに刺すと、アリサの口の前へ持って行く。その見事な所作に感心するアリサだったが、それもそこまで。

「ほれ」

 まるで餌を与えるようなその言い方にアリサは青筋を浮かべるが、ここで怒ってはまた小次郎を喜ばせるだけだと思い、黙って口を開ける。
入れられたハンバーグからは、濃厚なソースの味と肉の旨味が口一杯に広がり、それがアリサを笑顔にする。
 それを眺め、小次郎も同じ様にハンバーグを口にする。

「肉を食すのは些か慣れぬが、これは美味よな」

「でしょ?今度はステーキやトロットロに煮込んだビーフシチューを食べさせてあげるわ」

 驚くような小次郎に、アリサはそう言った。小次郎が未だに慣れない事の一つが食事。菜食中心だった時代の小次郎からしてみれば、肉を食べる事などほとんどなく、しかもそれが洋風になれば更に珍しいものとなる。
 そのため、アリサは小次郎にもっと驚いてもらおうと、シェフ達に頼んで様々な料理を出させている。おかげで、食事は小次郎のこの上ない楽しみとなっていた。
 ……どこかの騎士王と違い、味ではなく、食材や見た目などの雅さに重きを置いているが。

 そんな小次郎は、アリサの挙げた料理名に心底不思議そうな顔をしていた。それがアリサには堪らなく優越感を感じさせる。何しろ、小次郎は基本アリサを小馬鹿にしているので、こういう時でなければ小次郎の上に立てないからだ。

「すてーきとは何だ?」

「牛肉を厚切りにして炭火で焼くものよ。専用のたれをかけたり、塩をかけたりして食べるの」

「ほう、単純よな」

「でも、お肉の味が純粋に楽しめるわ」

「それも然り。では、びーふ……?」

「ビーフシチューよ、シチュー。そうね……」

 自慢げに語ろうとして、アリサはふと思った。考えてみれば、シチューを説明するなんてした事がないと。シチューはシチュー。そう片付けてしまうのが普通だから。
 そう、それはアリサが小次郎に出会ってから、常にしてきた事だった。世の中の事を説明する時、自分が如何に『常識』と言うモノに縛られているのかを実感するのだ。
 これはこういうものだから、こうなんだ。その一言で深く考えない。どうしてそうなのか?誰が決め、なぜそれを誰も不満に思わないのか?正しいとか間違っているなんて、絶対はないはずなのに。そこまで考えた所で、現実に引き戻された。

「……如何した、ありさ」

 小次郎の声だった。そこに若干だが戸惑いの色が見える。

「別に……少し思う事があっただけよ」

「左様か。で、しちゅーと言うのは如何ようなものか」

 アリサの声に感じるものがあったのか、小次郎は話題を変える意味も込めてそう聞いた。

「ま、簡単に言えば牛肉と野菜の煮込み料理よ」

 詳しくはシェフに聞きなさい。そうアリサは言って締めくくった。その顔はいつものアリサであった。
それに小次郎は笑みを浮かべ、目の前のハンバーグへとフォークを伸ばしてため息を吐く。

「ありさが考えに詰まったせいで、せっかくのはんばーぐが冷めてきておる。急いで食べねばならぬか」

「何よ。あんたが説明させたんじゃない!」

「む、ぽたーじゅに膜が出来始めたか」

「聞け!」

「おお、この人参は菓子であるか。野菜で甘味とは恐れ入る」

「無視するなぁぁぁっ!!」

 まさに虎の咆哮。しかし、既に小次郎も慣れたもので、アリサが叫んだ瞬間耳を塞いでいる。
完全に遊ばれている事を理解したアリサは、それならとフォークを手にし、小次郎のハンバーグを奪った。
 一瞬、何が起きたか分からぬ顔をした小次郎だったが、アリサが自分の食事を盗った事に気付き、微かに笑った。

「……手癖の悪い事よ」

「ふんっ。……アタシを無視するからよ」

 ハムッと盗ったハンバーグを口に入れ、美味しいと言わんばかりに笑顔になるアリサ。そんな彼女を、小次郎は眺めて呟いた。

―――やはり、女子は笑顔が一番よ。

 そんな小次郎の呟きには気付かず、アリサは食事を続ける。その顔に満面の笑みを浮かべながら……。





おまけ

「で、これが時間」

 アリサが小次郎に見せているのは携帯電話。寝る前の僅かな時間、毎晩行われるアリサの現代教室。本日の教材は文明の利器。

「なるほどな。……科学、と言うのは凄まじいものよ」

 手渡された携帯をしげしげと見つめる小次郎。先程までアリサに色々と説明されたが、その機能を完全に理解する事は出来ないようだ。
そんな小次郎に、アリサは苦笑気味に教えた。最近はアタシ達でも完全に使いこなすのは難しいから、と。
 その言葉に小次郎は驚き、その表情のままこう問いかけた。

「ならば、なぜこのような物を作るのだ?」

 道具は使いこなせてこその道具であろう。小次郎はそう言った。その反論にアリサは耳が痛かった。増えていく機能、ぶ厚くなる説明書、そして起きる事故。それらは全て小次郎の言葉で言えば片付けられる。

使いこなせないものを使うな。不必要なものを作るな。それは、自給自足で生き、創意工夫で苦労を乗り越えていた時代の小次郎だからこその台詞。あれもこれもではいつか破綻する。本当に必要なものを作り、使い易いものを目指す。それがどれだけ正しいかは、アリサにも分かる。分かるのだが……。

「ま、あれよ。付加価値がないと売れない世の中だから」

 そう告げるアリサに、小次郎は妙な世の中になったものよ、と呆れ顔。

 そんな風に、二人の夜は更けて行くのだった……。



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準備編その二。すずか編の裏と言うかその頃のアリサ達というか。

すずかは小次郎がサーヴァントだとは知りませんし、ライダーも気付けません(すずかが苗字を聞いてない&日本人名過ぎる)

アリサもすずかからライダーの事は聞いていますが、今は共通の話題で頭一杯で小次郎に話していません。

本格的に彼らが出会うもしくは知るのは、もうしばらく後になります。



[21555] 0-8-3 とある一日(N&S)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 14:14
 麗らかな春の日差しが差し込む公園を、サッカーボールを蹴りながら走る一人の少女。その額には汗が浮かんでいるが、そんなものを感じさせないような動きで、躍動感を前面に押し出し、ドリブルを続けている。
 そんな彼女を追いかける少女が一人。ぜえぜえと肩で息をしながら、その背に追いつこうとしているが、距離は縮むどころか離れる一方であった。

 やがて、少女は地面にへたり込み、動かなくなる。それに気付いたのだろう彼女が、少女の下へと戻ってきた。

「大丈夫ですか?なのは」

「にゃ、にゃはは……」

「大分体力がつきましたね」

「そ、そうだね。……初めは転んでばかりだったし」

 そう呟いてなのはは思い返す。セイバーとこうして運動するようになって、もう一年以上になる。あの頃に比べれば、今の自分はかなり体力がある。運動神経は……良くなってると信じたい、となのはは切に願う。

「さ、ではそろそろ帰りましょう。モモコの朝食が待っています」

「うん。それにお出かけの準備もあるしね」

 差し出されたセイバーの手を掴み、なのはは立ち上がる。今日は日曜日。学校は休みで、高町家は全員でお出かけする事になっていた。
本当は、つい先日出来た友人の誘いを受けたかったが、家族全員で行動するのは中々出来ない事もあり、断らざるを得なかったのだ。

(セイバーに教えてもらったもん。言わなきゃ何も伝わらないって)

 あの日、士郎が退院した日の夜。セイバーは高町家の全員にそう告げた。子供だからとか大人だからとか関係なく、家族として思っている事を正しく伝えるべきだと。誰もなのはの悩みに気付けなかったのは、そこにあるのだと、セイバーは言い切った。
 その言葉に、なのは達は何も言えなかった。セイバーが責めているのではなく、優しさを正しく向けてほしいと純粋に願っている事を誰もが感じ取っていたからだ。セイバーは思う。この家族は優しいから、自分の苦しみを他者に知られまいとして、余計苦しめる結果になってしまったのだと。
 それをセイバーはもうさせたくなかった。他者を思いやる事は大事だが、そのために自分を犠牲にする事だけはさせたくない。昔の自分の姿を、幼いなのはに見てしまったから。他者のために、望まれる姿であろうとしていた自分と、同じ境遇にさせないために。

(あれで、みんな変わったよね)

 士郎と桃子は以前にも増して休みを大事にするようになった。それは、家族との時間を大切にしたいから。恭也と美由希は鍛錬を厳しくした。それは恭也の期待に、美由希が応えたいと願ったから。なのはは思った事を隠さず伝えるようにした。ただし、セイバー優先で。友達であり、姉であり、他人であるセイバーは、一番客観的に意見を述べてくれるから。

 こうして、高町家はより絆を強める事になった。それが、後の悲劇を回避する事になるとは知らずに……。


高町家と騎士王のとある一日



「ただいま~!」

「只今帰りました」

 帰路に着いた二人は家に着くと、まず玄関からそう声を掛ける。

「お帰り~!もうご飯だからお父さん達も呼んで来て~!」

 すると、桃子の声が返ってくる。これがいつもの日常。

『了解っ!』

 どこか凛々しく、だけど可愛く答えるなのはに、真剣そのもののセイバー。そして、二人は庭にある道場へ向かう。そこからは、時折固い物がぶつかり合う音が聞こえてくる。
 なるべく静かに戸を開けるなのは。その視線の先では、恭也と美由希が睨み合っている。

 その邪魔をしないように、なのはは見守っている士郎へと近付いていく。セイバーもそれについていく形で歩き出す。

「お父さん」

「ん?もうそんな時間か」

 なのはが来た事で、全てを察し士郎は呟く。そして、膠着しそうな二人に向かって告げた。

「後三分だ。引き分けなら今日のセイバーの買い食い代は二人持ちだな」

『っ?!』

 その声に二人が動いた。一瞬だが、セイバーが目を輝かせたのを見たからだ。沈着冷静な雰囲気を持つセイバーだが、食の事になると別人のようになる。それは高町家全員の認識だ。セイバー泣いても飯やるな。それが高町家の教訓。それが出来なければ、彼女に食事を与えてはならない。同情すれば、必ず自分(の財政)に返ってくるのだ(既に、高町夫妻は経験済み)

 神速でぶつかり合う二人。それをキョロキョロと視線で追うなのはと、静かに見つめる士郎とセイバー。無論、なのはには見えていないが、それでも必死に追いかけようとする所が可愛いものだ。そんななのはと違い、セイバーはそれを一つも見逃さぬようにしている。
 御神の剣士は、彼女にとってこの上ない相手なのだ。以前戦った小次郎の剣。アレと似たものを感じていた事と、魔力も使わずこれ程の動きをしてくるのだ。その事が持つ意味は大きい。
 既に、セイバー自身恭也や士郎と戦っている。未だに魔力を使わない状態では、セイバーも容易に勝ち越す事が出来ない。

「む…」

「決まりましたね」

 恭也の大振りを好機と取った美由希だったが、それが恭也の誘いだった。だが、美由希もそれは覚悟の上であり、迫り来る小太刀を敢えて流さず受ける事で勢いを殺し、己の小太刀を叩き込んだ。
 しかし、それすら読んでいた恭也は打ち込まれた一撃を耐え切り、再度残りの小太刀で斬りつけた。

 肩で息をする恭也と美由希。それを見てどこか残念そうなセイバー。なのはは隣の士郎から、一連の流れを教えてもらっていた。

「っ――お前――はぁ――持ちだ――っからな」

「わかっ――はぁ――はぁ――てるよ」

 どこか嬉しさを滲ませる恭也と、悔しさと寂寥感が漂う美由希。

(これで、今月のお小遣いパー……トホホ)

 そんな事を思いつつ、美由希は道場の後片付けを始める。見ればなのはとセイバーが道場から出て行く所だった。去り行くセイバーの背中を眺めて美由希は願う。どうか、今日は僅かでも控えてくれますように、と。



 高町家の食事は、ある意味スゴイ。料理や素材ではなく、量がスゴイ。ご飯の量もさる事ながら、オカズの量も多いのだ。
原因は、育ち盛りの子供達ではない。一年以上前からいる家族同然の少女であった。

「モモコ、御代わりを」

「は~い」

 もう誰も何も思わない。まだ食事が始まって五分と経過してないとしても。それが当然なのだ。これが十分なら話は別だ。
大丈夫か、具合でも悪いのか、病気かもしれないと心配されるだろう。そういうものなのだ、セイバーという少女は。

「なのは、今日は何を買うんだ」

「えっとね……」

「あ、父さん醤油取って」

「ああ、ほら」

「シロウ殿、私にはソースを。目玉焼きにはかかせない」

「セイバー。はい、御代わり」

 賑やかな食卓。ちなみに、セイバーは全員から呼び捨てを望んだ。それに応えてセイバーと皆は呼んでいる。セイバーも同じく呼び捨てなのだが、士郎だけは殿付きとなっている。
 セイバー曰く「家長だから」との事だが、深い理由があるのだろうと桃子と士郎は考えている。

 常人が見たら驚くような量の食事も、セイバーの前では普通の食事。二つあった御釜のご飯も、綺麗になくなり、テーブルの上のオカズも残っているものは何もない。食後のお茶を啜り、セイバーは静かに告げた。

「ごちそうさまです」

「お粗末様」

 既に食べ終わっているなのは達も、それを聞いて片付けに動き出す。
それぞれが各々の食器を持って行き、それを桃子が洗う。洗われた食器を美由希が拭いて元の場所へ。恭也はテーブルを拭き、なのははその手伝い。士郎はセイバーとサッカー評論。
 いつもは仕事や学校などで慌しい朝だが、たまの休日はこんな風にゆったりと時間を過ごす。出掛けるのはお店が開き出す十時からなので、それまでは自由時間。

「ここでラインを上げれば……」

「いや、でもここからクロスに振る方がいいんじゃないか?」

 サッカーチームの監督をしている士郎が、セイバーとサッカー談議をするようになったのは半年前。欠員が出た際、セイバーに代理を頼んだ事がキッカケだった。見事な運動能力を如何なく発揮したセイバーは、永久出場停止という名誉の処罰を受けた。でも、そのプレーには多くの人間が賛辞を贈ったが。

 テーブルに目をやれば、恭也となのはが掃除を終えて、雑談していた。

「学校は楽しいか」

「うん。友達も出来たし、お勉強も楽しいよ」

 満面の笑みで答えるなのはを見つめ、頭を撫でながら恭也は思い出す。あの頃、どこか自分の意見を述べる事に臆病だったなのはに、恭也は気付いてやれなかった。それを悔いる自分を、なのははこう言って許してくれた。
 自分が淋しいと言わなかったからだと。悪いのは恭也ではなく、本音を言い出せなかった自分だから。そう告げたなのはに、恭也は思った。
強くなったと。幼いながらも、セイバーという友を得て、妹は成長したのだな。そう感じた事を。

 そして、キッチンからセイバー達の様子を美由希と桃子が見ていた。

「しっかしさ」

「んっ?」

「セイバーもすっかり『高町』だよね」

「そうね。まさに、高町セイバーね」

 食器をしまいながら笑う美由希と桃子。実際、セイバーを養子にしたいと桃子は提案した事があったのだが、セイバーはそれをやんわりと断った。その時、セイバーに言われた一言が、今も桃子の心に残っている。
 セイバーはこう言った。桃子の気持ちは嬉しいが、自分にも親はいた。だから、貴方を親と呼ぶ事が出来ない。でも、許されるならもう一人の母と思って桃子に接してもいいだろうかと。
 その申し出に桃子は喜んでと応じ、それまではなのはの母という立場で応対していたセイバーが、急にどこか甘えるようになってくれたと、桃子ははしゃいだものだ。
 もっとも、その違いは桃子にしか感じられないものであるが。

 概ね、高町家は平和。この日もそうだった。郊外に出来た大型ショッピングセンターに行ったまでは……。



「じゃあ、お昼にここで合流って事で」

 桃子の提案に頷く一同。まずは女性と男性に別れて散策し、お昼を食べてからそれぞれに別れて行動。最後に食料品を買って帰宅。そういう手筈になっていた。ちなみに集合場所は、二階にあるフードコート。先程から、セイバーの視線がせわしなく動いている。
 解散、の一声で動き出す高町家。セイバーはフードコートに未練がましい視線を送りながら、美由希に引きずられている。

「後でまた来るから」

「それはそうですが……」

 桃子の言葉にセイバーは言葉を濁す。そんなセイバーになのはが告げる。

「あんまり駄々こねると、おやつ抜きなの」

 それを告げられたセイバーの顔は、驚愕の一言に尽きた。それだけではない。掴んでいた美由希の手を振りほどき、心からの許しを得るかのように桃子に縋り付いた。その光景に、否応なく周囲の視線が集まる。

「ちょ、ちょっとセイバー……」

「ごめんなさいごめんなさい。もう言いませんので許してください」

 周りの視線などお構いなしに懇願するセイバーを眺め、美由希はなのはへ呆れた視線を向ける。

「どうすんの、なのは……これ」

「にゃ、にゃはは……どうしよう……」

 そんな二人の目の前で、セイバーの懇願は続くのだった……。



 一方、男性陣はというと……。

「これなんかどうだ?」

「いや、これは少し派手じゃないか?」

 なのはのための小物を見ていた。初めはファンシーな雰囲気にたじろいた二人だったが、なのはの入学祝いと友人が出来た事を兼ねて、プレゼントするものを選ぶために突撃したのだ。
 ……まあ、選び出したらそんな事を忘れてしまった二人ではあるが。

「髪飾り……?」

「お、それはいいな」

 恭也が目をつけたのは、リボン等の髪飾りだった。様々な色や形の物を見ながら、二人は悩む。ちなみに、成人男性がファンシーショップで真剣に物を見定めるのは、かなりシュールである。周囲の女性が先程からじっと二人を見つめているし。

 結局、二人は淡いピンクのリボンを買った。これをなのはは大変気に入り、常に身に着けるようになるのだが、ある時から身に着ける事がなくなる。その理由は、また別の話。



 お昼の集合までに、女性陣が見ていたのは衣服や小物類。男性陣はスポーツ用品や日用品。それらの話をしつつ、フードコートを歩く高町家。中でもセイバーは、目にする物全てに反応を示し、そのたびになのはが説明していた。
 それを見ながら、美由希は気が気でなかった。セイバーが食べる物は、全部自分の払いになるのだから。

「それで、どうする?」

「せっかくだ。皆好き勝手に店を選ぼうじゃないか」

 士郎の言葉に異議はなく、それぞれが思い思いの物を頼みに行く。ただし、セイバーだけは美由希の後をついていったが。



 テーブルに並ぶ料理の数々。士郎は海鮮丼、桃子はドーナツが三つ(チョコ・カスタード・プレーン)にパイ(アップル・アーモンド)が二つ、それにジャワティ、恭也は盛りそば(天麩羅付)、美由希はカルボナーラ、なのははオムハヤシ、そして……。

「す、すごいねセイバー」

「ええ、色々あって迷いましたが、これだけにしました」

 セイバーの前にあるのは、ナポリタンに石焼ビビンバ、それに石狩汁という体育会系もびっくりのメニューだった。ちなみに回った店で軽く五分はメニューを凝視している。

「……大丈夫か?」

「うん。……意外と少なくすんだ」

 バランスを考えましたと語るセイバーの横で、美由希はがっくりと項垂れていた。それに心で手を合わせる恭也。
そんな様子を眺め、なのはは呟いた。

「まだおやつを買ってないから、問題はこれからなの」

 その呟きに、美由希が顔を勢い良く上げ、セイバーを見る。その視線に気付き、セイバーが美由希を見返した。
美由希の視線に含まれたものに、セイバーは首を傾げた。

「どうしました?」

「ねぇセイバー……これで満足だよね?」

 お願いだからそう言って。そんな想いを込めた問いかけに、セイバーは笑みを浮かべて答える。

「何を言っているのですミユキ。後は甘味を買わねばなりません。一階にたい焼きが売っていたので、それを買わねば」

 嬉しそうにそう返し、スパゲッティを頬張るセイバー。その言葉に完全に打ちのめされる美由希。そして、それを同情の眼差しで見つめるなのは達。こうして、お昼は過ぎていった……。



 お昼を食べ、自由行動になったのだが、なぜか二人組になってしまうのが高町家。士郎と桃子、恭也と美由希、なのはとセイバー。話し合ったわけでもないのに、そうなってしまうのは仲が良いからなのか。ともあれ、三組はそれぞれに歩き出す。

「ね、セイバーはどこに行きたいの?」

「特にありませんよ」

「え~っ、つまんないの」

「では、なのはの行きたい所に」

 そう笑みと共に言われては、なのはも黙らざるをえない。結局、三階にあるアミューズメントコーナーへ向かった。

 様々な機械が並び、雑多な音を響かせるそこは、セイバーにとっては初体験の連続だった。
UFOキャッチャーで苦戦し、クイズゲームに唸り、レースゲームに興奮し、メダルゲームで大勝した。
 そんなセイバーとなのはも一緒になって楽しんでいた。一番二人が気に入ったのは景品のウサギとライオンのヌイグルミ。
セイバーはライオンが欲しかったのだが、中々取れず、なのはが何とか取ったのだ。その際、手前のウサギも一緒に落ちたのだが……。

「これはなのはに」

「ほえ?」

「お礼です。私には、これで十分ですから」

 今日の思い出に、とセイバーがなのはに手渡した。しばらくそのウサギを眺めていたなのはだったが、言われた事を理解したのだろう。
満面の笑みでそれを抱きしめ、感謝の気持ちをなのはも告げた。

「私こそありがとう!セイバー!」



 その後、再び合流した高町家は、食料品の買出しを終えて(勿論、セイバーは帰り際にたい焼きとみたらし団子をGET)帰路に着いた。
家に着いた時には、既に日が暮れていて、すぐに夕食の支度となったのだが、珍しく桃子の手伝いをセイバーが買って出た。
 それは、セイバーなりの感謝の気持ち。何も話さぬ自分を受け入れ、家族同然に良くしてもらい、今日もまた思い出をくれた事に対する精一杯の恩返し。

「さ、まずは何をすればいいですかモモコ」

「そうね……じゃあまず」

―――手を洗って来て。

 その言葉にセイバー以外の笑いが起こり、セイバーは恥ずかしそうに手を洗いに行く。その途中でふと思う。

(ああ、これが家庭なのですね。シロウ達とはまたどこか違う暖かさを感じます)

 でも、とセイバーは呟く。まだ私は、あの温もりが恋しいのです。そう呟きながら、セイバーは誓う。いつか全てを話して、キチンと現在と向き合おうと。この暖かさを愛しいと思っているから。だから、必ず機会が来れば明かす。その想いを、強く心に誓って……。




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準備編三本目です。

どこが?と聞かれると言いにくいのですが、リボンがそれです。

そのためだけに書いたわけではないですが、肝心なのはそこだったりします。

すずか、アリサ、なのはと今回は同じ時間軸での話でしたが、どうだったでしょうか?

今後も同じような展開をする時は、こういう表記(番号)にしますのでよろしくです。

……今回長かったかな?



[21555] 0-9 とある一日(H&A)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/16 14:10
(またか……)

 そう思い、アーチャーはため息を一つ。のんびりとした朝の時間。洗濯物を干していたアーチャーが感じたのは、視線。それも、あまり良くない類のものだ。ちなみに、アーチャーの格好はTシャツにジーンズと、至ってラフなものだ。はやての父親の服を修繕し、使っていたからだった。
 この八神家にアーチャーが来て既に一週間。その三日目にして、監視されている事に気付いた。だが、その相手が誰かまではアーチャーの力を持ってしても未だ掴めていない。

(アサシンではないな。そうならば、既にはやてが狙われている。だが、それ以外なら何が……?)

 そう。アーチャーには監視される理由が分からなかった。既にはやてが、後見人であるギル・グレアムという人物にアーチャーの事は伝えている。父方の遠い親戚で、はやての事を偶然知ったと嘘は吐いているが、それを調べる事があれば、アーチャーはその人物が関係していると踏んでいた。
 聞けば、親の古い友人というだけで、はやての後見人をしているらしい。美談ではあるが、アーチャーは当然疑って(はやてには見せないが)いた。

 初めは遺産関係かと思ったのだが、驚く程健全に運用されていて、これは違うとすぐに判断。ならばと、はやてにそれとなく聞いてみたものの、心当たりはなく、結局アーチャーは独自で調べるしかなかった。

(周囲に人はなし。いるのは……)

 そう考えながら周囲をごく自然に窺うアーチャー。そこにいるのは―――。

(いつもの猫、か)

 この家で暮らすようになってから、アーチャーがよく見かける猫がそこにはいた。初めは魔力を感じたので使い魔かとも考えたが、この世界に魔術師がいない事は把握したため、その可能性を無くした。今は、偶然魔力を持ってしまった特殊猫として接している。

「またお前か」

 可愛らしい声で鳴く猫。その近くまで近付き、ポケットに忍ばせてある小魚を取り出す。

「ほら」

 手に乗せ、それを差し出すと、猫は嬉しそうに食べ始める。それを眺め、アーチャーは思う。

(ここまでなるのに、苦労したものだ)

 最初は視線が合っただけで逃げられ、次は近付こうとして逃げられ、三度目は警戒されながらも、小魚を与えて現在に至る。
はやてがこの猫を飼いたいと言い出したのが、そもそもの原因。アーチャーが二度目に逃げられた際の話をした所、はやてが是非飼いたいと言い出したのだ。
 当然アーチャーは止めた。野良猫のようだし、人に深い警戒心を持っているから無理だと。それでも、はやては退かなかった。結局、アーチャーが色々試して、それでだめなら諦めると約束させたのだが……。

(まったく、こうもうまくいくとは思わなかったな)

 三度目の際、試しに声を掛けてみたのだ。通じる通じないはともかく、動物に敵意がない事を表すにはそういうのも効果があると知っていたからだ。そして、小魚を与える事に成功し、アーチャーがそれを無表情ではやてに伝えると、はやては満面の笑みでガッツポーズしてこう言った。

「よっしゃ!首輪と名前考えな!」

「気が早い」

 手に乗せた小魚が無くなったのを見て、アーチャーは手を引っ込めた。猫は前足で顔を掻いている。それを見て、アーチャーは笑う。
もしかしたら、この猫も優しさに飢えているのかもしれないと。


夜天の主と弓兵のとある一日



 あの後、猫はまたどこかに行ってしまった。だが、去り際にアーチャーを見ていたので、おそらく明日も来るだろうとアーチャーは踏んでいた。

「アーチャー、ちょう来て~」

「分かった。すぐ行く」

 リビングからのはやての声に、アーチャーは空の洗濯籠を手に家の中へと戻る。
すると、そこには鉛筆を手に白紙と向き合うはやての姿があった。その紙には、何やら文字が書かれている。

「どうした?」

「これなんやけど……」

 そう言ってはやてが見せたのは、猫の名前らしきものが書き連ねられたチラシの裏。みけ、たま、しゃむ、ぽち等様々だ。
それを認識し、アーチャーはこめかみを押さえた。

「まさかとは思うが、これは「ねこの名前や!」……だろうな」

 予感的中とばかりに更に苦悩を深めるアーチャー。それを見ながら。不思議そうに首を傾げるはやて。
アーチャーは告げる。懐き始めてはいるが、まだまだ飼うのは早いと。それにはやては反論する。飼う事になってからでは遅いと。
 そんな討論をしばらくし、結局折れるのはアーチャーだった。

「……致し方ないが、名前を決めるのは協力しよう。だが、首輪やトイレ等の準備はダメだ」

「ええやん。ここまできたら全部「それでは君の思い通りだ」……ケチ」

 口を尖らせ、アーチャーを見つめるはやて。それを気にも留めず、アーチャーは洗濯籠を手に動き出す。今日の予定は買い物と図書館への本の返却となっている。
 はやての部屋に入り、目当ての本を手に取ろうとした時、アーチャーはある本に目を奪われた。

(何なのだ、この本は……?)

 それは鎖で縛られていて、開く事が出来ないようになっている。だが、その本から感じる魔力はどこか不気味ささえ漂わせている。

「どないした?」

 アーチャーが中々戻ってこないので、はやてが様子を見に現れた。それを幸いとアーチャーは件の本を手に取り尋ねた。
この本は何だ、と。はやてはどこか納得した表情で答える。
 よくは知らないが、物心ついた時から家にあり、一度も開いた事がない事を。そして、妙な愛着があり、捨てずに取ってあるとも。それを聞き、アーチャーは密かにある事を試みる。

「解析、開始」トレース オン

 だがその瞬間、彼に本能的な『何か』が告げる。コレは危ない。手を引け、と。

「っ?!」

「アーチャー?」

 思わず手を引っ込めてしまうアーチャー。それをどこか不思議そうに見つめるはやて。その時のアーチャーの顔は、恐怖に歪んでいたのだ。
一方のアーチャーは、ある確信をする。未だ分からぬ監視者。その目的はこの本だと。
 それを確かめる術はない。しかし、アーチャーは迷わない。少しでも可能性があるなら、徹底的に。それが、彼のやり方だ。

「はやて、この本を私に預けてくれないか?」

「ええけど、何で?」

「何、少し気になってね。それに、見た目もある。君には似つかわしくない」

 そう言って、アーチャーは鎖で縛られた本を手に自室へと向かう。使われていない部屋を掃除し、その一室をアーチャーの部屋としてはやてが使わせているのだ。

 手にした本を棚に入れ、それを外から容易に見える位置に置く。そして、気付かれないようにトラップを仕掛け、念のために簡易結界を敷き、準備を終える。
 アーチャーは、監視者の目的を明確にするためにこの罠を仕掛けた。もし、この本の入手が目的なら、必ずここに侵入する。だが、それ以外の目的ならば、目立つ動きは起こさない。まずは、相手の目的と実力を知る必要がある。そのための罠、そのための結界。

「な~、ほんまにどうしたんや」

「別に何でもない。さ、そろそろ出掛けるぞ。まずは図書館からだ」

 いつもの顔に戻し、アーチャーは車椅子を押し始める。それにはやては何か言いたそうだったが、黙る事にした。アーチャーの表情が、どこか怖かったからだ。

(一体、何があるんやろ、あの本に)

 そのはやての疑問に答えが出るのは、ここから三年近い時間が必要だった。



「今日は何にする?」

「そうだな……。む、鳥が安い。…チキンカレーでどうだ?」

「ええな、ならわたしが野菜の皮むきするわ」

「頼む。後はサラダでも作るか……」

 スーパーのカゴを抱えるはやてと、車椅子を押すアーチャー。その姿はこのスーパーで知らぬ者はいない程の有名人であった。
何しろ、その容姿が目立つし、更にはやてが車椅子と来ている。事情を聞いた人達は、皆揃って大変だねぇ~、頑張るんだよと言って応援してくれていた。
 はやての人見知りしない性格と、アーチャーの主夫ぶりもそれに拍車をかけ、ご近所で知らぬ者はいない有名兄妹(となっている)なのだ。

 アーチャーの料理を食べてから、はやては急に自立心が芽生えたのか、アーチャーから家事を教わりだした。車椅子なので危険だとアーチャーは言ったのだが、はやてはそれを承知で頼み込んだ。現在、はやてはもっぱらアーチャーの手伝いをしながら、炊事や掃除を教わっている。

「な、それわたしが作る」

 元気良く手を挙げるはやてに、アーチャーは笑みを浮かべる。

「ほう……サラダとは言え大変だぞ?」

「ふふん。わたしやって、いつまでも手伝いだけやないって教えたる」

 アーチャーの言葉に自信たっぷりに返すはやて。それを聞き、アーチャーは笑みを深める。

「ならば任せよう。マカロニサラダを、な」

「な、なんやって~~っ!?」

「おや?どうしたはやて。先程までの自信はどこへ行った?」

 皮肉屋スマイルではやてを見つめるアーチャー。それに、はやては悔しそうな視線を向ける。だが、それも少しすると一転、同じような笑みを浮かべてこう言った。

「ならアーチャー、お手伝いたのむな。わたしはまず野菜の皮むきあるから」

「なっ……」

「任せるって言うたな?せやからサラダに関してはわたしが指示出す側や」

 その台詞に、アーチャーは嫌な既視感を覚える。何かこの論理の仕方は覚えがあると記憶が訴えるが、同時に本能が思い出すなと叫んでいる。そして、その言いようのない不安は、とどめのはやての言葉で的中する。

「あれ?どないしたアーチャー。さっきまでの余裕はどこ行った?」

 そうにっこりと微笑むはやてに、アーチャーは赤いあくまの姿を重ね、首を振る。そんな事はあるはずないと、強く強く言い聞かせるように。
開きかかる記憶に蓋をし、彼は今までの会話を忘れる事にして、買い物へと思いを移す。そんなアーチャーを、楽しそうにはやては見つめていた……。



 楽しくも騒がしい食事を終え、二人は後片付けをしていた。今日のカレーは美味しかったとはやてが言えば、アーチャーがサラダはまだまだと返す。それにむくれながらも、食器を洗うはやて。そんな彼女を、さり気なく気遣いアーチャーは次の食器も手元に差し出す。
 たった二人の家族。だが、不思議と淋しくはない。それはアーチャーがいつも傍にいるから。はやてが何かをする時、アーチャーは必ず見てくれている。手を貸すのではなく、見守る。はやてが言い出さない限り、アーチャーは手を出さない。
 それが優しさだと、はやては知っている。なぜなら、はやてが危険に晒された時は、すぐさまやってきて助けてくれるのだ。

「明日の朝はカレーやな」

「ふ、一晩寝かせた私のカレーは驚くぞ」

「お~、なら驚かんかったら罰金百万円や」

「どうしてそうなる」

 そんな会話をしながら、はやては思う。こんな時間がずっと続きますように、と。
強く、強く、心から願いながら……。




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準備編四本目。

ま、見ての通り時間がかなり前です。なのは達が入学する前ですね。

猫に関して色々あると思いますが、はやての性格上、存在を知ったら世話をするだろうと思い、こうしました。

……でも、飼い猫はダメ。したら、猫の生命に関わる。



[21555] 0-10 とある一日(F&L)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/12 15:18
 額から滝のような汗を流し、フェイトは目の前の相手を見つめる。まだ三分も経過していない。にも関わらず、ランサーはフェイト達三人を圧倒していた。
 初めにアルフが襲い掛かった。それを槍で一蹴、その隙を突いてリニスが幾重にもバインドをかけたが、それも三十秒と持たずに消され、まるで計っていたかのように、飛び掛っていたフェイトとリニスを蹴散らした。離れては槍で、近付けば体術で。魔法を放ってもプラズマランサーではまるで効果なく、それにまず当たらない。
 そんな絶望じみた状況でも、フェイトは諦めなかった。彼女には、切り札とも呼べる魔法があったから。

【アルフ、リニス、少しだけ時間を稼いで】

【いいけど、何する気だい?】

【試してみたいものがあるの】

 フェイトの指すものが分かったのか、リニスが若干上擦った声で叫ぶ。

【まさかっ!?ダメですフェイト。それはっ!!】

 そんな制止の声を振り切り、フェイトは目を閉じ、手にしたデバイスを掲げて何かの詠唱を始めた。
それにランサーは面白そうに口元を歪め、槍を地面に突き立てる。その行動に、アルフとリニスの表情が驚きに変わる。

「何するかしらねえが、面白ぇ。見せてみろ、フェイトォ!!」

 咆哮。それをまるで意にも介さず、フェイトは詠唱を続ける。それは、今の彼女では到底出来ない大魔法。
プラズマランサー・ファランクスシフト。彼女の使える魔法でも最大の威力を誇るものだが、使用条件があった。
 それは、万全の状態である事。無論、今の彼女が万全であろうはずがない。身に纏ったバリアジャケットは傷付き、魔力も三分の一程消費している。

『フェイトっ!?』

 詠唱を続けるフェイトが、一瞬よろめく。それを支えようと動くアルフとリニスだったが、それが叶う事はなかった。ランサーの視線がそれを踏み止まらせたからだ。手を出すな。そう告げる眼差しで二人を睨みつけるランサー。その気迫に、二人は微動だに出来ない。
 そんな中、フェイトは何とか詠唱を終え、その名を告げる。

「プラズマランサー・ファランクスシフト……ファイア!」

 それは雷光の雨。ランサーを撃ち抜かんと殺到するプラズマランサーの群れ。それを、フェイトは必死に見据えていた。

 やがて、舞い上がった煙が晴れて行き、ゆらりと人影が現れた時、フェイトは絶望した。全身に傷を負っていたなら良かった。せめてかすり傷でもあれば、フェイトはまだ希望を持てただろう。だが、現れたランサーは無傷だった。その手にした槍を振り、フェイトを見つめて―――。

「やるじゃねえか」

 笑った。どこか嬉しそうに、でも悔しそうに。

「え……?」

 困惑するフェイトに、同じようなアルフ。ただ、リニスはランサーの表情の意味を悟った。

(槍を使ったから……ですね)

「俺は避け切るつもりだったが、一発だけかすりそうになったもんでな」

 槍を肩に担ぎ直し、苦笑い。それでフェイトも理解したのか、その顔に喜びが浮かんでいた。

「じゃ、じゃあ……」

「おう。合格にしてやらぁ」

『やったぁ~!』

 からからと笑うランサー。よほど嬉しかったのか、アルフはフェイトを抱き上げながら喜んでいる。フェイトも笑顔を浮かべている。その光景を横目に、リニスはゆっくりランサーへ近付く。それに気付き、ランサーはいつもの笑みを浮かべた。

「何だ?」

「優しいですね」

 そのリニスの言葉に、ランサーは驚きもせず答えた。

「へ、そんなんじゃねえよ」

 そう答えるランサーはどこか楽しそうだ。リニスはそんなランサーに、自然と笑みを浮かべる。今回の戦いの意味。それは、フェイト達がランサーに戦い方を教えてもらえるかどうか。無論、ランサーは初めからそのつもりではあったが、リニスがそれに待ったをかけた。
 出来れば、フェイト達の実力を知ってからにしてほしいと。

 結果として、合格になったが、本来はランサーに一撃当てれば合格となっていた。にも関わらず、ランサーは当てていないフェイト達を合格させた。

 ランサーは語る。最初から、合格させるつもりではあった。だが、それは自分達の全力が通じない相手がいると教えてからだったと。その意味で、あの魔法は丁度良かったとも。
 そんなランサーに、リニスはある決意を決める。それは……。


テスタロッサ家と槍騎士のとある一日



 あの訓練の後、フェイトは念のために休む事になり、アルフはその付き添いも兼ねて傍にいる事を選んだ。それを好機と捉えたリニスは、ランサーをデバイスルームへと連れてきた。

「へえ、中々面白いな」

 初めて見るものに、興味を示しながら、ランサーは視線を動かしている。それをリニスは可笑しそうに笑う。先程の戦闘で見せた表情とまるで別人だったからだ。戦士でありながら少年。そんな表現がぴったりの存在。それがランサーなのだ。

「で、話ってのは何なんだ?」

「……私がフェイト用のデバイスを作っている事は話しましたね?」

 リニスの言葉にランサーは頷く。今日の戦闘で使ったものも、リニスが試作したものだからだ。もっとも、リニスからすれば、あれは未完成らしいのだが。

「それが私にプレシアが与えた最後の指示。おそらくそれが終われば……」

 私は役目を終え、消えるでしょう。そうリニスは告げた。ランサーは僅かに驚きを見せるが、それもすぐに消える。リニスがまだ何かを伝えたそうだったからだ。
 ランサーの視線に、リニスは意を決して語りだす。ここからは、決してフェイト達には言わないでほしいと前置いて。プレシアの目的とフェイトの秘密、それらに関わる全てを。その内容は、ランサーにとっても衝撃だった。

 プレシアには娘がいた。名をアリシア。夫を亡くし、女手一つで育てていたのだが、ある時プレシアの行っていた研究実験が事故を起こし、大惨事を引き起こしてしまった。そして、それに愛娘であるアリシアも巻き込まれ、覚める事のない眠りについたのだった。
 だが、プレシアはその現実を受け入れなかった。愛娘を生き返らせるために、様々な生命工学や研究を調べ、模索し、実験を繰り返した。

「思えば、あの時にプレシアも死んでしまったのかも知れません」

 リニスはそう言って、話を戻す。その一つである『Project Fate』に目をつけ、アリシアの記憶や外見などを完全に模倣した存在を作り出したのだ。しかし、それもアリシアには成り得なかった。それがフェイトなのだと、リニスは告げた。

「結局、プレシアは現存の技術に望みを持てなくなったのか、失われた超技術の象徴アルハザードを追い求めています」

 おそらく、フェイトはそのために利用され、捨てられるでしょう。それだけ告げ、リニスはランサーを見据える。その目は、貴方はどう思いますかと問うていた。その視線に、ランサーは何でもない事のように言い切った。

「関係ねぇ」

 その答えに絶句するリニス。ランサーは続けてこう言った。アリシアがどうのプレシアがどうのなんて興味ない。自分がすべきはただ一つ。フェイトを守り、立ちはだかるモノを全て突き穿つのみだと。その言葉に、リニスは安堵と悲しみの感情を同時に抱いた。この男なら、フェイトだけでなく、プレシアも助けてくれるのではないか。そんな期待があったからだ。

 しかしそれは、今打ち砕かれた。ランサーはフェイトは助けても、プレシアは助けない。そう思い、俯くリニス。
だが、ランサーはただ、と続けた。リニスがその声にランサーの顔を見る。

「あの女に、フェイトの頑張りを認めさせなきゃ癪だしな。だから、ま……」

 簡単には死なせねぇよ。そうランサーはリニスに告げた。その顔は普段の人懐っこいものではなく、真剣な漢の顔。
その眼差しに、リニスは見惚れた。そんなリニスの横を通り過ぎ、ランサーはドアの前で立ち止まる。

「それに、お前も消させやしねえ。何せお前は―――」

 良い女だからな。背中越しにそう言って部屋を出て行くランサー。部屋に一人残されたリニスは、流れる涙もそのままにただ感謝していた。
ランサーを遣わせてくれた存在に、神と呼ばれる存在に初めてリニスは感謝した。

(本当にありがとうございます。ランサーと引き合わせて頂いて。フェイトやアルフと出会えて。プレシアとアリシアに助けてもらえて)

 これまでの全てを感謝するように、リニスは涙を流しながら祈り続けていた……。



 リニスと別れたランサーは、ある考えを持ってプレシアの元へと向かっていた。リニスとの約束を果たすために。
長い通路を走り、ようやく目的の場所に辿り着いたランサー。そして、その扉を勢い良く開け放つ。

「……何の用?」

「あんたに良い話を持ってきた」

「良い話……?」

 ランサーの言葉に、プレシアが僅かに反応を示す。それを食いついたと言わんばかりに、ランサーは告げた。
先程リニスから聞いた話を。そして最後にこう付け加えた。

「で、仮にアリシアが生き返るとして、あんたは今のままでいいのか?」

「……どう言う事?」

「例えばだ、せっかくアルハザードとやらに行く方法が見つかっても、今のあんたじゃただで済まないだろ?」

 ランサーの指摘に、プレシアの表情が僅かに変わる。そこに、更にランサーは続ける。術があっても、当の本人が耐え切れないのでは意味がないと。だから、今は自分の体を労わる事が必要だと。
 それにプレシアが反論しようとして、出来なかった。ランサーが床に何か文字のようなものを刻んだその瞬間、プレシアは体が少し軽くなった感じを受けたからだ。

「力を象徴する『太陽』のルーンを刻んだ」

「……すごいわね」

 ランサーはそう告げ、プレシアに視線で訴える。体の調子はどうだと。それを感じとり答えるプレシアは、いつもの表情ではあったが、その声には驚きが若干含まれていた。

 それを理解し、ランサーはプレシアにこう告げた。

「せっかく娘が生き返っても、母親にすぐ死なれちゃ救われねぇ。だから、俺に考えがある」

「何かしら」

「おっと、教えてやってもいいが、条件がある」

「……言ってごらんなさい」

 ここだ。そうランサーは感じ、獰猛な表情で告げた。

「リニスをくれ」

「……話次第ね」

「そうかい。ならここで終わりだ。精々娘を泣かすんだな」

 ランサーの一言に、プレシアの余裕が消えた。不治の病と言われている自分の体を、文字を刻んだだけで症状を軽くした。その事実がプレシアにランサーの重要性を訴える。アルハザードに近付く術を知っているかも知れない。そんな期待を抱かせるには、ランサーの行為は十分だった。

「待って!……いいわ。好きにしなさい」

 立ち去ろうとしていたランサーを、プレシアは引き止めた。その言葉に含まれた焦りの色に、ランサーは自分の賭けが成功した事を悟った。

「勝手に消したりしねえだろうな」

「しないわ。……でも、喰えない男ね」

「ああん?どういう意味だ、そりゃ」

 ぽつりと呟いたプレシアの言葉に、ランサーは耳ざとく反応した。プレシアはそんなランサーに、不適な笑みを浮かべて問いかけた。

「あの子の言葉しか分からないんじゃなかったの?」

 そう言われ、ランサーは呆気に取られるが、すぐに笑い出して答えた。

「んな事も言ったな」

「…まあ、いいわ。それより、話を聞かせてちょうだい」

 そう答えるプレシアの顔には、いつもはない表情があった。ランサーはそれを確認し、己の考えをプレシアに告げるのだった……。




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準備編五本目。ある意味本編のF&L組。

リニスを助けたいと思うなら、プレシアの生存が必須という中、ランサーが取る行動。

そして、それが思いもよらぬ結果への布石になっていく……ようにします。

後、今回念話の表現を入れたのですが、どうでしょう?

今後の不安はデバイスの表現だったりします。



[21555] 0-11 遭遇編その1
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 03:25
「いらっしゃいませ。二名様ですか?……では、こちらへ」

 どこかぎこちない接客。その言葉遣いも少したどたどしい。それでも、応対された側が笑顔なのは、それが金髪の可愛らしい少女だからだろうか。案内し、立ち去ろうとした時も、頑張ってと声を掛けられている。

「は、はい。ありがとうございます」

 戸惑いながら、笑顔で答える少女。それはエプロンを着けたセイバーだった。なのはが学校に通うようになり、時間を持て余したセイバーに、桃子が翠屋の手伝いを持ちかけたのだ。
 初めは接客は、と渋っていたセイバーだったが、桃子の提案した新作優先試食権に即座に合意。こうして、セイバーは翠屋で働き出したのだが……。

「お姉さ~ん」

「え……?あ、はい!今行きます」

 人と接する事は慣れていても、それが客商売ともなると話は別で……。

「すみません。注文いいですか?」

「し、少々お待ちください」

 まだ二組しかいないのに、既に困惑気味のセイバーだった。



騎士王、騎乗兵の存在を知る



 朝の時間を終えて、軽い休憩をもらったセイバーは、椅子に座って、テーブルに突っ伏していた。そんな彼女を、桃子と士郎は微笑ましく見つめる。
 あの後もオーダー提供やお会計等、セイバーは戸惑いながらもそれらをこなし、無事に朝の時間を乗り切ったのだ。勿論、桃子や士郎の手助けに、お客さんの暖かい気持ちもあればこそだが。

(接客とは、ここまで疲れるものなのですね)

 そう思いながら、セイバーが考えるのは、相手をした客の事。皆、セイバーの事を微笑ましく見つめ、頑張ってと声を掛けてくれた。その一言がどれだけ自分は嬉しかったか。自分には向いていないと思っても、その一言で頑張ろうと言う気になった。

(私も、単純なのかも知れません)

 どこか笑みを浮かべ、セイバーはそう思った。なのはが帰ってくるまで、まだまだ時間がある。なのはに笑われないようにしなくては。セイバーはそう自分に言い聞かせて立ち上がる。

「シロウ殿。教えてほしい事があるのですが……」

 少しの時間も無駄にすまい。そんな思いを胸に、セイバーは店内へと戻るのだった……。



「ね、今日学校終わったらウチのお店に寄らない?」

「翠屋に?」

「でもいいの?」

 なのはの提案に、アリサとすずかはそう返す。お昼の食事時、屋上で食べるお弁当をつつきながらの雑談。その中でのなのはの言葉は、二人にとって意外なものだった。
 なのはの家が自営業なのは、二人も聞いていた。そして、そこが翠屋という人気店である事も知っていた。だからなのか、あまりなのはも翠屋の事は話さない。自慢しか出来ないから、となのはは苦笑してその理由を告げた。

 そんななのはが、わざわざ自分からお店の話をするのは珍しい。アリサとすずかはそう考え、なのはを見る。

「実はね、今日からセイバーが働いてるんだ」

「へえ~、あんたの言ってた年上の友達が?」

「そうなんだ。あ、それで?」

「にゃはは、一人で行くのは気が引けて……」

 お客さんとして行きたい。そうなのはは言った。それに二人も納得し、下校時に寄り道する事になった。
それが、セイバーにとって大きな出会いに繋がるとは知らずに……。



「ありがとうございました。またお越し下さい」

 笑みを浮かべ、カップルを見送るセイバー。お昼のピークも過ぎ、店内も落ち着きを取り戻し始め、セイバーも僅かだが息を吐く。
初めこそ戸惑う事も多かったセイバーだったが、忙しくなるにつれ、そんな事もなくなっていった。厳密には、そんな余裕がなくなったのだ。やって来る客、怒涛の如きオーダー、それらの洗礼を受け、否応なくセイバーは鍛えられた。

「セイバー、少し休憩していいわよ」

「そうですか。分かりました」

 桃子の言葉に、セイバーはまた一息吐き、奥へと向かう。そんなセイバーを士郎と桃子は嬉しそうな笑みを浮かべて見つめる。

「…すごいな」

「ええ。集中力は誰よりもあるわ」

 お客さんの反応も上々だし、と笑う桃子。その言葉に士郎も頷き、呟く。
男性客が増えるかな。それに桃子が当然よと答える。

「私の自慢の娘だもの」

 そう断言する桃子に、士郎はただ笑うしかなかった。



 校門を出て、翠屋へ向かうなのは達。歩きながらの雑談も、内容は翠屋とセイバーに関するものばかり。
何が一番のオススメなのか、から、どんな性格の人か等、なのはは常に答え続けるのみで、話題を振る事が出来なかった。
 そんな事を取りとめもなくしているうちに、目的の翠屋が見えてきた。

「あ、あれだよ」

「へ~、オシャレじゃない」

「うん。すごく良い雰囲気」

 友人二人に誉められ、なのはは照れくさそうに笑う。それを隠すように、なのはは店のドアを開ける。

「いらっしゃ…あら?なのはじゃない」

「えへ、来ちゃった」

『お邪魔します』

 軽く驚く桃子に、なのはの後ろからアリサとすずかが顔を出し、小さくお辞儀する。
それだけで何かを悟った桃子は、笑顔を浮かべ言葉を返す。

「いらっしゃい。それと初めまして。なのはの母で、桃子って言います」

「初めまして。アリサ・バニングスです」

「初めまして。月村すずかと言います」

 礼儀正しく挨拶する二人に、桃子は内心良く出来た子達だと感心していた。
そんな桃子に、なのはは今一番気になっている事を尋ねた。

「ねえお母さん。セイバーは?」

「えっ?ああ、奥で休んでるわ。頑張ってたから」

 そう告げて、桃子は何か悪戯めいた笑みを浮かべ、なのはにこう言った。

「奥のテーブルに座って待ってなさい。すぐにオーダー聞きに行くから」

「いいの?」

「うん。なのはのお友達が来たんだから、今日は特別よ」

 その言葉に嬉しそうな声を上げる三人。それを見て、微笑む桃子。
三人はすたすたと奥のテーブルへ向かうが、そんな一部始終を苦笑しつつ士郎は見ていた。
 桃子の考えている事が分かったからだ。案の定、桃子は店の奥へ消えて行く。

(ま、なのはもそれが目当てみたいだしな)

 そう思い、士郎は笑いながらも、これからの事に思いを馳せるのだった。



「ゴメンね」

「いえ、十分休みましたから」

 そう答え、セイバーは再び仕事へと思考を切り替える。桃子は電話対応でしばらく動けなくなりそうと、セイバーに手助けを願い出たのだ。
無論、セイバーはそれを断るはずがなく、店内に戻ると言われた通りに水を三つ載せたトレーを手に、奥のテーブルへ向かう。
 そこには、なのはと同じ学校の制服の少女が三人。一人は背を向けているが、二人はセイバーを見て―――頷いた。

(?……何かあるのでしょうか、私に)

 その行動の意味が分からず、セイバーは首を傾げるものの、相手が子供でも仕事をこなさなければと、テーブルの横に立ち―――言葉を失った。

「にゃは、頑張ってるねセイバー」

「な、なのは?どうして……」

 そう、なのははセイバーにこう言った。冷やかしには行かないから安心してと。それを聞き、セイバーは内心安堵していたのだ。自分が接客に不慣れな様を見せずにすむと。
 なのはの前では、セイバーはしっかり者(既に、そんなイメージを自分で崩していると思っていない)でありたかったのだ。

 目に見えて動揺するセイバーに、なのはは笑みをこぼすと、アリサとすずかに視線を移す。

「アリサちゃん、すずかちゃん。この人がなのはの一番最初のお友達の、セイバーです」

「初めまして。アリサ・バニングスです」

「初めまして。月村すずかです」

「あ……は、初めまして。セイバーと言います」

 二人の挨拶に、セイバーもやっと思考を取り戻し、挨拶を返す。その態度はまだ落ち着きを失っていたが。
そんなセイバーに、二人は笑みを浮かべる。なのはの話していた通りだと、改めて感じたからだ。
 年上だけど、どこか同じ歳ぐらいに感じる時があり、キリッとしているけど、どこか可愛い。なのはが簡単に話したセイバーの人物評。それは、実に的確に言い当てていた。

 そんな笑う二人に、セイバーは困惑顔。なのははその理由が分かるのか、同じように笑っている。
だが、セイバーは完全に思考をリセットし、水をテーブルに置き、なのは達にオーダーを聞こうと伝票を取り出した。

「それで、ご注文は」

「あ、私はアイスレモンティーとチーズケーキ」

「なら、アタシはアイスミルクティーにショートケーキ」

「私もアリサちゃんと同じもので」

「かしこまりました」

 オーダーを確認し、セイバーは一礼して下がっていく。その後姿を見て、アリサとすずかは感心していた。
それは、凛々しいという表現がピッタリのものだったからだ。おそらく、あれがエプロンではなく、ちゃんとした正装ならば、もっと映えるだろう。
 そう二人は思い、ふと自分達にも同じような存在がいた事を思い出す。

「あ、そうだ。なのはちゃん、アリサちゃん、今度うちに遊びに来て。是非会わせたい人がいるの」

「それって、この前言ってたライダーさん?」

「ライダーさん?」

「何ですって?!」

 すずかの言葉で、アリサが告げた名前に反応したなのはだったが、それ以上に反応したものがいた。
それは、オーダーを告げ、なのは達の所へ戻ってこようとしていたセイバーだった。
 その顔は、信じられないものを聞いたと言う表情だ。そして、そんなセイバーに三人は驚きを隠せなかった。

 動けない三人へセイバーは素早く近付くと、すずかの目を見て問いかけた。
その人物は女性か。その髪の色は紫で、恐ろしく長くないか。そして最後に、妙な眼帯をしていないかと。
 その問いに、すずかは驚きながらも、全てを肯定した。それを聞き、セイバーは驚きを隠さぬまま、すずかにこう告げた。

「スズカ、ライダーに伝えて頂けませんか?セイバーが話したい事がある、と」

「えっと、いいですけど……セイバーさんはライダーの知り合いなんですか?」

「……以前、共に暮らしていました」

 それだけ告げると、セイバーはどこか遠い目をしてテーブルから離れていく。その後姿を見て、なのはは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
セイバーは、自分の過去を話したがらない。それを士郎達は特に気にせず、暮らしている。だが、なのはだけは少しだけセイバーの過去を聞いた事がある。

 セイバーが教えたのは、衛宮邸での日々の一部。高町家と同じように、自分を受け入れ、家族同然に接してくれたと、セイバーは懐かしそうに語った。その時、確かにセイバーは言ったのだ。戻れるのなら戻りたいと。
 勿論、なのは達と離れたいと言う事ではない。もう一度会えるなら、会ってみたいと言う事だとセイバーは優しく告げた。

(でも、セイバーにとって、そのお家は大切な思い出なんだよね)

 なのははそんな事を思い、浮かんでしまったある考えを必死に否定する。

(違う!セイバーは私を置いてどこかに行ったりしない。だって……)

「私は、なのはの剣になります。そして盾にもなります。しかし、なのはが望むのなら―――」

 私はただ、貴方の友でありましょう。剣でも盾でもない。ただなのはの友として、傍に。
あの日、出会った夜にセイバーはそう誓った。だから、となのはは思う。

(絶対にセイバーはいなくなったりしない。私と約束したんだから!)

 このなのはの思いは、その後も変わらず強く残り続ける。そして、それが遠い未来の奇跡となるのだった……。




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サーヴァント遭遇編その一。

衛宮邸組の二人が、ついに出会います。セイバーとライダー。二人が出会う事で、一体何が起きるのか?

その模様は、この次で……。

こんなに複線張って……回収できるかなぁ……。

次回更新からとらは板に行こうかと思うんですが、どうでしょう?早いですかね?



[21555] 0-12 遭遇編その2
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/13 19:14
「セイバー……ですか」

「うん……」

 すずかから告げられた内容は、ライダーを驚かせるには十分だった。それは、自分以外のサーヴァントがいたという意味だけではない。
近くにサーヴァントがいたにも関わらず、今日までその存在に気付けなかった事でもあるからだ。

(もしかしたら……。いや、でもそれは……)

 ライダーの中に生まれた一つの推測。そして、それはある意味あってはならない事。

「話がある、と言っていたのですね?」

「う、うん」

「そうですか……」

 ライダーは、己の推測を確かめるべく、セイバーに会う事にした。だが、その前にすべき事がライダーにはあった。
不安そうな顔で自分を見ているすずかを安心させる。それが今ライダーがしなければならない事だ。

 優しい笑みを浮かべ、ライダーはすずかの髪を撫でる。そして、心からの想いを込めて告げる。
スズカの考えているような事にはなりません、と。だから心配いらないとライダーは微笑む。すずかはまだ不安が残っているものの、そのライダーの笑みに笑みを返す。ライダーを信じよう。それがすずかの想いであり、導き出した結論だった。


騎乗兵、騎士王と再会する




 いつものように午前の仕事を終え、ノエルとファリンに許可を得て、ライダーは屋敷を出た。
向かう先は翠屋。そこに居るであろうセイバーに会うためだ。

 忍にねだり、創ってもらった専用自転車を駆り、ライダーは疾走する。
その様はまさに風。凄まじい速度で道を駆け抜けるライダーは、その視線の先に目当ての建物が見えると、ブレーキをかけると同時に自分の足を地に着け、車体を斜めに傾ける。
 土煙さえ上がりそうな勢いで、自転車は店先で見事に停止。ライダーは、何事もなかったように鍵を締めて店の中へと入って行く。

「いらっ……」

「お久しぶりですね、セイバー」

 笑顔のまま固まるセイバーに、ライダーはそう答えた。セイバーが固まったのは、ライダーのメイド姿にあった。
見事に着こなしているからではない。その裾が擦り切れ汚れていたからだ。それも、尋常ではないほどに。

 未だ固まるセイバーに、ライダーは首を傾げる。そして、その視線を追い理由を理解して呟いた。
ああ、汚してしまいましたか。そう言ってわざわざそれを払いに店を出るライダー。その際に鳴った鈴の音で、セイバーはようやく我に返った。

「桃子、すみませんが少し外します!」

「え、セイバー?」

「このお詫びは必ずします。では!」

 戸惑う桃子に、そう一方的に言い放ち、セイバーは店を出た。そして、店先で汚れを払っているライダーの前に立つと、その手を掴み走り出す。その後ろから、桃子の声がしたのを感じ、セイバーは更に速度を上げる。
 それに気付き、ライダーは問いかけた。

「何を急いでいるのです?」

「私にも色々あるのです!」

「やれやれ……」

 そう言いながらも、ライダーの表情はどこか懐かしそうであった……。



 海が一望出来る公園。そこにあるベンチに座り、二人はただ黙っている。その視線は共に海へと向けられていた。
公園まで来た二人は、近くにあったベンチに座ると、黙って海を眺める。ライダーはセイバーが切り出すのを待ち、セイバーはどう切り出すかを悩んでいた。

 ややあって、セイバーは意を決して口を開いた。

「私がここに来たのは、もう一年以上前になります」

 セイバーの独白に、ライダーは視線を送る事で続きを促す。
セイバーは、召喚されてから今までの事を簡潔に、そして噛み締めるように語った。
 その内容に、ライダーも思わず聞き入ってしまった。それは、高町家の対応が月村家と同じだったから。突然現れた自分を家族として扱ってくれる。そんな共通点を見出し、ライダーは思わず呟く。

「……似ていますね」

 私の所もそうなのです。そう言って、ライダーは自分の事を語りだした。
召喚された時、目の前の少女にサクラの姿を重ねた事。彼女も人には言えない悩みを抱えていた事。そして、自分を受け入れ、家族だと思ってくれている事。
 それらをセイバーも聞き、呟く。

「……似ていますね」

「ええ。まったくです」

 そう言い合う二人。その表情は苦笑い。そりが合わないのは互いに認めるところではあるが、なのに何故こうも現状が似ているのか。それを考え、同じ結論に行き着いたからだ。

「シロウ達のせいですね」

「それを言うならおかげですよ、セイバー」

 そう。二人が久しく忘れていた人との繋がりとその温もり。それを思い出させたのは衛宮士郎。そして、凛や桜、大河にイリヤといった衛宮邸の面々。あの場所で得たその暖かさが、自分達の中に残り、きっと寂しい想いを抱いていた少女達の下へ呼んだのではないか。
 そう二人は結論付けた。

 その後、しばらく二人は無言で景色を眺めた。その沈黙は初めとは違い、どこか穏やかなものを漂わせていた。
しかし、ライダーがその雰囲気を破る発言をした。それは……。

「セイバー……」

「何です?」

「おかしいとは思いませんか?」

 ライダーが語ったのは、憶測に過ぎないと前置きされたが、一つの結論を告げた。
自分達の記憶が残っている事や、魔力供給を受けていないのも関わらず、未だに現界出来る事。そして、これはライダーしか分からなかったが……。

「霊体化出来ない、ですか?」

「ええ。昨日、スズカから貴方の話を聞き、話をしようと思って霊体化しようとしたのですが……」

何故か出来ず、そこでライダーは確信した。即ち―――受肉していると言う結論を。

「ば、バカな。そんな事―――」

「私もそう思います。ですが、それ以外ないのです。この私達の状況を説明出来るのは」

 信じられないといった顔のセイバーに、ライダーは無表情でそう返す。霊体化は、ライダーにとっては出来て当然の行為。故に、意識しなければ気付けなかったのだとライダーは語る。そしてライダーは、どうしてこうなったのかをこれから調べてみると告げた。セイバーはそれに対し、自分に出来る事はないかと尋ねたが……。

「セイバー、貴方は現状のままで構いません」

「何故です!貴方一人に任せる訳にはいきません!」

「落ち着いて下さい。私と貴方はサーヴァントと言っても、成り立ちが違うでしょう」

 ライダーが告げたのはこうだ。自分は完全な死者として英霊になったが、セイバーは死者ではない。なら、もしかしたら自分と同じとは言えないと。
だが、セイバーはそれにこう反論する。なのはとラインが繋がっていないのは事実だ。にも関わらず、自分は魔力に満ちている。だとすれば、自分も受肉している可能性が高いと。

 それから少し口論は続き、終わりが見えないかとも思ったのだが……。

「……ですから」

 ライダーが何度目かになる言葉を言おうとしたその時だった。セイバーがライダーの予想しえない言葉で、それを遮ったのだ。

「私にも手伝わせて下さい!友ではありませんかっ!」

 セイバーの言葉に、ライダーの思考が止まる。そんなライダーに、セイバーはどこかハッとした表情を浮かべるが、僅かの逡巡の後、開き直ったように言い切った。

「何かいけませんか?確かに私と貴方は明確にそうなった訳ではありません。ですが、共にシロウ達と過ごし、笑い合った我々は『家族』ではありませんが、友ではあると思います!ライダーがそう思わなくとも、私はそう思います。ええ、思っていますとも!」

「セイバー……」

「その友が一人で苦労を背負いこもうとしているのを、黙って見過ごせる訳がありません!ですから――っ」

 そこまで言って、セイバーは深呼吸をしてライダーの方を向き告げた。

「私にも、手伝わせてください。同じ日々を過ごした友人として」

 そう告げるセイバーは、優しげな笑みを浮かべていた。ライダーは、そんなセイバーに呆気に取られるものの、すぐに表情を戻して答えた。

「………仕方ありませんね。では、互いに調べる事にしましょう」

「それでは……」

 ライダーの言葉に、セイバーはライダーにゆっくりと右手を差し出す。それを不思議そうに見つめ、ライダーは尋ねた。
これは?と。それにセイバーはムッとした顔で答えた。友と認め合ったのだから、その証の握手ではないかと。それに、再び呆気に取られるライダーだが、小さく笑みを浮かべるとそれを握る。

「フフッ…変わりましたね」

「そう言う貴方もです」

 そう言い合うその顔は、どこか嬉しそうに笑っている。そんな横顔を、春の日差しが照らしていた……。



 学校から帰るや否や、すずかはライダーを捜した。いつもなら一番に出迎えてくれるはずのライダーが、出迎えてくれなかったからだ。
ファリンを見つけ、出かけていると聞いたのだが、それでもすずかはどこか落ち着けなかった。
 信じている。信じているが、怖かったのだ。ライダーが昔の知り合いの下へ行ってしまうんじゃないかと。

(早く、早く帰ってきて……!)

 そんなすずかの願いが届いたのか、部屋のドアをノックする音がする。それに飛び跳ねるように反応し、すずかはドアを開けた。

「どうしたのですか、スズカ。そんなに慌てて……」

 そこには、驚いた顔のライダーが立っていた。その手には翠屋と書かれた箱がある。
セイバーとの話を終えたライダーは、自転車を取りに行くついでに翠屋でシュークリームを人数分買って帰ったのだ。
 勿論、セイバーが接客させられ、ライダーに若干からかわれたが。

「これからシノブ達とティータイムと洒落込もうと思いまして、スズカを誘いに来たのです」

 もう、三人共待っています。そうライダーに告げられ、すずかは嬉しそうに頷き、部屋を出た。前を歩くライダーと並ぶようにすずかは歩く速度を速める。それに気付いたライダーが、歩調を少し緩めすずかに合わせる。
 すると、すずかは空いているライダーの手を握り、微笑んだ。

「ありがとうライダー」

「いえ、どういたしまして」

 互いに微笑み合い、二人は歩く。その視線の先には、椅子に腰掛け、同じように笑みを浮かべている忍達の姿があった……。




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遭遇編その二。準備編もそろそろ終わりが近付いてきました。

受肉云々の話がやっと書けました。

こっちだと霊体化する必要がないせいで、自身の事に気付かないサーヴァント達。

……今更感が拭えませんが、どうか許してください。

明日(火曜)から、とらは板に移動します。よろしくお願いします。



[21555] 0-13 遭遇編その3
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/15 04:30
「で、よく分かんないけど、セイバーさんとライダーさんは知り合いらしいわ」

 寝る前のいつもの時間。現代教室を終え、今日の出来事を語るアリサ。そのアリサの話に、小次郎は驚きを顔に張り付けていた。
端正な顔立ちを固め、幽霊でも見たのかと言わんばかりの表情だ。

「ありさ、もう一度言うてくれぬか?」

「ん?何を?」

「今日出会った者の名を」

 初めて聞く小次郎の真剣な声に、アリサは戸惑いながらも答えた。

「セイバーさんよ」

 一体何なのよ。そう呟くアリサ。そんなアリサから視線を外し、小次郎は外の月に目をやり、内心で喜びを溢れさせていた。
己が好敵手と認めた相手が、もう二度と会えぬと思っていた相手がこの町にいる。それが小次郎の眠っていたものに火を付けた。
 ふつふつと燃え上がる内なる炎を感じながら、小次郎は笑う。

(待っておれセイバー。あの時の楽しみを、喜びを今一度味わおうぞ)

 そんな事を思い笑う小次郎を、アリサはどこか寂しそうに見つめていた……。


傾奇者、騎士王と再戦する




 あくる朝、小次郎は日課の庭仕事を終えて、セイバーに会いに行こうとしたのだが、一つ大きな問題があった。
小次郎は、屋敷から出た事がないのである。バニングス邸は広い。そして、その庭も。故にその庭を世話している小次郎としては、のんびり世話をしていれば時間が過ぎていく。そして、一番大きな理由。
 それは、アリサが外出を禁じたから。アリサは、いつか自分が小次郎を案内してやろうと考えて、そう命令した。それに小次郎が従う義理はないのだが、それを少し匂わせただけで、アリサが涙目になったため、小次郎は今まで庭弄りをして過ごしてきた。

「ふむ、道を聞こうにも鮫島殿はおらぬし、下手に出かけ迷いでもすれば、ありさが笑うのみ。はてさてどうしたものか」

 そう考え、結局小次郎はこの日出掛ける事を諦めた。それはある事を思い出したからだった。

(セイバーは今、翠屋なる茶屋で働いておると、ありさが言っておったな。ならば、昼間行ってもあしらわれるだけか)

 こうして、小次郎は残念そうなため息を吐くと、庭へと戻っていく。会えぬなら、せめて刀を振り、邪念を無くそうと決めたからだ。
本来の格好に戻り、愛刀の物干し竿を構え、小次郎は刀を振るう。その姿は、美しくもどこか悲しそうに見えた。



 学校からの帰り道、アリサは習い事に向かう車の中で、一人不安に駆られていた。
原因は、昨夜の小次郎の様子。小次郎はあまり物事に執着しない。そんな小次郎が、セイバーの名前には異常な反応を示した。
 無断外出は禁じているが、元々小次郎はそれに従う必要がない。それをアリサは理解しているからこそ、不安だった。

(あいつ、セイバーさんと知り合いだっていうのかしら。時代錯誤侍のくせに!)

 本人が聞けば、それとこれがどう関係する、と呆れる所だろうが、今のアリサに正論は意味を持たない。
そう、アリサはきっと認めないだろう。その感情が、嫉妬と呼ばれるものだと言う事を。
 矛先こそ小次郎に向けているが、不安の原因はセイバーが可愛らしい女性だった事と、もう一つ。

(あいつ、アタシは片言っぽいのに、セイバーさんの名前は綺麗に発音してた!)

 昨夜、無意識に小次郎はセイバーの名を呟いた。それをアリサは確かに聞き、余計に腹を立てていた。

「帰ったら……絶対色々聞き出してやるんだから!」

 そんなアリサの決意に比例するように、車も速度を上げるのだった……。



 小次郎は、困惑していた。いつものように帰ってきたアリサを出迎え、いつものようなやり取りがあるかと思えば、アリサは小次郎に何も言わず部屋へと向かって行ったのだ。
 こんな事は今までなく、小次郎には原因が分からない。ただ、恐ろしい程不機嫌である事だけは察していた。

「すまぬが鮫島殿、原因を知っていれば教えてくれぬか?」

「……それが、私にもさっぱり」

「そうか。……つまらぬ事を聞いたな、許せ」

 アリサの傍付きである鮫島に分からないとなると、小次郎に取れる方法は一つしかなかった。
その方法を考え、小次郎は苦笑い。と言うのも、それは直接尋ねるという至ってシンプルなもの。

(私も変わったものよ)

 そう思い、小次郎は食堂へ向かう。もうすぐ夕食の時間だ。アリサが来るのを待ち、そこで何に怒っているのか聞こうと、小次郎は思っていた。



 一方のアリサと言えば、小次郎に対して自分が取った行動に後悔していた。
せっかく小次郎が、普段と同じように接してくれたにも関わらず、アリサは何故かそれを無視して逃げるように部屋まで来ていた。
 あそこでいつものように会話していれば。そんな思いが先程から頭を巡る。もし、これが完全にアリサが悪ければ、何の躊躇いもなく謝罪する事が出来るのがアリサである。しかし、今回はアリサの中では小次郎が先に悪さ(アリサとしては)をした。
 よって、アリサは自分だけが謝る事はない、と思っている。故に、悩み苦しんでいた。

(悪いのは小次郎なのよ!……でもでも、アタシの態度も問題よね……)

「あ~、どうしたらいいのよっ!!」

 そこに、アリサのお腹の鳴る音が響く。ふと時計を見れば夕食の時間。アリサは、未だ結論を出せぬまま食堂へ向かう。
その表情は、まるで死地に赴く戦士のようだった。



普段ならば、出てきた料理を小次郎が尋ね、それにアリサが答えたり、あるいはその日の出来事を、アリサが小次郎に語ったりするのだが、この日は珍しくそうではなかった。
 理由はアリサが言い出せなかったのでも、小次郎が聞かなかったのでもない。この日は、たまたまアリサの両親が揃って食事に参加できたのだ。

「どうだいアリサ。学校の方は?」

「すごく充実してるわ、パパ」

 久しぶりに会う娘に、満面の笑顔で接する父。

「小次郎さんはどうです?少しはウチに慣れました?」

「そうさなぁ……。未だにまなーと言うものには戸惑うが、大体の事は理解したかと」

 一方の母は、小次郎にとめどなく問いかける。

 ただのボディーガードに過ぎない小次郎が、こうしてアリサの両親と食事出来るのは、両親がアリサの恩人である小次郎を大層気に入っていたからだ。
言動が古風ではあるが、風流を理解し、今時には珍しい程義理堅い。更に、腕が立つにも関わらず、それを自慢もせず、ただ愚直に高みを目指している。
 何より、アリサが慕っているのが大きい。仕事であまり傍にいてやる事が出来ない自分達に代わり、アリサを見守ってくれている。それに、アリサの笑顔が増えたと言う報告も入っている。
 それを二人は聞き、小次郎に言葉にならない感謝をしていたのだ。

「小次郎君は、庭の手入れを良くしてくれているそうだが」

「私の単なる気晴らしよ。気にする事もない」

「あらまあ。でも本職の者達も誉めていましたよ?」

「それは重畳。私の気晴らしが役に立って何よりよ」

 後は、自分達に対して特別な対応をしない事。誰を相手にしても己を崩さず、乱さず、淡々と振舞う。
それが小次郎の良い所だと、二人は思っている。

 そうして、久しぶりの家族揃っての食事も終わり、アリサは帰宅の際の事を謝ろうと、小次郎の下に駆け寄ったのだが……。
小次郎は、たまにしか会えない両親との時間を大切にしろ、と告げ、与えられている部屋へ歩いて行ってしまった。
 アリサは、その言葉に甘える事にした。何故なら、そう告げた時の小次郎はアリサの良く知る表情だったから。
去っていく背中に、アリサは小さく呟く。

「……ま、今回はこれでチャラにしとくわ」

 アリサはそう呟くと、笑顔を浮かべて来た道を戻る。両親に色々と話したい事がある。まずは、最近出来た友人の事を話したい。
その思いを胸に、アリサは駆け足で通路を駆けて行くのであった。



 翌日、アリサは普段のアリサに戻っていた。小次郎は、何があったか理解できなかったが、機嫌が良くなっていたので良しとした。

「じゃあ、行ってくるわ」

「気をつけてな。……おお、そうであった」

 元気良く歩き出していたアリサの足が止まる。振り向き、視線で尋ねるアリサ。それに、小次郎は神妙な面持ちで切り出した。

「翠屋なる茶屋へは、どのような道で行けるか教えてくれぬか?」

「いいけど、アタシが帰ってきてからね。それまで待ってなさい」

 そう言い切って、アリサは小次郎の答えも聞かずに歩き出す。それを何も言わず見送る小次郎。その顔にはいつもの笑みが浮かんでいた。



 アリサが帰宅すると、小次郎は有無を言わさずアリサを連れて屋敷を出た。車でと鮫島が言ったのだが、アリサは歩きで構わないとそれを断った。それを聞いて、鮫島はどこか苦笑気味に「お気をつけて」と見送った。
 小次郎は初めて歩く海鳴の町に、興味深そうにしていた。目に映るもの全てが、小次郎にとっては未知のもの。街灯に電信柱、信号機に横断歩道。子供のように不思議そうに尋ねる小次郎に、アリサは呆れながらもどこか嬉しそうにそれに答える。
 端から見れば、それは滑稽にしか見えないだろう。だが、当の本人達には楽しい時間であった。特に、アリサにとっては。

 そんな時間も、やがて終わりが来る。翠屋に着いたのだ。そして、その店先にセイバーとなのはがいた。
エプロン姿ではなく、普段着で。アリサがなのはを通し、小次郎の事を伝えておいたためだ。
 その姿に、小次郎は小さく笑みを浮かべると、静かにセイバーへ語りかけた。

「久しいな、セイバー」

「ええ、貴方も変わらぬようで何より」

「……何処が良い?」

「こちらへ」

 挨拶もそこそこに、二人はそう言って歩き出す。アリサはその後を追おうとして、なのはに止められた。
疑問を浮かべるアリサに、なのはは無言で首を横に振る。
 邪魔しちゃいけない。そうなのはが言っているように、アリサは思った。見れば、なのはの手も震えている。

(そっか……アタシもなのはも邪魔者扱い、か)

 視線を戻せば、既に二人は見えなくなっていた。アリサは、それをどこか寂しく思い、呟いた。

「小次郎の……バカ」

 その呟きは、夕闇の風に溶けて消えた。



町外れの山の中。士郎達が朝の鍛錬に使っている場所に、二人はやってきた。

「まさか、貴方までいるとは思いませんでした」

 セイバーはそう言って本来の鎧へと変わる。その手には、風を纏った聖剣を携えて。

「私の方こそ、よもやお主が居よう等とは思わなんだ」

 小次郎もそれに応じるように、本来の着物姿へ変わる。その手には、愛刀の物干し竿を携えて。

「どうしてもやるのですね」

「応よ。試合うぞ、セイバー」

 その声で、小次郎の雰囲気が変わる。その構えは、セイバーも良く知るもの。
『燕返し』そう呼ばれる小次郎の必殺剣。本来在り得ぬ現象を引き起こし、同時に三発の斬撃を叩き込むもの。
 簡単に言えばただそれだけ。しかし、それがどれ程恐ろしい技かは、その身で受けた事のあるセイバーには分かる。
何しろ、あのセイバーですら二度は避け切れないと言わしめた技なのだから。

「いきなりですか……」

「無論。あまり時間をかけると、騒々しいのがおるのでな」

 此度は急がねばならぬ。そう小次郎は苦笑いで答える。セイバーは、そんな小次郎を見て、微かに笑みを見せると、聖剣を構える。
だが、それは小次郎も初めて見る構え。どこか居合いを思わせるそれに、小次郎は恐怖と感動を覚えた。

「……私も以前のままではない」

「それは重畳。ならば……」

 そして、時が止まる。いや、正確には止まったかのように二人が動かなくなったのだ。
風が静かに吹き抜けていく。木々を揺らし、木の葉が音を立てる。そして、その揺れが収まった瞬間!

『っ!』

 空間が爆ぜた。繰り出される斬撃。だが、それは一筋しかなかった。

「……見事」

「……いえ、これは私だけの力では成し得ませんでした」

 小次郎の喉元に突きつけられた聖剣。小次郎の刀は振りぬかれる直前で止められている。
あの瞬間、小次郎が燕返しを放とうとした時には、セイバーは既に小次郎の懐に入り込んでいた。それに小次郎が気付き、対処しようとした時には遅かった。
 セイバーの聖剣が刀を弾き、燕返しを阻止し、そのまま喉元へと突きつけられた。

 セイバーが使ったのは、御神の技である『神速』だった。しかし、それは本物ではなく、あくまでセイバーが自ら模倣したもの。
魔力を開放して得られる元来の爆発力に上乗せし、まだほんの三秒しかもたないが、肉体のリミッターを外す事が出来るようになったのだ。
 士郎に何度も挑み、耳で聞き、体で覚えた奥の手だったが、その反動は大きく……。

「ぐっ……」

 セイバーの強靭な体を持ってしても、現状三時間は満足に動けなくなる。それが最大の欠点。
 故に、セイバーはこれを神速ではなく、『諸刃』と名付けている。

「成程、私と同じく真っ当な剣ではないか」

「え、ええ。『ミカミ』と言うそうです」

「御神?……それは興味深い。今度会わせてくれぬか、セイバー」

 そう尋ね、セイバーに肩を貸す小次郎。それに礼を言って、セイバーは立ち上がる。

「いいでしょう。キョウヤは強い相手と戦うのが好きですから」

「ほう。それは益々興味深い。私もお主のような芸当を身に付けねばな」

 そう言って笑う小次郎に、セイバーも笑みで返す。そして、内心思う。小次郎に御神を教えてよかったのだろうか、と……。




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遭遇編とりあえずラスト。

セイバーのオリジナル技は、メリットよりもデメリットの方が多い欠陥技。

なので、セイバーがこれを好んで使う事はあまりありません。

……苦情は受け付けますし、反省もします。でも、やりたかったんです。お許しを……。

9/15 加筆修正しました。



[21555] 0-14 鼓動編(無印ver)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/15 06:08
「バルディッシュ、セットアップ」

”セットアップ”

 フェイトの体を包み込む魔力の光。それがほぼ一瞬で衣服へ変化し、フェイトを包む。
それを見て、ランサーはしきりに感心していた。無論、バリアジャケットにではなく、バルディッシュにである。
 リニスが完成形だと胸を張っただけあり、それはランサーの目から見ても良い出来と思えたからだ。

「じゃ、早速やるか」

フェイトがバルディッシュの感触を確かめたのを見計らって、ランサーはそう笑って言った。
いつもの訓練。ただ、実戦形式は最後。それまでは、リニスとランサーによる戦術の講義。死線を何度も越えたランサーの話は、何にも勝る生き残る術であり、リニスはもとよりアルフですら、その話に聞き惚れる程の内容の英雄譚なのだ。
 まあ、ランサー本人はそんな気は更々ないし、意図的に話していない部分もある。

 ランサーの話が終われば、次はリニスによる魔法を用いた戦術の話に変わる。
これはランサーも興味を持っていて、特に設置型の魔法を聞き、ルーンと組み合わせられないかと本気で考えているぐらいだ。
 しかし、ランサーは魔法が使えない事が分かり、それは幻と消えた。

 そして、講義が一段落すると、ランサーとアルフが食事を要求。それに苦笑しながら動くリニスに、手伝いを買って出るフェイト。
ここまでがいつもの流れ。ランサーとアルフによる肉の奪い合い、それを何とかしようとするフェイトと、楽しそうに見つめるリニス。
 そんな風に、時間は過ぎる。だが、その流れは確実に何かの始まりを運び始めていた。


槍騎士、赤狼に語る




「ま、今日はここまでだな」

「……ですね」

 ランサーの視線の先には、大の字になって倒れているアルフと、バルディッシュを支えに何とか立っているフェイトの姿。
リニスは床に座り込み、疲れながらも笑みを浮かべていた。

 ランサーとの戦いは、フェイト達にとって得る物ばかりだった。
魔法が通じない相手に、どう対処すべきか。もし、勝てないならどうすればいいのか。そんな事を即座に判断し、実行しなければ、待っているのは敗北という名の死。
 無論、非殺傷の概念や次元世界の常識はランサーも知っている。だが、彼は言う。

「追い詰められた奴が、そんな事に構ってくれると思うな」

 そうバッサリと切って捨てた。そもそも、戦うのに自分の命を賭けない事自体、ランサーには信じられない事なのだ。

 故に、ランサーが叩き込んでいるのは、勝つ方法ではなく負けない方法。如何にすれば、格上を相手にしても負けずにすむか。
どうすれば逃げられるかを徹底的に教え込んでいた。
 フェイトはランサーに、持ち前のスピードを見出され、アルフと共に前衛としての心構えと役割を教え込まれ、リニスには司令塔としての重要性と後衛としての弱点を示唆された。

「撤退は負けじゃねえ。立派な戦術だ。どんなに笑われても、侮辱されてもいい。とにかく生きろ」

 ランサーはそう三人に告げ、最後にこう締めくくった。

「生きて生きて、最後に勝って笑うのさ」

 獰猛な笑みでそう言い切ったランサーに、フェイト達は何も言えず、ただそのランサーの顔を見つめるだけだった。
三人は知らない。それがランサーの本来の戦い方ではない事を。誰よりも逃げを打つ事を好まない事を。



 突然だが、ランサーは戦いが好きだ。それと同じぐらい宴会が好きだった。気に入った相手との語らいは、何にも勝るランサーの楽しみの一つなのだ。そして、この日は……。

『バルディッシュ完成おめでとー!』

「お、おめでとう……」

 バルディッシュ完成という宴会の名目があった。
ランサーとアルフのテンションに、若干気後れ気味のフェイト。そんな三人に、リニスは微笑み一つ。
 テーブルには、リニスの作った料理が所狭しと並んでいる。肉料理が多いのは、ま、ご愛嬌という奴である。
言い終わるや否や思い思いに手を伸ばすランサーとアルフ。その標的は肉料理。まさに肉食獣そのものだ。

「まったく、少しは落ち着いて食べてください」

「いいじゃないか。本当にめでたい事なんだか…って!それ、アタシの!!」

「へ、余所見する方が悪いんだよ」

 子供っぽい笑みを浮かべ、アルフの手にしていた鳥の唐揚げを口に入れるランサー。それに怒り心頭と言った顔で迫るアルフ。
そのやり取りは、まるで似た者同士というか兄妹みたいというか。とにかく、それをフェイトもリニスも呆れながらも、どこか笑顔で見つめる。
 そして、フェイトは思う。この場に母が居れば、どれだけ楽しいのだろうか。しかし、今プレシアは体調を崩し、自室で療養している。
リニスとランサーが世話しているので、大丈夫だとは思っているが、それでも会いたいと思ってしまう。

(でも、ダメ。ランサーが言ってた。母さんは私を大事にしてるから、病気がうつらないように、滅多に会っちゃいけないんだって)

 ランサーからそれを告げられた時、フェイトは嬉しくて思わず泣いてしまった。それをランサーが気まずそうにしながら、頭を撫でてくれたのを、フェイトは今でも覚えている。
 リニスが姉なら、ランサーは兄だとフェイトは思っている。

(アルフは……妹、かな?)

 そう考え、フェイトは笑みを一つ。いつか必ず、この輪の中に母を加えてみせる。そんな事を心に強く誓うのだった。



「具合はどうだ?」

「良くはないわね」

 ルーンを刻まれた部屋の中央にあるベッドに、プレシアは横たわっていた。
内側には、力の太陽を。外側には、守護を意味する大鹿を刻み、免疫力と生命力を増加させている。
 ランサーは、ルーン魔術を使ってプレシアの体を出来る限り休め、アリシアの事をリニスに任せる事を提案した。無論、自身が持つ魔術の知識を教え、それと魔法技術を組み合わせる研究も、既にリニスが始めている。

 ランサーが狙ったのは、プレシアの暴走阻止。それと、フェイト達との和解だった。
体を病魔に蝕まれ、精神的にもプレシアは追い詰められていったのだと、ランサーは読んだ。
 故に、愛する娘を突破口に、自分を見つめ直す時間を与え、以前の状態に近付けようとしていた。
勿論、それだけではない。可能ならばアリシアもどうにかしたいと考えている。何故ならば、彼女は……。

(フェイトの姉ちゃん、だからな)

 未だに互いの存在を知らない二人ではあるが、もし可能ならおそらく助けたいとフェイトは思い、アリシアもまたフェイトに会いたいと願うだろう。アリシアが喋れるのなら、きっとそう告げる。
 そうランサーもリニスも思っていた。だからこそ、余計プレシアを死なせる訳にはいかなかった。

(母親が、自分のせいで死んじまうなんて……させるかよ!)

 もしアリシアが目を覚ました時、母親が余命幾ばくもなく、それが自分のためだと知ればどうなるか。
今度はアリシアが、プレシアと同じ気持ちになるかもしれない。そこまで考え、ランサーは首を振る。
 そんな事はないと。自分が絶対に阻止してみせる。例え、この身が朽ち果てようとも―――!

 そんな事を思っているランサーを、プレシアは黙って見つめていた。
自分が人形と内心呼んでいるフェイトを守り、使い魔でしかないリニスを欲しがり、煩いアルフをからかい、そして―――。

(私を助けようとする、なんてね)

 プレシアはそう思い、微かに笑う。それは嘲笑。自分に対する嘲り。
己を省みず、ただアリシアの事だけを考えていたはずだった。でも、ランサーの一言がそれを間違いだと気付かせた。
 アリシアが生き返っても、自分が共に過ごせないなら、それに何の意味がある。あの楽しかった日々を取り戻すために、自分は行動していたのではなかったのか。そう気付いた時、プレシアはやっと冷静に自己を見つめる事が出来た。
 そして、思い出したのだ。かつて、アリシアと約束した事を。
だからこそ、ランサーの提案を受け入れ、こうして療養しているのだ。

「おかしなものね……」

「あん?」

「何で、こんな大事な事に気付かなかったのかしら」

 プレシアの言葉に、ランサーは僅かに考える。そして、心底呆れたように返した。

―――難しく考えすぎなんだよ、てめえは。

そんなランサーの言葉に、プレシアはそうねと返し、思いを馳せる。
あの失った日々。それが取り戻せる。そんな予感を感じながら……。



 アルフは困惑していた。ランサーに、お前に話しておきたい事があると言われ、ランサーの部屋に呼び出されていたからだ。
その時の真剣な表情を思い出し、アルフは顔を赤める。が、それを首を振って戻して、呟く。

「一体何だってのさ……。あいつはリニスが欲しいって言ったって、あの女が言ったじゃないか」

 この前、久しぶりにフェイト達の前に現れたプレシアは、リニスを見つめてそう告げた。
そして、リニスはランサーの傍でプレシアの世話にあたっている。
 今のリニスの様子は、見ていて分かるぐらい嬉しそうだ。アルフもリニスと同じく元は動物だ。だからこそ、余計分かる。リニスが女としてランサーに惹かれている事は。

(バカらし……何でアタシ、こんな事考えてんだろ)

 アルフにとって、ランサーはフェイトや自分を鍛え、食事を取り合い、よくちょっかいを出してくる奴でしかない。
決して、戦っている時は恐ろしいけどカッコイイとか、何だかんだで自分の好きなものは譲ってくれて優しいとか、たまに可愛いとかいい女だとか言われて嬉しいとか、思っていないのだ。

 そんな色々を思い出し、アルフは再び首を振る。そして、意を決してランサーの部屋へ入った。

「呼ばれたから来たぞ~」

「おう。ま、ここに座れよ」

 ランサーの部屋は、ほとんどモノがない。正確には、ベッドと時計以外ない。
物欲がないのか、ただ何かを置くのが嫌いなのか知らないが、とにかくランサーの部屋は綺麗だった。
 そんな事を思っているのが分かったのか、ランサーは笑って告げた。

「欲しいもんはあるが、暇がなくてな。何せ、今は色々忙しいしよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんだ」

 その割には、よく昼寝している所を見かけたりする。そうアルフは思って、言うのを止めた。これでは、いつものように雑談&からかいの流れにいく。そう感じて視線をランサーに送る。
 それをランサーも分かったのか。先程までの軽い雰囲気は鳴りを潜め、たまに見せる真剣な表情に変わる。

「話ってのは、簡単に言えば今後の事だ」

 ランサーはそう言って、低い声でただしと付け加えた。
その前にしなければならない話がある、と……。



 話を聞き終わり、アルフは感情のやり場に困っていた。大事なフェイトを道具としか考えていなかったプレシア。その彼女がフェイトの姉に当たる少女を想って行動し続けていた事。そして、その無理が祟って体を弱らせている事。それを何とかするべく、リニスとランサーが努力している事。
 プレシアへの怒りは当然ある。だが、ランサーに言われた言葉が、それを素直に出させないでいた。

―――アリシアがフェイトで、お前がプレシアならどうする。

 そう。どうしようもない怒りを出せないでいたのは、理解出来てしまったから。なぜプレシアが凶行に走ったか。どうしてフェイトを見てくれなかったか。

(辛かったんだ、あの女も)

 自分が失った愛する娘そっくりの存在。それから慕われる度に、心配される度に、己の過去を突きつけられている気分になっていたのだ。
だから、フェイトを娘ではなく道具として見なければならなかった。そうでもしなければ、自分の心が壊れてしまうと。
 それだけ考えて、アルフは涙ながらに叫んだ。

「でも!辛いのはあの女だけじゃないっ!フェイトだって辛いんだよ!」

 頑張っても頑張っても、プレシアはフェイトを見てくれない。どこまでいっても声さえ掛けてもらえない。
それでもフェイトは、いつも決まってこう言うのだ。

―――きっと、今度は笑ってくれる。

 そんなフェイトの表情を思い出し、アルフは突然立ち上がり、喉が張り裂けんばかりに吠える。
それは、最早言葉になっていない。しかし、そこに込められたものはランサーには伝わった。
 フェイトの想いが天に届けと。純粋な願いが、無垢な祈りが叶うようにと言わんばかりの強い思い。それが、アルフの全身を通して流れているように感じられたからだ。

 そんなアルフの咆哮を聞きながら、ランサーは静かにアルフの頭に手を置き呟く。

「もういい。もう分かった。だから、泣くな」

 ―――女に泣かれるのは、苦手なんだよ。

 その言葉に、アルフは我に帰る。ランサーはただ気まずそうに頭に手を置いているだけ。それだけ、それだけのはずなのに、アルフは涙が止まらなかった。
 それは、さっきまでの涙とはまた違う涙。先程のものが悲しみの涙なら、今流れているのは、嬉しさの涙。
自分と同じ思いを持っている奴がここにいる。フェイトを、リニスを、自分達を絶対に裏切らない存在がここにいる。
 そう思って、アルフは流れる涙を拭いながら、笑みを浮かべるのだった……。



 ややあって、アルフが落ち着きを取り戻したのを確認し、ランサーは本題を告げた。
それは、これからの事。フェイトの地力を上げ、どんな相手にも負ける事がないようにしていく。そして、アルハザードなんていう不確かなものじゃない方法で、アリシアを助けられるものを見つけ出す。
 それと同時に、プレシアの体を治す術を見つけなくてはならない。ルーンで出来るのは、精々延命治療のようなもの。根本的な解決策を見つけなくてはいけないのだ。

「で、お前にも協力してもらいたくってな」

「フェイトに教えないのはやっぱり……?」

「あ~、まあ、なんだ……出来るなら最後まで知らねぇ方がいい」

 そうアルフに告げるランサーは、どこか遠い目をしていた。
その目に、アルフが感じたものは哀しみ。きっとランサーも、この事で思う事があるのだろう。
 アルフはそう考えて、不敵に笑う。それは、アルフなりの励まし。いつも自分をやり込めてくれるランサーへの、ちょっとした仕返し。

「とか何とか言ってさ、話すのがメンドーなだけだろ」

「はっ、んなワケね~だろ」

「いや、そうだね。大体あんたはさ……」

 愚痴を言い始めるアルフ。それをあしらいながらも、たまにムキになって反論するランサー。それにアルフもヒートアップし、口論は三十分も続いた。
その終止符は、アルフのお腹の音。時計を見ればそろそろ夕食時。毒気を抜かれたからか、ランサーも笑みを浮かべてアルフを見る。
 そんなランサーの笑顔が気に入らなかったアルフは、鋭い犬歯を見せて尋ねた。

「何さ?」

「いや、やっぱ可愛らしいって言うんだよな、この場合」

「なっ?!」

「ま、お前もリニスもいい女だぜ。毛色は違うがな」

 二つの意味で、と続けてランサーは笑う。アルフはそんなランサーに、掴みかかるように迫る。
それをかわし、部屋から駆け出すランサー。それを必死に追い駆けるアルフ。逃げながらもからかうランサーに反論しつつ、アルフは思う。

(やっぱアタシ、こいつ嫌いだよ!)

 そう思いながら追い駆けるアルフ。だが、その顔はどこか楽しそうだった。




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準備編も後残り僅か。

プレシアは、きっと冷静になれればこういう人だと思います。

後、女所帯に漢は禁物。その気がなくても気を惹いちゃいますから。

本編、完全原作乖離したなぁ……。



[21555] 0-15 鼓動編(A's ver)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/16 14:55
 朝の日課である洗濯物を干しながら、アーチャーは視線を感じ振り向いた。
そこには、既にお馴染みとなった猫の姿があった。

「ああ、待っていたぞ」

 アーチャーは言うと、いつもの小魚ではなく、用意してあった御椀を猫の前に置く。
そこには俗に言う、ねこまんまが入っている。
 朝食の残りを使ったものだが、アーチャーは捨ててしまうよりは、有効活用するべきと考えて用意したのだ。

「残り物ですまないが、味は保障する。食べてくれ」

 そうアーチャーが言うと、それを理解したのか。猫は渋々と言った雰囲気で食べ始めるが、一口食べて動きが止まる。
それに、アーチャーの表情が強張った。まさか、自分の料理は動物には通用しないのか。そんな考えが一瞬過ぎり、思い直す。
 いや、自分の料理はあのトラにも通用したのだ。ならば、同じ猫科の生き物に通じぬはずはない。

 アーチャーが自分の料理に絶対の自信を取り戻すと同時に、猫が先程よりも速い速度で食事を再開した。
それを安堵の表情で見つめるアーチャー。だが、今日はこれで終わりではない。はやてに頼まれた事を遂行しなければならないのだ。
 その内容とは……。


弓兵、監視者と対峙する




「な、アーチャー。聞きたい事があるんやけど」

「どうした?分からない問題でもあったか」

 そう答えて、アーチャーは畳んでいた衣服をテーブルに置く。
今年、本来なら学校に通うはずだったはやては、通信教育という形で勉学に励む事にした。
 学校に行けない事もないが、無理して何かあったら大変だとはやて自身が決断したのだ。
本音は、アーチャーと離れたくないという事だったのだが、それを素直に言える程、はやては精神的に幼くなかった。

「ちゃう。勉強の事やなくって、猫の事や」

「……問題に集中しないか」

「それがちょう気になってな。あの猫ちゃん、オスなんかメスなんか聞いてなかったな~、て」

 はやての言葉に、アーチャーは呆気に取られるが、確かに自分も確かめてはいない事を思い出し、呟いた。

「言われてみれば確かに。確認していなかったな」

「な、そやから名前決めるためにも、明日確認しといて。もう、大分懐いたんやろ?」

 はやての言う通り、この三週間小魚や干物などを与えてかなり警戒心は薄れているが、それも以前と比べればだ。
まだどこか心を許していない気がアーチャーにはしていた。
 理由は猫の視線。大分マシにはなったが、未だにこちらを見る視線はどこか鋭い。おそらく、人間に余程酷い目に合わされたのだろうと、アーチャーは推察していた。

 密かに飼い猫にしようと企むはやてに、何度となくアーチャーは釘を刺しているのも、それが根底にある。
距離を置いて接するべきだ。それがアーチャーの結論。よって、名前をつけるのは反対しないが、飼い猫にするとなると話は別なので……。

「分かった。明日何とか確認を取っておこう」

「うん。頼むな、アーチャー」

「だが、性別が分かったからと言って首輪を買うのはダメだ」

「な、何言うて「ホームセンターのチラシに赤丸が打ってあった。あれは君の仕業だろう」

「しもた!……隠すの忘れとった」

 見事に、チラシのペット用品のあれこれにチェックがされていた。それを見て、アーチャーは軽く笑みを浮かべてはいたが、それをはやてが知る事はなかった。
 その後もはやてと雑談しながら、アーチャーはいつものようにその日を過ごした。



(さて、そろそろいいか)

 御椀にあった餌も綺麗に無くなり、猫は満足そうに舌なめずりまでしている。それを好機と見たアーチャーは、出来るだけ猫を怖がらせないように持ち上げた。
 そして、その陰部を確認して……暴れ出した猫に手を激しく引っ掻かれた。

「ぬ、やはりまだ触るのは早かったか?」

 威嚇の声を上げ、アーチャーを睨む猫。心なしか、顔が赤いようにアーチャーは思った。

「猫とはいえ、女性は女性か。……すまない」

 なんとなく感じた罪悪感を振り払うように、アーチャーは言った。その言葉に気を落ち着けたのか、猫は幾分か機嫌を戻したようで、アーチャーを見る目がいつものものに近くなった。
 それに、アーチャーも息を吐く。これで猫が二度と来なくなれば、はやてに何を言われるか分からなかったからだ。

 安堵するアーチャーに猫は一鳴きすると、塀に飛び移り、歩いてそのままどこかへ消えてしまった。
ここ最近の去り際は、こんな感じだな。そんな風に思いながら、アーチャーは残りの洗濯物を干していくのだった。



「それで、メスなんか」

「ああ。おかげで名誉の負傷だ」

「いや、チカンしたから当然やろ」

「誰のせいだと思っている」

「はやてはまだ危ないから、私に任せておけ……って言うたアーチャーのせい」

 微妙に似ているモノマネをして告げるはやてに、アーチャーは反論を諦めた。こうなると、結局はやてのペースになり、自分が折れなくてはいけなくなるからだ。
 最近、アーチャーははやてとの論戦勝率が七割を切ったように感じていた。
まぁもっとも、それは自分のせいなので、自業自得なのだが……。

「じゃあ、名前は女の子っぽくせなあかんな!」

「……好きにしたまえ」

 もう何を言っても無駄だ。そうアーチャーに思わせる八神はやて。現在、小学一年生。

「う~ん……フェリシア、はちょうちゃうな。……チャムチャムやと、長いし」

 あ~でもないこ~でもないと言いながら、楽しそうに笑うはやて。その顔を見て、アーチャーも笑みを浮かべる。
すると、そこへはやてが問いかけた。何かいい案はないかと。
 それに、アーチャーはやや考え、こう答えた。

「リン、と言うのはどうだ?」

 アーチャーにしてみれば、それは他愛いや悪意しかない冗談だったのだが、それを彼女を知らないはやてが気付くはずはなく、何度かその名を繰り返して……頷いた。

「良しっ!それや!!」

「なっ?!」

 驚くアーチャーを尻目に、はやては綺麗な名前だとアーチャーを誉めている。このままでは、リンと言う名で決まる。
そう考えた途端、どこからか赤いあくまの声で「猫に私の名前付けるなんて、いい度胸してるわね。待ってなさい。すぐそっちに行ってあげるから」と幻聴が聞こえた気がした。
 そう思ったアーチャーの行動は迅速だった。まず、はやての前に立ち、その両肩に手を置いて真剣な眼で告げた。

「すまないが、その名はやはりやめてもらえるか」

「なんで?綺麗やし、ええ「頼む」やけ……ど……」

 初めて見るアーチャーの真剣な表情に、はやては顔が火照るのを感じ、急いで俯いた。何故かそれをアーチャーには見られたくないと。
更にそれを悟られないために、普段よりも大き目の声で告げる。

「わ、分かった。なら、他の名前考えてな」

 その言葉に安堵したアーチャーは、善処しようと返してはやてから離れていく。その足音を聞きながら、はやては顔を押さえていた。
やはり少し熱い気がすると、はやては感じた。

(何やろ……?風邪やろか?でも、体はダルないし……)

 きっと恥ずかしかったのだろう。そう結論付け、はやては再び勉強に意識を向ける。
いつか、歩けるようになった時、学校の授業についていけるように。そう思って、はやては強い志を胸に、問題集へと挑むのであった。



 図書館の前で、立ち尽くすアーチャー。彼は今はやてを待っていた。本来ならついて行くのだが、はやては自分で行ける所は一人で行きたいと、アーチャーを待たせて、中へと入っていった。

(用件は返却のみだし、そう心配する事もないか)

 そう考え、アーチャーは笑みを浮かべる。少々過保護かもしれないと思ったからだ。
時折吹き抜ける春風が、日差しを浴びる体に心地良い。そうアーチャーが感じた時、周囲の空間が色褪せて、一切の音が聞こえなくなった。

「ほう……結界の類か。この世界に魔術師はいないはずだったのだが、私も耄碌したかな?」

 解析せずとも、アーチャーにはこれが結界である事はすぐに理解出来た。過程こそ違え、世界が変わるように感じると言う点では、彼の切り札と同じなのだから。
 そんな風に軽口を叩きながら、周囲を警戒しつつアーチャーは気配を探る。

「お前は何者だ」

 そんなアーチャーの目の前に、仮面を着けた男が突然現れた。その視線に、アーチャーは心当たりがあった。

「貴様か。ずっと私を監視していたのは……」

「……答えろ。お前は何者だ。なぜあの少女の下にいる」

 仮面の男の言い方に、アーチャーが微かに表情を変える。それは怒りと嘲り。

「下にいる、だと?違うな。散々監視しておきながら、そんな事も分からなかったのか?」

「何?」

「私ははやての下にいるのではない……共にあるのだ!」

 気合一閃。アーチャーは投影した干将・莫耶で男に斬りかかった。その鋭い一撃に、男が取った行動は回避でも防御でもなかった。

「何だと?!」

 男の前に、バリアとでも呼ぶべきものが展開されていた。それが干将・莫耶の切っ先を防いでいる。
そして、男から何か嫌なモノを感じ取ったアーチャーは、即座にその場から離れた。
 直後、そこに光の弾が殺到した。それを察知したアーチャーの行動に、男は感嘆の声を上げた。

「良く気付いたな。もう少しだったんだが」

「生憎、悪運は強くてね。こういう時の勘は良く当たる」

「成程な」

 苦笑している男だったが、その体に隙はなく、アーチャーも責めあぐねていた。
あまり手の内を晒したくないという思いと、相手の魔術が問題だった。
 詠唱もなく、瞬時に展開出来る防御魔術など、アーチャーも聞いた事がなかった。あのまま押し切っていれば、おそらくあの盾は壊せるだろうが……。

(他にも何か隠していると思った方がいいな)

 相手の出方も分からず、未知の魔術師相手に戦うには、状況が悪すぎた。何しろ、ここは結界の中。相手のテリトリーなのだ。
だからこそ、アーチャーは現状を打破する術を模索する。宝具クラスを投影すれば、この結果を破壊出来るだろう。だが、それはリスクが大き過ぎる。

「……一つ答えろ」

「何かな?」

「お前は……守護騎士ではないのか?」

「守護騎士?……ふっ、この身が騎士に見えるかね。私はただのしがない弓兵だよ」

「つまり、守護騎士ではないのだな」

「……もしそうだとしたらどうする」

 アーチャーの声が一段と低くなる。そして、その身に纏う殺気もより濃いものへと変わっていく。
それに男は―――構えをといた。
 それに警戒を強めるアーチャーだったが、それを気にせずに男は言った。

「もうお前に用はない」

「おや……逃げるつもりか?」

「ああ、そうさせてもらう」

 アーチャーの挑発を、アッサリと男は受け流し、その場から空に向かって―――。

「飛んだだと……」

「一つだけ忠告する。あの本には関わるな」

「待て!あの本が狙いなら、何故奪いに来ない。いや、そもそもどうして監視に留める。その気になれば―――」

 アーチャーの言葉に答える事なく、仮面の男は姿を消した。それと同時に、色褪せていた景色が戻り、日常の音が甦った。
そんな中、アーチャーは先程の戦いで得た情報を整理していた。

(得られた情報は、守護騎士と言う言葉に……謎の魔術)

 それに、とアーチャーは呟き、視線を空へと移した。

「あの本に関わるな、か」

 それはつまりはやてに関わるなと言う事だ。そして、関わり続ける限り、またあの仮面の男が現れる。
あの得体の知れない攻撃は厄介だが、勝てぬ相手ではない。アーチャーはそう感じていた。
 次に戦う事があれば、必ず倒す。それだけの確信が出来る要因があるからだ。
それは、相手から感じた魔力量。確かに強大だが、それはあくまで人間としては、だ。加えて、戦い慣れはしているようだが、接近戦は不得手のようだった。
 その証拠に、アーチャーの剣撃をかわせなかった。様子見と情報収集をするために加減した一撃だったが、相手はそれに反応できなかったのだ。
ならば、この身で勝てない者ではない。

「アーチャー、お待たせ」

「……意外に遅かったな」

 はやての声に、アーチャーは思考を止めた。それと共に、気持ちを日常に切り替え、何事もなかったように表情を作る。

「返却が並んどってな。それで時間食ってしもた」

「それなら仕方ないな。で、今日の昼は何にする」

 いつもの様にはやての車椅子を押し始めるアーチャー。それに笑みで返すはやて。
穏やかな日差しの中、二人の声が楽しそうに響く。そうして離れていく後姿を、あの猫が黙って見つめていた……。




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準備編もやっと残すは数話。

情報を得るため、全力で戦わないアーチャーと、その存在の正体を知りたい仮面の男。

結局、アーチャーが得られた情報は極僅かですが、果たしてこれがどうなるのか。

……はやて達の話終わりはいつも猫(汗



[21555] 0-16 交流編その1
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/17 05:52
 その日、すずかは図書館に来ていた。読書好きのすずかは、買うだけでなく、こうして手軽に本を読める図書館にもよく顔を出していた。
それに、付き添う形でライダーも来ているのだが、最近すずかはむしろ自分がライダーの付き添っているような感覚があった。
 今も難しい専門書の辺りで本を探している。ライダーがよく読むのは、とても買えないような高価な本。

「……また貸し出し不可なんだろうなぁ」

 すずかの視線の先には、大きな本をその場で読み始めたライダーの姿があった。
ライダーがその場で本を読むのは、大抵そういうケースなのだ。
 どうして座って読まないのか、とすずかが尋ねた際、ライダーは座りに行く時間がもったいないと答えたから。
なので、今のライダーは完全に読者モード。おそらくすずかが声を掛けるか、本を読み終わるまでその場から動かないだろう。

 そんな光景に笑みを浮かべ、すずかも再び周囲の本を見渡し、興味が湧く物がないか探し始めた。
その時、視線の先に車椅子の少女が映った。その少女は、すずかも何度か見かけた事がある。
 どうやら、棚の中段にある本を取ろうとしているらしい。だが、車椅子の上に背丈が低い事もあり、手が届かない。

「あのままじゃ……危ない、よね」

 そう思うや否や、すずかは踏み台を探した。そしてその少女の近くに立って、目的の本を手に取って少女に手渡した。

「はい。これだよね?」

「あ、どうもありがとうございます」

 その独特の喋り方に、すずかは若干驚き、そして笑みを返す。

「どういたしまして。でも、ダメだよ。見てて危なかったから」

 少しドキッとしちゃった。そうすずかは続けた。それに、少女は少しバツが悪そうに頬を指で掻く。

「ほんま助かりました。実はわたしも、これ、ちょう危ないかな?って思っとって」

「ホント何もなくてよかったよ」

「ほんまにありがとうございました」

 そう言って頭を下げる少女に、すずかは微笑み尋ねる。

「ね、お名前教えてもらってもいい?」

「えっ?」

 そんな事を聞かれるとは思わなかったのか、少女の顔が驚きに変わる。自分も逆の立場ならそうなるだろうな、と想像し、またそんな反応を好ましく思いながら、すずかは自分の名を告げた。

「私、月村すずかって言います」

「あっ……ええっと、わたしははやて。八神はやて言います」

「はやてちゃん、だね。……うん。可愛い名前」

「そんな……。それ言うたら、月「すずかでいいよ」……すずかちゃんもキレイな響きやんか」

 はやての言葉に、すずかは照れ笑い。それを見て、はやてが更に誉め始めて数分で、二人のやり取りはお開きとなる。
はやての背後にライダーが現れたのだ。それに驚き固まるはやて。小声で「メイドさんや……」と呟いているが、その目はしっかりとライダーの胸部に注がれている。

「スズカ、そろそろお昼です」

 ライダーの言葉に、すずかは手元の時計に目をやる。確かに時刻は正午を告げようとしていた。

「わかった。じゃあはやてちゃん、また今度」

「うん。またな、すずかちゃん」

 互いに手を振り合い、別れる二人。ライダーは、そんな様子を眺め、不思議がる。
すずかの交友関係を既に把握しているライダーにとって、はやては未知なる存在だったからだ。

「スズカ、彼女は?」

「はやてちゃん。今日知り合ったばかりの子」

「そうですか……」

 ならば納得です。そう呟きライダーは歩く。その手は、すずかと繋がれていた。彼女達は知らない。それが、とても大事な出会いになる事を。


令嬢、夜天の主と友になる




「少し遅くなってしまったか」

 今日は休日という事もあり、はやてを図書館に送り、アーチャーは一人買い物を済ませていた。
本当ははやても行きたがっているのだが、アーチャーは混雑が予想されるため、周囲の迷惑になりかねないと、はやてを説得し、祝祭日や休日等の日は、自分一人で買い物を済ませる事にした。
 まあ、その反面はやてが色々と要求する事になり、アーチャーに迷惑を掛けているのだが、アーチャーもはやてもそれを互いに楽しんでいる節がある。

 そして、今日はこの後、はやてが欲しがっているゲーム機を買いに行く事になっている。そのため、軽く摘める物をと思い、アーチャーはサンドイッチを作ってきたのだが、そのために少し時間を食ってしまったのだ。

「ん?……上機嫌だな」

 アーチャーの視線の先には、笑顔で手を振るはやての姿があった。その様子に、軽く意外性を感じたアーチャーは、疑問を浮かべたまま車椅子の後ろに立つ。

「ちょう遅刻や」

「すまない、簡単な昼食を作っていたのでね。後で公園ででも食べよう」

「そか。ま、今日は気分がええし、大目に見たる」

 そう言って、はやては再び満面の笑顔を見せる。それは、アーチャーの見せたバスケットの中身に期待しているだけではない。
アーチャーはそう思い、聞いて欲しそうに自分を見つめるはやてに苦笑しつつ、尋ねた。
 何か良い事でもあったのか、と。それにはやては、よくぞ聞いてくれましたとばかりにすずかとの出会いを語り出した。
それを合図に車椅子は動き出す。柔らかな日差しを浴びながら、カラカラと音が響く。その音に混じってはやての声が聞こえている。

「で、今に至るっちゅーわけや」

「成程、良く分かった。で、もうそろそろお目当ての店だぞ」

 どこか笑みを浮かべ、アーチャーは視線ではやてを促す。その先には、ゲームショップがあった。
それを見て、はやては急かす様に視線をアーチャーに向ける。それに応じ、アーチャーは車椅子の速度を上げる。
 それに楽しそうな声を上げるはやて。その声に悪戯じみた笑みを返し、アーチャーは更に速度を上げる。
それにははやても驚くが、即座に急停止を掛けるアーチャー。それでもはやてが落ちないようにしている所が彼らしい。

「何してくれるんや!」

「何、君が楽しそうだったのでね。少しばかり刺激を増やしただけだ」

 満足して頂けたかね?そう笑うアーチャーに、はやては頬を膨らませる。仲の良い兄妹のような姿がそこにはあった。



 麗らかな昼下がり。庭にあるテーブルに腰掛け、すずかはライダーが淹れてくれた紅茶を飲みながら、春風を感じていた。
その膝には、猫が一匹心地良さそうに眠っている。それは向かいに座っているライダーも同じ。膝に乗った猫にどこか躊躇いながらも、その背を撫でている。
 月村家は猫屋敷と呼んでもいい程猫がいる。その世話もノエル達の仕事の一つなのだが、ライダーはこの仕事だけが唯一苦手だった。

「はやてちゃん、か。また会えるといいな」

「会えるでしょう。彼女もよく見かけます」

 すずかの呟きに、ライダーはそう答える。彼女は、平日も暇を見つけては図書館を訪れている。なので、はやての事も知ってはいる。
だが、彼女の傍にアーチャーがいる事には気付いていない。受肉し、存在が完全に確立された状態では、サーヴァントと言えど気配は人とそう大差ないものになってしまう。
 それにいかなる運命の悪戯か、ライダーがはやてに遭遇する時に限って、はやては返却のみで帰ってしまうのだ。よって、待っているアーチャーと鉢合わせる事もなかった。

「そうだね。……ライダーも大分手馴れてきたね」

「そうでしょうか?未だに、これだけはファリンに勝てません」

 それ以外なら圧勝なのですが、と言いながら、ライダーは猫の喉を触る。それが嬉しいと言わんばかりに、猫はご機嫌な声を出す。

「そうだね。ライダーに勝てる唯一の仕事だって、ファリンも自慢してたっけ」

「それ以外でも頑張って欲しいけどね」

「お姉ちゃん……」

 突然現れた忍は、当然のように空いてる椅子に座り、紅茶を無言で催促する。ライダーもそれを分かっているので、座った時点でカップに紅茶を注ぎ出している。
 程なく出てきた紅茶に、満足そうに頷き、忍はカップに口をつける。

「もう、お姉ちゃんったら自分で注ごうよ」

「人に淹れてもらうから美味しいんじゃない」

 それに、一応ライダーもメイドなんだからと、忍は笑う。ライダーもその言葉に頷き、すずかにこう告げた。

「そうですよスズカ。シノブはものぐさな「っ!……ちょっとライダー!」

 紅茶を噴出しそうになりながら、忍はライダーを軽く睨む。それに、何でしょうと言いたそうな顔でライダーは首を傾げる。それに更に不機嫌な眼差しを向ける忍。そして、それを笑いを堪えながら見ているすずか。

「誰がものぐさよ、誰が!」

「シノブですが……?」

「違うでしょ!」

「何がです?」

 そんなやり取りが展開され、すずかはもう限界だった。堪えていた声を出し、その笑い声に二人は口論を止めた。すずかが笑う事は珍しい訳ではない。
 だが、声を上げて笑う事はあまりない。今もお腹に片手を当て、片手で何とか声を殺そうと口を覆って笑っている。そのためだろう、膝で眠っていた猫が起き出し、どこかへ行ってしまう。
 それを眺めながら、すずかは申し訳ない気持ちを抱きながらも、声を抑える事が出来ずにいた。
そんなすずかを、忍とライダーはやや唖然とした表情で見つめていたが、やがてそんな風に笑うすずかに、どちらともなく微笑む。

「ま、もういいわ。何か気が削がれたし」

「同感です。スズカは心を癒す力でもあるのでしょうか?」

「さて、ね。……ライダー、もう一杯もらえる?」

「ええ、分かりました」

 穏やかな昼下がり。月村家の庭を爽やかな風が吹き抜けていた……。



 それから一ヵ月後、図書館に楽しげに語らうすずかとはやての姿があった。あの後も度々出会い、本の話をするようになり、もう友人と呼んで差し支えない関係になっていた。

「今日もライダーさん来てへんの?」

「うん。気を利かせてくれてるんだと思う」

 そう。二人が楽しげに話すようになってから、ライダーは意図的にすずかと図書館に行く事を避けるようになった。
それは、なのは達と違って中々会う事が出来ないはやてに配慮した事と、以前からの懸案だった、自身の事を調べるための時間を取るためでもあった。

「そか。優しい人やな、ライダーさん」

「それ、ライダーに伝えとくね。きっと照れると思うけど」

「あ、ええなぁ。照れるライダーさんとかわたしも見たい」

 はやては、既にライダーとも会話する仲になっていた。と言っても平日にたまに会えば、くらいのものだが。
ちなみに、何度かその胸に手を出しそうになって踏み止まった事が多々ある。もっとも、はやてが気付いていないだけで、ライダー自身はそんなはやての葛藤を見ていたのだが、何も言わないだけだったりする。

「そや。今度、わたしの家に遊びに来て。面白いゲーム買うたんよ」

「そうなんだ。……じゃあ、来週の日曜日は大丈夫?」

「よっしゃ。なら、来週な」

「うん。来週ね」

 はやてが出した小指にすずかも小指を絡ませ、互いに笑顔を見せる。

「いつか、アリサちゃんやなのはちゃんにも会わせたいんだけど……」

「あ~、良く話してくれるお友達やな。写真で顔は知っとるし、わたしも会いたいけど……」

 そう言って二人揃って苦笑い。二人の共通の話題はやはり本。だがアリサはともかく、なのははあまり本を読まないイメージがある。
そうすずかは思っている。それを聞いているはやても、一人会話に入れずオロオロするなのはを想像した。
 二人の苦笑いは、つまりそういう事であった。

「あ、でもゲームはなのはちゃんも好きみたいだから」

「おお、なら何とかなるか」

 そう言ってまた笑う。今度は水を得た魚のように、元気な姿のなのはを思い浮かべたから。

「なんや、わたし達けっこうヒドイ事考えてる気ぃする」

「ふふ、同じく」

 そう言って笑みを浮かべ合いながら、すずかは思う。きっと、アリサやなのはとも、はやては仲良くなれると。
何しろ、あのライダーと物怖じせずに話す事が出来るのだから。なら、アリサやなのはにも同じように接する事が出来る。そうすずかは結論付け、いつか来るだろう日々に思いを馳せる。

 はやてを加えた四人で楽しく過ごす、そんな光景に……。




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交流編その1

原作ではどうか知りませんが、ライダー効果ですずかが図書館に来る率アップ。

そのため、はやてと遭遇する可能性が上がり、こうなりました。

……関係ないんですが、アリシアってプレシアの事何て呼んでましたっけ?薄っすらと覚えてるのだと「ママ」だったような気がしているんですけど……。



[21555] 0-17 交流編その2
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/23 22:05
「じゃあ、また明日」

「うん。またな~」

 互いに手を振り合い、はやてとすずかは別れた。
いつものように図書館で会話し、共に連れ立って外に出た所で、また若干言葉を交わして別れる。
 二人が友人となって早三ヶ月。最初は図書館のみの付き合いだったが、今ははやての家にも遊びに行く仲になっていた。
そして、それに伴い……。

「今度はなのはちゃん達も一緒だからね~」

「分かっとる~。楽しみにしとるな~」

 やっと都合をつけ、はやてとなのは達の初顔合わせが行われる事となったのだ。
明日が待ちきれないといった顔のはやて。それを微笑ましく思うアーチャー。
 この時の二人は知らない。その楽しみにしている明日が、将来を左右する出会いの日だったと……。


少女達の想いと繋がる絆




 家までの帰り道、はやてはずっと翌日の事を話していた。何をするか、何を話すか、考え出したらキリがない程話題が湧き出してくる。
そんなはやてに、アーチャーは内心微笑ましく感じながら告げる。

「相性最悪ならどうする?」

「お~、それは大丈夫や。わたしにはアーチャーがおるし―――」

 アーチャーとうまくやっていけるなら、大抵は平気やから。はやてがそう口の端を吊り上げて言い切り、アーチャーの方を見上げた。
それにアーチャーも負けじと笑みを浮かべて呟く。
 思い込むのは勝手だが、相手は子供だという事を忘れるな。それにはやては頬を膨らませてブーイング。
事実だと切って捨てるアーチャーに、大人げないと呟くはやて。それにアーチャーは皮肉屋スマイルで返す。そんないつもの雰囲気。

「さて、今日はどうする?」

「そやな~、軽く蒸し暑いし……涼しげなもんがええ」

「承知した。なら、冷やし中華に棒棒鶏バンバンジーといこう」

「おっ、中華やな。なら、わたしはササミ裂くのやりたい!」

 嬉しそうに宣言するはやてに、アーチャーは笑みを浮かべ、ならついでに錦糸卵でも作ってもらうかと返す。
それにはやては少し不満顔。アーチャーから家事を習い出してかなり経つが、未だにその腕はアーチャーには遠く及ばない。
 だからだろうか。それを知っているアーチャーを睨み、文句を述べるが悉くあしらわれてしまう。
そんな会話が車椅子の立てる音と混ざりながら、夏の空に消えていった。



「……時間、かかっちゃったな」

 すずかはそんな事を呟くと、入道雲が流れる空を見上げる。
本当なら、もっと早くはやてとなのはやアリサを会わせられるはずだったが、前準備として互いの事を知っておいた方がいいとすずかが考えた事と、急になのはが予定が空きにくくなったのが重なった。
 そのため、様々な情報をやり取りし、なのはとアリサが会いたいと言い出してくれたのだ。
はやてにその話をした時、嬉しかったのか、その目が涙目になっていたのをすずかは見た。

「私が会ってほしいなんて言うのは、何か違う気がしたんだよね……」

 二人がはやてに会いたいと思ってくれるようにしよう。自分のために都合を付けさせる事に、罪悪感を感じていたはやてのため、すずかが選んだ方法がそれだった。
 おかげで時間は掛かったが、はやても何の躊躇いもなく会う事を快諾したし、なのはとアリサも優先的に予定を空けてくれた。

 そこまで思い出し、すずかは笑う。
はやてがかなり読書好きと教えた時、なのはは予想通りに感心し、アリサに突っ込まれていた。
 なのはとは大違いね、と。

(それから、読み易くて面白い本ない?って聞かれるようになったんだよね)

 そう、なのはは国語が苦手だったが、はやて効果(アリサがこう名付けた)により、その成績を向上させていた。
明日会う時にお礼を言わなきゃと、なのはが言っていたので、おそらくはやては戸惑い、理由を知って笑うだろうとすずかは予想している。

「……っと、いけない。そろそろ帰らなきゃ」

 まだお昼前とは言え、もう日差しは真夏の太陽が激しく照り付け南国並み。日射病にならないようにしなきゃ、と思いすずかは家路を歩く。その足取りは、心境に呼応するように驚く程軽かった。



「明日のトレーニングは中止、ですか?」

「ごめんね、セイバー」

「いえ、それはいいのですが……どうしてです?」

 セイバーが小次郎と再戦した翌日から、なのははセイバーとトレーニングをやりたいと申し出た。
最初は、休日にしているランニングかと思ったセイバーだったが、なのはが望んだのは、もっと本格的なものだった。
 さすがにそれはと、セイバーは止めたのだが、なのはの意志は強く、士郎監修のメニュー以外の事を絶対しないという条件で、なのはとセイバーのトレーニングが始まった。
 今では、体力と反射神経、動体視力ならアリサにも勝てる自信がなのはにはあった。

 なのはがそんな事を言い出した理由。それは、少しでもセイバーに追いつきたいと考えたから。置いていかれたくないと、思ったから。
セイバーに守ってもらうだけじゃなく、自分もセイバーを助けられる存在になりたいと、心から思った。
 そのために、苦手な運動方面を鍛えようと考えた。長所を伸ばす前に、欠点を少しでも改善しておこうと思ったからだ。
おかげで、アリサやすずかとも中々遊ぶ事が出来なくなったが、アリサは小次郎の一件で理解を得ていたし、すずかは自分が納得するまで頑張ってと励まされた。

「明日、すずかちゃんのお友達のお家に遊びに行くの。だから」

(はやてちゃん、だっけ。本好きの明るい賑やかな子だって、すずかちゃんは言ってたけど)

「そうでしたか……わかりました。では、明日は休養日とします」

「ありがとう、セイバー」

 笑顔でお礼を言うなのはに、セイバーも笑みで返す。もう少ししたらお盆になる。そうなったら、セイバーだけじゃなく、家族ぐるみでの修行が待っている。キャンプの用意を持って二泊三日という日程の、実際はキャンプでしかないのだが、なのはにとっては山登りだけでも、結構なトレーニングとなる。
 その時に、今日の分を取り戻すぐらい頑張ろう。そう思い、決意を改めるなのはであった。



 アリサは上機嫌だった。それは明日、八神はやてに会えるからだ。なぜ、それがここまで嬉しいのか。それは、はやてがすずかから見せてもらった写真の感想にある。
 はやてはアリサの髪の色を見て、羨ましそうに「キレイな髪の毛やなぁ……」と言った。それをすずかから聞いた瞬間、アリサは即決ではやてと会う事を承諾した(アリサは自分の髪の色等にコンプレックスを持っている)のだが、なのはがあの一件以来自分を鍛え始めたため、今日までそれが延びてしまったのだ。

(でも、それも今日でおしまい。なのはも、やっとトレーニング休んで会う気になったし、楽しみね)

 すずかの話によれば、はやては親戚の人との二人暮らしで、関西系の訛りがある子。趣味は読書と料理との事。
それを聞き、自分も何か料理でも習おうかと思ったが、それを止めた人物がいた。
 バニングス家の専属庭師にして、アリサのボディーガードの佐々木小次郎である。彼はアリサから、そう相談を受けた際、即座に答えた。

「止せ止せ。ありさが炊事など無理よ」

「どうしてよ?」

「生粋の箱入り娘ならば、確かに家事は出来た方が良いが、生憎ありさは虎の「トラじゃなぁぁぁぁい!!」

 その時のやりとりを思い出し、思わず拳を握るアリサ。しかしそれも、ふと緩められる。

「……お淑やかになれば、小次郎はアタシの傍にいるのかな……」

 思い出すのは、あの日セイバーと小次郎が戻ってきた後の事。疲れた顔のセイバーと、どこか嬉しそうな顔の小次郎が帰ってきたのは、二人がアリサ達の前から消えて三十分ぐらい後の事。二・三言セイバーに何かを告げ、小次郎は楽しげに帰路についた。
 その道すがら、アリサは何も聞けなかった。初めて見た表情の小次郎。それをもたらしたのがセイバーだったと言う事は、アリサの心に強い衝撃を与えた。

 あの日以来、小次郎はアリサに許可を得て、早朝の高町家に通うようになった。その理由は後日なのはが教えてくれたため、納得できたが、それでもアリサの気分は晴れなかった。
 結局、小次郎がセイバーの所に行っているのが気に喰わないのだろうと、アリサは考えている。アリサは、まだ恋愛感情など理解できない。
好きと愛してるの違いなど明確に分からない。でも、好きと嫌いの違いは分かる。そして、それで言えば小次郎は……。

「好きになれる訳ないでしょ、あんな奴」

 そう吐き捨てるように言って、アリサは誰に聞かせるでもなく、ポツリと呟く。

―――でも、嫌いじゃない。

 アリサ・バニングス、小学一年生。その心は、早くも多感な時期を迎えている。



『こんにちは~』

「お~、いらっしゃい。とりあえず上がって」

『お邪魔しま~す』

 元気良く挨拶を交し合うなのは達。声がキレイに揃っているのは、仲がいいからなのか。そんな三人にはやては笑みを一つ浮かべて、リビングへ三人を案内する。
 そこには、お茶の用意をするアーチャーの姿があった。

「あ、お邪魔してますアーチャーさん」

「ん?ああ、すずかか。それと、髪を結んでいる方がなのはで、ブロンドの方がアリサか」

 初対面の少女達を簡単に呼び捨てするアーチャー。だが、そんな事を気にするような事はない。
既にすずかによって、アーチャーの事も知っていた二人は、聞いた通りの人なのかと理解し、それぞれ自己紹介と挨拶を終える。
 それにアーチャーは軽い笑みを浮かべ、挨拶と共に自己紹介をした。

「さて、まずは座ってくれ。それと、君達は紅茶は平気かな?」

「はい」

「ええ」

 なのはとアリサの返事を聞き、グラスに注がれていく紅茶。それを淹れるアーチャーは、実に様になっていた。思わずアリサとなのはが見入る程に。
そんな二人の様子に、はやてとすすかは微笑み一つ。その光景は、自分達が初めて同じものを見た時とまったく同じ反応だったからだ。
 きちんとティーポットを使い、水で紅茶を淹れ、それを冷蔵庫で冷やすという手間を掛けたアーチャー謹製のアイスティ。
それを四つ。目にも涼やかなグラスに入れられ、手前に置かれる。好みで使えるようにミルクまで添えて。

「ふぇ~……」

「……やるわね」

「ふふっ」

「えっと、ま、アーチャーはこういう人なんよ」

 一切の無駄なく動くアーチャーの所作に、感心するなのはとアリサ。それに慣れたとばかりに笑うすずかと、どこか照れくさそうなはやて。
そんな四人に構わず、アーチャーは茶菓子のシフォンケーキを切り分けている。
 ちなみに、今日のこの時のために、アーチャーは二日前から材料や茶器を準備していたりする。

 キレイに四等分されたそれを、グラスの横に置き、アーチャーは仕事は終わったとばかりにリビングから出て行こうとする。
それをはやては止めなかった。同じくすずかも。なのはとアリサだけが少し気にしていたが、はやての笑みに理由を思いついたらしく、その顔に納得の色が見えた。

「優しい人だね」

「ちょうイジワルやったりするんやけどな」

 はやての言葉に、アリサが「確かにそんな感じね」と返した途端、全員が笑う。と、そこでなのはがある事に気付いた。

「にゃはは……って、まだはやてちゃんに自己紹介してないよ!?」

「あ~、そういえばそうね。……何か、もっと前から友達だった気がしてたわ」

「だね。じゃ、まずはやてちゃんから……」

 すずかの言葉に、はやては頷くと、なのは達の顔をしっかり見つめて微笑んだ。

「こうして会うんは初めまして、やね。わたしは、八神はやて言います。はやてって呼んでくれると嬉しい」

「初めましてはやてちゃん。私は高町なのは。なのはでいいよ」

「初めましてはやて。アタシはアリサ・バニングス。アリサでいいわ。それと、髪の事誉めてくれてアリガト」

 笑顔で互いを見つめ合う三人。それを嬉しそうに見守るすずか。
その光景は、まるで以前からの友人であったかのような雰囲気が感じられるくらい、何の違和感もなかった。

 それから、四人はとにかく話した。学校の事や家の事、家族の事に趣味の事などなど、喋り足りないと感じるぐらい話した。
予想通り、なのはのお礼の言葉にはやてが困惑し、理由を聞いて納得しつつ笑った。
 そして途中に、アーチャー作のお昼(エビピラフにミニトマトサラダ×4)を食べて、それから夕方までゲームをしながら過ごした。
更におやつとして、アーチャーが差し入れたホットケーキとホットココア(冷房で体が冷えているので)を平らげ、さすがにこれ以上は無理だと思う時間まで、四人は遊び続けた。

「じゃあ、またね」

「今日は楽しかったわ」

「またね、はやてちゃん」

 玄関で思い思いに手を振る三人。それを心から嬉しく思い、はやても負けじと手を振り返す。

「うん。わたしも楽しかったわ。また遊ぼな~!」

 はやての声に、三人は笑顔で頷く。そうして三人が見えなくなるまで、はやては手を振り続けた。
そんな光景を見ながら、アーチャーはなのはから感じた魔力に自分の想像が当たっている事を確信した。

(あれだけの魔力を隠しもせず、それに対して動きがない。やはり、この世界に魔術師はいない。……だが)

 以前自分を襲撃してきた相手を思い出して、アーチャーは眉間に皺を寄せる。
あの仮面の男は、確かに魔術を使ってきた。なら、どういう事なのか。そこで思いつくのは自分と同じく……。

異端者イレギュラー、か)

 そう考えれば納得がいく。この世界とは違う世界からやってきて、何らかの理由であの本に目を付けたが、何か事情があり直接行動には移せない。でなければ、アーチャーが現れる以前にあの本が奪われている。あの謎の魔術は、異世界のものだろう。ならば、自分が知らないのも頷ける。
 だからこそ、監視していつか行動出来る機会を待っているのだろう、とアーチャーは結論付けた。
そんな風に思考に耽るアーチャーを、はやては不思議そうに見つめていた。難しい顔で物を考えている時のアーチャーは、何か自分の知っているアーチャーではない気がしているからだ。
 そこへ、熱風が吹きぬける。その暑さに顔をしかめるはやてと、我に返ったアーチャー。

「む、そろそろ家に入ろう」

「そやな。な、今日は晩御飯何?」

「豚が安かったのでな、生姜焼きにしようと思っている」

 そんな会話をしながら二人は家の中へと戻っていく。楽しげに笑みを浮かべながら。
それはいつもの日常。穏やかで緩やかな平和な時間。だが、その時間がいつまでも続かない事を、二人を見つめる猫だけが知っていた。




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交流編その2

なのは達の交流の次は遭遇編のその4

ついにアーチャーが彼女達に出会います。

それが終わればやっと無印突入です。



[21555] 0-18 遭遇編その4
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/19 03:17
 今日も賑わう喫茶翠屋。その賑やかな店内の一角だけが沈黙に支配されていた。
そこにいるのはメイド服のライダーとエプロン姿のセイバー、そして―――Tシャツにジーンズ姿のアーチャーだった。

 三者に共通しているのは、困惑。その内容は違えど、浮かべている表情は同じ。
先程から一言も発せず、ただ時間だけが過ぎていく……。
 どうしてこのような事態になったのか。それは今から三十分程遡る……。


英霊達の再会と結ぶ誓い




「な、翠屋さんに行ってみたいんやけど」

 キッカケははやてのそんな一言。つい最近出来た友人、高町なのはの両親が経営する喫茶店。中々評判が良く、アーチャーも何度か近所の付き合いで聞いた事があった。
 弓兵アーチャー。既にその身は近所で評判の主夫となっている。

「それは構わないが、どうして急に行きたいと?」

「あのな、なのはちゃんが言っとったけど、明日から三日くらい出掛けるらしいんよ」

「それで?」

「そやから、見送る代わりに気ぃつけて行ってきてって言いたいんや。今日はお家の手伝いする言うとったし」

 そんなはやての言葉をアーチャーは笑う事はせず、ただ黙って立ち上がる。
そして、そのままはやての部屋へ行き、手にある物を持って現れる。
 それは麦わら帽子。夏の日差し対策にアーチャーが買った物だ。ちなみに、はやてへの誕生日プレゼントでもある。

「なら、これを身に着けてくれ。今日も日差しが強い」

「うん。それじゃ……」

「ああ。行くとしよう」

 アーチャーの言葉に笑顔で頷くはやて。それにアーチャーは笑みで応える。手渡されたお気に入りの帽子を被り、ご機嫌と言わんばかりにはしゃぐはやてを見ながら、それに呆れながらも、どこか嬉しそうに相手するアーチャー。
 そんな二人を、真夏の太陽が激しく照らしていた。



 まだ朝と呼んで差し支えない時間にも関わらず、夏の太陽は燦々と光と熱を放っていた。
そんな中、汗を流しながら庭仕事をする二人のメイドの姿があった。

「お姉様~、終わりました」

「こちらも終わりました。さ、次はノエルと合流し、屋敷の掃除です」

 疲労の色を見せるファリンに、ライダーは容赦なく次の仕事を告げる。その言葉にファリンが崩れ落ちた。
どうやら休みたいらしい。潤んだ瞳でライダーを見上げるファリン。それを困った顔で見つめるライダー。
 そんなお見合いがたっぷり三分。先に根負けしたのはファリンだった。

「あ~、もう限界です!」

 そう言うや否や屋敷へ走って行ったのだ。どうやら直射日光に耐え切れなくなったようだ。
それを見送り、ライダーはため息一つ。そして、その後を追うように歩き出すと、先の方を走るファリンに向かってこう言った。

「そんなに急ぐと危ないですよ~」

「ふぇ?」

 その声が原因なのか、はたまた既にそれが決まっていたのか。ファリンはライダーが声を掛けると同時に、キレイに躓き……。

「あうっ!」

 地面と熱いキスをした。それはもう、見事なまでに。そのあまりの光景に、ライダーでさえ足を止める程だった。

「……大丈夫ですか、ファリン」

 急ぎ足で近付くライダー。数々のドジを見てきた彼女でさえ、今回のは中々痛そうだった。故にその声にも心配の色が見える。
そんなライダーの声に、ファリンはゆっくりと起き上がり、呟いた。

「なんで私だけこんな目に……」

 その目はまさに涙目。世知辛い世の中を恨むようなその呟きをしているファリンに、ライダーは内心微笑ましいものを感じながら、それを表に出さずに手を差し伸べた。
 それをファリンは掴んで立ち上がり、トボトボと歩き出す。その後をライダーは追う。

 すっかり意気消沈しているファリンを、ライダーは何とかしたいと思った。元気で明るいファリン。その彼女が自分をお姉様と呼んだ時、ライダーは不思議とすんなりそれを受け入れられた。
 以来、すずかとは違う意味でファリンはライダーの中で妹のような存在に変わった。それはきっと、ファリンが無邪気で素直な性格なのも影響している。物事を考え過ぎるライダーにとって、思った事を正直に表現出来るファリンは、ある意味羨ましい存在でもあった。
 だからこそ、今のファリンを見る事はライダーにとって辛い。

(何かないでしょうか?ファリンを元気付ける方法は)

 これまでのファリンとの出来事を思い出すライダー。まだ一年も経っていないが、それでもその思い出は山のようにある。
共に料理を作り、焦がして失敗した事や、買い物帰りに団子を買って二人だけで食べた事など、ファリンとだけに限っても数え切れない程思い出がある。

(……そうです。ファリンは甘い物が特に好きでした)

 そんな中でも多いのが食べ物に関する事。それに改めて得た友人の顔を思い出すが、それを振り払おうとして、はたとライダーはある事を思いついた。

「ファリン、翠屋のシュークリームはいりませんか?」

「え……?欲しいですけど……どうしてです?」

「仕事を頑張っているファリンに、私からのささやかなご褒美です」

 元気付ける意味合いも込め、優しく微笑むライダー。それが伝わったのか、ファリンも徐々に表情を笑顔に変えた。

 こうして、ライダーは残りの仕事をノエル(事情を話すと苦笑しつつ了解した)とファリンに託し、愛車を駆って翠屋へと向かう。
そこに予想だにしない相手が待っているとも知らずに……。



『いらっしゃいませ』

 入口のドアの鈴が音を立てると同時に、セイバーとなのはの声が重なる。
喫茶翠屋。そこの看板娘なのはと、最近名物店員となったセイバー。夏休みのためか、最近はモーニングが終わった後も客足が中々途切れない。
 その要因に自分が含まれない事を、美由希が気にして少し落ち込んだのは、内緒の話。

「モモコ、ケーキセット二でモンブランとショート」

「は~い」

「シロウ殿、アイスのブレンドとカフェオレです」

「よしきた」

 セイバーの声に即座に動く高町夫妻。セイバーの後ろでは、なのはと恭也がオーダーを聞きまわっている。

「ご注文を繰り返します。ガトーショコラにアイスティーですね?」

「セットが三つですね。かしこまりました」

 男性客にはセイバーや美由希が、女性客には恭也かなのはとなっていて、余裕がない時以外はそれで動くようになっている。

「はい、二百六十円のお返しです。ありがとうございました~」

 笑顔で見送る美由希。レジは基本その時空いている者がする事になっているので、当然誰がするかは運次第。

 夏休みに入り、忙しいと言っても、お昼や午後のピークに比べればまだ軽い。そのためか、高町家の面々には余裕がある。
特にこの四ヶ月を働き続けているセイバーにとって、この程度は自分一人でも何とか回せるレベルであった。
 勿論、手伝いをよくしている恭也達から見ても、セイバーの上達ぶりは凄まじく、特に美由希はどこか凛とした雰囲気を漂わせるセイバーに尊敬の念すら抱いた。

 そうして、そんな忙しさが落ち着き、それぞれが小休憩を取り始めた頃、彼らが現れた。

「いらっしゃいませ」

「えっと、わたし、なのはちゃんの友達で八神はやて言いますけど……なのはちゃんいます?」

「なのはの友達?ちょっと待ってて」

 笑顔で出迎えた美由希だったが、相手が妹の友人と分かるとその笑みの質を変えて、店の奥へと消えた。
それに対し、少し不安顔のはやてを見て、アーチャーは笑みを浮かべて囁いた。

「心配するな。営業妨害ではないし、後でシュークリームを買って帰るだろう」

 暗に客でもあるから気にするな。そうアーチャーは告げた。それをはやても分かったのか、若干表情を和らげる。

「そや、な。……って、美味しそうなケーキやな~」

「まったく……。む、確かにこれは……」

 視界に入ったショーケースへ視線を移すはやて。その変わりようの早さに呆れつつも、同じく視線を移し、その目を鋭くするアーチャー。
その目は、腕利きパティシェだった桃子のケーキが、己の域と同等かそれ以上である事を読み取っていた。
 一方のはやては、目にも鮮やかな品揃えに心を奪われていた。はやても女の子。甘い物は大好物とまではいかないが、好きではある。

 そんな風にショーケースを眺めている二人に、なのはは声を掛けにくかった。
何しろ、質こそ違え、二人は食い入るようにケースを見つめている。そんな光景に、なのはは苦笑いを浮かべつつ、軽めに声を掛ける事にした。

「いらっしゃい。はやてちゃん、アーチャーさん」

「あ、なのはちゃん」

「邪魔しているぞ」

 良かった、聞こえた。そう内心思いながら、なのはは用件を尋ねた。それにはやてが先程と同じ内容の話を返し、なのはに満面の笑顔を向ける。

「そやから、気ぃつけて行ってきてな」

「ありがとう、はやてちゃん!」

 わざわざ自分にそう告げるために来てくれた事に、なのはは心から喜んだ。
そんなやり取りを端から見ていた士郎達だったが、そのはやての思いにその顔を綻ばせていた。
 そこへ鈴の音が響き渡る。音に反応し、アーチャー達が振り向いた先には……。

「ら、ライダー……だと」

「アーチャー……ですか」

 見事なメイド服に身を包み、楚々として立つライダーの姿があった。
ちなみに、裾がまた擦り切れ、汚れていたりする。

「お~、ライダーさんや。お久しぶりです」

「ハヤテ……?そうですか、貴方の言っていた親戚と言うのは……」

「にゃ?アーチャーさんもライダーさんの知り合いなの?」

 何とも言えない雰囲気を醸し出していたアーチャーとライダーだったが、なのはの言葉にアーチャーが敏感に反応した。

「どういう意味かな」

「えっと、ウチには「セイバーもいるの「何だとっ?!」……言えなかったの」

「まあまあ、気ぃ落とさんといて」

 なのはの言葉をライダーが、ライダーの言葉をアーチャーが遮り、なのはは若干いじけていたりする。
そんななのはをはやてが慰めていた。そして、先程のアーチャーの声が聞こえたのか、店の奥からセイバーが顔を出し―――。

「どうしたので……」

 固まった。それはもう見事に硬直した。―――アーチャーと共に。

「……とりあえず、奥の席にどうぞ」

 このままでは埒が明かない。そう判断した美由希の提案に、三人は静かに動き出す。
そして、なのはははやてを店の奥にある休憩所へと案内した。
 おそらく、また色々あるんだと、そう予感したから。それに、はやてにも話を聞かなければならない。そうなのはは思い、車椅子を押した。



 こうして、やっと冒頭に戻る。

「……まさか、私以外のサーヴァントが現界しているとはな」

「感知出来なかったのでしょう?当然です」

 ―――私達は受肉しているのですから。

 ライダーのその言葉に、アーチャーの表情が変わる。それは狼狽。
以前の、いや昔のアーチャーならば、そんな事はないと一蹴しただろう。だが、今の彼には心当たりがあった。

(あの時、猫に傷を負わされたのは、使い魔だからかと考えていたが、受肉していたならば納得がいく)

 以前はやてに頼まれ、猫の性別を確かめた際、怒った猫に手を引っ掻かれ、傷を負った事があった。
その際は、その後現れた監視者の使い魔かと思い、警戒していたのだが、受肉しているとすれば辻褄が合う。
 それに、猫からはこちらを警戒するような視線がしなくなったし、監視の視線もあれ以来不気味な程感じなくなっていた。

「だが、証拠がない」

 しかし、アーチャーはライダーの言葉にそう返す。そう、それはあくまでも推論。明確な証拠がなければ、アーチャーとしては鵜呑みに出来る話では、到底なかった。
 だが、ライダーもそう来ると思っていたのだろう。どこか呆れた顔でこう言った。
ならば、霊体化出来ますかと。その言葉にアーチャーはとある事を思い出す。それは自分の数少ない使える魔術。

「解析、開始」トレース オン

 自分自身を解析し、確かめようとしたのだ。そして、それから分かったのは……。

「ば、馬鹿な……本当に」

 ラインが繋がっていないのに魔力を自ら生み出している。そして、仮初ではない『肉体』を得ていた。

「やはり、貴方も自分の事を把握していなかったのですね。ま、当然です。誰が受肉しているなどと考えるものですか」

 ライダーのどこか愚痴るような言い方に、アーチャーは違和感を感じるが、それを追求する余裕は今の自分にはない事を、彼は理解していた。
薄々おかしいとは思っていた。なぜあの聖杯戦争の記憶が残っているのか、なぜあの幻の四日間の記憶があるのか。座に戻れば、それらは消えてしまうはずなのに、と。

「……今回は世界に呼ばれたとばかり思っていた」

「成程、確かにそれなら理解出来ます。ですが、それではなぜ現れた時に人がいたのでしょう」

「……そうか、君達も……」

 ライダーの発言で、アーチャーは全て理解した。自分と同じように召喚された時、彼女達もまた孤独に怯える少女に出会ったのだと。
そして、そんな少女の支えになろうとしたのだろうと。
 思い浮かべた想像に、アーチャーは笑みを一つ。それはいつもの皮肉屋としてのものではなく、あの日はやてと初めて出会った夜に見せたもの。

『エミヤシロウ』としての笑み


 その笑顔に、セイバーとライダーは心奪われる。目の前にいるのはアーチャーだった。だが、同時に別の衛宮士郎でもある。
自分達を一人の女性として扱い、不器用ながらも他者の夢を自分の夢に変え、前に進み続けた『正義の味方』
 それとは至った場所は違う存在ながらも、出発点は同じなのだ。
二人は知らない。彼は、もう掃除屋として己を呪い続けた男ではない。在りし日の『想い』を取り戻し、パートナーの少女に、大丈夫だからと笑顔で告げた『正義の味方』だとは。

(あの笑み……やはりアーチャーも『シロウ』なのですね)

(彼も以前のままではない、と言う事ですか。……あまりスズカを接触させない方がいいかもしれません)

 その笑みに抱く思いこそ違え、二人は確信する。この男は信頼に足る相手だと。

「……アーチャー、話があります」

「何かな?」

「私とセイバーは、現状に至った理由や原因を調べて動いています。貴方にも、それに協力してほしいのです」

 それだけ告げて、ライダーとセイバーはアーチャーを見つめる。アーチャーは、目を閉じて思考を纏めようとしているのだろう。
その雰囲気は、先程までとは別人のものだった。

「……いいだろう。ただし条件がある」

「条件とは?」

「何、そんなに難しい事ではない。はやての事だ」

 アーチャーが出した条件。それははやての足の事だった。原因不明の病気で、未だに治療法が分からずにいる。それを治す術か方法の発見及び見つかった際の協力。それと……。

「なのは達の家への招待、ですか」

「ああ。はやては中々自宅以外で遊ぶ事が出来ない。あの通り、車椅子なものだからね」

「成程、つまり強く誘われたとでもならない限り、遊びに行き辛いと」

 ライダーの言葉に、アーチャーは無言で頷く。
はやては何度かすずかに誘われる機会があるにはあった。だが、すずかの気遣いが災いし、明確に誘うまでには至らなかった。
 すずかは、車椅子のはやてに家まで越させるのは悪いと思い、はやては、車椅子の自分が行く事ですずか達に気遣いさせたくないと思った。
こうして、未だにはやては自宅以外ですずか達と遊んだ試しがなかった。

「お安い御用です。夏休み中に必ず」

「ええ、泊まりも出来るようにしましょう。きっとノエルやファリンも協力してくれます」

「……なら、契約成「違います」……何がだ?」

 話が纏まったと言おうとしたアーチャーに、セイバーが異議を唱えた。隣のライダーは何か思い当たる節があるのか、頭を押さえている。
しかし、その表情は苦笑だったりするのだが。
 不可解と言わんばかりの表情のアーチャーに、セイバーは凛々しい顔を緩めて笑う。

「これは誓いです。なのは達の絆を守るという」

「なっ……」

 言葉を失うアーチャー。ライダーは小さく「やはりそうきますか」と納得の顔。

「私達は厳密に言えば、もうサーヴァントではないのでしょう。ですが例えマスターでなくとも、なのは達を守りたいと言う思いは変わりません」

 違いますかと尋ねられ、アーチャーは答えに窮する。それを横目にライダーはセイバーに同意する。
スズカを守るのは、当然です。はっきりと言い切り、ライダーはアーチャーを見る。その目は、はっきりさせなければセイバーは納得しませんよ、と告げていた。

「……そうだな。こうなった以上、開き直るしかあるまい」

 そう告げ、アーチャーは答えた。自分もはやてを守るのに何の躊躇いもないと。それを聞き、セイバーは満足そうに頷き、右手をテーブルの中央に置く。
 それにライダーは苦笑しつつも、同じように手を重ねる。そして視線をアーチャーに向け、それをテーブルに移す。
その仕草にアーチャーも気付き、ため息を吐いて手をそれに重ねた。

「これで私達は、誓いを同じくする友です」

「……一体、彼女に何があった」

「どうやら、彼女の影響らしいですよ」

 アーチャーの問いかけに、ライダーは言葉と視線で答える。その視線の先には、紅茶のお代わりを店の奥へ持っていこうとしているなのはだった。
その姿を見て、アーチャーは納得した。確かに彼女ならば、誰とでも友になろうとするだろう、と。
 そして、その傍にいるセイバーがその影響を強く受けているのだろう。そう考えた。

「そう言えば、何故ライダーはここに?」

「あ、そうでした。セイバー、シュークリームを五つ持ち帰りでお願いします」

 忘れていました、とライダーは言って立ち上がる。それにセイバーも続き、ショーケースへ。
一人残される形になったアーチャーは、どこか楽しそうに笑みを浮かべると、席を立ちその後を追う。
 慣れた手つきでシュークリームを箱に詰めるセイバー。それを見ながらうまくなりましたねと言いつつもからかうライダー。そんなやり取りを眺めてアーチャーは無意識に呟いた。

「……平和だな」

 その声に、呆れと喜びを滲ませて……。




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遭遇編その4

これで現時点での海鳴サーヴァント達は存在を確認し合いました。

いよいよ次回からは無印突入!

……実は、無印ちゃんと見た事なかったり……(汗

でも、頑張ります!



[21555] 1-0 無印序章
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/20 07:59
 彼、ユーノ・スクライアは困惑していた。それは目の前にいる一組の男女が原因であった。
男は全身を青い服で包み、その手に赤い槍を持っている。女性、とは言っても少女であるが。彼女は黒を基調とした格好をしており、それから感じる魔力からバリアジャケットだと予想した。
 問題は、彼らが空間転移で現れた事。そう、ここは輸送船の貨物室。ユーノが発見した古代遺失物を、時空管理局へと運んでいる途中なのだ。

「よぉ、すまねぇが」

「ジュエルシードを、渡してください」

 その問いかけに、ユーノは彼らの目的を理解すると共に、自分が何も出来ない事を悟った。悟ってしまった。
目の前の存在、特に男の方には自分では何も出来ないと思わされたからだ。
 本能が、理性が、直感が告げる。歯向かうな、と。

(……でもっ!)

 ユーノは必死にそんな己を奮い立たせる。彼が発見したジュエルシードと呼ばれるロストロギアは、危険物と呼んで然るべき物だからだ。
それを知りながらあっさりと渡せる程、ユーノは臆病でも弱くもなかった。

「な、何のためにジュエルシードが必要かは知りませんっ!でも、これは危険な物なんだ!だから―――」

 渡せない。そう言おうとした。でも、出来なかった。何故なら―――。

「そうかい。……小僧、お前中々根性あるな」

「え……」

 男がどこか嬉しそうにユーノを見たから。その視線は、まるでユーノの伝えたい事を知り、その思いを誉めてくれたようだったから。
そんな男の眼差しに、ユーノは呆気に取られた。
 だが、次の瞬間。

「……ランサー」

「うしっ、さすがだフェイト。後はずらかるだけか」

 ユーノが手にしていたはずのジュエルシードのケースが、少女の手に握られていた。

(高速移動魔法?!そんな、いくら何でも気付かないなんて!?)

 うろたえるユーノを他所に、フェイトと呼ばれた少女は、手にしたケースを大事そうに抱え込む。それを守るように、ランサーと呼ばれた男がユーノの前に立ちはだかる。
 その雰囲気は、何人たりとも通さない。そんな印象を受け、ユーノは立ち尽くす。自分にもう出来る事はない。そう思った。

―――だが、そんな彼に天が味方したのかもしれない。


「なんだぁ?」

「震動……?」

「まさかっ!?」

 突如として、揺れ始める輸送船。それが意味するものを理解し、ユーノは叫ぶ。

「次元震だっ!!」

 それがキッカケだった。揺れていただけの船に軋むような嫌な音が聞こえて来る。
それに焦るユーノとフェイト。ただ一人、現状の恐ろしさを理解出来てないランサー。
 そして、何とかフェイトが転送魔法を起動させようとするが―――。

「ダメ!座標が固定できないっ!」

「落ち着けフェイト!」

 次元震の影響か、はたまた突然の事態にフェイトが動揺したためか、時の庭園の座標が固定出来なくなっていた。
そのため、焦りが濃くなるフェイト。それにランサーの意識が向いた瞬間!

「チェーンバインド!」

 起死回生の行動。ランサーとフェイトの自由を奪い、ユーノは即座にケースへ走る。
ランサーはバインドを破ろうとするが、ユーノは元々デバイス無しで魔法を行使していた。つまり、自然とその構造が鍛えられていた。それにランサーの油断もどこかにあった。魔法は基本構造が雑。その思い込みが作用し、意外に強靭なユーノのバインドに手間取った。
 そして、その間にユーノの手がケースにもう届くと言う所で―――。

天は、彼を見放した。


 一際大きな音と共に、貨物室に亀裂が走った。それは図ったかのようにケースの下に。ユーノの手が届くまさにその瞬間、それを嘲笑うかのように、ケースは次元空間へと落ちていった。
 その途中で、中身を零しながら……。

「そんなっ!」

「ちっ、肝心な所でついてねぇのは相変わらずか」

「……ランサー、脱出するよ」

 愕然となるユーノ。そんな彼を横目に、自身に悪態を吐くランサー。そして、既に思考を切り替え、冷静に転送魔法を準備していたフェイト。
それに反応したのは、ユーノだった。ジュエルシードを無くし、その上襲撃者にまで逃げられる訳にはいかない。その使命感が彼に立ち上がる力を与えた―――だが。

 二人はユーノが立ち上がったのと同時に消えてしまった。それを契機に、輸送船が激しく揺れ始める。
焦るユーノに、船員達からの念話が届く。脱出しろと。既に自分達も避難している。その声を聞き、ユーノは―――。

「っ!!」

 飛び出した。ケースが落ちていった場所目指して。それは無謀だっただろう。それは自殺行為にも見えただろう。
しかし、それは確かにユーノ・スクライアたる行動だった。どこに落ちたかは知らない。でも、その世界に危機をもたらすであろうジュエルシードを、野放しには出来ない。己が発見した物に対する責任感からこの輸送船に同乗したのは、こういう事態を防ぐためだったはずなのに。
 それが彼の行動理由。幼いながらも考古学を学び、遺跡発掘等に携わってきた者として、過去の過ちを繰り返してはならないと。許してはならないとの思いが、そんな行動に出させた。

―――こうして、物語は動き始める。

ジュエルシードから始まる『絆』の物語が………。




Fate/stay nanoha



それは、終わりの始まり





「いってきま~す」

「いってらっしゃい」

 セイバーに見送られ、なのはは笑顔で走り出す。もうあの『始まりの夜』から四年以上が経ち、なのはは小学三年生になった。
未だに運動神経は残念だが、体力や動体視力ならセイバーの折紙つき。ただ、やはり速く走ったりするのは苦手なので―――。

「にゃっ?!」

 転びそうになるのは、よくある事。

「っと、危ない危ない」

 しかし、そこで転ばなくなったのもまた成長。最近、特技にバランスと書こうかと考える高町なのは、現在小学三年生。



 学校に向かうバスの中、三人の少女が会話に花を咲かせていた。

「でね、小次郎の奴ったら、少しは女子らしさが出てきおったかなんて言ってさ」

 そう言って、笑みを浮かべるアリサ。昔はどこか気にしていた自分の容姿も、ここ二年程は自慢するようになり、その理由をなのは達は『はやて効果』と呼んでいる。

「小次郎さんらしいね。あ、そうだ。今度小次郎さんにウチの庭もお願いしていいかな?ライダーがその方が景観がいいって」

 微笑みを浮かべ、相槌を打つすずか。後半の辺りで浮かべた表情は、どこかすまなさそうだ。

「じゃあ、お兄ちゃんやアーチャーさんにもお願いしようよ。その方が早く終わると思うの」

 名案とばかりに告げるなのはだが、それに二人は苦笑い。
それじゃ、庭仕事そっちのけで戦い始めるでしょ、とアリサが突っ込めば、すずかも、アーチャーさん一人でやる事になると思うよ、と続く。
 それになのはは不満顔だが、少し想像して……。

「ごめんなさい」

 心から謝った。会った途端に互いの獲物に手をかけ、ジリジリと間合いを測る恭也と、悠然としながらも、一時も目を離さない小次郎。それを横目にため息を吐くアーチャーの姿を幻視したから。
 その行動に、わかればいいと言わんばかりに頷くアリサ。すずかは小さく笑みを浮かべるのみ。
そんなこんなで、この日も過ぎていくはずだった。下校時に、なのはが謎の声を聞かなければ………。



(くそっ……封印しなきゃ、いけないのに)

 全身を傷だらけにしたユーノは、霞む視界を何とかするべく意識を強くする。眼前にいるのは、ジュエルシードの思念体。
元来、ユーノは戦闘などした事がない。そして、攻撃魔法も使えない。それでも、何とか無くしてしまった内の一つを封印し、二つ目を発見したのだが、そのジュエルシードは既に何かの願いを受け、変貌していた。

 必死に戦ったユーノだったが、有効な術を持たぬ彼に思念体が倒せるはずもなく、現状のように追い込まれていた。
思念体はユーノを睨みながら、距離を取る。それを見て、ここしかないとの思いがユーノに生まれる。
 弱った体に鞭打ち、飛び掛ってきた思念体に、何とか封印魔法を展開したユーノだったが、思念体はそれに耐え切り、逃げるようにその場から離れていく。それを見届け、ユーノは意識が遠のいていくのを感じた。

(ダメ……なんだ……あれ……ほっと……)

 ユーノの思いとは裏腹に、体は緊張から開放された事も手伝い、急速に眠りへと落ちていく。その直前、ユーノの体が光に包まれた。そして、光が収まったそこには、一匹のフェレットらしき動物が傷だらけで眠っていた。



 時の庭園。そこの一角にあるプレシアの部屋。そこにランサーとリニス、それに部屋の主たるプレシアの姿があった。

「で、落としたのね」

「……ああ」

 やや憮然とした顔のプレシア。それをリニスは黙って見ている。ランサーと言えば、まるで悪戯を見つかった少年のような表情でプレシアを見つめ返している。

「……ま、仕方ないわ。まさか次元震が起きるなんて予想できなかったもの」

「原因不明なところも気になりますね。あ、でもご心配なく、既にジュエルシードの落ちた場所は、ある程度絞り込む事が出来ましたから」

 リニスの言葉と同時に出現するモニター。そこにはミッド文字で色々と書かれているが、ランサーにはさっぱり読めなかった。

「で、どこだ?」

「第九十七管理外世界。現地惑星名称、地球です。まだ、何処にとまでは分かりませんが」

「……管理外でよかったわ。管理局もうかつには手が出せないでしょうし」

「はい。おそらく派遣されるとしても、かなりの時間を要するはずです」

「なら、なるべく早めに……どうしたのランサー」

 先程から黙っているランサーに、プレシアが意識を向ける。それにつられるようにリニスも視線を向け、言葉を失った。
ランサーはこれまで見た事ない程、嬉しそうな笑みを浮かべていたからだ。
 そんな表情に何も言えないリニスとプレシア。それに気付く事なく、ランサーは呟く。

「そうか……この世界にもあったのか。これなら……うまくすりゃ……」

 ランサーのそんな呟きに、二人は何も言えないまま、ただその呟きに耳を傾ける。その内容は、二人を驚かせるには十分なものだとは知らずに……。



 楽しい下校時間。なのは達も例に漏れず、三人仲良く会話をしながら歩いていた。
今月から、なのはも二人と同じ塾に通う事になり、そこへ向かう途中、アリサが塾への近道と言ってわき道に入り、少し経った時だった。

【助けて……】

「ふぇ?」

 突如として頭に響いた声に、なのはは立ち止まってしまう。それに不思議そうに首を傾げるアリサとすずか。
そんな二人の視線に、なのはは恐る恐る尋ねた。
 今、何か聞こえなかった、と。それに二人は互いの顔を見合わせ、小さく笑う。

「何も聞こえないよ」

「なのは、怖がらせるならもっと雰囲気出しなさい」

「ち、違うよぉ。本当に何か―――」

 聞こえた。そう言おうとした時、再びなのはの頭に先程の声がした。

【助けて……誰か……】

「やっぱり聞こえる」

 先程よりもはっきりと聞いたからか。なのはの口調は強かった。そのなのはの言葉に、二人も互いの顔を見合わせ、何かを感じたのか頷いた。
そして向けられた視線は、何か言う訳ではないが、なのはを信じると言わんばかりの力強さがあった。
 それを嬉しく思い、なのははお礼を告げると同時に走り出す。

「で、どこから聞こえるのよ?」

「こっち!こっちから聞こえる!」

 アリサの問いになのはは時折聞こえる声を頼りに走る。そして、しばらく走った先にいたのは……。

「フェレット、かな?」

「怪我してる……」

「まったく、酷い奴もいたものね!」

 全身に傷を負ったフェレットの姿だった。見るのが痛々しい程の姿に、三人の表情も曇る。
なのはがハンカチを取り出し、フェレットの体をそれで包む。静かに慎重に持ち上げて、なのは達は息を吐く。

「どうする?」

「この子がなのはちゃんに声を掛けてたのかな?」

「まあ、状況的にそうでしょ。……この子もサーヴァントとか言わないわよね?」

 不思議=サーヴァント。アリサの中では、サーヴァントとはそういう扱いなのだ。
それを聞き、なのはは苦笑気味に笑う。

「それはないと思うけど……」

「とにかく、手当てしないと」

 雑談に流れていきそうな空気を、すずかの発言が戒める。それに二人も頷き、ゆっくりと歩き出す。
その途中、アリサはフェレットに微かな警戒心を抱いていた。
 なのはだけに聞こえた声。傷だらけの体。そして………。

(何であんな所にいたのか、ね)

 そこまで考えて、アリサは頭を押さえる。よくは分からないが、厄介な事が起きようとしている。そんな予感を感じたからだ。
それは隣を歩くすずかも同じだった。もっとも、すずかはアリサとは違う意味で嫌な予感を感じていた。
 もし、このフェレットが自分達の日常を壊す存在だったらどうしよう。そんな感情がすずかの中に漠然と生まれていた。
そして、なのははフェレットを運びながら、静かに、でも確かにある予感を感じ取っていた。

 何かが変わろうとしている。そんな事を一人思い、呟く。

「でも変わらないし、変えさせない。……私の大切なモノは、絶対に」

 その呟きは、誰に聞かれるでもなく、春風に乗って消えていく。緩やかに、穏やかに、少女達の日々は変化を始めていた……。




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無印編序章。

かなり怪しい出だしでしたが、いかがでしょうか?

なのはが魔法と出会うのを期待していた方、申し訳ないです。

次回、やっと一話らしくなる……はずです(汗



[21555] 1-1 無印一話
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:33
 塾からの帰り道、なのは達の頭はある事で埋め尽くされていた。

(((あのフェレット、一体何なんだろう……)))

 アリサは疑念、すずかは不安、なのはは困惑。
思いこそ違え、その相手は先程病院に預けてきた動物であった。
 あの後、アリサが携帯で獣医で検索をし、槙原動物病院という場所を見つけ、そこへ三人で運んだのだ。
手当てをしてもらい、診察した獣医さえ疑問に感じたフェレットらしき動物。それになのは達は揃って苦笑い。

 そんな会話をしていると、意識を取り戻したフェレットもどき(アリサ命名)がゆっくりと周囲を見回し―――。

「ふぇ?」

「なのはを……」

「見てる……ね」

 その視線をなのはに向け、しばらく見つめた後、また意識を失った。
その行動が、余計に三人の中に何とも言えないものを生む。明日様子を見に来ると言って、病院を後にした三人ではあったが、その心中は決して穏やかなものではなかった。


魔法少女、はじめます



 二人と別れ、なのはは家族に今日の出来事を話した。とは言っても、声を聞いたというのは伏せてだが。
なのはもまだどこか半信半疑だった事と、何故かまだ話す時ではないと感じたからだ。
 なのはのそんな思いを知ってか知らずか、家族達は中々核心をついた質問を浴びせる。

「でも、よくそこに動物がいるのが分かったな?」

 ギクッ、と言わんばかりになのはが表情を変える。それに全員が気付くが、誰も何も言わない。それは、なのはが自分で話してくれるのを待っているからではない。知っているからだ。なのはが話さない時は、何か理由があるからと。
 故に、内心笑みを浮かべながら士郎達は質問する。

「それに、そっちは塾とは反対方向なんだよね?何でそっちに?」

「フェレットみたいらしいが、捨てられてたのか?傷だらけだったそうだが……」

「ウチでは飼うのは厳しいけど、どうする?」

 矢継ぎ早に繰り出される問いかけに、なのはは答える暇もなくオロオロするばかり。
そんななのはを見て、セイバーが微笑み助け舟を出すことにした。

「まぁ、それくらいにしましょう。まずは食事です。さ、なのは」

「う、うん。いただきます」

『いただきます』

 セイバーの言葉にほっとした表情を浮かべるなのは。それを笑顔で見つめる士郎達。
少しからかいすぎたか、と思いながらもどこか楽しそうな家族の顔。それになのはも気付きながら、心で感謝。

(ありがとう。ちゃんと分かったら、絶対話すから)

 心から信じあえる家族。その暖かい心遣いを、改めて感じるなのは。食卓に浮かぶ笑顔は、変わる事無く輝いていた。



「それで、一体どうしたのです?」

 お風呂に入り、後は寝るだけとなったなのはに、セイバーはそう問いかけた。
食事終わりに、なのはが視線でセイバーに話があると言いたそうだったからだ。
 そんなセイバーに、なのははどこか自分でも信じられないという顔で本当の事を話した。

「……で、病院に預けてきたの」

「……頭に直接声がした。それに間違いはないですか?」

「う、うん。確かにそんな感じだった」

 セイバーの固い声を、なのはは若干不思議に思いながら、そう断言した。
その答えに、セイバーはしばらく黙り込んでしまったが、何か意を決した表情でなのはを見つめる。

「……なのは、それはきっと魔術です」

「魔術?あのおとぎ話なんかの?」

 なのはの言葉にセイバーは頷き、少しだけ自分に関する話をした。
自分はその魔術が存在していた世界の出身であり、なのはにはそれを使う魔力があると。
 そして、おそらくその動物が魔術で生み出された使い魔だろうという事を。

 なのははセイバーの話を聞いて、どこか納得していた。急に現れ、今や大切な存在、セイバー。それが魔術と呼ばれるもので召喚されたとしたら、そういうものかと理解できてしまったからだ。
 それに、あのフェレットもどきが魔術を使えるのなら更に納得。セイバーによれば、自分には魔力があるが、アリサやすずかにはそれがないそうだ。

「じゃあ、あの子は……」

「ええ。何処かにマスター、主人がいるはずです」

「なら―――」

 その人を捜そう。そう言おうとした時、なのはの頭にまたあの声が聞こえてきた。

【この声を聞いてる方、お願いです!力を貸してくださいっ!】

「っ!?セイバー!」

「……声が、聞こえたのですか?」

「うん!助けてって」

「……分かりました。行きましょう。責任は私が取ります」

「ありがとう、セイバー!」

 なのはの言葉に笑みを浮かべ、セイバーはその身を鎧で包む。なのはも急ぎパジャマを着替え始め、セイバーは部屋の窓を開け放つ。
夜風が吹きぬけ、セイバーの髪を揺らす。その後ろから普段着に着替え終わったなのはが、セイバーに近寄って―――。

「行きますよ、なのは」

「うん!」

 その腕に抱かれ、空を舞う。それに空を飛ぶような錯覚を覚えつつ、なのははセイバーを案内する。声の聞こえる方へ、あの動物病院へと。



 ユーノは焦っていた。未だに完治していない体に魔力、それで弱っているとはいえ、思念体を相手しなければならないからだ。
さっきから助けを呼んでいるが、おそらく誰も来ないだろうとユーノは思った。
 きっと、ここは管理外世界。それも、魔法文化がない世界だろうと、ユーノは結論付けた。
理由は簡単。見た事もない文字に、自身の治療が終わっていない事から、治療魔法を使えない事が推察出来たからだ。
 故に、ユーノは焦っていた。満足な結界も張れない上に、助けも望めない。とどめに自分の体調は完全じゃないときていれば、もう絶望過ぎていっそ笑えるくらいだ。

(でも、諦めるものか!)

 あの時、絶対に抗えないと思ったランサー相手に、自分は一瞬とはいえ出し抜けたんだ。なら、目の前の奴にだって同じ事が出来るかもしれない。
そう思い、ユーノはそれを否定する。

(違う。やってやるんだ!例え、僕一人でも!!)

 思念体の攻撃を何とかかわしつつ、懸命に隙を窺うユーノ。そんなユーノの健闘に応えるように、奇跡が舞い降りた。

―――それは騎士だった。青いドレスに鎧を纏い、その腕には少女が抱き抱えられている。まるでおとぎ話だ、とユーノは思った。

「なのは、下がっていてください。ここは危険です」

「分かった。気を付けて、セイバー」

 抱えた少女にそう告げて、騎士はゆっくり少女を降ろす。そして少女の言葉に微笑み、頷く。
すると、すぐさま思念体へと視線を向け、手に不可視の武器を携える。
 ユーノは、それを見て漠然と剣だと感じた。見える訳じゃない。でも、それは剣だと思った。だって―――。

(そんな姿が、似合いそうだから)

 セイバーに見惚れるユーノに、なのはは急いで近付き、抱き抱えた。
セイバーが危ないと言ったのは、相手が強いからじゃない。自分達まで巻き込みかねないからだ、となのはは思った。
 だからこそ、今なのはが出来るのは少しでもセイバーの負担にならない事。

「大丈夫?もう平気だから」

「……えっ?あ、ちょっと待って」

「話は後!今はセイバーに任せよう」

 突然喋り出すユーノに、なのはは大して驚く事無く走り出す。前もってセイバーから聞いた話と、頭に聞こえていた声から、喋る事も出来るかもしれないと予想していた事が功を奏した。
 走りながら、なのはは後ろを見た。そこでは、セイバーが思念体相手に剣を振り下ろしていた。

(負けないでね、セイバー)



「なっ……再生した!?」

 セイバーの会心の一撃を受け、思念体は確かに一度動きを止めた。しかし、その与えた傷が瞬く間に消え、再び動き出したのだ。
さすがに、セイバーもそれを予想出来るはずもなく、僅かばかり意識を乱した。
 それを隙と見たのか、思念体はセイバーから離れて行く。その向かう先は……。

「まさか、なのは達が狙いですか?!」

 そうはさせないと、セイバーもそれを追う。その視線の先には、必死で逃げるなのはの姿。
このままでは先回りするのは難しい。だが、無理に先回りしようとなると……。

「風を解き放てば……しかし、周辺にどう影響するか」

 海鳴の町は、セイバーにとって守るべきもの。いたずらに力を振るえば、ここに住む者達に迷惑を掛ける事になる。
その思いがセイバーを迷わせる。そして、下した答えは―――。

「なのは!右に跳んでくださいっ!」

 そう叫ぶと同時に、セイバーは思いっ切り勢いをつけ、思念体目掛け突撃した。その勢いを加え、思念体はアスファルトに激突する。
一方のセイバーは、反動で逆方向に跳ね返されたが、何とか体勢を整えて着地。
 すぐになのは達の下へ駆けつけ、剣を構える。

「無事ですか?」

「うん。セイバーも大丈夫?」

「ええ。しかし……」

 セイバーの視線の先では、丁度思念体が体を起こしているところだった。
あれだけの衝撃を与えたにも関わらず、ダメージを負っている気配がまったくない。
 どうすればいいのか。セイバーの脳裏に浮かんだのは、絶対にして最強の切り札の存在。

(ダメだ。アレは使えない。威力が大き過ぎるし、何よりも被害が尋常ではない)

 そう結論付け、セイバーは眼前の相手を睨む。もうなのは達を逃がす訳にはいかない。下手に逃がせば、先程の二の舞になる。
かといって、このままではジリ貧だ。有効な手立てが使えないし、他に何も思いつかない以上、セイバーには打つ手がない。
 そんな時だった。セイバーの聞き覚えのない声が聞こえてきたのは。

「アレは封印魔法を使うしかありません」

「なっ?!『魔法』ですって!?」

「魔術じゃないの?」

 セイバーの驚きとは正反対に、なのはは不思議そうにそう尋ねる。
なのはにとっては、魔術も魔法も大差ない。共にファンタジーの世界のものだったからだ。
 そんな二人の問いかけを無視して、ユーノはなのはを見つめて、対応策を告げる。

「今は時間がありません!このデバイスを使って、あれを封印してください!それ以外、あいつを止める術はないっ!」

「……分かりました。なら、時間は私が稼ぎます。なのははその封印の準備を!」

 そう言って、セイバーは再び思念体との戦闘を開始する。残されたなのはは、ユーノの首元に光る宝石のようなものを手に取った。
不思議と、それは暖かかった。それをユーノから外し、自分の手の中へと握り締めるなのは。
 ユーノは、それを見て頭を下げた。

「ごめんなさい!君達を……巻き込んでしまって」

「それは、これが終わってからゆっくり聞くね。今は、あれをどうにかしなくちゃ、だよ」

 申し訳なさそうなユーノに、なのははそう告げると、微笑みを浮かべる。
それに、ユーノは思う。強い子だと。そして優しい子だとも。だからこそ、今はそれに甘えよう。謝罪など、これが終わればいくらでも言える。

(ありがとう……。本当にありがとう!)

「じゃあ、これから僕の言う通りに続けて!」

「うん!」

 ユーノの声に力強さが戻る。それが嬉しく思え、なのはも自然と声に力が入る。
ユーノの言葉を、一字一句違わずになぞっていくなのは。その声には、どこかぎこちなさもある。しかし、それを上回る程の決意のようなものがあった。

(セイバーを、この町を、大切なモノを守りたい!)

「不屈の心は、この胸に!レイジング・ハート、セットアップッ!!」

 なのはの願いが、祈りが、想いが光になってその身を包む。それに微かに困惑するなのはだったが、ユーノが告げた「自分を守るものを想像して」と言うアドバイスに気持ちを切り替える。
 自分を守るもの。そんな事を想像した時、真っ先に浮かんだのはセイバーの鎧。でも、違う。そうなのはは思って、別の想像をする。
自分はセイバーじゃない。なら、身を守るのは鎧ではなく、服だ。そしてその元になるのは―――。

(セイバーが、私にピッタリって言ってくれた学校の制服!)

 光が収まった時、セイバーは見た。純白の衣装に身を包み、天使のような雰囲気を漂わせ、ゆっくりと降りてくるなのはの姿を。
手にしたのは杖。その先端には、紅い宝玉が輝いている。その輝きに恐怖を抱いたのか、思念体がなのはへ飛び掛った。だが……。

「させません!」

 セイバーの鋭い一撃がそれを阻止。それに怯んだのを好機と見て、ユーノが叫ぶ。

「今だ!封印を!!」

「うん!お願い、レイジング・ハート」

”シーリングモード、スタンバイ”

 なのはの声に応じ、姿を変えるRH。そして、それが終わるのを見計らい、ユーノは告げる。自分だけの呪文を唱えてジュエルシードの封印処理を、と。
その言葉になのはは頷き、心を研ぎ澄ませる。この三年近い修行の日々で、士郎やセイバー達から教わった事を思い出し、告げる。

「リリカル・マジカル!ジュエルシード、シリアル21!」

”封印”

 光がリボンのように放たれ、思念体を絡み取る。そして、そのまま光が包み込むように思念体を覆い……。

「終わったのですか……?」

 それが消えた先には、菱形の宝石だけが残されていた。ただ、そこに何かがいた痕跡は、被害という形で残されてはいた。
ゆっくりとユーノが宝石に近付き、なのはへ視線を送る。

「レイジング・ハートでこれに触れて」

「うん」

 言われた通りになのはがRHを宝石に近づけると、それをRHが自分の中へ吸い込んだ。
それを見届け、なのはとユーノが息を吐く。その顔には、どこか達成感さえ漂っていた。
 だが、一人だけそんな雰囲気とは違う者がいた。セイバーだ。

「……宝石は、これ一つですか?」

「えっ……?いえ……まだ、あります」

「そう……ですか」

 気まずそうに答えるユーノの声にそう呟き、セイバーは普段の格好に戻って静かになのはへ近付き―――その体を抱きしめた。

「すみません、なのは」

「えっ?えっ?」

 何が起きているのか分からない。それがなのはの素直な感想だった。
自分はただ、セイバーを助ける事が出来て嬉しかった。でも、何故かセイバーは自分に謝っている。

「せ、セイバー?どうしたの?」

 何かされたかな、となのはが先程までの事を思い返そうとして、セイバーの言葉で思考が止まった。

「なのはを……巻き込んでしまいました」

 それは、奇しくも先程のユーノの言葉と同じ。だが、込められた想いが違う。
ユーノが自分が起こした不手際の事件に巻き込んだと思ったのとは違い、セイバーは裏の世界、つまり、魔術や魔法などの非日常に巻き込んでしまったと感じていた。
 セイバーが、思念体を倒せるなら良かった。それならば、なのはには今日の事は、一夜の夢だとしてもらえばよかった。ユーノの手伝いを自分がし、なのはには変わらず、日常を暮らしてもらえば良かった。だが、あれを封印出来たのはなのは。
 つまり、セイバーでは倒せない。そして、この騒動を起こした原因はまだ残っている。となれば……。

(なのはが……戦わざるを得なくなるっ!)

 自分が付いていれば、確かに危険は減るだろう。でも、戦場に絶対はない。今回すら、危うくなのはに危険が及ぶところだった。
次も守りきれるとは限らない。故に、セイバーは悔やんだ。己の未熟を、至らなさを、何より―――。

(これでは、シロウと同じではないですかっ!!)

 優しいなのはの事だ。またこのような事が起きると分かれば、決して見過ごしたりはしないだろう。
それはまるで、誰かが傷付く事や悲しむ事を嫌がり、自ら戦いに身を投じた『衛宮士郎』と同じではないか。
 しかし、まだ衛宮士郎には魔術使いとしての力と覚悟があった。だが、なのははただの子供だ。魔法を得たと言っても、それを日々鍛錬していた訳でも、ましてや知っていた訳でもない。

 そんな葛藤を続けるセイバーを、なのははただ黙って抱き締め返す。その腕に自分の想いをありったけ込めて。

「なのは……」

「セイバーは悪くないよ。悪いのは、きっとこんなものを生み出した人。だから、セイバーは悪くない」

 そう言って、なのはは優しく囁いた。

「それに、セイバーを誘ったのは私なんだから、ね」

 だから、もう気にしないで。そう言って微笑むなのはに、セイバーは瞳を閉じ、静かに答えた。

―――まったく、なのはには敵いませんね。

 笑みを浮かべて告げるセイバーに、なのはも笑う。それを見つめてユーノは思う。この二人に自分がすべきは、言葉なんていう簡単な謝罪じゃない。
 この笑顔を守るために全力を尽くす、という行動による謝罪なんだ。そう心に誓う。


月と共に星が輝く空の下、出会った時と同じように、二人の笑顔が照らされていた……。




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無印編第一話

戦闘らしい場面はほとんどなく、苦労したのは、最後の部分。

俺はユーノを淫獣にさせません。絶対に。

……でも、少し不安(汗



[21555] 1-2-1 無印二話 前編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:38
「とりあえず、現状を確認しましょう」

 あの戦いの後、簡単な自己紹介をし、帰る道すがらセイバーがそう話を切り出した。
それをユーノも考えていたらしく、小さく頷き、簡潔に語り出す。
 自分の事、魔法の事、そして―――ジュエルシードの事を。



友の温もり、家族の温もり



 ユーノの話を聞き、セイバーはおぼろげではあるが、ジュエルシードの本質を見抜いた。
手にする者の願いを叶える力。それは、彼女が昔望んで止まなかったものに似ていたのだ。

(まるで聖杯ですね。……では、まさかジュエルシードは願望器っ!?それも誰でも発動できる恐ろしいものっ!?)

 自分の中の推測が正しければ、最悪の場合『抑止力』が働いてしまう。そこまで考えて、セイバーは気付いてしまった。
今、この海鳴にはサーヴァントだった者達が四人もいる。しかも、受肉しているため、その能力を僅かだが向上させていたりもする。
 それに、全員が人間側に捉えられていてもおかしくない。万一の場合『守護者』として機能させられたら、どうなるか。まさか、自分達が召喚されたのは、この事を世界が予感していたからなのか、という考えが浮かぶ。
 セイバーはそんな己が想像に身震いした。それは、この愛する町を、人を、友を、自らの手で滅ぼす事になるのだから。

 おそらくその事を考えたためだろう。セイバーの表情は強張り、恐ろしいものになっていた。
それに気付いたのだろうなのはが、静かにセイバーの手を握る。
 その暖かさに我にかえるセイバー。そして、そんなセイバーになのはは笑った。

「怖い顔してたよ。どうしたの?」

「えっと、少し考え事を」

「そっか。でも、そんな顔するなら……考え事禁止なの」

 にっこりと笑うなのはを見て、セイバーもまた笑みを浮かべる。
それは困ります、と答え、手を握り返す。その手の温もりを嬉しく思い、なのはもセイバーも笑顔を浮かべる。
 それを見て、ユーノも笑みを浮かべる。そこからは言葉はなかった。しかし、確かな何かがあるのを、ユーノは感じていた。

(なのはとセイバーは強い絆で結ばれている。だから、言葉なんかなくてもいいんだ)

 羨ましい、と思いつつ、ユーノは首を振る。二人は、自分さえも受け入れてくれたではないかと。なら、羨ましがるのではなく、その域にまで二人に信頼されるようになればいい。まずは、今後の事となのはの魔法に関する知識を増やさなければ。そう考えるユーノ。
 それは自分の手伝いのためではなく、なのはの身を守ってもらうためのもの。危険に巻き込んだ自分に出来る数少ない恩返しだと、強く心に言い聞かせて……。



 自宅に戻ったなのは達を待っていたのは、恭也と美由希だった。
二人は玄関前で待ち伏せ、なのはを問い詰めようとしたが……。

「私がコンビニに行こうと連れ出したのです。すみません」

 セイバーがそう言って頭を下げた。それに何かを悟ったのか、二人は追求を諦め、二人と共に家に入った。
リビングに入ると、士郎と桃子が待ってましたというように座っていた。
 ちなみにユーノは、既に美由希によって捕まり、可愛がられている。

 両親はなのはの外出を咎める事はしなかった。ただ、連れ出したセイバーは若干叱られはしたが。
それをなのはは、内心申し訳ないと思いながら見ていた。恭也はユーノを弄り倒している美由希に呆れ、ため息一つ。
 セイバーを叱り終えた桃子は、美由希の手にしているユーノに反応。それを感じ取った美由希がユーノを手渡し、ご機嫌だ。
それに横の士郎も一緒になって、ユーノに色々を話しかけていた。試しにお手、と言ったらユーノがしてしまい、ちょっとした驚きすらしていた。

 そんな和やかな空気の中、セイバーとなのはは迷っていた。ユーノから聞いた話をするか否か。
無論、いずれは話す。でも、今話すべきかそうじゃないのか。それが二人の悩み。

「どうする?」

「ユーノの話では、ジュエルシードは残り十九。とてもではないですが、三人では探しきれません」

「じゃ……」

 なのはが、セイバーはどうするのかと尋ねようとした時だ。セイバーは微笑み「ここから先は、なのはが考えてください」と言い切った。
その言葉になのはは困惑した。今まで、なのははセイバーと相談した時、セイバーの意見をほぼ採用してきたからだ。
 そんななのはの心境を知っているかのように、セイバーは真剣な表情で告げる。

「これからのなのはの道は、なのはの意志で決定してください。私の言葉に囚われるのではなく、貴方の意志で貴方だけの道を」

―――私は、その道を共に行きます。なのはが望む限り。

 そう断言し、セイバーは微笑む。それは、なのはの背中を後押しする力。どこか手を引かれていたなのはを、優しく隣へと並ばせるような、そんな笑顔。
 それを受け、なのはは決心する。自分の道を、自分で決めて、自分で歩こう。それにもう不安はない。だって―――。

(セイバーが隣に居てくれるんだから!)

「お父さんお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃん。……お話があります」



「魔法、な」

 そんな士郎の呟きは、家族全員の感想だった。

 あれからなのはは全てを語った。ユーノとの出会いから現状に至るまでを包み隠さずに。
そんな夢物語とも言える話を、高町家の面々は信じた。それはセイバーという存在がいたから。
 誰に知られる事もなく現れ、重症だった士郎の体を癒した人物。それがなのはの話を笑い話に出来ない理由。

「申し訳ありません。僕が、僕がもっとしっかりしていれば……っ!」

「そんなに自分を責めないの。ユーノ君は悪くないわ」

「そうだよ。何とか一人でも頑張ろうとしたんだから」

 人の姿に戻ったユーノの言葉に、桃子と美由希がそう慰める。こうなったのは、ジュエルシード発掘をユーノがしたと聞いて、桃子が「どうやって?」と尋ねてユーノが話した内容から、全員が妙な反応をした事がキッカケで、ユーノが人間だと言う事が発覚したからだ。
 そして、事情を聞いて、ユーノを責める人間は高町家にはいなかった。
確かに、たった一人で行動した事は無謀で無計画だ。しかし、それを誰が責められる。幼い少年が己の危険も顧みずに行った行為を、否定出来る訳がない。

「でも、なのはさんを巻き込んでしまいました」

「それは、もう言いっこなしって言ったのに。それに、さん付けも敬語も禁止。私、そんな事をいつまでも気にするような子じゃないよ」

「あ、ありがとう……なのは……」

 軽い調子で答えるなのはに、ユーノはそう言って頭を深々と下げた。その目からは涙さえ流して。
それに慌てるなのはと、それを微笑ましく見つめる士郎と桃子。恭也もさすがにユーノの涙に怒る気はなく、むしろその気持ちに共感し、顔を背けていたりする。そんな恭也をからかいながらも、美由希はセイバーと視線を合わせて笑う。
 いつもの高町家に、新しい顔が加わった瞬間だった……。



「じゃあ、しばらくはそのジュエルシードの情報集めと探索だな」

 士郎の発言に、全員が頷く。あれからユーノが落ち着いたのを契機に、家族会議が行われた。
結論として、封印出来るのがなのはしかいない事や、セイバーでも倒せない事から当面はそれぞれで情報収集に努める事になり、見つけたなら、そこから出来るだけ離れずなのは達を待つか、それに誰も手を出せないようにする事になった。
 ちなみにその手段だが、直接触れられないようにケースか何かで覆うだけ。それだけでもいいから、出来るだけ人目に触れないようにする。
それが今の状況で出来る精一杯の手段だった。

「あたし達は、学校でそれとなく聞いてこうか」

「そうだな」

「俺達はお客さんからだな」

「それと、見つけても持ってこようとしないようにしなくちゃ。壊れやすいとか言って、ね」

 それぞれで今後の動き方を確認し合う家族達を見て、なのははユーノとセイバーへと視線を向ける。

「私達は?」

「とりあえず、なのはは学業を優先です。昼間はユーノも休養していてください」

「えっ、でも……」

 それはさすがに。そうユーノが答えようとした時、セイバーが優しく告げた。

「時間に余裕はないかもしれません。だからこそ、焦ってはいけないのです」

「そうだね。いざって時に動けなかったら、意味ないもん」

 セイバーの意見を笑顔で肯定するなのは。そんな二人の言葉に、ユーノもどこか力を抜いた表情を浮かべる。
それに笑みを浮かべ、互いを見合う二人。

「……そうだ、ね。じゃあ、またしばらくさっきの姿になってるよ。あの姿の方が治りも早いから」

「「え~、もうもどっちゃうの~?」」

 ユーノの発言に不満そうな声を上げたのは桃子と美由希だ。せっかく可愛い息子や弟が出来たみたいで嬉しかったのに。
そんな風な事を言いながらユーノを見る桃子と美由希に、全員が苦笑い。なのでユーノが、食事時くらいはと言うと嬉しそうに桃子がユーノを抱きしめた。
 美由希はと言えば、お風呂一緒に入ろうよなどと発言し、ユーノが顔を真っ赤にして慌て出した。
今度はそれにユーノ以外が笑った。こうして、魔法とのファーストコンタクトは幕を降ろす。





 海鳴市から若干離れた遠見市。そこにある高層ビルの屋上に、突然現れる三人の人物。
その者達は、自分達の周囲を確認し、男が話を切り出した。

「無事に到着、と。さて、まずはあの町があるかどうかから調べなきゃな」

「ねぇランサー。探すのは何て町だっけ?」

「アルフ忘れたの?確か―――」

”冬木”って所だよ。



次なる展開を……予感させながら






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無印二話。

アニメ一話を文章にするのは辛い……。なので、おそらく大抵何話かに分けると思います。

原作と完全乖離したこの話。色々ご意見はあると思いますが、セイバーのおかげで高町家の理解度が高い。

という事での打ち明け展開でした。次回も、読んでくれなきゃ暴れちゃうぞ!

……ネタが古くてすいません。



[21555] 1-2-2 無印二話 中編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:36
 地球の日本に降り立ったランサー達は、まず当初の目的である『冬木市』を探すため、ランサーを先頭に本屋へとやって来ていた。
あの幻の四日間で現代に順応していたランサーは、どうすれば一番安全に情報が得られるかを理解していた。
 そのために、無料で情報が得られる場所の一つである本屋に来たのだ。

「ええっと、地図地図……」

「フェイト、読める?」

「全然。ミッドとは違う文字ばっかりだから」

 置いてある本を見ながらボソボソと話すフェイトとアルフ。
ミッド出身のフェイトからすれば、漢字に平仮名、片仮名や英語等様々な文字が溢れる日本は、理解し難い言語体系を使っている世界なのだなぁと思わせるのに十分だった。
 彼女は後に、日本の公用語が漢字や平仮名と片仮名三つの文字を含めた一つのものである事を聞き、大いに驚く事となる。

「お、ここだ」

 フェイトがアルフに英語を見て「ミッド文字に似ている」と少し驚きながら語り合っているのを横目に、ランサーは地図のコーナーへ辿り着いていた。
とりあえず日本全国の地図を手に取り、目次で細かく調べる。そこに自分の求める町の名がない事を理解し、ランサーは己の悪い方の推測が正しい事を知る。

(冬木はなし、か。つまり、ここは完全に別の世界って奴だな。くそっ、魔術師の嬢ちゃん達がいりゃよかったんだが)

 ランサーが期待していたのは、ここに冬木が存在し、士郎達が住んでいる事だった。
ルーンしか使えぬ自分と違い、現代の魔術を使える凛達ならば、アリシアやプレシアの事を何とか出来る方法を知っているかと思ったのだ。
 しかし、冬木はなく、おそらく魔術師もいない。何故なら―――。

(あの嬢ちゃん、第二魔法を求めてる家系だとかカレンが言ってたな。なら、その家系がない訳がねぇ)

 つまり、ここが士郎達のいた世界の平行世界ならば、遠坂家がない訳がない。
その逆もまたしかり。なら、この世界に魔術師は存在しない。

「はぁ~。……行くぞ、フェイト、アルフ」

「う、うん」

「何だ?探し物は見つかったのかい?」

 些か気落ちしたようにも見えるランサーを、不思議に思いながら追い駆ける二人。
そのアルフの問いかけに、ランサーはややぶっきらぼうに答えた。

「欠片すらねぇ」

 そう言ってランサーは悔しそうに小さく呟いた。

―――きっとあいつらなら、手を貸してくれただろうによ。


変わりゆくモノ、変わらぬモノ




「じゃ、行ってきます」

「はい。気をつけて」

「なのは、いってらっしゃい」

 セイバーとユーノに見送られ、なのはは走り出す。昨夜決まった方針、そしてユーノからの提案により、なのははかつてない程緊張していた。
実は今日の夜から、ユーノによる魔法の勉強が始まるからだ。自衛のために使って欲しい。そうユーノはその提案の趣旨を告げた。
 それをなのはとセイバーは有難く受け入れた。ユーノの気持ちと覚悟を感じ取ったからだ。
そして、なのはが緊張している理由はもう一つ。

(アリサちゃんとすずかちゃん、はやてちゃんも驚くよね)

 親友達にも打ち明ける事を決めたからだ。それはその近くにセイバー達と同じような存在がいるから。

―――隠し事みたいで、何か嫌だから

 それがなのはの結論。それを聞き、セイバーは笑って賛成してくれた。
きっと理解し、手伝うと言い出します。そう付け足してさえくれたのだ。

 そんな事を思い出していると、なのはの前にスクールバスが止まる。それに意を決してなのはは乗り込んだ。



 私立聖祥大付属小学校。そこがなのは達の通う学校。その屋上にあるベンチに座り、お昼のお弁当を食べ、なのははアリサとすずかにゆっくりと打ち明けた。
 それは、昨夜起きた事の顛末。一切隠さずなのはは語った。魔法の事、ジュエルシードの事、そして自分の決意を。

「……で、なのははこれからも、ジュエルシードだっけ。を封印してくのね?」

「うん。私しか出来ないし、それに―――」

 何よりもこの町を、皆を守りたいから!

 そんななのはの言葉に、アリサはどこか諦めムード。すずかは笑って「なのはちゃんらしい」と頷いている。
その言葉にアリサも同意し、言い放つ。

「確かにね。でもいい?ぜっっったいに危ない事は極力避けなさい。後、もし手が必要なら言う事!小次郎を貸すから」

「アリサちゃん、小次郎さんは物じゃないよ」

「そ、そうだよ。気持ちは嬉しいけどね」

 二人の言葉にアリサはフンッと顔を背けて言い切った。

「小次郎はアタシのもんよ。だって、アタシのサーヴァントなんだから」

 ここにアーチャーがいれば、きっと懐かしんだだろう。それ程、今のアリサはあかいあくまにそっくりだった。
自信に満ちている表情、その雰囲気。そして、微かに照れているところまで完璧に。
 そんなアリサになのはとすずかは笑みを浮かべる。すると、すずかが何か思い出したように問いかけた。

「そういえば、ユーノ君だっけ?男の子なんだよね?」

「うん。そうだよ?」

 何か問題あったかなぁ、という顔のなのはに、すずかは悪戯めいた笑みを浮かべて告げた。

「良かったね。もし打ち明けてなかったら、なのはちゃん、知らずに着替えとかしてたでしょ?」

 その発言に固まるなのは。そんな事はないと言おうとして、否定出来ない自分がいたのだ。
おそらくあの時桃子が疑問に思わなければ、なのはも特に意識せず過ごしていた。下手をすれば、一緒にお風呂まで入ったかもしれない。
 そこまで考え、なのはは顔を赤くする。同年代の男の子と入浴する事を平然と出来る程、なのはは子供ではない。
そんななのはに、すずかもアリサも微笑み一つ。その場はすずかやアリサも必要なら手伝う事と、いずれユーノと二人を会わせる事でお開きとなった。



 麗らかな春の日差しを浴び、ユーノはある事を考えていた。
それは、全てが終わった後、管理局にランサー達の事を教えるか否かだ。ジュエルシードを奪いに来たのは間違いない。でも、とユーノは思う。

(悪人じゃない。そんな気がする)

 あの時、確かにユーノは聞いた。立ち去るその瞬間、ユーノに対し、小さくだったがランサーはこう言った。

「死ぬなよ、か」

 そう、その一言がずっとユーノの中で引っかかっていた。その気になれば、自分を殺して奪えばいい。
でも、まるで最初から危害を加えるつもりがなかったようにユーノは感じていた。
 だからこそ、最後にあんな事を言ったのではないか。ユーノはそこまで考え、決意する。

(もし、またどこかで会う事があれば、その時にジュエルシードを何故必要とするのか聞こう!きっと、何か深い訳があるはずだ)

 あの時、自分に対して誉めたのは、ランサーもジュエルシードが危険なものだと知っていたからだ。だからこそ、そこまでして何故求めるのか。それが知りたい。
 そして、おそらくランサー達もここに来るはず。なら、その時が勝負だ。そうユーノは思う。

「僕が力になれるものなら、手伝いたいんだ」

 ランサーのあの眼差し。それを信じ、ユーノは一人そう呟くのだった。



「良かったね、アリサちゃん」

「何が?」

 学校が終わると同時に、なのはは急いで教室を出て行った。昼の話をはやてにもするのだそうで、もう連絡はメールでしてあるとの事だ。
それを見送り、アリサとすずかは帰り道を歩いていたのだが、突然すずかがアリサにそんな言葉をかけたのだ。

「変わらなかったね、なのはちゃん」

「……そうね。確かになのはは変わらなかった」

「私達も、だよ?アリサちゃん」

 アリサが言おうとした事を、読んでいたかのようなすずかの言葉に、アリサは言葉を失う。
そんなアリサに、すずかは笑みを向け、言い切った。

「それはこれまでもだし、これからもだよ。何があったって、私達の絆は変わらない」

「すずか……」

「変われる自分、変わらぬ絆。私は、そう思ってるから」

 そう告げて、すずかは微笑み一つ。アリサは、そんなすずかに一瞬呆気に取られるが、すぐにいつもの表情を浮かべ、強く頷いた。

「そうね!何があったって、アタシ達はアタシ達なんだから!」

「うん!」

 言って互いに笑い合う。変わらぬ日常などない。変わらないのは、自分達の絆だ。
そう思ったところで、はたとアリサが呟く。

―――ユーノって奴が男なら、初めての男友達が出来るのかな?

―――そうなるといいよね。

 ユーノ・スクライア。その彼の知らない所で、静かに友達候補が増えつつあった。
後に彼は語る。初対面で友達になろうと言われたのは、生まれて初めてだった、と。



 はやては瞳を輝かせていた。なのはの話に出てきた魔法という言葉に、胸がときめいたからだ。
すずかの好きな本をはやては良く借りて読んでいるせいもあるのだろう。
 更にアーチャー達というある種のファンタジー(本人達は否定するだろうが)の存在も大きい。
なのはの語る話も疑う事なく、すんなり受け入れた。それは、アーチャーがいるからだけではない。
 相手がなのはだからだ。嘘が嫌いで、隠し事も嫌い。そんななのはが作り話をする訳がない。それに信じる理由がもう一つ―――。

(なのはちゃんは、わたしを親友って言うてくれた)

 なのはは言った。親友のはやて達に隠し事をしたくないと。
その言葉に、はやては顔にこそ出さなかったが、心の底で涙した。
 知り合ってもう一年半以上経ち、何度も遊び、時にはお泊り会もした。
大事な友達。そう思っていたのだが、なのはは更に上いく親友と言い切った。それにはやても思わず「わたしもなのはちゃん達は親友や思っとる!」と返したのは、当然の事と言える。
 もっとも、なのははそんなはやての声に若干驚いていたりしたのだが。

「で、そのジュエルシードやったか。それを探すんやな?」

「うん。当面は皆で手分けして、かな」

 なのはの言葉に、はやては笑顔で頷き、問いかける。

「なら、人手は多い方がええよね?」

「ふぇ?う、うん。そうだね」

「よっしゃ、ならわたし達も探すの手伝うわ!」

「ええ~~っ!?」

 さすがにそれは。そうなのはが言おうとした時だった。はやてが淋しそうな表情で呟いた。

「わたし、基本家から出ないんよ。出るって言っても決まった場所ばっかりや。そやから、この町も詳しく知っとるとこ少ないんよ」

 そんなはやての独白を、なのはは黙って聞き入る事にした。
それを見て、はやては「おおきにな」と笑って、続きを語った。
 なのはの手伝いを通じて、もっとこの町を知りたい。それを理由に様々な場所へ行きたい。そして、勉強が終わってしまうと暇ばかりになるから、一石二鳥だとも。

 そんな言葉を聞き、なのはは迷った。確かにはやて達は一番時間に制約が少ない。アーチャーもはやての世話を生業にしているようなものだし、護衛としても申し分ない。
 しかし、なのはは一点だけ不安があった。それは―――。

「最悪、怪物と戦うはめになるんだよ?」

 それは、はやての身の安全だけを考えた言葉ではない。アーチャーが傷付く事もあるのだ、とはやてに告げたのだ。
そんな事を分かっていたのか、そこでキッチンで作業をしていたアーチャーが口を出す。

「心配はいらん。聞けば、その怪物とやらは魔力で出来ているらしいな。なら、私には絶対的な武器がある」

 だから、心配はいらない。そんな自信と安心を感じさせる言葉に、なのはもはやても笑った。
何だかんだで、アーチャーは優しいのだ。今だって、その気になればはやてを嗜める事が出来たはず。でも、そうせずにはやての弁護をした。
 つまり、そういう事だ。

「おおきにな、アーチャー」

「なに、私がその程度の相手に遅れを取るなどと思われたくないだけだ」

 そんなアーチャーの言葉に二人は笑み一つ。声にこそ出さないが、思いは同じ。だからこその笑顔。

「それじゃ、はやてちゃん気をつけてね。アーチャーさん、はやてちゃんをお願いします」

「気ぃつけてな。あ、わたしにもユーノ君、紹介してな~」

 その言葉に頷き、なのはは八神家を後にする。その背に、午後の日差しを受けながら。


そしてその直後、なのははジュエルシードの発動を感知するのだった。




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第三話。我ながら中々話が進まない。

本当はこれでアニメ第二話を終えるはずだったんですが……。

本来ない場面を入れると、こんな感じなんです。勘弁してやってください。

次回、アニメ第二話終了!……出来るように頑張ります。



[21555] 1-2-3 無印二話 後編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:37
 なのはは急いでいた。八神家を後にした直後、感じた感覚。それがジュエルシードの発動だと、ユーノが教えてくれたのだ。
そして、今はそのユーノと合流し、反応のあった場所へと向かっていた。

【でも、本当にいいの?セイバーを呼ばなくて……】

【今から呼びに行ってたら時間かかっちゃうよ。それにセイバーを待ってる間に誰かが傷付いたら、セイバーも私も嫌だから。大丈夫、無理はしないし、きっとセイバーも来てくれる】

 ユーノの言葉になのははそう言い切る。誰かを守れる力があるのなら、迷う事無く使う。それは、なのはが教えられた御神の言葉。
そして、セイバーからも「自分が例え無力でも、それが許せないと思うのなら、絶対にさせてはいけない」と言われている。
 ならば、自分は出来る事をする。戦う事は出来なくても、誰かを守る事は出来るはず。そうなのはは思う。

 そして、そんななのはの言葉にユーノも感じるものがあった。自分がこの世界に来たのは、ジュエルシードが原因で誰かが傷付いたり、悲しんだりするのを防ぐためだった。
 なら、自分もなのはのように行動するんだ。それが、今の自分に出来る唯一の手段なんだから。そうユーノは思い、なのはに告げる。

【今から結界を展開するから、なのははレイジングハートを!】

【うん。よろしくユーノ君】

 ユーノは周囲に結界を展開させる。一瞬にして景色が色褪せていく。そして、なのははポケットからRHを取り出し、告げる。

「レイジング・ハート、セットアップ!」

”スタンバイレディ、セットアップ”

 なのはの声に応じ、起動するRH。起動コードなしでそれを行うなのはを見て、ユーノは確信する。
なのはの持つ魔法の才能は、まさしく天才レベルだと。

 バリアジャケットを展開し、なのはとユーノは神社の石段を駆け上がる。そして、その先にいたものは―――。


それは、夕日の思い出



「げ、原生生物と融合してる……」

「犬、だね」

 恐ろしい外見をした怪物。その傍には、飼い主であろう女性の姿があった。

「僕があいつを惹きつけるから、なのははあの人を!」

「分かった。ユーノ君、気をつけて!」

 なのはに告げると同時に、ユーノは怪物の前へと躍り出る。そして、眼前で防御魔法を展開し、怯ませる。
なのははその戦闘を避けるように、女性へ近付き、RHに告げる。

「レイジング・ハート、この人を守るものを出して!」

”ワイドエリアプロテクション”

 RHから放たれた光の壁が女性を包む。それを見て、なのはは頷き、視線をユーノへと移す。
そこでは、ユーノがバインドを駆使して怪物の動きを封じようとしていた。

「ユーノ君、こっちは終わったよ!」

「分かった!なら、こっちもこのまま抑えるから封印を!!」

「うん!」

 ユーノの思いに呼応するようにチェーンバインドが数を増やす。それを檻のように巧みに展開し、怪物の動きを制限していく。
それを無駄にすまいとなのはが動く。その思いに応え、RHが輝きを放つ。その光に怪物がたじろいた隙を突き、ユーノのバインドがついにその体を捉えた。
 そしてRHが形を変え、封印態勢に入る。それをなのはが力強く構えた。

「リリカル・マジカル!ジュエルシード、シリアル16!」

”封印”

 輝く光がリボンのように怪物を包み込む。そして、それが激しく輝いて消えた先には、大人しくなった犬の姿とジュエルシードが残されていた。



 気を取り戻し、周囲を見渡す女性。その足元には、先程の犬がいる。女性は首を傾げ、立ち上がるとその腕に犬を抱えて歩き出す。
それを後ろから見送るなのはとユーノ。心無しかその顔は嬉しそうだ。

「うまくいったね」

「うん。ユーノ君のおかげなの」

「いや、なのはがいたから出来た事だよ。……僕一人じゃ、封印出来なかった」

 どこか淋しげな表情をするユーノに、なのはは笑顔でこう言った。

「でも、私一人でもあの人は守れなかった。……それが出来たのは、ユーノ君がいたから」

「なのは……」

「助け合っていこ?私、ユーノ君と友達になりたいし」

 そんな風に笑顔で告げるなのは。その顔は夕日で照らされていて、朱が差している。
ユーノはその笑顔に見惚れる。しかし、それも瞬間。すぐに気を取り直して、弱く尋ねる。

「友達?僕と?」

「うん。だめ、かな?」

「だ、ダメじゃないよ!むしろ……嬉しい」

「にゃは、よかったぁ。断られたら、どうしようかと思ったよ」

「断るなんてそんな……。なのはとなら、友達にならない方がおかしいよ」

 あまりにはっきりした口調で告げるユーノ。それになのはは目を丸くするも、言われた事を理解し、照れくさそうに笑う。
それにユーノも自分の言葉を思い返し、照れ隠しからその顔を横に向ける。
 そこから少し、二人に会話はなかった。だが、ユーノがそろそろ帰ろうと告げて動き出した後、なのはが頷き小さく呟いたのを、ユーノは気付かなかった。

―――かっこよかったな、ユーノ君。

 その時のなのはの横顔が赤かったのは、夕日のせいなのか違うのか。それは、誰にも分からない……。



おまけ

 ジュエルシードを封印し、二人が高町家に戻ると、セイバーが血相を変えて出迎えた。
どうやら発動に気付かなかったようで、気付いた時には結界が消える瞬間だったようだ。

「すみません……」

 借りてきた猫のように項垂れるセイバーを、なのはとユーノは微笑んで見つめる。
そして、ユーノがさっきの状況を説明し、自分達もセイバーに連絡しなかったのが悪いと言い、頭を下げる。
 それに追随するようになのはまで頭を下げるものだから、セイバーが慌てる慌てる。

「あ、頭を上げてください。なのはもユーノも!これではまだ怒られた方がマシです」

「でも、連絡手段がないのは辛いね」

「念話が使えればいいんだけど……」

 セイバーは魔法が使えない。それは昨日の時点で判明した事だった。
ユーノが言うには、魔法は『リンカーコア』と呼ばれるものが必要で、それがセイバーにはないのだそうだ。
 しかし、魔力はある。そこでセイバーが立てた理屈は、魔法は使用にリンカーコアが不可欠で、魔術は使用に魔術回路が不可欠と言うもの。
その推測は正しく、セイバー達は一切魔法が使えない。逆もまた然りで、なのは達は魔術が使えないのだ。
 もっとも、これが完全に判明するのは、なのは達が管理局と関わってからなのだが……。

「では、やはり持つしかありませんか……」

「そうだね。そうしようよ」

「……何の話?」

 自分の知らない所で話が進んでいると感じたユーノが尋ねると、それを聞いていた美由希が答えた。

「携帯だよ、携帯電話」

 知らない?そう首を傾げる美由希にユーノは頷く。そこから始まる携帯講座。ユーノはそれを面白そうに聞き入っている。
そんな二人を横目に、セイバーとなのはは以前もらってきたカタログを眺め、思案中。
 実は、セイバーに携帯を持たせる案は前にもあった。だが、セイバーが「持っているだけでお金がかかるなど、私にはもったいない」と言って断ったのだ。

「やっぱり画質がいい奴だよ」

「ですが、基本料金が……」

「む~……。なら、容量の大きい奴は?」

「通話料が高いです」

「……じゃ、シンプルな奴」

「……なのはと同じものでいいです」

 静かにイライラしていたなのはに気付き、セイバーは模範解答を出した。
その発言にジト目のなのはだが、セイバーのすまなさそうな顔を見て、大きく頷く。


こうして、後日セイバーに携帯が持たされるのだが、パケットゲームにハマリ、翌月こっぴどく桃子に叱られるのであった……。




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第四話。ほのぼの分はおまけで追加。

ユーノが進んで前線に立ったのは、自分が男だから、という考えから動いています。

後、なのはに任せるのではなく、自分の出来る精一杯をやろうとしている結果です。

ユーノ・スクライアは、男の子!!



[21555] 1-3-1 無印三話 前編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:39
 夜の学校。そこに立つはなのはとユーノ、セイバーの三人。
ジュエルシードの反応を感じ、こうして行動するのも慣れたもの。セイバーがまず相手の動きを惹きつけ、ユーノが結界を展開。
 そしてなのはが最近習得した魔法でセイバーを援護する。

「レイジング・ハート!」

”ディバイン・シューター”

 射撃魔法。それは、なのはのセイバーやユーノを援護したいという思いが生んだ力。
その光弾は意志を持つかのように、怪物へ向かっていく。セイバーの動きに合わせるように、魔力弾が怪物を襲う。
 そして、それをかわしたところをセイバーが斬りつけ、怯んだ隙にユーノがバインド。

「今です!」

「なのは!」

「リリカル・マジカル!ジュエルシード、シリアル13!」

”封印”

 そこをなのはが封印する。これが最近確立されつつあるパターン。前衛をセイバー、中衛をユーノ、後衛なのはのチーム。
これが見事にはまり、ここ二戦はものの三分とかからずに封印出来ていた。
 RHがジュエルシードを収納し、この日も無事終了。

「これで四つですか」

「うん。でも、まだ沢山あるから」

「油断大敵、だね。とりあえず帰ろ?少し疲れたよ」

 少し辛そうな表情のなのはの言葉にユーノが頷く。

「そうだね。シューターの制御は慣れないと結構神経を使うだろうから」

「しかし、見事なものです。私の動きに合わせてくるとは」

「ふふん、セイバーの動きはずっと見てきてるから」

 笑顔。それは、そのなのはの言葉に、セイバーとユーノが浮かべたもの。
高町家に向かって歩き出す中、三人は他愛ない会話を交わす。ユーノが高町家にやってきて、まだ二週間弱。
 いや、もう二週間弱と言うべきか。怪我も完治し、既に身の上話までさせられた彼は、密かに桃子と美由希の『高町ユーノ計画』が始まっている事を知らない。
 それを裏で食い止めているのは、誰であろう恭也と士郎だった。
恭也は、あくまで友人としてユーノとなのはを関係させるべきと主張。士郎は、本人の意思なくそういう事は不味いと常識的意見。

 結果、ユーノ本人に聞いてから養子縁組の話は進める事となり、ユーノの知らぬ所で二人の計画は事実上停止されるのだった。



男の意地と新たな縁



 よく朝、高町家にある道場からいくつもの音が響いていた。

「どうした。そのような動きでは、私の剣閃はかわせぬぞ」

「くっ……まだまだぁ!!」

 小次郎の木刀が振り下ろされる。それをユーノが魔法で防ぐ。それと並行してチェーンバインドを展開、小次郎を捕らえようとするのだが。

「何度も同じ手は食わん」

「なっ……」

 小次郎はバインドに敢えて木刀を絡ませ、その場を離脱。そして素早く代わりの木刀を手に取り、ユーノへと迫る。
それにユーノは転送魔法でかく乱しようとするが、発動までの僅かな時間は小次郎にとっては絶好の好機。

「これは少しばかりの礼よ」

(あれって、小次郎さんの得意技!?)

 なのはの表情に戦慄が走る。それはもう幾度となく兄や父が敗れた技。動体視力に自信があるなのはにさえ、未だに見切れない無敵の剣技。
その名を燕返し。小次郎の必殺剣がユーノを襲う。そう、それは想像以上に健闘したユーノに対する、小次郎なりの気遣い。
 その身は未熟なれど、その意気や良し。それを表すための、秘剣。

「がっ……」

 咄嗟にユーノが展開したシールドと衝突する小次郎の剣閃、だがその鋭さがそれを打ち砕く。容赦ない小次郎の一撃がユーノに直撃する。いくら加減はしてあるとはいえ、それは意識を刈り取るには十分だった。それを見て、恭也が立ち上がる。

「そこまで!」

「ユーノ君っ!」

 その声に、観戦していたなのはが駆け寄る。その表情は不安一色だ。それが、早朝の高町家の定番になり始めてもう一週間。
キッカケは些細なものだった。ユーノがなのはのやっているトレーニングを見て、このままじゃダメだと思った事が始まり。
 そこから士郎や恭也に頼み、自分を鍛えてほしいと言い出した。勿論、同じ男としてそれを分からぬ二人ではない。
その日のうちから、ユーノは恭也と美由希の弟弟子となった。御神ではなく、あくまで剣術としてのだったが。

「どうです?ユーノの奴は」

「……初めは些か戸惑ったが、慣れればどうという事はない。しかし、内心見くびっておったわ。初見では厄介なものかもしれぬ」

「小次郎さんにそこまで言わせるとはねぇ。……あたしも負けてられないかな」

「いや、実際良くやったと思うぞ。俺達も勝ってはいるが、魔法には結構手を焼いたじゃないか」

 士郎の言葉に恭也は頷く。小次郎同様、恭也もユーノを甘く見ていた。しかし、的確なバインド展開とシールドの強度に、それが驕りだったと気付かせれたのだ。神速を使い、試合には勝ったが、恭也にとってユーノは、それ以来美由希とは違う期待を抱かせる相手となった。
 美由希もセイバーも試合結果はそうだった。ユーノは戦闘をするタイプではなく、むしろ学者や研究者といった人間だ。
だからこそ、ユーノは頭を使う。どうすれば自分が勝てるのか。そこまで流れを作るにはどうするのか。そういう考えを既に持っていた。

 士郎も恭也も美由希も、そしてセイバーでさえユーノを倒したのは、使う必要はないと思っていた『神速』や『魔力放出』を使ってだった。
それだけ魔法の使い方が上手く、また巧みだったのだ。それに、初見ではどの魔法がどんな効果を持っているか分からないのも、強みの一つ。
 故にユーノは意外に善戦していたのだ。だが、恭也達は知らない。それは日々、ユーノが高町家の修行風景を仔細漏らさず観察した結果なのだ。

 そんな小次郎達から離れた場所で、なのはとセイバーがユーノを見つめていた。

「大丈夫ですよなのは。アサシンは加減していましたから」

「それは分かってるけど……」

 セイバーの言葉になのはも同意するが、それでも心配なのだ。何せ、小次郎は恭也や士郎に勝てる人なのだ。
その試合を見た時、なのはの小次郎を見る目が変わった。それまではアリサの家の庭師だと思ってたのだが、実は凄腕の剣士なのだと知ったからだ。

 なのはが心配そうにユーノを見つめる中、なのはを見る恭也の視線が鋭くなる。

(また強くなったとは思うが、なのはは渡さん!)

(あ~、まただよ。恭ちゃんも過剰なんだよね)

 その視線の意味するものを知り、美由希は苦笑い。恭也は、なのはとユーノの仲を変に勘繰っている。美由希の目から見ても、まだ所詮お友達だろうとしか見えないのに、恭也はどこか別の見方をしているのだ。
 ま、そう見ながらも恭也もユーノを弟扱いしている所があり、この前なども共に釣りに出かけてたりする。

 ここだけの話、士郎と恭也にとってユーノは数少ない男仲間。
そして、境遇故に甘えなかった恭也と違い、ユーノはどこか遠慮はあるものの、歳相応の甘さを残していたりする。
 士郎は恭也に出来なかった分、ユーノを息子同然に可愛がり、恭也は恭也で弟と思って面倒を見ていたりするので、やはり高町家は甘い。
そして、そんな家族同然の扱いに、ユーノが密かに涙したのも内緒の話。

「では、私はこれで失礼する」

「はい。今度は俺とやりましょう」

「いや、父さんじゃなくて俺が先だ。第一、この前やったばかりじゃないか」

「はいはい。それは、後で。まず、道場の片付けね」

「いつもすまぬな。私も手伝いたいが」

 小次郎はそう言って困り顔。そう、小次郎は一度も道場の片付けや掃除をした事がない。本来ならば、小次郎とて武士の端くれ。道場に対し礼を払うのだが、それが出来ない理由があった。

「いいですって。アリサちゃん、待ってるんですから」

「……すまぬ」

 美由希の言葉に小次郎はそう答え、軽く頭を下げる。それに笑顔で手を振る美由希。
そう、小次郎が高町家に出入りするようになってから、アリサは軽いジョギングを始めるようになり、その護衛に小次郎を指名しているのだ。
 それがアリサなりの抵抗なのは、小次郎以外全員理解している。だからこそ、微笑ましく小次郎を送り出す。

「う……」

「ユーノ君、大丈夫?」

 小次郎が出て行くのと同じくして、ユーノは意識を取り戻した。
周囲の様子を確認し、ユーノはポツリと呟く。

「……また、負けた」

 その呟きと共に、ユーノの視界が滲む。士郎や恭也達と戦い、次は負けないと意気込んで臨んだ小次郎との試合。
小次郎の何とも言えない佇まいに、一度は飲まれかけたユーノだったが、その瞬間ランサーの事を思い出し、それを跳ね除けたのだ。
 最初は小次郎も様子見の部分があって、ユーノ優勢に展開されていた試合だったが、ユーノのチェーンバインドに小次郎の片腕が捕らえられた後から状況が一変した。

 ユーノが勝負を決めるため、一気呵成に攻めようとした瞬間、小次郎がバインドを引き千切ろうとしてバインドが軋み、ユーノの驚きを誘った。
バインドが力任せで軋みを上げる(小次郎が僅かだが対魔力を得たため)という光景に、ユーノの意識が逸れたのを感じた小次郎は、距離を詰め、自由に動く足でユーノを蹴り飛ばした。
 その攻撃でバインドを解いてしまったユーノは、先ほどの通りやられてしまったのだ。

「ユーノ君……」

 声を押し殺し、涙を流すユーノに、なのはは何も言えなかった。それは、下手な言葉は余計ユーノを傷つけると思ったから。
なのはは知っている。何故、ユーノが自分を鍛えようと思ったか。それが、昔の自分と同じだったからだ。

(守られてるだけじゃ……嫌なんだよね)

 セイバーによって守られるなのはとユーノ。封印するのはなのは。ユーノは役に立ってない訳じゃない。昨夜のように、的確に相手の動きを制限し、二人のサポートをしている。でも、本人はそれだけじゃ嫌なのだろう。

「なのは、今は一人にしておきましょう」

「セイバー……うん」

 静かに声を掛けるセイバーに、なのははそう応じ、道場を後にする。去り際、一度だけユーノの方を振り向き、呟く。

「ユーノ君は強いよ。絶対に、あの時の私よりも」

 その視線の先には、士郎と恭也に励まされているユーノがいた。



「初めまして。アタシ、アリサ・バニングスよ」

「初めまして。私は月村すずかです」

「は、初めまして。僕はユーノ・スクライア。スクライアは部族名だから、ユーノって呼んでほしい」

 あれからしばらく後、なのは達はグラウンドに来ていた。今日は士郎が監督兼オーナーをやっているサッカーチームの試合がある。
翠屋JFCというチームで、その応援とユーノの紹介を兼ねてアリサ達を誘ったからだ。

「そ、ユーノね。アタシはアリサでいいわ」

「私もすずかでいいよ。よろしくユーノ君」

「こ、こちらこそよろしく、すずか。それと……アリサ」

 どこか緊張するユーノに笑みを浮かべるなのは達。だが、彼女達は知らない。ユーノが緊張している理由。それは、普段から聞いている小次郎のアリサ話が原因だと。
 曰く「本当は虎の娘」や「気に入らなければ骨の髄までしゃぶられる」などと吹き込んでいた。それを真顔で言うものだから、ユーノは素直に信じてしまったのだ。小次郎は真面目で腕の立つ武人。それがユーノの評価だから当然と言える。

「後、もう一人紹介したい子がいるからね」

「あ、はやてちゃんだね」

「やっぱりはやても会わせてって言ったのね」

 なのはの言葉に、俄かに盛り上がる二人。それを横目にユーノは視線をグラウンドへ移す。そこでは、多くの少年達がボールを追い駆け、走り回っている。
 それがサッカーと言うスポーツだと、ユーノは知っていた。高町家で士郎やセイバーがテレビを見ながら、あ~でもないこ~でもないと言いながら熱中しているのを、何度も見ていたからだ。

(楽しそうだな……)

 小さい頃から遺跡発掘等の仕事や勉強に従事していたため、ユーノは同年代と遊んだ経験が少ない。
だからだろうか。眼前の光景が、ユーノには少しだけ羨ましく見えた。そんなユーノの横顔を、なのは達は黙って見つめる。

(ユーノ君……何か悲しそう)

(何よ、あんな顔して。こっちは無視?……いい度胸してるじゃない)

(サッカーが珍しいのかな?……でも、何で寂しそうなんだろう)

 三人の少女は同い年にも関わらず、どこか物悲しい雰囲気を漂わせるユーノを、様々な意味で意識していた。
そんな四人を遠くから呼びかける者がいた。その独特の喋り方に、なのは達三人がそちらへ振り向く。

「お~い。今着いたで~!」

「「「はやて(ちゃん)!」」」

 アーチャーに車椅子を押されながら、はやては嬉しそうに手を振る。それに駆け寄る三人。
それを見つめ、ユーノはなのはから聞いた親友の名前を思い出していた。

(そうか。彼女が八神はやてか。事故が原因で歩けないんだ、って言ってたな)

 楽しそうに笑う四人を見て、ユーノも笑う。なのはがあんな風に笑っていられるように、早くジュエルシードを回収しなければ。
そんな思いがユーノの中に強くなる。すると、ユーノの視線がアーチャーと合う。その瞬間、アーチャーが口の端を上げた。
 その笑みの意味するものがユーノは分からず、困惑の表情。それにアーチャーは益々笑みを深くする。

(まったく……。どこにもいるものなのだな、女難の相が見える相手というのは)

 おそらく、これをあかいあくま辺りが聞いていれば「それを今のあんたが言う?」とそりゃいい笑顔で言い放っただろう。
現在、アーチャーを意識しているのは三人の女性。敢えて誰とは言わないが、かなり熱烈にアーチャーに好意を抱いている。
 まぁ、その内の一人は「お嫁にいけない」と言う事までされたのだが。それをアーチャーが知るのは、今年の冬が終わる頃。



 ある程度喋ったところで、試合開始の時間となり、なのは達は応援席で観戦する事に。ユーノはアーチャーと共に、セイバーと同じベンチで観戦している。一緒にと、なのはが誘ったのだが、アーチャーが男同士の話がしたいと申し出たため、なのは達少女四人での観戦となっている。

「ユーノ君やったか?可愛い顔しとるな」

「そうだね」

「女顔って奴よね」

「でも、さっきはすごく男の子っぽい顔してたよ?」

「おっ、何や面白そうな話やな。すずかちゃん、それ詳しく」

「お、応援しようよ~」

 興味をユーノに示すはやてに、なのはが困ったようにそう言った。それに三人が笑い、頷いて声を上げる。
すると、四人の声が効いたのか。それまで一進一退の攻防をしていた試合が、一気に翠屋JFCのペースに変わった。
 ……まぁ、男なんてみんな素直で単純なもので、美少女が応援してたら、いいとこ見せようとするものなのだ。

 それを別の場所から見ながら、ユーノは苦笑い。自分もきっと同じような事をされたら、目の前の少年達のように張り切る姿が浮かんだからだ。

「何か面白い事でもあったかね?」

「いえ、笑い事じゃない気がして」

 ユーノの答えにアーチャーは楽しそうに笑みを浮かべ、視線をなのは達へ向ける。

「まぁ、確かに彼女達は可愛いからな」

「はやてもですね」

「何故わざわざはやてだけを個別で告げる」

 ユーノの言葉にアーチャーは少し嫌そうな表情でユーノを見る。それを見て、ユーノは笑って答えた。

「だって、アーチャーさん、はやてだけ視線合わせなかったですから」

 思ってないのかと思いました。そう続けたユーノにアーチャーはややムスッとした顔で、それを否定。
確かにはやてに視線は合わせなかったが、それははやてが自分の視線に敏感だからだ、と言ったのだ。
 それを聞いて、ユーノは「いや、それってどうなんです?」と思ったのだが、言うのはやめた。嫌な予感しかしなかったからだ。
そんな風にユーノとアーチャーが会話する横で、セイバーは力の限り声を張り上げ、応援するのだった……。




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第五話。本来ならなのはの覚悟を固めるアニメ第三話。

でも、このなのはは覚悟完了しているので、メインはそこじゃなかったり。

ユーノ鍛錬。これがどうなるのか?ちなみに、ユーノ戦は皆が本気でやれば十秒と持ちません。

……強くなれ、ユーノ。支援専門でも強くなれ。

9/26 加筆修正しました。



[21555] 1-3-2 無印三話 中編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:40
「今日はみんな良く頑張った!そんなに長く時間は取れないが、祝勝会だ。英気を養い、次も勝つぞ!」

 士郎の言葉に、翠屋JFCの面々が歓声で応える。あの後、試合は翠屋JFCの勝利に終わり、そのままの雰囲気で、翠屋で祝勝会となったのだ。
それとは別に、なのは達は、外にあるオープンカフェスペースでくつろいでいた。セイバーは、中でチームの少年達と楽しそうに話している。

「いや~、初めてサッカーを生で見たけど、結構面白いもんやね」

「だよね~。私も思わずハラハラしちゃった」

 やや興奮気味に話すはやてに、すずかも同意し笑みを浮かべる。

「アタシとしては、もう少し盛り上がりが欲しかったわね」

「え~、十分盛り上がってたと思うよ?」

 少し不満げな表情で告げるアリサに、なのはは不思議そう。

「どうです?そちらは」

「いや、ダメだ。やはり反応が分からないというのが厳しいな。何か手があればいいのだが……」

 そんな四人の和やかな雰囲気のテーブルとは対照的に、隣のユーノとアーチャーのテーブルでは、ジュエルシードについて話し合っていた。
アーチャーは、ユーノからジュエルシードの詳しい説明を受けた時、迷う事なく「破壊するべきだ」と主張した。それをユーノやセイバーが何とか説得し、とどめとばかりに後からそれを聞いたはやてが「人様のもんを勝手に壊したらあかん!」と言い放ち、アーチャーは渋々ではあるが引き下がった。
 そして、破壊出来ないなら、一刻も早く回収するべきと思い、はやてと探索するのは勿論、深夜も一人で探索していた。

 それを知っているのはユーノとセイバー、そしてライダーに小次郎の四人。
前者二人は本人から聞き、後者二人は偶然出会った。その時分かったのは、ライダーや小次郎もすずかやアリサから話を聞き、早く日常を取り戻してやろうとの気持ちから、アーチャーと同じ行動を取っていた事。
 それを知った時、三人揃って苦笑を浮かべ、お互いに変わったと言い合ったものだ。

「でも、小次郎さん達も協力してくれたおかげで、大分探索範囲が絞れましたから」

「そうか。そう言ってもらえると助かる」

「残り十七。広域探索魔法が使えれば、もっと効率も上がるんですけど……」

「出来ない事を言っていても仕方ない。それより、いいのか?」

「え?」

 アーチャーの突然の一言にユーノの思考が止まる。その視線が注がれているのは、自分の後ろ。つまりなのは達のいるテーブルであった。

 アーチャーが言いたい事を理解し、ユーノが恐る恐る振り向くと、少し拗ねた表情のなのはとアリサ、苦笑を浮かべるすずかに面白そうに笑うはやてがいた。
 それが何を意味するのか。それを理解したユーノは電光石火の動きで頭を下げた。

「ごめん!なのは達を忘れてた訳じゃないんだ!ただ、今アーチャーさんとジュエルシードについて話してて……」

―――だから、と続けようとして、なのは達が笑い出した。

 その表情の変化に、ユーノは一瞬何が起きたのか理解出来なかった。そして、そんなポカンとするユーノに、アーチャーが告げた。
ユーノは、なのは達にからかわれたのだ、と。それを聞き、状況を把握したユーノは怒りや呆れでもない感情が湧き起こった。

―――しょうがないな、なのは達は。

―――ユーノ君が悪いんだよ?私達を無視するから。

 そう告げるなのはの表情は、誰が見ても嬉しそうな顔をしていた。

他愛ないやり取り。屈託のない笑み。それをくれるかけがえのない親友達。それを心から感謝するように。



芽吹く希望、近付く出会い




 楽しげに会話するなのは達。それを眺め、アーチャーも笑みを浮かべる。しかし、その表情が一瞬にして曇る。

(あの男、二年ぶりに現れたかと思えば、ジュエルシードに手を出すな、とはな)

 そう。アーチャーが初めて深夜ジュエルシードの探索を行おうとした時、あの仮面の男が再び現れたのだ。
そして、身構えるアーチャーにジュエルシードに手を出すな、と告げ再び消えたのだった。
 それにアーチャーは確信を持った。監視の視線がなくなったのは、こちらを監視する別の手段を得たのだと。
そして、ユーノとの話で男の使ったものの正体も判明した。

(魔法、か。つまり奴は魔導師という存在。ならば、あの本はジュエルシードと同じロストロギアと呼ばれるもの)

 そう考え、アーチャーは一つの結論に辿り着く。それはある種の真実。それは、ある種の誤解。

(あの本を奴が監視するのは、封印を解かないように見張っているのか。なら、ジュエルシードに手を出すなと言うのは何故だ?……そうか、あれは強大な魔力の結晶。それが封印を壊しかねないという事か。奪っていかないのは、おそらく害意を持つ者が触れると反応する類のものなのだろう。とすれば、あの本に関わるなと言う言葉も納得がいく)

 だが、それはあの男の言葉を好意的に取って信じるのなら、だ。そう自分に言い聞かせる。そんなアーチャーだったが、しかし、と呟き空を見上げる。
 白い雲と青い空。時折吹く春風が心地良い。そんな麗らかな春の日差しを受け、アーチャーは思う。

(奴もどこか本気ではなかった。ならばあの男も、この平和を守ろうとしているのかもしれん)

 そう考える自分に、アーチャーは笑みを一つ。

―――随分と甘くなったな、私も。

 そんな呟きが、車の排気音と共に空へ舞った。



「……マジか」

「はい。間違いないと思います」

 とある高層マンションの最上階にある部屋。そこが現在のランサー達の拠点だった。
そのリビングでランサー達はモニター越しにリニスと会話していた。

「ジュエルシードが……この近くに」

「まだその町と決まった訳ではありませんが、おそらく」

「なら、早速……」

 そう言って動き出そうとするアルフを、ランサーが無言で手を出し制した。それに続こうとしたフェイトも同様だ。
ランサーは視線をリニスに向けたまま、自分に言い聞かせるように告げる。

「ダメだ。まだこの町にないって決まった訳でもねえ。海鳴って町についても、もう少し情報を集めるんだ」

(そうだ。俺はこいつらに頼りにされてる。そんな俺が慌てたら、フェイト達が余計焦っちまう)

「でも!」

「焦るんじゃねぇ。急いては事を仕損じる……この国の言葉だ。どんな時でも冷静さをなくすんじゃねえ」

 どこか焦りを見せるフェイトに、ランサーは内心の焦りを押し殺し、そう言って黙らせる。それにアルフも黙らざるを得ない。
フェイトはランサーの弟子のようなもの故に。アルフは信頼し頼れる漢故に。
 その絆は既に断金。かの三国志に登場する小覇王孫策と美周朗周瑜が交わした友情。それにも勝る繋がりなのだ。

「それに、いざって時は俺が熱くなっちまうからな。余計、フェイトには冷静でいてもらわね~と」

 人懐っこい笑みでそう言われてしまえば、フェイトも何も言い返せない。そのまま、ランサーがフェイトの頭を撫でれば尚の事。
それを見てリニスとアルフは笑みを浮かべる。くすぐったいと言いながらも嬉しそうなフェイトと、満面の笑顔でどうだと言わんばかりに撫で続けるランサー。
 まさに兄妹と呼ぶに相応しい光景が、そこにあった。

「で、プレシアの様子はどうだい?」

「……良くはありません。緩やかではありますが、悪化しています」

 フェイトがランサーとじゃれているのを横目に、アルフとリニスはそんな会話をしていた。
フェイトには、プレシアがジュエルシードを欲しがっているのは、自分の病気を治すためと伝えてある。
 本当は違うのだが、それもあわよくばと思っている事なので、嘘とも言い切れない。
この理由をフェイトに告げる時、プレシアは珍しく言い淀んだ。その理由を知る者はいないが、プレシアは無意識にフェイトへ本当の事を告げない事に良心が痛んでいたのだ。
 だが、プレシアはそんな事に気付かないし、勿論ランサー達も知る由はない。

 ただ静かにランサーの撒いた種が、ゆっくりと芽を出し始めたのだ……。



 楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。あの後、ユーノを加えた五人の話は止まる事がなかった。
ユーノは幼い頃から部族の大人達と発掘などの仕事をした事があるため、その時の話は、なのは達にとっては非常に興味深いものがあった。
 逆にユーノはアリサやすずか、はやての話に興味を持った。大人顔負けの知識量を持つアリサとすずか。家事等の話やアーチャー仕込みのサバイバル知識。それらは知識欲旺盛なユーノには、得るものが多い話だったからだ。

 そんなユーノとは対照的に、なのはは少し不満気味。自分と話をしている時より、ユーノが三人の話に夢中だったからだ。
でも、となのははユーノを見る。そのユーノの表情はとてもイキイキしていた。だから―――。

(もう、今回だけだからね。……次はないよ?ユーノ君)

 許す事にする。歳相応の表情をしているユーノに免じて。
そして、笑顔を浮かべると、話が一段落したのを見計らって、なのははこう切り出した。

「ね、五月の連休なんだけど……」

「ゴールデンウィークがどうかした?」

「何かあるの?」

 アリサとすずかの言葉に、ユーノが不思議顔。それを見てはやてが解説をする。それに補足や雑学をアリサとすずかが入れ、終わるのを待って再びなのはが語りだす。

 それは遊びの誘い。毎年恒例の家族旅行。今回は泊まりを視野に入れたもの。
その誘いに喜んでと応じるアリサとすずか。はやては迷っていたが、アーチャーが「なら、私が骨休めで行かせてもらおう」と言った途端「一人は嫌や~!」と怒りながら叫び、誘いを受けた。
 もっとも、それがアーチャーなりの後押しなのは、今日のやりとりからユーノですら理解している。
こうして、連休の温泉旅行は、高町家、月村家、アリサと小次郎、それにはやてとアーチャーが加わる団体旅行となる。
 まだなのは達は知らない。この旅行に更なる参加者が加わる事になる事を……。




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第六話。ほのぼの+少しシリアス?

基本、ジュエルシードの封印って地味ですから。バトル要素、入る余地なし。

こちらとしては楽でいいんですが、読み手としてはどうなんでしょう。

次回でアニメ第三話終了!



[21555] 1-3-3 無印三話 後編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:41
 祝勝会も終わりを告げ、翠屋からぞろぞろと少年達が出て行く。それを横目に、なのははアリサ達へ問いかけた。

「ね、この後はどうするの?」

「私はお姉ちゃんとお出かけ」

「アタシはパパとショッピング!」

「わたしは特にないけど……」

「夕飯の買い物をして、帰るとしよう」

 はやての視線にアーチャーがそう答える。それに笑顔で頷くはやて。
なのははユーノを見て、ユーノに念話で尋ねる。どうする、と。
 別に直接聞いてもいいのだが、この和やかな雰囲気でジュエルシードの話は、場違いな気がしたからだ。

 ユーノもそれは同じなのか、さして驚く事もなく、その問いかけに答えた。

【今日は完全休養に当てよう。探索範囲も大分絞れてきたし】

【いいの? 別に私は平気だよ?】

【でも、朝の魔法訓練や夜の練習なんかで疲労はしてる。士郎さんからも言われたでしょ?】

 無茶は目をつぶるが、無理は許さない。なのはが魔法の訓練を始めた時、士郎はそう言った。
それは、なのはの我慢強さを考慮しての発言だった。昔からどこか自分の事を後回しにして、他者の事を優先するところがあったなのは。
 だからこそ、ジュエルシードに関しても無理をどこかですると、士郎達は読んでいた。
そのため、なのは本人に強く言い聞かせたのだ。休める時に休むのも、大切な事だと。

【分かったよ。……もう、ユーノ君までお兄ちゃんみたいな事言う~】

【みんな、なのはが心配なんだよ】

 そんな会話と並行して、二人はアリサ達とも会話する。マルチタスクと呼ばれる技能で、前線魔導師には必須とも言われるものの一つだ。
なのはも最初はかなり苦労したが、持ち前の才能かすぐにそれを習得してみせた。
 ユーノは念話相手に、セイバーは会話相手として、それぞれ苦労をかけたのだが。

「あれ……?」

 念話を終えたなのはの視界に少年がいた。その手には、ジュエルシードのようなものが握られていて、それを彼はポケットに入れた。
それを見てなのはは考える。それが本当にジュエルシードなのか、と。もしかしたら見間違いかも。そんな事を思い、なのはは立ち上がった。
 突然立ち上がるなのはに、不思議そうな表情を浮かべるアリサ達。

「ちょっとごめん」

 そう言って、なのははその少年へ近付いた。振り向く少年に、なのはは疑問に思った事を聞く。

「菱形のキレイな石がさっき見えたんだけど、見せてもらえないかな? 友達の落し物に似てたから」

 そんななのはの言葉に、少年も素直にポケットから先程のものを取り出す。
それは間違いなくジュエルシードだった。なのははそれを確認して、頭を下げる。
 友達の落し物に間違いない、と。だから返してもらえないかと。そんななのはに少年は笑顔で頷き、ジュエルシードを渡す。
偶然拾ったんだ、と語る少年に、なのはと事情に気付いてやってきたユーノが揃って礼を述べる。
 それを照れくさそうに受ける少年。そこへマネージャーらしき少女が現れて―――。

「何があったの?」

「えっと、実はね……」

 少年から事情を聞き、少女は笑みを浮かべて少年を誉める。それに益々照れていく少年。
なのはとユーノがまた礼を述べて……。それを端から見ていたアリサが呟く。

「……で、いつまでアタシ達はこの寸劇を見てればいいのよ」

「あ、アリサちゃん、寸劇は酷いと思うよ。せめて……小芝居、かな?」

「何気にすずかちゃんも言うなぁ……」

 そんなこんなのやりとりが、実に五分弱続いたとな。



伝える気持ち、伝わる気持ち




 アリサ達と別れて、なのはとユーノは士郎と共に高町家に帰宅。と言っても、士郎は少し休んでまた出勤なのだが。
一緒に風呂に入るかとの士郎の誘いを断り、なのははお昼寝タイムとばかりに部屋へ。ユーノが代わりにそれを受け、男二人のまったりタイム。
 ちなみに、セイバーはそのまま仕事中。サッカーチームの少年達との会話で、やる気十分だった。

「なぁユーノ君」

「はい?」

 士郎の背中を洗いながら、ユーノは首を傾げた。力加減は良いはずだ。何せ、もうこれで士郎の背中を流すのも五回目だ。
何を聞かれるのだろう、とユーノが思っていると、士郎は静かにこう言った。

「良かったら、うちの子にならないか?」

 それは真剣な声。でも、どこか優しく穏やかな声。何でもないように告げられた言葉に、ユーノは手が止まった。
その言葉自体は、何度か言われた事はある。桃子や美由希がよく冗談めかして言うのだ。
 でも、こんな風に真面目に言われた事はない。それが意味する事がユーノに理解出来た時、その目から何かが溢れそうになった。

「別に、養子になれって訳じゃない。ようは気持ちの問題さ。どこか他人行儀が抜けないからな」

「そ、それは……お世話になってる居候ですし」

「俺はな、ユーノ君。初めて君の身の上を聞いた時、思った事がある」

 士郎の言葉に、ユーノは黙る。それは、続きを促す沈黙。真剣に聞き入るという証。
それを感じ取り、士郎は軽く笑い「ま、まずは風呂に浸かろう」とユーノを促す。

「……どうして君となのはが出会ったのかって考えた時な。それは、俺達夫婦に神様がくれた贈り物なんじゃないかって思ったんだ」

「贈り物、ですか?」

「ああ。恭也は色々あって、普通とは言い難い子供時代を過ごさせてしまった。それで男の子が欲しかったんだが、俺も母さんもなのはで手一杯になってな……」

 そう言って、士郎は息を吐く。そして、ユーノの方へ視線を向け、笑って告げた。

「だから、俺は君を息子として接したい。普通の子供でいさせてやりたい。そう思ったんだ」

「士郎さん……」

 その言葉に感激して瞳を潤ませるユーノ。それに士郎は笑って返す。

―――父さん、でもいいからな。

―――はい、し……父さん。

 そう言って、ユーノは顔を伏せてしまう。照れと恥ずかしさと色々な感情が混ざり合ったのだろう。それを優しく微笑み、頭に手を置く士郎。
後にユーノは語る。自分を救ってくれたのはスクライア一族だが、自分を『子供』にしてくれたのは高町家だった、と。



 そんな会話が風呂場で行われている時、なのははベッドに横になり、ぼんやりとある事を考えていた。
それはユーノが話してくれた襲撃者の事。それも、自分と同い年ぐらいの少女の事だった。
 自分がひょんな事から集める事になったジュエルシード。それを狙い、ユーノの前に現れたという『犯罪者』
だが、ユーノの話ではそういう人間には見えなかったとの事。

「フェイトちゃんって名前なんだよね」

 あの出会った日の夜、ユーノが話した内容は、セイバーを驚かせた。ランサーと言う名を聞いた時、セイバーが慌ててライダー達に召集をかけたぐらいだ。
 だが、ユーノの話と状況から、セイバー達は一つの結論を導き出した。
それは、事情を聞きだし、何故ジュエルシードを求めるかを把握する事。ランサーがジュエルシードの本質を見抜いているのは、ユーノとのやりとりで察している。だからこそ、何故聖杯に望むものがないランサーが、それに類似するものを必要とするのか。
 それを確認してから対処を決める、という事でセイバー達の意見は纏まったのだ。

「……ジュエルシード、何で必要とするんだろ?」

 自分と同じぐらいの少女。それが何故ジュエルシードという危険なものを欲しがるのか。
もし可能なら、それを聞いて手伝える事なら手伝いたいとなのはは思う。それは、ランサーというセイバーと似た存在がいるから。
 きっと、その少女も自分と同じく寂しさを感じていたのだろうと思ったから。だから、出来る事なら友達になりたい、となのはは思う。
少女達がジュエルシードを集める本当の意味をなのはが知るのは、その少女と出会って二週間程の時間が必要となる。



「でも、あれね。ユーノって意外と博学よね」

「そうだね。遺跡発掘とかなんてちょっとロマンチックだよ」

「そんな話をしたのですか?」

 二人の話に、ライダーが不思議そうに尋ねた。二人の迎え兼護衛として彼女はいた。小次郎は現在、月村邸で庭仕事の真っ最中だろう。
そして、ライダーもユーノと既に顔は合わせている。それ故、ユーノがどのような人間かは知っているが、どういう事をしてきたかまでは知らなかった。

「うん。面白い話が聞けたよ」

「ま、まだ話のストックはありそうだし、今度にでも聞き出してやらなきゃ」

 楽しそうに笑うアリサに、すずかとライダーも笑みを浮かべる。そんな中で、ライダーは思う。

(彼の話ですか……もう少し詳しく聞く必要があるかもしれません。魔法世界の話は、私達の受肉の理由解明の手掛かりになるかも……)

 そんな事を考えるライダーの前を歩きながら、アリサとすずかはバイオリンの話を始めるのだった……。



「みーちゃん、ご飯食べたやろか」

「心配ない。今まで一度でも残した事があったか?」

「ないなぁ。あの子、ほんま不思議な子やな」

 みーちゃん。それは八神家に毎日顔を出すメス猫の名前である。はやてが単純な方が覚えやすいと付けた。
ちなみに初めてそう呼んだ時、みーちゃんは驚いたような反応を示し、はやてを驚かせた。
 今はすっかり大人しくなり、はやてもよく遊んでいる。首輪は付けてない。

「そうだな。何せ、首輪を付けるかという話の翌日には首輪をしていたからな」

「みーちゃん、実は飼い猫なんやけど、毎回こっそり首輪外してたんちゃうか?て思たもん」

「それかこちらの言葉を理解し、飼い主に首輪を付けてもらったのかもしれん」

 冗談で言っているが、アーチャーの言葉は正しいのだ。それがどういう事かまでは、さすがに知り得る事はなかったが。

 そんな事を話しながら、二人は笑う。いつものスーパーへ着き、買い物カゴをはやてが抱える。
入口のチラシを改めて確認し、アーチャーが動き出す。
 果物や野菜を目利きし、カゴに入れていく。それを見て、はやても目利きの勉強。
たまにアーチャーから出される目利きクイズに、はやてが頭を捻るのもいつもの事。最近は目利きも上達し、アーチャーの出題もかなりシビアなものになっている。

 今回の鰆も、本当に些細な差で見極めなければならない問題で、はやては何とか正解をもぎ取った。

「む、出来るようになったな」

「どや?わたしも大したもんやろ」

 既に一般的な小学生レベルを遥かに超え、はやての家事スキルは大人顔負けになりつつある。
だが、はやての目指すアーチャーや桃子はかなりの高み故、未だにはやては自分が未熟と考えている。

「では、そんなはやてに今日の夕食を任せよう」

「お~、それはええな。なら、助手のアーチャー君に献立は決めてもらおか」

「そのまま作るはめになるので謹んで断る。昼食は焼きそばでいいか?」

「あ、目玉焼き乗せてな」

 打てば響くような会話が出来て、軽口を言い合える相手。そして、一緒にいて心地良い人。
それがはやてのアーチャーへの評価。こんな他愛もないやりとりが、はやてにとっては何よりも大切な時間。

「ぬ、レジが混んでいるな」

「そやな~。どこも並んどる」

 混雑しているレジ。今日は休日。本来ならばアーチャー一人なのだが、はやてが今日は一緒に行きたいと言ったため、こうして買い物をしにきたのだが……。

「邪魔になっとるかな?」

「気にするな。喋るカートと思えばいい」

 アーチャーの発言にはやてのパンチが炸裂。それを笑みと共に受け止めるアーチャー。
そんな光景を、周囲は微笑ましく見つめていた……。





「艦長、話と言うのは?」

「貴方も聞いたでしょ? 原因不明の次元震」

「ああ、あのロストロギアの輸送船が巻き込まれた事件ですね」

 黒髪の少年の言葉に、艦長と呼ばれた女性が頷く。

「その事件、アースラが担当になったから」

「何故です? 既に調査は始まっているのでは」

 少年の言葉に、女性は首を横に振り、告げる。

「それがまだなの。管理外世界に近いせいで、動きが遅くてね」

 ややウンザリするように、女性は顔に手を当てる。それに、少年も同意するようにため息一つ。

「とにかく、出発は未定ですが、現場での判断は全て貴方に任せます。分かったわね、クロノ」

「了解しました。……というか、いきなり雰囲気を変えないでください母さん」



時空管理局。その存在が、静かに動き出そうとしていた……。





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第七話。次元震って、かなりヤバイ扱いを受けていたので、管理局出動が少し早まりました。

アニメ第三話時点で動き出すって、かなりです。

でも、介入はまだ先ですよ。キッカケがないので。

次回はアニメ第四話突入。



[21555] 1-4-1 無印四話 前編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:42
 海鳴市を一望出来る高台。早朝という事もあり、そこには人気がなかった。ただなのはとユーノ、セイバーを除いては。
そこに立つのは、BJ姿のなのは。それを見守るようにユーノとセイバーが見つめる。

「じゃ、なのは」

「うん。レイジング・ハート」

”フライヤー・フィン”

 魔力で出来た羽がなのはの体を空に飛ばす。飛行魔法。それは、なのはの才能を信じたユーノが薦めたものの一つ。
 その読み通り、なのはは見事にそれを物にし、今や飛ぶ事になのはも何の不安もなかった。
飛行時特有の浮遊感に笑みを浮かべつつ、なのはは意識を次の事へ移す。体の動きを制御しつつ、なのはは次の魔法を準備。

「いくよ、レイジング・ハート!」

”はい、なのは”

 なのはの声にRHが答え、それになのはは笑顔を浮かべる。本来ならば、RHはなのはをマスターと呼ぶ。しかし、それを良く思わないなのはは、何度も言ってそれを変えさせたのだ。
 なのは、と。マスターではなく、名前で呼んで欲しいと。主従ではなく、助け合う友人として。
そんななのはの言葉に、セイバーが出会った夜を思い出したのは、言うまでもない。

”フラッシュ・ムーブ”

 RHが発動させた魔法は、厳密に言えば高速移動魔法なのだろう。
しかし、なのはが目指したものは、御神の奥義である『神速』だ。昔から出来たらいいな、と思っていた技。それを魔法なら、と意気込んで考えた。
 その意気込みをRHに告げ、二人で完成させた魔法。それ故に、なのははこれを『瞬間移動魔法』と呼んで、RHと共に後で喜んだ。

「なんと……」

「凄いや……やっぱりなのはは天才かも……」

 今回の練習は、なのはの考案した新魔法のお披露目だった。それが危険ではないか、またちゃんと制御出来るのか。
それを判断するためにセイバーがいる。だが、それ故にこの魔法が何を意図して考案されたか理解した。
 だからこそ、セイバーは苦笑い。そう、セイバーは知っている。なのはが昔から羨ましそうに、神速を駆使して戦う恭也達を眺めていた事を。

(本当にシロウ殿の子ですね)

 肉体ではなく、魔法でそれを実現したなのはに、セイバーはクスリと笑う。その視線の先には、満面の笑顔を浮かべるなのはの姿があった。


少女達に運命が近付く日




「あれ? 恭ちゃんにユーノ君……お出かけ?」

「はい。なのはと恭也さんとすずかの家に」

「ま、俺は付き添いみたいなものさ」

 恭也の何となしに放った言葉に、美由希の視線が鋭くなる。
それを感じ、ユーノはそろそろと離れ出す。それを恭也は掴まえようとするが、それより早く美由希が動く。

「そんな事言って、ど~せ忍さんとイチャイチャするんでしょ~!」

「お、おい。別にイチャイチャなんて……」

「いいなぁ~、あたしも恋人欲しいな~」

 ジト目の美由希。それに無言の恭也。だが、その視線が逃げたユーノへ向けられている。

(何とかしてくれっ!)

(無理ですよ!)

 そんな視線のやりとり。高町家の女性は、基本怒らせると怖い。特に桃子には、誰も頭が上がらない。
余談だが、ユーノは、女性陣から大事にされているので、未だにそんな経験無し。それをこっそり妬んでいる恭也であった。
 ちなみに、恭也もユーノも知らないが、美由希は、密かに小次郎といい仲になりつつある。唯一アリサは知っているが、それをどうこう言う事はない。
未だに自分の気持ちがはっきりとしない上に、なのはの姉という事もあり、黙認しているといったところだ。
 一方、当の本人である小次郎は、美由希がそういう対象として見ているなどとは知らず、今はただセイバーと同じ女剣士として、興味を抱いているに過ぎない。

「お待たせ~」

 そして、救いがないと絶望しかけた恭也を助けるべく、天が助けを遣わした。出掛ける準備を終えたなのはが、リビングに姿を見せたのだ。
それに安堵するユーノ。恭也は顔にこそ出さないが、内心両手を合わせ感謝していた。美由希は、それを知ってか知らずか若干満足顔だったりする。

「よし、バスの時間も近いし、行こうか二人共」

「はい」

「うん」

 急いで歩き出す恭也とユーノ。それに不思議そうな表情のなのはが続く。

(何があったんだろう?)

 そんな事を考えるなのはだったが、状況も知らない彼女に答えが出せるはずもない。
程なくして玄関に着き、靴を履いて歩き出す。

「いってらっしゃ~い」

 出掛けるなのは達を笑って見送る美由希。それに手を振って応えるなのはとユーノ。
晴れ渡る青空。吹き抜ける春風。それを感じながら、なのはは呟く。

「……今日は良い事がありそう」



 なのは達がバスに乗り込み、月村邸を目指していた頃。
海鳴の町に、三人の人物がやってきた。一人は豊かな胸元を強調するような、白いタンクトップにデニムのパンツというラフな格好。
 もう一人の男も同じくラフなもので、白いTシャツにジーンズ。そして、そんな二人とは正反対に、可愛らしい格好をした少女がいた。
青いブラウス、青いスカートという上下青で決めた金髪の少女。何故青で固めたのかは、それが敬愛する男のイメージカラーだろう。

「さてと、これからどうすんの?」

「ま、まずは探索魔法だったか? あれを使って調べてくしかねぇ」

「そうだね。じゃ、どこか人目に付かない場所を探さなきゃ」

 少女の言葉に二人は頷き、ゆっくりと歩き出す―――が。

「あ、ハンバーガーだよフェイト~。少し早いけどお昼にしようよ」

「お、あっちはフライドチキンがあるじゃね~か。なら、こっちでサイドメニューと行こうぜ」

 歩き出して早々、駅前の飲食店に持ち前の食欲を剥き出しにする二人。そんな二人へ、フェイトは慌てるように首を横に振る。

「だ、ダメだよ。まだ何もしてないし、朝ご飯食べたばかりだよ!」

 そんなフェイトの説得も空しく、結局フェイトが折れる事になり、少しどころかかなり早い昼食を買って、それらを食べる場所を探す事になるのは、後の良い思い出となるのであった。



 大邸宅と呼んで差し支えない月村家を前に、ユーノは立ち尽くす。それを恭也となのはが微笑みながら見つめる。
それは大抵の人間がこうなる事を分かっているからだ。それと同じリアクションをした二人だからこそ、ユーノの気持ちは良く分かる。

 そんなユーノに声を掛け、二人は歩き出す。立派な玄関に辿り着き、ベルを鳴らす恭也。それを待っていたかのように、扉が開きノエルが顔を出した。

「お待ちしておりました。恭也様、なのはお嬢様。そして、ユーノ様ですね。お名前はすずかお嬢様から伺っております」

 恭しく頭を下げるノエルに、恭也となのはは笑みを浮かべる。

「久しぶりだな、ノエル」

「お久しぶりです、ノエルさん」

「ええっと……初めまして。僕、ユーノ・スクライアです」

「お初に御目にかかります。私、月村家のメイド長をしております、ノエル・K・エーアリヒカイトと申します」

 唯一ノエルと初めて会うユーノだけが、その雰囲気に動揺していた。その様子にノエルは楽しげに笑うと、仰々しい程の自己紹介をした。
それに益々困るユーノに、なのはも笑みを浮かべて「気にしなくてもいいよ。ノエルさんはこうゆう人だから」と告げた。
 それに恭也も頷き、苦笑い。その内慣れる。そう言って恭也となのはは歩き出す。既にノエルがその前を案内するように歩いているのを見て、ユーノも慌ててその後を追うのだった。



「なのは達、そろそろ来るかな?」

「うん。もう来るんじゃないかな?」

「……相変わらずすずかちゃんちは猫屋敷やな」

 優雅にファリンの淹れた紅茶を飲むアリサとすずか。それぞれの膝には当然のように猫が乗っている。
かくいうはやてもその膝に猫を乗せているのだが、一匹ではなく二匹なのが違いである。
 それを優しく撫でながら、はやては周囲を見渡す。そこかしこに猫がいる。どれもノンビリしている光景に笑みを浮かべるはやて。

「そうだね。でも、里親が決まってる子もいるから、ね」

「あ~、お別れが近い子もおるちゅ~事か」

「ま、それでも猫天国には変わりないわ」

「ですね」

 アリサの言葉にはやても頷く。すずかはそれに苦笑一つ。そして、その横のファリンが笑顔でそう同意する。
そのテーブルの横では、忍とアーチャー、それにライダーが談笑していた。
 まぁ、もっぱら話しているのは忍で、二人は紅茶のお代わりを注いだり、猫の相手をしながら相槌を打っているだけなのだが。
ちなみにアーチャーは、来た途端にライダーから無言で手渡された執事服を着ていたりする。

 これが、月村家でアーチャーが過ごす時の決まりになったのは、今から一年と半年前。はやてのお泊り会の礼だと言って、その日の夕食をアーチャーが作った際、給仕から何まで完璧にこなす姿を見て、忍がはやてに持ちかけ着せたのが始まり。
 以来、アーチャーが来るたびにこの執事服が定番になり、アーチャーの抵抗にも関わらず、忍の強権とはやての懇願(の名を借りた半ば脅迫)により、彼はもう抗う気もなくし、今に至る。
 余談だが、アーチャーは執事服を着せようと迫る忍とはやてに、かつての魔術の師である”あかいあくま”と、とある縁で知り合った名門魔術師の金髪令嬢の”きんのあくま”の姿を見たとか。
 彼女達も、アーチャーに執事服をよく着せようとした。それを思い出し、懐かしくなったアーチャーは(渋々を装って)執事服を着る事にしたのだ。

「失礼します。恭也様達がお着きになられました」

「恭也~」

 控えめなノックと共に開かれたドア。そこからノエルが現れ、その後ろから恭也の姿が見えた途端、忍は席を立つ。
それに息を吐くライダーとアーチャー。小声で「やっと開放されました」とか「まったくだ。私は相談員ではないぞ」などと聞こえているが、それは幸い忍には聞こえていない。

「お、おい忍」

「じゃ、私達は部屋に行ってるから」

「ふふ、では後でお茶をお持ち致します」

 抱きつくように恭也に寄り掛かり、その腕に自分の腕を絡め、忍は笑顔でそう告げて歩き出す。その光景を微笑ましく思い、ノエルは笑みを浮かべて返す。
 そして、それを眺めてしみじみとはやてが呟く。

「なんや、見せ付けられたな」

 言葉はなかったが、なのはやアリサはうんうんと頷いた。それにすずかは苦笑い。ユーノはそんな光景を横目にアーチャー達の下へ。
そして、ノエルとファリンは一礼し、お茶の用意をするべく去った。

「こんにちは、アーチャーさん。お久しぶりです、ライダーさん」

「ああ」

「久しぶりですね。元気そうで良かったです」

 ユーノとライダーが出会ったのは、セイバーが召集をかけた時。高町家道場で行われたその会議に、ユーノも同席していたからだ。
ランサーと直接対峙したユーノの話と意見から、セイバー達の結論は決まったのだから。
 ちなみに、ライダーが元気そうと言ったのは、ユーノがセイバー達と鍛錬を行っているのを聞いているからだ。それをセイバーから聞いた際に「殺さないように」と真顔で告げ、いつかの戦いを再現しそうになったのは、二人だけの秘密。

「アーチャーさんははやての付き添いですか?」

「ああ。……後はファリンの指導だ」

「本当に助かっています。アーチャーが教えるようになってから、ファリンのドジも大分減りました」

 アーチャーが初めて月村家で働いた日。ファリンがその動きに感動し、弟子にしてほしいと申し出たのだ。
無論、アーチャーは断ろうとしたのだが、ファリンの懇願とノエルや忍からも頼まれれば嫌とは言えなかった。
 それ以来、暇を見つけてはファリンの家事の先生じみた事をしていた。と言っても、はやてが勉強をしている午前限定だが。

 そんなユーノ達とは対照的に、なのは達は関心を話ではなく、猫に注いでいた。

「にゃは、ホント人懐っこい子ばかりだね」

「アタシも欲しいけど、犬がいるから」

「わたしは、毎日遊びに来るみーちゃんで十分やからな。でも、飼い猫も憧れるな~」

「もしその気なら誰か貰ってくれていいから。いつでも言って」

 それぞれ膝に猫を乗せ、楽しそうに撫でたり抱えたりするなのは達。
とそこへ、お茶の用意を済ませたファリンが戻ってきた。それを見ながらなのはが尋ねる。
 そういえば、今日はライダーは働かないのかと。ライダーはそれに些か困った表情でこう返す。

「スズカが今日はお休みだと言うものですから……」

 確かにそう言うライダーの格好は、普段のメイド服ではなく、Tシャツにジーパンというものだ。
なのはとユーノはその格好に納得し、頷いた。

 その横で、ファリンがアーチャー監視の下、紅茶を注いでいく。その目はいつになく真剣だ。
一つ一つの所作に全身全霊で挑むファリン。それを見ているすずか達もどこか緊張している。
 やがて全てのカップに紅茶を注ぎ終わり、ファリンは小さく「よしっ」と呟いた。

「皆様、どうぞ」

 笑顔で告げるファリン。それに笑みを浮かべるすずか達だったが、ライダーは苦い顔でアーチャーは渋い顔。
何かミスでもしただろうか。そんな表情のファリンに、アーチャーが告げたのは、予想の斜め上。

「もてなす相手を緊張させてどうする」

「あうっ!」

 正論と言えば正論。それが理解出来たファリンはションボリと肩を落とし、ライダーの傍へ近寄って―――。

「お姉様~~っ!!」

 泣き付いた。いじめられた子供のように。それをライダーはどこか苦笑しながら受け止める。

「分かっていますよファリン。貴方は頑張りました」

「私、私ぃ~~」

 一生懸命にやったのに。そう言ってライダーの胸に顔を埋めるファリン。それを優しく撫でるライダー。
そんな光景を微笑みながら見つめるなのは達。アーチャーはやや憮然としているが、はやてはファリンを見て「……ええなぁ」と呟いていたりする。

「ホント、平和だな」

 そんな光景を見て、噛み締めるようになのはは呟くのだった。


彼女は知らない。この後、大切な親友となる少女との出会いが待っているなどとは……。





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第八話。いよいよ皆さんお待ちかねの瞬間が近付いてきました。

果たして、どんな展開になるのか。それは次回をお楽しみに、と言う事で。

……でも過度な期待はしないでくださいね(汗



[21555] 1-4-2 無印四話 中編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:43
「穏やかなとこだね、ここ」

「そうだね」

 アルフの言葉にフェイトは頷いて笑う。ここなら母さんも少しは良くなるかな。そんな思いがフェイトの中を一瞬過ぎる。
だが、それは出来ない。リニス曰く「絶対安静」なのだ。そう思い直し、フェイトは拳を握る。早くジュエルシードを集めて、プレシアに届けなければ。
 そんな風にフェイトが考えていると―――。

「ま、早いとこジュエルシードを見つけねぇとな」

 ランサーはそう言って、アクビを一つ。おかげで緊張感の欠片もない。フェイトは、握り締めていた拳から力が抜けていくのを感じた。
そう、フェイトとアルフは知っている。それがランサーなりの気遣いなのだと。無駄に力む事無く、事に当たれるようにと。
 それを分かっているから、二人は笑みを浮かべて頷く。

 風が吹く。微かに海の匂いを含んだ風が。それを感じ、フェイトは呟く。

「……今日は良い事がありそう」

 それは奇しくもなのはが呟いたのと同じ言葉だった……。



もう一人の魔法少女




 月村家の庭にあるテーブル。そこに座り、なのは達は談笑していた。話題はもっぱら連休中の旅行についてだ。
何をするかや何を持っていくか等、止まる事なく話が弾む。会話の中心はアリサとはやて。それになのはがたまに加わり、すずかとユーノは時々訂正や抑え役になっている。

「やっぱトランプは必須でしょ!」

「いや、ここはドドーンとボードゲームや」

「UNOとかはどうかな?」

「オセロとかもいいと思うよ」

「……ごめん。卓球、っていうのはダメかな?」

―――やってみたいんだけど……。

 はやての方を気遣うように見ながらユーノが言うと、一瞬なのは達が驚き、互いに顔を見合わせる。
「どう……?」とアリサが聞けば、「そやな、温泉言うたら卓球やな」とはやてが笑って言う。
 それに笑顔ですずかが応じ、なのはも安堵したように頷いて、何かを思い出したか苦い顔。

「私、はやてちゃんと見学でいい? 話し相手をしたいの」

「そんな心配いらへんよ。わたしも卓球やったるから」

「え……その、あ、危ないから念のために止めといた方が……」

―――いいと思うよ?

 そのどこか申し訳なさそうな声に、四人が笑う。それはなのはが言った言葉の裏まで理解しているから。
なのはは運動音痴。そして、はやてが一人参加出来ないと思い、乗り気でなかったのも手伝って見学を申し出たのだ。
 それを四人が察していると分かり、恥ずかしそうにしながらも、なのはは拗ねた口調で「笑わなくてもいいのに……」と呟いた。
そんななのはの言葉が余計に四人の笑いを誘い、なのはが怒る。それを笑いながら宥めようとするユーノとすずか。アリサとはやては、そんななのはを指差しておかしそうに笑う。



 そんな五人の様子を離れた場所から眺める者がいた。ライダーだ。
彼女は、楽しそうに笑い合う五人を見て、微笑む。

(いいものですね。願わくば、こんな時間がずっと続いてくれればいいのですが……)

 そう思って、ライダーは首を振る。こみ上げる不安を振り払うように。
あの日、ユーノからジュエルシードの話を聞いた時、ライダーもセイバーと同じ発想に辿り着いた。
 即ち、自分達の受肉したのは、世界がジュエルシード暴走に備えたものなのではないのか、という結論に。

 無論、そうと決まった訳ではないが、ライダーはこの話をセイバー達が聞いた時、全員が同じような事を考えたのが分かった。
だからこそ、ジュエルシードを一刻も早く回収しなければ、との思いが強かったのだが、一つ気がかりがあった。
 それはすずかの事だった。最近あまり遊んでいない事もあり、今日は休みと言われたので、すずかと接するべきかと思い、ここに残っていたのだが……。

(あの様子なら構わないかもしれません)

 ライダーの視線の先には、なのはに謝っているすずか達の姿があった。
その賑やかな雰囲気を確認し、ライダーは静かにその場を離れる。

「行ってきます、スズカ」

 誰ともなく呟き、ライダーはその身を宙へ躍らせる。探索に出かけ、ジュエルシードを見つけるために。一刻も早くすずか達が平穏な日常を過ごせるようにと、願いながら。



 同じ頃、厨房にはアーチャーに指導されるファリンの姿があった。

「変に力むな。肩の力を抜け」

「は、はい」

 優しくファリンに声をかけるアーチャーだが、ファリンはどこか緊張している。
それを内心微笑ましく思いながらも、アーチャーはため息一つ。
 仕方ないか。そう言うようにファリンの背後に立ち、その手を優しく支える。

「あっ……」

「いいか? 下手な力はいらん。ただ、心を込めて注げばいい」

「……はい……」

「君は張り切りすぎるきらいがあるからな。少し気を抜くぐらいで丁度良い」

 そう告げ、アーチャーはそっとファリンから離れる。その瞬間、ファリンが名残惜しそうな声を漏らしたが、生憎アーチャーにそれは聞こえていない。
どこかボ~っとするファリンに気付かず、アーチャーは思う。

(……もしかしたら、凛のうっかりも変な力の入れようが原因かもしれん)

 そう考え、そんな事はないかとアーチャーは微かに笑う。例えそうだとしても、もうおそらく会う事はない相手だ。
ならば、こんな事を考えても仕方ない。そう思い、アーチャーはファリンへ視線を戻して言い放つ。

「さて、ではもう一度だ。ファリン、紅茶の支度は十分か?」



 時同じくして、ここ忍の部屋では、恭也達が優雅に紅茶を飲みながら、外の声に笑みを浮かべていた。

「外は賑やかみたいね」

「そうだな」

「すずかお嬢様も、ご友人が増えて楽しそうで何よりです」

 忍の言葉に恭也とノエルも笑顔で答える。ただノエルだけは、それに続けるように「些か元気過ぎる時もありますが」と告げた。
それに忍は微笑みながら頷く。昔はどこか内向的だったすずかだったが、なのは達と友達になってからというもの、見違える程に外に出るようになった。
 特にはやてと仲良くなってからは、彼女の家に良く遊びに行くようにもなった。歩ける事が幸せな事だと、はやてと接して十分理解させられた。
そう言ってすずかは、はやての分まで歩こうというくらい活動的になったのだ。

「しかし、ユーノの奴も大変だな。すずかちゃんはともかく、アリサちゃんやはやてちゃんはパワフルだからな」

「そうね。でも、それぐらいどうにかできないと恭也には勝てないわよ」

「……怒った母さんを止められるなら、俺は負けを認めてもいいな」

「桃子様が怒る事などあるのですか?」

 ノエルの問いに、恭也と忍は無言で頷く。心なしかその顔は青い。
恭也は語る。桃子の数少ない怒り話を。それを不思議そうに聞くノエル。忍は恭也の横で若干震えていたりする。
 それは去年のクリスマス。忍も手伝い、翠屋は大忙しだった。事件の内容を簡単に言えばこう言う事だ。

「酔っ払いがやってきてな。そいつがセイバーに絡んだ。セイバーは何とか穏便に済ませようとしていたんだが……」

「その男が、事もあろうにセイバーを突き飛ばしたのよ。恭也も士郎さんも運悪く接客中だったもんだったから」

「それを見ていた母さんが、黙ってその酔っ払いの前に、満面の笑顔で立ちはだかって、こう言ったんだ……」

「「私の娘に何て事してくれるんですか。早く出て行ってもらえないと、大変な事になりますよ……って」」

 声を揃えて二人は言うと、何かを思い出したのか、また少し震えた。

「……警察を呼ぶ、ではないところに恐怖を感じますね」

 ノエルの呟きに、二人は何も言わず、ただただ頷くだけだった……。



「ほらほら、ここがいいの?」

「おっと……ごめん、嫌だった?」

 盛り上がっていた話も落ち着き、五人はそれぞれ猫を相手に過ごしていた。
ユーノも恐る恐るだが、猫相手の世話のやり方を覚えていった。時々なのはやすずかから助言を貰い、ぎこちなくだが猫を触っている。

「はぁ~、癒されるな」

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいな」

「にゃ、どこ行くの?」

 まったりと寛ぐはやてにすずかが笑顔で答えた横で、なのはの抱えてた猫が突然逃げ出すように走り出したのだ。
それを追いかけるように、なのはも走り出す。微笑ましい光景に、四人も笑みを浮かべ合う。

「なのは、僕もついてくよ」

「丁度いいし、軽く動きましょ」

「賛成や。少しは自然と触れ合わんと」

「じゃあ、私が車椅子押してくね」

 単純に好意からなのはの心配をしたユーノに続くように、アリサが立ち上がる。それに呼応してはやてが頷くと、すずかも楽しそうに立ち上がった。
四人は先を走るなのはを追う形で、その後ろを歩き出す。
 その視線の先では、なのはが転びそうになっていた。



「っ!?」

「フェイト!」

 突然ジュエルシードの反応がフェイトを襲う。精神リンクしているアルフもそれを感じ取ったようで、フェイトを見つめている。

「ジュエルシードか」

 ランサーの声に無言で頷くフェイト。それにランサーは目つきを鋭いものへと変える。
アルフも既に先程までのノンビリムードではなく、獰猛な表情をしていた。そんな二人の変化に、フェイトも表情を厳しいものに変え、視線を動かす。
 見つめる先は、反応のある場所。周囲に人がいない事を確認し、フェイトは呟く。

「バルディッシュ、セットアップ」

”イェッサー”

 黒いバリアジャケットに身を包み、フェイトは空を翔ける。それに続くようにアルフも舞い上がる。ランサーは最速のサーヴァントたる速度で、そんな二人を追う。程なくして視線の先に、大きな屋敷が見えてくる。

(待ってて母さん。すぐにジュエルシードを集めて帰るから!)



 その頃、なのは達は目の前の状況に戸惑っていた。ジュエルシードが発動したのを感知し、急いでセイバーへ連絡したのだが、その直後目の前に現れたのは、事もあろうに巨大な猫だったからだ。

「……ねぇ、これがジュエルシードって奴の影響なの?」

「う、うん。どうもあの猫の大きくなりたいって願いに反応したみたい」

 呆れるようなアリサの言葉に、ユーノはどこかバツが悪そうに答えた。その後ろでは、はやてとすずかが猫を見上げている。

「お~、これだけ大きいと餌とか大変や」

「そうだね。後、遊び相手はライダーじゃないと無理そう」

「そ、そんな事言ってる場合じゃないよ、二人共」

 ノンキに話すはやてとすずかに若干脱力しかかるなのはだが、視線をすぐに猫へと戻す。
猫はなのは達を見て、楽しそうに鳴き声を上げるだけで、まったく危害を加える様子はなかった。

(でも、このままっていう訳にもいかないよね)

 なのはがレイジング・ハートを握り締めたその瞬間、ユーノが結界を展開した。
色褪せていく景色に、アリサ達が軽い驚きを見せる。

「なのは、これでいいから。早く封印を」

「うん。レイジング・ハート」

”スタンバイレディ。セットアップ”

 光に包まれ、一瞬にして姿を変えたなのはに、ユーノを除く三人が歓声を上げる。
そして、なのはが早速封印をしようとした時、後ろから何かが近付いてくる感じがした。
 それが無性に気になったなのはが振り返ると、その視線の先には―――。

「魔導師……」

「何だ? あの時の小僧も一緒かよ」

「げ、何か大勢いるよ」

 三人の人物がいた。その中の一人に、なのはは強く心奪われる。
黒いバリアジャケット、金色の髪、そして……どこか助けを求める瞳に。

 一方のフェイトも、なのはの姿に何か心惹かれるものを感じていた。
自分とは正反対の白いバリアジャケット、栗色の髪、そして……どこか優しげな瞳に。

「「貴方は………誰?」」

出会いは突然に。この日、なのは達はフェイト達と対面した。



それが、この世界そのものの運命を変える出会いだったとは、この時誰も知るはずがなかった……。




--------------------------------------------------------------------------------

第九話。ついに出会った両陣営。

この後の展開がどうなるのかは、次回をお待ちください。

……まぁ、大方予想通りかと思います。



[21555] 1-4-3 無印四話 後編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:44
「「貴方は………誰?」」

 そんな互いの問いかけに、二人は目を丸くする。まったく同じ言葉を、同じ様に聞かれたのだ。
それで驚いたのは、なのはとフェイトだけではない。ランサー達やユーノ達も面食らっていた。

(初対面の相手に、警戒心もなしに、かよ)

(初めて会った時より、少し表情が柔らかい……? でもどうして……)

 戸惑う一同を、猫の声が現実に引き戻す。
それになのはとフェイトも視線をそちらへ移し、それぞれデバイスを構える。

「とりあえず……」

「今は封印が先、だね」

 頷き合うように声を掛け、二人は告げる。

「レイジング・ハート」

”シーリングモード”

「バルディッシュ」

”シーリングフォーム”

 その声に応じ、形を変えるレイジング・ハートとバルディッシュ。それを見て感嘆の声を上げるはやて達。
一方、警戒するようにランサーとアルフはなのはから視線を外さない。ユーノもフェイトから目を逸らす事無く見つめる。
 その視線の先で、二人による封印が終わろうとしていた。

「リリカル・マジカル!」

「ジュエルシード、シリアル14!」

””封印””

光がリボンのように猫を包み、雷がその周囲を覆う。
そして、それが共に消えた時、そこには元の大きさに戻った猫とジュエルシードが残されていた。
 それを確認するや、フェイトが弾かれるようにそこへ向かい、ジュエルシードを回収する。

「これで、やっと一つ」

 嬉しそうに呟くフェイト。だが、それを見てユーノが叫ぶ。

「どうして君達はジュエルシードを必要とするっ! それがどんなものか知ってるんだろ?!」

「それは……」

「ランサーさん! 貴方はアレの危険性を知っているはずだ! なのに何故?!」

 気まずそうに顔を伏せるフェイト。いくら母親のためとはいえ、人の物を盗もうとしている。そんな罪悪感が彼女の口を塞いでしまう。
それを見て、ユーノの矛先はランサーへと移る。それは、セイバー達から聞いた彼の話も影響している。
 根は優しく正義感溢れる漢。そうセイバーが断言した。故に、その彼なら答えてくれるとユーノは思った。

「そうだよ! 理由を聞かせて! どうしてジュエルシードが欲しいの?!」

 ユーノに加勢するようになのはも叫ぶ。彼女もまたユーノを信じている。その彼がそうまで言うなら、きっとそうだ。それに……。

(あの子。確かフェイトちゃん、だよね。すごくキレイな目をしてた)

 悪人の目は、どこか濁りがある。そうセイバーや士郎は言った。ならば、彼女はそうではない。必ず理由があるはずだ。
そうなのはは思うからこそ、問い質す。何故犯罪に手を染めてまで、ジュエルシードを求めるのかを。

「そうですね。それは私も是非聞かせてほしいです」

「っ!?」

「「「「「セイバー(さん)!」」」」」

 何か躊躇う素振りを見せるランサーの背後から現れたのは、完全武装のセイバーだった。
その出現に驚きを隠せないランサー。それとは対照的に、喜びを見せるなのは達。
 フェイトとアルフは、セイバーの姿や雰囲気からどこかランサーに近いものを感じ、ランサーの傍へと駆け寄るのだった。



結びつく運命と希望の光明




 セイバーを先頭に、集合するなのは達。片やランサーを前に立て、なのは達を見つめるフェイト達。
アリサとアルフが睨み合おうとするが、すずかとフェイトに窘められ、渋々従っている。

「……まさかお前がいるとはな」

「私だけではありません。ライダーにアーチャー、アサシンもいます」

「なっ……本当か?」

「嘘ではありません」

 セイバーの言葉に、ランサーは一縷の希望を見出し始めた。凛達魔術師はいないが、セイバー達サーヴァントがいるなら、まだ手はあるかもしれないと。
 だが、そこでランサーは疑問に思った事があった。セイバーの挙げた名前の数である。

「おい、キャスターはいないのか」

「……ええ。未だに彼女とバーサーカーは確認出来ていません」

 もしかしたら、ここではない場所にいるかも知れない。そんなセイバーの声を聞きながら、ランサーは内心舌打ちする。
キャスターがいれば、問題はほぼ解決したようなものだったからだ。
 再び希望を絶たれた形になったランサーだったが、それでも彼は諦めなかった。

「なら、もしかすりゃどこかにいるかも知れないって事か」

「……断言出来ませんが、可能性はあります」

 セイバーの言葉に、ランサーは頷き、深い意味はなかったのだが、ふとなのはへ視線を移す。
それに気がついたのか、なのはは若干驚いた表情を見せると、戸惑いながらも笑みを返した。
 今度はそれにランサーが驚きを感じ、小さく笑みを浮かべる。

(へぇ、結構将来有望そうじゃね~か)

(な、何だろう? 何か変な事したかな?)

 そんな風に互いを見ているなのはとランサーだったが、そのランサーの視線を快く思わないのか、セイバーがやや大きめの声で問いかけた。

「それで、何故貴方がジュエルシードを集めるのです」

「……ま、簡単に言えばこいつのためだ」

 そう答え、ランサーがフェイトの頭に手を置く。それになのは達の視線が、一斉にフェイトへ向けられる。
それに若干の恥ずかしさを感じ、フェイトは顔を伏せた。そんなフェイトの様子に、笑みを浮かべるなのは達。

 セイバーはそんなフェイトを眺め、内心頷く。
想像していた通り、ランサーの目的が自分のためではなく、他者のためだった事に。
 そして、その相手も見たところ悪人と言う訳ではなさそうだ、と。だからこそ、余計に聞かねばならない。

「では、ジュエルシードを何に使うつもりです」

「あ~、それは「母さんが病気なんです! それを治すには、もうジュエルシードしかなくって……」

 ランサーの言葉を遮ってフェイトが叫ぶ。それに込められた思いが、嘘偽りない本物だと、セイバー達には感じられた。
何故なら、そう叫んだフェイトの表情は、深刻且つ焦燥感が色濃く見えたのだ。
 それに間違いはないか。ランサーに、そう問いかけるような視線を送るセイバー。それをどこかバツが悪そうにだが、ランサーは頷く。
そんなランサーの態度にセイバーは何かを感じ取るが、それを敢えて聞かずに告げる。

「……いいでしょう。信じる事にします」

「セイバー、マジで言ってんのか……?」

「ユーノ、どうですか? 何とかならないでしょうか」

 そんなランサーの声に対して、セイバーは鎧を消し、戦う意思はないとばかりに視線をユーノへと向ける。それにユーノはどこか考えながら告げた。

「病気って事なら……おそらくだけど、暴走の危険性もないと思う。健康な状態に戻りたいって事だから」

「まぁ、確かにそれで暴れる事はないかもしれないけど……」

「健康にってお願いして暴れ出したら、本末転倒よね」

 そうアリサがすずかの言葉に続き、はやてとなのはが頷く。

「でも、あくまで推測に過ぎないし、ジュエルシードでどこまで効果があるかは分からない。それに、万が一って事もあると思う」

「そうですか。……ユーノ、では?」

「元々封印して保管するつもりだったけど、人助けみたいだし、ね。……それに、おそらく不治の病なんだと思う。
 それなら、確かにジュエルシードみたいな危険なものにでも縋りたくなるよ」

 ユーノはそう言って、笑みを見せてなのはへ視線を向ける。それを理解し、なのはも笑って頷き、レイジング・ハートに告げた。

「レイジング・ハート、ジュエルシード出して」

”いいのですか?”

「うん。困ってる人を助ける力があるなら、迷う事無く使いなさい、だよ」

”分かりました。なのはがそう言うなら”

 そうして放出されるジュエルシード。その数、六つ。それをなのはとユーノがそれぞれ手に取り、フェイトの方へ歩き出す。
それを呆然と見つめるフェイトとアルフ。ランサーは、なのはを見つめて「セイバーのマスターは、今回もお人好しか」と懐かしむように呟いている。

「えっ……?」

「本当ならダメだけど、これで助かる命があるなら。でも、暴走の可能性がない訳じゃない。だから、使う時は言って。力になるから」

「私もだよ。それと……お母さん、治るといいね」

 戸惑うフェイトに、微笑んでジュエルシードを手渡すなのはとユーノ。
それを受け取り、フェイトは少し呆然とそれを見つめるが、ハッとなって顔を上げて二人を見つめる。

「あ、ありがとう! 本当に、本当に……」

 そう言いながら、フェイトの視界が滲み出す。初めて感じる他者の優しさ。悪い事をした自分に、目の前の人達はただ怒るのではなく、理由を知って許してくれた。
 それだけではない。助ける約束までしてくれた。危険だから力になる、と。

「あんた達、ホントにありがとよ~!」

「にゃ!?」

「ちょ、ちょっと!?」

 泣き出したフェイトに笑みを浮かべていた二人だったが、それをアルフが後ろから抱きしめる。
その目には光るものがあった。それを見て、微笑むセイバー。ランサーはといえば、未だに泣き続けるフェイトへと視線を向けていた。
 そこには、フェイトへ駆け寄りハンカチを差し出すすずかと、同じように近付き、励ましの言葉を掛けるアリサとはやての姿がある。

(……これで、少しは望みが持てる、か)

 ジュエルシードは全部で21もある。セイバー達が協力してくれるなら、心配していた探索時間も短縮できる上に、懸念しているプレシアの事とアリシアの事も何とかなるかもしれない。
 そうランサーは考え、視線を再びセイバーへと移す。

「アレがヤバイもんだってのは、重々承知してる。だがよ」

「分かっています。封印出来る人間が増えたのですから、分担して発見に当たりましょう」

「……迷いがねぇな」

「当然です。私達は、なのは達の笑顔を守るために動いているのですから」

―――だから、そちらの事情は詳しくは聞きません。話したくなったら話してください。

(私も、未だ話していないのに、それを貴方に強要出来る程、私は恥知らずではない)

 そう考えて放たれたセイバーの言葉に、ランサーは一瞬言葉を失う。
セイバーは見抜いているのだ。ランサーがまだ何か隠している事を。
 だからこそ、セイバーは敢えて聞かない。ランサーの性格を知っているが故に。いつか本当の目的を自分達に告げると信じて。
それを分からぬランサーではない。だから、と自分に言い聞かせる。
 それを話すのは、今ではないと。それはジュエルシードが全て集まった時だ。故に、ランサーは本来言いたい事ではない言葉を掛ける。それにありったけの想いを込めて。

「すまねぇな」

「構いません。それより、行きましょう。ライダーやアーチャーも交え、色々と話し合いたい事もあります」

「あいつもここにいるのかよ。……あまり気は進まねぇが、しゃ~ないか」

 セイバーの提案に、ランサーがぼやきながら後を追う。それに呼応し、なのは達も歩き出す。
フェイトはすずかにハンカチのお礼を言って、尚且つなのはとユーノに改めて礼を述べた。
 アルフは、アリサから耳と尾について聞かれて平然と「狼だから」と答えている。
それを聞いて驚きながら、はやてはこの後の事を予想して笑い、その近くを先ほどの猫が、何事もなかったかのように鳴きながら通ってゆく。

 それに微笑ましいものを感じ、笑みを浮かべるなのは達。すると、なのはが何かを思い出したようにその足を止める。

「えっと……。私、高町なのは。貴方の名前を聞かせて欲しいな」

「え……? あ、うん。フェイト、フェイト・テスタロッサ」

「じゃあ僕も。ユーノ・スクライアって言うんだ」

「アタシはアリサ。アリサ・バニングスよ」

「私は月村すずか。すずかでいいから」

「わたしは八神はやてや。はやてって呼んでな」

「え? え? そ、そんなに一遍に言われても……」

 覚えられないよ。そう言って困るフェイトに、五人が笑う。それにフェイトが照れて、俯いてしまう。
それを見て、余計笑みを浮かべるなのは達。可愛いと誰かが言えば、そんなに照れなくてもと誰かが笑う。
 そんな少女達を見ながら、アルフは思う。

(フェイトがあんな顔するの初めて見るよ。……にしてもこれ、ランサーがいなけりゃどうなってたのかね?)

 そう考えて、アルフは笑う。バカバカしい、と。ランサーがいなかったら、そんな事考えられないと自分に言い聞かせて。
心から嬉しそうに微笑むアルフの視線の先には、戸惑いながらも笑顔を浮かべるフェイトの姿があった……。




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第十話。アニメ第四話終了。

無印最終イベントの「名前を呼んで」は普通に終わる事になります。

ランサーの態度からセイバーが隠された真相の存在に気付いた事が、今後の争点ですかね。

……これでいいのだ!(半ば自棄)



[21555] 1-4-4 無印四話 おまけ
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/02 06:44
 あの後、セイバーとランサーはなのは達と別れ、すずかに断りを入れて、厨房でファリンとお茶をしていたアーチャーを連れ出し、共に一室を借りて、話し合いを始めた。
 生憎ライダーは出掛けてしまったらしく、ファリンの話では、おそらく昼には戻ってくるとの事だったので、先に互いの情報と状況、そしてジュエルシード収集の目的を伝え合ったのだが……。

「で、ジュエルシードをその母親の治療に使いたいと?」

「……ああ」

 アーチャーの言葉に、ランサーの表情が曇る。それを見て、アーチャーもセイバー同様に、ランサーが何か隠している事を悟った。
だが、それを尋ねる前に、アーチャーは確かめなければならない事があった。

「……色々と言いたい事があるが、その前にランサー、君に聞きたい事がある」

「何だ……」

「霊体化出来るか」

「はっ、んなもの聞く「なら、やってみせろ」……何だってんだ、一体」

 どこか喧嘩を売るような物言いに、怒りを見せるランサーだったが、アーチャーの表情に何かを感じ、早速霊体化しようとして……。

「……ん……だと……?」

 出来なかった。それを把握し、セイバーとアーチャーから「やはり……」と言う呟きが漏れる。
戸惑うランサーに、アーチャーが語った。自分も含め、確認されたサーヴァントは全員受肉している事を。
 そして、まだ確定した訳ではないが、その原因にジュエルシードが関わっているのではないか。そう考えている事を。

 それを聞き、ランサーも納得した。何故自分がフェイトに呼び出されたのか、その理由が分からなかったが、それならば理解出来ると。
そして、セイバーとアーチャーの告げた、なのはやはやてとの出会いもランサーには人事ではなかった。
 どこかで孤独に怯える少女。それはフェイトにも当てはまったからだ。確かにアルフやリニスはいた。だが、フェイトが一番相手にして欲しかったのは、プレシアだった。
 それを良く知るランサーだから、フェイトが孤独に怯えていたと断言出来る。それだからこそ、ここまで足掻いているのだ。

「……で、君の本当の狙いは何だ」

「……今はまだ言えねぇ」

「アーチャー、待ちましょう。ランサーは騙し討ちや偽る事は出来ない人です。少なくとも、口にした事は本当の事だと思います」

 セイバーの言葉に、アーチャーはどこか突き放したように返した。

「だが、アレは聖杯よりも厄介な代物だ。それを本当に治療に使うなら、全部集める必要はない」

「何が言いたい……」

「本当は治療などと言う目的ではないのだろう。……何か”奇跡”でも狙っているのかね?」

 その言葉にランサーの表情が真剣なものに変わる。それを感じ取り、アーチャーも表情を変える。
室内に流れ出す険悪な雰囲気。一触即発。そんな言葉がピッタリの状況に、セイバーは大きく息を吐いた。

「何をしようと勝手ですが、ここはスズカ達の家です。戦うなら外でどうぞ。それと、貴方達が争うのを見て、ハヤテやフェイトがどう思いますか?」

「「……ちっ」」

 揃って舌打ちするアーチャーとランサー。それをヤレヤレと思って見つめるセイバー。
こうして、いつかの戦いが再現される事はなくなったが、二人は改めて思う。
 こいつとは、相容れない、と。



英霊達の輪、少女達の輪




 一方、そんなセイバー達とは離れたすずかの部屋では、なのは達少女五人が楽しげに会話していた。
ユーノは、アルフと共に忍の部屋へ事情を説明しに行った。それと、なのは達少女組を邪魔したくなかったというのもある。

「それで、ランサーと出会ったの」

「……ホントに似てるね」

「うん。私も突然ライダーが現れたから」

「アタシもそう。急に出てきて、驚いたの何のって」

「わたしもそやね。気が付いたらおったわ」

 フェイトの語ったランサーとの出会いに、なのは達は納得顔。何しろ、多少の違いこそあれ、大筋が同じなのだ。
何の前触れもなく現れ、自分を守り助けてくれる存在。そして、今では家族と呼んでもいい程の仲。
 それが、五人に共通する感覚。故に、話し出すと止まらない。

 フェイトの話をキッカケに、なのはが、すずかが、アリサが、はやてが、それぞれサーヴァント達との出会いを話していく。
それを聞きながら、フェイトは驚き、感動し、頷き、笑った。
 すずかとアリサだけは、話が話だけにありのままとはいかなかったが、それでもフェイトは食い入るように聞いていた。

「……皆、同じだね」

 それを聞き終え、フェイトが噛み締めるように小さく言った。

「うん。だから、友達になれたのかも」

「そうだね。確かにそれも一つの要因かな」

 なのはの言葉に笑顔で答えるすずか。それを見て、フェイトが羨ましそうに呟いた。

―――いいな。

 それを聞いて、みんなが笑う。そんななのは達の反応に、どうして笑っているのか分からないといった顔で、フェイトがうろたえる。
そんなフェイトに、なのはが全員を代表して優しく告げる。

「フェイトちゃんも友達だよ?」

「……え?」

「そうだね。嫌じゃなければ、だけど」

「い、嫌なんて……」

「なら、いいじゃない。仲良くしましょ、フェイト」

「で、でも……」

「なんや? フェイトちゃんはわたしらの事嫌いか?」

「そ、そんな事っ……」

 ない。そうフェイトは言った。強くはない。でも確かにはっきりとそう言い切った。
それに四人は顔を見合わせ、笑って頷いてこう言った。

「「「「これからよろしく! フェイト(ちゃん)っ!!」」」」

「う……うん! よろしく、なのは、アリサ、すずか、はやてっ!!」

 喜びを噛み締めるように、流れる涙を拭う事もせず、フェイトは笑顔を浮かべる。その笑顔は、これまでにない程の輝いたものだった。



 その頃、高町家では……。

「やっぱ、小次郎さんは強いですねぇ」

「何の、美由希殿も中々のものよ」

 道場に座って、汗を拭きながら語り合う二人。そう、美由希が一人留守番したのは、小次郎が来る事を知っていたからだった。
アリサの護衛としてバニングス家に住んでいる小次郎だが、基本アリサが望まない限り、行動を共にする事はない。
 それは、小次郎に自由でいて欲しいとアリサが思っている事と、アリサの邪魔をしないようにと小次郎が考えた末の結論。
なので、今日は自分の好きなように過ごしてほしいと思い、アリサが小次郎に暇を与えたのだ。
 昨日、試合終わりに美由希へ小次郎がそうなるだろうと伝え、それを知るが故に、美由希はこうして残っていた。

「でもいいんですか? アリサちゃんの傍にいなくて」

「構わん。何せ、月村家にはライダーがおる。それに、はやてが来るならアーチャーもいよう。心配はいらぬよ」

 小次郎の言葉に、美由希も納得。何しろ、アーチャーは士郎が「戦いのプロだ」と言う程の男であり、ライダーはセイバーと互角に渡り合うとの事。それを考え、そんな者を相手に勝てる者がいるはずない、と美由希は思った。

「さて、そろそろ昼時か。暇するとしよう」

「え~、もう少しいいじゃないですか」

「気持ちは嬉しいが、何分腹が減ったのでな。昼餉を食べに戻ろうと思う」

「あ、じゃ、あたしが作りますよ。ね? それならいいですよね」

 美由希の言葉に小次郎は少し考えるが、何か思いついたのか頷き、告げた。

「ならば、飯と塩でむすびを頼む。それならば、私にも出来よう」

「え? 小次郎さんも作るんですか?」

「美由希殿に甘えるだけにもゆくまい。私の分は美由希殿が、美由希殿の分は私が作ろう」

 それでどうだ。そんな表情で美由希を見る小次郎。勿論、美由希が満面の笑みで頷いたのは、言うまでもない。
ちなみに、恋する乙女の力か美由希のおむすびは普通に食べれるものだった。小次郎の幸運が高い事が影響したのかもしれない。



 ややあって、ここはセイバー達のいる部屋……。

「……帰ってきてみれば、とんでもない事になっていたのですね」

 ライダーの言葉に、セイバーが深く頷く。お昼になったので、一度戻って来たライダーが見た物は、不機嫌な顔をするアーチャーとランサーの二人だった。
 良く見れば、セイバーが鎧姿になっている。それからライダーは何が起こりかけたのかを理解した。

「相変わらず仲が良いのですね」

「「良くない」」

 ライダーのどこか呆れた声に、二人が息ピッタリにそう返す。
それに微かに笑みを浮かべるセイバーとライダー。それは、まるで子供の喧嘩のような雰囲気が感じられたからだ。

 だが、そんなアーチャーがふと時計に目をやり、気迫十分に立ち上がった。
それに訝しむような視線を送るランサー。対して、その理由が分かるのか嬉しそうなセイバーと、それに苦笑するライダー。

「昼食の時間だ。君も食べるかね、ランサー」

 その一言に、ランサーが拍子抜けしたのは言うまでもなかった。



 その頃、忍達はユーノの話に驚いていた。何しろ、自分を襲撃し、ジュエルシードを奪おうとした相手に協力すると言ったのだから。
そんな忍達の反応に、アルフはどこか居辛そうに頬を掻いている。

「……そうか。それがお前やなのはの答えなら、俺は何も言わない」

「恭也……」

「ありがとうございます!」

 ほっとしたように笑顔を見せるユーノ。アルフは、そんな結論を出した恭也に何かしらのシンパシーを感じた。

(今の言い方、こいつやあのチビちゃんがそう言わなかったら文句がある! みたいな言い方だねぇ)

 その思考が自分に似ているとアルフが気付かされるのは、高町家と深く関わるようになってからの事。

「ただし、もしなのは達に何かあったら……」

「それはないよ。アタシらだって、好きであんな事したんじゃないさ」

「恭也さんの気持ちは分かります。でも大丈夫ですよ。ランサーさんは、セイバー達と同じ存在ですから」

 アルフとユーノの言葉に、恭也も理解はしたようで、放ち始めていた殺気を消した。それに安堵の息を吐くユーノ。
忍も今の恭也と同じ思いらしく、どこか諦めたように呟いた。

「ま、信じるしかないわね。私達の『家族』の目を……」



「ノエル、そちらはどうだ?」

「大丈夫です。もう仕上がります」

「ファリン、いけるな?」

「任せてくださいっ!」

 執事とメイドの三人組が、厨房の中で忙しく動き回っている。チーフがアーチャー、サブにノエル、新人ファリンといったところであろうか。
食事についても、アーチャーは教師的立場だった。唯一の違いはノエルもそれに含まれる事か。
 忙しく働きながらも、指示を出し、料理を作り、そして全体を把握する。まさにアーチャー劇場だった。

 そんな厨房から離れた食卓で、今か今かと料理を待つのはセイバーとはやてだ。食欲から楽しみなセイバーと、料理人として楽しみなはやて。その姿勢こそ同じだが、興味を抱いているところが決定的に異なっていた。

「せ、セイバー……落ち着いて」

「そうだぞ。フェイトちゃん達もいるんだから」

 ただ、それに耐えられないとばかりに、なのはと恭也がセイバーを制する。初めて見るセイバーの様子に、フェイトとアルフは軽く驚いている。
それもそのはず。セイバーの第一印象があまりに絵になるものだったため、そのギャップはかなりのものだったのだ。
 唯一ランサーだけは、そんなセイバーを知っているので、懐かしそうに笑っていたりする。

「そ、そうでした。私とした事が……」

「あ、えっと……気にしないで」

「そうだよ。アタシらだって、早めに昼を食べなきゃあんたみたいになってるさ」

 アルフの言葉に、ライダーが反応する。それは、単純な疑問。

「まだ食べれるようですが、一体何を食べたのです?」

「ん?ああ、ハンバーガーとフライドチキンだろ。それを……」

 アルフの語る食べ物の量に呆れ返る一同。ランサーもだよ、とアルフが言って余計に沈黙。
ファストフードだけとはいえ、それだけを食べて尚まだ食べるアルフとランサーに、全員が呆れていた。
 感情も突き抜けると、それが元々のモノと別のものに変わる事がある。今回はまさにそれ。

 そんな話をしていると、アーチャー達が料理を運んできた。そのメニューに、目を輝かせるセイバーとはやて。
アルフとランサーも、もうそこまで食べれないにも関わらず、その料理に目を奪われていた。
 フェイトは初めて見るものがあり、向かいのなのはに尋ねている。

「お待たせしたな。さ、食べてくれ」



 こうして、なのは達とフェイト達の出会いは過ぎて行く。ジュエルシードの探索は、フェイト達が探索魔法を使えるので、それで位置を特定ないし限定し、封印をなのはが行う形で纏まった。
 フェイト達の拠点が遠見市なので、色々と不便だろうとはやてが自宅を使ってくれと提案。それに反対したアーチャーだが、はやての「友達を泊めるのがそんなに悪いか」との一言に沈黙。
 こうして、後日八神家にフェイト達がやってくる事になり、探索も早く終わるだろうと誰もが思った。

 そして、ついでとばかりにフェイト達にもなのはが旅行の事を提案し、それをランサーとアルフがノリノリで参加表明して笑いを取る一幕もあり、終始和やかな空気でその日は終わりを迎えた。


こうして運命が変わる。それが良い方向なのか、悪い方向かは……誰も知らない。




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第十一話。本来なら温泉話ですが、その前に必要なアバンを(長くてとてもアバンなんてものじゃないですが)

次回はアニメ第五話の話。登場キャラが多くて、今から困ってます。

ライダーやセイバーも参加する魅惑の温泉。……何とか表現できれば、と思います。



[21555] 1-EX 幕間1
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/04 05:56
 それは、フェイト達と出会った次の日の事。はやては起きてからずっとそわそわしていた。
 それを見ながら、アーチャーは今日何度目か分からないため息を吐いた。

「朝食を食べてから来ると言っていただろう。それに荷物もある。おそらくまだ来ないぞ」

「分かっとる。でも、もしかしたらがあるやろ」

 これなのだ。既にこのやり取りも四回目。はやてはもうずっと玄関前でスタンバイ中。朝食が終わった後から、こうなのだ。
 何だかんだ言いながら、アーチャーも洗濯などを終えて、それに付き合っているのだから優しいものだ。
 そんな二人を見て、みーちゃんもそわそわ。はやての腕の中でキョロキョロと顔を動かしている。
 彼女はいつものように食事を終え、はやてと戯れて帰るつもりだったのだが、はやての「みーちゃんも紹介せな」の一言により、こうしてはやてに捕らえられていた。

 そんな風に過ごす事、実に三十分。待ちに待った瞬間が訪れる。
 鳴り響くチャイム。それに反応し、ドアを開けようとするはやて。アーチャーがさり気無くみーちゃんを抱え上げ、それをサポート。
 そして、ドアの先には……。

「こ、こんにちは……」

 どこか緊張した面持ちのフェイトがいた。

「いらっしゃい! よ~来てくれたな」

「え、えっと、短い間だけどよろしく」

「こちらこそよろしくや。仲良~しよ」

 ニコニコ笑顔のはやて。それにつられてフェイトも笑顔を見せる。
 一方、そんな二人とは対照的に、玄関先で睨み合う男二人。その後ろでアルフが気まずそうな顔をしている。

「……どけよ」

「馬鹿を言うな。まず、女性が先だろう」

「アタシはランサーの後でもいい「ほら見ろ。こう言ってるじゃね~か!」……うん」

「レディファーストを知らぬとは、やはり”猛犬”の名は伊達ではないな」

「いい度胸だ……表出ろ」

 既に戦闘態勢。限界突破しそうな二人を止めるキッカケになったのは、意外な事にみーちゃんだった。
 二人の殺気に当てられ、慌てるように逃げ出したのだ。その声にはやてが顔を出す。

「何いつまでも玄関におるんや! みーちゃん怖がらせてへんと、早くランサーさん達をリビングまで案内し!」

 はやての言葉にアーチャーが苦虫を噛み潰したような顔をし、対するランサーは勝ち誇ったような表情を浮かべる。
 だが、それも長くは続かない。はやてに続くようにフェイトも顔を出し「ランサーもアーチャーさんを怒らせないようにね」と言ったからだ。
 こんどはそれにランサーが苦い顔。それにほくそ笑むアーチャー。そして、そんな二人を見てアルフが一言。

「……ホントはあんた達、仲良いだろ」

「「良くない」」


ようこそ、八神家へ!




 それからややあって、リビングには仲良く話をするはやてとフェイトの姿と、その横で、色々と質問し合っているアーチャーとアルフがいた。
 ランサーはと言えば、ソファーに座り、我が物顔でテレビを見ていたりする。

「でな、この子がみーちゃん言うんよ」

「へぇ……触ってもいい?」

「ええよ。もう、大分大人しなったし」

 恐る恐る手を出すフェイト。それをみーちゃんは黙って見つめ、されるがままに撫でられる。

「……本当に良い子だね」

「やろ? ここまでするのは苦労した「のは私だが?」……んよ」

 途中で遮られ、気分を害したようにはやてが口を尖らせる。フェイトはそんなはやての顔に笑みをこぼす。
 そのはやてとアーチャーのやり取りが、すごく自然だったからだ。きっと本当に家族のようなんだろう。そうフェイトが思って、視線をランサーへ向ける。
 それに気付いたか、ランサーもフェイトへ視線を向ける。それにフェイトは少し驚くも、微かに笑みを浮かべて「何でもない」と返す。
 そんな二人から視線をアルフに戻し、アーチャーは話を再開する。

「……で、使い魔だったか? そちらでは死んでいても蘇生可能なのか」

「ま、そうだね。でも、動物限定だよ? 人間を使い魔にしようなんて考えないからね」

「……その言い方では、出来ない事はないという事か?」

「どうなんだろ? リニス辺りにでも聞かなきゃ分からないけど、出来ても多分誰もしないと思うよ」

 アルフの発言にアーチャーが首を傾げる。その疑問を理解し、アルフが笑って答える。
 使い魔にするという事は、つまりその体に新しい魂を与える事なのだと。動物なら、別の自我を得て喋り出しても納得出来るだろうが、人間はそうもいかないだろう、と。

 その言葉にアーチャーも納得がいった表情を浮かべる。確かに、別人のようになってしまっては、生き返っても意味がない。
 それは、その生き返らせたかった故人ではなく、同じ姿をしたまったくの別人にしてしまうのだ。
 その結論に行き着き、アーチャーは合点がいったとばかりに頷いた。

「後、使い魔は主人と契約を交わすのさ」

「ふむ、使い魔なのだから、それは当然か」

「ちなみにアタシは、ずっとそばにいる事だよ」

 アルフの言葉に、アーチャーは笑みを浮かべた。実に彼女らしいと思ったからだ。
 そして、視線をフェイトへと向ける。そこには、はやてと楽しそうに語らうフェイトの笑顔があった。

「……アタシはね、あの子の笑顔のためなら何だってするよ」

「奇遇だな。私もはやてを笑顔に出来るのなら、努力は惜しまんつもりだ。何しろ、自分の生活に関わるのでね」

―――ちなみにセイバー達も同じ考えをしている。

 そう続けたアーチャーの言葉に、アルフは嬉しそうに笑う。

―――そりゃ心強いね。

―――まったくだ。

 そう言い合う二人の視線の先には、笑い合うはやてとフェイトの姿があった。



 お昼になり、アーチャーはアルフとランサーを連れ、買い物へと出て行った。はやてとフェイトも行くと言ったのだが、アーチャーから「今日ぐらいはゆっくり話をし、情報交換をしておけ」といういつもの気遣いを受け、はやてがフェイトをゲームに誘った事で決着となった。
 みーちゃんは、さすがにあまり引き止めるのも悪いと思い、はやてとフェイトに見送られ帰っていった。

「さ、何しよか?」

「私、ゲームとか全然知らないからはやてに任せるよ」

 そう言ってフェイトははやての手伝い。ゲーム機を取り出し、はやての指示通りに配線を繋いでいく。
 そして、某メーカーの人気配管工がタイトルのカーアクションゲームを二人で始める。始めての事に戸惑うフェイトを、誘導して進むはやて。
 その内、フェイトも操作に慣れ、段々熱が入り始める。

「あ、スターや」

「これなら……はっ!」

「おおっ! フェイトちゃんやるな!」

「うん、大分コツは掴んだからね。はやて、置いてくよ?」

「ぬ、あんま調子乗ると……こうや!」

 無敵が切れた途端、はやての操作キャラ(カメの大王)が投げた緑こうらがフェイトの操作キャラ(緑のドラゴン)に炸裂。堪らずスピンするフェイトのキャラ。

「す、凄い……」

「当然や。なのはちゃんにもわたしは勝てるんやから」

 回転するフェイトのキャラを抜き去り、再びトップに踊り出るはやてのキャラ。
 それに追いつこうと、走り出すフェイトのキャラだったが―――。

「ゴール!」

「ううっ……追いつけなかった」

 的確にアイテムを使い、時にはCPUさえ壁に使うはやてに、フェイトは二位を取るだけで精一杯だった。
 結局そのままはやてが一位で終了となったのだが。

「はやて、もう一回いい?」

「ええよ。何度でもかかってき」

 フェイトの要望で開始される第二回戦。こうして、アーチャー達が帰ってくるまで二人の戦いは続いた……。



 スーパーへ向かう道。アーチャーは隣を歩くランサーへ視線を送る。それに気付き、ランサーも頷く。
 アルフもその意味を理解しているようで、真剣な表情で歩いている。

「……あの猫をどう思う」

「……おそらくだが、ありゃアルフ達と同じだな」

「間違いないよ。アタシもそう感じたから」

 周囲に気配等を感じないと把握し、話し出す三人。アーチャーは、ずっと疑問に思っていたのだ。
 あの仮面の男が監視をしなくなっても尚、何故こちらの事を把握していたのか。そして、その推測として燻り続けていた事が、どうやら当たりらしいと思ったのは、アルフと使い魔の話をした時だ。

 その話をし出した辺りから、みーちゃんの様子が若干おかしくなったのだ。それに気付き、アーチャーはランサーとアルフを連れて出てきた。
 そう、二人にはどう見えていたのか確認するために。

「となると……」

「心当たりがあんのか?」

「今はまだ言えん」

 アーチャーはそう皮肉屋スマイルで返す。それに苦い顔を浮かべるランサー。それは、昨日ランサーがアーチャーの問いに対して言った言葉だったからだ。
 だが、何かある事だけはランサーとアルフにも分かった。だからこそ、二人は告げる。

「ま、この事が片付いたら力になるよ」

「……しばらく世話にもなるしな」

 そんな二人の申し出を、アーチャーは内心感謝しながら笑って答えた。

「当然だ。タダより高いものはないとしれ」

 その言葉にランサーとアルフが文句を返したのは言うまでもない。だが、そんなアーチャーの内心を感じ取っているのか、その表情はどこか呆れが混ざっているように見えた。



 アーチャー作の昼食(肉が食べたいとランサーとアルフがうるさかったので)のメニューは、鳥肉の竜田揚げに人参、大根、里芋の煮物。それに豚肉の冷しゃぶサラダと豆腐とワカメの味噌汁という和食だった。
 フェイトは初めて見る食材、特にワカメに首を傾げ、はやてから海草と聞くと「そんなものも食べるの?」と軽く驚きながらも完食した。
 アルフとランサーは肉料理ばかり食べ、アーチャーとフェイトからお叱りを受け、それをはやてが笑って見ているという微笑ましい一幕もあり、終始和やかに食事は終わった。

 そして、食事の後片付けはフェイトとはやてがやると言い出し、アーチャーはその言葉に甘え、食後のお茶を淹れていた。
 アルフはランサーとテレビにご執心のようで、二人してひっきりなしにチャンネルを変えている。
 あまりにも忙しなくチャンネルを変えるので、アーチャーがそれを注意し、ランサーがそれに噛み付く。アルフはそれを仲裁する事もなく、サングラスを掛けた男性が司会の番組を眺めている。

(何か、ええな。家族が増えたみたいや)

(何だろ? すごく楽しい。リニスがいた時とは違うけど、これも家族みたいだ)

 洗い物をしながら、聞こえてくる話し声にそんな事を思うはやてとフェイト。ふと互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

「とりあえず……」

「うん。そうだね」

 二人は頷き合って後ろへ振り向き、言い合いを続けるアーチャーとランサーに向かって―――。

「「いい加減にし(て)」」

 こうして、フェイト達の八神家での日々は過ぎて行く。たった一月にも満たない生活。それでも、後にはやてとフェイトは語る。

あの日々は、自分達二人だけの秘密の思い出になった、と




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幕間。だが、本編に絡む大事な話。

猫の正体をどこかで疑っていたアーチャー。そして、それが分かった事で何が変わるのか?

それはまたいずれ。本当に重要な話になって、書いた本人がびっくりしてます。

……未熟者だな、と改めて実感。



[21555] 1-5-1 無印五話 前編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/03 06:08
「改めて見ると凄いよね、この人数」

「確かに、これは凄いな」

 美由希の呟きに恭也も同意。ワゴンタイプの車が二台。それだけの規模になった今回の旅行。
 先頭車両は士郎がドライバーを務め、助手席に桃子で、後部座席にノエル、恭也、忍、小次郎、美由希、ファリンが乗り、アルフは狼形態でファリンの膝の上。
 二台目はドライバーをライダー、助手席にアーチャー。後部座席がセイバー、ランサー、そしてなのは達子供組となっている。

 大人組と子供組に別れ、更にフェイトやはやての事を考えて、仕方なくランサーとアーチャーを同席させているのだが、その緩衝役として、セイバーとライダーがいたりする。
 何しろ、二人がその気になると、止められるのはセイバー達ぐらいだからだ。

「今頃、すずか達は楽しく遊んでるでしょ」

「だろうよ。まぁ、ランサーとアーチャーが大人しくしておれば、だが」

「……小次郎さん、不安になるんでやめてくださいよ」

「大丈夫さ。フェイトとはやてがいるんだ。喧嘩なんて出来ないよ」

 不安そうな表情の美由希に、アルフはそう笑って告げる。その言葉に頷くノエル。
 あの出会った日、二人の仲とフェイト達に対する態度を見た彼女も、アルフの意見に賛成だった。

「その通りです。お嬢様達の前で迂闊な事をすれば、後が怖いのを御二人共知っていらっしゃいますから」

「ですよね。フェイトちゃんもはやてちゃんも、ああ見えて気は強いですからね」

 ファリンの言葉に全員が笑みを浮かべるが、はたと忍が呟く。

「……でも、はやてちゃんって、そんなに大人しそうには見えないけど」

「忍さん、それは言わない約束よ」

「でも、はやてちゃんは元々大人しい子だったと、アーチャーさんは言っていたぞ?」

 士郎の言葉に、納得の忍。だからこそ、これを言わねばならない。そう思い、忍は断言する。

「じゃ、因果応報って事ね」

 その言葉に今度こそ全員が声を出して笑った。



 大人組がそんな風に盛り上がっている頃、なのは達はと言えば……。

「ダウトッ!」

「え~、何でわかるんやろ」

「アリサ、すごいね。これで三回連続だよ」

 トランプに興じていた。後部座席を倒して、後ろの辺りに円を作りながらのトランプ大会。
 本当はフェイトへの軽いレクチャーだったのだが、勝負事にムキになるアリサが徐々にヒートアップし、現状に至る。
 種目もババ抜き、七並べ、ポーカーと来てダウトとなっていた。この後はおそらく大富豪となるだろう。
 その証拠に、先程なのはがユーノに大富豪のルールを教えている。アリサも、フェイトへ同じように説明をしていたから間違いない。

「どないしよ? カード、こんなに増えてしもた」

「う~ん、でもこれなら逆に……」

 はやて・すずかペアが、手札を見ながら作戦会議。それを見つめてアリサ・フェイトペアも考える。
 残りのなのは・ユーノペアは困り顔。何しろ、現状手札が一番少ないのだ。つまり、口で言う数と手札が合わない事の方が多い。

「どうする?」

「……とにかく順番を考えて、これを最後に出来れば……」

「……そっか。ユーノ君、あったまいい~」

 ユーノの作戦に笑顔のなのは。それに照れ笑いのユーノ。その向かいで、同じくカードを睨むアリサとフェイト。

「で、これを何とかスルーさせれば……」

「でも、もしはやて達が三のカード全部持ってたら?」

「ぬ……でも、やるしかないわ。女は度胸よ!」

「あ、アリサ……かっこいい」

 冷静なフェイトの懸念に、アリサはそう言い切った。その凛々しさに憧れの眼差しを向けるフェイト。
 そんななのは達を眺めながら、笑みを浮かべるセイバー達。
 運転しているライダーも、バックミラーでその様子を見て、微笑んでいる。

「すっかり仲良くなりましたね」

「だな。ま、こっちとしても大助かりだ」

「……ジュエルシードも、こんなに早く見つかるようになるとはな」

 アーチャーの言う通り、フェイト達が探索魔法を使い、それで発見したものをなのはが封印という流れで、恐ろしい程効率が上がったのだ。
 それは、封印の事まで考えて探索をしなくても良くなった事が影響している。魔力消耗の事を考慮せず、探索のみに全力を傾ける事が出来るようになったフェイトは、広範囲探索魔法をアルフとともに行使し、その成果を挙げていた。

 一方のなのはも、そんなフェイトに負けられないと魔法の勉強に力を入れ、先日なのはの要望で初めて行ったフェイトとの模擬戦において、新しい魔法『ディバイン・バスター』を習得した。
 キッカケは、フェイトの放ったサンダー・スマッシャー。ディバイン・シューターを同じように撃てれば。そんななのはの思いにレイジング・ハートが応えた結果が、その魔法に変わった。
 それの習得と戦闘結果によって、自身の得意属性が集束と放出である事と、防御が異常に頑強だとユーノとフェイトに言われ、現在なのはは、もっと凄い魔法の開発と防御の強化に余念がない。
 ただし、それを知った士郎やセイバーから、あくまでも程々にと強く念を押されはしたが。

 特にセイバーがなのはにそう言ったのは、自身が使用する聖剣の事を思い出してであった。
 あれも魔力を集束し、放つモノ。故に、ディバイン・バスターも体に掛ける負担が相当な魔法だと直感から察し、なのはを心配したのだ。
 ちなみに、なのはがフェイトとの模擬戦を希望したのは、魔法を実戦レベルで磨いているフェイトから色々学びたいとの思いからだった。

「ですが、まだ残りは少なくありません。慎重に行かないと」

「そうだな。ライダーの言う通りだ。だからこそ「休める時に休む、だろ?」……ああ、そうだ」

 ランサーの言葉に微かに苛立ちを見せるアーチャー。それを見て嬉しそうなランサー。
 アーチャーは、言葉を遮られたから苛立っているのではない。ランサーが、固い言い方しようとすんなと言わんばかりに笑みを浮かべたからの苛立ち。
 ランサーでなければ、おそらくアーチャーもこうはっきりと反応を示したりはしないだろう。だが、この二人が実は一番噛み合うのも、セイバーとライダーは知っている。

(どちらも生き残る事に関しては一流ですからね)

(まったく、似た者同士なのですから……)

 どこか苦笑を浮かべつつ、それを眺めるセイバーと横目で見つめるライダー。
 そんなライダーの視界には、近付きつつある目的の旅館の姿があった……。


海鳴温泉だよ、全員集合! 前編



 時の庭園のプレシアの部屋。ベッドを囲むように様々な機械が置かれている。そんな中、リニスが食器を片付けながら、プレシアに告げた。

「ランサーの報告では、ジュエルシードも順調に集まっているようです」

「みたいね。……この分なら間に合うかしら?」

「間に合うに決まってます。弱気な事を言わないでください」

「そう、だったわね。ごめんなさい」

 リニスの咎めるような声に、プレシアは笑みを浮かべて謝った。
 あの日、ランサーからの報告を聞いた二人は驚いた。何しろ、ランサーと同質の存在が暮らしていて、尚且つ、ジュエルシード発見者の少年と共に協力してくれるとの事だったからだ。
 当然、初めは疑ったプレシアだったが、ランサーの「俺を信じろ」との言葉に黙らざるを得なかった。それだけプレシアは、ランサーに全幅の信頼を寄せている。

「……今頃、ランサー達は……温泉? だったかしら」

「ええ。現地の療養施設で完全休養するそうです」

「……まぁ、肝心な時に倒れられても困るもの。大目に見るわ」

「プレシアも連れて行けるなら連れて行きたい、とフェイトとランサーが言ってましたよ」

 リニスのどこか窺うような言葉に、プレシアは笑みを微かに見せて「そう……」と呟いた。

―――いつか、あの子”も”連れて行けたらいいわね。

 そんなプレシアの言葉は、外に漏れる事なく消える。ただ、彼女の心の中にだけ、その変化の痕跡を残して……。



 旅館に到着した一同は、男性陣が荷物運びで働く事になり、その間、女性陣は賑やかにこれからの事を話し合っていた。
 ただし、なのは達は既に行動を決めていたので、五人で早速お風呂へ直行する事に。それに呼応し、美由希に忍、アルフ(着いた瞬間人型にチェンジ)もそれに便乗する事になった。

「じゃ、行くわよ」

「あ、待ってよアリサちゃん」

「なのは、温泉って病気にも効くって本当?」

「うん。だから、今度はフェイトちゃんのお母さんも一緒に来れるといいね」

 なのはの言葉に、フェイトは小さく頷く。そう、”今度”を必ず実現させるんだ。そのために、ジュエルシードを早く集めないと。そんな思いを胸にフェイトは歩く。
 そんなフェイトの気持ちを知ってか知らずか、なのはも思う。

(フェイトちゃんのお母さんを早く治すためにも、後で念のために探索魔法を試してもらおう。ここにもあるかもしれないから)

 そんな風に歩くなのは達の後ろで、はやてがすまなさそうにアルフを呼び止めた。
 一人車椅子のはやては、お風呂場まで車椅子では迷惑になると思い、アルフに運んでもらおうと考えた。その思いを気遣い、アルフは二つ返事でその体を抱え上げようとした。
 だが次の瞬間、それを横からライダーが制止するように取り上げた。

「アルフ、ダメですよ。ハヤテはこう見えて油断ならないのです」

「へ? どういう事だい?」

「……ハヤテ、何故アルフの胸部を凝視しているのですか……?」

 セイバーの言葉にアルフがハッとする。そう、ライダーの抱え方は、はやてが胸に手が届かないように肩で担ぎ上げているのだ。
 その意味を理解し、アルフは苦笑い。そして、同時にライダーに感謝する。

「すまないね」

「いえ、気にしないでください。……さ、行きますよ」

「う~……ライダーさんがイジワルや」

「あはは、はやてちゃんって男の子みたいだね」

「ホント、ある意味女の子で良かったわ」

「……なのは達が聞いていなくて良かったです」

 どこか呆れたような美由希と忍。やれやれと息を吐くセイバー。そんなセイバーの発言に、内心アルフとライダーが呟く。

((もしかしたら、聞かせた方が良かったんじゃ(のでは)……?))

 その予想が当たって二人が後悔するのは、これから五年以上後の事。



 浴衣になり、部屋で寛ぐ士郎と桃子。恭也とノエルも浴衣に着替えてまったりとしている。ファリンは、急須でのお茶の淹れ方をアーチャーから教わっている。
 小次郎とランサーは、早速とばかりに人目に付かなさそうな場所まで試合をしに行った。
 本当は恭也も行きたかったのだが、ノエルとファリンから、忍をほったらかしにしたら黙ってないと言われ、仕方なく諦めた。

「それにしても、驚く事だらけだな」

「そうね。フェイトちゃん達の事もだけど、ランサーさんの事も、ね」

「セイバーに勝てるかもしれない。それだけで俺にとっては驚きだよ」

 恭也のその言葉に頷く士郎。何せ、セイバーは未だ負け無し。士郎でさえ、魔力放出を使われれば、勝つ事はまず不可能だ。
 何度か追い詰めた事はある。だが、それは魔力放出を封じた状態のセイバーだ。本来ならば、勝ち目はまったくない。
 ちなみに、セイバーは何度か魔力放出無しで勝とうとしているが、元来の負けず嫌いが影響し、それを出来ずに使ってしまっている。
 それを知るのは、セイバーとそれを内心悔やんでいる様子に気付けるなのはのみ。

「勘違いするな、恭也。私や小次郎、それにライダー。誰もが条件や状況によってはセイバーに勝てるのだ。何もランサーだけとは限らん」

「そうです! アーチャーさんは強いんです!」

「……何故そこでファリンが意気込むのですか?」

 ノエルの指摘に、顔を赤めて俯くファリン。それを微笑ましく見つめる士郎と桃子。既に恭也とアーチャーは戦術論を交し合い、それに気付いていない。
 そんな穏やかな時間が、静かに流れていた。



 何かがぶつかり合う音が響き渡る森の中。その中の少し開けた場所で、向かい合うように佇む小次郎とランサーの姿があった。
 その手にはそれぞれの得物が握られている。そして、互いに嬉しそうな笑みを浮かべて、得物を向け合った。

「やるじゃね~か」

「お主こそ。以前と違うのはそちらも同じか」

「へっ……そういうこった!」

 ランサーの神速とも言える突きが小次郎を襲う。だが、小次郎はそれを軽々といなす。
 それが数十合。剣舞と呼んでもいい程の動きで、ランサーの攻撃をいなし、流し、逸らす小次郎。
 ランサーはそんな小次郎に喜びを噛み締めていた。死力を尽くすとまではいかないが、全力を出せる相手との戦いは、やはりランサーにとって何も勝る生き甲斐なのだ。

(前よりも技の冴えが上がってやがる。……こいつはおもしれぇ!!)

(ほぅ……更に速くなるというか。……良かろう)

 どちらともなく一旦得物を引く。先程までの火花散る戦いが嘘の様に静まり返る。
 静寂。だが、それもほんの一瞬。再び始まる閃光の如き打ち合い。だが、その速度は先程とは比べ物にならない。
 先程が”目に見えない”速さなら、今回は”目に映らない”速さ。
 もう、刀や槍を動かしているのかも分からないのだ。途中から見れば、おそらくそう言う事しか出来ない。

 御神の剣士である士郎達なら、まだ辛うじて”目に見えない”速さかもしれない。だが、常人には既に理解の範疇を超えている。
 セイバーを持ってしても、これを完全に捉えるのは至難の業かもしれない。
 最速のサーヴァント、ランサー。そして、絶技のサーヴァント、小次郎。スピードvsテクニックともいうべき戦いが、展開されていた。

「オォォォォォッ!!」

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 互いに咆哮を上げ、速度とその冴えをそれぞれ研ぎ澄ます。心は熱く、されど思考は冷静に。そう小次郎が思えば、ランサーは心も思考も熱くなれと思う。
 だが、願うものは同じ。それは強者との戦い。ならば、今の状況を喜ばずして何を喜べと言うのか。

「チッ! 埒が明かねぇ」

「それはこちらとて同じ事よ」

「なら……」

「勝負……」

 互いに構えるは、必殺の構え。己が絶対の自信を託せる唯一無二の攻撃。

刺し穿つ(ゲイ)……」

「秘剣……」

「ダメですよっ!!」

 突然の声に、思わず気を逸らす二人。声の主はユーノだった。
 荷物を運び終わり、ユーノは何ともなしに散歩していた。その途中、森の方へ向かう二人を見て、気になってついてきていたのだ。
 戦いを始めた二人を見て、後学のために、と集中して見学していたユーノだったが、次第に熱くなる二人の闘気に当てられ、気が付けば拳を握って見守っていたのだが……。

「小僧……」

「見ておったのか……」

「今の、確かお互いの必殺技ですよね!? 何で殺そうとしてるんですかっ!!」

 そうユーノがかなり焦って叫ぶ。それを聞き、二人にも僅かに反省の色が浮かぶ。
 いくら戦いに夢中になっていたとはいえ、二人して本気になりすぎていたようだった。
 それを理解し、小次郎とランサーも苦笑を浮かべる。確かにあのまま続けていたら、どうなったか分からなかった。
 互いに、殺す気はなかったが、少々熱くなり過ぎたようだ、と笑って告げるランサーと小次郎。
 そんなやりとりを、ユーノは呆れながらもほっと一息。

(これ……僕いなかったら、どうなってたんだ……?)

 そんな事を考え、心の底から息を吐いたユーノだった。




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第十二話。温泉話です。

肝心の場面は次回に。今回のメインはランサーvs小次郎ですかね。

本来でも戦っていただろう二人。しかし、令呪の縛りを受けていたランサーでは本気の戦いは不可能。

対する小次郎も、御神の剣士達との戦いで技に磨きをかけたので、ランサーも小次郎も互いに以前と違うと感じた訳です。

……こんな描写しかできなくて申し訳ないです。



[21555] 1-5-2 無印五話 中編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/03 07:09
 湯煙立ち込める大浴場。それを前にし、フェイトは驚きからか声を失う。
 ただ大きなお風呂だと聞いていたフェイトにとって、温泉大国日本の大浴場は、常識の範疇ではなかった。

「……大きい」

「そっか。フェイトちゃん達のとこには温泉ないんだっけ?」

「驚いてるとこ悪いけど、ここよりも大きなお風呂もあるのよ。この国の人達は、お風呂大好きだから」

 呆然と呟くフェイトに、美由希と忍が声を掛ける。それを聞き、信じられないと言わんばかりの表情をするフェイト。
 それが可愛らしくて、二人の笑みを誘う。そんなフェイトとは対照的に、はやては目の前の光景に心躍らせていた。
 美由希、忍、アルフ、それにライダーと魅惑的な”おっぱい”が並んでいるのだ。
 ちなみに、はやてが女性の胸に執着するのは、無意識に母性を求めているからだと、アーチャーは分析している。

(何とかして触ったらなアカンな)

 そんなはやては、現在セイバーが抱えている。結局、セイバーとライダーも美由希達に誘われ、風呂に入る事にしたのだ。
 既にライダーはすずかの背中を洗うため、セイバーにはやてを預け、現在仲良く洗いっこ中。
 キチンと自身に暗黒神殿(ゴルゴーン)を施し、鏡を極力視界に入れない辺り、ライダーの徹底振りが窺える。
 ま、おかげでライダーはかなりの近眼さんになってしまい、すずかに手を引かれているのだが。
 アリサはなのはと楽しそうにしながら、洗いあっている。アルフは簡単に掛け湯をし、早々に湯船に浸かっていた。

「ハヤテ、まずは体を洗いましょう」

「へ? あ、そうやな。セイバーさん、お願いします」

「ええ。では行きましょう」

 はやてを抱え、なのは達の下へ向かうセイバー。そのセイバーの胸を注視するはやて。

(む~、もう少し大きければ良かったんやけど……残念っ!)

(何でしょうか? ハヤテから、何かイラッとするものを感じます)

 持ち前の直感で、侮辱された事を感じ取るセイバーだが、生憎それがどういうものかまでは理解できない。
 はやては一瞬セイバーの表情が変わったのを見て、勘付かれたかとも思ったが、セイバーが何も言わなかったのでよしとした。
 そんな二人の視界の隅で、楽しそうに笑うなのはとアリサがいた。

「でも、良かったわね。もう半分切ったんでしょ?」

「うん。後八個だからね。頑張って終わらせるよ」

 なのはがグッと手を握る。それにアリサも手を握り、頷く。

「その意気よ!全部終わったら、お祝いしましょ。フェイトのママも一緒に、ね」

「そうだね!全快祝い、って言う事で」

「なら、場所はどこにする?」

 そんな二人の話が聞こえていたのか、すずかがそう話に入ってきた。
 だが、それを嫌がるなのは達ではない。むしろ、それに頭を捻りだした。
 それをぼんやりとした視界ながら、可愛いと思い、ライダーが助言を出す。

「いっそ、レストランというのもいいかもしれません。料理も出ますし、広さや椅子も貸切にすれば十分です」

 ただし多少高くつきますが。そのライダーの発言に、なのはが閃いたような顔をした。

「あ、じゃあ翠屋にしよう! お母さん達も参加出来るし、お金もそこまでかからないよ」

 なのはの言葉にアリサもすずかも笑顔で頷く。ライダーは、そんな三人を見つめて微笑む。

(本当にナノハは良い子です。フェイトが加わり、どうなるかと思っていましたが、彼女も良い子でした。スズカ達との関係も益々深めているようですね)

 こうすれば翠屋の名前を挙げるだろうと、ライダーは思い、先程の提案をした。
 月村邸やバニングス邸という選択肢もあったが、それよりもアットホームな雰囲気がある翠屋の方が適していると考えたのだ。
 フェイトの母親の話は、ランサーからある程度は聞いている。訳あってフェイトとは距離を置いているらしいが、それも病気のためだとランサーは言っていた。

(詳しい事情は分かりませんが、おそらくその人も辛いのでしょう)

 ライダーの想像はある意味正しかった。プレシアが、アリシアを思うが故にフェイトを遠ざけているのは、まさにそれ。
 だが、憎む気持ちはもう大分薄れ出していた。その要因となっているのは、アリシアとの約束だとは、流石に誰も知りえないのだが。
 もっとも、そんな事を知らないライダーは、娘と距離を置かなければならない、という一点について辛いだろうと思っている。

 そんなライダー達とは離れた位置で、フェイトは美由希達に家族の話をしていた。

「リニスさん、か。じゃ、フェイトちゃんにとってはお姉さんなんだ」

「はい。私に色んな事を教えてくれた優しい姉さんです」

「色んな事って、魔法も?」

「はい。家事なんかも少し教えてもらいました」

 嬉しそうに答えるフェイト。先程から話すリニスの話を、美由希や忍が聞いて感心したり、驚いたりしていた。それがリニスを誉めているからだろう。フェイトは自分が誉められているみたいに嬉しくなって、誇らしく語る。
 それを微笑ましく思いながら、美由希と忍は聞いている。自分達も妹がいる身だ。だからだろうか。リニスと呼ばれている女性に親近感を抱き、それを自慢げに話すフェイトに、なのはやすずかを重ね、笑みがこぼれる。

(なのはも、あたしの事、こんな風に話すのかな?)

(すすかも、こんな感じに思ってくれてるのかしら?)

 姉として思う事は同じ。だからこそ、フェイトの話は二人にとって、リニスと会ってみたいと思わせるには十分。
 こんなに思われている人なら、きっと良い人に違いない。同じ『姉』として、是非一度話をしたいと二人は思った。

 そして、そんな一同を湯船から眺めながらアルフが呟く。

「何かいいね、こういうの……」

 そんな賑やかで、そして穏やかな時間をしみじみ感じながら、アルフは思う。
 絶対全て上手くいく。そんな風に思えるように、流れが良い方向に向かっている、と……。


海鳴温泉だよ、全員集合! 中編




「では、行きましょうか」

「ああ」

「さ、アーチャーさん、行きましょう!」

「ファリン、浴衣が乱れる。あまり引っ張るな」

 嬉しそうにアーチャーの浴衣の袖を掴むファリン。それに微かに呆れながらも、ついていくアーチャー。
 そんな二人を見つめて、微笑むノエル。恭也もそんなファリンに笑みを浮かべる。
 四人も大浴場に向かう事にしたのだ。士郎と桃子は、しばらく二人で話をするとの事で、部屋に残っている。

 そんな風に話しながら四人が歩いていると、大浴場の入口でランサー達とばったり出くわした。
 疲れながらも笑みを見せるランサーと、いつもと変わらない表情の中に、微かに喜びを滲ませる小次郎。
 そして、何故かかなり濃い疲労の色を見せるユーノの姿があった。

「お、何だ。お前達もこれから風呂か」

「ええ。ランサーさん達もですか?」

「何分汗を掻いたのでな。それに、温泉に来たのに入らぬ訳にはいくまい?」

「そうですね。入らなきゃ損です!」

 そんな会話をしている恭也達を他所に、アーチャーとノエルはユーノへと視線を向ける。

「……何があった」

「あの二人……後少しで必殺技を使うところでした」

「それは……ユーノ様も大変でしたね」

「僕がいなかったら……どうなってたかと考えると……」

 そう呟いてユーノはガックリと肩を落とす。それに、アーチャーが黙って手を頭に置いた。
 ノエルも黙って、ユーノの肩に手を乗せる。その温かみが、ユーノに良く頑張ったと言っているようだった。



 恭也達がランサー達と出会った頃、部屋に残った士郎と桃子は、静かにお茶を飲みながら視線を窓の外へと向けていた。
 そこには、緑に覆われた山々と晴れ渡る青空が見える。

「……何だか不思議ね」

「……だな」

 桃子の呟くような言葉に、士郎はそう応じる。

「セイバーが家に来て、貴方が治って……」

「小次郎さんやライダーさん、アーチャーさん達と知り合い……」

「「ユーノ君となのはが出会った……」」

 そう言いあって、二人は笑う。そう、全てはあの日。セイバーが高町家に来た時から始まったのだ。
 人の縁は奇跡の巡り合わせだと、二人は考える。それに、文字通りセイバーとの出会いは”奇跡”だったのだから。

 それからしばらく、士郎も桃子も何も言わなかった。会話せずとも、互いの想いは伝わっている。
 もう、何度考えただろう。もしなのはが、セイバーと出会わなかったら、と。その度に、頭を過ぎるのはなのはの孤独な姿。
 そして、その心に気付いてやれぬまま、過ごしてしまう自分達。今でもゾッとするのだ。あの夜、セイバーが告げた言葉を。

―――もし、なのはが家族を思い、自身の気持ちを押し殺すなら、きっといつか、それを貴方達が後悔する日がきます。

 それを士郎も桃子も今になって実感していた。もし、なのはが魔法と出会った事を黙って、ユーノと二人でジュエルシードを回収しようとしていたら、どうなっていたか。
 最悪、なのははたった一人で戦う事になっていたかもしれないのだ。誰にも話さず、話せず、一人で恐ろしい事件に飛び込んでいく。

 そんな『ありえない状況』を考え、士郎は首を振る。そんな事を考えても仕方ないと。
 それは桃子も同じだったようで、見れば軽く頬を叩いている。そして、桃子も士郎の行動を見ていたようで、互いに苦笑しあう。

「今は感謝しよう。セイバーと出会えた事に」

「そうね。それと、ユーノ君にも出会えた事に」

 そう言い合い、二人は笑顔を浮かべる。暖かな日差しが、その横顔を照らす。それはまるで、二人の気持ちが天に伝わったかのようだった。



 一方、ノエルとファリンが加わった女湯は騒然としていた。
 原因ははやてが美由希の胸を触った事に端を発しているのだが……。

 その後、それに反撃した美由希。それを見ていた忍が面白がってライダーの胸を揉んだ後から、はやてが本領発揮。湯船を器用に泳ぐように移動し、油断していたアルフを触り、それに驚いたアルフを面白がったファリンまでそれに参加。
 それを見て、いそいそと離れ出すなのはとすずか。アリサもフェイトを守るように隅の方へと移動。
 セイバーとノエルは何とかそれを収めようとするが、逆に悪乗りした忍と自棄になったアルフが襲い掛かったのだ。

以下、その流れ

「美由希さん、キレイな肌しとるなぁ」

「そうかな?」

「ちょう触ってもええ?」

「別にいいよ」

「じゃ……ほれ」

「キャッ! はやてちゃん、胸を触るのはどうかな~?」

「ちょ、美由希さんくすぐったい!」

「……いいわね、あれ」

「……何やら嫌な予感が」

「ラ~イダ~~ッ!」

「な、シノブですかっ?!」


「おおっ、忍さんに負けてられんな。……てい!」

「キャン! ……何すんのさ!?」

「アルフさん可愛い~! あたしもやります~」

「な、ちょっと止めなってば!」

「……なのはちゃん、逃げよ」

「そうだね。……何か近くにいると危なさそうだもん」

「フェイト、アタシから離れるんじゃないわよ」

「あ、アリサ?」


「止めなさい。ハヤテもアルフも」

「ファリンと忍お嬢様もです」


「やられたままなんて嫌なんだよ! あんたもやられれば分かる……さっ!」

「そうよ! ノエルもされたら分かる、わ……よっ!」


「「ふぁっ?!」」



 そして、そんな光景を他人事のように眺めるはやて達。まぁ、はやては隙あらば触ろうと考えているらしく、手をどこか卑猥に動かしている。
 そんなはやての視界の先では、アルフと忍がセイバーとノエルの胸を揉みしだいている。それを見て、美由希とファリンも参加し、アルフと忍の胸を鷲掴みし出す。
 それに意気込んで参加しようとするはやてを、アリサが全力で止める。フェイトはオロオロしながら、助けを求める視線をなのはとすずかへ向けた。

 そんな中、忍から解放され、静かに離れたライダーがその様子を聞いて一言。

「混沌としてますね……」

 そのどこか疲れた呟きに、なのはとすずかがゆっくり頷いた。



 そんな女湯の喧騒を聞きながら、男性陣は実に静かだった。
 いや、静寂を装っているだけだ。水面下では、ランサーとアーチャーの激しい戦いが繰り広げられている。

「いいじゃね~か。俺だけが痛い目みるだけなんだからよ」

「直接的には、な。だが、貴様が覗く事を知りながら止めなかった時点で、我々も同罪にされる事を理解しろ」

 先程からこんなやりとりが何度交わされているか。そんな事を思いながら、ユーノは湯船に顔を沈めるが、その顔は赤い。
 何しろ、先程から女性陣の艶っぽい声が聞こえてくるのだ。忍にアルフ、美由希やファリン。特に本気で嫌がっているセイバーやノエルは、かなり大きな声で聞こえる。
 恭也は無言を貫いているが、顔が心なしか赤い。それがのぼせ始めているからとは、ユーノは思わない。

「……些か淑やかさには欠けるが、あれはあれで女子らしくて良い」

「れ、冷静ですね……」

「何、少々枯れておるだけよ」

「……俺も、小次郎さんのように達観出来れば」

 隣から聞こえる会話や声に、普段と変わらない表情の小次郎を、ユーノも恭也も尊敬の眼差しで見つめる。
 そんな三人とは離れた場所で、ランサーとアーチャーが湯船から出て、手拭いを腰に巻いた状態で睨み合っていた。

「どうしても止まる気はないのか」

「へっ……ここで行かなきゃ男が廃るだろ!」

「……最早、言葉では止まらんか」

 そう呟き、アーチャーの手に干将・莫耶が握られる。それに無言で槍を構えるランサー。
 見る者全てを威圧する気迫が両者から流れるが、忘れてはならない。彼らは、全裸の上に手拭い一枚でそれを行っているのだ。
 だからこそ、それを見てユーノと恭也は思う。

((お願いだから、せめて戦闘服でやってくれ(ください)……))

ちなみにそんな二人を止めたのは、遅れてやってきて、事情をユーノから聞いた士郎だった。娘と妻を持つ父は強し。




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ついに来た女風呂。辛くも何を逃れたなのは達ですが、代わりにセイバーとノエルが……。

ま、元が年齢制限有りのゲームという共通点もありますしね。……今回のお風呂での掛け合い表現はどうだったのでしょう?

見辛かったのなら今回限りとさせて頂きますので、もしよろしければご意見を下さい。

次でアニメ第五話終了。そして、いよいよ彼らとの接触が近付く……?



[21555] 1-5-2.5 幕間2
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/06 13:26
 旅館の大広間。食事も終わり、明日は帰るのみとなり、最後は皆で何か語ろうと士郎が言い出し、士郎や桃子達が今回の旅行の事を話す中、セイバーが真剣な面持ちで語りだした。
 それは、その場にいるサーヴァント組以外を驚かせる内容だった。それは―――。


英霊達の告白と迫り来る終局



「私には、隠していた本当の名があります」

 そうセイバーが切り出した時、場の空気がどよめいた。それは困惑と衝撃。困惑は高町家等のセイバーを良く知る者達。衝撃はその内容を知っているアーチャー達。
 全員の視線が集まる中、セイバーは告げる。

「私の本当の名は、アルトリア・ペンドラゴン。またの名をアーサー・ペンドラゴンとも言います」

「嘘っ?! アーサー王と同じ名前よ!」

 セイバーが語った名に、いち早く反応したのはアリサだった。アーサー王の名前だと、すぐに思い当たったからだ。
 その発言にセイバーは頷き、語り出す。選定の剣を抜いた日から、なのはに出会うまでの事を。
 聖杯戦争の事などのなのは達が耐えられない話は、多少ぼかしながら、セイバーは全てを話した。
 そして最後にこう締め括った。

「私がこの話をしようと思ったのは、なのは達の暖かさに応えたかったからです。今までどこかでシロウ達と比べ、どこか素直に受け入れられなかった気持ちに、きちんとけじめをつけようと思ったのです」

 その言葉を告げ、セイバーは微笑みを浮かべて高町家の面々を見つめていく。そして、最後になのはの目を見つめて言い切る。

「私を、高町家に迎えてくれてありがとう、なのは」

「う、うん。私こそ家に来てくれてありがとう、セイバー!」

 そう言ってなのはの視界が滲む。それを見て、セイバーも笑みを浮かべてゆっくり近付く。
 そして、なのはの目元を優しく拭い、小さく呟く。

―――なのは、貴方に会えて本当に良かった。



 そんなセイバーの告白を受け、ライダーも自らの事を話した。

「私の本当の名はメドゥーサ。石化の魔眼を持つ、蛇の女です」

 その自己紹介と内容に再び驚くなのは達。勿論、月村家の人間は別だった。
 だが、例外としてフェイトとアルフ、ユーノはその空気から完全に外れていた。何しろ、セイバー達は地球の英雄。従ってミッド出身の彼らにはそのすごさが分からないのだ。
 特にユーノは簡単な話(特技や必殺技)だけなら道場での会議で聞いていた。

 だが、それも関係ない話になっていく。ライダーに続いて話をした小次郎。その内容は、フェイト達さえ驚くものだった。

「私は、本来佐々木小次郎などと言う者ではない。名も無き武芸者に過ぎぬ」

 そんな始まり方だったのだ。それは下手をするとセイバーやライダーの比ではない衝撃度だ。
 そして語られる誕生の逸話。それにアルフが悲痛な表情を浮かべる。
 無理矢理呼び出され、駒として使われていたというところに、かつてのフェイトを思い出したからだ。

 そして、そんな小次郎の話に一番動揺したのは、アリサと美由希だった。

(嘘でしょ?! ……小次郎がそんな生まれだったなんて……)

(まったくの別人!? でも……ううん、そんな事は関係ない。小次郎さんは小次郎さんだから!)

 そんな二人の思いを他所に小次郎の話は終わり、アーチャーが語り出す。彼は「自分は、名も無き英雄でさえ無い男だが」と前置いて話し出す。
 九を救うため一を捨てた。それを決断しながら、その一を救えなかった事をいつまでも悔やみ続けた事を。
 そして、最後は救った相手に殺された事を包み隠さず話した。

 それに心乱したのは、ファリンとノエル。そしてはやての三人。

(アーチャーさんが殺された? ……そんな、嘘です! 優しいアーチャーさんが……そんな……。嘘、ですよね?)

(……あの悲しげな瞳は、それが原因だったのですね。ですが、誰もアーチャー様の事を”間違っている”とは言えないでしょう)

(どうして……どうしてそんな大切な事を黙っとったんや? わたしは、そんな事ぐらいじゃ、アーチャーの事嫌いになったりせ~へんわ!)

 とても一言では言い表せない想いを込めて、三人はアーチャーを見つめる。そんな視線には気付かず、アーチャーは語る。

「善行は確かに美徳だ。だが、打算無き善行ばかりをすると、いつしか有らぬ疑いを生む」

 そこで一度区切り、なのは達を見つめながら続ける。

「いいか? 人助けをするのに理由はいらん。しかし、他者のために己を犠牲にするのは程々にしろ。行き過ぎれば、私のようになる」

 そう言い切り、アーチャーは内心こう呟いた。

―――ま、今では私もそう出来んがね。

 視線を隣のはやてに向け、皮肉屋スマイルを見せる。それにムッとしながらも、はやても複雑な想いを押し込め、同じ笑みを浮かべる。

―――当然や。したくてもさせへんからな。

 そんな風に互いに笑みを見せ合う二人に、なのは達は困惑を浮かべる。
 ちなみに真名の話は、自分達のいた元いた世界の未来での英雄と言う事と「シロウと言う」とだけ言って誤魔化した。
 それに士郎が何かを感じ取ったか、笑いながら「同じ名前同士仲良くやろう」と酒を注ぐ一幕もあった。

 そうして最後になったランサーが語った話は、締め括りに適したモノだった。

「ま、フェイトとアルフには話した事もあるんだが……」

 ケルトの大英雄、クー・フーリン。その英雄と呼ぶに相応しい話の数々。特に、たった一人で国を守るために戦い続けた話には、ユーノだけでなく、恭也や士郎でさえ息を呑んで聞き入った。
 その話には、悲しい場面もあり、フェイト達も驚きを見せた。そう、その場面をランサーはフェイト達に隠して話していたのだ。
 息子を、自分の親友を己の手で殺す。そんな話をあの頃のフェイトには聞かせられなかったから。
 だが、今のフェイトは違う。あれから心身ともに強くなり、今は大切な友人もいる。だからこそ、ランサーも話したのだ。
 自分のようにはなってくれるなと。そんな思いを込めて。

 全てを語り終え、ランサーが息を吐くとその場に静寂が訪れた。
 涙を流し、セイバーに抱きつくなのは。美由希は恭也と共に、本当の戦場の非情さと戦士の生き様に感銘と敬意を抱き、桃子は士郎へ悲しげな視線を送る。それに士郎は小さく頷き、桃子を優しく抱き寄せた。
 なのはと同じようにライダーに寄り添い、涙するすずかとファリン。ノエルと忍は涙さえないもの、その瞳はかなり潤んでいる。
 アリサは小次郎に隠れるように泣いており、はやても涙を浮かべてアーチャーにしがみついていた。
 フェイトはアルフと共に、ランサーへ非難の視線。どうして話してくれなかったのか。そう問い詰める視線に、ランサーは困り顔。何しろフェイトもアルフも泣く寸前の表情なのだ。
 故に何も言う事が出来ず、ランサーはただ黙って手を合わせて許しを請うしかなかった。



 セイバー達の話の余韻が消え、やっと全員にいつもの雰囲気が戻り始めたところで、やや湿っぽくなった空気を振り払うようにアリサがある提案を持ちかける。
 それは、今年の夏にこのメンバーでバカンスに行こうというもの。美味しい食事や綺麗な景色を楽しむ旅行。
 勿論、その意見に反対するものはなく、フェイトには「フェイトのママとリニスさんもね」とウィンク混じりに告げるアリサ。
 それにフェイトが感極まって泣き出し、子供達が慌てる光景を見て、大人達に微笑みが浮かぶ。

「本当にもう大丈夫だから」

「ならいいけど……」

「仕方ないよアリサちゃん。フェイトちゃんはお母さんが大好きなんだから」

 まだ心配そうなアリサに、苦笑混じりにすずかが告げる。それに同じような笑みを浮かべてなのはが続く。

「そうそう。後、リニスさんもだよね」

「ほんま、はよ治るとええな」

「ジュエルシードは不安定な面もあるからね。慎重に行かないと」

 フェイトを囲んで話し合うなのは達。それを眺め、神妙な表情のランサーとアーチャー。
 それに気付かず、セイバーはライダーにアリサの話に該当する場所を尋ねている。
 だが、当然それをライダーが知るはずもなく、アリサのサーヴァントである小次郎へその話を振っていた。

「……全て集めた時、話すという事でいいか」

「……ああ。槍に誓ってもいい」

「ならばいい。ただし……」

「分かってる。……万一の時は頼んでいいか?」

「……気にするな。はやての大切な友人のフェイトのためだ」

―――すまねぇ。

―――何、お互い様さ。

 そう言い合って、二人はフェイトの顔を見つめる。その表情は、歳相応の笑顔だった。



 次元航行艦アースラ。その一角にある艦長室。そこにある畳に座り、リンディはある資料へ目を落としていた。

「発見者のユーノ・スクライア君、か」

 それは、次元震に巻き込まれた輸送船に乗り込んでいた人間のリスト。その中で唯一消息不明なのが、ユーノだった。
 救助された乗組員の話によれば、彼は自ら次元空間に飛び込んでいったとの事。おそらくロストロギアである『ジュエルシード』を追って行ったのだと、リンディは予想していた。
 現在、彼がどこにいるのかは依然として掴めていない。だが、リンディには心当たりが一つだけあった。それは―――。

「第九十七管理外世界……」

 そう、地球だった。未だに付近の管理世界で何の情報も得られない以上、残る場所はそこしかない。
 しかし、管理外を調査するには、上の許可がいる。そして、それが中々通らないのもリンディは良く知っている。
 明確な根拠や次元世界の危機等であれば、上層部も許可を出すが、今回のように行方不明者の捜索だけでは厳しいのだ。

(何とかすぐ許可が下りるような……そう、キッカケがあればいいのだけれど)

 そう考えてリンディは頭を振った。何を馬鹿な事をと思ったからだ。それでは、何か事件が起きてくれるのを待っているみたいではないかと。
 それに、許可が中々下りないだけで、時間さえ掛ければいずれ許可は下りる。そう自分に言い聞かせ、リンディは呟く。

―――このまま、何もなければいいのだけれど……。



 時の庭園。そこにあるプレシアの部屋。ベッドで横たわるプレシアの横で、機械を操作するリニス。
 すると、何かが反応を示す。それは、地球に近い次元空間にいる管理局の次元航行艦に、動きがあったと言うもの。

「……いつもの調査活動ですか」

 安堵し、モニターから視線を移すリニス。プレシアは静かに眠っている。だが、その体が病魔に蝕まれ、余命幾ばくもない事をリニスは知っている。
 ランサーのルーンの加護により、本当ならありえない程の生命力を保っているが、それもそろそろ限界が近い。それ故、リニスとランサーは焦っている。
 アルフには詳しい事をあまり知らせていない。それは、どこでフェイトに知られるか分からないからだ。本人もそれを危惧し、進んでリニスの考えに従い、行動している。

「……プレシアだけでなく、アリシアの体も長くは持ちません。ランサー、出来るだけ早くしてください」

 誰に聞かせるでもなく、リニスは祈るようにそう呟く。


ジュエルシードが全部揃うまで、残りあと七つ。




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幕間その2。これも本編に絡む大事な話になりました。

完全な番外編は、無印とA'sの間や無印前の話でないと無理かも……。

英霊達の告白にしては短い話でしたが、どうだったでしょうか?

それぞれの詳しい話が知りたい方は、Fate本編を是非プレイしてください。



[21555] 1-5-3 無印五話 後編
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/10/06 07:48
 大浴場の騒動も士郎と桃子の参加で終わり、男性陣も女性陣もそれぞれがどこか疲れた顔をして歩いていた。
 まぁ、例外として小次郎とはやてだけは上機嫌だったのだが。

 そんなこんなの温泉旅行だが、何も騒ぐ事ばかりではない。夕食を終え、夜の闇が色を濃くし出すと、まず恭也と忍が二人で消えた。
 それを見て、美由希が小次郎を夜の散歩に誘い、アルフも負けじとランサーを誘う。
 小次郎もランサーも二人の誘いを快く承諾し、それを見ていたファリンが意気込んでアーチャーに声を掛けようとして、言葉を失う。

「少しお話があるのですが、いいでしょうか?」

「構わんさ。何だね?」

「ここでは何ですので……」

「……分かった」

 予想外に、ノエルがアーチャーと連れ立って大広間を出て行ったのだ。それを呆然と見送るファリン。
 そんな彼女を微笑ましく見つめる士郎と桃子。なのは達は食事が終わると六人で外へ出て行った。夜の散歩と星を見るのだと言って。

「ファリンちゃん、追いかけたら?」

「っ!? ……はい!」

 桃子の言葉にファリンが動き出す。おそらくノエルの話は、ファリンが想像しているようなものではないと、二人は予想している。
 だからこそ、ファリンをけしかけた桃子に士郎は何も言わない。ただ、少しだけ苦笑は浮かべていたが。
 そして、それを見ていたライダーは隣で満足そうにしているセイバーにこう呟いた。

「モモコは、どこかタイガと同じ匂いがします」

「……否定はしません」

「それにしても……」

「何です?」

「相変わらず良く食べますね」

 そう。セイバーは一人でお櫃一つを平らげた。それにフェイトが驚いていたのは言うまでもない。

「いいではないですか。……と、そろそろ行きましょう」

「スズカ達の所にですか?」

「一応、念のためです」

 セイバーの言葉にライダーは笑みを浮かべ、立ち上がる。それに続くようにセイバーも立ち上がり―――。

「「邪魔にならないように、ですが(ね)」」

 そう言い合って笑う二人を、士郎と桃子は笑顔で見つめていた。



海鳴温泉だよ、全員集合! 後編




 月の光と星の輝き。それと僅かな照明の明かりだけを頼りに、なのは達は歩く。
 先頭はユーノ。その両隣にアリサとなのは。フェイトはすずかと共にはやての車椅子を押している。
 ユーノは地球での星の読み方を話していた。それは、発掘や遭難した際の位置を知る方法の一つとして、古来からある知識。
 昔ミッドチルダで習得したものと同じように、地球の星読みもある事を知り、何かの役に立つかと思って覚えたからだ。

「で、あの北極星を基点に、位置を把握するんだ」

「ホント、色々知ってるわね」

「ユーノ君って博学だよね~」

「そ、そんな。ただ、興味があって覚えただけだよ」

 感心するアリサとなのは。その視線に照れるユーノ。後ろで聞いていたフェイト達もそれに同意するように頷いている。
 そして、ユーノの話は星から星座、それにまつわる逸話へ移る。その、時に悲しく時に美しい内容に、なのは達は聞き入る。
 ユーノはそんななのは達に「僕も、調べていく内に惹き込まれていったよ」と笑みを浮かべて告げた。

 そんな話をしながら、六人は歩く。見上げれば満天の星空。淡く月が輝く中、夜の闇と星の光が彩る世界。
 普段では感じる事のない幻想的とも言える光景。それが少女達の心に何かを刻む。

 それぞれが抱く思い。それは違う形だけれど、願いは同じ。

(いつか、またみんなで来たいな。……うん、絶対)

(何て言うのかしら? こう、一生の思い出でいいのよね、この場合。もっと増やしていきたいな、こういうの)

(キレイな空……。いつもとは違う感じがする。また来年も……みんなで来れたらいいな)

(旅行なんて始めてやけど、やっぱ楽しいな。……はよ足治して、今度は自分の足で歩くんや。みんなと一緒に)

(今まで夜空なんて意識しなかったけど、こんなにキレイだったんだ……。きっと、友達と一緒だから、だよね)

(ミッドも地球もどこでも、星空は同じなんだな。だけど、きっとこの光景は今だけのものだ。なのは達と見るこの星空は……)

 夜空を見上げ、六人はそう思う。自然と表情も穏やかになり、笑みが浮かぶ。そして、互いにそれに気付き、顔を見合わせ微笑み合う。

「必ずまた来ようね!」

 なのはのその言葉に、五人は笑顔で頷くのだった……。



「……ね、恭也」

「何だ?」

「私達の一族の話、覚えてる?」

 忍の言葉に、恭也は無言で頷く。夜の一族。その事は忍から既に聞いている。それがキッカケで、恭也は忍と付き合っているのだから。

「すずかがね、そろそろなのはちゃん達に話そうと思ってるらしくて」

「……そうか」

「うん。前々から考えてたみたいなんだけど、なのはちゃんが魔法の話をしたでしょ? あれが決心させたみたい」

 忍の発言に恭也も納得する。すずかは優しく素直な子だ。故に、なのはが包み隠さず話した事は大きな後押しになったのだろう。
 自分だけ隠し事をしているのは、きっと気が引けたのだ。それなら、その話をしようと思っても無理はない。そう恭也は思った。

「でも、ちょっと問題があって……」

「? なのは達なら受け入れると思うが……?」

「違うの。そこじゃなくってね。その……」

 言いよどむ忍。それを不思議そうに見つめる恭也。忍は少し考え、恭也に一度視線を向けて「ホントに分からない?」と尋ねた。
 それに真顔で頷く恭也を見て、忍が「……鈍感」と呟いた。

「いい? なのはちゃん達だけなら問題ないの。問題は、ユーノ君」

「……そういう事か」

 そこで恭也も納得がいった。夜の一族の秘密を打ち明ける事は、ある意味の契約でもある。
 同性のなのは達ならさして問題ではないが、異性であるユーノだけは話が別だった。

「そ。すずかの性格からして、彼だけ打ち明けないなんてありえない。だけど……」

「打ち明ければ、ユーノを伴侶にせざるを得ない、か」

「……まぁ、別に強制って訳じゃないけど、ね」

―――それを強く意識してる時点で、すずかも満更でもないでしょうし。

 そんな忍の呟きは、既に思考を巡らせ始めた恭也には届く事無く、夜の闇へと消えていくのであった。



 夜風が髪を揺らし、それを心地良いと感じながら美由希は小次郎と歩いていた。
 先程から会話はない。だが、不思議とそれを美由希は嬉しく思っていた。

(何だろな。……こういうの、結構好きかも)

 ちらりと視線を横にやれば、小次郎もまた美由希を見ていたようで視線が合う。
 それに若干気恥ずかしくなりながらも、美由希は笑みを浮かべてみた。それに小次郎も笑みを浮かべ返す。
 トクン、と美由希の鼓動が速くなる。それと共に顔の辺りが熱くなる。出来るだけ自然を装いながら、美由希は顔を背ける。

(あ~、どうしよ。絶対、顔真っ赤だ、これ)

 そんなうろたえる美由希に、小次郎は不思議顔。すると美由希が眼鏡を外し、息を吐いて顔を押さえ始めた。
 それを見て、小次郎は前々から感じていた疑問を尋ねてみる事にした。

「美由希殿」

「へっ?! あ、ええっと……何ですか?」

「何故眼鏡を掛けておるのだ?」

 見えていない訳ではなかろう。そう言われ、美由希はどこか納得したように笑う。
 これは、切り替えみたいなものなんですよ。そう答えて美由希は語る。眼鏡を外す時は、基本御神の剣士としての自分なのだと。
 その切り替えを自分でつける意味合いも込めて眼鏡を掛けているのだ、と。

(なるほどな。美由希殿もやはり現代の剣士であるが故に、自らけじめをつけているか。……古き私にはなきものよ)

 それを聞き、小次郎は納得したように頷く。そして、眼鏡を掛け直す美由希を見て、何気なく告げる。

―――しかし、掛けぬ方が美しいと思うのだが……?

 その一言が、美由希の顔を茹蛸のようにしたのは、言うまでもない。



 散歩中に見つけた池の近くの芝生。そこに座って、ランサーとアルフはぼんやりと景色を眺める。

「……いいよね、こんなのも」

「……そうだな。悪くねぇ」

 二人の視線の先には、水面に映る月影一つ。その儚さが、どこか今の時間を表している気がして、アルフは視線をランサーへ向ける。
 その目に、強い決意を灯して。

「ねえ、ランサー」

「ん?」

「あたしって、さ……良い女かな?」

「当たり前だろ」

 アルフの問いかけに、ランサーは躊躇う事無く笑って言い切る。それに何かを決意したのか、アルフは真剣な眼差しでランサーを見つめ―――。

「リニスよりも?」

 尋ねた。踏み出そうとした一歩。それは仲間じゃなく、『女』としての第一歩。
 どこか不安そうな表情のアルフ。それを感じ取り、ランサーは先程までの笑みを消し、真摯な雰囲気を漂わす。

「リニスよりも、なんて言えねぇ」

 その言葉に、アルフは小さく「……そうだよね」と呟く。だが、ランサーはそのままこう言い切った。

「お前はお前だからな。リニスと比べてどうすんだよ。どっちも違う部類の良い女だ」

―――だから、んな顔すんな。

 そう言って、ランサーはアルフの方へ向かって笑みを見せる。それは人懐っこい笑顔。
 リニスもアルフも好きな、ランサーの心からの笑み。それにアルフは心から嬉しそうに、ランサーへ抱きつく。
 それに若干驚きながらも、ランサーも笑って受け止める。その逞しい胸に顔を埋めながら、アルフは思う。

(ごめんよリニス。でも、アタシだって本気なんだ。ランサーは、渡さないからね!)

(一体何がどうなってんだ? ……ま、いいか。本当にツイてやがるぜ、今回は。ん……?)

 そんな風にランサーが笑った時、視界のどこかで何かが光った気がした。
 それが妙に気になり、ランサーはアルフを優しくひき放し、その光ったものを探しに池に近付く。
 すると、そこには池に沈んだジュエルシードがあった。

「おいアルフ。フェイトを呼んでくれ」

「……どうしたっていうんだい?」

「ジュエルシードがあったんだよ」

 こうして、アルフの甘い時間は脆くも崩れ去った。ちなみに、この事をアルフから告げられたリニスが、複雑そうな思いでランサーを見つめたのは本人だけの秘密。



 ランサー達の場所で、ジュエルシ-ドが発見された頃、アーチャーはノエルと自身が割り当てられた部屋にいた。
 部屋割りは、男性陣が士郎・恭也・ユーノでまず一つ。ランサー・アーチャー・小次郎で一つ。
 女性陣が桃子・美由希・忍・セイバーで一つ。ライダー・ノエル・ファリン・アルフで一つ。最後になのは達五人で一つとなっている。

「で、話と言うのは」

「……薄々勘付いておられるとは思いますが、私とファリンの事です」

 ノエルの言葉に、アーチャーは小さく息を吐き、尋ねる。

「何故今になって……」

「すずかお嬢様の決意を聞いたからです」

 ノエルは語る。自分の事を親友達に隠して生きるのは辛い。嫌われてもいい。この旅行が終わったら、本当の自分を知ってもらいたいんだ。
 そうすずかは旅行前にノエル達に宣言した。それを聞き、自分も世話になっているアーチャーに、己の事を隠している事が嫌になったのだと。
 だからこそ、この旅行中に全てを話しておきたい。そう思ったのだ、と。

「……そうか。では、君達は……」

「はい。自動人形と呼ばれる存在です」

 ノエルの話に、アーチャーは驚きを見せなかった。既に夜の一族の話自体は忍から聞きだしている。その身に纏う雰囲気が、記憶の中にある使徒や真祖に近かったからだ。絶対に話さないと誓わされたりもした(その時の雰囲気は、あかいあくまばりだった)
 だから、ノエル達の事も当然聞いていた。しかし、驚かないのはそれだけが理由ではない。
 ノエル達がどんな存在だろうとも、彼女達がすずか達をどれだけ愛し、また家族として暮らしているかを知っていたから。
 その心が作り物などではなく、紛れもない本物だと感じていたから。故にその話を聞いても、アーチャーには別に驚くべきものはなかったのだ。

「……以上が、私達の話です」

「……この事を忍は知っているのか?」

「はい。許可は頂きました」

「そうか……」

 そう言って、アーチャーは息を吐き、告げる。

「そろそろ時間も遅くなってきた。風呂にでも行こうと思うが、君はどうする?」

「……いいのですか?」

「それが何を指しているかは知らんが、一つだけ言っておく。私は、君達姉妹がどんな存在だろうが構わん」

 アーチャーの言葉にノエルの表情が変わる。それは驚き。それを無視し、アーチャーは言い切った。

「ただ、はやて達の幸せを邪魔するのでなければそれでいい。……それに、君達は教え子でもある。情が無い訳ではないからな」

―――つまり、そういう事だ。

 そう言って、アーチャーは立ち上がり、背中を向ける。そんな行動にノエルは静かに笑みを浮かべる。
 それをこっそり覗いていたファリンは、涙を浮かべて笑顔を見せる。

(良かった。アーチャーさんに嫌われなくて、本当に良かったっ!!)

 だが、この後ファリンは二人に見つかり軽く説教される。しかし、その雰囲気がどこか優しかったのは言うまでもない。



 一方、ジュエルシードを回収し、笑顔のなのは達。それを後ろから見守り、微笑むセイバーとライダー。
 その思いは奇しくも同じ。この笑顔がずっと続きますように。その願いを二人は心から祈る。

「……セイバー」

「何です?」

 するとライダーが足を止め、セイバーに声を掛けた。それに不思議そうに振り返り、セイバーも足を止める。

「馬鹿な話だと私自身思います。ですが、敢えて聞きます。……サクラ達とスズカ達を会わせたいと思った事はありませんか」

「……そう、ですね。ない、と言えば嘘になります。きっとそれが叶うなら楽しいでしょう」

 そう答え、セイバーは空を見上げる。そこには満天の星空がある。ライダーもそれにつられるように見上げ、呟く。

―――この星空を、サクラ達も見ているでしょうか?

―――私達がそう思うなら、そうなのかもしれません。

 その呟きに答えるセイバーの声は、どこか懐かしむ響きがあった……。



 楽しかった旅行も、あっという間に終わりを向かえ、宿を引き払う士郎達。
 それを眺め、セイバーがライダー達にある提案をした。それを、苦笑しながらも了承する四人。

「さ、ミユキ。お願いします」

「は~い。じゃ、撮りますね。はいチーズ」

 旅館をバックに、微笑むセイバー。それとは対照的に無表情のアーチャー。ライダーはどこか笑みを浮かべ、小次郎は普段の顔。ランサーは面白そうに笑顔を浮かべ、Vサインまでしている。
 このサーヴァント達の写真は、それから始まるセイバーのアルバムの最初を飾る事になる。そして、それを見ていたなのは達も参加し、撮られた写真がその下に飾られる。


そこにはセイバーの字で、”かけがえのない友達と、愛しい家族と共に”と書かれる事となる……。





「おっかしいな~」

「何がおかしいんだ、エイミィ」

 オペレーターにして、自身の補佐官を務める女性。エイミィ・リミエッタの声に、クロノはその手を止める。
 現在、次元航行艦アースラは、行方不明の少年と次元震の原因を突き止めるべく調査中なのだが……。

「いやさ、輸送船が破壊される程のレベルにしては、色々妙なんだよね」

「だから何が言いたい」

「次元震じゃないんじゃないかな、これ」

 エイミィはそう言って、モニターに様々なデータを表示していく。それは過去の次元震のデータと今回のものとの比較だった。
 確かに似ているが、どこか違う。ぱっと見ただけでもそう見えるデータに、クロノが尋ねる。

「なら、君はどう思っている」

「……原因は分からないし、あくまで勘だよ? これ、人為的な何かが原因だと思う」

「……次元震を作為的に起こした者がいると?」

「ううん。多分だけど、そんな意図はなかったんじゃないかな? これ見て」

 エイミィが操作して表示されたデータは、この次元空間から近い管理世界のものだった。そこには、信じられない程の魔力反応が表示されている。

「……これは?」

「次元震が起こったのと、ほぼ同じ時間の近くの管理世界のデータ。これが原因じゃないかなと思うんだけど……」

 でも、何の根拠もないし、ね。そうエイミィは苦笑い。だがその目は、これが絶対関わっていると信じている目だ。
 クロノもそれを感じ、そのデータに目をじっくり通す。

「……丁度その世界で、局員が事件担当していたのか。名前は……」

―――クイント・ナカジマ、か。


静かに、またどこかで運命の輪が動き出していた。その輪が、なのは達と噛み合うのは、まだ十年近い時間が必要だった。




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第十四話。やっとアニメ第五話終了です。

序章での次元震。あれが、実はとある方の仕業だったりします。

それと管理局がなのは達と出会うには、まだ若干時間がいりそうです。

具体的には、後アニメ一話~二話分。

……いつかStrikers組のちゃんとした出会い話も書かなきゃ……。



[21555] ?-?(いつか辿り着きたい場所)
Name: MRZ◆a32b15e6 E-MAIL ID:c440fc23
Date: 2010/09/12 14:55
予告と言う名のネタ。いつものように時系列がバラバラです。

あくまで現時点での構想であり、展開や感想によって変わる事もあるのでご注意ください。

後、ネタばれと言う解釈もできますので、撤退するなら今の内です。

 


 




いいですね?責任はとりませんよ?


それではどうぞ!!


 


未来予告









 雪原に佇む巨人と、それを見上げる少女。周囲には争った形跡が残っていたが、一部だけ綺麗な雪が積もっている。
そこは、先程まで少女のいた場所。

「バーサーカーは、強いんだね」

 少女の言葉に、巨人は無言を貫く。だが、その内心は揺れに揺れていた。なぜならその言葉は―――。

(かの少女と同じ言葉を……)

 何から何までが、あの記憶と被る。違いと言えば、理性が僅かにではあるが戻っている事。

「でも、いたずらに命を奪っちゃダメ。狼だって必死に生きてるんだから」

 そして、とても優しい考えの持ち主である事。だが、とバーサーカーは思う。

(イリヤも、環境さえ違えばこう言う娘だった)

 だからこそ、目の前の少女を守ろう。あの時感じた無念を繰り返さぬように。あの刻の想いを少女にさせぬために!
雪が静かに降る中、巨人と少女はただ見つめ合っていた。不思議な絆を感じながら……。



「あの男をあまり信頼してはダメよ」

 そんな女性の言葉に、少女は歩みを止めた。
振り返ったその顔には、どうして?と言う色がありありと浮かんでいる。

「あれは、自分の事しか考えない人間よ。だから、貴方の母親の話も嘘かホントかわからない」

「それでも、ドクターのお手伝いをしなきゃ」

「それはわかるわ。だけど、覚えておいて」

 女性はそう言うと、自分の視線を少女の視線に合わせる。普段は見えない優しい顔立ちが、少女の瞳に映りこむ。

「私は、貴方の事が最優先。貴方だけでなくお母さんも守ってみせる。だから―――」

「わかってる。私の一番の味方は、キャスター達だから」

 そう答える少女に、キャスターは母の如き笑みを返す。無表情に見えるが、今確かに少女は笑ってくれた。それがキャスターにはこの上ない喜び。失ってしまったモノを、忘れてしまったモノを取り戻させてくれる天使の福音なのだから。

 少女の手を取り、キャスターは歩く。母性を仕舞い込み、再び『魔女』の顔に戻す。全てを嘲笑う事が可能な雰囲気が漂うが、握られている手からは、和んでしまう温もりがある。二人は歩く。その姿は、仲の良い母子の様に寄り添っていた……。



「明日からアタシも局員、か」

「今更何言ってんだ?あんだけなりたがってたクセによ」

 空を眺めて呟く少女に、どこからか声がする。その声に、少女はため息混じりに影を踏む。

「うっさい。……色々と思う事があんのよ」

 センチメンタルってか、と馬鹿にするような声を無視し、少女は再び空を見上げる。

 憧れた空。だが、自分には適正がない。それがわかった今、空は憧れであるのと同時に。

「なんで、飛べないのよ……」

 自分の才能の無さを思い知らされる要素となった。相方を務める少女は、飛べないまでも空を駆ける事が出来る。おまけに、大っぴらには出来ないが、秘密の切り札もある。
 だが、自分にはそんなモノはない。レアスキルも、空戦適正も、人に誇れるモノがない。

「それでも、アタシは証明しなきゃいけないんだ……っ!」

「ランスターの銃は、何にも負けないってか?」

「そうよ!」

 悲鳴のような叫び。その声に、ふざけていた声も黙った―――のだが。

「何を考えてるか知らねぇが、それを誰が喜ぶんだ」

 いつになくからかうように、声は続ける。それは少女を馬鹿にしたり、からかったりするモノではあった。しかし、その中には確かに少女を諭す様なモノが見え隠れしていた。
 生憎、それに少女が気付く事はなかったが、普段のやり取りが張り詰めていたモノを静めていく。
口では勝てないと、少女が改めて認識するのと同時に、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら、相方が心配して捜しているようだ。

「ま、今日はここまでだな」

「そうね。さすがに気付かれるとマズイし」

 声と意見が合うのはこういう時ぐらいだな、と少女は思ってため息一つ。見れば相方の少女が、手を振ってこちらに駆けてくる。
それに応じ、手を振り返す。その時、確かに声が言った。

「才能がない奴なんていねえ。才能に気付かない奴がいるだけさ」

 初めて聞く優しい声に少女は驚くも、既に彼女が近付いてきたので、結局何も言えず終いだった。だが、少女の心にこの時の言葉はいつまでも残り続ける。来るべき結末を、変えるように……。



 その日、珍しく男はご機嫌だった。気難しい事で知られる彼だったが、この日は本当に機嫌が良かった。
…………彼女達と遊んでいた(本人はその自覚なし)までは。

「ギル~、悪いけど買い物頼める?」

「我に行けと?身の程を知れ、クイント」

 裂帛の気迫で答える僕らの英雄王だったが、その背には二人の少女が乗っかっていた。その対比に笑みを浮かべるクイントだが、手にした買い物籠を突きつけると、背に乗る娘達にこう言った。

「二人共、ギルがお菓子買ってくれるわよ」

『ホント~!?』

 瞳を輝かせ、立ち上がる姉妹。背にかかっていた重みが増した事に、微かにうめき声を漏らす英雄王だが、それでも、どけ!と言わない辺り、子供には甘いと言える。

「て訳でよろしく」

「おのれぇ~、覚えていろ」

 ちゃっかり買い物籠を手に持たせ、クイントはキッチンへと戻っていく。その後姿を睨みつける事しか出来ない英雄王。そして、そんな彼を無視して、姉妹はお出かけ準備を始めていた。

 英雄王、ギルガメッシュ。全ての財を手にした英雄は、両の手に幼い少女の手を握り、近くのスーパーへと歩き出す。

「ギルお兄ちゃん。おかしいくつ買っていい?」

「ギルお兄さん。いくらまでなら買ってくれる?」

 嬉しそうに問いかける姉妹に、ギルは視線も合わせず言い切った。

「ふん!ならば店ごと買ってくれるわ。お前達、好きな物を選ぶがよい」

 この発言の通り、彼は店を買い取ってしまい、クイントに大いに怒られる事となる。





―――はずだったのだが。



「ダメだよギルお兄ちゃん」

「うん。皆が迷惑するし、母さんも怒るよ」

 二人の少女によって、それは回避された。ギルガメッシュはなんだかんだでクイントが苦手である。自分を叱りつけてくる存在など、これまでいなかったからだ。母は強しとは誰が言ったか。さしもの英雄王も、母の愛には勝てないようだ。

「それに、おかしはたまに食べるからおいしいんだよ」

「たくさん食べたら虫歯になっちゃう」

 二人の言葉に、ギルガメッシュは不服そうではあるが、渋々買取を諦めた。そんな彼の手を、二人は強く握り直す。
そして、満面の笑顔でこう言った。

『でも、ありがとう!ギルお兄ちゃん(さん)』

 その言葉に、ギルガメッシュは満足そうに頷き笑い出す。その高笑いを聞きながら、二人もまた笑う。


今日もミッドは平和です。





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やってしまった……。その一言に尽きるこの一発ネタ。

つい、キャスター達を動かしてみただけでこの有様です。

本筋が無印にさえ突入してないのに……。

上にも書きましたが、変更(なるべくしないつもりではあります)の可能性もあります。何卒ご理解ご容赦の程を。


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