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[18634] 拝啓・オリヴィエ様、ユウナはちゃんと生きてます。(オリ主・Asはじめました)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:d7d4511b
Date: 2010/09/21 08:28
  初めての方ははじめまして。【チラシの裏】で読んで下さった方はこんにちわ。どーも、夕凪です。


 この度、【チラシの裏】から引っ越してきました。

 いろいろ至らないところもありますが、よろしくお願いします。


 現在、無印は完結、A's編はじまりました。

 では、以下注意事項。


・これは「魔法少女リリカルなのは」のオリ主ものです。

・キャラの性格が若干(?)変わってきているようです。

・昔のベルカ設定がオリジナルで補填、または改竄されている可能性があります。


≪要注意≫

・原作の白なのはさんが好きな方は読まない方がいいかもしれません。違和感が強すぎです。黒なのはさんでも良い方はどうぞ。

・ポンコツ注意報発令中?


 できるだけ早く更新するので、感想・ご指摘・アドバイスをお願いします(ぺこり

 完結目指してがんばります!



 *投稿開始 2010.05.06

  無印修正省略

  タイトル変更【誓いの騎士】→【拝啓・オリヴィエ様、ユウナはちゃんと生きてます】 2010.05.31

  無印完結 2010.06.01
  人物紹介(~無印編)投稿 2010.06.02
  魔法&アイテム紹介(~無印編)投稿 2010.06.07

  文章修正 第二十話 2010.06.08
  改行修正 第十四話 2010.06.09

  タイトルから旧題を削除 2010.06.09

  文章修正 第二十一話 2010.06.09
  誤字、文章修正 第二十二話 2010.06.11

  十八話より、「なのはメインの回」のタイトルに(N)を付与 2010.06.17

  改行修正 第二十三話 2010.06.17
  文章修正 第二十四話 2010.06.21
  設定修正 魔法&アイテム紹介(~無印編) 2010.06.22
  誤字修正 第二十五話 2010.06.28
  誤字修正 第二十六話 2010.06.28
 
  【チラシの裏】から【とらハ板】に引っ越し 2010.06.28
  
  誤字修正 第二十六話 2010.08.12

  【チラシの裏から】をタイトルから削除 2010.08.14

  文章修正 第二十八話 2010.08.21
  あとがき2追加 第三十話 2010.09.01
  第三十話の前に挿入話追加 2010.09.01

  A's編スタート 2010.09.01

  誤字修正 第三十二話 2010.09.21



[18634] 序章
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:27b1e682
Date: 2010/05/11 13:02



 気づいた時には、すでにオレはそこにいた。


 ゼーゲブレヒト家において、オレは家族ではなく汚点。
 妾の子として産まれ、生涯に他に子を成さなかったという父のただ一人の息子。

 だから、だろう。

 その家にオレの居場所はなかった。

 母を亡くし、父を亡くし、ゼーゲブレヒトの家に組み込まれたオレは蔑まれた。

 妾の子。

 それも、敵国の人間の。


 後見人のいないオレはゼーゲブレヒトを名乗ることを禁じられ、小間使いのように働かされ、騎士となるよう教育された。

 オレは生きるため、〔居場所〕を求めて力を求めた。

 だが、いつになってもゼーゲブレヒトの人間はオレを認めてくれない。


 ―――何故、あいつが


 そう呟かれ、嫉妬の炎を燃やされる。
 オレが強くなるほど、妬まれる。

 オレの居場所は、なかった。


 そんな時、オレは彼女に出逢った。


 オレを疎んだゼーゲブレヒトの人間が、利用価値の薄い彼女の騎士にオレを任命した。
 自分たちから遠くにやるために。

 ゼーゲブレヒトの末娘、オリヴィエと共に。

 彼女はオレを兄として慕ってくれた。
 初めてだった。

 あの家でオレを家族と呼んでくれたのは。
 居場所をくれたのは。



「なのにっ!!」



 オレはキミの騎士なのにっ!!



「オレはもうっ、キミを……守りたくても、守れないっ!!」



 遠のいていく、彼女の笑顔。

 そよ風が吹く草原で、綺麗な金色の髪を抑えながら紡がれたキミの言葉。


 ―――私は兄さんに誓うよ。争いを、人と人が傷つけ合う世界を、必ず、必ず無くしてみせるっ!


 オレの左目と同じ紅の瞳。

 
 ―――だから守っててね、兄さん。
 

 オレの右目と異なる翠の瞳。


 ―――支えててね、兄さん。
 

 ヒマワリみたいなキミの笑顔。

 
 ―――私は、オリヴィエは、絶対にこの戦争を終わらせるからっ!


 キミとの、大切な、誓い。





「……ごめんな、オリヴィエ」




果てのない空間に沈みながら、オレは呟くしかなかった。












[18634] 第一話 インターセプト
Name: 夕凪◆14cfd3fb ID:100c20d1
Date: 2010/05/13 12:58



Side なのは

 今日もユーノ君と共にジュエルシードを探索して、「もう遅いからあとはボクがやっておくよ」と言うユーノ君を置いて帰ろうとしたら、急に反応があって戻ってみればやっぱりフェイトちゃんがいたの。
 
 フェイトちゃんと解り合いたい。

 だから、わたしはフェイトちゃんとお話をするんだ!

 アルフさんのことはユーノ君に任せてわたしはフェイトちゃんに必死になって話しかけた。

 フェイトちゃんにジュエルシードを探している理由を言ったの。
 ユーノ君のこと、そしてわたしの想いを。
 
 なのに、せっかくフェイトちゃんが答えてくれようとしてくれたのに、アルフさんが止めたのっ!

 甘ったれたガキって。

 そうかもしれないけど、だからってフェイトちゃんを止めないでよっ!


 やっと……やっと理由が聞けそうだったのに。


 そんな時だった。
 
 封印したはずのジュエルシードが暴れだして、
 
 そしたらジュエルシードを包むように赤黒い空間が現れたと思ったら、


 ―――そこからものすごい勢いで人が飛び出てきたのっ!
 

 うんうん、あれは撃ち出されたっていってもおかしくないくらいだったの。
 

 ……本当にびっくりしたんだから。

 その人は車に轢かれたように地面に叩きつけられて、顔をしかめながら周りを確認し始めたの。
 ……本物の交通事故なんて見たことないけど、相当痛かったと思うの。
 そんな痛みに耐えながら、ゲームとかで出てきそうな銀色の鎧を展開した人は、ちょっと汚れてるけど、元はきれいそうな長い銀髪の、わたしと同じくらいの女の子だったの。
 その子は立ち上がって、私達の方を見てきたの。
 この間、私達はみんな固まっていたみたい……。
 一応、非常事態なのに。

 でも、私達は目が離せなかったの。

 端正な顔立ちの、鋭い目をした女の子。

 なにより惹かれたのが、違う色の瞳。

 右目が金色で、左目が紅色。

 

 そんな私達を叱るように険しい目つきで、女の子は口を開いたの。


「なぁ、お前ら。火遊びも大概にしとけよ」

Side out



   ◆◆◆



「っつ!?」

 ものすごい引力に引かれて意識が覚醒した瞬間、すさまじい衝撃が体を貫いた。

 体中に走る痛みを無視し、周囲を確認するとあの「果てのない空間」でなく、通常空間にいるとわかった。

 灰色の地面に灰色の高層建築物。
 ベルカ式ではない結界。


「魔法が使えるのか」

 オレはとりあえず、朦朧とする頭を振って、あの空間でキャンセルされていた白銀の騎士甲冑を纏う。
 結界が展開されている。そして、凄まじいほどの魔力の風。

(少なくとも、のんきに安全だとは言えない状況のようだ)

 
 この場を脱出し、あれからどれくらいの間あそこに居たかはわからないが、生きていることから一週間ほどだろう、死んだと思って哀しんでいるかもしれないオリヴィエのもとに一刻も早く戻るためにも問題を解決しなくては。
 
 そう考え立ち上がるも、視点が妙に低い気がする。

(? まぁいいか)

 そんなことに思考を費やすよりも。

「なぁ、お前ら。火遊びも大概にしとけよ」

 こちらを見ている二人の少女と二匹の守護獣を睨みつけた。   




 この状況はなんだ?

 こんな強力な魔力を放つ物の前で、ガキが戦争ごっこかっ!

「ルーナ、ランツェフォルム」

 感情を殺しながら、デバイスに指示を出し、籠手にはめられた水晶が明滅する。

『Lanze Form』

 ルーナは答えるとすぐに槍となる。

 鮮血色の大槍に。

 それをしっかりと握りしめる。

「さて、答えろ。オレと殺るか、それを止めるか」

 奴らお互いのパートナーだろうか、念話を始めやがった。
 この非常時に何を考えてやがる。

「いちいち考えるなっ! 行動しろっ!」
「「はっ、はいっ!」」

 ビクッと肩を震わした二人はすぐにあの物体に向かって封印を始める。
 こんな危なっかしいことをしておいて、咄嗟に行動もできないのか。

 まぁ、これで安心か。あぁ、それにしても腹減ったなぁ。

「……って、お前らバカだろっ!?」

 安心したのも束の間、あいつらは同時に封印しようとしやがった。
 結果はデバイスが干渉しあい、その負荷に耐えかねフレームに亀裂が走る。

 そして、暴走。

「なのはっ!」
「フェイトっ!」

 物体を中心に魔力の爆発が起こる。

「ふぇぇえええええっ?!」
「っく」

 オレは咄嗟に飛ばされてきた白い少女を槍で弾いてしまったが、そんなことは気にしない。
 大丈夫だろう。そう、あいつなら大丈夫な気がする。
 奥に守護獣いたし。

「そんなことより」

 問題はあいつだ。

「フェイトっ、ダメだ、危ないっ!」

 あの金髪の少女。

 ―――兄さん

 あの紅色の瞳で。

 ―――私、みんなのために戦うよ


 白いのとは違い空中で受け身をとった少女は、あの物体に飛びつき、祈るように手で抑えていた。

 デバイス無しでの封印。

 見る間に光を強くしていく物体。

 手や指が魔力で焼かれるそんな姿を。

 妹分に似てるやつがするんじゃねぇ!


 体が自然に動く。

「えっ?!」

 少女の手に自分のそれを重ねて、あの空間にいる間に削れていった残り少ないありったけの魔力で抑え込む。

「くっ」

 体の奥底から魔力がダクダクと抜けていく。意識が飛びそうになっても、オレ自信が許さない。
 魔力ってのは、リンカ―コアを持つものにとっては生命エネルギーも同然。
 そんなものを一気に消費するなんて体に悪影響が出て当然だ。
 末端部から痺れていく。
 だが、もう少しと鞭を打つ。
 当たり前だろ、妹に似てるやつが傷つくのなんて見たくねぇんだから。
 
 そして戸惑う彼女をよそに、封印は完了する。

「……危ないこと、オレの前でするなよ。頼むから」

 困惑気味の彼女の瞳が、大きく見開かれるのを見てから、オレは意識を手放した。

 これで、心配事は何もない。ゆっくり寝れそうだ。

 それにしても、腹へったな。





    ◆◆◆




Side フェイト


 ジュエルシードを封印して、私はアルフを伴って家に戻ってきた。

「……フェイト」

「何も言わないで」

「でも「何も言わないでっ!」………」

 あの白い子と戦っていたら、急に現れた少女。

 今日、私を助けてくれた子。

 なのに。

「どーしよぅ、私、誘拐犯になっちゃったよ……」

 ―――魔法少女リリカルふぇいと、誘拐犯はじめました♪

「始めてないよ!?」

「落ちついてフェイトっ?!」

 頭の中にあの白い子の声が響き渡って取り乱してしまった。
 というか、リリカルってなにっ?!



「それにしても、この子一体何者なんだろうねぇ?」


 私の治療が終わった後、彼女の様子を眺めていたアルフが口に出した。

「そうだね、急に現れてきたものね」

 今考えると、アレって普通の転移じゃないよね。

「見てくれで人を判断するのは間違ってると思うけどさぁ、左右で瞳の色違うし、こんな可愛い顔してあんな口調だし、なんなんだろねぇ。あ、もちろんフェイトの方が可愛いけどさ」

「アルフ……」

 最後のは余計だと思う。

「まぁ、アレだよ。フェイトのことを助けてくれたのは事実なんだし、少しくらい助けても良いとは思うよ」

「そ、そうだよねっ!」

 そう、助けて当然。だからこれは誘拐や拉致じゃないんだ!

「いやぁ、それにしてもあたしゃ嬉しいよ。フェイトが元気になって」

「? アルフ?」

 私、病気とか罹ってた覚えはないんだけど?

「今日のフェイトはコロコロ表情が変わって、前はなんだかお人形みたいで哀しかったんだよ」

「ア、アルフ……」

「それもこれも、こいつのおかげかね。最後に良い事言ったし」

「最後って」

 ―――……危ないこと、オレの前でするなよ。頼むから

「―――」

「あたしもいっつも思ってるけど、同じ風にフェイトを想ってくれる人がいて良かったよ。あの鬼婆はフェイトに優しい言葉もかけてくれないし、この世でフェイトを心配してくれる奴がいてくれると思うと涙が止まらないよ」

 そうだった。

 この子は私を心配してくれた。

 アルフ以外で言葉で言ってくれたのはこの子だけ。

 母さんは不器用だから仕方ないけど。

 ……母さん?

「あ」

「どうしたんだい、フェイト?」

 おいおいと泣きマネをしていたアルフが訊いてくる。

「母さんへの定時連絡、どうしよう」

 さすがにこの子を放置するのもどうかと思う。

「なら、あたしだけで行ってくるから良いよ」

「でも、母さんはアルフのこと信用しないし」

「良いんだよ、そんなの、信用しない方が悪い。それに言伝だけじゃなくて、手紙も添えれば良いさね。ついでにお土産のケーキも届けてきてあげるから」

「うぅん」

 迷う。

 母さんに直接報告に行きたいっていうのもあるし。

 でも、この子が……。

「それに、こいつが起きた時にしっかりお礼を言わなきゃダメじゃないか。ということでフェイトはお留守番」

「うぅ、わかったよ、アルフ」

 うん、お礼は言わないとね。

「じゃぁ、早いけど行ってくるよ」

「って、いまから?!」

「善は急げってこの国の言葉にあるってこの前テレビで言ってたよ」

 そう言うや否や、アルフは部屋を出て行った。

「急がば曲がれって言葉もあるのに」

 そう呟いたフェイトの手には普段より高めのドッグフードが握られていた。




・あとがき

 一話目投稿です。

 シリアスでガンガン行こう!

 ……と、思ったら無理でした。

 文才ないです。

 途中から意味不明な展開になりました。



 誰か、アドバイス下さい(泣

 

 あ、できれば感想を戴けると嬉しいです。
 がんばりますんで。

 *誤字修正 2010.05.13

・舞台裏

『それは、平凡な小学三年生だったわたし、高町なのはに訪れた小さな事件。

 受け取ったのは勇気の心。

 手にしたのは魔法の力。

 魔法が導くその出会いは突然なのか、運命なのか。

 今はまだわからないけど、魔法少女リリカルなのは 始まります』


「なんかわたしの扱いがひどい気がするのっ?! 主人公だったんだよっ?! 最初の出だしもわたしだったんだよっ!? ねぇ、わたしの物語はっ!? わたしとフェイトちゃんの愛と友情物語はどこに行くのっ?!」

「なのはは良いよ……。僕なんてちゃんとしたセリフがないんだよ。というか空気だよっ! 何、このいじめ」


「誘拐犯なんかじゃないんだよっ!? ほんとだよっ!? 私は犯罪者なんかじゃないんだっ!!」

「あたしはフェイトが幸せなら些細なことには目を瞑ってあげるから」

「アルフぅううううううううううっ!!」



「ところで、オレの名前はまだ?」 


  
「うぅ、泥棒猫、なのっ!」

 

 

 



[18634] 第二話 フェイトショック
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/11 13:03




Side フェイト

「……やっぱり」

 アルフが実家に帰ってから数分後。

「汗くさい」

 私は自分の体臭が気になっていた。
 なんだかんだ言っても、私も女の子なんだ。
 女の子なんだからもう少し気をつけなくちゃ。
 そう、私は大魔導師プレシア・テスタロッサの娘なんだから。


「それに、恩人の子もいるんだ、起きた時に呆れられたくないよね。うん、部屋もついでに片付けよう」

 ―――魔法少女リリカルふぇいと、掃除はじめます♪

「……私、疲れてるのかな」

 さっきもあの子の声が頭で響いてきた。
 なんなんだろ、疲れてるのかな。それにしてもはっきり聞こえるし。
 念話なのかな?
 念話だよね?
 電波? 


「この国の魔法? なのかな。私、呪われちゃったのかな」


 あの子に会うのが怖くなってきた。
 得体のしれないものって怖い。
 実感したよ、アルフ。

 この前、ホラー系の番組見て怖がってるアルフに呆れた私を許して。

「まずはリビングからだ」

 うん、忘れよう。あの子なんて、私は知らない。白い悪魔なんて、私は知らない。





 一時間後。 



「ふぅ、良い汗かいた」

 普段から掃除してるからそこまでやることなかったけど、まさか燃えるごみの袋があんなに大量に放置されてるとは。
 うん、今度からはすぐに出そう。
 アルフに頼りすぎなのもダメだもの。

「目指せ、自立。独り暮らしくらい一人でできるようになるよ」

「オリヴィエ、うるさい」

 ソファーで横になってる彼女が呟いたようだ。

「う、うるさかったかな」

 今更だけど、そっと彼女に近づいて寝顔を覗き込む。

「アルフじゃないけど、可愛いかも」

 つい、頬をぷにぷにしてしまうくらいには可愛いと思う。
 そして、気付いた。

「結構ほこりまみれ」

 ………。

「お、おんなのこどうしだし、しゃ、しゃわーくらいいっしょにはいってだいじょうぶだよね」



 フェイト、お友達をつくってみます。がんばります。


 Side out




    ◆◆◆


  
 おはようございます。

 いまいち寝起きでよく現状がわからないので誰か説明して下さい。

「というわけで、頼む」

「じぃいいいいいいい」

「擬音を口で言わない。そして、この首輪を解け。そして説明しろ」

 現在、ソファーの上で、何故か知らないが首輪をつけられてます。あと何故か体がきれいになってます。服が変わってます。

「……寝てる間に何が」

 きっと気にしたら負けなのだろう。



 それより―――




 先ほどからこちらを半眼で眺めている少女、確か意識を失う前に見たオリヴィエと似た少女だけがこの部屋にいるようだ。

「そういえば、守護獣がいないな」

 あの時、赤い狼の守護獣が彼女を心配していた気がする。

 なのに今この場にはいない。
 
 ということは、今が脱出のチャンスか?

 相手は最低でも二人。

 彼女だけなら、この疲労した体でも振り切れるだろう。

「アルフのことを言っているなら、少しここを離れてる。だから、そんなに警戒しなくても良い」

「いや、こんなことされてしない方がおかしいだろ。それにオレはベルカの騎士だ。ミッドの魔導師にしてみれば敵だろ」

 指で自分の首にはまっているものをコツコツ叩きながら言う。

 これは明らかに捕虜に対する扱いだ。

「ベルカ? 騎士?」

「? オレをベルカの騎士と判断したから、首輪を嵌めたんじゃないかのか?」

 オレの言葉に彼女は首を傾げる。

「違うよ、あなたに首輪をはめたのは……その、」

「その?」

「その……」

「?」

 この少女は何が言いたいんだ?

 やはり、騎士とは関係なく危険だと判断されたのだろうか?

 その割に警戒を解くように言ってくるし。

「訳がわからん」

「あう」

 顔を赤くして俯く彼女のことは放っておこう。




 ぐぅ~~~~




「「……」」




「あの……何か食べるもの探してくるよ」

「お願いします」





  ◆◆◆




 
「ごちそうさまです」

 彼女から渡されたゼリー状の栄養食をゆっくりと飲み干す。
 推測では一週間は何も口にしていないはずだ。
 だから固形物じゃなく胃に優しいものでよかった。
 
「それで、何故オレの方をじっと睨んでいるか話してくれる?」

 理由はわからないが、彼女はオレが起きてからずっと、ほぼ無言で見つめてきている。
 しかも敵に対する行為がこの首輪だけというから、今一状況が掴めない。
 これがもし、拷問や何かしらの敵対行動をしてくれればわかりやすいものを。

「……なんで」

 黙して数秒。
 彼女はぼそぼそ喋るように唇を動かし始めた。

「なんで、あなたにあんなものが?」

「あんなもの?」

 それを言ったきり彼女は俯いてしまった。
 というか、あんなものって何だ?
 もっと具体的に言ってくれ。

「うぅ……」

「いや、唸られても」

 なんなのだろう、この少女は。
 人の顔を見て顔を赤くするとは。
 憤慨するほどオレの顔がひどいのか。


「まぁ、良い。とりあえず訊くが、キミはオレの敵ではないと?」

 ここをはっきりしないと今後の予定が決まらない。

「……今の所はね。ジュエルシードに関わらない限り、私はあなたと敵対はしない」

 頭の切り替えが早い子で助かった。
 先程までのよくわからない行動を取られるよりも、凛とした今の少女の方が好感を持てる。

「ジュエルシード……オレが意識を失う前に暴走していたあれか」

「その認識で間違いないよ。私はそれを集めてる。それを邪魔しない限り―――」

「オレとは対立しない、か」

「うん」

「わかった。とりあえず、今のオレはキミと争う理由がないことがはっきりした。
 では、改めて。
 オレの名はユウナ・シルバーフォーレスト。
 音の響きで違和感を覚えるかもしれないが、これでもベルカの人間で、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの騎士をしている。
 任務の途中、事故で通常空間に戻れないと思っていた矢先、この空間に出て現状に至る訳だ。
 できれば、ミッド式の魔導師なのに何故オレと敵対しないのかを教えて欲しい。
 先程の説明だけでは、警戒を解くほど信用できないんでね」

「え? あ、はい。
 私はフェイト・テスタロッサ。
 その、ベルカというのがなんなのかわからないんだ。
 だから何故敵対しないのかって言われても……」

「ベルカを知らない?
 馬鹿を言うな。ベルカの統一戦争を始めて何百年も経っているだろうが。その内戦に乗じてベルカに戦争を仕掛けてきているのはミッドチルダだろうが」

「せ、戦争なんてしてるの?」

 おかしい。
 なんだろう、この認識の食い違いは。

「その、私、小さい頃に田舎の方で過ごしてからずっと、ミッドに行ってないから知らないのかも。
 とりあえず、ベルカの人間だからって私はあなたと戦ったりはしないから」

 オレが難しい顔をしていたせいか、フェイトは慌てたように一気に口を動かした。

「……まぁ、そうゆうこともあるのかもな。別世界に疎開していた可能性もあるんだし」

 小さく溜息をつく。
 現状を知った今、警戒しすぎていた自分が馬鹿らしい。

「あ、それでこの首輪の理由は?」

 敵ではないのなら、首輪をする理由が分からない。

「それは……あなたが男の子だったから」

「は? それだけ?」

「う、ん」

 なんだろう、男は皆、ケダモノだと思っているのだろうか。
 それよりも、この首輪、何処かに繋ぎ止めてないんだが。効果ないぞ。

「女の子だと思ってたのに」

「ん? 何か言った?」

「―――なんでもない!」

 怒鳴られた。 
 


  ◆◆◆


 少しして。
 落ち着いたフェイトが今後について話があると言ってきた。

「アルフとも相談したんだけど、あの時ユウナは私を助けようとしてくれた


「まぁ、妹とダブっちまったんだ。そんなキミが傷つく姿なんて見たくなかっただけだから」

「それでも、私はユウナに助けられたんだ。だから、ユウナの傷の手当てくらいは診てあげようってことになったの」

「ふ~ん」

 ま、外傷なんてたいしてないようだし、魔力回復と疲れ切った体を休めるくらいしかできないけど。

「最初は、女の子だと思ったから。
 その、シャワーを浴びせようとしたんだ」

「へぇ……? シャワー?」

「その時、ユウナがね、その……男の子だって気づいちゃったんだ。ごめん!」

 頭を勢いよく下げるフェイト。

 えーと、アレですか。
 年端もいかない女の子に見られたんですか、オレは。

「―――ショックだ」

 横になっていたソファーに顔面からダイブした。

 オリヴィエにも見られたことないのに。
 オレの初めてを奪われた。
 男の威厳を削がれてしまった。

「ごめんね。だって、私と同じくらいの女の子だと思ってて」

「同じくらいの、女の子?」

 これでも、オレはベルカの騎士だ。
 確かに身長は170前後と低い方だが、フェイトと同じくらいに見えるはずがない。
 あれ? そう言えば、さっきから視点が低いような―――

「え~と、フェイト? 鏡を持って来てくれないか」

「あ、うん」

 訝しがるフェイトはこの際、良い。
 できれば、この想像はあたって欲しくない。
 背中に嫌な汗が伝う。
 頭ではありえないと考えつつも、フェイトから手鏡を受け取る。



「……泣いてもいいかな?」



 これが夢であって欲しい。
 オレは信じてもいない神に祈った。



 そこに写っていたのは18歳のオレの顔でなく、幼少期のオレの顔だった。 










・あとがき


 感想が来ないことって結構堪えるもんですね。
 くじけそうです。

 というわけで、第二話投稿。

 今回はユウナ君に現状を理解してもらいました。

 理解してくれたかな?

 微妙かも。

 というか、説明ばっかり。

 山もたければ谷もない。なんだろ、まっ平ら?


 とりあえず、感想待ってます!

 駄作で話数も全然ですが、よろしくお願いします!



 *修正 2010.05.10
 

・舞台裏


「うぅ、フェイトにばれちまったよ、あたしの掃除スキル」



「わたし、セリフすら貰えなかったの」

「なのは、顔に影ができてるよっ! なんか、ボク怖いよっ!?」

「……ユーノ君、頭冷やそうか?」

「なんでっ?!」




「ユウナです。名前でました。なのに、体が九歳程度に……」

「あはははは………私、犯罪者じゃないんだよ。事故だよね。うん、そうだよ。全部事故なんだよ」

「フェイトちゃんっ! まだ、わたしたちの物語は始まってもいないんだから、修正くらい効くはずだよっ!」












[18634] 第三話 アリアンス
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/12 12:59


Sideなのは




 ユーノ君とおうちに帰ってきてからも、わたしの感情は収まらなかった。


「あの子、ひどいのっ! あそこは普通わたしを受け止めて『大丈夫?』とかって声をかけるところなのっ!
 それをビシッてっ! ビシッてっ!」

「なのは、落ち着いて……」

「レイジングハートがあそこで守ってくれなかったら、わたしは今頃ビルのガラス片でグサグサだったのっ!
 しかもそのせいでレイジングハートがボロボロにっ!
 次に会う時は、お話をしなきゃいけないの」

「レイジングハートがボロボロなのはジュエルシードの封印のせいなんだけど……」

「フェイトちゃんもフェイトちゃんだよ。
 わたしがビルに突っ込んで気絶して、起きて、中から出てくる間に居なくなってるし。
 ジュエルシードはなくなってるし。
 あのジュエルシードは戦って勝った方のものだったのに。
 『あんもくのりょーかい』っていうのを知らないとは言わせないの」

「いや、どう考えても封印した彼女のものでしょ。
 あんな身を張って封印したんだから」

「ユーノ君、さっきからうるさいの。
 それにジュエルシードを取り返すんだって言ったのはユーノ君だよ。
 フェイトちゃんが持ってて当然なんて言わないで」

「えーと、ごめんなさいっ!
 (なんでボクが謝ってるの?!)」




「ふふふ……待っててね、銀髪の女の子。ちゃんとお話するんだから」



「(前髪で目許を隠して笑わないでっ! なのは、怖すぎっ!)」



 Side out



   ◆◆◆


 ちゅんちゅん、ちゅんちゅん。
 雀の鳴き声が耳朶を打つ。

 オレは朝日が届き始めた教会の敷地をゆっくり歩く。

 建物のそばにある林からは、まだフクロウなどの夜の生き物たちの声もする。


 澄み切った空気。


 こんな場所が残ってるなんて信じられないと、オレは今でも思う。

 このベルカの国々は常に戦争をしているのに。


 魔法で荒れた大地。


 質量兵器で汚染された空気。


 人間たちが醜く生きるこの世界に。


 こんな美しいものが、まだ、あるんだから。




「――はっ!、――はっ!」

 そんなことを考えていると、林の方から声がした。

 自然と頬が緩む。

 
 そうだ。

 この声は。



 林の中を少しわけ入れば、木漏れ日の射す広場がある。


 そう、彼女は毎朝ここにいる。


 ―――何もできない人間に、人を救うなんてできない。


 オレはそこに足を向ける。


 ―――でも、私は弱い。何もできない弱虫なんだ。


 そこには必ず彼女がいる。


 ―――だから、私は強くなるんだ。

 
 自分の技を磨くために。


 そして、今朝も彼女はここにいた。



「あ―――兄さん、おはようございますっ!」


 満面の笑みを絶やさない、オレの王様が。




  ◆◆◆


「―――夢か」


 体を起してみれば、そこは昨夜出会った少女、フェイトの家のソファーの上。

 
「なんなんだ。少し会えないくらいでホームシックってやつか。オレもガキだな」


 誰もいないリビングで自嘲気味に口の端を上げる。




「時間はだいたい昼時か」

 窓から外を眺めれば、太陽がちょうど頂点にあった。
 昨夜は遅くまでフェイトと話し合ったせいか、寝直したのも明け方近くだった。
 起床するのが遅れて当たり前だ。

「それにしても、この部屋だいぶ高いところにあるな。地上が遠い」

 あれか。脱走予防。
 いや、そもそも捕虜をここに連れてくることなんて想定してないから、泥棒除けか?

「それ以前に、ただ住みやすそうだったからとか?」


 そんな思考の無駄をしていると、奥の扉が開く。

 
「あ、おはよう、ユウナ」


 寝室から出てきたフェイトが眼を擦りながらこちらに近づいてくる。

 そして、立ち止まれば視線が同じ高さ。


「……おはよう、フェイト」

 
 せっかく現実逃避していたのに、フェイトと顔を合わせてはっきりその問題が突き立てられた。


「寝起きから鬱な気分だ」


 ユウナ・シルバーフォーレスト。退行しました。ん? 意味が若干違うか?


「人の顔見てそれはひどいよ」

 何か勘違いしたのかフェイトの表情が少し沈んだように見える。
 面倒なので弁解はしないけどね。

 自分の問題でいっぱいいっぱいです。


「まぁ良いや。それより飯を食おう。腹が減って大変なんだ」

 そう言うや否やお腹のあたりから、くぅう、と音がなる。
 無駄に可愛らしかった。
 子供補正なのか?


「……ただ飯食らい」

「すいません、後で宝石を換金してくるんで許して下さい」


 こんな時のための非常用の財産がある。というか、全財産をデバイスに保管してある。
 いや、辺境の地で紙幣が使いものにならない時を想定してたんだけどさ。
 まさか、辺境世界にくるとは思わなかった。
 
 この『地球』という世界では魔法文化が表立って進んでいる様子が見られない上に、ほとんどの人間がリンカ―コアを持ってないそうだ。
 しかし、フェイトの話によると、少なからずコアを持っている人間もいるようだ。
 例としては、昨夜の白の少女。

 名乗られたそうだが、彼女はしっかりと覚えてないそうだ。


 ―――えーと、確か高町……なんとか?


 発音自体ミッドやベルカと違うんだ。忘れても仕方ない。
 そうゆうことにして置こうとあの時は締めくくったっけ。


 閑話休題。


「いいよ、一応ユウナは恩人だし。その、と、『ともだち』、だし」

 顔を若干赤く染めながら、フェイトは『ともだち』を強調して言った。
 何故かわからないが、フェイトに友達になって欲しいと言われ、成ってしまった。
 
 最初、友達というものの成り方について二人で討論することになった。
 理由は簡単だ。

 オレたち二人には友がいなかった。

 フェイトは使い魔(ミッドでは守護獣をそう呼ぶらしい)や母くらいしか周りにいなかったため、家族という関係しかなかった。

 オレにはオリヴィエに会うまで家族というものすら失っていた。それから今にかけて、全てオリヴィエのために生きていたから、それ以外にかまける気すらなかった。


 ゆえに、討論。

 

 やはり、命をかけてぶつかり合い、その狭間で友情が芽生えるのでは?
 一理あるかも。アルフが見てたテレビ番組でやってたよ。『ふりょう』って人たちが、なんか拳で語り合ってたよ。
 テレビ番組?
 えーと、これだよ。
 ふーん―――あ、この肉料理美味しそう。
 ほんとだ。油で揚げてるね。うーん、さすがに無理。作れないよ。
 いや、作れなんて言ってないし。
 食事をふるまえば、ともだちになれるかもと思ったんだけど……。
 その手もあったか。いや、待てよ、一緒に作った方がなれるんじゃないか?
 ……ごめん、食材がない。
 うわぁ……。
 拳で語り合うしかないのかな?
 すまん、体力的にも魔力的にも無理。


 あぁでもない、こぅでもないと話し合った末、「ジュエルシードを『命をかけて』『一緒に封印した』ことで友達になっていた」と結論をつけることにした。

 こうして、オレたちは友となった。



「だけどな、フェイト。片方が片方に依存する関係は友というものではないと思うんだ。『対等』、これが友の在り方だと思う」

「ユウナ、これは依存じゃないよ。昨日話し合ったでしょ。協力だって」

「はいはい」

 オレが「わかったから」と苦笑すると、フェイトは満足げに栄養満点なゼリーを取り向かった。
 なんでも、吸うだけで食事がすむから楽だそうで、ジュエルシードを探索する間はこれで済ますつもりらしい。
 だからって箱単位で買うな。どれだけストックする気だ。



 ちなみに、フェイトとは協力関係にある。

 ベルカに帰ろうにも、オレにはこんな辺境世界からベルカに帰れる術式や魔力がない。
 フェイトはジュエルシードを集めていて、それには危険が伴う。
 だから、オレがフェイトを補助しながらジュエルシードを集め、それが終了したら彼女の実家の設備を使い長距離転移を行うことになっている。
 本当は今すぐにでもオリヴィエの顔を見たいが、フェイトが傷つくのも見たくない。
 
 何より、今すぐ彼女の実家の設備で帰還しても、オリヴィエならこういうはずだ。
 
 
『そんな危険なことをしているのに助けないなんて、私の兄さんじゃない。今すぐ手伝いに行ってきなさいっ!』
 

 あの優しいオリヴィエとの誓いもある。
 人と人が傷つけあわない世界。
 そんなのは無理だとわかってるさ。
 しかも、それを為すためにオレが振るうのは『力』だ。
 矛盾してるが、オレの方法はこれだけだ。

 それに、オレが見てないところでフェイトが怪我でもしたら寝覚めが悪いだろ。



   ◆◆◆


 夕方。
 結局、使い魔のアルフが戻ってこなかったが、ジュエルシードの探索を始めることにした。
 フェイトのデバイス『バルディッシュ』も回復しきっていたようで、探索に支障はない。

 そして、始めてすぐに反応があった。
 この肌のざわりとする感覚。
 間違いない。昨夜の物と同じ、強力な魔力結晶体。

 オレとフェイトが騎士甲冑とバリアジャケットを展開してから現場に行くと、すでに白の魔導師がバリアを張る木の怪物と戦っていた。
 事前情報の通り、現地生物を取りこんでいる。

 せっかく、海を臨める良い公園なのに。
 次に来る時はもっとマシなシチュエーションであることを祈ろう。

「ユウナは下がってて良いよ。体力も魔力も回復しきってないんでしょ?」

 心配気に見つめてくるフェイトに「バカが」と唇の端を吊り上げ答える。

「ベルカの騎士に敗北や逃走はねぇんだよ。ましてや、戦場で後方待機の理由が疲労? はっ! これくらいの疲労は疲労のうちに入らねぇよっ!」

「……ユウナって戦闘時、性格変わってない?」

「そう言うフェイトも、初めて会ったっ時は凛として格好良かったと思ったけど?」

「……わかった。私たちは『対等』な親友だ。それくらい私もして見せる」

「いつの間にか、親友にランクアップしてるっ!? ってか、親友ならこの首輪を解けっ! 流されて忘れてたけどさっ!」

「……似合ってるのに」

「いや、似合ってないからっ!」


 そんなかけ合いも終わり、対象を討つことに集中を始める。

 見たところ、白いのの砲撃でもあのバリアは突破できないようだ。
 加えて、フェイトが斬りかかったが、やはりあれは堅いようだ。

「オレは砲撃なんてものは苦手だからなぁ。フェイト、仕方ないから二人で力押しで行くぞ」

「わかったよ、ユウナ。私たち二人に敵うものなんて何もないって証明しよう」

 何故かテンションの上がっているフェイト。ちなみに協力戦闘は今回が初めてだ。勝手に戦力をインフィニティーにしないでもらいたい。

 白いのはフェイトの話によると敵なので協力を仰げない。
 封印後もすぐ戦闘に入ることが想定されるため、注意も払う必要がある。
 本音から言わせてもらえば、面倒なことだ。白いのさえいなけりゃもう少し楽だろうに。

「行くぞ、フェイ「見つけたのっ!」ト?」

 オレたちがデバイスを起動し敵に突撃をかけようとした瞬間、白の魔導師が話しかけてきた。
 出鼻を挫かれたってのはこういう場面のことだろう。
 オレたちが彼女に視線だけを遣ると、どうにも、怒っている雰囲気を醸し出している。

 何故だろう。表情は笑顔なのに、黒いオーラが見える気がする。


「見つけたの。この間はひどい目にあったの。なんであんなことしたのかな?」

「……邪魔だったから?」

 コメカミあたりがピクピクいっているようだが、事実だ。
 あんな勢いで突っ込んできたら、なんだって弾く(*オリヴィエは例外)。

「あのね、あぁゆう時は普通助けるんだよ? お父さんやお母さんに習わなかった?」

 怒りたいのか、笑いたいのかわからないがどっちかにしろよ。
 ちなみに、両親からは何も習えなかったんだ。知る訳がない。

「うるせぇよ、白いの。今の状況でお前と話すことはない。こんなやばいのを放置する時間がもったいない」

 白い魔道師の肩がワナワナ震えだすのを尻目にフェイトと頷き合う。

「ユウナ、行くよ」

「あぁっ!」

 オレとフェイトは木の怪物のバリアまで一気に距離を詰める。



「はぁああああああああああああっ!!!!!」


 
 速度が勝るフェイトが魔力刃でバリアを斬りつけ、即時後退。



「だぁああああああああああああっ!!!!!」





 ダメージを与えられ、歪みが生じた部位に鮮血色に彩られた槍の形態のルーナで斬りつけ



 



 振り切った槍を逆方向に斬り戻し






 遠心力を伴ったこの槍を踏み込みながら、突くっ!!!!



「穿てっ!!!! 宵闇の月っ!!!!」

『Blutig Luna』


 オレのトリガーワードに反応し、大槍の矛先に赤色気味の虹色のベルカの陣が現れる。



 その瞬間、刺突の速度が急速に増加する。




 速度だけじゃない、それに伴う威力もだっ!!!!




 槍はバリアを破壊しながらオレごと怪物に急接近。




「あ゛ぁあああああああああああああっ!!!!!」


 
 その勢いを使用して怪物を斬り刻み、コアの周辺部位を残し、退避し




「フェイトっ!!」



「貫け、轟雷っ!!!!」

『Sander Smasher』




 先に退避していたフェイトの砲撃がコアに直撃する。





「ジュエルシード、シリアルⅦっ!! 封印っ!!」



 そのまま封印術式を展開し、封印を完了。



「ふぅ、状況終了ってね」





 こうして、実質二度目のジュエルシードの封印が終了した。




・あとがき

 ユウナ、戦闘狂? 口調がなんか変わってる。

 なのはの性格が変わっていく……なんで?

 フェイトが友情パワーに目覚める? 大丈夫です、ディスでガイアなところの頭がお花畑な天使並にはなりません。


 ユーノ空気だ。終わってからまた気づく。

 いや、SSとか読んでてユーノが空気なのが可哀そう、なんでみんな空気にするの? って思ってましたが、いざ書いてみてこの始末。

 すまん、ユーノ。キミは声優つながりでヴィヴィオ(オリヴィエ)で参戦してくれ。


 実は今回の投稿が今までで一番長いです。制作時間が序章を除けば一番短いです。


 謎だ。


 それと、設定に綻びが多数発生中。


 家にネットをひきたいです。
 携帯だと資料が見にくくて大変です。
 投稿のためにネット環境あるところに足を運ぶのが面倒ですが、がんばっていきます。
  




 感想への返信(?)です。

 befuさん、理由を教えていただきありがとうございます!
 がんばって書き続けます!

 駄馬さん、ご指摘ありがとうございます!
 えーと……やばい、矛盾がいきなり……。
 修正かけましたが、厳しいかな。





・舞台裏


「これが絆を持った私の力だっ! そうっ! 誘拐とか拉致とか監禁じゃないっ! 友情ゆえの助け合いなんだっ!」


「フェイト、落ち着け。ったく、アルフめ、こうゆう時のための使い魔だろうが。はやく戻ってこいよ……」






「わたしの出番が(涙目」

「ボクはもう諦めたよ、なのは」

「うぅ、これ絶対訴えれば勝てるよぉ。主人公はわたしなのぉ。わ・た・し・な・のっ!!!!」






[18634] 第四話 レゾリューション
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/13 12:59
 


「っ、ふぅ……なんとか封印できたな」


 ロストロギア、ジュエルシードを封印したことで、体を支える力がなくなったように片膝をつく。

 疲労も魔力も結構限界ぎりぎりだ。

 考えてみれば、まともに回復してない上に、リーチが急に変った体での戦闘なんて無理にも程がある。
 せめて、この体に慣れるように動かしておかなくてはいけなかったのだ。

 さらに、この世界の魔力素に適応しきってない自分の魔力回復速度も遅いのだ。



「(ほんと、よくやったよ)」



 オレの様子を心配してか、フェイトがちらりと視線を寄越してくるが、白の魔導師がいる手前、迂闊に目を離す訳にもいかない。

 それに使い魔がどこにいるかもわからない。
 あの使い魔がどのようなことを想定して連れてきているのか判断できない以上、警戒するに越したことはない。



≪フェイト、ジュエルシードは確保したんだ。今回はもう撤退していいだろう≫


 オレは念話でフェイトに話しかける。


≪でも、あの子はまだいくつかジュエルシードを持ってる≫


 念話を返してくるフェイトは、白の魔導師がいる上空へと飛翔していく。


≪だから私は戦わなければならないんだ≫


 確かに、フェイトの目的からしてみればその行動は正しい。
 しかし、今は不確定要素がある上に、戦力はフェイトだけと言って良い状態だ。
 しかも、オレと言う名の足枷まである。


 彼女と同じ高度に達したフェイトは、二言、三言と言葉を交わしてデバイスを構える。



≪フェイト……≫

≪大丈夫、ユウナはそこにいて。―――格好良い姿、見せてあげるからっ!!≫



 瞬間、掻き消える黒衣のフェイト。


 空を駆ける金の影。


 それに虚を突かれながらも、白の魔導師も空を泳ぐ。


「フォトンランサーッ!!!!」

「っう!!!!」


 一カ所に留まらないように常に動きながらフェイトの攻撃を避けるも、急に進路を変えたためにかかる加速度に顔をしかめる。




 そして、そんな白の魔導師の隙を突き、



「これで終わりっ!!!!」


 背後に現れた閃光の魔導師が魔力の刃を振り下ろす。



























「―――ストップだっ!!!!」








 キーン、と金属同士がぶつかり合う音がその場に響き渡る。

 見れば、青の魔力の残滓と共に現れた、黒づくめの武装服を着た少年がバルディッシュを弾き飛ばしていた。





「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」






   ◆◆◆



 Sideフェイト


「くっ!!」

 弾かれたバルディッシュをなんとか握っていられた手を押さえながら、私は彼から距離を取った。


「……痛い」

 全力で振りかぶった攻撃を、違う方向にムリヤリだ。
 手首を痛めてしまって当然だ。


  
≪フェイト、大丈夫かっ!?≫




 私は執務官から目を離さずに≪なんとかね≫と痩せ我慢をして答えながら、次の行動を模索する。






 時空管理局。

 厄介なものが出てきてしまった。





 彼は私の最高速度からの斬撃をいとも簡単にいなした。
 どう考えても格上だ。
 

 じわり、と嫌な汗が噴き出る。


 ユウナが戦闘できないこの状況で、私一人でこの二人を同時に相手取るなんて無理だ。
 自分が勝つ状況がイメージできない。


 逃げるにしても、自分より強いこの相手を撒けるだろうか?



 疲れきっているユウナを連れて。


 
 彼が言う通り、彼が時空管理局員なら、間違いなく私を逮捕する。



 母さんの頼みである、ジュエルシードも全てバルディッシュが持っている。
 さらにユウナも一つデバイスに格納している。
 ロストロギアの不法所持に奪取の現行犯。


 
 私の手伝いをしているユウナもきっと同罪になってしまう。




「(そんなのはダメだっ!!!!)」



 初めてできた友達なんだ。

 そんなユウナも捕まっちゃ絶対ダメ。

 そもそもユウナはベルカの騎士。


 ユウナが言うには、ミッドはベルカの内戦に乗じて勢力拡大のために攻撃を仕掛けているそうじゃないか。


 そんなミッド、時空管理局にユウナを渡してみろ。


 ユウナはベルカの情勢や戦力、その他もろもろの情報源として、拷問されるに決まってるっ!!


 ユウナをそんな奴らに渡さないっ!!!!



「………」



 覚悟は決めた。




 後は―――行動するのみっ!!





「フォトンランサーッ、フルバレルオープンッ!!」


『Get Set』


 周囲にいくつもの魔力球が、バチバチと音を立てながら現れる。


 私の敵対行動に苦虫を潰したような顔になる執務官。

 
 
≪ユウナ、じっとしててね≫


≪なっ?! おい、待て迂闊な行動は寄せっ!!≫

 そして、私の頭に響いてくるユウナの声には焦りの色が見られた。


≪今は説明してる暇がない。だから信じて。私はユウナの戦友でしょ≫


≪フェイトっ?!≫



 首筋を緊張のための汗が伝う。


 けれど、私の表情はきっと―――



「何を笑っているんだ?」


 執務官が私に言葉を放つ。


 そう、私は笑ってる。


 ユウナが戦う時に見せた、唇の端を上げる笑み。


 『にひる』に決める時の笑みだって、テレビ好きのアルフが言っていた笑い方。



 意味は理解できなかったけど、たぶんこれは、



「カッコイイ笑みなんだと思うんだ」



 私は答えて、バルディッシュを地面にむける。


 そして、紡ぐはトリガーワード。



「フォトンランサーッ!! ファイアッ!!!!」


 

 辺りは金の閃光に包まれた。





Side out



    ◆◆◆




「撤退成功、で良いのか」

「……うん、たぶん」


 時空管理局というものが現れて、フェイトの攻撃を防がれた時はどうなるかと思ったが、フェイトの機転で助かったようだ。


「攻撃すると見せかけての目眩まし。さらにフェイントに一発攻撃で、その隙にユウナを捕まえての多重転移。疲れたよ……」


 事後説明をしたフェイトの顔は真っ青になっていた。
 なんでも、「アルフの補助なしの多重転移なんて、もうしたくない」らしい。

 しかも魔法の多重連続使用を攻撃、撤退と間を置かずに行ったのだ。
 精神力も削れ、魔力消費量もバカにならない。体調が悪くなっても仕方がない。


「とりあえず、マンションに戻れなかったことを責めたりなんかしないから」

「うぅ」


 現在、鬱蒼とした森の中。

 あれ? 遭難ですか?



    ◆◆◆




「それにしても、あの時空管理局とかいう名前がアレな組織はなんなんだ? フェイトの敵か?」



 魔力枯渇に疲労のために、少し休んでから歩きだしたオレたちは、この森を抜けだそうと足を動かしている。

 せっかくだからと情報交換。

 こうしている間もやつらが追ってきているかもしれないのだ。


「アレって?」

 
「考えてみろ。『時空を管理する組織』なんてどっからどうみても神様気分のバカな集団だろ」


「えーと……あはははは」



 乾いた笑い。



「管理するとか言ってるんだから相当な戦力があるんだろうが、どこのどいつだよ、そんなの作ったの」


「一応、ミッドが発祥の地だって聞いてる。リニスに教えてもらった通りなら」


「ミッドチルダか。別にフェイトのことを言っている訳じゃないけど、ミッドの人間が考えることには呆れるよ」


 世界を管理するなんて、できるわけがないだろうが。
 しかも、時空世界全てを?
 無理だ。

 そもそも、誰がそんな組織を認める。
 『これからお前たちは我々の管理下に置かせてもらう。さぁ言うことを聞け』ってか。
 案外、ミッドがベルカにちょっかいを掛けてくるのもそういった理由なのだろうか。
 

 オリヴィエの夢、争いのない世界のためには、そんな考え方は敵でしかないな。

 理想論だが、人が人と協力し合って世界平和を保つ、それが、オリヴィエがたどり着きたい場所なんだろうな。

 実際はチカラを以ってチカラで制す。

 現在の天地統一を目指すベルカ諸国もそんな感じだ。

 言い過ぎかもしれないが、ベルカはチカラが全てといった感がある。

 だから、オリヴィエはチカラを付けた上で皆に手を差し伸べる。

 皆に納得してもらうためのオリヴィエが選んだ道だ。



 そんなオリヴィエの道とは逆の道を選んだその組織には、好感が全く持てない。


「つまりは、オレの敵、か」

 
 いつか、オリヴィエが立ち上がるその時、こいつらは必ずオリヴィエの敵になる。



「戻ったら対策を考えなきゃな」

「ユウナ?」


 独り言に反応したフェイトになんでもないと首を振る。



「ところで、あれはフェイトの敵でもあるのか?」

「うん、一応ね。私はジュエルシードを集めてるから。ロストロギアの不法所持や奪取にあたるんだ」

「そうか。まぁ、フェイトは悪いやつじゃないから、心配いらないけどさ、それを何に使うんだ?」

「これ? 実は私も知らないんだ」

「知らない?」

「うん」


 フェイトは母親に頼まれてジュエルシードを探していることを教えてくれた。
 フェイトの母、プレシア・テスタロッサは研究者で、大魔導師と呼ばれるほど高位の魔導師らしい。
 それで、幼い頃から研究で忙しかった母が、今回ジュエルシードの回収を頼んだんだそうだ。
 おそらく、研究に必要なものなのだろう。
 母の力になりたいフェイトは、だから、一生懸命ジュエルシードを集めるんだ。

 小さい頃見た、優しい母を取り戻すため。

 一日も早く、この研究が終わることを祈って。



 オレには物心つく頃には既にゼーゲブレヒトの家に『仕えて』いた。
 だから、心の奥には家族に対する羨望というものが常にある。
 親というものの存在がどのようなものなのか、想像でしかわからないが、フェイトのその気持ちは良く解る気がした。


「(認めてもらいたいんだな、フェイトも)」


 フェイトの話を聞いていたら、無性にオリヴィエに会いたくなってきた。


「(オリヴィエ、オレは頑張ってるよ。だから、もう少し心配かける。ごめんな)」


 オレはフェイトの手伝いをする。
 自分に似てるこの友人を助けると、もう一度心の中で誓おう。



 我が王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの名に誓って。









・あとがき




 ユウナ、登場してから疲れてない時がないのはどうなんだろう。少し体を休めてください、一日一回しか戦闘できないなんてダメすぎるから。


 フェイトさん、今回は珍しく変な方向に行かなかった。やっと真面目になってくれたのかな?


 そしてごめんなさい。

 なのはファンの方、ユーノファンの方、扱いひどくてごめんなさい。

 別に二人が嫌いな訳じゃないんですよ? むしろ、好きな方ですよ。嘘じゃないです。本当です、信じて下さい(泣


 本当はなのはSideでアースラも書こうと思ってたら書けなかっただけですし。

 次回、書くかどうかも不明瞭ですけど。




 何気にクロノ君、スペック高い気が。


「誓いの騎士」ではフェイトさんが虐待回避に成功してるので、体力、魔力、精神力、ついでに友情パワー(?)でフルスペックを可能にしているため、クロノ君を撒くことに成功っ!!!!

 ……ということにして。お願いします。


 いや、執務官ならフルスペックフェイトさんに一太刀(?)くらいあの状況でも与えられると思うんですけど……。






 では、感想への返信です。


 マコトさん
 そう言ってもらえると自分も嬉しいです。

 天秤座さん
 はいっ、途中で投げ出したりせず書き続けて見せますっ!!

 駄馬さん
 今のところ会ってないことになりそうです。オリヴィエとイングヴァルトがどの時点で知り合ったかわからないので……。

 一応、オリヴィエが9、10歳程度の頃に別れてしまった、といった設定で行こうと思ってますんで。
 だから、フェイトとダブったわけで。

 すいません、なんか本編の補足っぽくて。できるだけ中で説明できれば良いんですけど。


 まぁ結局、イングヴァルトさんは漫画の展開次第ですね、たぶん。
 もし、Vividまで食い込むことができたら、関わってくるのかもしれないけど、まだまだ先過ぎて考えてなかった……。

 余裕ができたら、『関わっていたら』で書いてみたいですね。番外編とかで。
 
 とりあえず、目指せ無印完結です。





・舞台裏




「ねぇユウナ、親友と戦友、どっちの方が友情レベル高いかな?」

「よしフェイト、今夜の討論の議題はそれに決定だ」

「じゃぁまず、親友であることについてなんだけどね―――」










「扱いがひどいのは仕様なのか」


「クロノ君、初登場なの」



「クロノ、僕たちはキミを歓迎するよ」





「「ようこそっ!!!! 『空気』の世界へっ!!!!」」




「―――っ、世界は「まだ、早いのっ!!」」

















    



[18634] 第五話 シンキング
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/14 13:03



 Sideフェイト



「はぁ、はぁ、」



「フェイト、無理はするな」



「でも、私はユウナの足手纏いになりたくない」



「何、言ってんだか。足手纏いはオレだ、オレ。
 それにそんなこと我慢された方が迷惑だ」


「う、ん。ごめんね、肩貸してもらえる?」


「あぁ、貸してやる。ちなみに貸すのは背中だ。オレはお前の『親友』で『戦友』だからな」


「あぅ」



 夜の帳が下りてだいぶたった。

 私は撤退の際に執務官からもらったダメージを隠しきれなくなり、ユウナに負ぶってもらっている。

 ユウナは腰まで届く長い髪をマフラーみたいに首に巻いている。

 騎士甲冑を展開している時は後ろで結んでたけれど。


「(痒くないのかな?)」


 首輪の上からとはいえ地肌に触れる部分は多い。

 私だったら無理。

 絶対に痒くなる。

 この間、アルフがくれた毛糸のマフラーも肌に合わなくてひどい思いをした。



「(アルフに悪いことしちゃったなぁ)」

   
 アルフが初めて編んだマフラーだったのに。

 結局、アレは部屋の飾り物になってるし。

 アルフ……。




 ぽふっ、とユウナの髪に顔を埋める。



「どうした?」

「……アルフ大丈夫かな」


 昨夜、実家に帰ってから連絡を取っていないアルフ。

 こっちに戻ってきたら、アルフのことだから、すぐに念話で伝えてくるはず。

 本当にどうしたんだろ。

 今、マンションに帰ったりしたら管理局に悟られるかもしれない。

 管理局がどれほどの探索システムを有してるかもわからないんだ。

 早く伝えなきゃいけないのに。



「(もし、何も知らずに管理局と遭遇してしまったら)」



 一人で逃げ切られるだろうか。


 相手は私より強い執務官。

 さらに補助に特化したイタチ。

 
 この二人と遭遇したら、アルフだけだとダメだ。


 執務官は論外。対抗できるとは思えない。

 イタチはアルフより補助系統の術式に優れている。きっと、やりづらいに違いない。

 


 せめて、あの白い魔導師と出会うことを祈っておこう。彼女は素人みたいだからきっと生き残れ―――、






















 ―――白い『あくま』からは逃げ切れないんだよ♪












 カタカタ、カタカタ





「大丈夫かフェイトっ? 寒いのかっ? 急に震えだしたりして、体調が優れないならどこかで休むぞ」

「ゆ、ゆうな、わ、わたし、しなないよね? さいきん、へんなんだ。あたまのなかにあのこのこえがひびいてきて」

「フェイトっ?!!!」

 
 必死に震える体を止めようとユウナにしがみつく。


「ストップ、マジでストップっ!!」

「ユウナお願い、私を助けてっ!! あの子から私もアルフも逃げられないっ!!」

「いや入ってるからっ!! ギブッ!! ギブだからオレを助けてっ!!」




  ◆◆◆




「……酷い目にあった」

「本当にごめん」


 あの子への恐怖でユウナの声が耳に届かなかった私は、ぎりぎりでユウナを解放することに成功した。


「それにしても、大丈夫か? ジュエルシードのことで白いのは避けきれないぞ。
 こんな調子だと、あの子の声を耳にしただけで発狂しちまうんじゃないか?」

「……否定できない」 

 私はユウナの体温を感じながら、先程のあの子との会話を思い出す。









 ―――フェイトちゃん、わたし、あの子に用事があるの。

 

 顔は笑顔のはずなのに、目が笑ってない白い少女。


 ―――だからね、フェイトちゃん。


 目の前にいる少女がデバイスを私に向けた。


 ―――わたしはあなたを倒してあの子とお話するの。









 ぶるっ


「ゆ、ゆうなぁ」

「よしよし怖くない怖くない、痛いのも怖いのも小山の向こうに飛んでったから安心しなさい」



 あの時はユウナを守るので必死で戦っていられたけど、もうダメだ。

 彼女の恐怖から目を背けられない。


 落ち着くために、ユウナの髪にもう一度顔をあてて深呼吸。

 昨日洗ったシャンプーの匂いがまだ残っていた。



 
「(そうだ、ユウナは私の『親友』で『戦友』だ。世界で一番対等で信頼できて、共に命をかけて生きていく仲間なんだ)」



 ユウナを洗った時は『ともだち』というものに憧れて必死だったが、一緒に戦ってまた理解した気がする。

 
「(アルフの言った通り、私、青春してるよ)」 


 一緒に強大な敵と戦うほど仲間の絆は強くなる。

 アルフと見た青春ドラマ並みの人生を私は駆けるっ!!


 ちなみにドラマの内容は、仲間思いの不良と検挙率をあげるために冤罪さえしてしまう警察との戦いを描いたものだったりする。

 無実の罪をかけられた友人を助けるために、主人公は刑務所に『だいなまいと』という質量兵器を投げ込んだり、警察庁に『たんそきん』という生物兵器を送りつけたりしていた。


「よし、管理局の船に質量兵器を打ち込もう。ユウナ、ニュークリアウェポンを用意して」

「なんなのかは知らないが、絶対やばいだろそれ。次にあの執務官にあったらフェイトの借りを百倍くらいにして返してやるやら我慢してくれ」

「百倍で止めちゃうの? 親友の痛みをそれ程度で?」

「じゃぁ万単位で返却してくるから」

「わかった。それなら我慢するよ」



 ドラマを再現してみたかったけど、ユウナが仕返しをしてくれるなら今回はそれで手を打とう。



「やっぱりユウナは親友だ」



 頬が緩むのを感じながら、私はユウナに体を預けた。



 あの子は一時放置で、管理局をどうにかしよう。

 大丈夫、ユウナがいれば戦力は無限大だ。



「~~~♪」


 Side out



   ◆◆◆




 Sideなのは



「それじゃ、あなたたちは管理局に協力したいんですね」

「はい、わたしもユーノ君も今更手を引けません。
 それにジュエルシードを集めていれば、フェイトちゃんにもユウナちゃんって呼ばれていた子と会えると思うんです。
 私は二人と話したい。だから……」

 アースラの艦長室と呼ばれる『和風もどき』の部屋で、わたしとユーノ君はリンディ提督に自分たちの意思を突きつけます。

 あのユウナっていう子とは何があっても話し合う必要があるの。

 わたしにあんなひどいことをしたんだから。


「例え無謀でもわたしは戦います」


 言葉で伝わらない時は、チカラで伝えるの。

 アリサちゃんの時だってそうだった。

 だから、わたしは―――



「―――全力を以ってあたらせてもらいます」



 
 今を以って、高町なのはは時空管理局現地協力者として戦います。

 

 


 
 Side out









・あとがき


 今回は若干、短くなってしまいました。



 フェイトの中で、なのはさんの称号が『白いあくま』に固定化されました。

 あれ? 想像していた話と違くなってる……


 こ、このままじゃ、A'sでユウナくんと一緒に学校に行けない……

 って、よくよく考えたらユウナくん、管理局と敵対するから平穏な生活送れそうにないし。



 プロット考え直し、か。


 


 なのはさんのセリフを大人っぽい、というか軍人口調を真似した素人っぽいセリフにしてみました。

 なのはさん、がんばります。






 これ、タイトルにアンチ管理局入れた方が良いかな?



 では、感想への返信です。


 駄馬さん
 一応、クロノ執務官のスペックを少し上げてみました。
 伊達に執務官じゃないと、彼はやってくれたんです。





・舞台裏







「ついにわたしの時代が来たのっ!!!! 主人公だよっ!! この流れは主人公だよっ!!
 ということで、さよなら、ユーノ君、クロノ君。

 機会があれば表舞台で会おうねっ!!!!」


「なのは、ボクを置いてかないでぇ」

「大丈夫だ、僕はまだ登場する機会があるはずだ。切り札だからな、僕は。そう、大丈夫なはずだ」











「ユウナと学校……ユウナ、今からでも遅くない、出頭しよう」

「言っておくがフェイト、キミが考えているような波乱万丈な学校ライフはきっと送れないぞ」

「まずは番長をこの手で血祭りに上げるんだっけ? えーと、ユウナはそのあと冤罪で捕まらなきゃいけないから校長を盾にヤクザ屋さんに特攻してね」

「……フェイト、オレたち親友だよな?」

「? 何言ってるの? 親友に決まってるよ? アルフはお空の星に消されたことにして、まずは白の特攻服が特徴の『星光の魔王』を潰そう」

「―――フェイトが遠い」













[18634] 第六話 アザーハーフ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/14 13:04



「二名様ですか?」

「はい。相部屋でお願いします」

「わかりました、何泊のご予定ですか?」

「んーと、とりあえず一週間で。もしかしたら、延長するかもしれないけど」

「はい、それでは金額はこちらになります」

「あ、前払いでお願いします」




「オリヴィエ……オレ、何かを失っちまったよ」




 ユウナ・シルバーフォーレスト。女子大生始めました。




 ◆◆◆



 鬱蒼とした森を抜けるとそこは、


「温泉宿?」


 海鳴市近郊の観光スポットだった。


「あ、ここは来たことあるよ。アルフと二人で来たんだよ」

「……結構余裕があったんだな」

「む、違うよ。ユウナは勘違いしてる。ここにはジュエルシードを探して来たんだよ。おおまかな場所がわかっていたから」


 ぷりぷり怒りだしたフェイトをよそに時間を確認する。
 現時刻は午前十一時。

「だからね、聞いてるのユウナっ!!」

「耳元で叫ばれれば嫌でも聞こえる。それより、今後の行動指針なんだが」

 むくれるフェイトにも関係あるから、一応真剣に聞いてくれた。

「この温泉宿を仮の拠点に?」

「そう。今、下手にマンションに帰還するよりも一度回収の終わった地域に潜伏した方が良いと思うんだ」

 まさか、観光地に堂々と滞在しているとは思うまい。

 アルフのことも考えて、マンション周辺に姿を現わして、警戒されるのは勘弁だ。
 そんな中にアルフが来て捕まったら、オレたちの失態だしな。

「それでいつでも捨てられる拠点を」

「そうだ。アルフのジャマ―がない本拠地よりは良いだろ。資金ならデバイスに常に格納してあるから滞在費は心配ない」

「現地の紙幣は私しか持ってないんだけど」

 じぃいいい、っと睨んでくるフェイト。

 顔が近い、もう少し離しなさい。


「でも、私たちの容姿じゃきっと泊めてくれないよ」

「? 何故?」

 

 宿というのはお金を払えば泊めてくれるものである。

 身なりもそんな金なしに見えるようなものを着ているようには見えない。



「この世界じゃ私たちくらいの年代には保護者同伴が常識らしいんだ」

「……作戦は失敗か」

 

 ある程度の年齢に見られないとダメとは考えてなかった。

 元の容姿なら、普通に泊まれるんだろうが―――。

 今ほどこの小さい体を恨めしく思ったことはないぞ。


「―――そうだ」


 ファイトが小さく呟いた。

 その顔が友情を語る時のものであることに気付いたオレは、嫌な汗が滲むのを感じた。


「ユウナ、私たちは親友だよね」

「あぁ、フェイトがそう言うならそうなんだろうな」

「じゃぁ、私たちは自分探しをする女子大生、女友達で泊まりに来たということにして宿に侵入する」

「色々ツッコミどころが満載だな」

「さぁユウナ、偽装術式を展開するよ。今まで必要性を感じなかったから圧縮してたけど」

 そう言うフェイトを地面に下ろすと、彼女の足元にミッド式の魔法陣、円環がクルクルと回って現れる。



「偽れ、光の悪戯」

『Fairy Light』


 黄金色の光がフェイトを包み、霧散する。


「どうかな?」


 そこに現れたのは二十歳前後の女性だった。黒い髪をストレートに伸ばし、腰のあたりで白のリボンで纏めている。そして柔和な黒い瞳。
 顔立ちはフェイトっぽいが、色が変わりすぎだ。

 黒染めして黒のカラコンをした大人バージョンのフェイト推参?


「さぁユウナも」


 ふにゃぁと蕩けてそうな笑顔で勧められた。
 しかも、バルディッシュからルーナに術式転送し終わってるし。


「はぁ……りょーかいだよ、親友」

「あ、いかにも男ってのはだめだよ? 女友達って設定だから」

「……了解」


 夢だったのに。
 男顔。

 結局オレは、元の姿の黒髪黒目バージョンで術式を固定化した。
 フェイト曰く、「鷹みたいな印象」なきりりとした『女性』らしい。
 手鏡をルーナから取り出し顔を見る。
 この切れ長の目がダメなのか。それとも顔の造形か。

「ゴリラみたいな男になりたかった」

 筋肉で世界制覇。
 したいなぁ。

「ユウナは今の方が良いよっ!! ゴリラな女友達は嫌だよ。筋肉ムキムキな女の子はユウナじゃないっ!!」


「叫ぶほど嫌なのか」

「嫌っ!!」


 というかフェイト、お前普通に元気じゃん。オレの背中に乗ろうとするな。

 それとさりげなくオレを女扱いするな。キレるぞ。

「ちなみに、この偽装は魔力とかもある程度隠蔽してくれるけど、たくさんの魔力を運用しようとすると直ぐにキャンセルされちゃうから、戦闘行為には向かないから気をつけてね」

 魔力刃の形成とか、砲撃とか、と補足を入れてくれる。ちなみに、騎士甲冑や飛翔などの補助系くらいならぎりぎり大丈夫なそうだ。


 いや、別に良いんだけどさ、それは。


「フェイト、オレの術式なんだけどいじくった?」

 問題はこっち。

 なんか、その、胸部に若干膨らみがあるんですが。


「うん、女友達だから」


 えへへ、と笑うフェイトを前にオレは膝をついた。



 完璧に女かよっ!!!!




 


   ◆◆◆




「―――、これで良し」


 旅館の部屋に案内されてから数分。

 オレはベルカ式の隠蔽結界をやっと張り終えた。

 基本的に結界なんてものは周りの連中に任せていたから、隠蔽など、相手から存在を包み隠す類のものを張るなんて慣れてなかった。



「まぁ、ベルカの人間ならまだしも、ミッドの連中にはこれくらいで十分だろ」


 だから、所々綻びが発生してしまったが、機能じたいは働いている。
 ベルカの術式に疎いらしいミッド人なら騙せるレベルなので良しとする。


「おつかれ、ユウナ」


 そうねぎらうフェイトは『タタミ』の上で寛いでいた。

 この旅館はこの国の文化に代表される『和風建築』というものだそうで、この部屋もなかなか独自の趣をしていた。


「………」

 
 オレが結界を張る傍ら、フェイトは今のようにずっとごろごろしていた。


「(オレは怒って良いんじゃないか?)」


 頑張って作業している横で遊んでいるやつがいたら、殴って良いと思う。オレが許可する。


 ぺしっ


「痛っ?! なんで叩くの?!」


 でも、フェイトだから軽く叩くことで済ましてやろう。

 叩かれた頭を押さえながらフェイトはこちらを睨んでいる。

「フェイトはダレ過ぎだ。一晩もオレが背負ってやって、その上ひとの集中力を下げる行為をした。だから罰だ」

「うぅ、………いじめっ子」

「いじめじゃないし。むしろフェイトだろ、それ」


 オレの言葉に「?」と首を傾げるフェイト。

 なんか無駄に可愛いな。大人バージョンになっても。


「この首輪」


 そんなフェイトに見せつけるように首を指さす。


「それがどうかした?」

「『どうかした?』じゃないだろっ!! 絶対これ、勘違いされるしっ!! なんで犬用の首輪なんだよっ?! せめてチョーカーと言い訳できるものしてくれっ!!
 オレの性癖がどうたらと思われるだろっ!!」


 叫びまくるオレに、『可哀そうな子』を見るような目を向けるフェイト。


「何を言ってるの、ユウナ。ユウナが普通(?)な人だって私は知ってるよ?」

「何故、クエスチョンマークが入っているのかを問いただしたい。それとフェイトじゃなくて周りの反応についてだ」

 オレはコメカミを押さえながら言葉を吐きだした。

 それにフェイトは溜息を一つして答える。

「そんな人たちは放っておけば良いんだよ。本当のユウナを『私が知っている』ってことが重要なんだから」

 フェイトはマジな顔で言い切った。

「そのための首輪なんだから」

 その瞬間、思考が停止しそうになる。

 は? そのための首輪?

「どうゆうこと?」

 念のために訊く。するとめっちゃ良い顔で、

「私だけが知っていることでね、ユウナとの絆が深まると思ったんだ」

 と仰った。

「最初は友達になるための手段だったんだけどね」

 「えへへ」と笑うフェイトが遠く感じる。

 というか、逆に絆が切れそうになってるんですが。いやマジで。

 
「あ、そうだ。ユウナ、さらに友情を深めるためにお風呂に行こう。『裸の付き合い』でドラマの不良達はさらなる連帯感を手に入れてたんだ。
 あと、『同じ釜の飯』を食べればいいんだって」



「誰か助けてっ?!」




   ◆◆◆



「……もう、婿にいけない」


「大丈夫、ユウナはちゃんと『お嫁』にいけるから♪」


「オリヴィエ、ごめん、オレは穢されてしまった。もうキミの前には立てないよ」


 大浴場から戻ってきたオレは、無言で布団を敷き、それに潜り込んで泣き寝入りを始める。


 初めて会った時の印象と全然違うフェイトに、オレは絶望した。


 友達ができるだけで、あんな寂しそうな目をしたやつがここまで元気になるとは思わなかったよ。



 一応、風呂に行く前にオレが男であることを言い募ったのだが、フェイトはこう言った。


 ―――大丈夫、ついてないユウナなら、『意識があっても洗える』よ♪


 えーと、つまりあれですか。

 
「(フェイトにとってオレを洗うことは当然ってことですか)」


 結果。



「もう消えてなくなりたい」



「~~~♪」


 上機嫌のフェイトは髪にドライヤーをあてて乾かしている。


 あぁ、こいつはなんて幸せそうなんだ。


 やばい、視界が歪みだした。



「そうだ、ユウナ。卓球とかもしよう、そしてそれが終わったらまたお風呂に行って夕御飯。うん、これなら友情レベルがさらにワンランクアップするかもっ!!」



「むしろダウンするっ」




 なんだかんだ言っても従ってしまうオレがいた。

 ちなみにフェイト、自分中心で考えるのは止めよう。友達なくすよ? 主にオレだけど。



 こうして、時間は流れて夜になった。

 夕飯は季節が旬である食材で振る舞われた和食料理。

 
 フェイトは「おいしいね」と言っていたが、いや確かにおいしいんだが、こう、ほらオレも男だし、


「肉料理をがっつりと食べたい」


 食い終わって、月を眺めながらぼやいた。


「アルフみたいなことは言わないで早く寝よう。明日から遠出して、サーチャーを使っての探索をするって言ったのはユウナだよ?」


 そう言って、オレの布団をぽんぽんと叩くフェイトさん。

 あと、言わせてくれ。

「布団、寄せすぎだ」

 どうして広さあるこの部屋で布団を密着させる必要がある。

「『しゅうがくりょこう』では夜はこうやって語り合ってゆうじょ「わかった、もう言わなくて良い」なら、良いよ」



 たぶん、オレはフェイトのことを諦めてしまったんだと思う。あ、涙が流れちまったよ。




 こうして、今日も夜は更けていく。



   ◆◆◆


 Side アリサ


 今日、なのはが当分学校に来ないと担任の口から言われた時、私は茫然としてしまった。



 最近のなのはは、すずかや私に何か隠し事をしていたのは知っていた。

 そして、それを私たちに打ち明けてくれないことに腹を立てていた。

「(悩んでるの、ばればれなのよ)」

 私たちは友達なのに。

「(相談すらしてくれないなんて。そんなに私たちって頼りない?)」

 
 そんな風に思っているうち、ある日を境になのはの表情が変わっていることに気付いた。

 それ以前は「わたし、困ってるの」って言ってるような顔だったのに、その日からは「あいつ、ぶっ殺す」的なオーラを滲ませた笑顔を振りまいていたのだ。

 なのは……何があったのかは知らないけど、ほどほどにしときなさいよ。刑事事件なんて起こさないでよね。



 だから。

 そんな時になのはが学校を休むなんて言われたものだから。


「(ついに、ヤっちゃったのね)」


 つい頭の中で呟いてしまった。


「(すずか……)」


 視線をすずかに移すと、たぶん私と同じようなことを考えていたのだろう。

 諦めた顔をしていた。

 すずかが私の視線に気づき、視線が交錯する。


 私たちは一拍置き頷き合った。



 院から戻ってきたら、必ず更生させよう。

 私たちが無理してでも話を訊かなかったから起きた悲劇。

「(なのは、友達として、責任、少し負わさせてもらうわ)」


「では、高町さんがお休みの間、ノートとプリントは、」

「はい、私が!!」







・あとがき



 『ずっと私のターン』なフェイトさんでした。

 うちのフェイトさん、何故こんなキャラに……。


 この頃のフェイトってもう少し暗くて、凛としたイメージがあるのに。

 

 さて、今回はユウナ君、大人モードに戻れました。女性ですが。

 この二人、正しい『友達』の知識をはやく手に入れてもらいたいものです。

 フェイトさん、あなたテレビの見すぎです。誤った情報もあるんです。
 純粋過ぎて、ユウナくんの心がズタズタになってますから。



 そして『なのは様』のターンかと思いきや、やっぱり出てこなかったなのはさん。

 代わりにアリサ視点の最近のなのはさんを書いてみました。

 なのはさん、あなたもしっかり周りに相談しましょうよ。誤解を生みまくりです。


 ……いや、正しいのかな?




 ちなみに、土日はたぶん投稿できないので、次に会うのは月曜になると思います。

 部活の新歓をやるのでたぶん徹夜でカラオケコース行きです。
 途中でたぶんダウンするんだろうな……

 ネット環境があれば、日曜にはできるかもしれないんですが、ないんです。
 ですので、平日の月曜までさよならです。


 消えた訳ではないので見捨てないでください(ぺこり




 では、感想への返信です。


 盗る猫さん
 うちで迷走してないやつがいるでしょうか。いや、いないのです。
 たぶんこれからも、彼らは迷走するでしょう。


 ドルメンさん
 下手したら近日中。もしくはstsの頃でしょう。


 ルファイトさん
 洗脳……良いかもしれません(←いや、ダメだからっ!!





・感想があるってだけで結構モチベーションが上がります。
 駄作で、最近暴走気味のフェイトさんがいますが、今後ともよろしくお願いします。
 ではまた。





・舞台裏



「アリサちゃんにそうゆう風に見られていたなんて……」

「当然の結果じゃないかな? 最近のなのは、目がなんかギラギラしてたし。
 お兄さんなんか、本気で止めようかどうか迷ってたよ」

「おにいちゃんにまでっ?!」


「表舞台で会おうと言って、結局君は戻ってきたんだね」

「うるさいなのっ!!」





「ユウナ、なんでそんなに落ち込んでるの?」

「本気で気づいてないのか……」

「?」

「―――『天然』って怖い」

「ユウナ?」





[18634] 第七話 アルフウィッシュ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/17 13:01



 Side アリサ

「送信っと……はぁ」


 私は溜息をつきながら携帯を閉じた。
 
 今朝、なのはが院に入れられた(?)ことを担任から聞いてから、何度ついたかすらもわからないほどついている。

 それほど私は責任を感じているようだ。

 しっかりなのはの話を聞いて入れば、なのはの手は誰かの血で汚れていなかったのかもしれない。
 そう思うだけで私の心に暗雲が立ち込める。

 だから今日は、なのはが学校に戻ってきたらどのように更生させるかという内容をすずかと一緒にずっと考えていた。

 一つに、命の尊さ。
 猫や犬に触れて、どれだけ生命というものが大切かを肌で感じ取らせる。

 二つに、友情。
 私たちがなのはと一緒に遊んで、なのはが殺してしまった人にもそんな人間がいたと説いて、残された人がどれだけ傷を負ったか心に訴える。

 最後に、性格矯正。
 上の二つがダメなら、恭也さんに頼みこんで、心を鬼にして剣を覚えてもらおう。健全な体には健全な魂、厳しい修行を通して誠実な性格に改造するしかない。
 これはあくまで最後の手段。
 私だって、運動音痴ななのはをそんな世界に叩き落としたくない。
 でも、これはなのはのため。

 私も心を鬼にするわ。

 今もすずかと他の道はないかを検討しているところだ。

 先程のメールの内容は、やはりプロの話を聞いてみようというもの。

 家に帰ったら色々調べなくてはならないだろう。


「はぁ……」


「お疲れのご様子ですね、アリサお嬢様」


「うん、そうかもしれないわ。ちょっと友達が道を踏み外しちゃったみたいなのよ」


 鮫島に少し心中を吐露する。

 そうしている間にも車は静かに道を進む。

 私は外の景色を眺めながら、今後について考える。


「(ほんと、どうしよ)」


 少しすると公園の入り口が見えてきた。

 私は何気なくその公園の中を覗き込む。 

 すると、

「っ?! 鮫島、ちょっと停めてっ!!」

 何か、オレンジ色の塊が公園の中にあった。

 なのはのことで、血などの危ないことに起因するものを一日中考えていたせいだろう。

 その塊の周辺に赤い色をしたものがぶちまけられていた気がする。


 停車した車を飛び出すと、すぐに公園の中に駆けて行く。


「う゛ぅ、う゛ぅ」


「やっぱり、大型犬」


 そこには苦しそうに浅い呼吸をする、見たこともない大型犬が倒れていた。

 身体中に鞭か何かで叩かれたような跡がある。
 酷いところでは皮が裂け、血があふれている。

 だがそれよりも、腹部にとてもひどい火傷があった。
   
 何をどうしたらこんなことになるかなんて私には想像できない。

 大型犬の口には吐血した痕跡もある。

 内臓にもなにかしらのダメージがあるようだ。


 私に追いついた鮫島が息を飲み込む気配がした。


「鮫島っ!!」

「心得ております」



 私たちは治療するために大型犬を乗せ、急いで屋敷へと車を走らせた。






 Side out



   ◆◆◆




 Side アルフ




「わぁ、目が覚めた?」




「(アレ、このちびっ子、どっかで……)」




 あたしが目を覚ますと、見慣れない檻の中にいた。

 周りを見渡すと、ここはどこかの屋敷の庭のようだ。

 自分の体に目を遣れば、包帯をされていたり、薬品の匂いがすることから、このちびっ子に治療されたのだろう。


「あんた、頑丈にできてるのね。あんなに怪我してたのに命に別状はないってさ」


 ちびっ子はそう言ってほほ笑むと、檻を開きながら食事を中に置いてくれる。


「怪我が治るまではうちで面倒見てあげるからさ」


 喋りかけながら、あたしの頭を優しく撫でてくれる。


「安心していいよ」


 言葉通り、あたしを想いやってくれているようだ。


 そうだ、思いだした。


「(あぁ、あの子の―――)」


 友達なんだ。


 ついこの間行った旅館で、あたしから守るように白い魔導師の前に立った女の子。
 あたしが怖いはずだったろうに、友達を想って立ち向かえる心の強い子。


「ほら、柔らかいドッグフードなんだけど、食べられる?」


 ちびっ子は温かい口調で語りかけてくる。

 あたしは促されるまま用意されたドッグフードに食らいつく。

 食べている途中もちびっ子の顔を見たりしながら、あたしは食事を続けた。


「ふふ、そんなに食欲があるなら心配ないね。
 食べたらゆっくり休んで早く良くなりなね」


 ちびっ子は、とても優しい目をしていた。



   ◆◆◆



 あの銀髪の子を拉致し―――げふんげふん助けてきた夜。

 あたしは最高に気分が良かった。

 だって、フェイトが、あの感情を消してしまったかのようなフェイトが珍しく表情を変えていたのだ。

 だからフェイトを家に置いて、一人であの鬼婆に会いに行っても良いという気持ちになっていた。

 もしかしたらフェイトに同年代の友人ができるかもしれない。

 そう思うだけであたしの心は躍っていた。






「(だけど……)」





 檻の隙間から空を見上げる。



 その空には小さな星々と大きな月。



 雲一つない夜空に対し、あたしの心の空には冷たい雨を降らす灰色の雲が立ち込めている。




 頬を涙が伝う。



「(―――フェイト)」



 『庭園』に帰還しようとしたあたしはケーキを持ってくるのを忘れていたことに気づいて、戻ろうにも張り切って部屋を出て行った手前帰りづらかった。
 だからその夜は適当に散策して、昼間になるまで時間を潰してケーキを買い、『庭園』に戻った。

 流石に一昼夜起きていたため眠くなってしまい、仮眠をとってから鬼婆の元へ向かった。

 フェイトの手紙を受け取り忘れていたが、とりあえずケーキを持って報告を行った。

 が―――


 ―――これはあまりにもひどいわ。


 あの女は苦虫を潰したような顔をして、


 ―――たった四つ。これだけじゃ全然足りないわ。


 フェイトを、あたしのご主人様を罵倒し始めた。


 ―――人形が。ほんとに役に立たないわね、あの人形は。





 あたしは激怒した。
 フェイトは体を張ってジュエルシードを集めていたんだ。
 それもあんたのためにっ!!


 あんたの笑顔を取り戻すために頑張ってたんだっ!!

 それに人形ってどうゆう意味だいっ?!
 フェイトはあんたの娘だろうがっ!! 


 ―――なんだ、まだ居たの? ったく、知らなくてもいいことを勝手に聞いて。


 あたしの言葉に反応した鬼婆はさもつまらなそうな顔をして、ふと良いことを思いついたという顔になった。
 その顔は魔女そのものと言っても過言じゃなかった。


 ―――そうだわ、あの子に使い魔の亡骸を見せればもう少しやる気を起こすかしら?


 そう呟くと、デバイスを取りだし鞭にして、


 ―――それに口封じにもなるし、良いじゃない。


 あたしを叩き始めた。



 あたしの中では既にあいつはフェイトの母親なんてカテゴリーに属してなかった。

 あいつはフェイトの敵。

 なのに、あたしはあいつにかすり傷も負わせられなかった。


 変幻自在の鞭裁き。


 ―――言っておくけど、ここから逃げたって無駄よ? あなたの大切なご主人様に連絡を取った瞬間に、あなたのご主人様が痛い思いをするだけよ。


 確かに、この女なら次元跳躍魔法ぐらい簡単に使えるだろう。
 だからあたしは最後の力を振り絞ってやつを殺さなきゃ。

 フェイトの敵は、あたしが絶対に排除するっ!!


 あたしはありったけの魔力を使い、あいつに接近し殴り殺そうとする。

 しかし、バリアで近づけない。

 なら、バリアブレイクをすれば良いっ!!

 

 あたしの得意分野のそれを始め、あいつのバリアを侵食し


 ―――ほんとうにうるさい駄犬ね。


 瞬間、腹部に衝撃。


 気を失わないでいられたが、すぐに床を転げまわされ頭が朦朧とし始めた。


 ―――さぁ、これで楽にしてあげる。


 そう言う鬼婆の周りには、バチバチと音を立てる魔力球がたくさん浮かんでいる。
 そのひとつひとつが殺傷設定の上、フェイトのものに比べ段違いの威力を誇っているのは明白。






 だから、あたしは逃げるしかなかった。
  
 
   ◆◆◆


「ただいま、どう? 少しは元気になった?」

 ちびっ子―――使用人の言葉から推察するにアリサは屋敷に戻ってすぐにあたしのところにやってきた。


「がうっ」

「そう、少しは元気になったのね」

 アリサはあたしの返事に気を良くして撫でまわす。

 ひまわりみたいな笑顔。

 フェイトが見せることのない笑顔。

 

 あたしはつい、金髪の彼女にご主人様を幻視してしまった。


 
 今頃フェイトはどうしているだろうか。

 もう、あたしはフェイトに会うことはできない。

 フェイトを助けることすらできない。

 あの鬼婆がこの世から消えるまで。



 あたしはアリサの温かい笑顔を見て、願う。



 ―――いつか、フェイトもこんな笑顔で笑えますように。





 Side out






 ・あとがき

 
 すっかり表舞台に現れなかったアルフさん編です。
 本編がきりの良いところに来たような気がしたんで入れてみました。

 入れよう入れようと思っていたんですが、なかなか入れられなくて困ってたんですよ。


 そして、この話を書いていて気付いたんですが、アリサの目って翠色なんですね。


 やばい、オリヴィエと被るっ!!


 フェイトの理由と若干被ってしまう。これはまずい。

 ユウナ君にはフェイトの傍にいてもらう予定なのに。

 いや、アリサのこと、嫌いじゃないんですけど、流れ的に困るんです。

 アリサにまで手を伸ばすユウナ君はダメです。

 まぁ、出会うことはないと思いますが、一応フェイトに拘る理由を考えとこ。



 ちなみに、アリサたちはなのはが殺人をしてしまったと思ってます。
 そんなにやばい目をしていたんでしょうか、なのはさんは。
 

 感想・アドバイス、ご指摘など色々待ってます。
 それがあるだけで夕凪のテンションのアップダウンが面白いくらい激しくなります。


 では、感想への返信

 アズマさん
 そう言われれば、はやてもいましたね。
 その考えはなかったです。

 シグナムとの絡みばっかり頭に浮かんで、他の八神家の存在が薄くなってました。

 なんか、こう、ユウナ君のイメージが結構シグナム要素があったりなかったりしてて。





・舞台裏(?)


「どうも、アリサ・バニングスよ。
 最近どうも私の中の人がやってるアニメの原作、『鋼の錬金術師』が次の号で最終回を迎えるというCMが流れたためにわざわざここまで宣伝しに来たわ。
 というか、中の人ってなに。
 
 まぁ、これはただの建前で、実は夕凪が『ゼロの使い魔』のSSを読んでしまったのが原因のようね。
 どうも私と声がそっくりな人が出てくるらしいのよ。
 それの影響でこれから結構な頻度で私が出てくることになりそうなのよ。

 そ、つまりは『ご挨拶』というとことよ。
 私は色々忙しいからほんとは来たくないんだけどね。


 え? じゃぁ来なくて良い、ですって?

 ふん、そう言う訳にはいかないのよ。

 なのはを更生させるあたしの使命から言っても、そういう場面が増えることは好都合なのよ。

 ……別になのはのためなんかじゃないんだからねっ!!
 これは私の責任なんだから、自分で始末をするのが当たり前なだけよっ!!

 それに……あのオレンジの毛並みの犬も関係あるっていうから来てるだけなんだからっ!!

 そこっ!! 笑うなっ!!


 ―――こほん。という訳でこれからよろしくお願いするわ。

 アリサ・バニングスでした」






・舞台裏


「何気にアリサちゃんの方がわたしよりたくさん喋ってる気がするのっ!!
 登場してたった二話目でこんなに出番を貰ってるなんてずるいのっ!!」

「なのはちゃん、私だってセリフもらえてないんだよ……。
 アリサちゃんとずっといるはずなのに」

「あ、すずかちゃん久しぶり。
 ……ねぇすずかちゃん、アリサちゃんの出番を削る方法ないかな?」

「なのはちゃんが、黒い」





「(アリサは良い子だよぉ。
 友達思いの優しい子だよ。
 いつかフェイトと友達になってくれれば、あたしは嬉しいよ)」

「? どうしたの? 急に頭を擦りつけてきて。
 そんなに御主人様が恋しいの? よしよし、安心しなさい。私がちゃんとご主人様を見つけてきてあげるから」

「(……ほんとに良い子だよぉ)」












 



[18634] 第八話 ブルーティヒルーナ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/18 13:02


「いやさ、想像は若干していたんだよ。

 隣の布団で、しかもあんなにぴったりとくっついていたらそれくらい考えたさ。

 でもさ、さすがにフェイトもここまでしてくるとは思わなかったんだよ。

 考えてみろよ。
 フェイトは女の子で、オレは男だ。

 間違いというものはどうなって起こるかわからないんだから。
 一応変身魔法で姿形が女になっていようとオレの心は絶対的な男だ。
 それに世の中にはレズビアンという人たちもいる。

 だからフェイトがこんなことをしてくるとは夢にも思わなかったんだよ。

 大事なことだから二回言う。

 フェイトがこんなことをしてくるとは思わなかったんだよ」


 オレは虚空に向かって喋り続ける。


「それにフェイトが言う『友情を深める』っていうのにはきっと『同衾』なんてものがあるなんて想像もしなかったんだよ。
 
 だからこそ、警戒を怠ってしまった訳で」

 
 オレは肺の空気を吐き出して、ゆっくり吸いこむ。

 あ、フェイトの匂いだ。


「って、変態的なことを考えるんじゃない、オレ」


 深呼吸して落ち着こうとして、さらに心臓の鼓動を速めてしまう。

 よし、もう言い訳はよそう。



 現在は朝。


 昨夜、布団を並べて語り合った仲のフェイトはオレの『親友』だ。

 例え、体の隅から隅まで洗われてしまっていたり、首輪をつけられ『本当のユウナを知っているのは私だけ♪』なんて言ってくる独占欲の強い子であっても、オレにとっては『親友』なのだろう。
 ……自信ないけど。


 そう。例え彼女が変身魔法で色っぽくなっていようと。
 
 そう。例え彼女がオレの布団にいようと。

 そう。例え彼女がオレに絡まるように抱きついていようと。


 そう、きっと彼女は『親友』なのだろう。



「大丈夫だ、オレ。若干着崩れを起こしているが、一線は越えていない。
 安心しろ、オレ。見た目は女性だが、彼女は九歳の女の子だ。計算してこんなことをしているわけじゃない。
 そう、これはきっと事故なんだ」


「ゆうなぁ」


 幸せそうに寝言をいうフェイト。


「ダメ、まおうからはにげられない」


「……どんな夢をみているんだ」


 よく顔を見れば苦悶の表情に歪んでいた。


「そいつ、ころせない」


「やばい、内容が気になる」


 こうして、朝の時間は経っていく。

 現実逃避はまだ続く。



   ◆◆◆



「―――封印っ!!」


 サーチャーに引っかかったジュエルシードに念のために封印魔法をかけてデバイスにしまうフェイト。


「これで、六つ目。良い感じに回収できてるようだな」


 オレは変身が解除されているフェイトに近づいて声をかける。


「うん、これも全て友情パワーだよ」


 そう答えてオレにハイタッチを要求するフェイト。

 ちなみに、友情パワーとは今朝のあれで補充されたパワーらしい。

 うん、出会って二日くらいだが、フェイトが遠いです。こう、人間的に。

 一応要求に応えてタッチするも「投げやりだ。やり直し」と怒られた。



 そんなこんなで変身魔法を掛けなおしたフェイトと宿に帰ろうとしていたら、「ジュエルシードっ!!」とオレが反応する前にフェイトが暴走に気付いたので、そちらに急行することになった。

 アレ? 友情パワーってパラメータアップに本当に繋がってたの? 






 現場に向かうと、既に暴走体は封印されていた。


「来たね、フェイトちゃんに―――ユウナちゃん」


 そして、白い魔導師も。



「―――っ!!」


 その声を聞いて震えだすフェイト。

 現場に近づく時、変身時の姿を見られないためにオレたちは変身魔法を解除している。

 オレは咄嗟にフェイトの小さな体を抱きしめていた。


「大丈夫だ、フェイト。あんなのは怖くない、怖くないんだよ。
 よしよし、大丈夫だ、オレがついてるから」


「ゆうなぁ」



 本当に怖かったのだろう、涙目になっている。


「フェイトは使い魔をなんとかしてくれれば良いから」


「でもユウナが殺されるのを見てられないよ」


 どうやら、今朝の夢の話らしい。


「魔王からは逃げられないんだよっ!!」


「大丈夫、倒すから」


「でもこいつ殺せないっ!!」


「たぶん色々勘違いしてるぞ、お前。
 そう、初見で内容がわかってない人みたいな感じだ。
 とりあえず、アレはただの人間だから落ち着け」


 フェイトの頭を撫でながら、オレは白い魔導師と対峙する。


「そう言う訳で、お前の相手はオレだ」



 白い魔導師はこちらの様子に不満があるようだが、目がヤル気満々なようだ。


 フェイトを離し、彼女がいる空へオレも昇る。


「ユウナ、頑張って」


「大丈夫だって」


 オレはフェイトに答えて白いのと同じ高さで止まる。

「はじめまして、と言わせてもらうよ。
 ちゃんとキミと話すのは今回が初めてだろうからね」

 白い魔導師はだらりと杖を持ち、すぐ戦う様子ではない。
 だから、騎士として挨拶くらいしておく。


「名はユウナ・シルバーフォーレスト。
 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが騎士。
 
 今回は『親友』フェイトのためにジュエルシード集めている」


「わたしは、高町なのは。
 時空管理局現地協力者。

 最初はユーノ君のためとか色々あったけど、今は少し違うの」


 タカマチはそう言った後、オレに鋭い眼光を投げつけてきた。


「わたしはあなたに教えなきゃいけないの。
 人に対する礼儀とか、色々ね」


 彼女はオレに向け、ビシッと杖を突きつける。


「だから、わたしはあなたと戦うの」



「……なら、ベルカの騎士として応じるぜ」


 オレはまた唇の端を持ち上げる。

 戦闘時の頭の切り替え。

 その暗示的なそれを行う。


「オレはお前から逃げずに勝つっ!!!! 泣いてもシラネぇぞ、ガキがっ!!!!」






 オレは首に掛けている鎖についてある小さな水晶を、服の下から取り出す。








「月の女神に宣誓を」



 唄うよう諳んじる。



「我、そなたの血族の末裔にして終の一人」



 今は亡き、母の母国の最後の人間。



「我、ここに、為すべきことを再度誓わん」


 
 それは、いつか。幼き頃、居場所がなかったオレが誓ったこと。



「――我、我が王に害為す者へ災厄を振り撒かん」



 そして、居場所を得て誓い直したこと。



「血塗れ女神の大槍、起動っ!!!!」



 オレの言霊に反応し、水晶に『起動』のベルカ文字が現れ、周囲を光で覆う。





 その光の奔流が過ぎ去ると、オレは騎士甲冑を纏っている状態になっていた。



 速度重視の軽装備である白銀の鎧。
 冑はなく、長い銀髪を後ろで結い、鳥の飾り羽のように見える。
 肩のあたりには自身を表す鷹を象った文様が三日月に重なるように刻まれている。
 鎧の彼方此方に血色で施された細工。

 そして、籠手には大きくなった無色透明な水晶。



「ルーナ」



『Lanze Form』


 水晶が明滅し、それが外れ、それをコアとして機械的な鮮血色の大槍が形成される。
 その機械はやはり鷹の鉤爪のような造形をし、矛先は例外的に鋭く真っ直ぐな形状をしている。
 そして大槍の表面は、対流があるかのように、刻々と模様を変えていく。




「殺し合おうか魔導師。
 いや、ガキ相手にそれはひどいか。
 言い直そう、



 さぁ、戯れようぜぇ!!!!」
  




   ◆◆◆


 戦闘が終了し、フェイトの多重転移で追跡を眩ませた後、変身魔法を行使してやっと旅館に戻ってきた。

 ちなみに、今回は海の上に転移し、咄嗟のことで対応できず海に落ちた。
 この季節の海はものすごく寒いです。

 そういうわけで、すぐに風呂に直行し、湯船で温まってます。
 うん、温泉最高。 


「今回タカマチから手に入れた六個と合わせて合計十二。順調だな、フェイト」

「うん、そうだねユウナ」


 タカマチとの戦闘で勝利したオレはあいつのデバイスから『全て』のジュエルシードを吐き出させた。


 気絶しているタカマチを回収するためか、またはジュエルシードを取り返しに来たかは知らないが、執務官が突入してきたが軽く捻って終了した。


 魔導師が少し武術を齧ったところで、所詮は魔導師。

 ベルカの騎士が負けるわけがない。


「それにしても、ユウナは強いんだね。
 私が敵わなかった執務官をあっさり倒しちゃうし」



「当たり前だ。
 オレはやつらに負けてやるつもりはないんだからな」

 そう答えて肩までお湯に浸かる。

 フェイトもマネして、ぽけぇと幸せそうな表情をする。

「ゴクラク、ゴクラク」

「なんだよ、それ」

「テレビで言ってたんだ。温泉に入る時はそう言うんだって」

「だいぶこの国に染まってきてるんだな、フェイトは」

「そうかも、全部終わったらこの国に住みたいって最近は思うんだ。
 母さんとアルフと……本当はユウナとも一緒にいたいけど」


 フェイトの顔に若干影が差す。


「あぁ。無理だな。
 オレはオリヴィエの騎士だから、終わったらベルカに帰る」

「……そうだよね。
 終わったら、お別れだもんね」

 そう言って俯く。
 内心、溜息をつく。
 フェイトは普段元気だけど、基本的にネガティブだ。
 だから、オレはフェイトに言う。


「―――でもさ、終わっても会いに来るから。
 オレたちは友達だろ、親友」

「っ、ユウナぁ」
 
 瞬間的に暗かった表情が一変して明るくなる。

 いや、嬉しいのはわかったから抱きつくなっ!!
 オレら、全裸なんだから、意識しないようにしていたものがあたってるからっ!!



 お願いだからやめてっ!!!!



   ◆◆◆


 Side クロノ


「あれはなんだったんだ」


 アースラの艦橋で僕たちアースラスタッフは頭を悩ましていた。

 ユーノはなのはの看病でここにはいない。

 現在、僕たちの悩みの種である少女たちの画像がスクリーンに現れる。


「フェイト・テスタロッサ。
 この子の方は一応調べがついているんだけど」

 エイミィが資料を映し出す。
 そこにはやはり、大魔導師、プレシア・テスタロッサ。
 フェイトは同じファミリーネームなどから恐らく彼女の関係者であることは推測できる。

 だが、


「だけど、こっちの子。
 ユウナ・シルバーフォーレスト、だっけ?
 この子のデータが全然出ないんよ」


 映し出されているのは銀髪の少女。
 虹彩異色のベルカの騎士と名乗る年端もいかない彼女。



「攻撃魔法が効かないレアスキル。
 それにあの虹色の魔力光」

「なんだかヤバ気だね」


「一応、ベルカ騎士領、聖王教会にユウナ・シルバーフォーレストと名乗る騎士が所属しているか尋ねてくれ。
 それと、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトという名もだ」

「りょーかい」




「……さて、藪をつついて蛇がでるか、はたまた虎か」





 Side out








・あとがき

 

 ユウナ君、これでフェイトを意識してくれないかな?
 してくれると良いな。

 でもフェイトさんがまだ精神的に子供(九歳だから仕方ないですけど)ですから、やっぱりstsまで待たなきゃダメかな?



 さて、魔王様、瞬殺です。
 クロノ君も瞬殺です。


 うん、やっぱりチートになってた。

 

 物語的にどうなんだろ。
 良いのか?

 最終手段はフェイトとの戦い(?)の記録になりそうで怖くなってきた夕凪です。


 次回あたり、ユウナ君に未来に来てることを告げられるかな?
 告げたいなぁ。

 というか、まだ本編内で三日くらいしか経過してないよ。
 フェイトさん、接近し過ぎじゃない?



 では、感想への返信です

 f*ckさん
 はい、一応自覚してます……





・舞台裏(?)


「どうも、アリサ・バニングスよ。
 えぇと、実はなんかよくわからないんだけど、コーナーを持つことになったのよ。
 今週からよろしくお願いします。

 さて、今日から始まる私のコーナー、『舞台裏(?)(仮)』でこれからやっていくことを決めなくちゃいけないみたいなのよ。

 私としては、一刻も早くなのはを更生させたいんだけど、これもその一環らしいから仕方なくやってる訳。
 理解できた?

 はぁ。
 これもそれも、夕凪が『ゼロの使い魔』を読んだせいね。
 私は忙しいってのを知っててこんなコーナー任せるんだから。




 ……話がそれたわね。

 まぁ、あれよ。
 きっと、フェイト以外が空気になりかかってるかるから、救済処置としてこうなったのよ。
 で、フェイトって誰?


 さて、今回このコーナーでは、コーナー名とやってもらいたいことを募集することにするわ。
 何しても良いらしいし。
 
 誰も送ってくれなかったらどうしようもないけどね。

 第一、このSSを読んでくれてる人ってそんなにいるの?

 本当になかったら、私、もう二度と来ないわよ、ここ。


 はぁ……まぁ良いわ。


 とりあえず、今回はこれでお開きにしましょ。


 それでは、アリサ・バニングスでした。
 次の投稿で会いましょう」



・舞台裏



「アリサちゃん、また勝手に出しゃばって……」

「なのはがいつにも増して黒い。
 やっぱり、瞬殺で落とされちゃったから増量中なのかな」

「それもあるだろうが、嫉妬の方が多いだろう。
 僕たちよりセリフが多いなんて許せないだろう?」

「ボクはもう諦めてるから」







「フェイト、良いか?
 お前はもっと体を大切にしろ」

「? ユウナ、どうゆうこと?」

「その、だな……。
 いや、なんでもない。
 とりあえず淑女になるよう心がけてくれ」

「よくわからないけど、わかったよ」



 
 



[18634] 第九話 ナノハコンフロント
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/19 13:05



 Sideなのは


「こ、こは……」


 目が覚めると、わたしはアースラの自室で横になっていた。


「そうだ、わたし……」


 そう呟くと、脳裏にユウナちゃんの姿が現れる。



「負けちゃったんだ」




   ◆◆◆



「あ、なのはちゃん、もう体は大丈夫なの?」

「はい、おかげさまで」



 ブリッジに行くとエイミィさんが一人でなにやら作業をしていた。

 エイミィさんはわたしの心配をしていてくれたようで、わたしも笑顔を作って安心させる。

 それでもエイミィさんは心配気に見てくるので、話題の変更に彼女の手元を見て提供することにしよう。


「あ、これは……」



 でも、そこには、



「ユウナちゃん……」



 今、あまり思い出したくない人が映っていた。





「えーと、ごめんね。
 なのはちゃんの前でこんな画像開いていて」

「あ、いえ、その……」



 私の表情を見てか、エイミィさん苦笑いしながらすぐに画像を消した。



 ……ダメだな、わたし。また気を遣わせてる。


「ごめんなさい、わたしちょっと食堂の方に行ってきます」

「あ、うん。その、元気出してね?」

「にゃはは……」


 いつもは完璧に出来る笑顔は、今日に限っては無理そうです。




   ◆◆◆



『―――さぁ、戯れようぜぇ!!!!』



 食堂に向かう間、わたしの頭の中には先程の映像が流れていた。







 あの時。

 大きな鳥の化け物を倒して、ジュエルシードを封印した直後のこと。


 ユーノ君の結界の中に、ユウナちゃんとフェイトちゃんが飛び込んで来たの。



『(ついに見つけたの、ユウナちゃん)』



 わたしはユウナちゃんを見つけ、心が燃え上がるのを感じたのを今でも覚えている。




『来たね、フェイトちゃんに―――ユウナちゃん』



 わたしの口は自然と動いていた。

 それが当然であるかのように。



 そして何故か知らないけど震えだすフェイトちゃん。



『(なんか、よくわからないけど失礼だと思うの)』



 ムッと思ったけど、わたしは表情に出さずにいられたと思う。


 そうこうしているうちにわたしたちは名乗りを上げ、戦いの火蓋を切った。







 最初に動いたのはわたしだった。


 多少頭に血が回っていたとは思うけど、しっかり魔法で攻撃したのを覚えてる。


『アクセルシューターッ!!』


 わたしの周囲に二つの桜色の魔力球を生成しながら高速移動(フェイトちゃんには劣るけど)を開始。


 
 ユウナちゃんは先程の威勢はどこに行ったのか、表情を消し、目を閉じてまったく動こうとしない。



 そんな彼女に、魔力球を別々にコントロールし、直線、曲線、緩急、色々試行錯誤の末、アタックさせる。


 スピードは上々。

 背後と真上からの攻撃。

 目を瞑るユウナちゃんには避けられるはずはないっ!!




 だけど、


 わたしが移動してから一度も動かなかった彼女は、この時やっと動いた。





『やはりただの素人』




 瞬間、彼女の体ごと槍が回る。




『考え、浅いよ』



 掻き消される魔力球。



『じゃぁ―――こっちの番だぜっ!!!!』


 そして目が開くと、先程の獰猛な彼女がいた。

 異色の瞳が欄欄と光り、肉食獣のように嗤う。

 わたしはすぐに距離を取るために空に逃げる。



 やってしまったと内心焦る。


 わたしは後悔してたんだ。


 魔力量はわたし以下だと、わたしはタカを括っていたんだ。



 そして、わたしと直接戦ったことがなく、フェイトちゃんに戦闘を任せていたように見えたから、判断をミスった。




 わたしより弱いんじゃないかと思ったのも事実。


 砲撃さえしていれば、わたしに勝てるはずがない。



 フェイトちゃんみたいな速度がでないなら。


 バックを任されている、すぐに魔力枯渇を起こすような人なら。




 わたしの考えを押し通せると思っていた。



『(―――だけどっ!!)』



 違かった。


 あれは狩られるものがする目じゃない。



 雰囲気が、

        そう、
 

               あれは、



『(狩る側のものっ!!!!)』




 小学生のわたしでもわかる。

 

 わたしは何を勘違いしてたんだろう。



『(勝てるわけがないっ!!!!)』



『ぁあ、あああああああああああっ!!!!』



 上空に昇って下に向けてディバインバスターを打ち放ちまくる。


 その幾本もの桜色の柱に飲み込まれるユウナちゃん。


 でも、わたしは安心出来なかった。




 あんな目を見たら、安心できる訳がない。





『はぁ、はぁ、』


 一、二分撃ち続けて、わたしは砲撃を止めた。


 その間もわたしの心臓は早鐘のように脈打っている。

  
 わたしが作った煙を見つめて、心の中で呟く。



『(お願い……)』


 どうか、


        墜ちて、 











『―――これで全力出したか?』









『………』



 『あぁ、やっぱり』と思いながら、煙が晴れていく場所を見つめる。


 そこには、かすり傷すらなく、疲れた様子もない彼女がいた。




『じゃぁ、お遊びはここまでだな』




 そう呟いた彼女は、


『おやすみ、タカマチ』



 瞬きし終わった時には、



『よい夢を』



 わたしの目の前にいた。






 ◆◆◆


 

 頼んだスパゲティを啜りながら一人思う。


「(たぶん、あの瞬間にわたしは槍で叩き落されたんだ)」


 意識を取り戻してすぐに医者の話を聞いたところ、わたしは地面に叩きつけられたようなんだけど、レイジングハートが頑張ってくれたおかげでそれほどダメージがないみたい。


 ちなみにユウナちゃんは更にわたしを攻撃してこようとしたそうだけど、レイジングハートがジュエルシード全部を生贄にして許してもらったみたい。



「(……わたし、よくあんな子に礼儀を教えるとか言って戦うって言えたの)」


 高町なのは、後悔中。


「……でも、いつか絶対勝つよ、レイジングハート。正義は我にあり、だよ」


『All right, Master』


 わたし、挫けても絶対勝つもん。


「(こんな怖い思いをよくもさせたななの)」
   

 わたしの戦いはまだ始まったばかりなのっ!!





 Side out




   ◆◆◆




 Side リンディ



「やっぱり……クロノ君、何度分析しても彼女、プロテクションの類を使わずに、あの砲撃を耐えきってるよ」


 現在、私の前方でクロノとエイミィが先日の戦闘映像を眺めている。


「一応ね、魔力値とかも計測してたんだけど、ここの点以外では普通にAくらいの魔力量でおかしなところもないし」


「レアスキルと仮定していいと?」


「うん」


 なのはさんの砲撃が終わり、現れたユウナさんはフェイトさん並みの速度でなのはさんに接近し、まるでハエ叩きのようになのはさんを地面に落とした。


「あ、ここではブースト系の補助を使ったみたい。足元にもベルカ式の剣十字が現れてるし、なんらかの魔法を使ってるね。

 ジュエルシードを回収……あ、出てきたクロノ君が速攻で森に落とされてる。

 だからあれほど場所には気を付けてって言ってるのに」


「エイミィがあそこに転送したんだろっ?!
 僕が悪いみたいに言わないでくれっ!!!!

 それに速攻でって言うが、ここを見ろ。僕はしっかりガードしてるんだ。
 エイミィが場所にさえ気をつけてくれたら、もう少しまともに戦闘できたんだ」



「でも、きっとこっちの多重転移には間に合わなかったと思うよーだ。

 ユーノ君がフェイトちゃんに敵うわけないんだから、もっと前の段階で突っ込んでれば展開変わったかもよ?」


「それはだな、あのフェレットもどきが使えないからで」


「―――ほんとはなのはちゃんに良いとこを見せたかったんじゃないのぉ?」


「エイミィ!! いい加減にしろっ!!」


「へっへーん!! クロノ君なんて怖くないよ―だ!! あはははは」


「え・い・み・ぃ!!!!」



 最近のブリッジの日常風景。

 クロノとエイミィの痴話喧嘩が始まった。



「うちのクロノにも春が来たようね」



「母さんっ?! いつのまにここにっ?!」



「二人が『自分たちの空間』に行っちゃってたから気付かなかったのよ、きっと」


「そんな場面あったっけ?」


「……なんか疲れた。僕は部屋に戻るから、例の件、頼んだよ」

「りょーかい。エイミィさんにおまかせ~♪」



「はぁ、早く孫の顔がみたいわ」


 そう言って角砂糖を緑茶に入れる。


 うん、おいしい♪




 Side out







・あとがき


 珍しい。

 本当に珍しいなのは視点のお話でした。


 この視点はおそらく当分出ないかな?


 ユーノ君空気。
 ごめんねユーノ君。入れようか迷ったけど、なんか流れ的に端折っちゃった。




 あと、リンディさん視点が手抜き工事。

 ごめんなさい、エイミィさんを出したかっただけです。

 いつか、手を加えると思います。


 感想・ご指摘・アドバイス、待ちまくってます。


 では。



・アリサ部屋(仮)


「おはよう、こんにちわ、こんばんわ。
 アリサ・バニングスよ。


 一つ言わせてもらいたいことがあるのよ……。




 反応なかったらやめるって私、言ったでしょっ!!!!!!!



 何が哀しくて誰も見ない空間で喋らなくちゃならないのよっ!!!!


 うぅ、私の時間を返しなさいよ……。





 ……はぁ。まぁよくないけど良いわ。
 
 仕事だもの……。
 負けた気がするのには目を瞑るわ。





 では仕切り直して―――こほん。


 えぇと、アリサよ。
 なにやら、仕事を押し付けられたのよ。
 だから、今回から私がそれを代行するのでよろしく。


 さて、連絡です。
 明日はなんと夕凪が投稿している場所が創立記念日だかで閉まっているようなのよ。

 と、いうことで、金曜日に会いましょうという話のようね。


 読者、ついてくると思ってるの? こんなに頻繁に間を空けて。


 で、仕事二つ目。


 感想の返信らしいわ。
 

 駄馬さん
『一応これで……微妙ですが』
 
 練習あるのみね。


 ルファイトさん
『それは次々回あたりに』

 ほんとにする気あるのかしらね?


 ごごいちろうさん
『え? クロノ、死亡フラグ?』

 どちらかというとユウナじゃない?

 ―――って、だからユウナって誰なのよっ!!!!

 最近、頭に知りもしない情報が……病気かしら。


 ふぅ。

 とりあえず、こんな感じかしら?

 それじゃ仕事も終わったようだし、私も帰るわ。

 実は今、AM 1:35だったりするのよ。

 頭が回らないわ。

 それじゃこちらも意見があったらお願いするわね。

 おやすみなさい。




 おはよう。

 感想の返信追加よ。

 アズマさん
『やさぐれなのはがもしかしたら普通になっちゃうかも……』

 私としてはそれが目的なんだけど……。 

・舞台裏



「やった……ついにわたしやったよユーノ君っ!!!!
 わたし視点がやっとでたよっ!!!!
 わたしがこれをどれほど待っていたことか」


「結局ボクは空気なんだね……」


「『だが、この話は僕らがボロ負けの様子を語ってるだけだから、素直に喜んで良いものなのか?』

 と僕は思うのだが」


「気にしたら負けだよっ!!!!」






「ユウナ、ヒマだよぉ。
 構ってぇ」

「フェイトのイメージが崩れていく」






[18634] 第十話 ミセステスタロッサ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/21 13:03






「ここが私の実家だよ、ユウナ♪」


「これは……もしかしてフェイトって名のある家柄なのか?」



 タカマチからジュエルシードを取り上げてから一週間。
 地上にあるだろうジュエルシードを全て回収したと考えたオレたちは、残る捜索エリアである海中を探る前に一度フェイトの実家に帰還した。

 正しくは『フェイトが』なのだが。

 そんなわけでフェイトの実家、『時の庭園』についたオレは、その大きさ、構造、場所などに気付いて、はっきり言って驚いた。



 次元間航行が可能な移動庭園。


 それを個人所有していること。


 さらによく見れば、結構な年代ものだ。


 訊いてみれば、『小さい頃から住んでる』らしいし。



 あれ? フェイトってお嬢様?




 そんなことを考えながら、城のような造りの廊下をつき進む。


 フェイトは若干頬を上気させて嬉しそうに歩いている。


 考えてみれば、フェイトは母のためにここまでしてきたんだ。

 それがもうすぐ達成される。

 相当嬉しいに違いない。


 少しして大きな扉にぶち当たった。

 厳めしいその扉を勢い良く開け放つフェイト。



「母さんっ!! ただいまっ!! 聞いて母さんあのねジュエルシードをもうほとんど手に入れたんだよそれでねこれから残りの六個を海から引き揚げればきっかり全部回収できたことになるだよこれで母さんの研究も進んで皆で平和に暮らせるよ私としてはニホンに皆で住んで幸せに暮らしたいんだそういえばアルフ知らない? 母さんのところに行ったきり帰ってこないんだよそれでね―――」



「―――あなた、本当にフェイトなの?」


 フェイトの母、プレシア・テスタロッサはポカーンとした顔で呟いた。

 帰還早々、早口であんなに表情豊かに喋るフェイトを見たらそう思って当然だとオレも思う。

 あんなに静かで大人しかったフェイトが、たった数日でこれほどまで変わるとは誰が考えられただろうか。


「? 何を言ってるの、母さん? 私は母さんの娘、フェイト・テスタロッサに決まってるでしょ?」


 首を傾げるフェイトを見ながらミセス・テスタロッサは「ありえない……記憶の転写は失敗したはず。でも、あれはアリシアそのものだわ。それじゃ実験は成功していた? それなのに私はアリシアにあんなひどい態度を―――」と訳のわからないことを呟き始めた。





 え? フェイトの訳のわからなさって血筋なの?





 ちなみにフェイトはそんなミセスに「それでねユウナがね―――」と一方通行気味に話し続ける。


 この噛み合わない親子はなんなのだろうと思うのは普通だよな?







「それで、あなたは?」


 時間が経ち、自分の世界から帰って来たミセスがオレに対して不審な者を見る目で尋ねてきた。
 
 たぶん三十分ほど、カオスな親子風景があったと思う。


「……自分はユウナ・シルバーフォーレスト。
 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが騎士。
 
 先日、事故であなたの娘が来ていた世界で彼女に救われたベルカの騎士です。
 現在はフェイトの親友であると考えています。

 今回ここにやって来た目的は、フェイトさんとの協力関係にあることを今更ながらですがご報告と、報酬の件についての許可をもらいに来たことです」


「報酬?」

 眉を顰めるミセス。


「はい、自分はジュエルシードの回収に協力する代わり、全てが終わったらここの転送装置でベルカに送ってもらう約束をしています。

 事故であんな辺境世界に着いてしまったため、自分単独では帰還できなかったので協力を申し出たのです」


 そう答えるオレにミセスは「時空管理局に救援を求めなかったのはなぜ?」と聞いて来たので「奴らは敵だ。それこそ何故彼らに助けを請わなければならない?」と返すと、彼女はどこか納得したような表情をして頷いた。


「良いわ、ジュエルシードを集めて持ってきた後ならここは用済みだから」


 そう口にするミセス。


「それと、フェイトのことだけ―――っかは!!!!」

「は?」

「え?」


 それは急だった。


「母さんっ?!」


 フェイトについて何か語ろうとしたミセスが血を吐いてよろめいた。


「―――っ、なんでもないわ」


 肩で息をするミセスは口元を拭いながら、支えようとするフェイトを押しのけオレのもとにやってくる。

 そして、オレの目を見ながら言葉を紡ぐ。  



「……騎士ユウナ。見ての通り、私は後がないの。ジュエルシードを全て手に入れて、『最後の実験』を行った後には、たぶんこの世界にはいないわ。



 ―――だから、フェイトのことを頼めないかしら?」



「母さんっ?!」


 自分がもうじき死ぬことを告げるミセスは、真剣な表情でオレを見る。


「……はぁ。

 わかりました。

 そんな顔されたらオレだって頷かなきゃならないっての。

 フェイトのこと、任されました。

 親友として天涯孤独になる彼女を放って置けないですし」


 そんなミセスに首を横に振れないオレは承諾した。



「その言葉に嘘はないのね?」


「我が王の名に誓って」






   ◆◆◆



「フェイト、よく聞いて。

 実はあなたには姉がいたの」


「かあさん、ぐすっ」



 泣きじゃくるフェイトに優しく語りかけるミセスは、たぶん、母親の顔をしていた。



「その姉の名前はね、アリシア。アリシア・テスタロッサ」


「ありしあ、おねえちゃん?」

 
「そう、とっても元気で明るくて、友情とか冒険が好きな子だったわ。

 同い年の子が誰もいない場所に住んでいたせいかね、そうゆうのに憧れてたの。

 あの子はよく、山猫のリニスと一緒に草原や林を走り回っていたわ」


「うん」


「けれど、事故で死んでしまったの」


「っ?!!」


「ジュエルシードを集めていたのも、今まで研究していたのも、そのため。

 そして、おそらく私はこの実験に成功しなければ間違いなく死ぬわ」


「かあさん……」


「だから、フェイトはあの『友達』と待ってなさい。

 私は必ずアリシアと元気になって戻ってくるから」


「うん、かあさん。わたし、そのためにものこりのろっこをはやくもってっくるよ」


 そう言ってヒシと抱き合う親子。




 なんだろう。



 なんか違和感があるけど、世界ってこんな感じだったっけ?






   ◆◆◆




 Side プレシア


「行ってきますっ!! 母さんっ!! 私、絶対持ってくるからねっ!!」


 そう叫んで飛び出すフェイト。

 それを慌てて追いかける銀髪の子。

 バタンッ、と閉まる扉。



「ふぅ……」


 私は意図せず溜息をついていた。


「まさか、実験が成功していたなんて」


 誰もいない部屋で、私の声だけが木霊する。


「フェイトがアリシアだったなんて……。いえ、あの子はアリシアの妹ね。

 もう一人のアリシアだわ」


 玉座から立ち上がり、部屋の奥の扉を開け放つ。



「アリシア……」



 その部屋の中央にはシリンダーに入った、愛娘が浮かんでいる。




「もうすぐよ。

 ジュエルシードは全て集まり、アルハザードへの扉が開かれる。

 そして、あなたを蘇らせて、戻ってフェイトと家族三人で幸せに生きましょう」



 部屋にはシリンダーの作動音だけが響いていた。





 Side out




   ◆◆◆





「あ、アルフのこと訊くの忘れてた」


「……お前、ホントにあの使い魔の主か?」




  ◆◆◆

 Side アリサ



「あんた、中々綺麗な毛並みね」


 なのはが院に行って数日。

 あの日、オレンジの毛色の大型犬を拾ってきてから、私の日課になりつつあるブラッシングを庭でしている。

 大型犬は見た目と異なり大人しい性格のようで、穏やかな顔をして私の行為を受け入れている。




 あれからこの子の飼い主を鮫島に探させているけど、まだ見つかりそうにない。



 私はこの子について色々考えた。

 珍しい犬種。


 もしかしたら、サーカスやテレビ、そう言った見世物として生かされてきたんじゃないのか。

 その末、言うことを聞かないからと体罰を与えて、それから逃げて来てあそこに辿り着いたのでは。 


「(もしそうなら―――)」


 元の飼い主がひどい扱いをしているのなら。


「(私がご主人様になってあげるからね)」


 自然と頬が緩む。


「くぅん?」


 そんな私の表情に気付いたのか、この子は頭を傾げて窺ってくる。

 本当に頭の良い子だね。


「あんたが行くとこないなら、うちに住まない?」

「くぅん……」


 すると、私の言葉がわかるのか、私に頭を寄せてくる。

 その瞳はどこか悲しそうで。


「本当に言葉がわかるみたいな反応ね」


 くすっ、と笑いながら、私はブラッシングの続きをする。
 


 


 日差しのぽかぽかする、午後のひとときだった。












 Side out






 ◆◆◆





 Side なのは


 現在発見できているジュエルシードを全て回収されてしまった皆は途方にくれていました。


「相手は十五個も回収済み。これはやばいな……」


 クロノ君が目元を解しながら海鳴市の地図を見ます。



 ロストロギア。



 『それがあれだけの数を奪取されていることを考えると、それだけで寒気がする』とこの前クロノ君が呟いていた気がする。



 先日、わたしたちの持つジュエルシードを奪い取られてしまったこともあり、こちらの面子はズタズタ。

 だからエイミィさんは寝る間を惜しんで探索し、武装隊の人たちも町に行っています。



 まぁ、それはわたしのせいなんだけど、わたしはもう振り切ってしまったのでさほど気にしてません。

 精々頑張って下さい。



「クロノ君、そろそろ特訓の時間だよ。早く訓練室に来てね」



 だから他の人が他所で汗を流している間、わたしは腕を磨く。




 フェイトちゃんも気になるけど、今のわたしにはあいつ―――ユウナ・シルバーフォーレストしか眼中にない。





 奪われたなら奪い返せばいい。 




 目には目を。

 歯には歯を。



 それが、戦いの本質だってお兄ちゃんが言ってた気がする。



 だから。

 
 わたしはあいつを倒す。

 
 わたしの役目はただそれだけ。









・あとがき

 


 うちのフェイトにかかればシリアスも全て流れるっ!!

 この子がいる限りうちでシリアスってムリじゃない?



 なんかプレシアさんが正気に……。

 これが『ふぇいとくぉーりてぃ』

 予定をどんどんぶち壊してく。

 夕凪もコントロールできなくなってる。



 ―――ユウナ君、あとは任せた。夕凪にはムリだ。



 そしてなんだかんだ言って魔王様登場。

 ……こっちの子はどこに向かってるんだ?



 あと、読んでみるとやっぱり短い……。

 どうしよ、マジで。


 感想・アドバイス・ご指摘待ってます。

 ぶっちゃけ、あるのを見るだけで本当に嬉しいです。

 


・アリサ部屋(仮)


「アリサ・バニングスっ!! 推参っ!!


 ……キャラじゃないわよ、こうゆうのは。


 ―――こほん。


 改めて、アリサ・バニングスよ。

 こんなSSに目を通してくれてお礼をまず言っておくわ。

 このセリフを言うべきなのは夕凪のはずなんだけどね。

 

 最近なのはが『アクマ』とか『魔王』言われる理由がわかった気がするの。

 私はなのはを本当に真っ当な道に導けるのかしら。



 次、感想への返信らしいわ。

 ソラさん
『はい、見ての通りシリアスの欠片もありませんっ!!
 なのはさん魔王化計画は水面下(?)で進行中』

 えっ?! 私の努力が無駄に終わるの決定済みなのっ?!
 







・舞台裏


「最近、わたしの出番が増えて来たよ……このまま行けば主人公にっ!!!!」


「ボクはムリだと思う」

「僕もだ」



「……二人とも、口は災いのもとなんだよ」



「「―――なんでもございませんっ!!!!」」



「ふふふふふ……」


「「(なのはにだけは逆らっちゃダメだっ!!)」」







「ユウナっ!! ユウナっ!! これで私たち母さん公認の『親友』だねっ!!」

「なんかムダにテンション高いな」

「これからはずっとユウナといられるんだから、上がるに決まってるよ? ……母さんと別れるのは悲しいけど、ね」


「びしっ」


「あいたっ」


「ここで湿っぽいの禁止な」

「ユウナ……私のこと心配してくれてるんだね、ぐすっ」

「いや、せっかくのシリアス要素は本編で使わないともったいないだろ?」


「―――なんだろ、なんかさっきと違う涙が」









[18634] 第十一話 ワンデイ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/24 16:19





 Side アリサ





「なのは……」

「なのはちゃん……」




「あ、久しぶりだねアリサちゃん、すずかちゃん。
 でも、なんで皆そんなによそよそしいの?」



 今日。

 一週間ほど院に行っていた(?)なのはが帰ってきた。


 私やすずか同様、クラスの皆はなのはから一歩ほど距離を置いて接しているのは『いじめ』ではない。


 その理由は、




「「「(なんで更生されてないんだっ?!)」」」





 院に放り込まれたはずのなのはが以前よりやばい雰囲気を纏っていたからだ。


 クラスの皆は『帰還したなのははきっと前同様可愛いなのはに戻っている』と考えていただけにショックが大きかった。

 
 だって、そう思うに決まってる。


 院の更生プログラムによって矯正されるはずのなのは。


 それが。


『わたしを邪魔するやつは一族郎党皆殺しなの』


 なんて目になっているんだから。


 そのくせ顔は笑顔なんだから引かない方がおかしい。




「(すずか)」


 アイコンタクトで親友に伝える。


 彼女はわたしに頷き返す。



「なのは、今日の放課後なんだけど、うちに来ない?」



 これは私たちの責任だから。


 絶対、助けるからね、なのは。





 Side out






    ◆◆◆




 ミセス・テスタロッサに手持ちのジュエルシードを保険として全て預けてきたオレたちは、もう本拠地がばれても構わないとマンションにやってきていた。

 念のために変装魔法をしてあるが、管理局の能力がわからないためなんとも言えない。

 ベルカに帰ったらそこらへんのことを調べなくては、今後に関わってくるだろう。


「やっぱり、アルフいないね」

「オレたちが出てから誰も入った形跡がないな」





 フェイトの使い魔は『時の庭園』にもいなかった。

 そしてこのマンションにもいない。




「どこにいったの? アルフ……」




 フェイトはミセスが死ぬかもしれないということで一杯一杯だ。
 
 それでもそれを表に出ないように頑張っているのに。


「(使い魔が主の重しになってどうする)」



 フェイトは自室のベッドに倒れこむ。

 不安で仕方ないんだろう。

 顔を他人に見られないよう、シーツに押し付けている。


「フェイト……」


 オレはそのベッドの端に腰掛けて、頭を撫でることくらいしかできなかった。


 フェイトが言うには、アルフは消滅はしていないらしい。

 オレには守護獣なんていたことがなかったからわからないが、主と使い魔の間にはなんらかの繋がりがあるそうだ。
 
 それが途切れた感覚がないことから無事だと言えるのだとか。



「(こんな状態じゃ収集はムリだな)」


 フェイトは「あるふぅ、えぐっ」とずっと悲しみ浸っている。


「(本当にしょうがないやつだな、オレの親友は)」


 オレは溜息をついて立ち上がる。

 撫でていた手が離れてオレの様子に気づいたフェイトは『見捨てるの?』と訴える瞳で見上げてくる。


 だから、オレはフェイトに言ってやった。




「親友、遊びに行こうぜ」



「―――へ?」






    ◆◆◆




 Side フェイト





「ユウナ、ここは?」


「たぶん、劇場みたいなもんだろ。あ、大人二人でお願いします」



 私たちは海鳴にあるシアターの中にいる。



「デートですか、はい、大人二人ね」


 受付のお姉さんがそう言いながら半券を渡してくれる。


「? ねぇユウナ、『でぇと』って?」

「すまん、オレにはわからん。でも意味合い的に『遊びに行く』って感じじゃないか?」

「かな?」


 私たちは薄暗い観客席に座りながら開幕するのを待つ。


「それで、何を見るの?」


 私が訊ねると黒髪のユウナは口の端を持ち上げ「フェイトの大好きなテーマのだよ」と答える。


「私が好きな?」


 なんだろ? 私が好きなテーマのって?


 そんなことを考えていると明かりが全て消え、映画が始まった。



 平日のせいか、私たち以外には三、四組しかいなくてガラガラだった。



「―――っ、これはっ」


「そう、旅館で泊まっている時にやっていたドラマの劇場版」


 それは、私とアルフが嵌りに嵌った不良たちの生き様を描いたあのドラマだった。




   ◆◆◆  



「~~~♪」


 シアターから出ていく私は上機嫌だった。

 
「ユウナっ、最高だったねっ!! 特にあそこ、親友を守るために核の発射スイッチに指を押し付けて、『そいつに指一本でも触れてみろっ!! 俺様の指がこれを押しちまうぜっ!!』ってセリフっ!! 本当にあれには痺れたよ。全世界、何十億人だっけ? それを人質にたった一人の親友を助け出す。カッコイイよねっ!! 『世界の全てを敵に回そうがっ、ダチの味方でいられるのが【親友】ってやつなんだよっ!!!!』。言ってみたいなぁ。ねぇユウナ、管理局に捕まったら私がニュークリアウェポンを手に入れて本局に攻め込んであげるから、一度捕まってくれない?」 

「フェイト、一回落ち着こうな。

 こんな往来で大きな声で喋るもんじゃない。

 それにネタばれになるから。

 見てない人が哀しがるから」


 ユウナは周囲の人に頭をペコペコ下げながら、私の手を引いて移動していく。

 そんなに私って迷子になりそう?

 
 その後、手を繋いでいるユウナと『あそこが面白かったよねっ!!』『は? あそこが?』『うんっ!!』『へ、へぇ……その、フェイトって今更だけど個性的って言われないか?』『?』『……いや、なんでもない』という感じに映画について熱く語りながら海鳴を散策した。

 
 うん、ジュエルシードを回収し終わったらまた見に来よう。
 その時にユウナにもっと理解してもらおう。
 ユウナは所々抜けてるから、私がしっかり解説すれば、よりこの作品を愛してくれる。
 うんうん。


 少し歩いていると、ユウナと私のお腹がくぅくぅ鳴りだしたので昼食をすることになった。


「えぇと―――あったあった。ここで良いよな、フェイト」


 というわけで、駅の近くにあるファミリーレストランに入った。


 昼時なので結構混雑していたけど、運よく席が開いていて助かった。


「こうゆうところ初めてだから緊張するよ……」

「この世界のレストランのシステムはオレも初めてだからな。オレも失態のないよう気をつける」

「ユウナ、言葉が堅いよ。もしかして、ユウナも緊張してる?」

「……多少は」


 二人でそわそわしながら、おっかなびっくりにボタンを押して注文する。

 というわけで、食事が来るまでに会話を続けよう。
 
 そう、友情には相互理解も必要なのです。

 私たちの『友情パワー』をさらにアップさせるためにも必要なんです。


 そして、ファミリーレストランについてお互いの考えを出し合って、時間を潰す。

 結論は、『家族用と言うけど、別に拘ってる訳ではない?』というものに。

 本当に意味のない議論だけど、私たちにとっては楽しい会話なんです。本当だよ?




「そう言えば、ユウナの仕えてるオリヴィエさんってどんな人なの?」

 というわけで、家族ついでに前々から気になってることを訊いてみた。

 出会った時、私がその『妹さん』に似ているから助けたって言われていたから、結構興味があったのだ。


「オリヴィエか? そうだな………」


 すると、ユウナは腕組みをして、自慢げに語り出した。


「オリヴィエはオレの従妹にあたるやつでな、まさに目に入れても痛くないほど可愛いんだ。

 オレが唯一、ゼーゲブレヒトの家で『家族』と呼べるのはあいつだけだ。

 オリヴィエはな、フェイトみたいなサラサラの金髪でな、明るいところだとその髪に光があたってなんと言うか天使みたいに神々しいんだよ。

 そして、あの頬笑みだ。太陽みたいに気持ちを温かくしてくる柔らかい笑みをする時もあれば、ニカって眩しいくらい明るい顔する時もあるんだ。

 それに紅と翠のオッドアイでな、ゼーゲブレヒト家でも聖人と言われる特徴の瞳をしててな、それがさらにオリヴィエの魅力をアップさせてるんだぜ?

 しかもオリヴィエはとっても優しい子でな、命の大切さを皆に説いて回ったり、悪辣非道なやつらには拳で以って制裁を与え、その上で『にいさん』って慕ってくれるだ。

 だからオレはあいつの夢が叶うまであいつの槍になり、背中を守るって誓ったんだ。

 ま、今はフェイトの槍なんだけどな。

 この件が終わればフェイトもベルカで暮らすことになるだろうから紹介するよ。

 同い年くらいだし、きっと仲良くなれるさ。それでな―――」


 ……うん、ユウナの家族、というか妹さんへの愛は理解できたから止まってユウナ。

 周りの視線がこっちに向いてるから。

 あ、でも解るよ。

 私も母さんへの愛や友情を語れと言われればユウナ以上に喋れる自信があるんだよ。えへんっ!!


 

「おいしかったな、フェイト」

「うん、そうだね。旅館に泊まって以来、ずっとおいしいものばっかり食べてる気がするよ」

「それまではあの栄養補給しか考えてないゼリーが主食だったしな」

「おいしくて当然、かな? ―――うん、終わったら料理でも覚えよう」

「その時はオレが試食か、親友」

「ふふん、ユウナの舌を肥えさせて見せるよ」


 腹ごしらえも済んで、午後は適当にウィンドウショッピングをして過ごした。

 と、言いながら、数点買い物もした。

 店員さんに聞きながら服を何着か買ったり………ユウナが間違われてレディースコーナーに連行された時は面白かったなぁ。









 Side out


 


   ◆◆◆



「よし、良い笑顔になったな」

「ユウナ?」

 
 ソフトクリームをぺろぺろ舐めるフェイトが首を傾げる。


「今朝のフェイトは戦場に行けるほど安定してなかったし」


 オレはそんなフェイトの頭を撫でながら、「(オリヴィエより柔らかい髪だな)」なんて思っていた。


「さて………それじゃそろそろジュエルシードを回収しに行くか。な、フェイト?」

 
 そう声をかけると、即座にソフトクリームを口に放り込み、


「―――そうだね、ユウナ。この戦いに終止符を打とう」


 と、凛々しいセリフを紡ぐフェイト。


 残念ながら、口元についたソフトクリームで台無しだぞ?



「よし、心意気は買うからじっとしてろ」


 しっかりクリームをおとしてやるオレ。

 オリヴィエを育てたオレだ。
 これくらいできるのは当たり前。


「………この戦いに終止符を打とう、ユウナ」


「言い直さなくて良いから」


「この戦いに「わかったから」」


 

 ジト目で見てくるフェイト。

 空気を読め的な視線は受け付けない。




「それからこれやるからな」


 と言ってフェイトの首にネックレスをかける。


「? ユウナ?」

「よし、この剣十字のネックレスはオレとフェイトの絆の象徴だ。

 最終決戦なんだから、こうゆうのがあった方が良いだろ?」


 フェイトは茫然と首にかかった銀色の剣十字を手にとって見つめている。

 その剣十字のど真ん中にはフェイトの瞳と同じ紅色の宝石が埋め込まれている。

 ちなみに、オレも同じものを首にかける。


 それを見た途端、


「そうか、そういうことなんだね、ユウナ」


 理解したのか、『お前、空気読んだな』的な視線を向けて来てサムズアップ(というらしい)をするフェイト。


「友情には欠かせない『絆アイテム』。それを用意してくるなんて、さすがユウナ、私の親友だ」



 目をキラキラさせるフェイトに「買って良かったと思う」オレだった。








   ◆◆◆


 ちなみにこの日、映画館を初めに『モデルみたいな綺麗な女の子のカップル』が海鳴の各所で見られたという噂が流れたとか。

 まぁオレたちとは関係ないだろうな。


   ◆◆◆ 







 Side アリサ




 なんでこんなことになったんだろ。

 私は目の前の光景を理解できないでいる。



「アルフさん、探したよ。こんなところにいるなんて、わたし、全然思いつかなかったよ」


「―――っつぅ、あんた、本当にあの時の白いのなのかい?!」



 なのはを動物との触れ合いで正気に戻そうと考えて、うちに連れてきた。

 そして、最近拾った大型犬を見せた瞬間、なのはがその子の傷を狙って思いっきり蹴りあげた。


「わたしはわたしだよ。高町なのはだよ。それより、どうしてアリサちゃんちにいるのかな? わたしはそっちの方が不思議なんだけど」

「アリサは、あたしの命の恩人、だよ。だから、アリサはなんにも関係ないっ!!」


 今も大型犬が無抵抗を良いことに傷口を踏みにじっている。 
 

「ふ~ん、まぁいいよ。そう言えば、フェイトちゃんとあいつ―――ユウナ・シルバーフォーレストはどこ?」


 なのはは学校でした瞳をさらに険しいものにして大型犬、アルフに問う。


「知らないねっ!! あたしは次元震が起きたあの夜からフェイトには会ってないんだよ」


 そう吠えるアルフの傷をさらに抉り、


「その言葉に偽りは?」


「ぐっ―――あるわけがない」



 途端、つまらないものでも見るような目になるなのは。



「そうなんだ」


 なのはは呟くように言ってアルフを蹴り飛ばし、


「―――っ、来たっ!! ジュエルシードっ!!!!」


 ビクンッと肩を揺らした後、私たちに目もくれないで屋敷を走り去ってしまった。




「………なのは」


 私はなのはが去って行った方を見つめるしかなかった。


「アリサちゃん」


 心配気に私に近寄ってくるすずか。 


「なのは、変わっちゃったんだね」

「………うん」

「私たち、なのはをもとに戻せるかな」 

「わからなくなってきたよ、アリサちゃん」


 私がすずかに視線を移すとすずかの瞳は濡れていた。


 私も頬を『温かい何か』が伝っている。



「本当に、どうすれば良いのよ」



 心が軋む、ある夕暮れのことだった。




 Side out






・あとがき



 えーと………なんか、なのはさんが、やばい。

 うん、なのはさんがやばい。


 とりあえず、フェイトたちを書いて、次回海上戦。

 無印がやっと終えられそうです。
 


 うん、なのは書いたためか、なんか筆(?)が進まない……。



 感想・アドバイス・ご指摘待ってますんでよろしくお願いします。





・アリサ部屋(仮)

「―――タコス食うか?




 ………。




 ―――っ、なんでもないわよっ!!


 はいっ、アリサ・バニングスよっ!!

 最近なぜかタコスが食べたくなるお年頃なアリサ・バニングスよっ!!

 別に良いでしょっ?! 私がなに食べたって他人には関係ないんだからっ!!

 えっ? 口臭が気になるような食べ物は関係あるでしょう?

 それはそれよ。これはこれ。

 タコスは関係ないわ。




 さて、仕事の時間よ。

 草薙さん
『ジュエルシードですが、
 
 第七話ではアルフ、ジュエルシード持って行ってないです。
 ただ、口頭でいくつフェイトが回収したか伝えただけです。

 第一話で、急いでマンションを飛び出してしまったので、バルディッシュから取り出せてないんです。

 纏めてみると、


 第一話―――フェイト4個。なのは5個。

 第三話―――フェイト4個+ユウナ1個=5個。なのは5個。

 第八話前半―――フェイト4個+1個+ユウナ1個=6個。なのは5個+1個=6個。

 第八話後半―――フェイト5個+ユウナ1個+6個=12個。なのは6個ー6個=0個。

 第十話―――フェイト5個+3個+ユウナ7個=15個。なのは0個。 


 で、海の中に6個で計21個です。


 第十話で【タカマチからジュエルシードを取り上げてから一週間。 地上にあるだろうジュエルシードを全て回収したと考えたオレたちは、残る捜索エリアである海中を探る前に一度フェイトの実家に帰還した。】の文章内で三つ回収してたんです。

 しっかり明記せず、誤解を生んでしまってすいません』

 無印編が終わったら、そうゆう曖昧な所とかの手直しをするらしいから勘弁して欲しいらしいわ。

 こうやって壊滅的な矛盾が発生しないと良いんだけどね。

 それと、

『ユウナとなのはでの変わり具合の違いは、うちのフェイトがテレビっ子で、本編内で友情ドラマ(?)に嵌ってしまっているせいだったりします』

 と、言い訳してるわ。



 ろんろんさん
『なのはさんは………えーと、そのまま魔王化?』

 というか、もうしてる気がするわ。

 うちのアルフによくもっ!!


 アズマさん
『そう、フェイトがいる限りシリアスは全て壊されます。

 まさにシリアスブレイカ―。




 ―――ポータブルっ?!

 あ、あれからstsに繋げられるかな……。



 できそうなら入れたいな、あの水色フェイト。

 あー、でも個人的には「星光の~」をだしたいな。

 というか、生き残らせたいよ、あの人。

 ただ、生き残ると本板の人のと被っちゃわないか怖い、マテリアル生存。

 ……生き残るところだけ被ってもいいですか?』

 それ以前に無印とA'sを完結させなきゃだめでしょ。

 あれよ、とらぬ狸の皮算用。

 そういえば『狸』に関係がある人がいたような?


 ソラさん
『このセリフだけは一話開始時点から入れたかったやつなんです。

 あと、なのはさんは悪役にはなりません。

 ただ、『魔王』になるだけですよ』

 そこに絶対的な差があるのね。

 でも私的には、なのははもう戻れないところにいる気がするのよね……。


 じゃ、次の投稿で会いましょう。

 夕凪も大学が忙しくなりそうだから、一応書きためようとストックを増やそうと必死のようなんだけど、微妙ね。

 七月になったらテスト対策で時間も削られるし、そうしたら一時的にストップかしら?

 きりの良いところまで書ければ良いんだけど……」


・舞台裏


「ふふふ、待っててね、ユウナ・シルバーフォーレスト。わたしが今から倒しに行くから」


「「((触らぬ神に祟りなし))」」


「なのはちゃん、帰ってきて(泣」





「絆アイテムゲットっ!! これで戦力は何倍にも跳ね上がるよ、ユウナ」

「………友情パワーってすごいんだな」

「うん、すごいんだよっ!!!!」

「わぁすごい(棒読み」






 



[18634] 第十二話 コントロールエモーション
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/27 13:02


 隔離された世界。


「アルカス・クルタス・エイギアス………」


 曇天の空の下、黒い海の上。


「煌めきたる天神よ、いま導きのもと、降りきたれ………」


 徐々に強くなる潮風の中。


「バウエル・ザウエル・ブラウゼル………」


 オレとフェイトは背中を合わせて浮いていた。


「撃つは雷、響くは轟雷………」


 ポツポツと頭上から降り始めた雨も、フェイトの呪文に合わせて強さを増して行く。


「アルカス・クルタス・エイギアス………」


 眼下に見える暗黒に染まる海も、荒々しく猛り始める。


「―――さぁ、フェイト。思う存分ぶつけてやりな」


 フェイトを基点に周囲に雷の眼球が現れる。


「うん、ユウナ………あとは任せたよ」


 背後でフェイトが答え、トリガーを引く。


「サンダ―ッ、フォールッ!!!!」
  

 振りかぶり、落ちるは雷流。


 混沌とした海に流れ、伝う、黄金の波。


「来た………ジュエルシード」


 それに呼応して浮かび上がる六つの柱。

 蒼い魔力は風を取りこみ、嵐と成る。


「終わらせよう。この始まりの物語を」


「あぁ、そして始めようぜ。次のオレたちの物語を」



 オレとフェイト。


 視線を交わして、その場を経つ。


 オレたちは、終わらせるために、始めた。

 
 最後の戦闘を。


     


  ◆◆◆


 



 Side なのは



「(クロノ君、覚えとけ、なの)」


 昨日、ジュエルシードの捜索が難航しているためにアースラから降ろされたなのはです。

 今日は起きてからずっとムカムカが止まりません。

 理由はもちろん、アースラを降ろされたからに決まってます。



 それなのに、お母さんは学校に行けと言います。

 お母さんの頼みだから仕方なく学校に来ました。

 なのに、皆がなんだか怖いものを見るような目でこちらを見るのです。


「(本当に腹が立つの)」


 リラックスして英気を養え?

 クロノ君、これは逆に心の負担になってるんだけど。


 授業を真面目に聞く気も起きず、わたしは蒼い空を見上げます。

 あぁ、本当に無駄な時間。

 外を見るわたしを嗜めようとする先生に目を向けてみれば、小さな悲鳴を上げて授業を始めたりするのを眺めたりするのも飽きたの。

 だからレイジングハートと戦闘シュミレーションを繰り返しますが、実践ほど経験が積まれるとは思い難いの。


 ユウナ・シルバーフォーレスト。

 正体不明の、騎士と名乗る魔導師。

 わたしを無視するようなことを繰り返すやつ。

 絶対に、わたしはあなたを倒す。

 わたしはあなたを倒すまで戦い続けるの。


 現在フェイトちゃんとあいつは行方知れず。

 この一週間ほどで、こちらがさらに見つけたジュエルシードは、三つ全て二人に奪取されている。

 こちらが持つジュエルシードはない。


 なんとしてでも、あいつらの居場所を突きとめなくちゃならないのに。



「(アースラの人たちは全く使えないの)」


 あれからどれだけ経っていることか。

 フェイトちゃんの情報は上がっているようだけど、あいつの情報がまだ届かないそうだ。

 本当にイラつくの。




 そんな風に荒れる感情を表に出さないように努力していたのに、今日の最後にそれを抑えられないことが起こった。

 

「アルフさん、探したよ。こんなところにいるなんて、わたし、全然思いつかなかったよ」



 フェイトちゃんたちの手掛かりがアリサちゃんちにあった。

 さすがアリサちゃん。

 わたしのために情報を取ってきてくれるなんて、さすがわたしの『親友』だ。


 けれど、この駄犬はあいつたちの情報を持っていなかった。

 
「(使えない犬)」


 わたしは溜息混じりに犬を蹴り飛ばす。

 すると、エイミィさんの声と同時にジュエルシードの反応を感じた。

 わたしはアリサちゃんちから駆けだし、誰もいないところからアースラに転送してもらった。


「なのはさんっ!! さっきのあれは何ですかっ?!!」



 ブリッジに入るとリンディさんが先程の件でうるさく話しかけてきた。 

 今はそんなことを言ってる場合じゃないのに。

 本当にうるさいなぁ。


「何って、尋問です。そんなこともわからないんですか?」


 わたしは彼女に視線も遣らずに正面の映像を瞳に映す。

 その中では早速一つのジュエルシードを封印するフェイトちゃんに、その周囲から襲ってくる波や風を槍で撃ち消すあいつがいた。



「想像以上だ。既に半分も回収している。艦長、このままではこちらの作戦が失敗してしまうかもしれません」


「っ!!! なのはさん、先程の件は全て終わってからよ。クロノ執務官は結界内に転送後、速やかにジュエルシードの回収、または彼女らの妨害を行って下さい」


「わかりました。エイミィ、頼んだ」


「はーい、クロノ君、がんばってねー」


 クロノ君はわたしが入ってきたところから直ぐに転送されていった。

 よし、わたしも続いて―――


「なのはさんは待機とします」


「にゃっ?!!! なんでですかっ?!!

 わたしはこの日のためにどれほど訓練したかリンディさんもしってるでしょっ!!!」

 なんで止めるんですかっ!!!!」


 嘘だ。

 なんでわたしがこんなところで待ってなきゃ行けないんだっ!!

 わたしはあそこに行って、あいつをぶちのめさなきゃいけないのにっ!!!


 リンディさんは目を険しくさせてわたしを見ます。


「なのはさん、あなたの精神状態から考えて戦場に出すわけには行きません。

 あの使い魔の件もあります。

 念のため、デバイスは私が預からせていただきます」


「あっ」


 そう言うと、リンディさんはわたしからレイジングハートを奪ってブリッジから出ていくように命令します。


≪ユーノ君っ!!!!≫


≪ごめん、なのは。ボクもリンディさんが正しいと思う≫


 念話でユーノ君に頼っても、彼はわたしに味方してくれません。


 なんで。


 どうして。



 目の前の映像では、あいつとクロノ君がデバイスを巧みに操って、クロノ君がなんとかあいつを妨害しています。


 別の画面では、フェイトちゃんが青い顔をしながら最後のジュエルシードを封印しました。


 それを見たクロノ君がフェイトちゃんに向かおうとしますがあいつに逆に妨害され、悔しそうな顔をしています。



 わたしは思う。


「(どうして、わたしはあそこにいないの)」


 いるはずだった。


 今度こそ倒すはずだった。


 戦うはずだった。


 この前のように行かないように作戦だって考えた。


 強くなった。


 あいつを、このわたしのチカラで、落とすことを、誓ったのに。



「(こいつが、そのチャンスを奪った)」



 わたしがリンディさんを睨むも、彼女は画面を見つめるばかりです。



「エイミィ、探知システムは」

「稼働中です。

 多重転移でも、いつかきっと次元跳躍のために転移するはずですから。

 なにより、ジュエルシードを使ったら、余波を探知できますし」 


 
 彼女たちが話す中、フェイトちゃんが力尽きたのか、あいつに抱きかかえられます。

 それをチャンスと見たクロノ君はあいつら目がけて魔法を打ちこみます。


「っと、これで捕まえられるかな―――って、跳躍魔法来ますっ!!!!

 ディストーションフィールド展開っ!!!!

 衝撃に備えて下さいっ!!!!」


 数秒の後、地震かと思うくらいぐらぐら揺れるアースラ。

 でも、わたしの目はあいつらを見つめます。


 紫の落雷にやられたクロノ君は海に浮かび、



 あいつらは紫の魔法陣によりどこかへ消えて行く。



「………システムダウンのため、探知失敗。


 クロノ執務官負傷。


 これより執務官を回収します」








 エイミィさんの声だけが、ブリッジに静かに木霊しました。

 




 Side out






   ◆◆◆



 時の庭園。

 その玉座の間よりさらに奥。


 この城の中心にオレたちはいた。



「母さん………」

「フェイト………」


 ミセスとフェイトは見つめ合って、ボロボロと涙を流している。



「絶対、絶対に戻ってきてね、母さん」

「解ってるわ、必ずアリシアと一緒に元気になって戻ってくるから、待っててね、フェイト」



「母さんっ!!!!」


「フェイトっ!!!!」



 目の前で親子の抱擁が続く。

 オレは溜息をつく。


 いや、だって、アルハザードへの旅は明日出る予定なんだぜ?


「予行演習って………」



「むっ、ユウナも真面目にやってよ」

「騎士ユウナ、あなたも『フェイトのことは命に代えてでも守り抜きます』とか言ったらどうなの?」


 そう抗議するテスタロッサ親子に呆れるオレは正常だよな?


















・あとがき


 なんだかんだで、全部回収。

 体力全開フェイトさんでもムリかなーって思ったけど、ご都合主義という名の世界法則で通っちゃった。

 絆アイテムパワーということで………。


 っていうか、なのはが前に出て来て、フェイトの大変さが伝わってこない話。

 死ぬ思いしてます。たぶん。

 顔、真っ青でしたし。


 次回、上手くいったらユウナ君、真実への回。


 ユウナ君、まだ未来に来てるって知らないんだよね。

 予定ではこの回で知るはずだったのに。



 なのはさん、自重して……。



 そしてやっぱりテスタロッサ家は今日も平和です。


 今回はなんか自分的に微妙でした。
 次話でとりかえせなかったら、完結後大幅な修正をしよう。
 うん、そうしよう。
 次話への前段階と考えよう。


 なんかグダグダな感がありますが、感想・ご指摘・アドバイスよろしくお願いします。


 目指せ、今週中の無印完結っ!!!!








・アリサ部屋(仮)

「この、バカ犬っ!!!!

 じゃなくて、バカなのはっ!!!!



 うちのアルフを二話連続で貶めるなんて許さないんだからっ!!!!

 あんまりよっ、ひどすぎよっ!!

 いつか絶対謝らせてやるんだからねっ!!!!

 覚えてなさいっ!!



 ぐすっ、仕事よ。


 たぬきさん
『ユウナとフェイトの今後は展開次第で』

 ちゃんと考えてんでしょうね。


 ルファイトさん
『リンディさんが止められなかったのは、なのはが報告せずに独断で行ったためです。

 反応に気付いてなのはをチェックしたら踏みにじりシーン。

 たぶん、みんな冷や汗です』

 こいつがなのはを常時監視してなかったから……。


 ヨシヲさん
『アルフには頑張って生きて欲しいです』

 アルフ……。

 ろんろんさん
『なのははこのまま突き進みますよ』

 だから、私が止めるって言ってるでしょっ!!

 アズマさん
『リニスさんについて激しく同意です』

 誰っ?!


 くすん。

 今日の仕事は終わりよ。

 別に泣き寝入りする訳じゃないんだからねっ!!

 


・舞台裏


「リンディさんまで………わたしの敵になるのなら、わたしも覚悟を決めるよ」


「母さんが神に触れた」

「クロノ、笑うしかないよ」

「ユーノ……僕たちは強く生きような」






「ゆうなぁ、影がぁ、影がぁ」

「今回活躍するはずだったのにな、オレたち」

「うすいよぅ、うすいよぅ」

「よしよし、次、頑張ろうな。だからメソメソするな。女の子だろう」

「……女の子だからメソメソしてるんだよぉ」



[18634] 第十三話 ラストサパー
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/27 13:03













「母さん、どう? おいしい?」


「おいしいわ、フェイト。あなたがこんなに成長していたなんて、気付かなかったわ」



 ジュエルシードを全て回収した翌日。


 時の庭園の食堂。

 そこでオレたちは最後の会食をしている。


「うん、リニスがいた時に教わったんだ。リニスがいなくなってからレパートリーは増えてないんだけど」


 隣でシチューを食べるフェイトが寂しそうな笑みをミセスに向ける。

 ミセスも理由はわからないが、辛そうな顔をする。

 そんな状況で『リニスって?』などと訊けるわけもなく、オレはシチューを口に含むのみ。


「でもね、今度母さんにごちそうする時はもっと上手になってるから、楽しみにしてて」


「フェイト………」


 最近涙腺が緩いのだろうか、二人の目はうるうると涙が溜まり始めている。


 かく言うオレも視界がぼやけていたりする。


 この会食を終えれば、もしかしたら二人は一生顔を合わせることがないかもしれないのだ。


 ミセスはアリシアを連れアルハザードへ。

 フェイトはオレと共にベルカへ逃げる。



 ミセスが言うにはジュエルシードが全て手に入ったため、『うまくいけば』帰還できるかもしれないのだそうだ。


 どの道、このままここで暮らしても、そう長くない。

 なら、体を治し、アリシアを蘇らせる方に賭ける。

 それが『母』としてのミセスの決断だった。


 昨日も体に無理を強いて跳躍魔法まで使ってのけたミセスの体はもうボロボロ。

 一年ももつかわからない。


 『娘』のフェイトにつらい想いをさせても未来に一縷の希望を見た彼女は、もう止まれない。



 二人は最後の親子の時間を味わうため、一緒に片付けをしている。


 今の二人に哀しみの色は見られない。


 とてもおだやかな空気が流れている。
 

 
 おそらく、フェイトが生まれて初めてのことなんだろうな。



 そう思うだけで、頬が緩む。



「(今だけでも、幸せでいてくれよ、親友)」



 オレの視線に気づいたのか、フェイトは振り返って微笑む。



 そして、ミセスも笑っている。


 フェイトが望んだ、フェイトが渇望した、優しい笑顔だった。




 ―――だからこそ。



「………侵入者ね」


 

 こんな時に。


 フェイトが夢にまで見たこの時を。



 温かな優しいひと時をぶち壊した管理局が許せなかった。






   ◆◆◆






 Side アルフ




「じゃぁ、あんたらはフェイトを助けてくれるって言うんだね?」


「えぇ、そうよ。

 彼女が母親の『手駒』として良いように使われているだけなら、そしてあなたが言うことが事実なら無罪は無理でもかなりの減刑を求めることができるでしょう」

 

 あの白いのがアリサの家にやってきてすぐに管理局の連中があたしを捕えに来て、現在やつらの戦艦の治療室で怪我を治してもらっている最中だ。

 執務官と提督は、先の白いののことで謝罪してきた後、その間事情を訊きたいと言ってきた。



 あたしは、フェイトのために鬼婆のことをぶちまけた。

 あそこにいたら、絶対にフェイトは幸せになれない。

 白いのはともかく、管理局の連中は親身になってあたしの話を聞いてくれた。



「それで、プレシア・テスタロッサの拠点の座標は?」

「それは、」


 だから、あたしは教えた。


 こいつらならフェイトを救ってくれると思って。



 『時の庭園』の所在を。




 Side out



 


   ◆◆◆




 Side なのは




「なんで、わたしはここにいるんだろう」




 アースラの自室のベットに転がって、見慣れ始めた天井に視線を這わせる。





「わたしは、必要とされてないの?」




 思い出すのは、小さい頃。


 お父さんが大怪我をした時、わたしは独りだった。


 お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、お母さんも、忙しくてわたしを見てくれなかった。




 そしてあいつも、わたしを見てくれなかった。 
  

 まるで相手をしてくれない。


 最初は礼儀を教えてあげようと思った。


 次は話を聞いてもらおうと思った。


 そしてこの間は戦って振り向いてもらおうと思った。


 負けても、わたしはあいつに追いつこうと頑張った。


 そのためだけに、わたしはここにいる。



「いたはずなのに」



 わたしはそれすら認められなくなった。




 ただ、目的のために努力してはダメなの?


 それを目指すための行為を否定するの?


 わたしの想いを消しさる気?



 

「いつもいつも………」





 瞳から涙が流れ落ちる。




 そう、いつもそうだ。

 わたしの心を否定する。

 小さい頃からずっと、世界はわたしを否定する。




「あはっ……そういえば、アリサちゃんたちの時は否定されなかったっけ」


 泣きながら、無理やり笑顔を作ろうとするけれど、ただただ顔は引き攣るだけ。



 あの時は本当に嬉しかった。

 自分の想いをぶつけて、ぶつかり合って、解り合えた。



 ただ闇雲に否定されてきた心を、この時だけだはされなかった。



 だから、彼女たちは世界で一番の宝物なんだ。



「そういえば、二人の前で、アルフさんを蹴ったんだっけ」



 アリサちゃんも、すずかちゃんも、きっとこんなわたしを嫌いになったろうなぁ。



「にゃはは………また一人になっちゃった」



 アースラの皆も、ユーノ君も、わたしを追い出した。


 きっと、お父さんたちもわたしを嫌いになっちゃうんだろうなぁ。



「でも、良いよ。もう疲れちゃったもん」



 皆に嫌われないよう、心を隠すのに、わたしはもう疲れてしまったんだ。



「だから、これからは心を曝け出して―――ううん、やりたいことを、ただ想うままして生きよう」



 心がもう、悲鳴をあげないように。



「そのために、わたしは―――」






 Side out






   ◆◆◆





 管理局が庭園に侵入し、自動迎撃システムが対抗している頃。




「母さん、また、ね」


「フェイト、元気でね」



 オレの目の前で、二人の親子が別れの言葉を紡ぎあった。



 二人はお互い笑顔を作って、だけど泣きたそうな顔で、向かい合う。



 そして、涙を溢さずミセスはアリシアが待つ中心部へ向かって行った。


「母さん、絶対にまた会おうね」


 見送るフェイトの肩はプルプルと震えていた。


「フェイト、また、きっと会えるよ。ミセスは約束してくれただろ?」


 オレから顔を隠して目許をごしごしと擦って、


「―――うん」


 フェイトは小さく頷く。




「そうだね。母さんは約束した。だから、ユウナ」

 

 彼女は瞬時にバリアジャケットに身を包み、デバイスを手にする。



「母さんのジャマをする奴らを倒しに行こう」




 そう振り返るフェイトの目には哀しみはなく、覚悟を決めた瞳だった。




 なら、彼女に応える言葉はこれだけだろう。


「あぁ、親友。管理局のバカどもに、オレたちの『友情』を見せつけてやろう」


 オレと彼女の剣十字が、照明を反射してきらりと輝いた。




   ◆◆◆




「ルーナっ!!!!」


『Blutig Luna』


 


 オレの声に反応したルーナが貫通効果を持つ攻撃で武装隊の集団を吹き飛ばす。


 あたりは傀儡兵の影響もあり、ほとんどの敵が殲滅されてしまったようだ。


 これしきの力で、フェイトの幸せをぶち壊したのか?


 ふざけやがって。


「フェイト、そっちは」


「こっちも片付けた」



 そう答え近寄ってくるフェイトの表情は険しいものだった。


「それで、執務官にタカマチは?」


「こっちにはいなかった」



 現在、ほとんどの武装局員が転移魔法で回収されたが、主戦力と呼べる彼らが未だに姿を現していない。


 これはなにかの作戦だろうか?




「どうするユウナ? 手分けして探す? 母さんが旅立つまでに何かされるとまずいし」





「―――別に探す必要はない」



 目の前に青い魔法陣が浮かび上がり、執務官が現れる。


「……へぇ、態々そっちからやってくるとは、中々の覚悟じゃないか」


 オレとフェイトは静かに彼を睨みながらデバイスを構える。



「そう、殺気立つなユウナ・シルバーフォーレスト。


 僕はキミに質問をしなくてはいけないんだ」


 執務官は悠然と腰に手をあて口を開いた。




「キミは一体何者なんだ?」




 それに答えるようにルーナの矛先を彼に向ける。



「オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが騎士。

 そして、フェイト・テスタロッサの親友だ。

 それが何か?」



「―――本当にキミは聖王の騎士だと言うのか?」



 奴は真剣な口調でオレを問いただす。


 聖王。

 ゼーゲブレヒト家の王位にある人、今はオリヴィエの父、そしてオレの伯父にあたる人物をさす言葉。



「執務官、オレは伯父の騎士ではなく、その娘の騎士だ」



 オレは声のトーンを落として返す。


 
「あぁ、語弊があったようだな。僕が言いたいのは『最後の聖王』の騎士であるか、ということだ」


「………どういうことだ」


 何が言いたいんだ、こいつは?

 執務官が当たり前のことのように言った『最後の聖王』という単語。

 最後も何も、聖王家には世継ぎがいる。

 なのに最後の?

 しかも、伯父のことでない?



 妙に心がざわつく。





「では、質問を変えよう」





 執務官はさらに言葉を放る。





「君は本当に、『ユウナ・シルバーフォーレスト』なのか?」







「―――はぁ?」




 こいつは何を言っている?


 オレがユウナ・シルバーフォーレストでないなら誰だって言うんだ?


 オレとフェイトは顔を見合わせ、困惑した表情をする。



 そして、奴は訳のわからないことを喋り出す。




「ユウナ・シルバーフォーレスト。


 ベルカ騎士領に問い合わせたところ、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと関係のあるこの人名は今から三百年ほど昔の時代の人間だ。


 詳細は不明。


 今では血筋が途絶えてしまった聖王家の最後の王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの手記に名前が載っていること以外ではほとんど歴史に名を出さなかった人物。

 彼女の手記によれば従兄らしいが、聖王家の家系図では彼の名は見当たらず、意図的に削られた部分があるため、そこに該当する人物ではないかと目されている。

 歴史から消された騎士。


 これが、僕たちが知っていることだが、キミはどう思う? 『ユウナ・シルバーフォーレスト』」









 



 





・あとがき


 はい、プレシアさんとお別れしました。


 なのはさん、なにかを決意しました。


 そして、ユウナ君はこの後どう行動するか。



 うん、最後のところがスムーズにいかない。

 文才のない自分を呪う夕凪です。



 今回はフェイトの天然分が少なめです。

 いつもは思うがままに動く彼女もさすがに動けなかったようですね。




 さ、無理やりな感があるラストの説明編を書けるかな。


 感想・ご指摘・アドバイス、待ってますんでお願いします。


 それが書くための燃料となりますんで。



 あ、先日『今週中に無印完結』と言いましたが、無理そうです。

 すいません。



・アリサ部屋(仮)

「今日は普通に登場、アリサ・バニングスよ。

 普通に登場しちゃったから、話題がないアリサ・バニングスよ。

 悪い?


 これをやってる今日、投稿する日から考えると昨日?、夕凪が『目が痛い』と嘆いてることくらいしか話題がないわ。


 まぁそれはともかく仕事よ。



 たぬきさん
『うん、最初、原作通り嫌なプレシアさんになるはずだったのでアルハザードへさようならの予定だったのですが、なんか良いプレシアなので復活させるかどうか悩んでます』

 このSS、予定との差がものすごいことになってるのよ。
 本当ならフェイトは原作通りの性格で、なのはも原作通りに生きていくはずだったのよ。
 何がどうなってこうなったのかしら?


 東方の使者さん
『たぶん、そのセリフは出ないですね。いや夕凪もここまで黒くなるとは思わなかったんですよ(汗』

 本当に名台詞を叫びたいわ。



 赤煉瓦さん
『お空の星になってしまったかもしれません。アリサたちは「そういえば……」と思いだすでしょう。たぶん』

 確かに異常よね。ショックなことがあると気付かないことって多そう。


 駄馬さん
『心配しなくても大丈夫です。うちのなのははこのまま「マ」のつく職業につきますから』

 どこが大丈夫よっ?!


 ソラさん
『収拾役はユウナ君だけじゃ無理ですね……リニスさーん』

 私が出会うことはないだろうから関係ないわね。



 かなさん
『なのは萌えの方々、すいません。この場を借りて土下座します。

 魔王イメージが先行し過ぎました』

 そうよ、あんなのなのはじゃないわ。
 でも、そんなこと私が言えるわけないじゃない。
 ああなっても、一応私は親友なんだから。
 絶対取り戻してみせるからね。
 ………って、何回誓ったっけ?


 ヨシヲさん
『あー。本当だ。確かにそんな感じになってる。

 やばいです。書いてる本人も気づかないことが山積みなSSです』

 つまり、大筋をイメージしただけで、ほとんどノリで書いてる無計画なSSなのね。
 とりあえず、アルフのことを謝ったら許してあげるから戻ってよ、なのは。





 ろんろんさん。
『ま、まだ無印だけのつもりですよ。完結部分は。

 せめてA'sまでは書きたいです』


 A'sまで続くのかしら……。



 eroさん
『そう言ってもらえると本当に嬉しいです。頑張って書いていきますよ。

 そうですね、前書きに追記しておきます』

 ここのなのはは『なのは』じゃないの……。

 


 えっと、追記で

『水曜日は投稿できずすみませんでした。昼休み中しか時間がとれず、できなくて』

 と伝言よ。





・舞台裏











「右良し、左良し、後ろ良し、上も下も前も良し。

 ふふふ……わたしを退け者になんてさせないよ。


 高町なのは、これより作戦を実行します♪」













[18634] 第十四話 ノットファウンド
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/09 17:46
 
 
 
 
「ユウナ・シルバーフォーレスト。
 
 ベルカ騎士領に問い合わせたところ、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと関係のあるこの人名は今から三百年ほど昔の時代の人間だ。
 詳細は不明。
 今では血筋が途絶えてしまった聖王家の最後の王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの手記に名前が載っていること以外ではほとんど歴史に名を出さなかった人物。
 彼女の手記によれば従兄らしいが、聖王家の家系図では彼の名は見当たらず、意図的に削られた部分があるため、そこに該当する人物ではないかと目されている。

 歴史から消された騎士。

 これが、僕たちが知っていることだが、キミはどう思う? 『ユウナ・シルバーフォーレスト』」
 
 
 目の前の執務官は、本当に意味のわからないことを言い始めた。
 
 
 
 三百年前?
  
 血筋が途絶えた? 
 
 
 それじゃまるで、
 
    オリヴィエが、

           もう、 
 

 ―――死んでいると言いたいのか?
 
 
「バカらしい」
 
 あぁ、本当にバカらしい。

 
 オレは無表情に執務官に向き直る。
 
 執務官もこちらの動きに合わせデバイスを展開する。
 
 
「なぁ、執務官。
 
 相手の動揺を誘うために、相手の大切なものを踏みにじるのがお前らのやり方なのか?」
 
  
 オリヴィエは生きている。

 つい、この間も笑っていた。
  
 そして、すぐにフェイトと共に会いに行くんだ。
 
 
「例え勝つためと言っても、やって良いことと悪いことの違いも解らないのか」
 

 フェイトが傍らに立つ。
 
 
「ユウナ、戯言に一々付き合う必要はないよ」
 
 
 彼女の声には、感情の声音を消したオレの代わりに怒気が孕まれていた。
  
 フェイトも自分に照らし合わせて怒ってくれているらしい。
 

「こちらは魔導師に騎士が一人ずつに傀儡兵。
 
 対する相手は執務官と言えども一人。
 
 勝敗は見えている」
  
「力で押せば、あっさりだな」
 
 
 フェイトが魔力刃を形成し、オレたちの間に沈黙が流れる。
 

 執務官は何も口から発さずにその場を動かない。
 
 だが、彼の表情には焦りの色が見てとれる。
 
 考えてみれば、オレたちは別に彼を倒す必要がない。
 
 戦いを急がなくてはならないのは奴らの方だ。

 こうしている間にも、やつらの目的であるジュエルシードはミセスとともにアルハザードへ去ってしまうのかもしれないのだから。
  
 だから、こちらは冷静でいれば負けるわけがない。
 
 
 故に、オレたちが私情に走って奴をぶちのめす訳にはいかない。
 
 そうすれば、やつらの作戦の成功に繋がってしまうのだから。
 
 よって、沈黙を破ったのは相手側のものだった。
 
 
 
 
 オレたちの背後の傀儡兵が爆音と共に破壊される音。
 
 
 
 オレたちの敵がそこにいた。
 

 
   ◆◆◆ 
 
 Side フェイト
 
 
 
 執務官の挑発に、私はキレていた。

 オリヴィエさんが死んでいるとこいつは言った。
 
 ユウナの大切な妹さんがこの世にいないなどと嘘をついた。
 
 ユウナの、私の親友の居場所がないと言い切ったっ!!!!
  
 しかも三百年前なんて、それが嘘だとバレバレな情報まで入れてきた。
 
 
「(こいつを許しちゃダメだ)」
  
 
 親友を愚弄したこいつを生かしておいてはいけない。
 何が何でもこいつを倒す。
 
 ユウナは感情が抜け落ちたような目で執務官を見つめている。
 
 たぶん、本気で怒っているんだ。
 なら、私も彼のために怒ろう。
 
 
 そう心に決め、戦おうとした。
 それゆえに。
 
 
 
 私の心が、大きく、揺さぶられた。
 
 
 
 爆音。
 
 咄嗟に発信源の背後に視線をやる。
 
 そこにいたのは、オレンジの狼。
 
 額に宝石がついている珍しい品種の狼だ。
 
 それの傍らにはハニーブロンドの髪の少年。
 
 つまり、狼は敵。
 
 
 
 私の、使い魔は、敵側にいた。
 
 
「なんで」
 
 私の口から、こぼれる。
 
「フェイトっ、鬼婆の言うことなんて聞いてても幸せになんかなれないよっ!!!!
 
 だから投降しておくれっ、フェイトっ!!!!」
 

 私の使い魔は泣きそうな声で叫ぶ。
 
 
 何を?
 
 
 私に、母と友を裏切れと呼びかけている?
 
  
 どうして?
  
 私の幸せのため?
 
 ―――幸せの、ため?
 

「……アルフ、一つ聞いて良いかな?」

  
 自然と、私の体から熱い感情が消えていく。
 
 ユウナのために怒った熱が冷めていく。
 
 私の声は、ひどく、冷たかった。
 

「この場所を教えたのは、アルフ?」
  
 アルフは私の言葉に乗せられた温度に戸惑いながら、首肯した。
 
 肯定した。
 
 そうだと、頷いた。
 
 
 私と母さんの、最後の時間を奪ったんだと頷いた。
 
 
「そうだったんだ」
 
 
 そうか、こいつが。
 
 こいつが私を裏切ったから。
 
 
 母さんと早く別れることになったんだ。
 

「許さない」
 
 
 ギチギチと歯が軋む音が頭に響く。

 
「許さないよ、アルフ」

 
 信じてた。
 
 心配もしていた。
  
 掛け替えのない家族だと思っていた。
 
 
「私を裏切った『あなた』を、私は許さないっ!!!!」
 
 
 頬を熱いなにかが伝う。
 
 心に、また炎が灯る。
 
 
「フェイ、ト?」
 
 
 私の豹変に戸惑う狼に私は肉薄する。
 
 
 
 
「さよなら、もう顔も見たくない」
 
 
 
 
 そして、殺傷設定の魔力刃で下段から斬り上げた。
 
 
 
 狼は宙を舞う。
 
 赤い飛沫を上げて。
 
 
 
 それに合わせてユウナが執務官に接近し戦闘を開始する。
 
 私は少年に攻撃しようと振り返るも、彼は狼を受け止め転移を開始していた。
 
 
「―――っ!!」
 
 
 奥歯を噛みしめ、私はこの感情をぶつける相手を探す。
 
 でも、ここには執務官しかいない。
 
 それはユウナが戦っている。
 
 この憎悪の感情をぶつける相手はいない。
 

「違う」
 

 そうだ。
 
 いるじゃないか。
 
 
 別に、二対一をやってはいけないルールなんてどこにもない。
 
 
「執務官っ!!!」
 
 
 私はすぐさま魔力球を生成し、ユウナの攻撃の合い間になるように狙い済ます。
  
 その間、傀儡兵も攻撃に参加させる。
 
 ユウナの槍とで互角の戦いを演じていた彼も、圧倒的な戦力の前に苦悶の表情を見せる。
 
 ユウナにはデバイスを用いて受け逸らし、傀儡兵には攻撃魔法で対抗するも、もうじき魔力枯渇で膝をつくだろう。
 
 その前に、
 
 
「アルフを変えたあなたたちも許さないっ!!!」
 
 
『Sander Smasher』
 
 
 
 雷の弾丸が執務官の脇腹を掠める。
 

 ―――外れたっ!!
 
 
 バリアジャケットが削れただけで、彼自信にダメージがいかなかった。
  
 そうしている間にも執務官はユウナとの戦闘を継続する。

 次こそあてると魔力球を作り出そうとするが、槍を肩にもらった彼は、突如現れた魔法陣に飲まれ、淡い魔力光を残して消え去った。
 
 
 
「逃げたか」
 
 
 ユウナの呟きが耳に届くも、次の瞬間大きな揺れが私たちを襲った。
 
 
「次元震? ということはミセスは………」
 
 
 その後、少しして揺れは収まった。 
 
 大きな揺れがさらに来ないということは、実験が成功したという証。 
 
 母さんは、アルハザードへ旅立ってしまった。
 
 私たちは、母さんを守れたんだ。
 
 胸の中の怒りはすぐに消えて、達成感と喪失感が瞬く間に占めていく。
 
 
 
「私たち、管理局に勝ったんだね」
 
 
 天井を見上げて呟くと、ユウナが「そうだな」と答えてくれた。
 

 ―――これで、信じられるのはユウナだけになっちゃった。
 
 
 母さんがいなくなって、アルフは私を不幸にしようとする。
 
 
 
「ユウナ、行こうか」
 
 
 私はユウナに頬笑みかけ、歩み始める。
 
 
 ―――それもいいか。親友がいればそれだけでも。
 
 
 裏切らない友が一人いれば、それだけで幸せになれるよね、きっと。
  
 心で密かに泣きながら、私はゲートへ足を動かした。
 
 
 Side out

 
    ◆◆◆
 
  
 オレとフェイトは所々床に穴が空いている転移ゲートに来た。
 ここらへんは最初に管理局との戦闘になった場所のため、他の場所より損傷の具合がひどいようだ。
 
 
「(フェイト……)」
 
 
 先程から俯いて歩く親友に、オレは声をかけられずにいた。
 母との永遠の別れかもしれない別離に心が擦り切れてしまいそうなところに、一番心を開いていた家族の裏切り。
 フェイトの心労は相当なものだろう。
  
 それなのに戦闘後は頬笑みまで浮かべて心配させないようにするフェイト。
 
 
「(そんなんじゃ壊れちまうぞ)」
 
 
 そう心で呟いても、声にはしない。
 相手に相当ダメージを与えたとはいえ、襲撃がないとは言い切れない。
 まだ、そういうことを話し合う時ではない。
 
 ベルカに着いたら、フェイトを癒すために何か計画しよう。
 オリヴィエもきっと喜んで新しい友人のために張り切ってくれるだろう。
 
 
 
「ユウナ、準備出来たよ」
 
 オレが物思いに耽っているうちに、フェイトが機材の方の設定をやっていてくれたらしい。
 
「あぁ、今行くよ」
 
 オレはフェイトの横に行き、座標を設定する。
 

「じゃぁ行くぞ、フェイト」
 
 
「うんっ!!」 
 
 無理をして、できるだけ元気そうに返事をするフェイトの頭を撫でながら、オレは『Admit』のコンソールを弾く。
 
 足元の魔法陣が淡く光を発し出す。
 
 
 
 もうすぐだ。
 
 
 
 もうすぐオリヴィエのもとに帰れる。
 
 ここ数日見なかった教会にすぐに行ける。
 
 
 
 光が輝きを増して行く。
 
 
 視界を真っ白な色で埋め尽くす。
 
 
 この光が消えれば、オリヴィエに、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『Error!』
 
『Error!』
 
 
『Error!』
 
 
 
 
 
 
 
 
「は?」
 
 
 急激に光が失せていく。
 
 代わりにオレたちの周囲には『Error!』の文字が踊っている。
 
 
「どういうことだ?」
 
「わからない。調べてみるからちょっと待って」
 

 フェイトが空中のコンソールパネルを操ると、すぐに原因がわかった。 
 
 
『Not found』
 
 
「……座標が、座標のある場所が見つからないって」
 
 
 見つからない?
 
 ベルカが?
 
 
「なんの、冗談……?」
 
 
 ベルカが見つからないわけないだろ。
 
 現にあの空間に落ちた時だって、ベルカの大地にオレはいた。
 
 そんな、数日でベルカがなくなるなんてありえないだろ。
 
 
「計器の故障か?」
 
 
 考えられるのはそちらの線。
 
 座標はあってる。
 
 なら、そちらしか原因は思い浮かばない。
 
 
「うんうん。機材に故障は見られない。海鳴への転送は『可能』ってなってるし」
 

 フェイトは真剣な顔で答える。
 
 
「一体どうゆうことだよ。まさか、ここ数日でベルカが滅ぶとか―――」
 
 
 そこに考えが至り、執務官の言葉が頭を過ぎる。
  
『ユウナ・シルバーフォーレスト。
 
 ベルカ騎士領に問い合わせたところ、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと関係のあるこの人名は今から三百年ほど昔の時代の人間だ。』
 
 
 三百年前?
 

「(もし、あいつが言っていることが本当なら)」
 
 
 三百年。
  
 そんな歳月が経っていれば、あの動乱の世界だ。 
 滅んでいても不思議ではない。
 
 それにやつは『ベルカ騎士領』と言っていた。
 つまり、ベルカは世界単位ではなくなっている?

 
「ま、まさかな……」
 
 
 背中を嫌な汗が流れていく。
  
 確かに奴が言っていることが真実なら、座標の場所に何もない説明がつく。
 
 
 だが、三百年。
 
 そんな時間を跳べるわけがない。
 
 現実味がない。
 
 ありえない。
 
 
 第一、それが真実だとしてみろ。
 
 
 それが真実なら、
 
 
 
『今では血筋が途絶えてしまった聖王家の最後の王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト』
 
 
 オレの王は、この世にはいない。
 
 もう、いなくなっている。
 
 
 家族が、
 
 居場所が、
 
 大切なものが、
 

「なくなっている?」
 
 
 部屋にオレの声が溶けていく。
  
 フェイトは思考の末に辿り着いた結果を知りようもないので、首を傾げるのみ。
 
 茫然とするしか、オレにはできなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「見つけたよ」
 
 
 
       だから
 
 
 

「今度こそ受けてもらうよ」
 
 
 
  
        オレもフェイトも
 
 
 
 
 
「わたしの全力全開」
 
 

 
    彼女の存在に気付かずに、
 
 
 
 
 
「スターライトっ!!!!!」
 
 
『Starlight Breaker』
 
 
 
  
 
 
      反撃もできず、
 
 

 
「ブレイカ―っ!!!!!!!!!!!」
 
  
 
 
       桜色の奔流が天井にぶつかり、
 
 
 
 
 
「あっ」
 
 
 
 

  天井の瓦礫が、視界を覆い尽くした。
 
 
 
 
 
 
 
 
・あとがき
 
 
 
 
 アルフさん、裏切り者呼ばわりです。
 
 なんだかんだで、このSS一不幸な子です。
 
 ポンコツプレシアを知らない彼女にこの悲劇は避けられない。
 
 
 さて、こんな感じでユウナ君は『未来に来てしまったのでは?』と考えるように仕向けましたが、不自然でしょうか?
 
 それよりフェイトの思考展開が不自然感あるかな。
 
 
  
 
 一応クライマックスに来たのかな?
 
 
 
 分量がたぶん次回も若干多くなりそうです。
 
 
 
 
 さ、もうちょっとで無印終わるよ。

 
 頑張りますです。
 

 
 感想・ご指摘・アドバイス、それが夕凪の活力になります。
 
 
 では。
 



・アリサ部屋(仮)
 
 
 
「メロンパンはカリカリモフモフに限るわ。

 こんにちわ、アリサ・バニングスよ。


 ところで、メロ○パンナちゃんってキャラクターいるでしょ?
 あの子の顔ってカリカリモフモフのかしら?
 お兄さん的な人(?)はよく顔をちぎって子供たちに与えてるけれど、あの子が与えてるのを見たことある?

 ま、その作品を見たのもだいぶ昔だからうる覚えでしかないんだけど。

 リアルで考えたら、怖くない?

 アン○ンマンって。




 さて、仕事よ。


 Mさん
『結果はこんな感じですよ』
 
 なのはのイメージがどんどん……。
 
 
 ろんろんさん
『一応「親友」で終わらせるつもりはありませんよ?
 
 まぁ、「ふぇいとくぉーりてぃー」で気付かなかった場合は泣く泣くですが』

 ちなみにこれは殲滅ルート?
 
 
 ヨシヲさん
『うちのなのはさんは思い込みの激しい子なのです』
 
 stsまで続けられれば良いわね。
 
 
 露出卿さん
『はい、もう後戻りはできませんからね。
 
 主にフェイトが』
 
 アルフを斬るなんて……本当に飼い主なのっ?!!
 
 
 駄馬さん
『大丈夫です。和解なんてできませんよ?』
 
 無条件で信用しそうなフェイトはこれだしね
 
 
 たぬきさん
『みなさん同じことを考え過ぎっ?!!』
 
 教会の出方は次回かその次に出てくるかもしれないそうよ。

 
 アズマさん
『首輪の存在忘れてた!!』
 
 書き手が忘れてどうすんのよっ!!
 
 
 
 それと、読者のみなさんにアンケートだそうよ。
 
 
 夕凪がこのSSのタイトルを変えようか悩んでいたらしくてね、無印が終わりそうだからこれを機に変えようと決めたみたい。
 
 で、一応候補
 
 
1、「ユウナとポンコツ」
 
 
2、「騎士と誓いとポンコツ娘」
 
 
3、「こんなはずじゃない世界です」
 
 
4、「拝啓・オリヴィエ様、ユウナはちゃんと生きてます」
  
 
5、読者のみなさんから募集したり………
 
 
 
 一番多かったのをタイトルにするそうよ。
 
 たぶん、月曜の投稿から変更になるらしいわ」
 

・舞台裏
 
 
「ボクの出番ってどうしていつもこう……」
 
「諦めたんじゃないのか?」
 
「ヘタに登場すると逆に辛いんだよ。
 
 そう言うクロノはセリフがあって良いね。
 
 簡単な描写だけど戦ってるしさ」
 
「恨みごとかっ!!?」
  
「クロノなんてなのはに殺されちゃえば良いんだっ!!!!」
 
 
「あ、おい、待てっ!!!!
 
 ……ったく、ユーノめ、なのはとの訓練の大変さをしらないからそんなことを言えるんだ」
 
 
 
 
 
 
「ユウナ、私たち、どうすれば完璧な幸せを掴めたのかな。ぐすっ」
 
「フェイト、『もしも』なんてことは考えたって意味はないんだから泣き止めって。な?」
 
「うぅ、ゆうなぁ」
 
 
 
「(最近、フェイトが泣き虫で溜息しかでないよ。はぁ)」
 
 
 
 

 
 
   



[18634] 第十五話 コネクト
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/05/31 13:29
 


 Side リンディ


「さて、どうしようかしら」
 

 私はブリッジで治療室の様子を投影端末から覗いて、溜息をつく。


「まさか、なのはさんがここまでするとは想像もしなかったわ。

 ……これは私の責任ね」


 画面の向こうには体の所々を打撲や骨折、擦傷で痛々しい姿で目を閉じているフェイトさんと、無傷で気絶しているユウナさんがいた。

 フェイトさんは患者服、ユウナさんは拘束服を着て電子錠をかけてある。

 それを武装隊が怪我をしている罪人用の部屋へと連行していく。


「瓦礫が落下してきても生き残れるなんて、古代ベルカの技術は恐ろしいわね」


「さすが聖王家、というところなのでしょう」


 私の呟きに声を返す人間。

 背後から私と同じように画面を覗き込む金髪の少女。


「提督同様、教会も『まさか』と思っています。

 『まさか』、途絶えていたと考えられていた『聖王家』の血が現代にまで続いているとは思いませんでしたし」

 少女、カリム・グラシアは、困ったような笑みをこちらへ返してくる。


「先程、映像を拝見させていただきましたが、彼の能力はこちらに残存する資料の『聖王の鎧』の特徴に似通っています」


 カリムさんは手元の端末を操作し、私にわかるように説明をしてきた。


「よって、教会は彼を『聖王』に据えるかはともかく、彼の身柄を要求させていただきます」

「と、言われても、私は『ただの提督』ですから、私の一任で判断できないわ。

 彼は犯罪者です。

 その要請をするのなら、上にお願いするわ」


 彼女は少し残念そうにしながら、

「せめて、お話くらいは………」

 と返してくる。



 とりあえず、自分たちにはやるべきことがたくさんある。

 だから『そんなこと』にいちいち付き合ってはいられない。

 だけれども、教会との関係に態々亀裂を生じさせるのはまずい。


「……事情を聴くついでになら、同行を許可します」


 仕方ないので、私はGOサインを出した。


 ―――はぁ。


 今回の事件は本当に問題が山積みね。




 Side out




   ◆◆◆



 Side なのは


「クロノ君っ、なんでわたしがこんな扱いをされてるのっ?!」

 アースラに戻ったわたしは手首に手錠をされ、自室に軟禁され、現在、片腕を吊るしたクロノ君と向かいあっている。
 その後ろにエイミィさんとユーノ君もいるが、今訴えるべきは執務官であるクロノ君だ。


「理由もわからないのか?」


 クロノ君は冷めた目でわたしを見つめてくる。


「わからないよっ!!

 わたしはユウナちゃんとフェイトちゃんを捕まえたんだよっ!!

 それなのになんでわたしが部屋に閉じ込められなきゃならないのっ!!」


 そうだっ!!

 わたしは二人を捕まえた。

 クロノ君たちが出来なかったことをしたからって、こうゆうヤッカミはしないでよ。


「―――っ!!」

 パンッ!!

 と、音がしたと思ったら、わたしの視線はいつの間にか壁を見ていた。


 あれ?


 興奮していた心が急に止まる。


 先程まで感じていなかった痛みが、熱が、頬から伝わってくる。


 前に視線を移すと、クロノ君の吊るしていない方の平手が振り抜かれた形で固まっていた。


「(―――わたし、今、ぶたれた?)」


 クロノ君は顔を顰めたまま、わたしの胸倉を掴んで叫び出す。


「キミは戦闘中の混雑を利用して、保管室からデバイスを無断で持ち出した揚句に、人を殺すところだったんだぞっ!!!!

 命令違反に殺人未遂っ!!!!

 さらに先日の使い魔への尋問もどきも例に挙げれば、キミは人としてやってはいけないことまでしているんだ。

 そこの自覚はあるかっ?!! 

 高町なのはっ!!!!」


 さすがにまずいと思ったのか、背後のエイミィさんたちが止めに入ってくれた。

 でも、わたしはその光景を別の場所の出来事のように感じていた。



「(殺人未遂?)」


 わたしの頭の中はそのワードで覆い尽くされた。

 目線を下にやると、手や膝が小刻みに震えている。


 わたしは、この手で、人を殺そうとしたの?


 魔法。

 それは痛みを与えはしても、体を傷つけるものではない。

 いくら戦っても、血が出ることなんてないと思ってた。


「(でも、)」


 違ったのか?

 クロノ君は包帯をしていてわからないが、肩を槍で貫かれたらしい。

 アルフさんも血まみれで帰還したと聞いている。


 あれ……。


 そういえば、わたし、天井を崩して二人を『殺そう』としたんだっけ?


「あはっ」


 声がもれた。


「そっか、わたし、またやっちゃったんだ。

 そっか………」


 未遂と言えど、殺そうとしたんだ。

 相手は言うことを聞かない犯罪者だから、構わないと考えていたけど。

 
 そっか。


 わたし、悪いことしてたんだ。


「でも、それがなに?」


 わたしの言葉に凍りつく三人。


「わたしは『結果的に』二人を捕まえたんだよ」


 震えは、もう止まっていた。


「良いでしょ? 

 構わないよね?

 相手は犯罪者。

 『どんな手でも使って捕える』ってクロノ君、訓練の時に言ってたよね」


 そうだ。

 例えそれが『相手を危険にする手段』でも、『執務官』はそれを行うと言った。

 わたしは悪いことをした。

 この手で人を殺そうとした。

 でも、わたしは『時空管理局現地協力者』。

 捕まえるためなら何だってする。

 
 それに、わたしは『やりたいこと』をしたまでだよ。


「そうだよ、わたしは人を殺していない。

 それに、あいつを倒したんだよ。

 大丈夫。

 わたしはまだ、大丈夫」


 心の隅に殺人の恐怖を追いやって、わたしは自分に言い含める。

 大丈夫。

 わたしの手は、まだ汚れてない。

 それに、ここにいる理由も達成できた。


「わたしはまだ、生きてていい子だよ」




 Side out



  ◆◆◆



 気がつくけば、オレは牢にいた。

 真っ白な壁、天井。

 一面だけ、鉄格子。

 周囲には自分が寝ている簡易ベッドの他に、用を済ますための便座だけ。


 他に誰もいない。


 他の牢にも誰かがいる気配すらない。


 誰もいない。



 瓦礫が崩壊してきたところまでは覚えている。

 そして、フェイトのバルディッシュの自動防御が一瞬展開され、消えた。


「『鎧』でも発動してくれたか。気絶して良く覚えてないけど」


 自分の着ているものを確認すると、白い服にゴツイ手錠。どうやら、魔力運用障害を引き起こすもののようで、騎士甲冑すら作れない。

 手錠には小さなランプがあり、赤く点灯している。


「って、首輪は健在かよ」


 首に手をやればフェイトの首輪。

 え? ミッドの技術でも外せないの?



 そう当惑していると、カツカツと音を立てながら気配が近寄ってくる。


 オレは格子の向こうに顔を向けると程なくして、二人の女性が現れた。 


 一人は緑色の長い髪を束ねた女性。おそらく管理局の制服だろうものを着用していることから、局員だろう。

 もう一人は金髪をストレートにおろしている少女。服装は教会の高位の人間が着る黒のイブニングドレス。


 オレが訝しみながら観察していると、二人は自己紹介を始めた。


 片方がこの船の提督、リンディ・ハラオウン。

 もう片方が『聖王教会』と名乗る組織から遣わされたカリム・グラシア。


「それで、あなたに事情を伺いたいのだけれども、「そんなことより、フェイトは無事なのか?」」

 提督が笑顔を『作って』話しかけてきたが、まずはフェイトのことだ。
 こんな『敵地』で味方と離れるわけにはいかない。

 それに、未来かどうかはともかくとして、『管理』局などと名乗るやつらだ。
 安心などできるものか。
 
 オレはやつらが自分たちの良いように動かないものに、力で支配するような組織であると確信している。

 この前のタカマチを見れば一目瞭然だ。

 タカマチは管理局側。

 命令を下したのはこの提督だろう。


 オレとフェイトを『殺す』よう仕向けたのも、こいつだ。


 それに、この『作り笑顔』。

 内心を隠し、敵の腹の内を暴きだそうとする輩の顔だ。

 信用できるはずはないが、一応フェイトの無事を訊いた。


 彼女は空間端末を操作し、ある部屋を映し出す。


「―――フェイト」


 そこには体の至るところに包帯を巻いたりされているフェイトが寝かされていた。

 生きている。

 怪我をしているけど、生きている。


「彼女は無事よ。これで話を聞かせてくれる?」

 笑いかけてくる提督に対し、黙秘を決め込む。

 敵に情報を与えてなるものか。

 捕虜になった経験はないものの、現状、どんな情報が敵に優位に働くかわからない以上、譲歩するべきじゃないと、素人考えだが黙秘を貫く。

 そんなオレに、「あなたたちの罪を軽減させるためにも話を聞かせてもらわないと困る」と、提督は言い募ってくる。


 罪?

 はっ。

 そんなのはお前らが罪と考えているだけだろう。

 オレたちは目的のためにやっただけだ。

 敵国のルールに則って罰を受け入れる訳がないだろう。

 しかも、最後には「管理局で働けば、あなたたちの懲役帰還もずっと短縮されます」と言う始末。

 ふざけているのか?

 オレはオリヴィエと親友のためにしかこの槍を振るわない。

 誰が敵に尻尾を振るか。



 沈黙するオレに呆れたのか、溜息をつく提督に代わり、グラシアが話しかけてくる。

 こちらはこちらで、『ベルカ騎士領』の『聖王教会』を名乗り、「まさか、聖王の血筋が途絶えずに続いていたなんて思いもしませんでしわ」などと言う。

 沈黙を守るオレに、

「聖王教会は聖王陛下を崇拝する組織で」

「ベルカでは祖先の記憶や能力を受け継ぐ人がいるのは存じています」

「私も古代ベルカの力を受け継いでしまっている人間で」

「まだ、決定は下されていませんが、あなたを『今代の聖王』に据えるべく、私たちは動いています」

 
 そのワードにキレた。

 聖王に据える?

 オレを?

 何を考えてやがるっ!!

 聖王は我が王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが戴くべき称号。

 あの気高き志を持ち、そのために努力し、必ず世界から争いを消すと誓った彼女にだけ許されている『位』だ。

 その騎士であるオレに『王位』につけ?


 あぁ、本当に―――。


「(ベルカは滅んだのか)」



 騎士として、主に忠誠を誓った者になんてことを言うんだ。

 さらに彼女は聖王教会について『オリヴィエが戦い抜いた結果の歴史』の後の創設期から語り出し、この組織の意義を説明してくる。


 これはなんの拷問だ。

 オレが、オリヴィエが騎士たる自分が、彼女を守り抜けなかった歴史をまざまざと見せつけられる。


 その末、『ゆりかご』を用いることになったなんて。


「(オリヴィエもいない。ベルカの志も死んでいる)」


 嬉々として語るグラシアを見ながら、


「(もう、オレには、フェイトしかいない)」


 オレは彼女をなんとしてでも守ろうと、

 今度こそ、大切な者を守ると、

 今は亡き妹、オリヴィエに誓った。




   ◆◆◆



  
 Side フェイト


「フェイト……」

 今、私の目の前に、敵がいた。

「なに、アルフ」

 痛む体を無視し、敵を睨みつける。

 敵にかける言葉に、かつての温もりはない。


「あたしはフェイトの幸せのためにやったんだ。

 あの鬼婆はフェイトを使い捨てのコマと言った。

 それに管理局の連中に資料を見せてもらって、フェイトが鬼婆の娘じゃないってわかったんだ」


「アルフ、口を閉じて。

 私は母さんの娘。

 それをアルフ『なんか』に否定されたくない」


 敵は大怪我をしているのにも関わらず、私に話しかけてくる。


 本当にうるさい。


「フェイトは鬼婆の娘、アリシアのクローンなんだっ!!

 だから、鬼婆はフェイトに優しくないんだ。

 だから、フェイトをただ利用していただけなんだ。

 目を覚ましておくれよ……。

 あいつの味方をしていても、なにも良い事なんかありゃしないよ。

 ちゃんと管理局に事情を説明して、管理局で働けば、制限付きだけど自由に生きてける。

 お願いだよ、フェイト」


 あぁ、どうして、私はこんなにボロボロなんだろう。


 五体満足で、拘束されてなくて、デバイスがあれば。


 ―――この使い魔の口をふさげるのに。


 それでも、うるさく敵は言い募ってくる。


「(ままならないなぁ―――っなに?!)」



 敵にイラついていると、突然アラートがなる。
   

 それに驚いて敵は私の部屋から駆けだしていった。


「何が起こってるの?」


 その疑問が晴れるのはそれから数分後の事。






 Side out




   ◆◆◆




「スキル解放。コード認証準備」



 .........be getting ready for
 .........................Complete



 誰もいなくなった独房の中。

 自分の長い銀髪が仄かに輝きだす。


「『堕ちた月は波間を漂う』」


 .................Authentication
 ......Skill,Release


 

 網膜に直接表示される文字を認識しながら、次の命令を出して行く。

「擬似神経回路接続」


 ..........Connection,Complete
 ......a time limit,30M 00S,Count start


 残り三十分。
 それ以降は体が持たない、か。


「ご先祖様も、好きだね、ホント」


 オレは視界の隅に表示される数字を見つめながら、電子錠を見やる。


「解除」

 その言葉で青く点灯し、手錠が外れる。


 オレは自由になった手首を擦りながら、白銀の魔力刃に似た刃を篭手を嵌めている所に形成し、格子を切断する。


「さて、脱出だ」


 唇の端を吊り上げて、歩を進める。

 光沢のある壁に写るオレの瞳には、ツァラツァラと光が走っていた。





・あとがき
 


 えーと、次回エピローグっ!!


 と、言いたかったけど、もう一話、入りそうです。


 カリムさん現る、そして、ユウナ君は彼女を拒絶の回。

 
 ユウナ君はレリックないので、聖王ヴィヴィオみたく強くないです。
 鎧はあるけど、攻撃がない。

 ので、聖王から見て敵国の方の力を今回初登場。

 能力はともかく、ユウナ君のイメージの元のキャラが解る人はいますか?

 いたら嬉しい夕凪です。

 あと、フェイトが黒くなりそうだから、はやく迎えに行ってユウナ君。



 今回から【誓いの騎士】から【拝啓・オリヴィエ様、ユウナはちゃんと生きてます】に改名されます。
 投票していただいた皆さん、そして今回まで読んでくれてる皆さん、ありがとうございます。
 まだ、時間的に大丈夫な時期なので、引き続き頑張ります。


 感想・ご指摘・アドバイス、待ってますんでお願いします。


 では。



・アリサ部屋(仮)

「おはよう、こんにちわ、こんばんわ。

 鎧に魂が定着してないアリサ・バニングスよ。

 不眠不休でも疲れない体って欲しいと思う?

 え? 私?

 私はいらないわよ。

 だって、代わりに鎧姿になるらしいじゃない?

 そんな姿になってまで、人間止めるつもりはないわよ。



 えーと、感想の返信よ。



 たぬきさん
『レイハ事情はこんな感じです。
 なのはさんは頑張りました』

 変な方向に頑張らないでよ……。


 Mさん
『アルフに関しては禁則事項です。

 なのはさんはマジで院に送られそう』

 なのは……。


 炭素さん
『実験的にしましたが、見にくかったですか。
 今度、修正しておきます』

 今度と言って、勉強しない学生みたいな結果にならないようにね。


 ルファイトさん
『チャージは最小限で、天井破壊を狙いました。物理ダメージメインで。

 捕まりましたが、この結果。

 そして、アルフは禁則事項。

 ヴォルケンズ側につくかは……まぁ、ユウナ君だからね』


 ネタを何度も入れないっ!!


 かわせみさん
『精神リンクの件ですが、アルフはフェイトが『幸せ』と思っているのを感じていました。

 が、プレシアのことを想うフェイトがそう思っているだけで、使い捨てのコマのように捨てられるに決まっていると彼女は考えてしまったのです』

 アルフ、あんたは本当に良い子なのに……。
 安心して、私があんたを幸せにするわっ!!


 アズマさん
『タイトル提案ありがとうございます。

 そして今回がその結果でございます。

 せっかくですので、首輪ネタを入れてみました』

 あの首輪なんなのっ?!


 駄馬さん
『そこはダイレクトに禁則事項っ?!!』

 だからネタ禁止よっ!!!


 通りすがりのヘタレさん
『管理局側(というか、強襲時点ではなのはさんオンリー?)は、「聖王の鎧」をただの「攻撃魔法無効化」だと考えています。

 ですので、本人に魔力ダメージを与えるのを諦めたなのはさんは瓦礫利用の物理攻撃で潰そうと考えちゃったのです。

 最小限のチャージでしたから、抜けないかも……。

 ちなみに、今回生き残ることができたのは「防衛機能」なんだから、魔法じゃなくても働くよね? 的な考えの元にそうゆう結果になったのです。

 でも、レリック入れてないユウナ君の攻撃力はアレなので、母方の方の遺伝子に設定加えちゃって、あんなことになりました』

 「言い訳」発動ね。


 ろんろんさん
『若干BAD ENDですね。

 でも、生きてます。

 ユウナはちゃんと生きてます』

 でも相方はボロボロになってるわよ。


 ヨシヲさん
『みんな考えることは同じなのかっ?!!』

 夕凪が創るSSなんだから、所詮結果が丸見えなのよ。


 ウーノさん
『タイトル提案ありがとうございます。

 最近シリアスなため、おバカな一面がなかなか出てきませんが、落ち着いたらまたおバカになります。

 鎧はちゃんとあります。

 まぁ、stsの聖王ヴィヴィオみたいなレリック入れてないから、アレですけど。

 名前見て思いましたが、うちのスカさんたちはどう動くのかな?

 ユウナ君いるから、ヴィヴィオイベント発生しないとかなったら嫌だな……』

 そこをなんとかするのが書き手なんでしょ。







   
・舞台裏




「ユーノ君はいつになったらセリフが貰えるのかな?」

「僕が思うに最後までない」

「ひどっ!!!」
 
 
 
  
「捕らわれた私、それを救い出しに来るユウナ。

 これは……なかなかの展開だね。

 ユウナ、ここは敵兵に『それ以上近づくなっ!! 近づけばお前の家族の命はないと思えっ!!!!』って脅すところだよねっ!!!!」


「これがオレの守りたい者なのかと思うと泣けてくる」      



[18634] 第十六話 エスケープ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/01 13:01



 船に搭載されている機材にハッキングをかけてフェイトの居場所と所持物品の場所を確認したオレは、距離の近いフェイトの部屋に向かっていた。

 
 武装隊や執務官がこちらになかなか来れないように、フェイトの場所への道以外、隔壁を降ろし、ライフラインだけを生かしてある状態にしてある。
 そのおかげで、先程までけたたましくなっていたアラートも消え、ずいぶんと静かになった。

 と言っても、敵が隔壁を破壊している音が遠くから響いてくるのだが。


 残り時間が二十五分を切った。


「お前か……」


「ここは通さないよ」



 フェイトが勾留されている部屋の扉の前に、赤い狼がいた。


 興奮したためか、フェイトにつけられた傷口が開き、胸から前足にかけて血が伝い、足もとに血だまりを作り始めている。

 そのために、嫌でも鼻につく。


 正直、血の匂いなんて好きにはなれない。


 だが、手負いの獣はどうしても退いてくれなさそうだ。

 それにこちらは時間に余裕がない。


 だから、


「死んでも知らないぞ」


 白銀の刃で斬り捨てた。





   ◆◆◆



 Side フェイト



「ユウナっ?!!」


 アラートが消えたと思ったら、扉が開いて血塗れのユウナが入ってきた。

 右上半身から頬にかけて、結構な量の血が滴っている。


「ゆ、ゆうな、けがしたの?」


 私は慌てて、手錠をされていてやり辛いが、ユウナの体をチェックするも怪我らしい怪我はしていなかった。


「これはオレの血じゃないよ」

 ユウナはバツの悪そうな表情で、

「キミの使い魔のだ」

 と、答えた。



「……そっか、私の代わりにユウナがヤってくれたんだ。

 ごめんね、ユウナ。

 嫌な想いさせて」


 ユウナの頬についた血を手で拭う。


「本当は元・主の私が早く契約解除か処分をしなきゃいけなかったのに」


 よく見れば、ユウナの銀色の髪があの狼の血を吸って赤黒くなっている。


「―――ユウナ、早くここを脱出してその髪洗おう。

 手遅れになる前に」


 私がユウナの瞳を睨みつけながら宣言すると、ユウナはよくわからないような顔して頷いた。


 ちなみに、ユウナのレアスキル(?)で手錠を外してもらった。

 髪がほんのり輝いてたり、瞳に光が流れていってるのはそのせい?



 軟禁されていた部屋から脱出した私たちは、真っ直ぐに荷物を取り返しに向かった。

 そこまでの道は不思議なほど誰にも会うことなくすんなり行け、すぐに保管所に着けた。


 ついでに言うと、所々骨折中の私はユウナの背中です。楽ちんだよ。


 私はユウナからもらったネックレスをかけてもらい、バルディッシュを起動、バリアジャケットを展開。

 ユウナも騎士甲冑を展開し、同じくネックレスをかける。

 これでここにいる理由はなくなった。


 ユウナからのプレゼントもデバイスも取り戻した私たちに敵うものなんていない。


「そこまでだっ!!!! おとなしく投降しろっ!!!!」


 そう考えていると、武装隊を引き連れた執務官がやって来た。


「私たちの復活の犠牲者第一号さんだね」


 私はものすごく良い顔で執務官に向けフォトンランサーを発射。


 命中部位は負傷している肩。


「ぐっ!!!!」


 命中の衝撃に踏ん張る彼の顔は青い。

 よく見ればここにいる敵は全て私たちに一度倒されている者ばかり。

 この船で無事な敵など、『アクマ』くらいだろう。


「話にならないよ。ユウナ、簡単にあしらって早く行こう」


「あぁ」


 そう答えるユウナはどことなくダルそうだった。

 執務官ほどではないが顔も青い。

 軽く冷や汗も出ているようだ。


 体調が優れないのかな?


 あの天井崩壊で頭でもぶった?



 ユウナの背中の固定砲台と化した私は、ユウナが進むのに合わせて現れる局員にフォトンランサーの嵐を浴びせ、途中でピョコっと出てきた結界魔導師はユウナの槍の投擲でバリアブレイクされて沈み、順調に攻略していけた。


 さすがユウナ。

 絆パワーはすごいのさ。



 そして、私たちは脱出するために来なくてはいけない部屋、転送室にやって来た。



「待ってたよ、二人とも」




「っ!!!!」



 その声を聞いて、私の体は震え始めた。



「リンディさんがここにいれば必ず会えるって言ってた通りだね」



 薄暗い部屋。


 足元からぼんやりと灯される光が、奴の表情を照らし出す。



「逃がさないからね」



 そこには、


「絶対に」



 薄く嗤う彼女がいた。





 Side out


  ◆◆◆




 Side なのは



 クロノ君たちが全滅したために、わたしは手錠を外されてここに立つことを許された。


『Master?』


「レイジングハート、今度は前みたいなことはやっちゃダメらしいんだ」


 あいつを倒すには魔力ダメージじゃない物理的なものじゃないとダメだとわたしは学んだ。

 その証拠に、前回はそれで捕縛できた。

 だが、今回は管理局の船のため、ダメらしい。



「だから、今回は………」



 機動力だっ!!!



『Flash Move』



 わたしは高速で肉薄し、シーリングモードのレイジングハートを槍のように突き出す。


「っく!!!!」


 フェイトちゃんを背負っていたあいつはなんとかデバイスで防ぐことに成功したようで、すぐさまフェイトちゃんが飛行魔法で空中に逃げた。


 理由はわからないけど、フェイトちゃんのわたしを見る目には恐怖がある。


 なら、今はそれを利用して、あいつとただ戦おう。


「アクセルっ!!」


『Accel Shooter』



 少し気をそらしただけであいつはわたしに槍を突いてこようとしていた。


 でも、そんなのは許さないっ!!!!


 そのための訓練を積んだんだっ!!


「シュートっ!!!!」



 わたしは回避行動をとると同時に、魔力球をあいつのデバイスに精確にあてて軌道をずらす。


 そう。


 クロノ君の棒術で代行してもらったこの技能には自信があるんだ。


 本体にあてさえしなければ、攻撃はキャンセルされない予想はあたりだ。


 空間を脳内でイメージし、誘導弾をあてる技量。


 ユウナ・シルバーフォーレスト、あなたのためだけに鍛えたんだっ!!


 一朝一夕でも、わたしはやるんだっ!!!!


「っち、時間がないのに手間取らせやがって」


 あいつは肩で息をしてわたしと戦っている。


 ここまでの遭遇戦で疲れたのかは知らないけど、相手をしてもらうよ。



「たぁあああああああああっ!!!!」




 フラッシュ、フラッシュ、刺突に、アクセル。



 あいつは防御に専念しているのか、戦いもそぞろに攻撃らしい攻撃をしてこなかった。

 勝負はこちらが圧倒的有利。



「バカにしたこと、覚えてるっ?!!」


「さぁなっ!!!」


 あいつは別のことを考えているように生返事を返してくる。

 わたしのアクセルを叩き落したり、移動しながらこちらとの距離を取ったりする。
 


「わたしを叩き落したことはっ!!!」


「あったかもなっ!!!!」



 こちらもフラッシュムーブで距離を縮め、刺突を繰り出すが避けられる。




「痛かったんだよっ!!!! 想像できたはずだよっ!!!! わかってやったのっ?!!」

「当たり前だ、バカっ!!!! 戦いに痛みは必らず付きまとうもんだろっ!!!」


 わたしはさらに移動しあいつの死角に回り込む。



「わたしはっ、そんなあなたをっ、許さないっ!!!!」

「っが」


 ブンッと振るわれたレイジングハートに叩き落とされるあいつ。


 床に激しく背中をぶつけたあいつは呼吸が一時的にできなくなったのか口をパクパクと動かす。


 その上、苦悶の表情でこちらを見上げてくる。


「今度こそ、完璧な勝利だよ」


 わたしは槍に見立てたレイジングハートを構える。


「怪我してみるのも良いかもね、ユウナちゃん」

『Flash Move』


 スピードを付け、わたしはあいつに突撃した。


 高速で過ぎ去る景色の中、狙うはあいつの心臓部。


 腕を、眼前に迫ったあいつの胸に突き出す―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「がっ!!!!」
 
 
 
 
 けど、


「―――痛い」


 レイジングハートは、あいつに突き刺さることなく、床に落ち、



「痛い………いたいよ、いたいよっ!!!!」


 わたしは左目に走る激痛に、ただ床を転げ回り、呻くはめになっている。


「なんで、どうしてっ!!!!」


 あいつは何もアクションをしていなかったはず。

 ただ、呻いていただけ。


 なのに、どうやってわたしに攻撃をっ!!!!


「動かないで」

「っ?!!」


 バチバチと音を立てる刃がわたしの喉元にあてられていた。

 痛む左目を抑えながら、右目で背後を確認すれば、黄金の魔力球を展開するフェイトちゃんがいた。


「ユウナを、私の大切な人を、もう奪わせない」


 フェイトちゃんの手は恐怖でカタカタと震え、紅い瞳からは涙まで流している。


 そうか。

 さっきのはフェイトちゃんの射撃魔法。


 あいつがやったわけじゃなかったの。 


「っつ」


 じくじくと熱を持ち始めた左目。

 わたしは痛みで転げ回りたいのを必死に我慢して、フェイトちゃんの要求をのんでいた。



「フェイト、設定は完了した。もう、跳べる」


 背後であいつが立ち上がる音が聞こえる。



 設定?
 
 なんの?


 わたしは疑問に思うも、痛みで思考が流れていく。



 止まってよ。

 
 激痛を和らげようと左目を手の平で圧迫するも、効果は薄い。



 フェイトちゃんは床に落ちたレイジングハートを足で蹴ってわたしから遠ざけて、刃を消した。


 振り返れば、二人は転送用の魔法陣の上にいた。


「ま―――」


 待って、という間もなく、真っ白な光に包まれて二人は消えてしまった。






 Side out






・あとがき


 終わった。


 これで、終わったよ無印本編。



 書いてる間は長く感じても、読み返してみると短い。

 しかも、流れが不自然。

 今回、SS書いてみて、文を書くって難しいと思いました。



 さて、今回はエピローグも同時投稿します。



 えーと、皆さん無印完結まで付き合ってくれてありがとうございます。

 駄作ですが、これからもよろしくお願いします。


 ちなみに、次からはA'sまでの間の空白期が来ると思います。



 感想・ご指摘・アドバイス、よろしくお願いします。

 粗が結構目立つSSなので、注意してくれるとありがたいです。


 では。



・アリサ部屋(仮)


「おはよう、こんにちわ、こんばんわ。


 ぐーてんもるげん、アリサ・バニングスよ。


 一応区切りがついた、と言ったところかしらね。


 最初は本当にこんなSSが続くとは思わなかったわ。

 これも読者の皆さんのおかげよ。


 え? わかってるって?


 ……ふんっ! す、すなおに言ったって、なにもでやしないわよ。



 ま、まぁ、それは置いといて仕事よ。

 アカツキさん
『ぶっちゃけそうですよね。
 とりあえず、ユウナ君的に良い印象はないですよ、彼らに』

 結局、なのはを更生させる機会がなかったわ……。


 通りすがりのヘタレさん
『そこまで考えてなかった……。

 う~ん、聖王家じゃない方のスキルと相性が良くないとか、聖王家に反抗の意思があるのではと危惧したとか?

 ……考えておきます』

 節穴だらけのダメ設定じゃない。しっかり考えておかないからこうなるのよ。


 駄馬さん
『ユウナは教会に懐きません。
 というか、組織に組み込まれたくないのかな?』

 猫は誰にも懐かないとか言うけど、すずかんとこの猫は懐きまくってるわよ?


 ルファイトさん
『その案、貰いましたっ!!!!

 そういえば、蒐集ってIS(?)でもコピーできるのかな?
 とりあえず、鎧って通常魔法と違うことしか記憶してなくて……』

 貰いましたっ!!!! じゃないわよっ!!!!

 そんなノリで片目を潰すんじゃないわよっ!!!!


 ごごいちろうさん
『そこまで設定詳しかったんですか。
 死後に作られたっぽいと認識してたのですが……。

 勉強不足です……』

 勉強不足は今に始まったことじゃないでしょ。


 ヨシヲさん
『Forceは単行本までの内容しか解りません(汗』

 雑誌は買わない派なのね。


 鳴海さん
『その前にすずかたちと友人やってるかの方が心配ですね』

 えっ、なにっ、友達解消されるのっ?!! 




・舞台裏



「目がっ、目がぁああっ」


「それはどこの大佐だ」

「……クロノ、何言ってんの?」
 
 
 
 
「ユウナ、勝ったんだね、全てに。

 ―――この瞬間っ、私たちの絆は何にも負けないって証明されたんだよっ!!!!!」


「うわぁ、最後まで友情かよ」
  
 
 

 
 
「………バカ」






[18634] 第十七話 ファーストエピローグ(無印完結)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/01 13:01



 Side なのは


「痛い痛い痛いっ!!!!」


 あれから治療室に担ぎ込まれたわたしはすぐに目の治療を受けたが、数日たった今日もまだ疼く。


「自業自得だろ、あんたの場合」


 現在、わたしとアルフさんはアースラの私の自室に軟禁状態にされている。


「ほら、包帯の交換の時間だよ」


 アルフさんは溜息をしながらわたしの世話をやいてくれる。


 目の治療後、わたしは治療室でアルフさんを見つけた。
 アルフさんは、おそらくあいつに斬られたのか、フェイトちゃんにつけられた傷と交差する新しい傷を設けていた上に、フェイトちゃんに契約を破棄されたらしく、残存魔力で体を維持するので精一杯だった。

 わたしはあの時、フェイトちゃんとあいつの事で頭が埋め尽くされていた。

 一対一なら、あの勝負は負けなかった。

 足りなかったのは技量や周囲への警戒に、人数。


 だから、わたしはアルフさんと主従契約を行った。


『あの二人を捕まえること』


 それが契約内容。

 味方がほぼいないわたしには、これしか人数を揃える事に方法がない以上、これしかなかった。



 アルフさんもわたしなんかの使い魔にはなりたくなかったようだが、フェイトちゃんと向き合うには、彼女にもこの道しか残されてなかった。


 だから、わたしたちは契約した。



「そういえばさっき、クロノが資料を持って来てたよ。

 読めってさ」


 包帯を代えてもらったわたしは日本語訳された資料を受け取る。

 内容はミッドの魔法学校の短期コース。


 今回の事件、テスタロッサファミリーによって引き起こされたこの事件は、テスタロッサ事件という名前が与えられた。

 わたしはこの事件で命令違反や問題行動が多かったものの、戦果は素晴らしいものだったとして、ミッドの魔法学校に『強制的に』通わされることになった。

 家族には魔法のことはすでに通達済みのようで、わたしがやらかしたことも報告済みらしい。

 終いには「その歪んでしまった性根を叩き直してこいっ!!!!」という激励の手紙まで持ってこられる始末。


 わたしに選択肢はないみたい。


「まぁいっか。これであいつらを捕まえる術を学べるんだし」


 期間は約六カ月。


 この半年で、わたしはさらに強くなってみせる。

 そして、草の根分け手でも、この痛みの借りは返させてもらうんだからっ!!!

「ふふふ、待っててね、二人とも」

「なのは、あんたの黒さはわかったから落ち着きなって」
 
 
 
 
「絶対捕まえて見せるからぁああああああああっ!!!!!」






 Side out


  ◆◆◆


 Side リンディ


「やられたわね」


 私は先の脱走事件の件で歯噛みしていた。


「監視カメラの記録も何もかも綺麗さっぱり消されています。

 今回の、テスタロッサ事件について残っている資料は各自の端末に残存するもののみで、転送ログありません。

 あぁあ、これって減俸か何かありますよねぇ。

 エイミィさんショックだよ」

「何するんだエイミィっ!! 離せっ!! 首が閉まるっ!!!!」

「クロノ君がしっかり仕事しないから給料減っちゃったんだよっ!! 責任とれー!!」


 クロノに絡むエイミィをよそに、私は頭を抱える。


「とりあえず、あの二人を広域次元犯罪者として指名手配ね。

 なのはさんのこともあるのに、これ以上問題を増やさないでもらたいわ」


 そして、砂糖が大量に入った緑茶を口に含む。


「………足りないわね」



「母さんっ!! エイミィをなんとかっ!!」

「責任取れば良いらしいじゃない。

 お嫁に貰ったら?」


「母さんっ?!!!!!」


 


 Side out





  ◆◆◆

「ユウナ、これはそっちにね。

 あ、それはこっちだって」


「どっちだよ」


「ああもう、私がやるからユウナは退いててっ!!!!」



 アースラから脱出して数日。

 オレとフェイトは、




「ベッドはここ、食器棚はあっちで、テレビはそこだからね」

「はいはい」



 海鳴にマンションを買って住み始めました。



「ふぅ、これでテレビが見れる生活が始まるよ。

 管理局も振り切ったし、これで平和に暮らせるよぉ」


 テーブルに『ダラー』と溶けるフェイトは(頭が)幸せそうだった。


「むむ、ユウナが私を見て失礼なことを考えた気がする」

「フェイトってそんな口調だったか?」

「やっぱりユウナは失礼だよ」


 ぷいっとソッポを向くフェイト。


「おーい、むくれるなー」


 頬を膨らませる彼女の頬をぷにぷに突く。


「ユウナのバカ」


「そうゆうことは口に出すなよ」


 仕方ないので部屋に積まれた真新しい荷物の封を開けて、セッティングを続ける。

 まぁ、あれだな。


 とりあえず、この平和が長続きしますように、っと。


 オレは心の中で祈っておこう。



「あ、ユウナ、その写真立てはベッドサイドだからね」


「人に働かせておいて。その態度はなんかイラつく」


「女性の特権なのだよ、ワトソン君」


「オレの名前はユウナだ」



 オレは渋々フェイトがいう通りに写真立てを置く。

 そこには、幸せそうに微笑むミセスとアリシアが写っていた。







[18634] 人物紹介(~無印編)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/02 17:53



 無印完結に伴い紹介します。無印までのネタバレ注意かも。

 
 ちなみに、紹介欄の記載事項は十七話時点、またはその前後となっています。






・『ユウナ・シルバーフォーレスト』
 
 
 このSSの主人公。
 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト(ヴィヴィオの母? DNA的に同じ人)の従兄にあたる人物。
 
 実年齢、18歳。身体年齢、9歳。

 
 当初の予定通りに一番良く動いてくれた人。
 若干、フェイトというポンコツのせいでギャグ要員に落ちるけど、戦闘時以外は真面目。

 戦闘時は口調を意図的に変えたりして、心を入れ替えて当たります。


 長い銀髪や端正な顔立ちのせいで、女の子に間違われる幼少期を過ごしています(現在進行形)。

 イメージとしてはシグナムをちっちゃくして色を変えた感じ。
 ゼーゲブレヒトの血のためか、オッドアイ(左が紅。右が金)。
 劣勢遺伝子引き継いでます。

 海鳴に落ち付いてからは、後ろで髪を結ってます。
 というか、結われてます(ポンコツに)。

 不本意ながら家事スキルが上達中。


 フェイトに振り回されながら、王亡き今、これからどう生きて行こうか模索中……。

 現在は、海鳴を拠点に、近所の道場で剣道のコーチ(『剣』じゃなくて剣道です)をして堕落しないよう体を鍛えてます。

 暇な時に、アースラをハッキングした時に手に入れた情報を整理して、近々騎士領を覗きに行こうと考えているようです。

 オリヴィエがいない今、親友と共に平穏に暮らせたら良いと思っていたり。


 騎士甲冑は、速度重視の軽装備である白銀の鎧。
 冑はなくて、長い銀髪を後ろで結ってます。
 肩のあたりにはオリヴィエの騎士を表す鷹を象った文様が三日月に重なるように刻まれている。
 鎧自身には血色の細やかな細工が施されています。
 デバイスを展開していない時は、篭手に無色透明な水晶であるコアが装着されています(通常時は剣十字のネックレスと共にRHよろしく首にかけてあります)。
 
 デバイス本体は機械的な鮮血色の大槍です。
 槍の左右からは鷹の鉤爪のような突起があり、矛先は例外的に刺突ようの刃があります。
 表面は、対流があるみたいに、模様を変えていく仕様。

 ちなみにカートリッジシステムはありますが、無印完結までの期間はカートリッジに魔力を込められるだけの時間と魔力の余裕がなく使えませんでした(海鳴到着時点で空)。


 一応レアスキル持ち(?)。

 

「外に出る時は女の容姿に変身しなきゃならないのが嫌だ」




・『フェイト・テスタロッサ』



 このSSのヒロイン的なポンコツ。

 母との悲劇的な別れ(原作に比べれば幸せ)をしながら、一番幸せな生活をしている人。

 独占欲が若干強く、ユウナの首輪はまだ外れない。

 家事は全てユウナ任せ。でも、ユウナの髪はフェイト任せ。
 大好きなテレビを見る毎日。

 体を動かせとユウナに言われて、夕食前はユウナとともにランニング。週三の模擬戦と退屈しない毎日。

 脱出戦ではガクガクブルブル震えながら、ユウナを助けるために『アクマ』に攻撃したりと、なのは克服中。

 でも、もう一生会いたくないと思ってる。


 今は母さんとお姉ちゃんが早く帰ってくることを祈って暮らしてます。


「ユウナ、どうしてそんな端っこで寝ようとするの?

 二人用の大きいベッド買ったんだから、真ん中で寝ようよ?」 



・『高町 なのは』


 このSSで一番予定とは違う子になった人。

 優しさが消え、魔王へ一直線。

 強制入学された学校では問題を起こしているらしい。



 生きる目標をユウナとフェイトの逮捕と定め、日々自分の技術を上げている。

 最近、アームドデバイスが欲しいと思ってる。

 ちなみに、「眼帯………かっこいいの」と呟く姿をアルフが見かけたのは気のせいだろう。



「ふふふ………この痛みは何万倍にしてでも返して上げるの」




・『アリサ・バニングス』


 このSSの感想を返信する人。


 とても優しい少女で、このSSで一番きれいな心の持ち主かも。


 なのはの更生を今でも諦めていない。

 



「海外ってどこよっ、会いに行けないじゃないっ!!!!」



・『アルフ』


 一番散々な子。

 プレシアに殺されかけ、アリサに天使を見て、なのはに悪魔を見て、フェイトに斬られ、ユウナに斬られ、飼い主に捨てられ、悪魔に拾われた経歴を持つ。

 この悪魔との契約が、さらにひどい結末を招かないことを祈るばかり。


 現在はなのはの身の回りの世話をしている。



「なのは、あんたもう少し部屋を片付けなよ。

 女の子だろ?」




・『その他・空気's』

 このSSの影の住人。

 ただ、リンディ・ハラオウンやクロノ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタはマシな方と記載して置く。



 そして、一番扱いがひどいのはユーノ・スクライアだろう。
 一話からいるのにね。





[18634] 魔法&アイテム紹介(~無印編)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/22 21:37
 無印編までのオリジナル魔法とアイテムについて纏めてみました。


・首輪

 絆アイテム。
 フェイト謹製の首輪。
 ミッドの技術力では外れない謎パワーで封印されている。

 デメリットは他人の視線が気になるくらい。
 ただ、そのうち気にならなくかも……。


・Blutig Luna

 ユウナが多用する魔法。
 貫通、速度、威力を付与する効果がある。
 ユウナはそれを付与した後の攻撃を含めて『Blutig Luna』と呼んでいる。。


・Fairy Light

 プレシア作の変身兼隠密魔法。
 魔力反応を覆い隠し、探知されにくくする。
 その状態でもある程度魔力運用可能だが、一定値を超えると解除されてしまう。
 変身効果については、変身後の姿を記録しておき、瞬時に展開できるようにしてある。
 また、違うパターンのものも作れる。

 ユウナとフェイトは、日本人に紛れるために黒目黒髪に設定し、年齢を代えて管理局を騙そうとしている。
 日本人が見たら顔の造形ですぐにわかることに気付いていない。


・剣十字のネックレス

 絆アイテム。
 銀でできたアクセサリー。
 十字が交差している部分に紅色の宝石がはめ込まれている。

 フェイトの『絆パワー』の上昇率に関わってくる。

 銀製品ですので、お手入れを怠らないように。


・フェイトの料理

 九歳としては合格点の料理。
 母のために作ったものだが、レパートリーを増やしている様子が見られないのは哀しいことだ。


・電子手錠

 時空管理局が用いる犯罪者用の手錠。
 魔力運用障害を引き起こし、装着者に魔法を使わせないようにするもの。

 ピッキング防止に別端末から解除コードを送らないと外せない電子機器として作成されている。
 デバイスの亜種とも分類されることもあるらしい。


・シルバーフォーレストの稀少能力(?)

 ユウナが使用したレアスキル染みたもの。
 制限時間が設定されている模様。

 管理局は状況より、ハッキング、擬似魔力刃を形成できるものと判断している。

 また、聖王教会も聖王家に確認されていないもののために、管理局と同様の見解を示している。

 
・Accel Shooter

 なのはが使った誘導弾。
 原作A'sで使用したものとは同名だが、違うもの。
 ディバインシューターの高速化を予めさせておいたものなので、立ち止まらくても放てる。
 誘導性特化。



[18634] 第十八話 ナノハクライシス(N)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/17 17:53



 Side アリサ


「と言うわけで、高町さんは半年ほど海外に留学することになりました。

 本当に急遽決まったようで、みなさんに挨拶すらできなかったみたいですが、許してあげてくださいね」



 アルフ事件が発生した週の翌週。

 朝のHRで担任教師は生徒たちにそう説明した。


 なんだか前にもこんなことがあった気がするけど、言わせてもらうわ。



「日本じゃ飽き足らず、海外の更生施設に送られたのね、なのは」



 私は呆れた声で呟いた。





 Side out




  ◆◆◆



 Side なのは
 
 


「ここが今日からキミが世話になる学校だ」

「ふーん、なかなか綺麗なとこじゃないか。
 
 こいつが『送られる』場所だから刑務所みたいなところを想像してたんだけどさ」

「アルフさん、それひどいから……」


 わたしとアルフさんは『クロノ執務官』に連れられてこの学校にやってきた。

 芝生が生い茂る広い草原(?)の中に、ポツンと白塗りの近未来的な校舎が建っている。

 なんというか、ロボットアニメとかに出てくる戦艦みたいな造形というか。


「ボソッ……(アークエンジェル、発進なの)」


「? なんか言ったかい?」

「別に何も言ってないよ。

 アルフさん、年?」

「あたしはまだ生まれて二桁にもいってないよっ!!」

「それを言ったらわたしだってそうだよ。

 三月生まれだからまだ八歳だよ」


「……管理局は十にも満たない子供の戦闘力以下なのか」



 『執務官』があらぬ方向を向いて自虐的な笑いをしているのを無視してわたしたちは校舎の中へ入っていった。


 中はアースラのような構造で、違っている点と言えば大きな窓があることくらいだろう。


「ミッドチルダの人たちってこうゆうデザインが好きなのかな?」

「あたしは時の庭園くらいしか知らないからなんとも言えないよ」

「あんな家が普通だったら、わたしは別世界の人から距離をとるよ。美的感覚的なところで」


 わたしたちが勝手廊下を歩いて観察していると、


「キミたちっ!! 僕を置いていくんじゃないっ!!!!」


 『執務官』が怒鳴りながら追いかけてきた。

 そんなに大声を出すと他人の迷惑になるの。

 これだから『執務官』はダメなんだよ。 



「クロノ執務官、廊下は静かにって学校で習いませんでしたか?」


 わたしが『執務官』にそう声をかけると、彼は苦い顔をする。

 その表情は小学生に常識を諭されたことに対するものなのだろうか。

 
 ……まぁ、違うとは思うけど。


「なのは、その他人行儀な口調はなんなだ。

 最近ずっとそうだが……」


 やっぱりそっちなの。

 わたしはつまらないものを見るような目で彼を一瞥し、先に進む。


 さっきの表情は『この態度』に対するものだったみたいだ。
 
 
 
  
 あれから、使い魔であるアルフさんを除いて、この『赤の他人』に接するような態度をとるようになった。

 理由は単純。


 ―――ヒトなんて、所詮他人なの。


 ズキリと眼帯の奥が痛む。

 フェイトちゃんにやられた左目は治療魔法でも完治に至らず、今も視力を失ったまま。

 医療スタッフによると、専門機関で長い期間を以って治療すべきものらしい。
 それでも、視力が以前同様になることはないらしい。

 わたしは痛みのせいで、そんなことは『どうでも良い』と思った。

 寝て起きて、食べて休んでいる間も常に鈍い痛みが続いていた。

 それがなくなったのはつい一昨日くらい。
 今みたいに、時折思いだしたように疼く程度になった。
 
 
 
 そんな苦しい時、アースラスタッフはおろか家族すら見舞に来なかった。

 会いに来た人間は皆口を揃えて言う。


『キミの今後の処遇について………』


 うんざりだ。  

 誰もわたしのことを心配もしなければ励ましもしない。

 されてもうるさいと思うかもしれないが、されない方が辛いと感じた。

 
 だから、気付いた。


 ―――自分以外の不幸は、まさに『他人事』なの。


 例え自業自得のことだって、声を掛けてくれれば良いじゃないか。

 本当に、わたしはなんでこんなものに縋っていたのか不思議でならない。


 契約している元・敵の方が信頼できるというものだ。


 もう、誰も信じてあげるもんか。


「アルフさん、行こう。

 手続きを済ませて部屋の整理でもしよう」

「え? ちょ、あんたっ?!

 ごめん、クロノ、見送りはここまでで良いよ。

 それじゃっ」

「あ、おい―――」


 わたしは彼に振りかえらずに職員がいる場所へ足を動かした。



  ◆◆◆


「ありがとうございました。これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね、タカマチさん。それじゃ、私は仕事があるからまたね」


 わたしは寮まで送ってくれた女性教官に礼を述べて部屋へと入る。


「これから半年、かぁ……」


「長いようで、きっと短いさ。さぁ、軽く掃除でもしようか、『御主人様』」


 アルフさんが鳥肌が立つようなことを言うので、わたしの感慨深い気分が吹っ飛んでしまった。

 御主人様は止めて。

 何故か、気持ち悪いから。


「せめてマスターにしてよ。なんかやだから」

「ダメなのかい?」

「うん、ダメ」

 アルフさんは素直な良い子だからそれで了承してくれた。

 わたしも荷物の整理を手伝おう。


 この部屋は二人用のもので、二段ベッドに机があり、簡易キッチンにお風呂にトイレまである。
 そのためか、収納スペースはさほどない。


「ベッド下のこの空間と、ベッドの横のここだけ?

 まぁ、荷物なんてあってないようなものだから良いけど」


 わたしはベッド下に服を、横に支給された教科書を置く。
 一応翻訳魔法で読めるためか、ミッドチルダの言葉で書かれている。

 わざわざ日本語訳を作るわけには行かないよね。
 
 
 
 
「さてと、終わった終わった。

 お腹も空いたし、昼でも食べに行かないかい?」


 アルフさんは誘って置きながら、ベッドの上にいるわたしの襟首を掴んで引きずって行く。

 わたし、本当にあなたのマスターなんだよね?

 
「場所、知ってるの?」


「あっ」


 やっぱり知らなかったみたいだ。


「今、地図を出すから襟を離して欲しいの」

「わ、わかったよ、なのは」


 顔を赤くしたアルフさんはすぐにわたしを解放してくれた。


 ………襟、伸びてなければ良いけど。


「レイジングハート」

『All Right, My Master』
 

 レイジングハートはわたしの意向に沿ってここの地図を出してくれる。

 現在地に目的地のマーカーにルート設定までしてくれている。


「(……カーナビなの)」


 デバイスって本当に便利だなぁと思う八歳の初夏。
 
 八歳でこんな世界に踏み込んでるわたしってなんなんだろうと、久しぶりにまとも(?)なことを考える。


「ふふふ、どーせわたしはいらない子なんだ……。

 なら別に好きに生きて良いよね。

 ふふふふふ……」


「急に自嘲的な笑いなんてしてどうしたんだいっ?!

 さっきのクロノより暗いよ、あんたっ!!」


「これもあれも全部あいつのせい……。

 あれ? ならこの生活もあいつのせい?

 あぁ、仕返しの理由が増えたの」




 数分後。

 アルフさんがガクガクとわたしを揺すっていたせいで気持ち悪いです。

 
 うっぷ。


「ごめんよ、なのは。

 まさかそこまで気持ち悪くなるとは……」

「良いよ、アルフさんなら。

 わたし、今のアルフさんなら信頼してるから」


 文脈が若干ずれているけれど気にしない。


「痛っ!!」

「うっ」


 わたしは気持ち悪さのせいであまり前方を見ていなかった。


「てめ、どこ見て歩いてんだよっ!!」


 だから、前から歩いきていた人たちに気付かずぶつかってしまった。


「おい、なんでこんなガキがいんだよ」

「あれじゃね? 『短期組』だろ」

「マジかよ。ただ魔力値高いだけのガキかよ」


 だいたい十四、五歳の男の人たちに絡まれてしまった。


「アルフさん――」


 わたしは面倒なことになったと、アルフさんに助けてもらおうと思い声を掛けようとしたが、
 
 

  
「どーせ、まともに戦えもしないのに、オレたちより早く卒業するとかありえねー」
 
 
 
 
「止めないでね。わたし、こいつらぶち殺してくるから」

「は? なのは?」


 最高の笑顔でアルフさんに命令した。

 は?

 わたしが戦えない?


 バカ言うんじゃねーです。わたしはあんたたちみたいな『ガキ』に負けるほど弱くねーです。甘く見んじゃねーです。


 ―――こほん、誰かと混じっちゃった。


「あん? 喧嘩売ってんのか、ガキ。

 戦闘技術もねーガキにもうすぐ卒業のオレたちに勝てると思ってんのか?」


 わたしに一番近くにいた『ガキ』が凄んでくるが、そんな『甘ったれた』世界で生きてきた『ガキ』程度にわたしは恐怖を感じる訳がない。


「ふん、バカな『ガキ』に負けるほど、わたしは弱くないの」


 わたしはバリアジャケットを展開して、いつでもどーぞと挑発する。


「バカにしやがって。オメ―ら、こいつに現実ってのを見せてやろーぜ。

 ついて来いっ!!

 演習場で『模擬戦』だっ!!!!」


 そう言って彼らもバリアジャケットを展開し、外に移動を始めた。


 わたしもそれに着いていく。
 
 
 
  

 
 
 
 
 
 のちにこの事件を『ナノハクライシス』と呼ばれていると知ったのは二十歳に近くなってからだったりする。



   ◆◆◆
 
 
 
 
 
「ぐ、ぁああ………」
 
 
 
 広大な面積を使って作られた演習場は、魔法学校の生徒たちが倒れ伏す戦場あとのようになっていた。


「呆気ないよ。これで本当に犯罪者と戦えるの?」


 その中で唯一、両の足で立つ人影、左目に黒い眼帯をしている白い魔導師―――わたし、高町なのははそこにいた。


「これでもうすぐ卒業して仕事に着くって本当?

 すぐに死んじゃうよ?」


 わたしは魔力ダメージでノックアウトされている年長者たちをシーリングモードのレイジングハートで突きながら言葉を掛け続ける。


「犯罪者は常に格上と思わなきゃ。

 油断したら痛い目見るんだよ。

 あと、自分の常識外の行動もするんだから」


 闇を写す左目にあいつを思い浮かべながら紡いでいく。


 焼け野原と化したその場所から去ったのは、教官がやって来てからだった。
 
 
   
 
 
 Side out 
 
 
・あとがき


 無印~A'sの空白期第一弾。

 オリジナル展開ですからうまくできないかもしれませんが、やっていきます。


 さて、なのはさんの学校生活が始まりました。

 初日からいきなりこれです。

 
 孤独に半年を生きそう。

 ってか、ユウナ君以外にオリキャラってありでしょうか?

 あんまり出し過ぎるとヤだなーと(読む時に)個人的に思うんですが、どうなんでしょう?



 感想・ご指摘・アドバイス、よろしくお願いします。




・アリサ部屋(仮)

「ボンジュール、アリサ・バニングスよ。

 オリジナル展開ね……。

 失敗したらとても痛い目をみそうね。


 さて、いきなりだけど感想の返信よ。


 ヨシヲさん
『この同棲は書き始める時から決まってました。
 そのための温泉編の変身魔法だったりします。


 あ、やっぱりイザーク来ます?

 舞台裏でムスカを思ったんですけど、イザークですよね。

 学校? いえ、彼女は自宅警備員です。
 通わせて欲しいですか?』


 通わせなさいよっ?!!

 この時代、小学校も卒業できないなんてダメよっ?!!


 駄馬さん
『放浪だと展開が思い浮かばなくて……。
 というか、A'sに繋げられなくて……。

 カートリッジシステムは搭載されてますが、紹介に書いた通り使用できなかっただけ、という後付け設定です』

 また夕凪は忘れていたのね……。


 外剛さん
『やばいっ!! それありですねっ!! レイジングハート・アサルトシュラウドっ!!!!

 アームド並みの頑丈さで戦えますね』

 イザークを連想する人が多いわね……。


 Mさん
『なのは=イザークと思っちゃいます。

 なら、フェイトはキラっ?!!

 アスランはアルフ?

 アルフ、裏切りフラグ?』

 Seedで考えるんじゃないのっ!!!


 TG09さん
『ありがとうございますっ!!

 フェイトさんは次回来ます』

 こんな駄作に付き合ってくれるなんて……。
 私も泣けてくるわ。


 アズマさん
『ハーロック……調べてみましたが、アルカディア号って、なんか繋がりを感じますね。

 じゃぁやっぱり鎧コピーは不可かな。
 蒐集されてもこれでOK?』

 


 鳴海さん
『夕凪よりあなたはしっかり展開を考えているっ?!!』

 管理局って恐ろしいわね。
 家族に会わせず学校行き。

 ―――拉致じゃないっ?!!


 パウルさん
『極悪デバイスっ?!!

 え、どうしよ、二つ所持でいくの? なのはさん』

 私はまだ諦めた訳じゃないわよっ!!!


 鞠絵さん
『ありがとうございますっ!!!

 そのセリフに、なのはさんがギャグ担当のやられ役に見えた夕凪です』

 それを言うなのはがありありと浮かぶわ。



 青天さん
『うちのなのはさんはあんなクールな星光さんになれませんからね。

 早く星光さん出したいなぁ。でも、なんか性格変わりそう……』

 マテリアル's出しちゃダメなのかしら?


 dainさん
『もしかしたらまともに………微妙かも』

 うぅ、近くにいたら止められるのに……。


 ハザードさん
『ありがとうございますっ!!

 転生……でもヴィヴィオ出したいし……もう一人のヴィヴィオ?』

 なのは、あんたって子は……。
 
 
 バタフライエフェクトさん
『めっちゃ考えてますね……。

 RHはカートリッジを実装する展開になるかわかりませんが、思考が変わってるからまだわかりませんね。

 星光と融合? それは夕凪が許しません。
 星光さんは星光さんとして生きてほしいからです。

 プロジェクトFに関しては本編で触れます。
 たぶん』


 夕凪より展開を詳しく考えてる人、本当に多いわね……。

 作品譲ったら?

 
 
  
 今回は夕凪からの連絡があるわ。

『思ったより感想が来たことに驚いてます。

 もしかして、100に到達することもあるかもと思い、[100]を踏んだ方に番外編でやって欲しいことがあったら出来る限りやってみますんで、リクエスト権を進呈しようと思っちゃいました。

 というわけで、誰も期待しないと思いますが、こんなことを考えてますんで、もしも100に近づくことがあったら思いだして下さい』

 らしいわ。
 ネタが尽きたわけじゃないわよね?
 
 
 
・舞台裏


「弱い……弱すぎるの。

 こんなところであいつを倒す技術が学べるの?」

「なのは、あんたはもうちょっと子供らしく生きなよ」

「アルフさん、そんなこと言ってると契約破棄するよ」

「……神様、あたし、主人運がないのかい?」














[18634] 第十九話 フェイト&ユウナ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/04 13:02



「フェイト……少し動こうか」

「ふぇ?」


 リビングのソファーに寝転がりながらテレビを見ていたフェイトは、せんべいを齧りながら返事をした。


 アースラを脱出した直後は体がボロボロだったために何も言わなかったが、今では話が違う。


「あっ、私のせんべいっ?!」


 せんべいを取り上げてテレビを消す。


「良いかフェイト。

 毎日食っちゃね食っちゃねしてたら体がなまって戦うどころか逃げられない。

 しかも体に良くないっ!!」


 オレが両手を腰に当てながら語気を強めて言ってやると、

「でも……」

 と、しょんぼりしながら呟く。


「他にやることないよーっ!!」


 フェイトは狭いソファーの上を器用に転がり続ける。

 背もたれの方に体を捻じり続けるにはそれなりに運動になるのだろうか。


 ちなみにフェイト。
 気落ちするのか自棄になるのかどちらかにしてくれ。
 そのテンションの変化にオレは着いてけないから。



「なら趣味でも見つければ良いだろ。

 さっ、出かける準備をするんだ」

「うぅ、別に良いよ、私の趣味はユウナいじりだから」


 何故か回転が加速していく。

 いや、意味がわからないぞ、フェイト。


「駄々をこねないで行くぞ。

 じゃなきゃ夕飯抜きだ」


「ユウナのっ、横暴っ!!!!」


 ピョーン、と背もたれを越えるフェイトの体。

 空中でその体に今までの回転を加え、そのエネルギーを利用した蹴りがオレの顔面を狙う。



「甘いっ!!」

「え、ちょっ―――」


 ガシッ、とその蹴りを放つ足を掴む。


「あうっ」


 そのままソファーに落下するフェイト。


「修行が足りない。

 というわけでいくぞ」


 オレはフェイトの足を掴みながら外を目指す。


「せめて普通に歩かせてぇえええ」


 涙を流す彼女をスル―して大人バージョンに変身するオレ。

 うん、たまにはオレが振りまわすのも良いだろう。


 最近で一番晴れ渡った気分で部屋の扉を開けた。




  ◆◆◆



 Side フェイト



 大人バージョンに変身した私たちはユウナが働きに来ているという道場にやって来た。

 ユウナは道場の持ち主に断って私を連れて中に入る。


 平日の午前中なため生徒さんもいないらしく、道場には私とユウナだけだった。
 
 道場は剣道で使う鎧(?)から漂う汗の匂いが充満していた。
 個人的には早く帰りたい。

 なんでこんなことをしなくちゃならないの? 
 

 
  
「というわけで、素振り百な」
 
 
  
   
「へ?」

 そんな私に竹刀を一つ投げ渡す。

「ほら、さっさとする、一っ、二っ―――」


「うぅ、一、二―――」


「声が小さいっ!!」


「いちっ、にっ!!」


「投げやりだっ!!!! もう五十追加っ!!!!」
 
 
 
  
  
 
「―――終わったぁ」

 本当によくわからないが、ユウナは私に二百回も素振りをさせた。


 もうダメ。腕に力が入らない。


 ユウナは意地悪な笑みを浮かべて、


「じゃぁ、次はランニングだ」

「なんでっ?!!」


 今日のユウナはとってもひどいよっ。
 
 
 
 
 
「で、道場体験コースは楽しかったか?」

「楽しいわけないよっ!!!!」


 汗を大量に掻いた私たちは一度マンションに戻ってシャワーを浴びて、また外に出た。


 体中のエネルギーを持ってかれた私は、半ばユウナに引き摺られるように歩いている。
 
「あんなに疲れるものをなんで好き好んでやらなくちゃならないの」

「いや、あれが好きな人間もいるんだよ」

「ムリだよ……。ユウナぁ、疲れたよぉ、お昼食べよぅ」


 私はユウナに縋りついて頼み込む。


「おいっ、バカっ、道の真ん中でくっつくなっ!!

 恥ずかしいだろっ」


 顔を真っ赤にして私を外そうとするけれど、こっちも休みたいんだ。

 何がなんでもお昼にしてやるっ!!

「やめて欲しければお昼の用意をしろっ。

 その要求をのめば、貴様の言い分を聞いてやる」

「……またドラマの影響かよ。

 わかったから離れてくれ」 
 
 
 もがくユウナ。


「その言い分は飯にありつくまで聞けないぜ」

「わ、わかったから頼む」


 勝った。

 ユウナなのに、私の言う事を聞かないなんてことは許さないよ。

 その首輪がある限り、ユウナは私に忠実でいなきゃならないんだよ。


「くっくっく、シルバーフォーレスト。

 行動は迅速にだ」


 こうしてお昼は頂けました。

 このセリフを言えただけで、私は外出して良かったと思うことにするよ。


  ◆◆◆
 

「フェイトは本当にファミレスが好きだよな」

「他に知らないだけなんだけどね」


 昼食を終えた私たちは次にデパートへと移動した。

 私はしぶしぶついていく。


「(本当にユウナは何がしたいんだろう?

 もう運動はしたし、帰ろうよ)」


 そう思っていると洋服コーナーにつく。


「さぁ、フェイト、好きな服を選べっ!!」


 ユウナは両手を広げて宣言するが、目立ってるよ。

 ものすごく目立ってるよ、ユウナ。


 私はできるだけ他人のフリをして服を選ぶことにする。

 何故と問われたらこう答える。


「(恥ずかしいよ)」


 顔が真っ赤になってるのがわかるほど熱い。

 この世界の常識がないからって、あまりこうゆう事はしないで欲しい。


「どうだ、フェイト。

 服を選ぶのは楽しいか」


「むしろ恥ずかしいよ」


 背後から話しかけてくるユウナ。

 私の努力を無駄にしないでほしい。

 同じような人種と思われるじゃないか。


 ユウナは「おかしいな……女は服とかそうゆうの、好きなはずなんだけどな」と呟きながら首を傾げていた。


 今日のユウナは本当におかしいと思うよ、私は。



 結局、黒系の服を数点購入し、ユウナとも揃えた。

 これが絆パワーに貢献されるんだよ。ふふふ。



 Side out


   ◆◆◆



 帰り道。

 オレは荷物を持ってフェイトの隣を歩いている。

 あれからデパートの中を色々回って過ごした。

 フェイトは興味深そうに商品を見ていたりしたが、結局服を買って以降何も買わなかった。
 
 
 
 
 今日の目的。
 それは、フェイトに外の世界に興味を持ってもらうことだった。

 プレシアが去って、今のフェイトには目標というものが欠けている。

 それはオレにも言えることだが、マンションの外の世界に触れて新しい目標を持つ、またはその参考になるようなものを見つけて欲しいと思ったのだ。
 
 
 
「(全部、失敗だったかな)」


 スポーツも、ファッションも、フェイトには合わなかったのか、そこまで食いついてこなかった。


「次の項目を考えなきゃな」

「? ユウナ、何か言った?」


 夕陽に照らされて、赤みが差したように見える顔をこちらへ向けてくる。
 クリクリとした黒い瞳がオレの黒い瞳を見つめる。


「―――なんでもない」


 オレはついぶっきらぼうに答えた。


 オレたちの傍を小学生くらいの子供たちが元気に駆けて行く。


 その後ろ姿を見つめながら、オレは被りを振るう。


「帰るぞフェイト」

「え? どうしたの?

 なんか怒ってる?」

「別に怒ってない。

 早く帰ろう」

「?」


 オレは早歩きに道を急ぐ。

 ホントに、何考えてるんだよ、オレは。
 あいつはさっきのガキたちと同い年くらい。
 十にも満たないガキだぞ。

 それにオレたちは親友だってのっ!!


 それを、その、可愛いと思って心臓がバクバクと鼓動を速めるなんて―――。


「―――っ」


 オレは変態じゃないんだからなっ!!!!



「ユウナぁああっ!! 置いてかないでよっ!!」


 後ろを振り向くとフェイトが小走りに近づいてくる。
 少し怒ってるようだが、こちらの様子に気づいて首を傾げる。


「あれ? 顔赤いよ? 

 風邪?」


「別にそんなんじゃねーよっ!!

 これは夕陽のせいでそう見えるだけだっての」


「本当?」

「本当だっ」


 こうして今日も日々は過ぎて行く。
 
 
  
 
 こんな平穏がいつまでも続けば良いと願うのは我侭なのだろうか。
 
 
 
 フェイトは訝しげにこちらを睨む。
 
 
 オレはそれに前を向くことで気付かないフリをする。
 
 
 
 本当に、平和であれば良いのにな、オリヴィエ。
 
 
 
 
 
 
・あとがき


 うまくいきませんでしたが、ユウナ君の努力が、そして思いが伝わってくれれば良いな。

 この話はどうしても書いて置きたかったんですが、前半とか中盤とか後半がイマイチで……。

 しかも若干短い。 

 もうちょっと深く書ければ良いんですが。


 駄作ですが、頑張っていきます。



 感想・ご指摘・アドバイス、待ってます。

 ではまた月曜に。
 
 
 
 
 
・アリサ部屋(仮)

「はい、どうも、アリサ・バニングスよ。

 まず最初にお詫びよ。

 前話でアズマさんへのコメントが抜けててごめんなさい。

 今後気をつけます。



 じゃ、感想の返信を始めるわ。


 鳴海さん
『なのはさんが死ぬイメージがわかないかも……。

 高町家の皆さんは――』

 その沈黙はなに?



 吹き矢さん
『ありきたりですいません(ぺこ』

 頑張るしかないわよ。
 

 foolancerさん
『え、はやてさん死亡ですか……』

 誰だかは知らないけど、殺しちゃまずいでしょ。


 マ?みむめモッ!さん
『やっぱりそうですよね。

 そうなりそうですよね』

 なに? あの頃のなのはが戻ってくるの?


 反転マテリアルさん
『マジですかっ?!』
 
 なんであんたが驚くのよっ!!


 TG09さん
『ごめんなさい、わかりません(汗

 なのはさん、被りますか……。


 やっぱりうちのなのはじゃ可愛さを表現なんて無理ですか。

 自分じゃキャラを書けないので、皆さんすいません』


 努力あるのみね。


 Kouさん
『あー、ブチ切れそうですね。
 うちに二人は幸せになれるのかな?』

 私はそのセリフを言わない未来を望んでいるわ。


 賞味期限切れのモスさん
『ちょっ、その傷フェイトさんだよつけたのっ!!

 なのはさん、全てユウナ君のせいにしてるっ!!!!』

 アルフー、早く私のところに来なさい。
 一緒に幸せに暮らしましょう。


 たぬきさん
『あるの、かな?

 確かハードワークで疲れたところをザクッ、でしたっけ?

 それが理由だと、A's後の展開次第ではないかも』

 なのははさらに歪んじゃなうのね……。


 パウルさん
『熱血……あれ? あの人なら』

 どの人よ。


 ヨシヲさん
『フリーダムあたりしかわからない(汗

 当分はその空白期ですね。
 ヘタにA'sに入って夕凪のテスト期間で更新が遅れるのは本意じゃないですし。

 魅力upできるかは微妙ですが頑張ってみます』

 何事も経験よね。


 バタフライエフェクトさん
『そうゆう解釈もできるのかっ?!』

 なのは、あんたの哀しい運命、回避できるかしら……。


 外剛さん
『ティアさん逃げてえええええええっ!!!!


 そしてまさかのあの人化っ?!!

 最後のセリフを聞いたらフェイトがキレそう』


 ムリなのねっ!!! 私の力不足なのねっ?!!!」


 アズマさん
『そうですか、履歴書並……。

 オリキャラ参入させることになったら考えてみます』

 前回はごめんなさい。

 それと夕凪は仮面ライダーを知らないみたいなのでお詫びしておくわ。



・舞台裏


「フェイト、やっぱりシングルを二つ買った方が良かったんだよ。

 というか、なんで二人用のベッドなんだっ?!!

 これである必要はにだろっ?!!」


「む、ユウナは何もわかってない。

 絆パワーを甘くみちゃいけないよ。

 この力は『アクマ』だって撃退できるんだから。

 そのために、毎日コツコツと蓄えるんだよ」


「その前にオレの精神力の蓄えが尽きちまうっ!!!!」
 
 
 
 
 



[18634] 第二十話 デザート(N)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/17 17:53

 Side クロノ


「残存データは報告書の通りです」

 僕はテスタロッサ事件の報告書を艦長に手渡した。

「ありがとう、クロノ。

 あなたも忙しいのに、さらに仕事を増やしてごめんなさいね」

 母さんは僕にねぎらいの言葉をかけると報告書を読みだした。
 
 
 
 テスタロッサ事件。

 首謀者はプレシア・テスタロッサと推定。
 実行犯はプレシアの娘と目されるフェイト・テスタロッサ、その使い魔であるアルフ。

 そして協力者と宣言し、途中から介入して来たというユウナ・シルバーフォーレスト。


 遺跡発掘を生業とするスクライアが発見したロストロギア、ジュエルシード。
 これを管理局に輸送中に輸送船を破壊。
 第97管理外世界『地球』日本国海鳴市周辺に散らばったものを、スクライアの結界魔導師、ユーノ・スクライアと現地協力者、高町なのはが回収作業を開始するのに前後してフェイト・テスタロッサ、使い魔アルフの回収作業も始まっていた模様。

 高町らとの戦闘もあったようで、そのどれもテスタロッサ側が勝利していたようだ。

 そして何度目かの衝突の際、ユウナ・シルバーフォーレストが戦闘に介入してきた。
 現場にいたスクライアの証言によると、赤黒い空間がジュエルシードの周りに展開され、そこから転移してきたと思われる。
 その現象はジュエルシードの現物が回収されていないため、詳細を確認できていない。

 管理局の介入が始まった後も彼らの行動は続き、結局全てのジュエルシードを奪取されてしまった。

 奪われたジュエルシードは首謀者プレシア・テスタロッサによって使用され、確認は取れていないが小規模次元震を起こした後に行方不明となっている。

 現在プレシアの目的を探るために、彼らの拠点である移動庭園『時の庭園』を本局の調査部隊が捜査している。


 今のところ、彼らについてわかっていることは、フェイト・テスタロッサがプロジェクトFというクローン技術により生まれたことが判明している。
 それについて、アースラに残されていた血液、毛髪などをサンプルとして保管するよう命令が下されている。

 また、協力者、ユウナ・シルバーフォーレストについても上記のプロジェクトにより生み出されたのでは、という憶測も出されている。
 彼女(彼?)が名乗る名は聖王の手記に残されている人物象に酷似している。
 もしかしたら、彼の遺伝子データを見つけたテスタロッサがフェイトと同様に作り出したのでは、と考えられている。

 それに関し聖王教会は『記憶の転写に関して、彼の人格データをどうしたのかわからない以上、教会は彼(彼女)を祖先の記憶を受け継いだ人間と考えている。ベルカの人間にはそのような事例が時たま見つかることがあるので』と意見をだしている。

 管理局はこの三人を広域次元犯罪者として手配することを決定づけた。


 犯人側の使い魔アルフは、こちらに投降し、契約を破棄されたところを高町が再契約し、現在三人の逮捕を目的に動いていると報告が上がっている。


 この事件で、現地協力者である高町なのはは将来有望な魔力資質を有することが判明するが、命令無視や危険思考などの理由により魔法学校で教育を施すことに決定した。

 一度、デバイスを没収して親元に帰す案も出たが、彼女が自力で魔法を使用することも考えられるために没とした。
 現在の精神状態で日常生活に戻した場合、なんらかのトラブルを起こすことが容易に想像できることも要因の一つだ。

 高町のご両親はとてもこの案に反対したが、残存データに残されていた危険行動(使い魔に対する不必要なほどの攻撃行動、犯罪者側を死に至らしめるかもしれない作戦の無断決行など)の記録を見せ、納得させた。そのため高町の両親だけには魔法の存在について、ある程度までの情報を公開してある。
 高町の両親らは高町なのはへの面会を希望したが、それを管理局側は拒否。
 現在の高町に過剰な刺激を与えないという理由からだと管理局は両親に説明している。
 
 
  
 
 
「ふぅ」

「おつかれ、クロノ君」

 ブリッジを出るとエイミィがついて来た。
 
「そう言うエイミィもな」

 見ればエイミィの顔にも疲労の色が濃い。
 なんだかんだ言って彼女はオペレーター兼執務官補佐だったりする。

 僕の仕事が増えれば、エイミィの仕事が増えるのは当然だ。


「それで、なのはちゃんのことなんだけど……」

「……なのはがどうしたんだ」

 エイミィが言いにくそうな表情で切り出した。
 嫌な予感しかしない。

 僕は顔を引き攣らせながらそれを聞いた。


「……入学初日から卒業間際の生徒を病院送りにしたみたい。

 魔力ダメージ絞ってたみたいなんだけど、物理ダメージと精神的なもので、だって」


「―――僕は何も聞かなかった。エイミィも何も聞かなかった。

 これで良いな、エイミィ」

「う、うん。

 私たちは関係ないよね。

 あははは、は………」


 通路に乾いた笑いが響く。

 あぁ、なのは。

 キミはもう少し自重してくれ。

 僕たちの胃の健康のために。




 Side out



   ◆◆◆


 Side なのは


「あんた、入学早々問題起こして謹慎処分なんて……」

「わたしは別に悪くないの。

 あいつらが絡んで来たのが悪いの」


 部屋のベッドに寝転がりながら、呆れた表情のアルフさんに愚痴をこぼす。


「普通絡まれたわたしは助けられるべき立場なの。

 なのに絡んで来た方を擁護するようなこの罰はひどいと思うの」


「過剰防衛だからね、あんたは。

 病院送りって、何したんだい、ホントに」

「別に普通に反撃しただけなの」


 頬を膨らましてアルフさんに訴える。


「あんたの『普通』は普通じゃないからね」


 アルフさんは溜息をついて洗濯物をベランダに干す。
 わたしに非があるみたいな言い方なの。


「……レイジングハートは普通だと思うよね」


 わたしは相棒に声をかける。
 あなたならわたしに賛同してくれるよね?

『………』

「れ、れいじんぐはーと?」

 反応がない。
 壊れてしまったようだ?

 わたしは粘り強くレイジングハートに声をかけるとやっと反応が返って来たが、


『Sorry, My Master……』


「………」


 あいた口が塞がらないって本当のことだと実感したの。


「―――っ、いいよっ!!

 どーせわたしが悪いって言うんだねっ!!

 わかったよっ!!

 悪い子なら悪い子らしく生きてやるなのっ!!」

「ちょっ、あんたっ?!!」


 わたしはアルフさんの横を過ぎベランダから飛び出る。


『Fly』

 そのまま草原を眼下に収めながら遠くに見える街を目指して加速する。

 わたしは悪い子なの。
 なら、悪い子らしく街に繰り出してやるのっ!!


  ◆◆◆


「おじさんっ、ラーメンセット一丁っ!!」

「おう、嬢ちゃん、子供用のラーメンセットだな。

 ちょっと待ってな。

 ところで嬢ちゃんは学校に行かなくて良いのか?

 まだまだ学校の時間だろ?」

「わたしは悪い子だから気にしないの。

 さぁ早く作ってなの」


 街に出たわたしは執務官から支給されたミッドのお金を使ってラーメンを頼む。
 気さくなおじさんはあまりこちらの事情にツッコミをいれずにラーメンを作ってくれる。

「これはおまけだ。
 何があったかは知らないが頑張れよ嬢ちゃん」

 おじさんはニカッと笑いかけて餃子をおまけしてくれた。
 
 残念ながら、その笑顔は爽やかなものではなく不気味なものだった。
 そしておじさん、女の子に口臭が気になる食べ物を出すのは良くないの。


 わたしがこのラーメン屋をお昼(現在十時)に選んだ理由は、唯一わたしが知っていそうな食べ物が出てきそうな場所だったから。
 ミッドチルダに日本の文化がブームになっていてくれて良かったの。

 異国の地で知らないものばかりというのは怖いものなの。


「いらっしゃいっ!!」


「ラーメン一つ」


「あいよっ!!」


 カウンター席をいくつか挟んで厳ついおじさんが現れた。

 服がエイミィさんたちの青い制服とは違うけど、茶色の管理局のもののようだ。

「(こんなところにも管理局員はいるんだ)」


 わたしは何気なくラーメンを啜りながら観察する。


「ずるずる」

「む?」


 ふと、目が合った。

 見つめ合うこと数秒。


「ずるずる」


「あいよっ、ラーメン一丁っ!!」

「あぁ」


 焦げ茶色の髪を立たせた彼にもラーメンが給仕され啜り始め、二人ともなかったことにした。


「ずず」

「おっ、良い食いっぷりだったな、嬢ちゃん」

「ごちそうさまなの。

 わたしの住んでたところの味と少し違う味だったけど、おいしかったの」

「ってぇと第97管理外世界か?」

「うん、そこの日本って国」


 客が少ない時間帯のせいかラーメン屋のおじさんと話を続けることにした。


「あっちでは、醤油とか味噌、塩、豚骨とか色々あるの。

 他には坦々麺とか魚介スープとか色々種類があるの」

「はぁ、色々あるんだな。

 俺はこのソイソースしか知らなくてな」

「ちょっと……というか、かなり濃かったの」


 客がわたしと焦げ茶色のおじさんの他、数人しかいないため、おじさんもヒマだったようで長いこと話していた。


 ◆◆◆


 十一時近くになった。
 わたしはそろそろお店が忙しくなりそうなのでお暇しようとした時でした。


「あっ!! ゼスト隊長っ!! やっと見つけましたよっ!!

 こんなところで油売ってないではやく戻ってくださいよっ!!」

 
 突然青い長髪の女性が店の扉をガラッと開け放ち、焦げ茶色のおじさんに詰め寄った。

 ………えーと、これがいわゆる『修羅場』なの?


 おじさんは何も言い返さずに追加注文していたチャーハンを黙々と平らげている。

 それに対し女性の『口撃』は続きます。


「クイントぉ、私を置いて行かないでよ……」

 数秒たった後、今度は紫がかった桃色の髪の女性が合流した。


 うわぁ。
 さらにこれはひどいことになりそうなの。

「良いところに来たわねメガーヌ。

 あなたも一緒に隊長に文句を言いましょうっ!!」

「それよりも頼まれたことを解決しましょう」


 思ったより場は混乱しなかったようなの。


「隊長、この子がターゲットです。

 教官たちが大慌てで私たちに依頼してきました。
 まぁ、明日あたりから暇な時間を見計らって私たちが訓練を見ることになっていたから構わなかったんですけど」

 大人しめの女性がチャーハンを頬張る隊長さんになにやら画像を見せている。

「それじゃおじさん、ごちそうさまでした」

「おう、また来いよ嬢ちゃん」


 わたしは立ち聞きも悪いと思い、さっさとその二人の脇を通り過ぎ、外に出た―――


「状況終了だ。

 俺はこのチャーハンを食い終えたら連れて行く」


 と思ったら、背後から襟を掴まれ、猫のように宙に浮かされていた。


「え? なんなの?」

 
 わたしはこの状況がわからず三人を見まわす。


「高町なのはだな。学校から届け出が出ている」

「うぅ、自由への道がもう潰えたの……」
 
 
  
 その後。

 脱走した学校へ連行されたわたしは、教官と先程の二人の女性から小一時間ほど説教を受けるはめになった。


 脱走先に関係者がいるなんて運がないの……。
 
 
  

「でも、わたしは諦めないっ!!!」
 
  



 Side out 
 
・あとがき


 なのはさんの日常。
 今回、魔王化は進みませんでした。

 そして、ラーメン屋が出てきたのは夕凪がラーメン屋に行ったためです。

 ミッドに伝わってるよね? ラーメン。

 緑茶だって伝わってるんだし。


 感想・ご指摘・アドバイス、お待ちしております。



・アリサ部屋(仮)

「はい、こんにちわ。

 アリサ・バニングスよ。

 そういえば、この(仮)っていつとれるのかしら?


 じゃぁまず最初に連絡よ。
 夕凪の大学が忙しくなってきたため、平日連続投稿が難しくなってきたみたい。
 だから、当分不定期更新になりそうなのよ。
 夕凪に代わってお詫びするわ。

 それと、バタフライエフェクトさんの指摘により今回から『舞台裏』から『舞台袖』に名前が変更されたみたいよ。
 夕凪の代理として感謝よ、感謝。


 ふぅ。
 では、感想の返信よ。

 TG09さん
『夕凪は気にしてないんで大丈夫ですよ。

 うちのフェイトは気が抜けてしまったんです……たぶん。
 そのうちキビキビしたフェイトになりますよ……きっと。
 なのはさんも頑張ってるんですからフェイトも……しないか』

 なのはとフェイトはまさに裏表ね。


 月の亡霊さん
『変身魔法を使ってない時は紅色ですね。
 最初の方で温泉編の変身魔法を使用しているので、二人は黒目黒髪大人バージョンになって行動してました。描写不足ですみません(汗
 二人はマンションの部屋以外では基本的にこの魔法を使用して暮らしてます。

 その他人とは違う感性が二人の勘違い物語なのです。
 これ、どうみても友人関係じゃないですよね。
 フェイトが気付く日は来るのでしょうか?』

 ど、どうなのかしら……。


 白区区さん
『そ、卒業くらいは……』

 できるのっ?!!


 Kouさん
『きっと、描かれてないシーンで練習してるんですよ……してるよね?

 そしてヒモはフェイトさんなんですね。
 ユウナ君もやっかいな子と知り合ったものです』

 さすがに、私でもムリよ。


 maigoさん
『敵を瞬殺っ?!!』

 なんでそんなに力を求めるの、なのは……。


 外剛さん
『でも、家事はユウナ君がしてるんですよね。
 え? やっぱり通学した方がいいですか?』

 なのはっ、それは誤解よっ!!


 バタフライエフェクトさん
『探してみたら、奈々さんが声優(?)担当してるんですね。
 似てるんですか?

 「なのはに称号が追加されました」

 そ、そう言われればそうですね……。
 うわ、勘違いしてた、どうしよ』

 今回から変えれば良いじゃない。


 ヨシヲさん
『まぁ、だいぶフェイトとなのはの幸福度とか違いますしね……。
 若干オリキャラ化してるかもですね。

 プレシアさんについては今の所2パターン考えていて、どちらにするか悩んでます。
 本当は時の庭園で、原作よろしくさよならENDの予定の人でしたから』

 予定と全く違うプロットになってるしね。
 どうなるのかしら?」



・舞台袖


「いつもいつも世界はわたしの邪魔をするんだね。

 良いよ。

 だったら世界なんてわたしが壊して―――」

「ストップだ、なのは。

 これ以上壊してどうする気だ」

「まず執務官から血祭りに……」

「なのはっ?!!」
 
 
 
 
「どーもー、クイント・ナカジマよ♪」

「メガーヌ・アルピーノです」

「ゼストだ」

「これから三人で空気にならないよう頑張っていくんでよろしくね♪」
 
 
「クイント、お前、その年でその喋り方、恥ずかしくないのか?」

「隊長、それNGワードです」
 
 
「隊長♪ 後で隊舎裏に来い♪」


「「………」」
 
 
 
 
 



[18634] 第二十一話 アバウトハピネス
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/09 17:46



 Side はやて


「私も明日で九つかぁ」

 他に誰もいないリビングで、私は独り、車イスに座りながら窓の外を眺める。
 お空の月は金色の光を振りまきながら輝いている。

 私、八神はやては一人で生活をしてる。
 小さい頃、両親を亡くした私に遺されたのはこの家だけや。
 思い出は記憶の彼方に消えてしもうた。

 アルバムや日記とかの品もなーんも残ってなかったんや。

 だから、私は明日も孤独な誕生日を迎えるんや。


「……もう、泣かんて決意したんやけどなぁ」


 空を望む瞳は、自然とうるうるとし始めた。

 
「私は生きておられるだけで儲けもんやって、何度も納得したやんか」

 父の友人を名乗るグレアムおじさんが私に生活費を送ってくれおるから、こんな動かない足でも『まだ普通に』生きておれる。

「だから、私は幸せなんや」


 目許を拭い、キッと月を見上げる。


「お月さんに誓ってやる。

 私は不幸になんかなってやらんっ!!

 絶対、幸せに死んでやるっ!!」


 月には雲がかかり始めていた。


「絶対やからな……」


 私はそう呟いて部屋に戻る。


 車イスからベッドに移るのにも、もう慣れてもうた。

「よいしょっと―――ふぅ」

 ベッドに乗ると心地よい眠気が襲ってきた。

「あと数秒で九つや。

 私ももう年なんやなぁ」

 布団を被り、意識を手放すように眠りについた。
 
 
 
 
 
 
「―――って、なんやっ?!!」

 寝ようとしたら急にベッドが揺れ出した。

「まさか、ベッドが私に反抗期っ?!!

 私、そんな育て方しとらんよっ?!!」

 テンパってよくわからんことを口走りながら周りを見渡せば、家自体が揺れとるやないか。
 しかも、禍々しい紫色のオーラ(?)を出しながら空中浮遊で近寄ってくる分厚い本までおるっ?!!


「なんやっ、あんたも反抗期かいなっ?!!

 ってか、不気味やでっ!!

 ごっつ不気味やっ!!」

 私は咄嗟にベッド脇の窓を開け放つ。

「それにあんたっ、『不幸オーラ』放ち過ぎやっ!!

 私が幸せになるためにも、あんたはあっちにポイやっ!!

 ポイ捨て禁止なんか聞いて溜まるかっ!!」


 そして、近寄って来る『不幸になりそうな本』をクッションで叩き、窓の外に投げ捨ててやった。


「ふっ。なんやよくわからんけど、九つ迎えての初イベントがこんなやんて、人生なにが起こるかわからんもんやな」


 背中を冷や汗でびっしょり濡らしながら、窓に鍵をかけた。


「さて、寝直そか」


 混乱しながらも、今のことは夢と暗示をかけて布団を頭までかぶり直す。


「私は平和に暮らしたいんやぁ。

 波乱万丈な人生なんて、もう嫌やぁ」


 涙で枕を濡らす。
 
 
  
 
 その後、窓ガラスが割れる音や、ベッド脇に何人かやって来た気がするが、私はなんも知らん。

 そう、あれは全部悪い夢なんや。

 うちは幸せになるんやぁ。

 不幸はいらへんっ!!
 
 
 
 Side out


  ◆◆◆


「フェイト、頼む、別れてくれ」


 オレは恥も外聞もなく(?)ソファに座るフェイトに土下座して頼みこむ。


「ユウナ……却下だよ♪」


 だが、フェイトはニッコリ笑顔でオレの願いを斬り捨てる。


「お願いだ。

 オレには耐えられないんだ。

 こんな生活が続いたら、オレがどうにかなってしまいそうなんだ」


 それでも、オレは食い下がる。
 奥歯がギシリと音を立てる程食いしばる。
 
 
 
 
 
「だから―――別々のベッドに別れてくれっ!!!!」
 
 
 
 
「ダーメ♪」

 必死なオレに対し、終始微笑みを絶やさないフェイト。
 
 

 こんなやり取りが毎日のように続いているここは海鳴市の某マンションの一室。
 そこにオレとフェイトは住んでいる。

 表札には『銀ノ森夕那』と『銀ノ森命(みこと)』という偽名が出されているが、今回のことには特に関係ない。

 オレたち二人は双子の姉妹で越してきたことになっている。
 
 だから、フェイトはそんなオレに、

『姉妹なら姉妹らしく普段から心がけて暮らそう。

 これで絆パワーもアップだよ、ユウナ』

 などと言って実践するので、こちらはたまったものではない。

 洗髪などが良い例だが、同じベッドで寝るのは勘弁して欲しい。

 
  
 
 
「なんで……わかってくれないんだ」

「きっと数年後、ユウナも理解してくれるよ」


 オレは、オリヴィエがもういないと涙した夜以来の涙を流す。

 あぁ、なんでこの子はわかってくれないんだ。

 男は皆狼だと言うのに。

 フェイトの魅力を知ってるオレなんかと同衾する危険性を何故理解できないんだ。

「これが、魔法への偏った教育の弊害か」

 ミセス、情操教育というか、一般常識を教え込まなかったあなたを恨みます。

 考えてみれば、フェイトのバリアジャケットって露出度高いよね。
 教育間違えてるよ。
 このまま大人になったら捕まるよ、フェイト。

「ってか、オレら追われる身じゃん」

 大人になる前に逮捕か。
 フェイトの人生、もうダメだな。


「ユウナ……さっきから何を呟いてるの?」

 心中を吐露していたオレを心配したのか、フェイトはオレの肩にそっと手をのせてくる。

 うん、心配している対象に心配されるのって、なんか複雑だな。



  ◆◆◆



「というわけで、フェイト、キミには常識というものを学んでもらいたい」

「どういう訳かわからないよ、ユウナ」


 夕食を片付けたオレたちはテーブルに向かいあって会議を開いた。


「オレは我慢ならないんだ……。

 フェイト、キミの常識外のその行動に悩まされ続けて幾星霜。

 オレは決意したっ!!!!

 キミを学校に行かせるとっ!!!!」

「幾星霜って、私たちが出会ってそんなに経ってないよ」


 オレはフェイトのツッコミを無視して語り続ける。

 フェイトが学校に興味を持つように。


「いいかフェイト、この国には知識を教えるための教育機関があってな。

 その名を学校と言うんだ」

「ミッドでもそう言うよ」

 呆れた表情をしているが、話を続ける。

「そこにはフェイトと同年代の子がたくさんいるんだ。

 そこに行けば友達百人も夢じゃないぞ」

「私は有象無象の石ころより、たった一握りの宝石が好きなんだ」

 詩的な拒否、ありがとう。

「他にもメリットはあるぞ。

 えーと、ほら、イベントとか。

 運動会とか学芸会とか」

「ちなみにユウナは行くの?」

「行くわけがない。

 これはフェイトのためであって、オレのためではないのだから」

「むっ、なら私もいかないよ。

 私はユウナが行くところにしかいかないよ。

 そこにユウナが行かないなら、私は行く価値なしと判決を下します」

 
 フェイトは目を細くし、ココアを啜って「この話は終わりだよ」と沈黙する。


 だが、ここで諦めるオレではないっ!!

 快適な睡眠ライフのために、オレは戦うっ!!!!


「フェイト、学校に行くんだっ!!

 まずそこで常識を付けて来いっ!!!

 絶対にキミのためになるんだっ!!!!」


 具体的には身の安全とか。


「それにフェイトは友達が欲しかったって、オレと出会った頃呟いてたじゃないか。

 学校に行けば出来る可能性だって出てくるんだ。

 その中にフェイトの言う『宝石』だってあるかもしれないだろ?」


 フェイトは目を瞑ってオレの話に耳を貸す。


「そもそも、フェイトくらいの子は学校に行って当然の時代になってるんだ。

 むしろ、行かない方がダメだって言われる程らしいし」

 オレは道場で聞いたことも加えて話す。

「それに、学校に行った方が幸せになれるだろ。

 だから学校に―――」
 
 
  
 
「言いたいことはそれだけ?」
 
 
 
 突然、ひどく冷たい声音で、フェイトが呟いた。

「え、あ、フェイト?」

 オレは急なことで面喰ってまともに返事をできなかった。

「言いたいことは、それだけかって訊いてるんだけど」

「………」

 フェイトは俯いて、言葉を続けて行く。

 そんなフェイトにオレは何も口に出せなかった。



「ねぇ、ユウナ。

 さっきから学校に行けって言ってるけど、その意味解ってる?
 
 
 
 あのね、この地域のどの学校かまでかは覚えてないけど、あの白い子が通ってるんだよ?

 もし、私が入った所に彼女がいたらどうする気?

 変身魔法でも、教室なんて狭い所にいたらバレちゃう危険性がとっても高いんだ。

 そこまでのリスクを冒して行く必要あるかな?
 
 
 
 それに、ユウナの言う『常識』なんて、テレビや本とか代用できるものがたくさんあるんだよ。

 わざわざ学校に行く必要性を感じられない。
 
 
 それに、『宝石』があるかもしれない?

 ―――あるわけないよ。

 私の『宝石』は母さんとお姉ちゃんとユウナだけ。

 それに『宝石箱』は定員ギリギリなんだ。

 これ以上はダメ。
 
 

 それにね、ユウナ。

 私、とっても怒ってるんだ。

 なんでかわかる?」


 一気に捲し立てるように言ったフェイトの背中には赤いオーラが宿っているように見えた。幻視?

 それくらい怒っている。

 ここは正直に言おう。


「えーと、その、わからない?」


「……ユウナ」


「はいっ!!」

 ピンと背筋が自然と伸びる。
 背中には嫌な汗が染みだしている。


「私が怒っている理由はね―――ユウナが私の『幸せ』を決め付けたことだよっ!!

 なんでユウナが『私の幸せ』をそれだと決めつけるのっ!!!!

 勝手にしないでっ!!!」

 フェイトがバンッとテーブルを叩いて立ち上がる。
 その拍子にイスが音を立てて床に倒れる。 
 
 オレを睨みつけるフェイトは怒りながら、泣いていた。


「ユウナはなにもわかってないっ!!!!

 私の幸せはっ!!!!

 幸せはっ!!」


 握りしめたフェイトの拳はプルプルと震えていた。


「っ!!」


 だが、言い切る前にフェイトは踵を返して寝室に駆けて行く。


「………」


 リビングには茫然と座るオレだけが取り残された。



   ◆◆◆



 Side フェイト


「っ!!」

 寝室のベッドに飛び込んだ私は悔しさのあまり、ギュッと閉じた瞼から堪え切れなかった涙を流し続ける。
 
 
 ユウナは何もわかってくれていなかった。

 友達?

 『そんなもの』、私はもういらない。

 学校?

 『そんなところ』、興味もない。

 常識?

 『そんな概念』、消えてなくなれ。
 
 
「どうしてっ、わかってっ、くれないのっ」

 嗚咽は止まらない。

 気温によるものじゃない寒さから逃れるために、私は自分の体を抱き締める。
 
 
 
 そうだ。

 ユウナはわかってくれてない。

 私が欲しいもの、

 私が幸せと思うのは。


「ただ、安心できる居場所なのに」


 母さんもいない。

 お姉ちゃんもいない。

 
 でも、ユウナはいる。

 一緒にいてくれる。

 今、一番側にいてくれる私の大切な人。


 ただ、側にいてくれれば、私はそれ以上要求しない。

 一緒に平和に暮らせれば、それで良い。


「それだけで良いのに」


 ユウナは私と離れようとした。

 道場は許そう。

 そこは彼の意思による行動だ。

 
 だけど、学校は?

 そこには私の意思がなくてはいけない。

 それなのに、ユウナは無視した。

 勝手に、私を遠くにやろうとした。


「ひどいよ、ユウナ」


 私はそのまま数分泣き続けた。
 
 
 
 
 
「その、フェイト……」

「………」


 十二時を回った辺り。

 ユウナは寝室にやってきた。


「さっきは、えと、あの……勝手に決めつけたりしてすまんっ!!!」


 私は黙ったまま、枕に顔を押し付けて聞く。


「フェイトに言われて気付いたよ。

 オレ、フェイトに『幸せ』ってもんを勝手に決めつけて押し付けてた。

 悪い。

 これは相手の人格を無視した行動だった。

 フェイトのためとか言って置きながら、実際は違ってた。


 だから、すまんっ!!」


 少しだけ顔を動かしてみると、ユウナはまた土下座していた。

 十秒。

 二十秒。

 三十秒。


 五分を経過したくらいで、私は折れてあげた。

「わかったよ。顔あげて」

 ユウナが顔を上げると、銀糸もそれに合わせて踊る。

 私は先程の謝罪は一応及第点だ、と決めつけ許してあげる。


「フェイト……」

 不安そうな顔をするユウナに通達を言い渡す。

「……次までに、『私の幸せ』について考えておいて。

 今日はもう寝よう?」

「わ、わかった」

 ユウナはホッと安堵のため息をついてベッドに入ってくる。

「ただし、罰として抱き枕の刑に処す」

「はっ?!!」


 ベッドに入ったが運の尽き。

 ここは私のテリトリー。


「ちょっ、フェイトっ?!!」


「大人しく受け入れること。

 受け入れない場合は一生口を聞きません」


「一方的だっ!!

 オレの人権の尊重はっ?!!」


「女の前には無力なのだよ、ワトソン君」


「オレの名はユウナだっ!!!!」 
 
 
 
 
 まぁ、一悶着もあったけど、私たちの平穏はまだ続いてます。
 
 
 
 
 
「寝れねーよっ!!!!

 心の底から頼むから許してくれっ!!!!」
 
 
 
 
 Side out



  ◆◆◆



 Side はやて


「………不法侵入者や」

 朝。

 目を覚ました私が最初に目撃したのは。


「我々は闇の書の主であるあなたに忠誠を誓うヴォルケンリッターで―――」


 ピンクい髪の女とパッキンの女とおさげの女の子と犬耳マッチョマンやった。

 私は何か言ってるピンクいのを華麗にスルーし、車イスに乗りこんでリビングに移動する。

 そして、電話の受話器を持ち上げ、


「もしもし、警察ですか?

 はい、今うちに不法侵入者が―――」


「主っ?!!」
 
 
  
 
 
 私の誤解が解けたのは、サツのおっちゃんがやってくる数分前やった。

 ってか、『闇の書』とか、どう考えても不幸にしかならへんイメージしか湧かん。

 ホントに、幸せになれんの?


 Side out



・あとがき

 ちょっと遅いですが、はやてさん、誕生日おめでとーです。

 登場しました、はやてさん。


 うちのはやてさんは幸福になれるのでしょうか?

 彼女の目的が実現されるよう祈ってます。

 あと、はやてさんの言葉が変な時はお願いします。

 他の作家さん、よくはやてのセリフを書けるなぁと感心します。



 さて、フェイト&ユウナコンビ、日常パート。

 今回もほのぼの行こう。
 ほのぼの……。

 ほのぼ……。



 なんか、ごめんなさい。

 いろいろごめんなさい。

 気づいたらこうなった。

 
 なんでこうなったんだ?


 感想・ご指摘・アドバイス、不定期に投稿する時期に突入しますが、何卒よろしくお願いします。

 頑張れる範囲でスピードを落とさないようにしますんで。


 そういえば、チラ裏投稿が二十話までで制限されていた頃があると聞いたのですが、移動しなくてはならないのでしょか?


 では。


・アリサ部屋(仮)

「そういえば知ってる?

 私の前世(?)の一人に野球少年がいたことを。


 知ってる人いるのかしら?

 というわけで、アリサ・バニングスよ。


 それじゃ今日も返信ね。

 Mさん
『なるほど……。

 でも、なのはさんは正式な局員じゃないから刑務所(に送るの)は厳しいですね』


 なのはに関していつも同じことじか言えない私はいらない存在なのかしら……。


 アズマさん
『どちらのフラグでしょうね。

 気遣い感謝です。
 そのような言葉をかけて貰えるだけで意欲が出てしまいます。
 SS書く方のですが』

 ―――勉強しなさいよっ!!


 赤煉瓦さん
『ちなみに届け出がでたのもこの飛行魔法のせいですね。

 周りは草原ですから、飛んでいたら一発で見つかります。

 なのはさんはこうして「悪い子」を目指して頑張ります』

 なのはっ、なに目指してるのっ?!!


 蝶々さん
『ご指摘ありがとうございます。修正かけました。

 普通かは疑問がありますが、彼らの生活をどうぞ』

 世界は広いのね……。
 なのはの未来はどうなるのかしら?


 ヨシヲさん
『そういえば、普通に現役でしたね。
 もしかしたら、使い手を選ぶベルカ式故に、古代ベルカのデバイスは高性能で、現代のミッドに対抗できるスペックがあったとか?
 それに騎士自体が歴戦のツワモノですし。

 そして[100]番おめでとう(?)ございます。
 十八話で連絡した通りで希望をどーぞ』

 ちなみに蹴ることもありだそうよ。
 ま、そこまで期待しないで頂戴ね。


 Kouさん
『フェレット君?
 そういえば彼はどこに行ったんだろう……。

 あなたも極悪デバイス推進派っ?!!』

 そういえばすずかも空気ね。


 バタフライエフェクトさん
『殺傷設定の魔法使っちゃいましたが、大丈夫でしょうか……。

 カートリッジシステム、A'sに先んじて搭載ですかっ!!

 あれ? 隊入りしたら、A'sに参加できないなのはさん?』

 帰ってこないつもりっ?!!


 パウルさん
『いつのまにか過去の目標(主人公の座を取り戻すこと)を達成してるなのはさんっ?!!

 ユウナ君、マジで頑張って』

 なのはは自由に動けるからね……。


 巻きさん
『バイト……このポンコツ、ちゃんと働けるかが謎ですね』

 でも妙案じゃない?
 やらせてみたら?


 月の亡霊さん
『確かに、リミッターとかないんでしょうか?

 月の亡霊さんが言うように人材のため?』

 どちらにしろ、なのはは使われるのね……」



・舞台袖


「絶対に学校になんて行かないからね」

「わかった。

 わかったからもうヘソを曲げないでくれ……」

「絶対だよ?」
 
 
 
 
 
「闇の書の主にされてもうた八神はやてや。

 私も精一杯生きるさかい、応援よろしゅう頼んます」
  



[18634] 第二十二話 ミール(N)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/17 17:54


 Side はやて


「うぅ、喜んでええのやら、哀しむべきなのか……。

 私には判断でけへん」


 九つの誕生日に、私は神さまからなんやらえらいものを戴いてしもうた。

 それは不幸になりそうなアイテムと、一つ屋根の下で共に暮らす家族や。


「主はやて。
 その、このようなものを戴いて本当によろしかったのですか?」

 ピンクい髪のシグナムが私に、デパートで購入した服がぎょーさん入った紙袋を指して言った。

 それに続いて、他のヴォルケンリッターの三人が揃って頷いた。

 パッキンの姉ちゃんがシャマル。

 ちっこい赤毛の子がヴィータ。

 犬耳を隠した結果、ただのマッチョマンになったザフィーラ。

 ヴォルケンリッターゆうのは、『闇の書』(不幸アイテム認定書籍やで?)の主に忠誠を尽くす騎士団なんやて。
 それを聞いた時は、
『どこのファンタジーやねん』
 と呟いてしまったんも、良い思い出や。昨日の朝やけどな。

 ま、そんなこんなで、私には幸せと不幸の二つが同時にやってきたみたいなんや。
 ほんま、どうしたら幸せに死ねるんやろ?


「かまへんよぉ。

 どーせ、私のじゃないんや」

 シグナムの問いに苦笑して答え、グレアムおじさんからもらっとるお金を新しい家族につこうた。

 シグナムたちは首を傾げる。

「ほな、行くで。

 次はファミレスやっ!!

 一度行ってみたかったんや」


 車イスを華麗に操る私のテクニックを見ぃっ!!

 雑踏の合間もこの通り簡単に抜けられるでっ!!!!

 わはははははっ!!!!


「主はやてっ?!!」


 おっ、気付いたんかシグナム。
 さっきまでの人間味のない顔から驚きの表情が出とるやんか。
 私は嬉しいで。

 そう、私が車イスでこないなことしとる理由はな―――


「さぁっ!!!! ファミレスまで競争やっ!!!!」


 あんたら家族に感情を思い出させることやっ!!!
 
 
 なんやねんっ!!
 私の新しい家族はみんな仏さんみたいな面しとるって、幸せ要素も半減やっ!!

 何度も言うとるけどな、私は幸せな最期を迎えたいんや。

 やから、死ぬ時はあんたらの笑顔を見ながら天国に向かうんやっ!! 
 

 Side out



  ◆◆◆


 Side なのは


「おじさんっ!! チャーシューメン一丁なのっ!!」

 人生とは辛いことばかりだと思うの。
 例えば、学校。
 気の合わない教官や態度ばかり大きい能力のない年長者。
 そんな人ばかりいる学校では、わたしの技術なんて伸びるはずないの。
 昔の人は言ったの。

『技術は盗むもんだぜ、ガキども』

 それなのに、盗むべき対象がいない。

 だから、私は思うの。

「(あそこはただの『監獄』なの)」

 目的を持つわたしには、あんなところで燻ってる暇はない。
 ただ、怠惰にあそこで暮らす気はないのっ!!


 ラーメン屋のおじさんがカウンターの奥で麺を茹でるのを右目で追って考える。

 戦闘も料理も同じなの。
 要は盗むこと。
 この二つに差はたぶんないの。


「だから時間的にも本質的にも、ここにいることは有意義なものだと、胸を張って言えると思うの」

 コップに波々と入った冷水を煽りながら呟く。
 
 
 
「ふふ、それは胸を張って言うべき事じゃないと私は思っちゃったりするんだよねー」



 コップを持っている左手が強張る。

「(こ、この声はっ―――)」

 ありえない。

 絶対ありえない。

 だって、この声の持ち主は今頃他の生徒を受け持ってるはずっ!!!!


 ダラダラと冷や汗を流しながら、恐る恐る振り返ると、


「は~い、なのはちゃ~ん♪

 覚悟できてる~?」
 
 
 怒気を隠した笑顔で、仁王立ちする青鬼がいた。


「にゃ、にゃぁああああっ?!!!!」
 
 
 
 
 
 
 学校を抜け出して通っているラーメン屋で、早い昼食を頂こうとした矢先にいるはずのないクイントさんに捕まってしまったの。


「うぅ、頭が痛むの……。

 ぐりぐりはもう嫌なのぉ」


 その結果、カウンターで頭を抑えることになった。

 
「学校を抜け出すなのはちゃんが悪いんだから。

 あ、おじさん、メンマラーメン三丁っ!!」

「あいよっ!!」


 わたしの右側の席に着いたクイントさんは、さりげなく注文した。

 というか、あなたも食べるの? しかも三丁?

 わたしの視線に気づいたクイントさんは、

「お腹減っちゃってー」 
 
 と言う。

「わたしは食べに来ただけで罰を受けなくちゃならないのに、クイントさんに罰がないのが憎いの」

 恨みの籠った目で睨んでやるの。

 呪われてしまえなの。

「ふっふーん。

 これが生徒の身分と社会人の違いなんだよ、なのはちゃん」

 
 余裕の笑みで語ってくれる。

 この仕返しは絶対訓練の時に晴らしてやるの。
 

 
 少しして盛り付けの終わったラーメンを出されたチャーシューメンを啜る。
 ふぅ。この一時のためにわたしは苦労してるの。

 あの日、この場所でゼストさん、クイントさん、メガーヌさんと出会った日から、わたしの学校生活が厳しくなることに決定された。
 無断飛行だか、使用だかでわたしはひどく怒られたの。
 ミッドでは魔法の使用に関してうるさいの。

 しかも、説教が終わってすぐに模擬戦開始。

 演習場でクイントさんとメガーヌさんによる『いじめ』まで始まる始末。
 二人が陸戦と聞いたわたしは空に上がって砲撃で殲滅しようと思ったら、ウイングロードっていう魔法で空中に道を作って殴りかかってくるし、それを回避出来ても、メガーヌさんのアルケミックチェーンの網に引っ掛かって、すぐにクイントさんが殴りにくるし。
 そんな状況じゃ焦ってアクセルシューターなんかうまく制御できなくて、叩き落されるし、ほんとひどいの。

 あの日はあいつにやられて以来、初めて地面をころがったっけ……。


 三人はゼスト隊っていう部隊の所属だからそんなに学校にはいないから良いけど、いじめは良くないの。

 ちなみに、二人の戦法はわたし向きじゃないから仮想敵には出来ても、盗める技術が限られてくる。
 だから、どちらかというとゼストさんが気になるの。
 戦ったことはないけど、槍を使うらしいし。

 あいつと思って練習もできる。
 それに、レイジングハートも槍みたいなものだから盗むならあの人だ。

 わたしは一応今後の目標は見つけたのだけれど、ゼストさんは学校で教導をしてくれない人なの。


 つまり、学校になんて興味はないというわけなの。



「お待ちっ!!」

「おっ、おじさん早いねっ!!

 そんじゃ早速頂きますっ!!」


 隣のクイントさんは時間差で出されるラーメンをどんどんお腹に流し込んでいく。

 ……料理を味あわない人は外道なの。

 わたしは冷めた目線を浴びせたあと、クイントさんに気付かれないように外に出た。


「……にゃははは。

 わたしは自由に生きるの。

 学校なんかに拘束されるわたしじゃないの。

 ふふふふふ」


 こうして今日もわたしの日々は過ぎて行く。

 この生活もあと数日でおしまいだ。





 Side out



 ◆◆◆


 Side クロノ


「なにっ?!! それは本当なのか、エイミィっ!!」

「うん、事実みたい……」


 アースラのブリッジで、僕はエイミィにもたらされた情報に驚かされた。
 テスタロッサ事件の後処理がまだ終わってないが、他の世界も巡回しなくてはいけない『海』に所属する僕らは、はっきり言って忙しい。
 
 だからこそ、僕らは高町なのはが引き起こす問題に頭を悩ませている。
 
 一応、僕の判断で学校に押し込まれたなのはの後見人は僕と母さんである。
 学校で何かしでかしたら、ミッド世界に身内がいない彼女のことは全て僕と母さんの所へやってくる。


「これがその書類だって……なのはちゃん、何を考えてるんだろうね」


 受け渡された書類に書かれている内容は、


「ゼスト隊への、教導申請……。

 任務への同行による実施訓練を希望だと」


 眩暈を覚えながらその書類を読み進めて行く。

「学校側は賛成多数だって。

 問題行動の多すぎる生徒はいらないって」

「そりゃそうだろ」


 同時に溜息をつく。


 もう、これ以上悩みの種を増やさないでくれ、なのは。
 



 Side out   


 ◆◆◆



 Side はやて


 ファミレスに一番についたら、後から来たシグナムに怒られてもうた。

「自分は主はやての騎士なのです。

 この身は主はやてを守ることを使命としているのです。

 ですから、このような軽率な行動は控えてください」

「あかん。

 あかんでシグナム。

 私はそんな王侯貴族のような人間やないのや。

 そんなかたっ苦しい言葉で止められる私やないで」


 ちっちっちっ、と指を振ってごまかす。

 それを見て不承不承といった感じに引き下がるシグナム。

 ヴィータあたりは何か言いたそうな顔をして、黙りこくっている。

 シャマルはオロオロするばかりでなんとも言えんな。

 ザフィーラは……犬?


「まぁ、とりあえず食事にしよか?

 それとザフィーラ、動物は入れんのや。

 どっかでマッチョマンに戻って来ぃ」


 ザフィーラはそのまま無言で去って行った。
 犬でも―――いや、犬だからこそ表情が読めん。
 何か喋ってぇなザフィーラ。
 
 
 
 
「五名様ですか?」


「そや、禁煙席で車イスでも座れるところをお願いします」


 私らは店員さんに案内されて席についた。
 外の様子も見れる窓側の席や。

「なに頼もか」

 私はメニューを開いてみんなに選ぶように言う。

「えーとぉ……」

 それにシャマルが困ったようにシグナムやヴィータを眺める。選べないんかいな。

 シグナムはメニューの一点を見つめ、ヴィータはデザートの欄に目が奪われそうになりながら主食を選ぶ。

 ザフィーラは……肉にしか興味ないんかい。


「シャマル、他のみんなは決めてもうたみたいやけど、どや?」

「は、はいっ!! き、決まりました」

 引き攣った笑みで答える。

 大丈夫かいな……。


 ボタンを押して店員を呼ぶ。

「ご注文は?」

「私はこのスパゲティにコーンスープをお願いします」

「私はこのドリアを頼む」

 私に続いてシグナムも注文する。
 単品で足りるんか?


「俺はこのステーキとチキンを」

「ライスとサラダも付けといてな」

 ザフィーラ、偏食はあかんで。

「あたしはこのチキンとサラダセットで」

「偉いでヴィータ。おまけにアイスも食べよか」

 私が頭をなでると、まっかになるヴィータ。
 かわえぇなぁ。

「わ、私もスパゲティとスープで」

 慌てたように注文するシャマル。
 あんた、私のと同じやないか。
 選べんからて、パクるんやない。
 
 
 
 ま、何はともあれ親睦を兼ねた誕生日会(一日遅れ)は滞りなく終わったと言っておこうか。




・あとがき


 すみません。 
 思ったより筆(?)が進みませんでした。
 でも、もう少ししたら筆が進む場面になりそうだから頑張ります。

 不定期になりますが、感想・ご指摘・アドバイス、よろしくお願いします。

 旧題「誓いの騎士」をタイトルから外しました。
 事後報告ですみません。 

・アリサ部屋(仮)

「いつもこんなSSを読んでくれてありがとう、アリサ・バニングスよ。

 ………本編の私の出番がないからって、こっちに出過ぎかしら。

 そういえば、夕凪からの連絡よ。

『気が早いですが[200]を踏んだ方にもリクエスト権を進呈します。

 それと、今回なのはさんのところで、なのはさんが考えている内容を意識的に多めで書いてみましたがどうですか?
 大差ないですか?』

 なんだか地の文がいつも少ない気がして、内容が薄いような気がしてたみたい。

 習作だからって胡坐を掻いてないで、向上心を持って挑みなさいっ!!


 それじゃ、仕事行くわよ。




 Mさん
『スバルの未来がありありと想像できてしまう……。

 ダメだよなのはさんっ!!

 その子はクイントさんの娘だよっ?!!』

 むしろ望んでやりそうね、教導の結果次第では。


 鳴海さん
『家族ってものに憧れてましたもんね。

 はやてさんは可能な限りなのはさんのようにならないよう頑張ります』

 なのはは予定外過ぎる行動をしたもんね。


 外剛さん
『この配役を見て、ナデシコキャラでガンダムWのストーリーをやるSSを思いだしました。
 というか、やっぱりユーノはマスコット。

 出会って数カ月も経たず夫婦の掛け合い。
 ちょっと早まりましたか?』

 同い年よね? フェイトって。


 ヨシヲさん
『が、学校……IFでも構わないですか?
 あと、テンプレになりそうなんでクオリティは期待しないで下さいね?

 ゆ、ユウナ君はロリじゃないよ?
 オリヴィエで慣れてる(?)はずだから……。
 ユウナが動揺したのは、大人バージョンのフェイトがよぎったりするからです。温泉の時のリフレインですね。
 あと、フェイトととは生活を共にして距離が近いですから。気恥ずかしさもあるんですよ。
 た、たぶん……』

 でも、精神は体に依存するとも言うわよ?
 同い年の女の子とも感じるんじゃないのかしら?


 白区区さん
『その妄想で何故か若返ったプレシアさんとスカさんがくっ付いてしまった夕凪はダメな人ですね。

 その発想はなかったっ!!!
 確かにそれが成功すれば管理局の人材不足は解消されますね。
 
 あ、でも、AMFと相性悪いかな?』

 でも、面白そうよね。
 このSSでもやりたいけど、白区区さんがそれを書くのを期待するわ。
 

 アズマさん
『アドバイスありがとうございます。

 詰まった時などに活用させていただきます。

 でも、はやてが一番苦労しそうです。夕凪のイメージですが』

 方言って難しいものね。


 ダイ・ボーガンさん
『アースラの二人には苦労してもらいましょう』

 迷惑ばっかりかけてるのね、なのは……。
 もう、私はこれ以上言わないわよ……。


 パウルさん
『二人で行けば問題解決ですね。

 女子高には絶対なのはがいないので安心できますが、ユウナの精神とフェイトの知能指数が問題過ぎますね。
 行ったら行ったでフェイトが暴走しそうだし。

 でも、ネタで行かせたいですね』

 ユウナ、あんたの未来が明るいことを祈ってるわ。

 バタフライエフェクトさん
『ご指摘ありがとうございます。修正の前にお礼を言えず、すみませんでした。
 調べてみたら「うち」じゃなかったです。先入観って恐ろしいです。

 フェイトの声で行けば売れますね。

 ルーさんにそんなことがあったんですか。
 あれ? じゃぁアースラに捕まった時もリミッターかけられるはずだったのかな?』

 声優なら私の声でも行ける気がするわ。


 露出卿さん
『ヴォルケンズ関係はもうちょっと先で……』

 あ、あまり期待はしない方が良いわよ。
 なんたって夕凪だから、成長してるのか微妙な書き手なんだから……。
 

 ろんろんさん
『三つ巴で三国志の覇権争いを思いだしました。

 予告的な感じで言うと、ヴォルケンズの誰かと面識あります。
 さてさて、どうなるでしょう?』

 ちなみに、この空白期のメインはそこの関係だったりするそうよ。
 あくまで予告レベルのネタばれだからねっ!!


 バタフライエフェクトさん
『自分Vividは連載みてないで、単行本までの知識ですが……。

 夜天の王はベルカの王族でしたっけ?
 まぁ、王族だった場合はうちのSSでは改変扱いになります。たぶん。

 夜天の王はあくまで『夜天の書』の所有者という解釈で』

 どうだったかしら?」



・舞台袖


「ゼストさんっ!!

 わたしはあなたの技術を盗むのっ!!

 覚悟してっ!!!!」


「………」

「隊長、無視するのはあんまりじゃ……」


「―――っ、絶対盗んでやるのっ!!!!」
 
 
 
 
 
「はやてちゃん、私のお誘いの留守電、聞いてないのかしら……」
  
  
 
 
 
「あ、石田先生に電話返すの忘れてた」





   



[18634] 第二十三話 ユウナジャンプ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/17 17:54





 Side シグナム


 ―――私は、いつの頃よりこのようなことを繰り返してきたのだろう。

 暗く、だが、心地よい闇を漂う私の意識は、ただその思考を繰り返す。
 記憶などというものは、書が転生する度に『保存』され、私の身には技術のみが残される。
 『知識』として、そのシステムの『情報』があるだけだ。古いものほど『再生』が難しい。


 いつからだ。

 いつから、私はこのような存在であったのか。

 自分が守護騎士システムの一部であることは理解している。
 プログラム体であることも、解っているつもりだ。

 だが、考えずにはいられない。

 指示されたことを忠実に実行する機械もどきの思考の片隅で。

 靄のかかった『個』としての『記憶』を探り続ける。

 自分の在り方とは、どのようなものであっただろうか。
 自分が志したものとは何であっただろうか。

 オリジナルであった『個』は、何を思ってこの剣を振るったのか。

 プログラムである私は、何も想わずただ振るう、空虚な器だ。
 中身がない。
 上辺だけの『剣の騎士』。


 信念の欠けた『騎士』は、果たして本物の『騎士』であると言えるのか。

 ―――違う。

 紛い物の私が『騎士』を名乗って良いのか。

 ―――愚問だ。

 私は、プログラムであるシグナムは、

 本当の『騎士シグナム』であると、

 口にして良いのだろうか。 
 
  
 
 
 思考は繰り返す。

 メビウスの輪のように、永遠とその道を歩み続ける。

 次の世で、この輪を断ち切る刃が来ることを願い、闇に眠る。
 
  
 
 それからどれほどの時間が流れたか。

 世界が脈打ち、闇から解き放たれるように、優しき闇は風によって流されゆく。

 また私は、偽りの器の騎士となる。


 私の時は、流れ出す。



   ◆◆◆



「シグナム、どうしたんや?」

「……いえ、なんでもありません」

 私は主はやての誕生会の席でもあの思考を絶やせなかった。
 主はやてはその様子を心配してか気遣って下されているようだ。

 よく見れば、他のヴォルケンリッターへも注意を払っている。
 と言っても警戒をしている訳ではない。

 ヴィータが初めて食べるという『アイスクリーム』なるデザートを恐る恐る口に含む様を、姉のように見守っていたり。
 主からこのような対応をされたことのないためか、シャマルがどう行動すべきか動揺していると、不出来な姉を出来た妹のように落ち着かせようとしたり。
 ただエネルギー摂取に勤しむザフィーラに、母のように栄養バランスを考えた食事をするように叱ったり。

 まるで、

 そう、家族のように心配しているような印象を受ける。

 
 自分たちがどのような存在かを理解して頂いた時から、主はやての姿勢はそれだった。

 家族。

 掘り起こせる『情報』の中にはこのように接してきた主はいなかった。
 故に、私はプログラムでありながら期待してしまう。


 今回こそ、自分の『個』を取り戻せるのではないか。


 『個』として生きた時代になら、私にも家族と呼べる存在がいたのかもしれない。
 なら、主はやてが家族として接して下さることによって、私は思い出せるのかもしれない。


「(それに、だ)」


 私は自分が口にするドリアを味わいながら、靄の向こうへ手を伸ばす。

 ドリア。
 オーブンで温められたこの食べ物。
 バターで炒められ、その上にホワイトソースをかけられたライスを熱したもの。

 これに私は、妙に惹きつけられた。
 
 軽い既視感。


 もしかしたならば、『個』で在った頃の私はこの料理に似たものに思い出があったのかもしれない。
    
 この時代ならば、そのようなものにまた出会う可能性がある。



「主はやて。

 お願いがあります」



 ならば、動こう。

 主はやてを守りながら。

 私は『個』を取り戻そう。


 機械的な思考が、『個』を望む思考の邪魔をしようと。

 もう、この小さな願望は止められない。

 止まれやしない。


「私に、仕事を探させてもらえないでしょうか」



 Side out


  ◆◆◆



   
「ゆ、ゆうなぁああああっ!!!!」


 ある日の夜のこと。
 オレはいつもの通り道場から帰宅し、リビングに入ると、フェイトが涙を溢しながら縋りついてきた。
 見れば上の服は着ているが、下を穿いていない、いわゆる半裸状態だった。

「えっ?!! ちょっ、フェイトっ?!!」

「遅いよっ!! どうしてこんな大変な時にユウナはいなかったのっ!!!」

 フェイトはとても取り乱していて状況がいまいち解らない。
 オレの胸に顔擦りつけているため、服が涙や鼻水でぐしょぐしょになっていく。
 突然のことで当惑するも、とりあえずフェイトを宥めにかかる。

「よしよし、良い子だから泣きやんでくれ、よーしよし」

 フェイトの背中をとんとんと優しく叩く。

「ゆうなぁ」

 それでフェイトが落ち着きを取り戻し始めたので一安心する。
 縋りつく手は離してくれないが。

 フェイトは長い時間泣いていたためか、目や鼻が真っ赤になっていた。


「一体なにがあったって言うんだ」


 そう思い部屋を見渡すせば、

 ひっくり返ったテーブル。
 壁に叩きつけられ墜ちたであろうクッション。
 フローリングの床に倒れ伏す観葉植物と散らばる土。
 無残に引きちぎられたカレンダー。


「これは……」


 もう一度フェイトに目をやる。

「えぐっ」
 
 そこに先程と同じく、半裸で泣くフェイト。
 その太ももには赤い紅い血が垂れていた。

 
 纏めると。

 半裸で股から血を流し、泣いて取り乱すフェイト。
 荒らされた部屋。
 大変なこと。


「(つまりこれは―――)」


 自ら打ち立てた予想に、サーっと血の気が引いて行く。


「(いや、そんなはずはない。あってはならないことだっ!!)」

 
 頭を振り、オレはそれを否定する。
 寒気を感じながら、否定材料を並べていく。

 このマンションの一階には自動ロックがあり、普通そこからマンションの内側に侵入できるはずはない。
 それに、部屋自体にも電子ロックがあり鍵が必要だ。

 さらに魔法でこの部屋を魔法的、科学的にも侵入、観察、魔力探知にも引っかからないよう結界を張ってある。
 ここに出入りができるのはリンカ―コアを登録してあるオレとフェイトのみのはず。
 例外とするなら作成者のミセスだけだ。

 だから、ここは絶対に近い安全性を得られた隠れ家であるはずなのだ。

 だから―――だからこそっ、


「強盗が入る訳がないっ!!」


 コメカミを抑え、自分に言い聞かせる。

 そうだ、ありえない。
 オレの大切な人間を。
 フェイトを傷つける者がここに押し入ったなんてあるはずがないっ!!

 だが、どうだっ!!!

 フェイトはオレに言ったじゃないか。

『遅いよっ!! どうしてこんな大変な時にユウナはいなかったのっ!!!』

 大変な時。
 つまり、フェイトに危険が差し迫った時。

 そして、『遅い』。

 手遅れだった。

 
 膝から力が抜ける。
 オレはそのままフェイトと一緒に床にへたり込む。


「えぐっ、ゆうなぁ」


 未だ涙がこぼれ続ける紅い瞳と目が合う。

 その瞳は恐怖で怯え、オレに助けを求めている。


「っ、フェイトっ!!!」


 衝動的にフェイトを抱きしめていた。


「あっぷ、ゆうなっ?!!」


 それに苦しそうに呻くフェイト。

 その小さな体を、ぎゅっと自分の腕の中に抱え込む。

 オレの頬にも自然と涙が伝っていた。


「ごめんなっ!! フェイトが暴漢共に襲われているとも知らず、オレはガキどもに剣道を教えていたなんてっ!!!

 最低だっ!!

 なにが大切な人を今度こそ守ってみせるだっ!!

 守れてないじゃないかっ!!!

 オレはまた守れなかったのかよっ!!!」


 考えてみれば、絶対の安全性なんてあるはずはないんだ。
 確実に綻びはあるものだ。
 オレたちが気付かなかった場所にあるかもしれなかったんだ。

 いや、あったんだ。

 それのせいでフェイトは恐ろしい目にあったんだ。

 いつの世にも悪はある。
 ベルカの時代でも、巷じゃそのような事件は普通に起こっていた。
 むしろ、いたいけな子供を囲っていたクソ貴族だっていたんだ。

 比較的治安の良いこの国にだって起こる可能性のある事柄。

 運悪くフェイトがその犠牲にあってしまった。

 オレがいない時に。


 あってはならない。
 本当に、起こってはならないことだったのに。

 起こってしまった。

 フェイトは何度オレの名を呼んだんだ。
 恐怖の中、何度助けを呼んだんだ。

 オレはそれに答えられなかった。
 答えられなかった。

 心がギシギシと悲鳴を上げ始める。

 ホントに最低だ。

 最低だよ。

 
「……ゆうな、くるしい」


 顔を真っ赤にしたフェイトがオレの腕の中でもがいていた。


「―――っわるい」


 オレは涙声で返答し解放すると、フェイトは大きく深呼吸をして心の安定を図り始めた。


「フェイト、答えてくれ。

 そいつらはどんな奴だった?

 オレがそいつらを二度と光を浴びれないようにしてやるから」


 フェイトの肩を掴んで、迫るオレ。


 フェイトをこんな目に合わせた奴は殺してやる。
 お前らはやってはいけないことをしたんだ。
 それ相応の報いを与えてやらなければ気が済まないっ!!!!


 そんなオレに面食らったのか、フェイトは紅潮した顔のまま、口をパクパクと動かすだけだった。
 
 そうか、口にすることすらできないほどショックを受けたのか。
 いや、それが当然か。
 そんなことをされてショックを受けない方がおかしい。


「わかったよ、フェイト。

 この街一帯の男共を皆殺しにしてくる。

 そうすれば、いつかフェイトを酷い目に合わせた相手にぶち当たるはずだ」


「ゆ、ユウナ、一体なんの話っ?!!」


 口がきけるようになったのか、驚いた風に声を出すフェイト。


「いや、だから、フェイトを犯した奴をぶち殺しに行くって話」

「おかす? 良くわからないけど、私はユウナに窒息寸前に追いやられたことを除けば、誰にもなにもされてないよ?」

「は? だって、大変な目にあわされたって」

「……そんなこと言ってないよ。

 私は大変な時になんでいなかったのって言ったの」


 フェイトは呆れたように説明を始めた。


「今日、お風呂に入ろうとしたらね、その、小股から血がドバッて流れて来たんだ。

 私、なにがなんだかわからなくて、取り乱しちゃって、相談しようとしてもユウナはいないし、だから部屋で暴れちゃって。

 裸じゃ寒かったから上着を羽織ってユウナを待ってたんだよ」


「………えーと、つまり、アレなのか?」


「うん、早とちり」


 フェイトの同情するような視線を浴びて、床に崩れるオレ。

 恥ずかしい。
 ものすごく恥ずかしいぞ、おい。
 
 
 
 
 
・あとがき

 やっと来たよ、シグナムさんっ!!
 あなたを出すのをどれ程待った事やら。
 これで話が進められます。

 ちなみに、今回はユウナ空回りの回。
 最近のユウナってこんなんばっかですよね。

 ユウナ&フェイトの話は次回に続きます。
 理由は夕凪の頭痛(知恵熱か疲労か)のせいです。
 あと、サイズ的に。


 感想・ご指摘・アドバイス、お待ちしております。

 では。
 
 
  
・アリサ部屋(仮)

「最近タイ焼きに目覚めたアリサ・バニングスよ。

 夕凪の諸事情により、いきなり仕事に行くわ。


 maigoさん
『その前に、なのはは海鳴に帰って来るのだろうか……』

 なのはー、かーむばーっくっ!!


 バタフライエフェクトさん
『外出&誕生日ということで。

 あ、もう保護されているんですね。
 いつされたのか自信なくてどうしようか悩んでたんで助かります。

 サウンドステージは04までしか買ってなくて……。
 というわけで、今日(昨日?)買ってきました。
 オリヴィエ時代の夜天関係は再考しておきます』

 情報不足が招いた失敗ね。


 Mさん
『なのちゃんに……も、戻れるのかな?

 まさかのゼス×なのっ?!!

 そういえば、ゼストさん年幾つくらいでしたっけ?
 レジアス中将と親友って、だいぶいってるますよね……』

 な、なのはが年上好きだったなんて……。
 どうしたらいいのっ?!!


 パウルさん
『この頃の中将ってもう真っ黒なのでしょうか?
 白でAAA一人が来ても、人員不足に悩むのは変わりないのかな』

 だけど、問題児なのよ……。
 この人の胃に穴があかないといいけど。


 白区区さん
『クトゥルーはダメですっ!!

 なんかR15くらいになりそう。
 グロさの方で』

 まさかの極悪デバイスフラグっ?!!
 ネクロノミコンとか出て来たらクロスになっちゃうわよっ!!


 ヨシヲさん
『はやてさんは一般人でいて欲しいけど、またおかしな方向に行くのかな……。
 アリサ&すずかは出てくる予定はあります。
 増えるかまでは……』

 やっと表舞台に帰れるのね。


 火消しさん
『これはご丁寧に。
 
 ユウナ君の日常は常にフェイトとの戦いですからね……。
 
 スカ組に行ったら、世界は滅びそう。
 六課もないだろうし、誰があいつら止められるんだろう。
 というか、カリムさんの予言、変わるでしょうし……。

 八月過ぎまでカメの足より遅い更新になりそうですが、頑張ります』

 魔眼だけで済むのかしら……。
 何故かもっと強くしてくれと頼みこむ姿が見えるのは気のせいよね。


 ろんろんさん
『というわけで……。

 やって来ましたユウナ君。
 活躍(?)したのだろうか?』

 本当よね……」


・舞台袖


「シグナムって考えに耽るタイプなんか?

 うちに来てからずっと心ここに在らずっちゅう感じなんやけど」

「どうでしょう?

 私たちもこんなシグナムを見るのは初めてですし」

「大丈夫だろ。

 シグナムはあたしたちの将なんだ。

 有事の時には一番頼りになる奴なんだ」

「論点がずれているのではないか?」
 
 
 
 
「とりあえず、ユウナの絆パワーは本物だって解ったから、ね?」

「その優しさが逆に羞恥心を煽るだけなんだよ……」
 
 
 
 
 
 



[18634] 第二十四話 ライブラリー
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/21 10:04


「ユウナ、これかな?」

「うーん、たぶんそうだな」


 オレとフェイトは本棚が並ぶ空間の中、あるコーナーでその本を手に取った。


「これさえあれば、たぶん大丈夫だ」

「う、うん。じ、自分のことだし、私、頑張るよ」


 フェイトは緊張しているのか、ゴクリと喉を鳴らして本を開く。


「―――っ!!」


 が、開いたページの挿絵を見た瞬間に顔を真っ赤にしながら、バタンッと本を閉じてしまう。


「ゆ、ユウナ、見た?」

「あ、あぁ」

 頬を紅潮させ、オレの方へ視線を投げかけてくるフェイトと見つめ合う。

 やばっ、つられてオレまで赤くなって来たじゃないかっ!!!

 体温が上がってくるのを感じたオレは手で顔を扇ぐがあまり効果はなかった。


 フェイトが手に持つ本、それは『性教育』の本だった。
 
 
 
 
 時は昨夜まで遡る―――。

 
「だ、大丈夫かな?」

「わ、わからない。なにせ、オレは男だし」

 
 とりあえず血が止まっていた様子だったので、フェイトに軽く体を洗って服を着てもらい、オレもサッと風呂から上がって、現在、修復後のリビングでテーブルを挟んで会議中。
 もちろん、内容は『フェイト、出血事件』だ。
 だが、内容が内容なだけに会議はすぐに暗礁に乗り上げた。

「うぅ、どうしよう……。
 私、死んじゃうのかな……。
 これ、きっと病気だよ」

 フェイトは目をうるうるさせ、自分の体を抱きしめている。 

 そんな不安がるフェイトにオレはただ曖昧な返答しかできない。
 そういった『女性の秘密』をシスターたちは男児に教えてくれはしなかったのだから、これが女性に普通のことなのか、病気なのかもオレには判断できないからだ。
 
 ちなみに、オレが知ってることは、初めての時に血が出ることくらいだ。
 ただ、情報源は教会にやってくる青年たちなので確信が得られない。
 未経験故の無知だと笑うやつが多かったが、オレは気にしない。ああ、気にしない。
 オレはオリヴィエが笑ってくれてるだけで幸せだったんだからなっ!!!

「仕方ない。
 フェイト、今日はもう寝よう。
 情報が少ないんだ。

 なに、魔法関係のことじゃないんだ。
 この街にある図書館にでもきっとこの症状が書いてある本があるさ」

 オレはフェイトにできるだけ明るい声で元気づける。

 フェイトもそれに頷くが、


「で、でも、心細いから抱っこして寝てくれる?

 き、絆パワーで治るかもしれないし……」

「………わ、わかったからそんな泣きそうな顔をするなよ」


 うん、フェイトはやっぱり病気(仮)でもフェイトだったよ。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
「うーん、これか?」

「ど、どれ?」

 図書館の読書スペースの机に腰掛けるオレたち。
 周りからみたら、小学生が読むような教育本を女子大生風の女性二人が眺めている奇妙な光景だろうなと思いながら、フェイトに該当箇所を指し示す。

「えーと……ごめん、わからない」

 さすがに教育を受けてないフェイトは文章を理解できなかったようだ。
 難しい顔をして小首を傾げる。

「つまりどうゆうことなの?」

「要約すると、大人の女性になったみたいだな」

「大人?」

 まだよくわかっていないようだ。
 可愛らしく唇に指をあて、『大人の女性』を想像しているようだ。

「例をあげるなら、赤ちゃんを作れる」

「あっ、あかちゃんっ?!!」

 大声を上げ、身を乗り出してくるんじゃない。
 ここは図書館だぞ、フェイト?
 オレ、若干引いてるからな?

「赤ちゃんって、あの赤ちゃんっ?!!」

「フェイトがあの赤ちゃん以外のどの赤ちゃんを知っているか知らないが、あの赤ちゃんだ」

「あ、赤ちゃん……」

 フェイトは沸騰するお湯が入ったヤカンのように、湯気を上げそうなほど赤くなって教育本を読みふけり始める。

 その間、オレは近くにいたヘアピン車イス少女やその保護者っぽい金髪の女性に頭を下げておいた。
 二人は苦笑いを浮かべて去って行った。


 ◆◆◆


 その後、ポケーと呆けるフェイトを引っ張りながら、図書館を後にしたオレたちは昼食を摂ってマンションに帰宅した。
 ファミレスでも料理を口に運ぶフェイトは心ここに在らず的な調子で、心配になってきた。

「本当に大丈夫なんだよな?」

「はぁ……」

「おーい」

「ふぅ……」

 ソファーに腰掛けるフェイトにオレの声は届かない。

 ダメだな。まだ遠い世界に旅立ったままだ。

 フェイトは窓の外に広がる青空を眺めながら、首にかかった剣十字を指でいじっている。
 溜息をつき、フェイトが反応しないため、図書館から借りてきた教育本に目を通そうとテーブルにつく。

 
 
 
 窓を開けているためか、心地よい風が部屋を通り抜ける。
 それに伴い、レースのカーテンがふわふわと揺れる。
 フェイトの金糸も、ふわりと舞う。

 
「………」


 その光景を目にして、連想するのはオリヴィエのことだった。

 初めて目にしたのも、こんな初夏の日だったな。

 
「はは……」


 なんかわからないけど、苦笑気味に笑ってしまう。

 シチュエーションはかなり似ている。
 開け放たれた窓に、吹き込む昼間の風。
 それに踊らされる金色の髪。

 でも、違うところもある。
 
 あの頃みたいに心がささくれだってない。
 なにより、時代が違う。

 毎日が戦争のような場所じゃなく、同じような毎日が続く平和な場所。

 自然と頬が緩む。

 
 フェイトはまだ空を眺める。
 いや、流れる雲を見ているんだろう。


「このまま何事もなければ良いんだけどな」


 オレは本に目を移す。
 
 うららかな日差しが差す午後は、まだ続く。


 ◆◆◆



 Side シグナム


「でな~、電話で聞いてみた感じやと、指導できる人数は足りてるんやけど、さらに細かい指導をしたいんやて。
 やから、あとは面接で終わりや。

 じゃ、頑張ってきぃや」

「はい、主はやて。
 では、行ってまいります」

 笑顔で手を振る主はやてに背を向け、仕事場になるかもしれない道場を目指す。

 あの誕生会で頼みこんだ仕事場をこんな短時間で見つけるとは、さすがだ。

 私は心中で主を称賛し、薄暗くなりつつある路地を進む。
 
 
 主はやてのもとにやって来て数日。
 今の所、主はやての安全の確保は出来ている。
 故に、私は思う存分『記憶の欠片』を探してみたが、ドリア以来思い出せていない。

 主はやてと過ごすうち、ヴォルケンリッターの皆が段々とだが人間味を取り戻しつつあるのを感じる。
 ザフィーラは人間味と言って良いのか判断できないが、ヴィータは主はやてにかなり懐いているようだし、シャマルも戸惑いがなくなったのかよく笑うようになった。

 だが、自分はよくわからない。
 確かに、風呂というものが好きなのはわかったのだが、あの既視感を感じられなかった。
 自分はまだ皆のように笑えない気がする。
 喉に小骨が刺さっているような感覚に似た違和感があるのだ。
 おそらく、ヴォルケンリッターの中で最も『個』に執着があるからだろう。
  
 
 
 
「おぉ、来たか。話は聞いておる。とりあえず、道場に行こうかの」

「はい」

 仕事場に着くと、ここの持ち主であろう六、七十くらいの白髪のご老人に声をかけられ、道場へ案内される。
 見れば、彼の歩き方はそこらの老人とは違って綺麗なものだった。重心がぶれていない。
 
「さすがに一人で生徒全員に細かく教え込むのは無理でな。
 いや、本当に助かったわい。
 前に働いていた奴は親の世話をすると言って行っちまってな。

 あんたを含めた三人も入れば、しっかりと指導できるわ」

 
 そう言ったのち、ご老人は他の仕事仲間の話を始める。


「あんたみたいな目をしたおなごじゃ。

 ここ最近働き始めたが、なかなか教えるのがうまくてな。
 と言うが、言葉というより実践でだがな」

「はぁ」

「と言っても、今日は家庭の事情で来れないらしくての。

 顔合わせは明後日になる。

 じゃから今日はあんたが指導をしてくれ」


 道場に入り、更衣室で胴着に着替えた私は、やってきた子供たちに剣道を教えた。

 結局、既視感はなかった。




 Side out


・あとがき

 期間があきました、なんとか書けました。
 書けましたが、出来があまり、というか、かなりよくありません。

 しかも、文章が短いです。

 さらに、テストまでもうすぐ一カ月。
 その前にレポートや中間テストのある教科が……。

 すみません、品質低下に投稿頻度低下が進行中です。

 でも、投げ出したりは絶対しないのでよろしくお願いします。

 早く八月にならないかな……。時間欲しいです。



・アリサ部屋(仮)

「蒸し暑さが嫌いなアリサ・バニングスよ。

 最近夕凪にショックなことがあったそうよ。
 なんでも、本板のマテリアル'sをメインに持って来ていたSSが消えていたそうなのよ。
 この頃投稿されてなかったけど、読みたくなって検索をかけたらなかったらしいわ。

 それとバタフライエフェクトさんのアドバイスにより、十八話から「なのはメインの回」のタイトルに(N)をつけるように変更になったわ。

 それじゃ仕事よ。

 ヨシヲさん
『親子並みの差ですね。

 ってか、プレシアさんとフェイトさんの年齢差が一世代分おお――』

 最近落雷が多いわね。


 さらさん
『うちのフェイトさんでも可愛く見てもらえるのは嬉しいです』

 泣き叫んでいるイメージが多い気がするわ。


 アズマさん
『ユウナ君は「たまに」あまり頭がよろしくなくなります。

 オリヴィエ様やフェイトが関わるとそれが顕著ですね』

 ここに来てシスコン属性が……。


 ルファイトさん
『スタッフ(フェイト&ユウナ)がおいしくいただきました』

 宅配にはバニングス便をよろしくね。
 ……語呂が悪いわね。


 パウルさん
『そう、それが結構問題なんです。

 えーと、とりあえず魔王さんじゃないのは確かですね』

 だっ、誰がツンデレよっ?!!


 かんなさん
『楽しんでいただければ幸いです』

 まだ先がバレてないのね……。
 時間の問題だわ。


 バタフライエフェクトさん
『オリヴィエさんの場合は、来る前にお別れしたので、ユウナ君は知らなかったようです。
 偏り過ぎです、ユウナ君。

 そうですね。確かにこっちの方がわかりやすそうです。
 というわけで反映してみましたっ!!』

 わかりにくくないかしら?
 本当に「なんですか」みたくわかりやすい?


 ろんろんさん
『というわけで―――教えて下さいバニえもんさんっ!!』

 とっ、唐突になによっ?!!
 え、えーと、ドイツではわからないけど、ベルカでは祝い事の席で「シャウムヴァイン」日本語で「発泡ワイン」を飲む風習があるわ。
 ―――そっ、そうよっ!! どーせオリジナル設定よっ!! しょうがないじゃないっ、探してもわからなかったんだからっ!!

 バーニング? 名前は知ってるけど、詳細は知らないわ。

 こっ、これで良いわねっ!!」


・舞台袖


「ユウナ、これ、なに?」

「なんでも『赤飯』というものらしい。

 祝い事などの際に食べるらしいんだ。

 郷に入っては郷に従え、というわけで日本の文化に合わせて、頂きます」

「い、頂きます」



 








[18634] 番外話 スクール 『感想[100]記念』if story
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/21 10:04
 
・まえがき

 この話は『感想[100]記念』のリクエストのIF作品です。
 本編では学校に行かせられなかったので、こうしてお届けすることになりました。
 時系列的に「第二十三話 ユウナジャンプ」の後になります。
 よって「第二十四話 ライブラリー」からとは違う展開です。
 それと、この話は続かないのであしからず。
 あと、若干長いです。だらだらです。
 
 では、どうぞ。


 ◆◆◆


 人間には無限の可能性が備わっている。 
 そんなことを唱えた最初の人物とは一体だれだったのだろう。
 誰だか知らないが、それを唱えた奴にオレはこう言ってやりたい。

 ――確かに、人間には可能性がある。だがっ!! 目覚めちゃいけない可能性だってあるんだよっ!!!

 
「ユウナ、その白い制服似合ってるよ♪」

「……そりゃどーも」

 泣きたくなる気持ちを我慢して、とても上機嫌なフェイトに暗い声で返事をした。

 オレたちがいるのは私立聖祥大学付属小学校、その三年生の教室がある廊下だ。
 目の前の教室の中には、先程オレたちをここまで連れてきた教師が生徒に話をしている。

 どうしてこうなった。
 
 心の中で悔しさの涙の海に溺れるオレ。
 そして、その海の底へとオレを誘うのは金髪紅目のフェイト・テスタロッサ。

 静まり返った廊下でオレは耐え忍ぶ。
 
 そうだ。
 昼間の間だけだ。
 その間だけ我慢すれば、あとは大丈夫。
 心の安定を図るために、家に引きこもれば良い。
 あぁ、そうしよう。絶対しよう。

 
「それでは、転校生を紹介しまーす。
 二人とも中に入って来て」

「はいっ!!」

「……はい」


 教室の中へと呼ばれたオレたちはドアを開けて、そこへ足を踏み入れた。
 にこにこ笑顔のフェイトの後ろに付き従うように歩くオレの顔には、きっと引き攣った笑顔があるだろう。

 オレたちの容姿を見た瞬間に騒然となる生徒たち。

 それはそうだろう。
 変身魔法で淡い髪の色や瞳の色を黒やブラウンに変えているとはいえ、フェイトの可愛さは他の追随を許さない。
 そう、オリヴィエに並ぶかどうかというフェイトの容姿に狂喜乱舞しない輩がいるはずはないっ!!!
 普段の長い髪を二つに結んだスタイルからチェンジして、後ろで一つにリボンで結んだフェイト。
 クリクリとした瞳は小動物のように愛らしい。
 いつも笑みを絶やすことのないその表情。
 
 そうとも、こいつらが騒いでいるのはフェイトの可愛さに頭がやられているだけに違いない。
 あぁ、そうに決まっている。

 タカマチが着ていたバリアジャケットに似たデザインの白い制服を着たフェイトが教卓の前で止まり、オレも習ってクラスメートになるだろう生徒たちを見る。

 こいつらが騒いでいるのはフェイトが原因。
 そうだよ、フェイトが原因だ、フェイトが原因、フェイトが原因っ!!!

 念仏のように口の中で呟きまくっている間に、教師に促されフェイトが自己紹介を始めていた。

「えーと、銀ノ森光です。
 家の都合で先週から、こっちに住んでる上のお姉ちゃんたちのマンションで暮らしています。
 うん、と、趣味はテレビドラマを見ることとか、かな?
 海外暮らしが長かったから至らない所がありますが、これからよろしくお願いします」

 ぺこりとお辞儀をするフェイトに温かい拍手が送られる。
 頭を上げたフェイトと目が合う。
『私、やったよっ!!』
 的な雰囲気で頷かれた。
 普段のオレなら『良くやったっ!!』と褒めていただろうが、今のオレにはそんな心の余裕はなかった。

 拍手が引き始めたのを頃い合いに、オレも口を開いた。
 怒りや悔しさ、恥ずかしさを顔や表情に出さないよう、後ろに回した拳を握りしめることで平常心を保つ。

「……銀ノ森月、です。
 先に紹介があった、光の双子の『姉』です」

 プルプルと震える肩。
 大丈夫、まだやれる。
 オレは最後の一言を紡ぐために、自分に暗示をかけるように言い聞かせた。

 軽く深呼吸をして「よろしく、お願いします」と言葉を吐く。
 
 
 ―――っ、本当にっ、なんでこんなことをしなくちゃならないんだよっ!!!!
 
 
 色々な感情で上気した顔のまま俯くオレの瞳には、フェイトと『同じ制服』のスカートが映る。
  
 
 ユウナ・シルバーフォーレスト、女子大生ならぬ小学生(女児)始めました。
 
 
 
 
 
 
 ことの発端は『フェイト、出血事件』だった。
 
「先生っ、命(フェイトの偽名)は大丈夫なんですかっ?!!」

 オレとフェイトは股からの出血の原因が解らず、大人モードへと変身して急患を受け付ける近くの病院へと急ぎ、診察してもらった。
 
「落ち着いてください。
 股からの出血と言いますが、具体的には?
 何か思い当たることは?」

 フェイトは事情を話し、思い当たることはないと答えると、担当の女性医師は、

「そうですか。
 では、前回の『生理』はいつきましたか?」

 と、謎のワードについて問いかけてきた。

 生理?
 何かの学問のような響きだな。

 フェイトと顔を見合わせるも、
『なんのことだろう?』
 と困った顔をされた。

「あの、先生、『セイリ』ってなんですか?」

 フェイトのその返答に訝しげな表情を作る女医。

「『生理』は生理です。
 月経のことですよ。
 小学校や中学校で習いましたよね?」

 
 この時、オレたちは初めて一般常識のなさを実感した。
 この世界の常識。
 いや、人間として知っておかなければならない知識を持っていなかったのだ。

 オレは男で、ある程度の学はあるつもりだ。
 だが、女性の体について知っている訳がなかった。

 フェイトは女だが、『女の子』だった。
 学もなければ、経験もない。
 例え、魔法に関してのエキスパートであっても、偏った知識じゃ常識を知っていることにはならないのだ。

 
 こうして、オレはフェイトを学校へ通わせることにした。
 フェイトは以前のように反対したが、オレと一緒に通うということでようやく納得してくれた。
 そのせいで、オレは剣道の指導の仕事を止めなくてはならなくなったのだが。
 
 
 
 
 
 
 オレは瞳を開いて嘆息する。
 
 確かにオレは通うと言った。
 だけどさ、


 別に女の子しなくても良いだろっ!!!


 心の中で慟哭するオレの気持ちを理解してくれないフェイトをじろりと睨むも、フェイトはそれどころじゃなかった。

 
「ねぇ、どこから来たのっ!!」

「海外ってどんなとこっ!!」

「彼氏いるのっ!!」

 オレとフェイトは転校生ということもあって、隣通しの席だ。
 そして現在質問タイム。

「えと、あの、その」

 一気に質問されてしどろもどろになる彼女を見て、好い気味だと内心ほくそ笑むも、最後の質問した奴を血祭りに上げなければと焦る。
 そこのガキ、フェイトの可愛いのはわかるが、手を出してみろっ!!! 一族郎党皆殺しだっ!!!!

 オレの殺気に気付いたのか、「ヒッ?!!」と声を上げて後ずさり、生徒の波の中へと消えていった。
 顔を覚えそびれたか。

 ちなみに、オレにも同じような質問をしてくる奴がいたが、オレは自己紹介以来口を閉じたまま黙している。
 あれだ。精神年齢が低すぎて、喋るのが面倒なんだ。
 第一、こんなに話しかけられたら、返事に詰まるのが普通だからこの反応でも問題はないはず。

 さて、フェイトの困ってる姿でも見て楽しむか―――

「そこまでよっ!!!」

 そんな時だった。
 教室にその人物の声が響き渡ったのは。

「そんな一斉に質問されて答えられる訳ないでしょっ?!!
 質問は順番に、良いわね?」

 フェイトと同じく、長い金髪をした、ただフェイトと異なってチョコンと二つ結びをサイドに作った少女。
 言動からもその気性は伝わってくるが、意志の強そうな翠色の瞳で周りを見渡す彼女。

「はい、それじゃあんたから」

 アリサ・バニングスとのファーストコンタクトだった。


    
 ◆◆◆



 Side フェイト

「さっきはありがとう。
 おかげで助かった」

「良いのよ、私は当たり前のことをしただけなんだから」


 私は先程の質問攻めから救ってくれた子にお礼を言った。
 名前はアリサ・バニングス。
 変身前の私と同じ、金髪の女の子だった。

 だから、私はなんとなく親しみやすさを感じて彼女にこう言いだせた。


「良かったら、友達になってくれるかな?」

 
 すると彼女はきょとんとした顔になった。

 あれ? ダメだったかな……。

「あ、嫌だった……。
 そ、そうだよね。いきなり会ったばかりで友達は性急すぎたよね」

 私は焦って先程の言葉を消し去ろうとする。
 そうだ。
 友達とは、共に戦場を駆け抜けたのちになれるものだ。
 そんな簡単になれないものだったのだ。

 私は頬を掻いて、謝ろうとすると、にゅいっと彼女の手が伸びてきて、

「いひゃいっ!!」

 私の頬をつまんで伸ばされた。
 
 いや、痛みはないんだけど、なんか精神的に。

 というか、ユウナにもされたこともないのにっ!!!


「あんた、何言ってんのよ」


 アリサは呆れたような顔で私の顔をこね回す。

 止めてっ!!
 ユウナにこんなこね回された顔見せたくないよっ!!


「あんたはもう私の友達でしょ」

「うぅ、ありがとう……」


 友達になれたのは良いけど、恥ずかしさでその嬉しさは半減だよ。

「そうだ、ユウ―――月も友達に……って、月?」

 私はユウナにもアリサと友達になってもらおうと声をかけようとするも、彼(彼女)はいなかった。

 授業が始まってからも、ユウナは戻って来なかった。



 Side out


 ◆◆◆ 


 驚いた。
 まさか、オリヴィエに似た特徴を持つ人間がここにいるとは思わなかった。

 オレは質問攻めから逃げだせた三時間目の休み時間のうちに屋上へと逃げのびた。

「ふぅ、ホント世界は広いね」

 世間には同じ顔の人間が何人かいるという話があるそうだが、考えてみれば特徴くらいは被ってもおかしくないか。
 
 空を見上げれば綺麗な青。
 白い雲が流れて行っては、形を変える。

 校庭からはどこかの教室が運動をしているのか、子供のはしゃいだ声が聞こえる。


「平和だなぁ」


 ちなみに、影になっているところで寝転がっているので、日差しの暑さとは無縁だ。
 風が心地良いね、まったく。
 
 
 
 
 
「あんた、こんな所にいたの?」

「月っ、授業を抜け出しちゃダメだよっ!!!」

「どっちがお姉さんかわからないね」

「………あれ?」

 瞼を持ち上げるとフェイトと少女が二人。
 それぞれの手には弁当箱。

 どうやら、眠っているうちに昼休みになったようだ。

「聞いてるのっ?!!」

「聞いてるよ、ふぇ―――光」

「もう、月ったら」

 頬を膨らませて怒るフェイトも良いなぁ。
 ……ん? なんか、頭がおかしくなってきてるのか?
 今、普通に思ったけど、なんだこの思考は。
 可愛いっていっても、そう、子供的な可愛さだぞ、うん、オレ大丈夫だ。

「あんた、大丈夫なの?

 頭抱えて蹲って」

「大丈夫、ごめん、なんでもない」

 オレは立ち上がり、他の場所を目指すために校舎への扉に近づくも、

「ぐっ」

「逃がさないよ、月」

 襟首を掴まれてしまい、逃走失敗。

「……光、私に昼を抜けって言うの?」

 オレはなんとか逃げようと言い訳を口にするが、フェイトはオレの弁当を見せつけ退路を断つ。

 そこまでしてオレに女の子言葉を使わせたいのかっ?!!
 
 
 
 
 
「えーと、今朝自己紹介した通り、私は銀ノ森月。光の姉」

「アリサ・バニングスよ。
 こっちはすずか、私の親友の一人よ」

「月村すずかです。
 よろしく」

「というわけで、二人とは友達になったんだよ♪」

 そう言って弁当箱の中身をオレに食わせようとするフェイト。
 自分で食べるから。
 あと、それはオレが作った奴だから。
 自分が作った風に食わせようとするな。

「それにしても、あまり似てないのね。
 双子ってそっくりなものだと思ってたわ」

 アリサは自分の弁当を摘まみながらそんな感想を言う。

「私たちは二卵性だから」

「なるほどね」

 それに頷くアリサ。
 もちろん二卵性というのは設定だ。

 フェイトはすずかとも打ち解けたようでドラマについて語り合い始める。

「やっぱり、あそこではまさかって感じだったよ。すずかはどうだった?」

「うんうん、まさか結婚した相手が血の繋がった兄妹だったなんて思わないよね」

「だよね」

 ……この世界のドラマって。

「なに? 妹さんが気になるの?」

 アリサがフェイトに注意を払っていたオレにいち早く気付いたようで、口元をニヤニヤさせていた。

「……悪い?」

「べっつにぃ?」

 こうして、昼休みは滞りなく終わり、登校初日も無事終了した。


 ◆◆◆


 Side アリサ


「光に月か」

 私はベッドの上で大の字に寝転びながら、今日新しくできた友人たちについて考えていた。

 銀ノ森光。
 双子の妹の方は、妙に『友達』について崇高なものであると考えるきらいがある。
 お姉ちゃん大好きっ子なんだなぁと感じた子。

 二人に共通したことだが、日本人にしては肌が白くて、顔立ちも異なってたなぁ。
 海外に暮らしてたっていうし、外国人の血が混じってたりするのかしら?

 
 そして、銀ノ森月。

「あいつ、なんだか変なやつだったわね」

 授業はサボるし、喋ると言葉使いになんとなく違和感がある子。
 日本語がへんな訳じゃない。イントネーションも普通。
 ただ、男の子が女の子言葉を喋ってるみたいな、そんな感じ。

 
「あっ、二人のアドレス教えてもらってないわね」

 
 明日、教えてもらおうっと。
 
 
 
 私はケータイを開いてメモ帳に記入する。
 それが終わり、待ち受け画面に戻る。

 そこには、親友の月村すずかと高町なのは、自分の三人が無邪気に笑っている姿があった。


 Side out


 ◆◆◆


「ケータイ?」

「そうよ、ケータイよ。
 まさか持ってないなんて言うんじゃないでしょうね?」

「うん、私も月も持ってないよ」
 
 
 
 
 という会話が今朝にあって、現在デパートの携帯電話コーナーにいたりします。
 えぇ、もちろん携帯をアリサに言われて無理やり買わされるのです。

 本当にいるの? こんなもの?

「あたりまえよ。
 現代人なら子供でも持ってなきゃいけないものよ。
 防犯機能もあるし、なによりコミュニケーションツールなんだから」

 と、ない胸をはるアリサさん。

「ゆ―――月はどれが良いと思う?」

 フェイトは多種多様な携帯に翻弄され目を回し気味だった。
 しかも、選択権をオレに投げ渡そうとする始末。

「光ちゃん、ここはやぱり機能重視でこれなんかどう?
 3Dで見えるんだって。
 こっちは高画質のワンセグを楽しめる機種だってよ。
 あぁ、私も欲しくなっちゃうよ」

 すずかはすずかで興奮気味に携帯をフェイトに紹介してるし。

 
「って、あんた聞いてないでしょっ?!!」

「聞いてる。アリサの声は耳にしっかり届いてる。
 そして、抜けていく不思議」

「結局聞いてないじゃないっ?!!」

 がぁあああああああっ!!!! っと頭を掻き毟る彼女が可哀そうでならないユウナです。
 

 とりあえず、フェイトはバルディッシュカラーの黒メインのゴツゴツした渋い奴を購入することに。
 オレもフェイトに習い、ルーナカラーのワインレッドを購入決定。フェイトの泣き落としで同じ機種なのは言うまでもない。

 さすがにこの場で大人バージョンになって購入するわけにはいかないので、そのままフードコーナーでお喋りタイムに突入する彼女ら。
 オレにはムリ。
 女が三人、姦しいとはこのことだ。
 
 というわけで、戦線離脱して携帯購入して先に帰宅。

 ふっ、これで男に戻れるのさ。
 ………見た目はあんまり変わらない現実に打ちのめされたのは胸の内に仕舞っておこう。


 ◆◆◆


 Side フェイト


「それで光、あんたに訊きたいことがあるのよ」

「ん? なに?」

 ユウナが先に帰ってからすぐのこと。
 念話によると携帯を購入しておくためらしいので、仕方ないのと逃がしてあげたのだ。

 アリサが真剣な顔で口を開いた。
 
「月って、本当は男言葉だったりする?」

「っ?!!」

「その様子だと本当みたいね」

 私はなんでそんなことを訊いてくるのかわからなかったが、たった一日や二日でそのことに気付いたアリサに驚いた。
 なんて観察力。
 ユウナの本質をこの短い期間で理解するなんて。

 まさかっ?!!

「アリサ、まさか―――月に恋してるんじゃっ?!!」

「なんでそうなるのよっ?!!」

 そうに違いない。
 こんな短期間でユウナを理解するには一目惚れしたからとかそういう理由があるに違いない。
 でなきゃ、説明がつかないっ!!!

「でもね、ダメなんだよ、アリサ……」

「なに当たり前なこと言ってんのよ。
 わ、私たちは女同士なんだから、そういう感情ができるわけないでしょ、それに、私が気付いた理由は別にあって――」
 
 
 
「何故ならっ、月には私がいるからだよっ!!!!」
 
 
 
「って、そっちのダメなのっ?!!
 しかも、私がいるからって、姉妹で禁断の関係っ?!!!
 ってか、女の子同士ってところでダメでしょうっ!!!!

 あぁあああああああっ!!!!!
 ツッコミどころが満載よ、この子っ!!!!」

 ぽんぽん。
 
 そのアリサの肩を叩く手があった。
 
「ん?
 何よ、すずか。
 私は今、この子への正しいツッコミ方法を検証してるところで」

「アリサちゃん、女の子同士の何が悪いの?
 別に女の子同士でも良いと思うよ」

「すずかもっ?!!!

 ぁあああああああっ、もうっ!!!!!

 誰か正常な判断を下せる人間はいなのっ?!!!」

 ティータイムはまだ続く。



 Side out


 ◆◆◆

 
 数日後の教室。

「本性見せなさいよ、月」

 オレはアリサにそんなことを急に言われ焦っていた。

 本性?
 まさか、オレとフェイトが管理局側から見て犯罪者だということがばれたのかっ?!!

 オレは汗の滲む手を握り、こちらの心のうちを読まれないように平静を装って、問い返す。


「えーと、本性って?」

「ネタは上がってんのよ、ほら、吐いてすっきりしちゃいなさいよ」


 にやりと口元を歪めるアリサ。


「………っ」

 口を噤むオレに、彼女はとても楽しそうにして次の言葉を紡いだ。


「あんたが本当は男言葉を話すって、みんな知ってるんだからねっ!!!」

 ………。
 ………………。
 ………………………え? そっち?

 視線を移すと、フェイトがこっちに「ごめん」と手を合わせている。

 つまり、なんだ。


「―――問題ねぇじゃんか」


 緊張して損した脱力したオレがここにいた。



 ◆◆◆


「ちなみに、気付いた理由はもう一人の親友が一時期私たちに隠し事をしてたからよ」

「へぇ、どんな人なの?」

「この子よ」

「―――っ!!!」

 そう言うフェイトにアリサが携帯の画像を見せると、フェイトがガクガク震えてオレにしがみついてきた。

「なんだって言うん―――っ!!!」

「二人とも、本当にどうしたのよ」

 冷や汗をかきながら、オレはアリサに尋ねる。

「そ、その子って」

「なのは? 私とすずかの親友だけど?」


 世間は狭いって思ったよ。
 


 ◆◆◆

 時は流れて。 

 夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が来た。
 この半年は本当にいろいろなことがあった。
 この時代に流れ着き、フェイトに出会い、タカマチらと戦って逃げ延びて、小学校に通ってアリサたちと過ごし、今に至る。

 欠け替えのない大切な人が新しく出来た。

 その人に幸せであって欲しいと願い、戦い、掴んだ平和。 

 その末に新たな友との時間を共有したりもした。

 ユウナ・シルバーフォーレストは、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト亡き世界でも、目標をなんとか得ることに成功した。

 そう、オレは思っていいのかな? オリヴィエ。


 雪は降ってはいない。
 ただ、寒さが薄目のジャケットの上から肌を刺すように染みいってくる。
 オレは歩行者の流れに沿って道を歩く。
 空を見上げれば灰色の雲。
 周りを見渡せば、灰色の建築物、コンクリートなどで出来たビルの群れ。
 
 初めて、フェイトと出会った場所だった。

 今頃彼女はアリサやすずかといった面子とお泊まり会で楽しくやっているだろう。
 オレも招待されたが、久しぶりに一人で過ごしたくなったからとフェイトに頼みこんで断った。

 すれ違う人々。
 行き交う足々。

 それを視界の隅で認識しながら、呆っと道を進む。

 冷たい風が頬を刺す。


 そう、半年前。
 たった、半年前のこんな日に。


 オレはオリヴィエと別れたんだな。

 
 
 あの時はまさか三百年も後の世界に来るとは思わなかった。
 いや、今でも実感がないのは確かだ。

 ここが三百年後の世界だと言える証拠は『聖王教会』が示してきたデータと、オレがベルカへ転移出来なかったということだけ。
 オリヴィエが死んだところを見た訳でもなく、その遺物を直接確認したわけでもなく、ベルカの大地が滅びる様を目に焼き付けた訳でもない。

 だからまだどこかでオリヴィエが生きているのではないかと思ってしまう。
 フェイトを守らなくてはと考える一方、オリヴィエを探しに行きたくなる衝動もあるんだ。
 
 ちょうどオリヴィエと同じ年の頃の子供と接して来たこの半年。
 平和過ぎるこの世界を見てきた半年。
 
 オリヴィエがいない半年を、過ごしてきた。

 
「少し、寂しいかな」


 オレは足元向いて呟いた。
 ここ九年間、オリヴィエが産まれてから、これほど彼女と離れたことはなかった。
 故の寂寥。

 確かにフェイトと共に過ごした半年は孤独ではなかった。
 だけど、心のどこかに欠けたところがあった。
 満たない所があった。

 オレは『バカだなぁ』と思って顔を上げると、
 
 
 
 世界に、オレしかいなかった。
 
 
 
 
「っ?!!」

 先程までたくさんの人がいた道には影すらなく、車道にも自動車の類が一切ない。
 
「まさか、結界っ」
 
 
 
 
「―――ごめぇえええさつっ!!!!」
 
 
 
 
 
「っく」

 オレは咄嗟に横へ跳び、距離を取りながらルーナを起動し、変身を解除、騎士甲冑を展開し、先程までいた場所を振りかえった。

 そこには、大きな鎚をアスファルトにめり込ませた少女がいた。
 服は世に言うゴシックロリータ調の赤いドレス。
 大きな帽子には左右にウサギのような人形がついている。


「ったく、せっかくシャマルが手を焼いて張ってくれたのに、不意打ちできなきゃ意味ねぇじゃん」


 彼女は鎚を持ち上げ、こちらへ視線をやる。


「気づかれねぇように張ったのに、ほんと――――意味ねぇじゃんっ!!!!」


 言葉を吐き捨てるように鎚を振りかぶって肉薄してくる彼女。

 オレは完璧に敵と認定し、ルーナで迎え撃つも、体を器用に捻り避けられる。

 鎚がこちらへあたりそうになるも、返す刃で受け止め弾く。


「っと、名乗りもせずに攻撃か。

 それでもベルカの騎士かよ、ガキ」


 オレは戦闘へ意識を以降させるために、口の端を吊り上げ、嗤う。
 
 本当に意味がわからねぇ。
 が、攻撃してきたんだから倒すまでだよなっ!!!


「おぉぅりゃぁああああああっ!!!!」


 相手も問答無用で攻撃してくる。
 空中へと移動した彼女は鉄球を生成し、それを鎚で叩いてこちらへ突撃させてくる。


「まだまだだっ!!!!」


 オレはそれを当たりそうなのを槍で弾きながら、接敵。

 それを迎撃するために相手も鎚で以って突貫を行う。


「ぐっ」

「っと」


 オレも敵もデバイス同士がぶつかり合い、その衝撃で後ろへ吹き飛ぶ。

 オレは体勢を立て直し、彼女へ向けルーナを構える。


「目的はなんだっ?!!
 オレの命かっ?!!
 言ってみやがれっ、ガキっ!!!」

「ガキガキ言ってんじゃねぇよっ!!!
 てめぇの方こそガキじゃぇかっ!!!
 このガキガキガキっ!!!!」

 ガキみたいな問答が続き、幾度かデバイスが交差する。

「良いからっ、さっさと倒れやがれっ!!!」

「バカ野郎っ、誰がてめーみたいなガキに殺されるかってぇのっ!!!」


 鉄球を弾き落とし、意味のない会話が続く。


 オレたちの戦いははっきり言って平行線だった。
 どちらも決定打を与えられない。
 オレも、彼女も体力と魔力を消耗するだけでどちらも疲れていた。
 だから、彼女は大技を繰り出し終わらせることにしたようだ。

 鎚の形態が変わり、加速機、ロケットの噴射口の物と、杭のような物が鎚の前後に現れる。
 

 

「ラケェーーーテンッ、ハンマァーーーーーーーーーっ!!!!」



 そして、彼女の鎚から炎が噴き、遠心力を伴い、勢いを付けアタックして来た。
 その速度は避けきれるものではなく、オレはルーナで防いで地面の方向へと飛ばされてしまう。

「ぐっ」

 
 槍を持つ手が衝撃で痺れる。
 だが、思考はそんなことよりも重要なことへと意識を回す。

 やばいっ。
 この速度で地面にぶつかるのは結構なダメージになってしまうっ!!!

 相手の攻撃力は中々高く、ルーナで防御してもダメージが通ってしまった。
 それに加えて、地面へ叩きつけられる衝撃で、身体全体へのダメージは勝機どころか逃亡すら難しくする。

 オレは体勢を戻そうと術式を組み直すため、ルーナへ声をかけようと口を開く―――



「かはっ!!!!」 


 だが、オレの口から出たのは大量の血、血、血。
 そして、同時に腹部を貫いた尋常じゃない痛み。

「ぐっ、なに、が」

 視線を腹部に向ければ、桜色を薄ら帯びた黒光りする矛先が腹から突き出ていた。
 相手も何が起きたのかわからないといった驚愕の表情。


「いったいっ、なにがっ」


 オレは歯を食いしばり痛みを無視して背後を向くと、
 
 
 
 
 
 
 
「久しぶりだね、ユウナ・シルバーフォーレスト。

 うんうん、今ならユウナちゃんって呼べるね」


 そこには、


「えへへ、半年ぶりだね、ユウナちゃん」


 黒い眼帯で左側の顔を隠したタカマチがいた。


「嫌々ながら、ゼスト隊のみんなに見送られて海鳴に帰ってきて良かったよ。
 まさか、ここにユウナちゃんがいるなんてね」


 そのタカマチの手には、レイジングハートではない漆黒の槍型のアームドデバイスが握られていた。


「あぁ、これ?
 これはね、ユウナちゃんを倒すために作ってもらったんだ。
 名前はねブラックサレナ。
 良い名前でしょ」


 血がどんどん失われる中、オレは霞み始めた瞳を使って彼女を見ると、タカマチの表情は清々しいまでに晴れ渡っていた。


「ねぇ、知ってる?
 ブラックサレナ、黒百合の花言葉。
 わたしの人生を目茶目茶にしたユウナちゃんへのわたしの気持ちにぴったりなんだよ」
 
 
 オレはガボッと血を吐きだし、薄れいく意識の中、最後の言葉を耳にした。
 
 
 
 
  
 
 
 
 ―――黒百合の花言葉はね、恋、呪い、そして、『復讐』、だよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
・あとがき

 はい、これが『ユウナ君、学校へ行く』でした。
 道場に行くか行かないかで半年後が変わります。
 そして、若干予告が入りました。
 
 やっとリクエスト作品を上げることができて安心です。
 と、言ってもやっぱり短編なんで中途半端な感じですが。

 感想・ご指摘・アドバイス、よろしくお願いします。

 では、次の投稿で会いましょう。


・アリサ部屋

「(仮)がなくなった部屋のオーナーのアリサ・バニングスよ。

 ……なのは、もう何も言えないわ。

 じゃ、感想の返信よ。

 ろんろんさん
『ユウナ君、頑張って生きるんだ。
 ろんろんさんの言う通り大変な人生だけどね』
 
 職場だけでなく、小学校でもよね。
 ちょっと可哀そう。

 バタフライエフェクトさん
『剣道について、ご指摘ありがとうございます。
 そこらへんを修正かけておきました。
 
 その先生、すごいですね……』

 なのはの家の人たちもすごいらしいわ。
 情報源はすずかのお姉さんよ。

 火消しさん
『一応火消しさんの言う通り、ある個人をプログラム体として再現しているものと解釈してやってます。
 そうですね、主がそのような時は頭の片隅で考えていたようですが、八神家ほど平和なところ(時代?)ではなかったので、ここまで表立ってしなかった。
 だから、他のヴォルケンズがそんなシグナムに戸惑ってる感じです(舞台袖の会話とか)』

 ……ごめんなさい、次元連結装置とかわからないわ。

 ふらんプールさん
『ご指摘ありがとうございます。
 本文とあとがき以降の分量比ですね。
 一応、本文の容量を増やすことでなんとかしてみます』

 貫くというか、書く余裕がないというかって感じよね?

 アズマさん
『その場のノリで追加した最初の悪ふざけがここまで尾を引くとは夕凪自身思ってもみなかったです。
 首輪+大人モード=……。
 ―――っ、やばいですね。
 指摘されるまで気づきませんでした。
 フェイトが設定した術式ですから、首輪は再現されてます。
 温泉の時もユウナ君がそれで喚いていた気もします。
 うん、ユウナちゃん(大人モード&少女モード)はそうゆう趣味の人と思われれば良いよ。
 対処できないし』

 学校でもしてたわね。
 これってどっちの趣味なの?
 フェイト? ユウナ?」

・舞台袖

「やったっ!!!
 やったよっ、ゼストさんっ!!!
 わたし、ユウナちゃんを倒したよっ!!!!

 あはは、あははははっ!!!」

「えっ、ちょっ、あたしの出番はっ?!!
 まっ、待てよっ!!!
 蒐集させろっ!!!!
 マジでムシすんじゃねぇええええええっ!!!!!!」
 
  
 
  



[18634] 第二十五話 ミッド・ナイト(N)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/06/28 13:13


 Side なのは


「子供相手にひどいと思うの」

 肺の中の空気を吐き出し、わたしは足に力を入れて立ち上がった。

 コンクリート製に見える灰色の壁面には、銃痕のような跡が複数できていた。
 タイル張りの床も下の建材ごと抉り削られている。
 バリアジャケットのおかげで汚れはしたもののダメージはほとんどない。
 わたしは埃まみれの頬を擦って、通路の先を睨む。

 粉塵の向こう側、そこにターゲットはいる。
 魔力で作られたターゲットスフィア、それと丸いシルエットの物理判定ありの訓練用兵器。
 先ほど攻撃してきたものがおそらく最後。
 
 なら、遠慮はいらない。
 魔力消費量を気にせずやろう。
 今まで温存していた全てを注ぎ込もう。

「レイジングハート、吹き飛ばして。
 もう、終わらせよう」

『All right』

 抑揚の消えた声音で命令する。
 レイジングハートを前方へ構え、足元に普段より巨大な桜色の魔方陣が展開される。

 狙いは残機全ての殲滅。
 圧倒的な火力で敵を焼き払おう。
 体裁きの特訓は体力的に諦めて。 

「ディバイン、バスター」

『Divine Buster Full Burst』
 
 瞬間、デバイスの先端から熱量を伴った桜色の光の奔流が迸る。
 炸裂するわたしの魔力。
 爆音を上げながら通路を焼き飛ばしていく。
   


『……Exterminated, mission accomplished』

「やっと終わったね……。
 半日も訓練施設に叩き込まれるとはさすがに思わなかったよ」


 敵機破壊確認のメッセージをレイジングハートから受け取り、砲撃を撃ち止める。
 ガションと作動音を立て砲身の近くの部位が持ち上がり、シュゥウと音を立て過剰魔力と熱の排気が始まる。  

 レイジングハートにも負荷をかけ過ぎたの。
 帰ったら一度点検してもらおう。
 訓練とはいえ、危険が伴うものだし。
 あと、クイントさん、覚悟しててねなの。

 わたしは溜息を落とし、煙が消え去った廊下を一瞥し、踵を返す。
 
 砲撃の放たれた廊下は灼熱の様相を呈し、赤く、赤く、溶岩のように焼け落ちていた。
 
 
 
 
 ◆◆◆


「くぅおらぁあああっ!!!!
 砲撃魔法は禁止ってあれほど言ったのに使ったわねっ!!!!
 って、なのはちゃんっ、ちゃんと聞きなさいっ!!!!」

「聞いてるよ。反対側から出て行ってるけど」

 廃棄都市を再利用された施設からクイントさんが待っていたポイントまで戻ってると、いきなり騒ぎ始められてしまったの。
 わたしは文句を言う気も失せて、投げやりに答えながら隊舎へと帰る道を歩く。

「第一、訓練施設を破壊してどうするのっ!!!
 あそこ、結構状態が良くて再利用できるところだったのよっ!!!」

「訓練には犠牲はつきものなの」

「度が過ぎるわっ!!!」

 クイントさんはわたしの後ろを歩きながら、あぁだこぅだと口を動かし続ける。

 こっちは疲れてるの。
 勘弁して欲しいの……。

「というか今回の訓練目的を理解してたのっ?!!」

「訓練目的はわたしの力を試すためなの。
 広い空と違う閉塞空間での戦闘能力の試験なの」

 空戦のわたしは陸戦のクイントさんたちとは戦ってきた状況が違う。
 わたしは海鳴の、遮るもののない空を。
 クイントさんたちは違法研究所などといった限定空間。

 ゼスト隊に所属することになったわたしは、必然的に限定空間での訓練を積まされることになった。


「えぇ、そうね。
 今回の試験内容はビルに立て篭もった犯人たちを想定した戦闘よね。

 じゃぁ―――どうして殺傷設定クラスの攻撃で仕留めたのかなぁああああっ?!!!」


 ギュシンギュシンと両腕に装着しているアームドデバイス、リボルバーナックルのスピナーを回転させ始めるクイントさん。


「犯罪者に情けは無用なの」
 
 今は視力を失った左目に、金髪の少女が映る。
 犯罪者。
 あの頃は、邪魔さえしなければ悪いことをしていても構わないと思っていたけど。

 ―――その油断が、左目を失う結果になったの。

 だから、犯罪者には情けをかけない。
 悪いことをした人には文句を言う権利はないの。
 だって、あなたたちはいけないことをしたんだから。


「―――ふんっ!!!!」



『Protection』

「っへ?」

 
 意識した瞬間には既に、身体が宙に浮いていた。
 

「とぅっ!!!!」


 その掛け声が耳に届いた時には、バリンッと音を立て、レイジングハートのオートガードが破られ、


「ぐっ?!!」


 バリアジャケット越しに背中を殴り飛ばされた。

 その衝撃でわたしはさらに高い空へ投げ出される。

 
「―――っ?!!」


 突然のことで思考がうまく纏まらない。

 何があったの?
 どうすればいいの?
 何をしなくちゃいけないの?
 
 飛行魔法すら行使させられず、わたしの身体は引力に引かれ地面へと落下を始める。

 
「その根性っ、叩き直して上げるっ!!!!」


 右目には藍色の空、その視界に黒い影がさし、


「かはっ?!!」


 脇腹を拳で殴りつけられ、地上へと一気に落とされる。

 地面に叩きつけられる前にレイジングハートが魔法を使ってくれたおかげでそのダメージはなかったけど、先程からの攻撃がやっと感じられるようになったせいで体中が鈍い痛みで支配される。
 考えてみれば、昼からずっと訓練をしていたのだ。
 反撃する力なんか残ってない。

 体は静かに地面に着地し、わたしは見上げる形でクイントさんを睨む。

 展開されたウィングロードの上に腕を組んで佇むクイントさん。
 
「なん、で……」

 背中を殴られたせいでうまく言葉を出しにくい。
 それでも、わたしは口を開く。

「なんで、殴ったの……」
 
 意味がわからない理由だったら、クイントさんだって許さない。 

 残った力を振り絞ってだした声は蚊が鳴いたようなものだった。
 だけども、クイントさんはわたしが言いたいことを汲み取ったようだった。

≪それは、あなたの思考が危険だから≫

 この位置からだと表情が見えにくい。
 でも、だからこそ、念話に込められた感情はひしひしとわたしに伝わってくる。
 それは怒り。
 何に対してかはわからないけど、その感情は怒りだと思う。

 わたしの思考が危険?
 犯罪者に容赦しないのは危険なことなの?

≪……この意味がわからない?≫

≪わかるわけないよ……≫

 そうだ、クイントさんが言いたいことを理解できない。
 わたしが経験したことから考えても、この判断は絶対正しい。

 クイントさんは遠目にもわかるくらい肩を竦め、わたしに背を向け隊舎の方角へとウィングロードを伸ばす。

≪まさか、なのはちゃんがこんなことも理解してない子だとは思わなかったわ。
 少し、頭冷やして考えてなさい≫

 その言葉を最期に、彼女は去っていった。

 わたしを置き去りにして。

 体に力が入らなかったわたしは、そのまま仰向けに倒れた。


「ほんと、意味がわからないの」


 言葉は廃墟に木霊することなく、消えていった。



 Side out
  
 ◆◆◆

 Side クイント

 隊舎に戻った私を出迎えたのはメガーヌだった。
 明りがほとんど消されたゼスト隊のデスクに、彼女だけが残っていたようだ。

「おかえりなさい、クイント……あら? なのはちゃんは」

 メガーヌは私となのはちゃんの帰りを待っていたようで、私となのはちゃんが一緒じゃないことにすぐに気付いた。
 なんて言っても、私とメガーヌはあの子の世話をするように命令されているのだ。
 ただでさえ心配性のメガーヌは公私両方の理由で気にかけている。

「生意気だったからぼこって来たわ」

「……え?」


 私は自分のデスクにつき、報告書を書くためのウィンドウを展開させ、イスの背にグデーっと体重を預ける。


「あの子、命を軽くみる子だったの」

「それで殴ったの?」

「えぇ」

 メガーヌは私の返答に溜息を返す。

「どんな命だって、それは奪われちゃダメだと私は思うんだ。
 例えそれがさ、加害者だってね」

「それは、『あの子たち』のため?」

「……うん」

 今、この部屋にはメガーヌと私しかいない。
 
 カタカタと投影端末のキーを弾く音だけが響く。

 あの子たち。
 ギンガとスバル。

 私たちが発見した戦闘機人。
 そして、今は私の娘である彼女たち。

 私はあの子たちのためにも、人を犯罪者を殺さないつもりだ。
 汚れた手であの子たちに触れたくない。

 なにより、悪いことをした人には命ではないもので罪を償ってもらわなければ。
 あの子たちにひどいことをしたやつらにも償ってもらわなければ。

 ―――例えば、死よりもきつい仕打ちとか。

 にやりと口元が歪む。

「クイント、その、怖いんだけど」

「ハッ?!!」

 いけない、いけない。
 つい、『償い方』を想像したのが表にでちゃった。
 気をつけなきゃ。
 
 
 
 
「それで、なのはちゃんの回収はどうするつもり?」

「それはそこの扉の向こうで話を窺っている人に頼めばいいのよ。

 案外、過保護な親になりそうよね」


 Side out


 ◆◆◆


 Side なのは


「大丈夫か?」

「………」


 瞼を上げると、星空をバックに黒い影、ゼストさんが瞳に映る。
 わたしは無言で彼を見つめるだけ。

 長時間の訓練に、意味もわからず殴られ、体も心もボロボロに疲れ切っていた。
 だから、反応を返せない。
 返すだけの余剰エネルギーがないから。

「……隊舎に戻るぞ」

「……はい」

 ゼストさんは膝をついてわたしの体を持ち上げ、抱きかかえる。
 わたしは為されるがまま、彼に全てを委ねた。
 ふわりと二人の体が浮かぶ。

 そういえば、ゼストさんは空戦だったの。

 速度をあまり出していないのか、ゆっくりと景色が流れていく。
 頬に夏の夜風が当たる。
 
「………」

 片腕を上げ、前髪を掻きあげて星の光を瞳に入れる。
 その光に、感情というものはない。
 ただ、遠く離れた恒星が放った光なだけ。
 だから、感情はない。
 ただ存在するだけのもの。

 スターライト。
 星の光。
 
 わたしが放つ光は断罪の光だ。
 そこには必ず感情が宿る。

 同じ名前なのに、違う存在。


 だらだらとわたしは思考を続ける。
 

 わたしの光は罪を裁く。
 犯罪者を焼き消すためにある。
 そう、『悪い子なのは』になるって決めた時から、容赦を捨てたんだ。

 あいつらと同じ犯罪者に優しさなんて欠片もあげない。
 あげてなんてやるもんかなの。
 
 
 
「高町」

「……なんですか」

 少しして。
 廃棄都市エリアを抜けるところまで来た時、いつものように押し黙っているとばかり思っていたゼストさんがやけに真剣な声でわたしを呼んだ。
 わたしはどうせクイントさんと同じように叱るつもりなのだと思い、視線を交わさなかった。

「クイントが何をしたのか、俺は正確には知らん」

 それはそうだ。
 子供を殴りましたなんて報告する訳がない。
 その理由だって意味不明なものだった。

 ゼストさんは反応のない私を気にするでもなく言葉を連ねた。

「だがな、高町。
 クイントが何を伝えたかったはわかるつもりだ。

 だから、時間をかけてでも、それについてじっくり考えてくれ。
 お前自身のために」

「………」

 わたしはぷいっと顔を背けた。
 結局、わたしの想像はあたった。
 
 説教なんて、もういらないの。

 やり方は違えど、同じ事。
 暴力か、言葉か。

 果たして、そこに明確な違いはあるのか。

 ―――ないよ。
 
 詰まる所、根本は同じなのだ。

 理解できないその考え方を理解しろってことなの。

 ゼストさんの顔はみない。
 今見たら、たぶんわたしは反発して体力を浪費するだけ。
 だから見ない。 


「……あっ」

 それがいけなかったのか。

「レイジングハート……」

 その隙を突かれ、胸元のレイジングハートを取り上げられてしまった。
 片腕でわたしの体を支え、自由になった片方でヒモを引き千切って。

「ゼストさんっ」

 わたしは体が動かないので、目で睨むことでしか抵抗できなかった。
 アースラの時と同じ。
 また、わたしから奪うのか、と。

 だが、ゼストさんは何も感じなかったように、ただ淡々と理由を述べる。

「没収する訳ではない。お前が申請していたデバイスの改良を技術部が引く受けてくれるらしいから、俺が預かっただけだ」 

 その言葉の後に、手に何かを握らされる。
 怪訝に思いながら開くと、そこには黒い水晶玉があった。

「その間、これを使え。お前が欲しがっていたストライクフレームの試作機だ。
 砲撃系の術式を組み込んでないらしい。
 射撃と体の動かし方を学んでいる今なら特に問題ないだろう」

「むぅ……」


 どうやら、ゼストさんの方が上手みたいなの。
 
 彼はわたしの必要としてるものをちらつかせて、不満を抑え込もうとしたみたいだ。
 それがわかっていても、わたしに選択権がある訳でもないのだ。

「……このもやもやをどうにかできないのかななの」

 胸中渦巻く感情にムカムカしながらも、新しい玩具をもらった子供のように、わたしはこのデバイスに感心を引かれ、なんだかんだでレイジングハートの件を承諾してしまった。
 
 よし、明日一番でクイントさんに『お稽古』つけてもらおう。
 ふふふ、さっきの恨み、何倍にして返そうかなの。
 


 
 Side out



・あとがき

 月曜日ぶりです、夕凪です。
 さて、今回は『なのは回』でした。次回もなのはです。

 そして、来週月曜日にとらハ板に引っ越そうと思います。
 おっかなびっくり、心臓バクバクですが行って参ります。
 
 感想・ご指摘・アドバイス、それを参考にできる限り改良していきますのでよろしくお願いします。

 では。


・アリサ部屋

「こんにちわ、本編を長くさせようと思って失敗してる夕凪に呆れる日々を過ごしてるアリサ・バニングスよ。

 さて、来週からとらハ板に引っ越すつもりらしいけど、不安しかないわ。
 問題だらけなのに大丈夫かしら……。

 じゃぁ、仕事よ。

 アカツキさん
『はい、ユウナ君は死んじゃいました。
 さすがにこれじゃ続けられないんで……』

 つ、月、死んじゃった。
 なのはのせいで。
 これも私の責任なのね……。

 oretueeeさん
『そして、今度こそ更生施設に放り込まれるのでしょう』

 なのはぁあああっ?!!!!

 白区区さん
『言われてみれば……。
 ユウナ君、シンプル過ぎですね』

 いっそのこと『飛来骨』でも使わせる?

 ヨシヲさん
『ちょっとNANOHAさーんっ?!!
 確かに首輪付けてるから適性(?)あるかもしれませんが……』

 だ、大丈夫よ、すずかはきっとプラトニックよ……。
 て、貞操が脅かされることなんて……。

 ヤマモトさん
『さらにスバル&ギンガも連れてくるんですね。
 スカさんたち圧倒的っ?!!』

 戦闘機人って後天的になれるのかしら……。
 なぜか『大総統』を思い出したわ。

 パウルさん
『極悪デバイス……だ、出せるだろうか。
 
 という未来もあったかもですね。
 でも、それは先駆者の方がいるのでやれませんけど』

 そういえば、あのデバイスって非人格型だったわね。極悪って性格?

 バタフライエフェクトさん
『黒百合はなのはさんのイメージで一番最初に思い浮かんだのがあれでしたから……。
 
 あれほどにっ?!!』

 空港火災で全身火傷を負うのかしら……。
 それで、思考まで……って、元に戻せって言ってるでしょっ?!!

 ろんろんさん
『ユウナ君、なんだかんだで女の子に変身していることが多いですからね。
 今回も、中学生になった時を見越しての女の子でしたし、女の子でも問題ないかもですね。
 
 そ、そうか……ユウナ君はそのジャンルに分類されるのか』

 え? 月は女の子よね?」

・舞台袖


「クイントさんっ、食らえなのっ!!!」

「遅いっ!! そこはフェイントを混ぜてしなきゃダメでしょっ!!!」

「―――っ、まだまだぁあああっ!!!!」
 
 
 
 
「……どこの少年漫画なのかしら」

「……確かにな」
 
 
 
   



[18634] 第二十六話 エンカウンター(N)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/08/12 12:45
 
 Side なのは


 ゼスト隊の朝は早い。
 特に訓練を付けてもらっているわたしはその傾向が顕著なの。

 早朝トレーニングという名の体力作り、いわゆるランニング。
 命中率を上げるための射撃魔法の繰り返し訓練。
 そして、その後のゼストさんとの『軽い』戦闘訓練。

 それが終わった後、シャワーを浴びてから朝食。
 クイントさんとメガーヌさんが出勤後、なにかが起きない限り、二人が組んだプログラム(実践、座学を含む)をこなして夜まで過ごす。

 普段ならこの通りに過ごすのだけれど、今日はその『なにか』があるらしく、朝から夜まで、つまり丸一日ヒマをしていろと昨夜言い渡されてしまったの。


「あんたさぁ、訓練がないからって寝過ぎじゃないかい?」

「……うるさいの。
 起きてもやる事ないから良いの。
 アルフさんはいつも通り仕事して」

「あたしの契約内容ってフェイトの捜索じゃなかった?
 いつからあんたの世話になったんだよ……」


 アルフさんはブツブツ文句を言いながらも洗濯機に服を放り込んでスイッチを押したようで、洗濯機独特のリズムが布団をかぶっているわたしの耳に届く。

 この断続的な音って、なんだかよくわからないけれど聞いてるだけで眠くなるの。
 うん、なんでなんだろうね。

 ……。

 …………。

 ………………。


「―――っち、忙しく働いてるあたしの前でだらけるんじゃないっ!!!」

「あぅ」

 急に来た浮遊間の直後、わたしは背中から床に落ちた。
 目を開けると、掛け布団を剥ぎ取ったのか、それを両手で持っているアルフさん。
 心地よく布団に包まっていたわたしの寝ぼけた思考では、なぜこんなことになったとかの疑問を抱くことすらできない。


「……わたしのふとん」


 眠いの。
 わたしの幸せはその布団でしか掴めないの。

 体は休息を求めている。
 起動していない頭は、それゆえにそれを実行に移すよう指令を下した。
  
 重い瞼をまた閉じ、転がって床に触れている布団の端にしがみ付く。
 

「わたしのぉ……しあわせぇ」


 顔を押し付けると、自分の匂いがした。
 それが安心感を生み、さらにわたしを眠りの淵に追いやっていく。
 むしろ、自分から近づいている気がする。

 アルフさんが何やら怒鳴っている気がしたが、意識が半分以上夢の国にいっている状態のわたしの耳にその声が届くことはなかった。
 
 
 
 
 
「……ん、ぅ?」


 どれくらい寝たのかわからないけれど、だいぶ経った頃。
 ふと寒気を感じ、肩をぶるっと震わせ瞼を開く。


「あ、れ?」


 目元をごしごしと擦り、この光景を本物か確認する。
 だけれど、瞳に映る景色は変わらない。


「―――なんで廊下で寝てるの?」


 不思議なの。
 ものすごく不思議なの。

 寮の廊下、わたしの部屋の扉の横に掛け布団に包まれて眠りこけていたわたし。

 ぽけーっと周りを見渡すと、扉にテープで手紙が貼り付けてあった。

 とりあえず、その手紙をはがし中身をチェック。
 
 
 
 なのはへ。

 掃除の邪魔。
 起きたなら街にでも行って来な。

 アルフ。
 
 
 
 ビリッ


「―――そう。
 アルフさん、今度『お話』しなきゃダメみたいだね。
 『飼い主』にこんなことする『犬』にはしっかり言って聞かせなきゃね」

 顔はニコニコ、心はどす黒い感情が渦巻く中、布団を鍵のかかった扉の前に放置し、外に出た。

 夕方が楽しみなの。
 にゃはははは。


 ◆◆◆


 むしゃくしゃするの。

 街に繰り出して、例のラーメン屋で昼ごはんを食べたわたしは目的もなく歩いていた。

 気分は間違いなく荒れている。

 アルフさんに追い出される形で外に出た。
 それでも、このイライラは収まらない。

 ラーメン屋のおじさんも少し引いていたし。


 邪魔。
 いらない子。

 小さい頃をどうしても思い出しそうになる。
 でも、それは開けてはいけない箱にしまったもの。

 だから必死に忘れようとする。
 他の事に思考を回す。

 ふと、目にとまった大型のトラック。

 ―――邪魔。
 そう、邪魔っていうのはこうゆう場所に路肩駐車してるものをいうの。

 わたしはつい、荒れた心のままに口走った。


「事故れば良いのに」


 途端、

「にゃっ?!!」

 バゴンと、トラックの荷台が歪んだかと思うと、

「えっ?!! ちょっとっ?!!!」

 ドゴォオオオンと爆音を上げ、爆発、炎上しちゃったの。 

 ………あれ?
 これってわたしのせい?

 ゴンとすぐ脇を吹き飛ばされてきたトラックのタイヤが通過する。
 わたしの背中には冷や汗が滲んで来ていた。

 ま、まさか、わたしに超能力があったなんて……。
 どうしよう、念じただけで物を壊せるなんて。
 あっ、これがレアスキルなんだねっ!!!

 そんなことを考えていると、炎に包まれたトラックの壊れた荷台に人影が見えた。
 
「あ」

 その瞬間、自分は管理局関係者だと思い出した。
 
 この責任はどうあれ、あんな場所に人がいるのなら助けなくちゃ。

「ストライクフレーム試作機、起動」

『Set up』

 レイジングハートに登録してあるバリアジャケットと同じデザインのものが展開されたのを確認し、カラーリングの為されていない灰色の槍型アームドデバイスを握りしめてトラックに向かう。

 人助けなんて初めてだけど、なんとかしなくちゃ。

 車が玉付き事故状態になっている上を飛行魔法で移動し、トラックを目指す。
 炎がメラメラとトラックを飲み込んでいるせいで先程の人影を確認できない。 

「っあ?!!」

 一瞬炎が揺らめいた。
 その時、わたしの瞳には人影の人物がちらりと映る。

 その人物は自分と同い年くらいの子に見えた。
 ボロを頭まで被り、だが、長いせいか金色の髪がボロからはみ出ていた。

 頭にフェイトちゃんがよぎるが、首を振って否定する。
 フェイトちゃんやユウナ・シルバーフォーレストがここにいるわけがない、と。


 バリアジャケットの防御力を最大値にしてその炎の壁を潜り抜けた。

 
「もう大丈夫だよ、助けに来たの。
 だからすぐにひな――」

 避難しよう、と言葉を続けられなかった。
 わたしは声をかけた子を目の当たりにして絶句したからだ。

「―――その槍。
 追手、かな?」

 その子はこちらを一瞥するやすぐに眼光をきついものに変え、拳を構える。
 その拳には、


 どう見ても血にしか見えない赤いものが付いていた。


 返り血なのか、着ているボロにも赤い染みがある。

 炎の明りで照らし出されたその子の左半分の頬にも垂れている。

 そして、その子の瞳は周りの炎よりもなお赤い、この状況より連想される血のような赤。

 右半分の顔が陰になって見えないことも、わたしの鼓動を速める原因となった。


 金髪。赤い瞳。血。

 デバイスを握っていない右手で左目を抑えてしまう。

 
 思い出してしまったの。
 あの時の痛みを。 

 呼吸が荒くなる。
 極度の緊張状態に一気に叩きこまれ、酸素がどんどんなくなっていくこの場所では仕方ないと思う。
 バリアジャケットの機能のおかげか、普通に喉を焼くことなく呼吸をすることができた。


「あ、あなたは誰かを傷つけたの?」

 わたしはそんな問いをする。
 声は震えていた。

 もし、誰かを傷つけていたのなら、

 
 ―――この子は、殲滅対象だ。 
    

 ごくりと唾を飲み込む。

 その場合、わたしはこの子と戦わなければならない。
 そう思うだけで足が震える。

 血。
 傷。
 死。

 そんなワードがわたしの思考を埋め尽くす。

 怖い。

 でも、逃げられない。
 ここで背を向けたら、ヤられるのは自分だ。

 

 わたしが頭を巡らしているのを知ってか知らずか、相手は無表情に口を開く。


「えぇ。
 これまで、色々な人を傷つけてしまったわ」


「っ!!!」


 その直後、わたしの体は飛び出していた。
 その子に向かってデバイスを向ける形で。

 犯罪者だ。
 誰かを傷つける者。
 わたしを傷つける人。

 ヤられる前に、殺れっ!!!


「―――短絡過ぎ」


 だが、


「っ?!!」


 その子はわたしのデバイスを裏拳で軌道を変え、



「っぐ!!!」


 がら空きの腹部に蹴りを放ってきた。

 その衝撃で荷台の穴から外に投げ出され、空中で立て直す。


「く……」

 
 お腹を蹴られたせいで、胃の中の物を吐きそうになるがすんでのところで飲み込む。


 キッとトラックを睨むが、相手は中から出てくる様子がない。

 どうする。
 自分から仕掛けるには実力差がありすぎる。

 
 だけど、敵を前にして逃げられない。


 砲撃魔法がない今、遠距離からは射撃しかないが、相手は拳や蹴り、おそらく魔力でブーストしているもの相手に戦えるか。

 先程の裁き方から考えて、難しいかもしれない。
 ダメかもしれない。

 
 そんなことを考えている間に、トラックの方からさらに轟音が響き渡った。


 見る間にトラックは真っ二つになり、アスファルトの地面にも亀裂が入る。

 なにが起こったのかもわからない。

 わたしは空中からその光景を右目に焼きつけることしかできなかった。



 ◆◆◆


 Side ゼスト


 違法研究を行っていると思われた施設を捜査し終わり、隊舎に戻ってきた。

 今日捜査を行った施設もすぐに引き払われた後だったようで大した成果はあがらなかった。
 
 

「………」 
 
「………」

 帰還した俺は遅めの夕飯を食べるべく食堂に来ていたのだが、席に着いて食事を始めてすぐに、無言で高町が横に座り食べ始めたのだ。

 高町は暗い雰囲気でもぞもぞと口にライスを運ぶ。

 またクイント関連かと考えたが、今日は訓練をしないで心と体を休ませると言っていたのでその線は薄いだろう。 
 なにがあったのか、皆目見当がつかなかった。


「……なにかあったのか?」

「……うん」


 声をかけてみると、彼女は小さく頷き、今日の出来事を語り始めた。

 爆発炎上したトラック。
 その荷台にいた血まみれの少女(口調よりそう断じたそうだ)。
 手も足もだせず、逃亡を許してしまったこと。

「怖かったの……。
 フェイトちゃんたちの時はこんなこと、なかったのに」
  
 そう小さな声で呟いた。
 体は若干震えているように見える。


 彼女が関わったというテスタロッサ事件については本局の情報規制が厳しいためあまり内容が公開されておらず、俺が彼女になにがあったか知らない。
 だが、その時以上に恐怖を感じたようだ。

 初めて、かはもちろん知らないが、血を見るような戦闘はそうだったようだ。
 
 
 俺は自分が初めて血を見た時を思い出しながらも、どうアドバイスすれば良いかわからなかった。

 だから、

「……ふぇ」

 ガシガシと頭をこねくり回して、気持ちを落ち着かせてやるくらいしかできなかった。
 涙目でこちらを見つめてこられた。

 ……俺に父親というものは向かんだろうな。

 俺は周りから奇異の目で見られるのを気にしないようにして、高町が落ち着くまでそうやっていた。




 ◆◆◆


 Side ???


「ふぅ」


 私は肺一杯に綺麗な空気を吸い込んで、ゆっくり吐きだした。
 輸送車両を破壊し、地下水道に逃げ込んで数時間。
 迷いに迷ってやっと地上に戻ってこれた。

 見上げると、狭い建築物同士の狭間から薄らと星空が見てとれる。


「世界は、こんなに綺麗なのに。

 汚いものは依然と変わらぬまま、ね」


 ふっ、と鼻で笑い、ボロを翻して廃棄された都市を歩く行く。


「本当に、世界はこんなはずじゃないことばかりね」


 薄汚れた金糸は風に遊ばれ、宙を靡く。




・あとがき


 とらハ板に引っ越して、記念すべき第一弾。

 本編10KB前後ですね。中々増やせません。

 さて、とらハ板に来て早々、八月まで投稿できるかわからないので一応書いておきますが、八月中期までは更新が止まっていても止めたわけではないです。
 試験期間なだけなので、捨てた訳じゃないですよ?
 
 では、試験前に投稿することがあったらその時に。
 なかったら八月に会いましょう。

 感想・ご指摘・アドバイス、返信は次の投稿でしますのでよろしくお願いします。


・アリサ部屋

「はじめましての方、こんにちわ。
 いつも読んでくれている人、こんにちわ。
 感想返信屋、アリサ・バニングスよ。

 さぁ、来たわよ、本板よ。
 ほんとにドキドキものよ。
 バッシングがくるか、はたまたバッシングがくるか。
 うぅ……。

 か、感想の返信よ。

 2043さん
『またなのはさんが……』

 さすが原作主人公ね。

 あめさん
『なのはさんもその年頃なんですかね』

 というか、書いてる夕凪なんじゃないかしら。

 Mさん
『もう同年代との関係が敵しかいない状態ですし……。
 アリサ&すずかのことは諦めてますしね』

 こらぁあああああっ!!!

 zoxさん
『不思議ですよね』

 な、なのは両親は諸事情があるからよっ!!!
 ………たぶんだけど。

 外剛さん
『セリフから某殿下を連想しました。
 そういえば、声優繋がりでユーノ君はどうなったんだろうと思い出す』

 A'sが始まる時までは改造終わるのかしら?

 パウルさん
『原作を見終わった頃、ル―ちゃんの父親はゼストさんという裏設定があるんじゃないかと疑っていた夕凪です。
 実際のところ、メガーヌさんの夫の方はどうなったのだろう。
 それ以前にルーちゃん何月生まれ? いつから産休にしようか迷います』

 なのはは年上の人たちといる方が良いのね……。

 バタフライエフェクトさん
『どなたかのなのはさんと被っちゃいましたか……。だ、大丈夫でしょうか』

 アルカディアで検索かけたけど、わからなかったわ……。
 「ドラまた」なのはさんの作者様、似てしまってごめんなさい。

 ヨシヲさん
『弱点は一応対応策を考えてあります。

 それが番外話のラストでフェイトをおびき寄せる話になったのですね』

 なのはが殺し屋にっ?!!」
 

・舞台袖

「たっ、隊長が子供をあやしてるっ?!!!」

「なっ、なんだってっ?!!!」

「明日は槍が降るな」
 
 
 
 
 
「……隊長ってこんな風に見られていたのね」

「あれ? メガーヌ知らなかったの?」

「不器用な人って損よね」

「そうかもね」
 
 
 
   



[18634] 第二十七話 サマーエンド
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:755ff025
Date: 2010/08/12 12:46

 暑い。
 いや、蒸し暑いと言うべきか。
 オレは掛け布団を退けて火照った体を冷ましにかかる。
 次いで、大人に比べて基礎体温の高いフェイトを引っぺがし、ベッドの空いているスペースへ転がる。

「夏は、きらいだ……」

 カーテンの隙間から、これでもかという程の熱量を伴う光線が部屋へと忍び込んでいる。
 日本での夏は初めてだが、湿気を帯びた空気がここまで不快だとは思っていなかった。

 部屋の温度は上がり続ける。

 じっとりと汗が浮かぶ。

「ムリだ……起きよう」

 二度寝を諦めると、すぐに起き上がり寝室を抜け出す。
 一目散に目指したのは冷蔵庫。

 扉を開き、ひんやりとした空気の中へ手を入れ、目的のものを取りだす。
 それを持ちながら食器棚から自分用のコップを取りだし、注ぐ。

 コップの中にそれが並々と満ちていく。
 そして、一気にそれを飲み干す。

 喉を鳴らして、朝一番のそれを体に行き渡らせる。

「ぷはぁ。うん、やっぱり飲み物は牛乳だよな」

 その呟きに応えてくれる人物がいないのを承知で、オレは言葉にしていた。

「飲み物は、牛乳だ」

 寝ぼけた頭でオレは「もう一杯」と継ぎ足していく。

 そうだ、朝食はコーンフレークにしよう。
 牛乳と合うし。


 ◆◆◆


 Side なのは


「さぁ、なのはちゃんっ!!

 この子たちが私の娘のギンガとスバルよっ!!」

「は、はじめましてっ!!」

「……まして」

「高町、なのは」

 わたしは呟くような声で返事をした。
 
 
 
 
 
 
 トラック『事故』に遭遇して一週間経った。
 そう、『事故』。
 管理局はあれを事故として処理した。
 
 荷台に積まれていた可燃性のガスが何かの拍子に引火し、あの事故が起きたと発表。
 あの子については一切触れなかった。

 翌日に行われた詳しい事情聴取の時に、あの金髪の子について捜査担当の人に口外するなと命じられてしまった。
 ゼストさんにはすでに言ってしまったことを少し後悔した。

 今思い出すと、輸送トラックの企業や関係者について発表がなかったような……?
 だけど、その時に思い至らなかったの当然だと思うの。
 だって、
 
 
 
 あの日の夜。
 わたしはゼストさんに慰めてもらった(?)後も、心に刻まれた『あの子』に怯えていたんだ。
 
 誰かを傷つけた人。
 誰かの返り血を浴びた人。
 きっと………誰かを殺すことを躊躇わない人。

 あの時。
 もしもあの時、あの子がわたしをしっかりと殺そうと思っていたら。

 ―――高町なのははこの場所に立っていることはなかったんだと思う。

 それは、自分の命が自分じゃない誰かの手の中にあるということ。
 一時的にでも、確かにあったんだ。
 
 そう考えただけで、体の震えは止まらない。

 夢の中でさえあの子は出てきた。
 そこでは腕の一本や両足をもがれることもあった。

 実際にはそんな怪我を負わされていないけど、感覚的にはあの後あったかもしれない未来だと印象付けられている。

 朝方、汗をびっしょりと掻いて跳ね起きる。
 そんな一週間が続いた。

 訓練の間もあの子の影に怯え、必死に、それこそ対ユウナ訓練の時よりも懸命に技をものにしようと励んだ。
 
 きっかけはあの子と自分の差を自覚したこと。
 世界には、ミッドチルダという世界でも、自分の命をどうとでもできる『犯罪者』がいる。
 わたしは、それに対抗する力を手に入れたい。
 
 違う。
 いれなきゃ、怖いんだ。

 怖くて、恐くて、堪らない。

 守ってくれる人なんていないから。

 『悪い子なのは』は捨ててきたんだ。

 だから、独りでも頑張るんだ。


 そんな決意をした翌日。 
 
  
 
 
「今日の訓練は中止っ!!!

 という訳で、私の家に行くわよっ!!!」
 
 
「にゃっ!!?」

 ………何故か、拉致られてしまったの。
 
 
 
 
 
 
 クイントさんのお家に招かれ、リビングに通されたわたしは娘さんたちと一緒にテーブルの席に座らせられ、お菓子やジュースを振る舞われている。
 わたしはオレンジジュースをちゅうちゅうとストローで吸いながら幸せそうなクイントさんを眺める。
 
「ほらスバル、ほっぺにクッキーの欠片がついてるわよ」

「ん」

「ねぇねぇっ、なのはさんってお母さんと同じ部隊に居るんだよねっ!!
 なのはさんってそんなに強いのっ!!
 手合わせしようっ!!」

 ………こほん、頭が幸せそうな子もいたみたい。
 ギンガちゃんはお母さんそっくりだね。
 どこがとかは言わないけど。
 
「ダメよ、ギンガ。
 ………死にたくないなら正攻法じゃない方法で挑みなさい」

「っ!!」

 クイントさんの有無を言わせない笑顔(?)でギンガちゃんはコクコクと首を振る人形と化す。
 どんな教育方針を持ってるの? クイントさん。 
 
「なのはちゃんについてニュース番組の特集でやってたでしょ?」

「え? なのはさんって、あの」

「そう、『最近の若者は』的な特集のあの」

「……ん?」

 ………『あの』ってなに?
 わたし、そんなに噂されるようなことしたかな?

 戦々恐々とわたしを見つめるギンガちゃんに視線を送る。
 すると、ビクッと姿勢を正すギンガちゃん。

 それを不思議そうに見つめるスバルちゃん。
 こくんと首を傾げてギンガちゃんとクイントさんを見比べてわたしを見やる。

「?」

「?」

 視線が交わったわたしとスバルちゃんはお互い首を傾げ合った。
 
 
 
 
 それから、人見知りの激しいスバルちゃんと散歩に出かけたり、何故か怯えるギンガちゃんを手合わせと称すシュートイベーションでポイントを競ったり、クイントさんお手製の料理を恐る恐る食べるといった時間を過ごし、いつの間にかナカジマ姉妹に挟まれてベッドの中だったの。
 クイントさんの旦那さんは今夜はお仕事で帰ってこないそうなの。

 一日が終わってから気づいたけど、もしかしてクイントさん、気を紛らわすために誘ってくれたのかな?

 まぁ、いっか。

 
 Side out



 ◆◆◆


 
 Side フェイト


「………遅い」

 私はテーブルにつきながら壁掛け時計の短針が十一を指しているのを確認する。

「いつもなら、十時半には帰ってくるのに」

 はぁ、と溜息をつく。
 今夜は剣道場に仕事へ行く日。
 だから多少遅くなることは理解できる。

 だけど、

「遅すぎる」

 テーブルの上にはユウナのためにわざわざ作ってみた魚のフライにサラダなどが並べてある。
 久しぶりに料理というものをやってみたのに………。

「遅いよ、ユウナ………」

 カチカチと秒針の音が部屋に響く。

 この家に私一人だけ。
 
 ユウナと一緒で、やっと二人になれる。

「寂しいよ」

 ユウナがいなければ私はこの世界で一人になる。
 母さんはアリシアを蘇らせる旅に出た。
 身寄りなんてないも同然。

 私が生きる世界にユウナはなくてはならないピースなんだ。

「ユウナ……」

 もし、ユウナがこのまま帰って来なかったら。
 
「誰がお金を稼いで、家事をするの?」

 普段の家事はユウナに任せてある。
 お風呂やトイレの掃除から、リビングに寝室、果ては町内会の草むしりやゴミ拾いだってユウナに行ってもらってる。
 御飯だって基本的にユウナに作ってもらってる。
 朝、昼、晩と全てユウナだ。
 私も少しは作れるけど、一日三回も作るなんて嫌だ。
 お金だって母さんから預かってる分やユウナの財産が手元にあるから良いけど、そのうち働かなくてはいけなくなるかもしれない。
 第一、私にはユウナ以外に知り合いがいないんだ。
 友達と言える人間なんていない。
 家族もいつ帰ってくるかわからない。
 
「………壊れちゃうよ」

 そう、一人孤独に生きるなんて絶対ヤだよ。
 それに私は誰かに話しかけるなんて、何かの役目を帯びていない限り恐くてできないよ。
 高町なのはの件で気付いたんだから。

 世界には子供の皮を被った悪魔がいるんだって。

 迂闊に知らない人について行っちゃだめ。
 話しかけちゃだめ。
 まずは家族と相談だよ。

 だから、悪魔じゃない人に話しかけられるかは確立論。
 運が悪かったらオダブツだよ。
 この前のドラマで言ってたし。

「あっ?!! もしかして、ユウナが遅いのは悪魔に捕まったから?」

 大変だ。
 世の中には男の人を食べちゃう悪魔がいるってお昼時のドラマでも言っていた。
 他にも女の人を付け狙う狼がいるらしいし。

「………ユウナはどっちにも当てはまる」

 一応、私のものだって首輪をつけたままにして所有権を主張してるけど、ネトリが趣味って人もいるらしいから安全じゃない。
 わざわざユウナに嘘をついてまで取れないことにしてるのに、それでは意味がない。
 
 
 バタンッ

「ユウナっ!!」

 玄関から聞こえた音に私は反応し、リビングを後にする。
 とりあえず、こんなことをグダグダ考えるよりもユウナを叱らないと。
 私の幸せを考えてってあれほど言ってあるんだ。
 それに反する行いをしたんだから怒って良いはずだ。

 だけど、ユウナの姿は玄関にも廊下にもなかった。

「ユウナ?」
 
 あれ?
 確かに玄関が開く音がしたんだけど。
 
 その証拠に扉は半開きになっているし、ユウナの靴や荷物もある。
 おかしい。  
 そう思い、頭を廻らしていると、
 
「おぇええっ!!」
 
「っ?!!」

 反射的に声のする方へ行くと、ユウナは変身魔法が解けた状態でトイレで胃の中の物を戻していた。

「どうしたのユウナっ?!!」

 慌ててユウナの背中をさすり、吐き気が収まるのを待つ。
 
 何があったかはわからないけど、とりあえずユウナの身に何かあったんだ。
 唇を噛みながら、手助けを続ける。

 ユウナは体を痙攣させながら、嗚咽混じりに戻し続ける。
 
 一体何が………。
 
 ―――ま、まさかっ?!!

「(身ごもったのっ?!!)」

 この間読んだ性教育の本に載っていた文が頭をよぎる。
 
「(妊娠すると、ホルモンバランスの乱れから体調が優れなくなることがある)」

 それが正しいとすると、ユウナは私の知らないどこかで無理やりテゴメにされてしまったことに。
 こんな時間に帰って来たこともそれに原因が?

 手が怒りでぷるぷると震えだす。
 
 私の大切な人になんてことをっ!!!
 やっぱりユウナは外へ出すべきじゃなかったっ!!!

「はぁ、はぁ……」

「ユウナ……」
   
 少しして落ち着いたのか、ユウナはゆっくりと立ちあがって口を濯ぎに洗面所へ足を動かした。
 私もユウナの背中に手を添えて移動する。

 その間、ユウナは焦点の合わない瞳でうわ言のようにブツブツ呟いていた。
 
 
 
 
「しっ りと  た ずなの 。
  きてる。
 な で。
 オ を、 クを、 しに来た?
   り者が?」
 
 
  
 
 
 ベッドに入ってからもユウナの様子は変わらない。
 いや、うわ言を止め、涙を流して眠りについていた。
 
 胸が締め付けられるように、痛い。

 事情を知らない私が言うのもなんだけど、ユウナは苦しんでいる。
 何かに心を傷つけられてる。

「ユウナ………」

 そっと、ユウナを抱きしめる。

「大丈夫だよ、ユウナ。
 苦しくても、私がいるから。
 私がいるから、ね」

 いつもは支えてもらってばかりだけど。
 私たちは対等なパートナーだ。
 出会った頃約束したよね。
 依存じゃなく、対等なって。
 だから、 

「ユウナは私の大切な人なんだ。
 絶対傷付けさせないよ。
 そして、誰にも渡さない」

 背後に回した手で、ユウナの首輪を撫でる。

 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいた。
 

 Side out


 ◆◆◆

 
 Side シグナム

「遅かったわね、シグナム」

 玄関を開くとシャマルが出迎えてくれた。

「主は……」

「もうお休みになられたわ」

 優しそうに微笑むシャマル。
 最近、ヴォルケンリッターの皆が少しづつ人間味を帯びていくのを感じる。
 これは、うむ、良い傾向だな。

「? なにか良いことでもあったの?」

「あぁ、あった」

 私は唇の端をほんの少し吊り上げてリビングに入っていった。
 リビングにはザフィーラが狼の形態で寝そべっていて、ヴィータの姿は見られなかった。
 
「ヴィータなら、主と共に休んでいるぞ」

「そうか、ヴィータが」

 あの甘えることをしなかったヴィータが、な。
 本当に主に出会えて我々は救われたのかもしれないな。

 ソファーに体を預けながら、ザフィーラの背中を撫でる。

「………なんのつもりだ」

「いや、手の届く範囲にあったので、つい、な」

 ザフィーラは「ふん」と鼻を鳴らすと文句を言わずにされるがままになっていた。

「そういえば、今日はどうしてこんなに遅かったの?」

 シャマルはヴィータが飲むオレンジジュースが注がれたコップを手渡しながら尋ねてくる。

「少々野暮用というやつだ」

 受けとり口を湿らす。
 
 今日帰りが遅かったのは銀ノ森夕那と名乗る女と話していたからなんだが。
 
「(どう考えて偽名だな)」

 道場の仕事が終わり、私が彼女に話しかけると、彼女は青い顔をしながら応対した。
 理由はわからない。
 初めに紹介された時も血の気が引いているような顔をしていた。
 まるで、そう、死人にあったような。

 だが、そんな目で見られても私は話しかけなければ気が済まなかった。

 デジャビュ。

 彼女の切れ長の目。
 見覚えのある顔立ち。

 黒髪でない、銀色の髪の毛。
 この地に多い黒ではなく、紅と金の瞳。

 脳裏に九つ程の子供が現れて、消えた。

 これほどまでの既視感は今までなかった。


 彼女は嫌々ながらと公園について来てくれたが、近づくだけで口を抑えられた。
 
『貴女は、私を知っているようだな』

 その言葉に夕那はゴクリと喉を動かしたあと、

『当たり、前だろ。
 あんたを、忘れられる訳がない』

 震える声で返答した。

 何故私を知っているかはわからないが、私にも既視感がある。
 彼女も私と同じような存在か、ベルカ時代に関係があるなら先祖の記憶を持った人間となる。

 だが、それなら僥倖だ。
 この地でまさか私を知っている人物に会えるとは想像してなかったが、これで私の過去を知れる。

『そうか。
 なら、尋ねたいことがあるのだが―――』

 彼女に一歩近づくと、

『近づくなっ!!!』

 彼女はデバイスを展開し、騎士甲冑を身につけ、偽装魔法だろうか、それも解除し、九つ程の少女になった。
 それも既視感と全く変わらない姿の。
 赤い大槍。鷹のエンブレムが施された白銀の騎士甲冑。長い銀髪を後ろでひと房に纏め、紅と金の目を鋭く細めてこちらを睨んでくる。
 
『シグナム・フォン・ルクセンブルク………。
 何故、あんたが生きているか知らないが、それ以上近づくな。
 話しかけるな。
 これ以上、あんたに関わりたくない。
 あんなことはもうごめんだっ!!!』

 彼女はそう言い放ち、口を抑えながら走り去って行った。

 私はそれを茫然としながら見送るだけだったのだが。


「(これで、一歩。
 また一歩とオリジナルに近づける)」

 コップを覗き込むとにやりと笑った私がいた。 

「シグナム、それがワインか何かだったならカッコいいのかもしれないけど、ジュースでその思案顔じゃ決まらないわよ」

「だな」

「………」

 Side out  

 
 
 
・あとがき

 久しぶりです、夕凪です。
 八月になり、一週間程前に試験が終わり、実家に帰ってとドタバタして久しぶりに投稿できました。

 今回『も』コメント返しにだいぶ幅を取ってしまいましたので、本編が短く感じるのはごめんなさい。

 更新速度は鈍ったままになりそうですが、完結目指して続けます。
 

・アリサ部屋

「こんにちわ、一か月と少しぶりのアリサ・バニングスよ。
 埃っぽいのは更新されてなかったせいよ、きっとそうよ。

 くしゅんっ

 まぁ、あれよ。
 続けることに意義があるってやつよ。
 だから、私がテンション低いめなのはシックハウス症候群よ。
 意味分からないけど。

 とりあえずお仕事再開ね。

 白区区さん
『な、なりますかね……』
 なったとしても、親愛程度かもしれないわね。

 露出卿さん
『なのはさんに奪われてましたしね。
 これから……きっとこれから』
 増えるわよ………たぶん。

 黒っぽいなにかさん
『イザークから伊達さんに』
 なのはの名は歴史に刻まれるのかしら。
 
 蜜蜂さん
『えーと、楽しんでもらえているようなので、夕凪としては嬉しいです』
 期待に添えるなのはで在り続けることができるのかしら。

 無名さん
『ユウナの動向はこんな感じです』
 わからないことが多すぎよ。

 バタフライエフェクトさん
『ラノベは基本的に電撃買いで、他の文庫ですと友人から借りるパターンが多かったので、参考にならないかと』
 仕方ないわね。
 ミッドまで私が直々に出向いてあげるから覚悟しなさい、なのはっ!!!
 ………な展開じゃないのは確かね。

 パウルさん
『すみません、彼女の本格的な参戦は当分ないかもです』
 実は私よっ!!!
 ………って、二度目はなし?
 ダメ?

 ダストさん
『管理局の件ですが、確かに早計ですね。情報が少なすぎたり、偏見があったのもそうですが。
 プレシアさんの件ですが、「初見のポンコツ具合に毒気を抜かれたのと、フェイトを頼むと言った時の真剣な表情に信用した」、また、ベルカに帰るためには方法が彼女に協力するしかないからと思い込んでいたところでしょう。
 「大切な人を護る」とかいうのには過剰に反応しますから、その点も信用してしまったのかも。
 ジュエルシードの危険性に関しては、あれほどの決意があるのだから綿密な計画があると考えていた、ということで。
 ほとんど言い訳になってしまい、すみません。
 言葉が足りなかったところは追加、曲げられない所はそのような考え方をしていたということで今後編集していきます。
 ご指摘ありがとうございました』
 私からもありがとう。

 ヨシヲさん
『新キャラさんはA'sが終わるまではあまり出て来ないかもです』
 なのはって、恋愛できるのかしら。

 主語神さん
『お気持ちは嬉しいのですが、横レスや喧嘩は控えてくださいね?』
 その、ほら、喧嘩からできる友情?
 ………ごめんなさい、場違いな発言だったわ。

 シアーさん
『ユウナ君の場合、「時空世界全て」というのが、それこそ現在管理局が把握できていないだろう世界も含めての「全て」と言いたかったのです。時空世界は無限に広がっている、だからそれを全て管理下に置くことは不可能だ、というのが彼の考え方です。現に、過去となってしまいましたが、彼のいたベルカは管理下にありませんでした。そのため、全ての者が認める訳がないと思ったのでしょう。
 実際はシアーさんの言う通りの組織なのでしょうし、ユウナ君の偏見と情報不足からの愚考ですね。
 うまく本文中で伝わらず、すみませんでした』
 これを糧に精進し続ける所存で……だから私のセリフじゃないってば。

 ガンマさん
『ここでの罪ですが、ロストロギアの不法所持と管理局員への傷害行為に公務執行妨害に関して反発、実験に関しては成功すると確信していたことから来る失敗の可能性に対する危機感の薄さによる思考だった、次元震については小規模なものですぐ安定すると知っていて損害はないと考えていたといものでしょう。
 プレシアさんに関しても、ダストさんに返答した通り、なにかしらの予防措置があったと考えていたのでしょう。
 と言ってもこれは全て言い訳です。本文にしっかり書いていないので、今後修正していきたいとい思います。
 ご指摘ありがとうございます』
 修正の指針が増えていくわね。

 バタフライエフェクトさん
『……なんだか、胸が痛いです』
 ふもっふ……な、なによ、べ、別に好きでやってる訳じゃないんだけらねっ!!
 
 ササハラさん
『ユウナ君の初期の認識だと、管理局は一つの政府組織であるというのであってます。ここもしっかりとした情報がなかった所に起因しますが、脱出後にはそのような組織だと解ったと思います。
 罪に関してはガンマさんへの返答通りです。
 描写不足、すみませんでした』
 もっと細かく行くべきなのかしらね。

 蜜蜂さん
『フォロー(?)ありがとうございます』
 まぁ、ユウナがいた頃は九つの継承権持ちの姫様だったみたいだけど、他は否定できないわね。
  
 あささん
『遅れてすみません』
 久しぶりで粗が目立つかもしれないわね。
 これからも努力していくようなので見捨てないで下さい。
 私の出番的な問題で」
 
 
 
・舞台袖

「………おかあさん」

「ん? どうしたの、スバル?」

「がんたい、つける」

「またどうして?」

「………かっこいいから」
 
 
 
 
 

「隊長っ!!
 なのはちゃんが寮に戻ってないそうですっ!!」

「家出か。いや、これは誘拐か?
 至急、捜索令状を出し高町を捕獲、または保護しろ。
 家出だと何をやらかすかわからんし、誘拐だと何をされるかわからん。
 急げっ!!」

「了解っ!!」 
 
 
 
 
「(この首輪だけで私のものにしたとタカをくくっていたのが失敗だったね。
 今度からはべったりくっついて、傷付ける人間を近付けさせないようにしなきゃ)」

「う………、オリ、ヴィエ、助けて、くれ」

「? なんで苦悶の表情なの?」
  
 
 
 
 
「最近シグナムの行動がツッコミ待ちにか見えなくて困るわ」

「本人は雰囲気をだそうと必死のようだが」

「ダメダメよね」

「ダメダメだな」

「………聞こえてるぞ、二人とも」
  
 
 
  



[18634] 第二十八話 ナノハズドゥーティー(N)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:755ff025
Date: 2010/08/21 20:53

 Side なのは


 秋になりました。

 トラック『事故』の捜査にあれから進展はなかったようなの。
 わたしが見た金髪の子についての情報もゼロ。
 できれば、もう会いたくないというのが本音なの。

 とりあえず、彼女をきっかけとして訓練プログラムの進行速度が上がり、今日から簡単な任務について行く許可が下りたの。
 これは喜ばしいことだと思うことにする。

 経験は必要だと思うの。
 生き残るには、それが大事だ。
 一足飛びに行くことなんて、土台がないのだから、どこかで転んでしまう危険がありすぎる。
 だから、地盤作り。

 身の危険を味わっ後に、危険に対しての策を講じる。
 それができるのが人間だってゼストさんが言ってたの。

 わたし、頑張るよゼストさん。


 ◆◆◆


「天気は曇り。
 時間は夜。
 この闇に紛れて侵入するわよ。

 なのはちゃん、わたしから離れちゃダメだからね」

「わかったの」

 わたしとクイントさんは森の木々の合間から違法の研究施設を見つめる。

 今回の任務はとってもシンプル。
 三つの班に分かれて研究施設に潜入。
 そこにある情報を回収すること。
 それと、研究員がいた場合捕縛。
 組織の情報を持ってる可能性があるので、出来る限り『殺さない』ことらしい。
 
 わたしはクイントさんと二人で侵入。
 ゼストさんは補助を一人連れて別の方角から強襲。
 他に武装隊のチームがまた別の方角から侵入らしい。

 本当ならメガーヌさんも一緒に参加予定だったのだけど、最近妊娠が発覚。
 五ヶ月らしい。
 本人が気付くまでだいぶかかったらしい。
 もとから『げっけいふじゅん』だったらしく、体調を崩して病院にかかって初めてわかったみたい。
 よくわからないけど。
 今日もメガーヌさんは隊舎でデスクワークに励んでいます。
 
 
 
「それじゃ3、2、1―――GO!!」

 その掛け声とともにクイントさんはウイングロードを展開し、二階付近にある火災避難用に作られた大き目のガラス窓に道を作る。
 足に装着しているローラーブーツ型のデバイスが唸り、クイントさんはその道を滑走。
 わたしもそれに続き、滑るようにウイングロードすれすれを飛行する。

「ふんっ!!」

 クイントさんは移動速度を維持したままリボルバーナックルを窓につき立てる。
 直後、バリンッとガラスが音を立てて砕け散り、わたしは腕とデバイスで顔を護りながら、ガラスが舞う空間を通過しクイントさんに続いて侵入した。


 中に入り、周りを見渡すと、ここはどうやら廊下のようだ。
 明りは付いておらず、物音はわたしたちの呼吸音とわたしが降り立った時のじゃりっとした音だけ。
 床には大量のガラス片。

 クイントさんは華麗な盗賊にはなれないなぁと思う。


「施設は………ダメね。
 死んでるわ。
 迎撃システムが作動する様子もなし。
 動力もカットされてるわね」

 クイントさんの言葉が廊下に木霊する。
 この分じゃ情報も大したものがあるとは思えないの。
 
「………隊長や他のチームも同じ状況みたい。
 一応警戒しながら進みましょう」

「りょーかいなの」

 わたしはクイントさんと一緒に奥に進み始める。
 
 廊下の所々にある窓からもさして光は入って来ない。
 夜に加えて曇り空。
 月の光も入って来ない。

「(なんだか、肝試しみたいなの)」

 灰色の壁に、タイル張りの床。
 なんとなく鼻をつく薬品の臭い。

 病院みたいで、お化けが出そうだ。

 金髪の子に対する恐怖とは違う恐さがここにある。
 さりげなくクイントさんとの距離を縮める。

 こんなことなら迎撃兵器や敵魔導師の方が百倍まし。
 早く出て来てよ。

 そんな時、ふと、クイントさんと目があった。
 クイントさんの目がわたしの目をじぃっと見つめる。

「もしかしてなのはちゃん」

 ビクッ

「怖いんだぁ」

 先程まで真剣だったクイントさんがニィと笑う。

「べ、別に恐くなんかないのっ?!!
 ほんとなのっ?!!」

 わたしは噛みながらも返答するが、墓穴を掘ったようなものだ。
 
「へぇ、何が怖くないのかなぁ?」

「ぜ、ぜんぶなの」

「ふーん」

 そのまま数分間、クイントさんは弱みでも握ったように笑っていた。
 うぅ、クイントさんのばか。
 
 
 
 
 
 
 あとで知ったことだけれど、この会話はわたしの緊張を解くためのものだったらしい。
 よくよく考えれば任務中にこんなこと言わないのが当たり前。
 やられたのって思ったのは後にこの話を聞いた時でした。
 
 
 
 
 
 
 結構進んだのと心で呟いていると、少し開けた所に出た。
 今まで研究室はあったけれど、こんな場所はなかったの。 

「ここは休憩所みたいね」

 壁一面がガラス張りで施設の外の森が見渡せた。
 鬱蒼とした森の木々は風があるためかざわざわと揺れている。

 ここまで来るのにほとんど徒歩みたいな感じで大変だったけど、帰りはヘリなので救いがあるの。

 この休憩所にはソファーやテーブルが数個設置してあり、大型の投影機材や観葉植物があるのが見てとれる。
 この施設が放置されてそれほどたってないのか、植物はまだ枯れているものはない。
 ソファーやテーブルにも、あまり埃が積もっている様子はない。

 ますます病院みたいで、肝試しっぽいの。

「………うん、やっぱり動かないわね」

 機材のスイッチを押したりして確認し終わったクイントさんが肩を竦めて先に進む。

 廊下は依然として暗いまま。
 
 お、置いてかないで欲しいの。

 ふと、ソファーに目が行った。

「(赤い、しみ?)」
 
 わたしは小首を傾げて、でも、クイントさんに置いてかれたくないので彼女を追う。

 そういえば、薬品とは違う臭いがする気がする。
 なんだろう?
 腐ったような臭いって言うのかな?

 そんなことを考えながら足早にクイントさんを追うと、曲がり角の所で立ち止まっていてくれた。
 おかげで置いてかれなくて済んだ。
 わたしは安堵のため息をついてクイントさんの横に駆け寄り、彼女を見上げると、

「クイントさん、どうしたの?」

 クイントさんは曲がり角の奥の方を向いて、真っ青な顔をしていた。
 わたしの声に気付いたのかすぐにわたしの顔を覆うように手を出してくる。

「っ!!? なのはちゃんっ!!! 見ちゃダメっ!!!」

「え?」

 つい、わたしはクイントさんの制止する意味がわからず曲がり角の向こうを見てしまった。

「うっ?!!」

「ダメよっ!!! 見ちゃダメっ!!! なのはちゃんにはまだ早いっ!!!」

 すぐに視界はクイントさんの手によって塞がれたが、先程の光景はすでに視界に入ってしまった。
 わたしの体はクイントさんに抱きとめられ、安心させるようにクイントさんが「大丈夫、大丈夫だから」と声をかけてくれていた。

 でも、焼きついてしまった。

 何人か、そんな人数がわからない。
 廊下の闇に遮られ、どれほどいるのかわからない。

 でも、その数瞬の合間に見てしまった。

「し、死んでるの………?」

「なのはちゃん………」

 ぎゅっと抱きしめる力が増した。

 そこにあったのは、たくさんの死体だった。


 ◆◆◆


≪死体は研究員のようです。
 ほとんどのものが白衣やネームプレートを付けています。
 頭蓋を潰された者や、腹部を貫かれた者、四肢が欠けている者など様々です。

 銃痕などはありません。
 傷口は滑らかなものではなく、刃物によるものではないようです。
 火傷のあとも確認できたものの中にはあまりないですね。

 腐敗の進行を遅らせる魔法でも使ったのか、血液などが乾いているのに対し死体の腐敗が進んでいる様子があまり見られません。
 倒れている場所によって進行具合も違っています。

 しっかりと原形を留めているのはだいたい十五名といったところでしょう。
 武装隊の方から何名か寄越してくれれば先に進みますが≫

 クイントさんがわたしの体をさすりながらゼストさんと念話で話していた。
 休憩所のソファーに腰掛けながら、わたしは震えが収まるのを待つようにじっとしていた。

 死体。
 やっと、恐怖を克服できたと思っていたのに。

「(ダメだよ。また、恐くなっちゃう)」

 金髪の子に味わわされたことが頭を巡る。

 たくさん訓練して、生き残れるくらいの強さを、早く手に入れないと。

「(わたしも、あの人たちと同じ目に)」

 クイントさんの腕にしがみ付く。
 
「なのはちゃん………」

 視界が涙で一杯になって上手く見れないけど、クイントさんは気遣うよな笑みを浮かべてもう一度抱きしめてくれた。

 今くらいは。
 今だけは、少しくらい良いよね?

 震える体で、クイントさんにしがみつく。
 泣き言は言わない。
 『悪い子なのは』の意地にかけてそれだけは言わない。
 涙くらいまでしか許さない。
 自分が選んだ道なんだから。
 
 
 
 震えが収まる頃になってようやく武装隊の隊員がやって来た。
 何故かゼストさんまでやって来た。

 泣き腫らした顔を見せないようにソッポを向いてクイントさんの横に立つ。
 
「………」

 ゼストさんは無言で頭をガシガシと撫でくり回す。
 最近、これがゼストさんなりの励ましだと気付いた。
 滅多にしないけど、本当に苦しい時はしてくれるみたいなの。

「隊長、他は良いんですか?」

「あぁ。
 俺が担当した三階の部屋は全てチェックしたが、めぼしいものは見つからなかった。
 居住スペースのだったようだしな。
 この階も普通の研究室等がほとんど。
 一階は食堂などだったな」

 クイントさんとゼストさんの話は続く。
 
「一階を担当したやつらの情報だと、地図にない地下への階段が見つかったそうだ。
 こちらが目当てのものらしいな」

 そう言うと、ゼストさんはわたしと目線を合わせるようにしゃがんで口を開いた。

「高町、俺たちはこれからそこを調べるが………どうする?
 ここと同じような状況かもしれないが、ついて来るか?」

「隊長っ?!!」

 クイントさんは声を上げるが、ゼストさんは何も言わない。
 ゼストさんの目は真剣だった。
 
 来るかは、わたしの意思で決めろって言ってるみたいなの。

「ダメです、隊長っ!!!
 なのはちゃんはまだ幼いわっ!!!
 耐えられないわよっ!!!」

「クイント、俺は高町に訊いている」

「隊長っ!!!」

 クイントさんは必死に止めようとしている。

 わたしは、どうしよう。

 もしかしたら、また、死体があるかも。
 その時、わたしは耐えられるかな?

 ………無理かもしれない。

 わたしは、八歳の女の子。
 考えてみれば、こんな所にいることすらおかしいんだ。
 
 じゃぁ、なんでいるんだろう?

 正義の魔法少女?
 憧れてたけど、どうでもいい。

 そんな『良い子なのは』のことはどうでもいい。
 
 フェイトちゃんとユウナ・シルバーフォーレストの逮捕?

 それもあるけど、もっと今重要なのは?

「(………生き残ること)」

 金髪の子みたいな強者から身を守るための力。
 それが欲しいんだ。
 まずは、力だ。

 傷付ける人たちを殲滅するとか以前に、その力を手に入れないといけないんだ。
 今のままじゃ、足りないんだ。

 そのために来た任務だ。
 経験を積むための任務。
 恐いけど、これは覚悟のために。
 土台づくりだよ。

 何も、今殺される訳じゃない。
 わたしの相手は死人じゃないんだ。
 生きている相手なんだ。

 だから、死人程度に恐がらなくて良いんだ。
 ………恐がらなくならないといけないんだ。



「行きます」

 わたしは意を決してゼストさんの目を見返した告げた。

 ゼストさんは一瞬眉を歪めた後、

「わかった。行くぞ」

 と言って廊下を進む。
 わたしもそれについて行く。

「………はぁ、なんでこんなに危なっかしい子なの」

 クイントさんも頭を抑えて横を歩く。

 わたしは、『悪い子なのは』だから、頑張ります。


 ◆◆◆


 結果から言うと、地下には人間の死体はなかった。
 血痕などの争った跡などはあったが、死体や情報となりそうなものは全て処理されたあとのようだった。

 違法研究、おそらく人体実験に準ずる何かが行われていたようだとゼストさんが説明してくれながら、残された情報がないか調べてみるが結果は芳しくなかった。
 メインコンピュータは鈍器のようなもので破壊され、紙媒体の資料も消し炭となっていた。
 
 遺されたの培養装置? らしい人が入れるほどの大きさのシリンダーが何本かあった。
 中にはなんかぶよぶよしてる肉の塊が浮かんでいて気持ちが悪かった。
 ほとんどが腐っているようで腐臭がひどかったの。

 そんな中、人っぽいのもあったけれど、生きてはいなかった。

「(白い肌に、金色の髪)」

 そんな子が浮かんでいた。
 
 
 
  
 
 
 
 
「まぁ、あんたが普通の子じゃないって知ってたけど、そんな状況でよく進んだねぇ。
 あたしだったら絶対に引き返すね」

 任務から帰って来た日の夜。
 ベッドの上で寝転がり、アルフさんが洗濯物を畳んで収納スペースにしまっていくのを眺めながら、今朝(昨夜?)のことを話すとそんなことを言われた。

「だって、何事も経験だと思うんだ」

「だとしても、あんたくらいの子はそんなこと考えずに遊んでる年だろ?」

「他人は他人だよ? アルフさん。
 わたしは、違う。
 わたしはわたしだからね」

「はぁ………あんたの行動にとやかく文句を言うつもりはないけど、あんまり危ないことするんじゃないよ」

 危ない目に合わないための行動なの。

 心の中で呟いて、わたしは寝返りをうって目を瞑る。

 全ては、この恐怖を叩きつぶすために。
 
 
 
 Side out 
 
 ◆◆◆

 Side ???

「ふぅん。
 計画は順調に進行中………か」

 薄暗い部屋。
 先程シャワーを浴びたために、湿った髪が頬にくっ付いてくる。
 それを指で剥がしながら、視線はモニターの文字に走らせる。

「想定される計画進行の支障となるのは………管理局のゼスト隊………ね」

 私は「ふぅ」と軽く息を吐いてゼスト隊の情報を引っ張りだす。

「えぇと、私がぶつかる可能性が高いのは………ん?」

 その中に見覚えのある顔があることに気付いた。

「この子は………この間の?」

 それは追手から逃げている時に出くわした少女だった。 

「へぇ、高町なのは………ね」

 私はなんとなく、彼女の名前を呟いた。
 そう、なんとなく。

「また、会う事があったら、運命ってものかしら?」

 手近な所に置いておいた栄養補給目的のゼリーをとり、蓋をあけて口に含む。
 マスカットの味が口の中に広がった。

 
 Side out
 
 
 
 
・あとがき

 待ってましたと言われ、遅くなったことに謝りたくなった夕凪です。

 最近、「なのはが主人公なのでは?」的な感想を見て思いました。
 うん、なんか、なのはさんが主人公なんじゃない?

 これ、オリ主にした意味あるのかなぁと思ってしまいますが、A'sが始まるまではどうしてもなのはさんがメインになるような気がする。
 と言っても、もう少しでA's始めるからもうちょっとです。
 
 あと、夕凪が試験をいくつか落としたことに答え合わせしたら気付きました。
 留年の危機です。追試です。一教科に付き二千円取られます。鬱です。
 という言い訳で九月十日までは勉強の合間で書きますので、更新また鈍るかもです。

 感想・ご指摘・アドバイス、お待ちしてます。

 では。


・アリサ部屋

「本編での時系列がなのは回とあってないことに気付いたアリサ・バニングスよ。

 そういえば、本編での私は何してるのかしら?
 
 ―――そっ、そうよっ、話すことが段々なくなって来てるアリサ・バニングスよっ!!!

 仕事よっ!!!

 アズマさん
『フェイトたちはA'sで挽回できるといいなぁ。
 ムリな気がしてきたけど』
 シリアスついでに元に戻ってくれないかしら。

 ヨシヲさん
『ちょっときましたけど、まだ大丈夫です。
 この子が本当にフェイトか最近わからなくなってきてます。
 まぁ、トラウマです。
 なにがあったかはA'sでです』
 ほとんど本当のことだから、仕方ないわよ。

 火消しさん
『ギンガはたぶんまだ、大丈夫です、たぶん。
 ゼストさんは、ね? なんかお父さん属性持ってる気がして。
 捜索願は日本と同じ捜索願ですね。
 もし、魔力探知専門の捜査官がいたとしたら、暴れている魔導師を探知でしょうか?
 そういう意味ではなのはさんを確保できますね。
 シグ姐さんについては、うん、どうでしょうとしか言えません』
 前回のユウナ視点、牛乳飲んでただけだったわね。

 パウルさん
『更生できてないですね。
 なのはさんの成長におかしなベクトルがかかってきました。
 どうしよう。
 なのはさんは初期プロットから大幅に外れちゃってるからどうなるかわからないです』
 だから、元に戻せばいいって言ってるでしょっ!!!

 バタフライエフェクトさん
『それは、ゼストさんですから。
 少なくとも、スバルのマイブームは眼帯です』
 流行らせる気なのっ?!!

 kattonさん
『読み返してくれるとは……ありがとうございます。
 いつか、修正しなくてはいけないところをしなくては』
 三時回るまで読んでくれて、ありがとう。
 でも、私の出番ってここくらいなのよね。
 本編での出番寄越しなさいっ!!

 サハトさん
『それは追々ですね』
 A'sでしっかりやれるか心配だわ」


・舞台袖

「そういえば、メガーヌ。
 あなた、結婚してたかしら?」

「? してないわよ?
 してたらあなたを呼ばない訳がないじゃない」

「えっ?!!
 じゃぁお腹の子は誰との子なのっ?!!」

「え、それは………えへへへ」
 
 
 
 
 
 
「う……、え、あ……っぐす」

「やっぱり、なのは、あんたは普通の子供だよ」

「おかぁ、さん」

「……はぁ、今夜だけだよ。
 あたしが添い寝してやんのは」
 
 
 
 
 
 
 



[18634] 第二十九話 ダイアリー
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:755ff025
Date: 2010/08/21 20:54


 Side フェイト


 ○月×日 晴れ

 最近テレビで自由研究というものがあることを知った。
 ユウナがなんだかんだと趣味を見つけろと言うから、これを趣味にしようと思う。

 と、いう訳で今日から「ユウナ観察日記」をつける事にする。

 今日のユウナはいつも通り朝早く起きてランニングに出かけた模様。
 朝から元気なユウナだ。

 私はそんなユウナをベッドから見送る。
 朝は弱いんだ。


 帰宅したユウナはシャワーを浴びてから朝食を作りだした。 
 シンプルにスクランブルエッグとレタスやトマトのサラダ、それからトーストと牛乳といったメニューだった。

 塩と砂糖を間違えないユウナはスゴいと思った。
 私にはムリ。

 ニュースを見ながらユウナとの朝食。
 女性を付け狙う「すとーかー」という人々の存在を知った。
 ユウナは狙われてないよね?

 食器を片付けるユウナ。
 ソファーから観察する限り特に変化はないようだ。
 その後も掃除や洗濯と忙しそうに働いていた。
 元気だねと紅茶を楽しみながら話しかけると怒られた。
 なぜだろう?


 お昼になった。
 暑いので冷えたものが良いと言うとソーメンをだされた。
 なんでも主夫の味方なんだそうだ。
 でも、一週間連続は止めて欲しい。
 
 そろそろ飽きたよ、ユウナ。
 
 
 午後、買い物に行くらしいユウナに同行することにした。
 久々の大人バージョン姿(黒髪)を見たユウナは顔を赤らめていた。
 なんでだろう。

 ユウナも偽装魔法を展開したので、腕を組んで出ようとしたら全力回避された。
 ちょっとショックだった。

 何日か振りの外は燦々と光が降り注ぐ世界だった。
 吸血鬼じゃないけど、体力が一気に持っていかれそうだ。灰になりそう。むしろ溶ける?
 ユウナは白いブラウスを着ていてまだ平気そうだけど、私は黒なので暑い。
 髪も黒くなってるので、さらに熱を吸収しまくっていた。
 店に到着した時の嬉しさは生半可なものではなかったよ。

 屋外とうって変わって涼しいスーパー。
 ユウナはカートを持ってきて野菜を品定め。
 今年のレタスは平年より高いらしい(ニュース情報)。
 ユウナはレタスを手に取り、「あっちの店の方が安かったはず」と呟くが「だけれど、品質はこっちの方が高いようだし」と悩んでいた。
 結局、カートを戻し野菜、魚、肉、そして牛乳とチェックして店を出た。
 暑いのはいやだよ、ユウナ。

 それからユウナは別の店を冷やかしたのち、最初の店のものを購入した。
 私にはちゃんとしたものを食べてもらいたいと言っていたんだけど、だったらソーメン止めて別のものを作ってよ。
 そう訴えたらアイスを買ってくれた。
 言ってみるものだね。


 夕方になった。
 ユウナは洗濯物を取り込んだ後、エプロンをつけて台所に立った。
 私はテレビをつけてアニメを見る。
 忍者の卵達は今日も頑張っていた。
 私? ユウナがいるから頑張る必要ないよ?

 少しして、テーブルの上に鍋が置かれた。
 中を見ると赤い汁に肉や白菜、豆腐に糸コンニャクなど色々入っている。
 ユウナは徐にクーラーをつけ、鍋からのびるコードをコンセントにさして電源を入れた。

 キムチ鍋だった。

 白菜の時期じゃないらしいけど、料理の本に載っていたのを見た瞬間になりやらビビッと来たらしい。
 だからってこんな熱いものを夏に出さないで欲しい。

 クーラーで涼しくなった部屋で戴きました。
 意外にいけた。
 お肉も良いけど、白菜がおいしかった。
 汁が白菜に染み込んでいて、柔らかくなった葉っぱの部分が特に好みでした。
 辛めのものがクセになりそうだと思った。

 私が白菜ばかりに箸を向けたせいで、ユウナの白菜がなくなったのは許してね?
 こんなおいしいものを出したユウナが悪いんだよ?

 ユウナは私ほど箸の扱いをマスターしてないようで、白菜をほとんど私のものにできた。
 努力が足りないのだよ、ワトソン君。

 最後に「うどん」という太い麺を入れて〆にしました。
 つかみずらく跳ねたけど、黒い服の私には関係ない。
 白い服で昼間の暑さを防いだユウナはここで後悔したようだった。
 すぐに洗いに行ったけど、ダメだったようだ。

 そんなに落ち込まないで、ユウナ。
 今度新しい服を選んであげるから。
 ユウナのお財布を使ってだけど。


 今日は剣道のお仕事の日ではないので、ユウナはゆっくりお風呂に浸かっていたみたいだ。
 長湯のせいか、のぼせていた。
 お馬鹿なユウナだ。
 先に入っていた私はうちわで扇いであげた。


 初日からたくさん書いてしまった気がする。
 明日からはもう少し要点を絞って書いてみよう。

 ユウナが寝入った後に書いたせいで、もう遅い時間だ。

 最後に、ユウナの寝相を書いて今日を終えよう。

 ユウナはうつ伏せに寝て、顔を横にし、その横になった後頭部に枕を当てる、不思議な寝方たった。
 枕は必要ないのかなと思った。


 ○月×日 曇り

 昨日の天気は雨だったせいか、蒸し暑い日になった。
 それなのに、ユウナは私を引っ張って戦闘訓練を強行した。
 私は抵抗したが抗えなかった。夕食抜きはさすがに厳しい。

 本当はドラマを見たかったのに。
 前回の最後が結婚した相手が血の繋がった妹だったとわかった所だったから、気になって仕方がなかった。
 しっかりレコーダーに録画してあるから良いけど。

 日差しがないだけましなのか、でも暑さはあるからなんとも言えない中、模擬戦を二、三回して今日は終わった。
 体力が落ちてることに気づいた時はショックだった。
 ………太った訳じゃないよね?
 今後は積極的に体を動かそうかなとユウナに言ってみたら、そのままランニングに移行してしまった。
 失言だったかもしれない。

 
 ○月×日 晴れ時々雨

 この間の白いブラウスの代わりにとユウナと一緒に服を買いに出かけた。

 最近のユウナは何の抵抗もなく婦人服売り場に足を進める。
 慣れというのは恐いねと言うと、ユウナは首を傾げた。
 この調子で首輪の方にも慣れきってもらいたい。

 店員のお姉さんが首輪という名のチョーカーを見て、ベルトがたくさんついた服を勧めてきた。
 その次は鎖がたくさんついた服を勧めてきた。
 そのどちらもユウナはシレっと断って、白いブラウスと水色のブラウスを購入した。
 お姉さんが勧めてきたの、良いと思うんだけどなぁ。

 代わりに私が自分用で購入しておいたのは秘密だったりする。
 もちろん、ユウナのお金で。


 帰宅すると、干していた服がにわか雨でびしょびしょになっていた。
 ユウナ、落ち込まないで。
 また洗えば良いだけなんだから。


 ○月×日 晴れ

 いつも通りの今日もいつも通りに終わると思ったら、最後の最後で違うパターン。

 普段より遅い帰宅に心配していると、ユウナは帰ってくるなりトイレに駆け込んで戻してしまった。
 理由に思い当たる原因がないから、外で何かあったと推測する。
 持てる知識を全て動員して考えた結果、どこかで無理やりテゴメにされて妊娠させられたというものになった。
 ………あれ? 偽装魔法で女性になると妊娠も可能だっけ?

 まぁ、とりあえず。
 
 ユウナに何かした人にはそれ相応の仕返しをしなくては。
 ユウナ、私はキミのパートナーなんだから安心していいよ。


 ○月×日 晴れのち曇り

 ユウナが戻した翌日から熱をだして寝込んだ。
 仕方がないので、私が家事をすることにする。

 とりあえず、ユウナのは消化しやすい栄養補給用のゼリーを与えた。
 大丈夫、ストックはまだまだあるからね。
 賞味期限? たぶん、大丈夫だよ。ほら、ごくごく飲んで。

 私の食事? 心配しなくて良いよ。コンビニでお弁当買ってきたから。
 ついでにショートケーキも買っちゃったよ♪
 ユウナも食べたい?

 部屋の掃除は………ユウナが元気になってからで良いかな?

 
 ○月×日 晴れのちムダに快晴
 
 ユウナの熱はまだ下がらない。
 さすがに昨日一日ゼリーだけを与えていたのがダメだったのかな?
 しょうがない。ほら、ユウナ、あーんして。
 今日は栄養補給用のクッキーだよ?
 恥ずかしがらないで、ほら、あーんして。
 あーん。


 ○月×日 今日も晴れ

 下がらない。
 しかも、なんだかやつれて来てるような気がする。
 
 どうしようかと思い、頭を廻らしていると、テレビでウナギが特集されていた。

 よし、今日はウナギを食べさせてみよう。
 スーパーに行くと、真っ直ぐウナギのお弁当を購入。
 若干高いけど、早くユウナに元気になってもらわないと。
 そろそろ洗濯物を片づけてもらいたい。

 せっかくスーパーまで来たのだからとアイスコーナーに寄った。
 そこで赤毛の三つ編みを二つほどぶら下げた女の子に出会った。
 その子はじぃとアイスを見つめていて、今にも泣き出しそうな顔をしていたので話しかけると、ぶっきらぼうに「なんでもねーです」と言われてしまった。
 そんなこと言われたらどうしようもない。
 私は女の子が見つめていた最後のスイカ味のアイスバーを手に取る。
 女の子は「あっ」と声を出して目をうるうるさせていたが、気にしなかった。
 話してくれないキミが悪いのだよ、ワトソン君。

 レジで会計を済ませ、休憩所でアイスを食べていると、さっきの女の子が車イスの女の子と金髪の優しそうなお姉さんに慰められながら帰っていくのを見てしまった。
 不服そうに涙を流しながらバニラアイスを食べていた。
 ………そんなに食べたかったのかな? スイカのアイスバー。

 
 ○月×日 明日もたぶん晴れ

 ウナギを食べたおかげで少し熱が下がったようだ。
 それともあーんをしてあげたのが良かったのかな?
 嫌がるユウナに無理やりしてあげて良かった。

 スーパーに行くと、あの子がいた。
 また、じぃとアイスバーを眺めていた。
 今日もお姉さんたちと一緒なのかと訊くと、一瞬ポカーンとした後で「今日は一人だ」と睨まれた。
 私はそっかと言って、残っているアイスバーを二本手に取り、女の子の手を握って歩き出した。
 女の子は突然の事に焦って色々怒鳴っていたけど、無視して会計を済ませた。
 休憩所に引っ張って行き、手を離すと何をするんだと怒鳴られたけど、アイスバーを一本突き出した。
 訝しむ彼女に「アイスを愛する人間に悪い人はいないっ!!!」と告げると、雷に打たれたような驚愕の表情で受け取ってくれた。
 
 心の中で昨日はごめんと謝って去ろうとしたら、「その、ねぇちゃん………ありがと」と顔を真っ赤にして言ってくれた。
 私は手を振ってその場を後にした。
 けど、スーパーを出る時に自動ドアに映った自分の姿を見て、そう言えば私、大人バージョンだったと気付き、一連の行動が怪しい人だったことに思い当たった。
 ………まぁ、おじさんじゃないだけマシかな?

 
 そう言えば、今日の帰りに変な人に会った。
 ピンクの髪の女性だったのだけれど、何故かうちの住所を書いた紙を手に持ち、「ここに住んでいる銀ノ森夕那という人物に会いたいのだが、道を教えてもらえないだろう

か?」と言われたので遠見市の方に誘導して上げた。

 きっと、この人がユウナにひどいことをしたんだ。
 女の勘が告げていた。 
 男の人にひどいことをされたと思っていたけど、まさか女の人だったとは。
 ストーカーかな? 恐いなぁ。
 私はその女性を見送ってから、彼女が尾行している可能性を考えて遠回りして帰った。


 ○月×日 雨

 熱が下がった。
 ユウナは元気いっぱいとは言い難いけど、頑張って家事をしてくれている。

 やっぱりユウナは働いてる姿が一番だね。
 言葉にして伝えたら怒られた。

 お昼過ぎにチャイムが鳴った。
 誰か来たのかな?
 ユウナに出てもらおうと思ったら、食事の準備で手が離せなかったので仕方なく出ると、昨日のピンクの髪の女性だった。
 私の顔を見るや、「貴様はきの――」と顔をしかめて口を開いたが、彼女が言い終わる前に扉を閉めた。
 外から怒鳴り声が聞こえたが鍵をかけて無視した。
 ユウナには訪問販売だったと教えたけど、結構うるさかったので警察にストーカーが来て困ってますと通報してみた。


 ○月×日 快晴

 そろそろ夏が終わりそう。
 今日はユウナがお仕事の日。
 私は顔を青くして道場に向かうユウナの腕に自分の腕を絡めて歩く。
 これでストーカーが諦めてくれれば良いけど、テレビ番組では悪化する可能性があると言っていたので気を抜けない。

 道場につくとピンクのストーカーがいた。

 そうかっ!!!
 同じ職場に就職してユウナにひどいことをするつもりなのかっ!!!

 だけど、私がいる限りそんなことさせないっ!!!
 今日から四六時中ユウナに張り付いて護って見せるっ!!!

 そんなことを眼力(あるかわからないけど)で伝えてみた。

 帰宅してもユウナが戻さなかったので効果有りかな?
 継続してみようと思う。



 ◆◆◆


「ふぅ………」

 私は『ユウナ観察日記』からただの日記になってしまったノートを閉じる。
 壁掛け時計に目をやると、十二時になりかかっていた。

 ………どうりで眠い訳だ。

 伸びをしてイスから立ち上がり、あまり音を立てないようにベッドに向かう。
 ユウナはまた奇妙な体勢で寝入っている。

 クスッとつい笑ってしまった。
 
 ユウナは妙なところでおバカだ。
 
 そっとベッドに入って寝顔を見るも、スー、スーと可愛らしく寝入っていた。
 女の子みたいな顔して。本当に初めて会った時は騙されたよ。
 
 あの時と違い、埃で汚れてない頬をつつく。

「ぅ、ん、ふぇい、と………」

 頬を刺激されたせいか、寝言を呟いたユウナ。
 
「しょ、しょうみきげんは、まもろう………」

 ………うん、ユウナらしい寝言だ。

「そんなおバカなユウナを護らなきゃいけない私は、絆パワーを補給させてもらいます」

 明日もがんばろう。


 Side out


・あとがき

 どうも夕凪です。
 夏休みになったら時間できるんだろうなと試験前に思ってたのにこのざまな夕凪です。
 ごめんなさい。
 
 本当は日記じゃなくて普通の形式でやろうと思ってたのですが、最初のあたりが時系列的に無理だったのでこうなりました。
 ユウナ君視点が出て来ない今日この頃です。

 感想・ご指摘・アドバイス、それが試験に打ち勝つ力になります(半分くらい本当です)。


・アリサ部屋

「はい、一週間ほど振りのアリサ・バニングスよ。
 えぇ、見ての通り今回は仕事がほとんどないわ。
 
 もしかして、そのうち仕事なくなっちゃうんじゃないかしら?
 ………出番が、減っちゃう。

 うぅ、仕事よっ!!!

 バタフライエフェクトさん
『大丈夫です。オリキャラはこれ以上でません。
 ただ、オリキャラ化してるキャラがいますが……。
 なのはとかフェイトとか……』

 施設のアドバイスありがとう。
 しっかり反映させてもらったわ」

・舞台袖

「はやて、アイスは世界を救うんだよ」

「は? ヴィータ、何言うとるん?」

「だから、アイスを食おーぜはやて」

「ちょっ、ヴィータっ、無理やり食べさせようとむぐ―――」

「アイスはきっと、はやての足も治してくれる」

「んく―――って、そんなんで治ったらお医者さんは廃業やっ!!!」

「でも、アイスは―――」

「……ツッコミのキレが足らん。私もそろそろ終わりやなぁ」

「はーやーてー」
 
 
 
 
 
「ちがっ、私は『すとーかー』などではないっ!!!
 ただ、ここに住んでいる者に用があるだけでっ!!!

 お、おい、家に連絡だとっ?!!
 頼むやめてくれっ!!!

 それだけは止めてくれっ!!!
 
 わかった、今日はもう帰るから、頼むっ!!!」
 
 
 
 
「………計画通り」

「フェイト、ドアから外なんか覗いてどうしたんだ?」

「なんでもないよ、ユウナ♪
 さ、お昼ご飯でも食べよう」
 
 
 
 

 

 



[18634] 挿入話 トート(As開始)
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/09/01 13:15

 カツ、カツ、と広い通路に二人分の足音が反響する。

 大理石を思わせるもので造られた通路。
 ある程度の間隔を置いて天井を支える柱。
 光源がどこにあるのかわからないけれど、窓のない閉塞的な空間なのに明るい。

 ボクは前を歩く騎士に従い通路を歩く。
 伯父さまに仕える騎士はボクを迎えに来た時からずっと口をへの字に曲げて必要のある場合を除いて会話をしてくれなかった。

 それとなんでかわからないけど、ボクを見る時の目がとても険しい。
 まるで睨んでいるみたいだ。
 
 
 
 
 お父さまが亡くなったことを聞いてからどれくらい経ったんだろう?
 
 
 
 
 五つをもう少しで迎えるボクは、戦争がそれまでに終わりそうだと言うお父さまの帰りをお屋敷で待っていた。
 ボクの五つの誕生日。
 その時にきっと、最近直接会っていないお父さまと会えると思ってとても楽しみにしていたんだ。
 
 何をして過ごそう。
 やっぱり、一緒のベッドで寝てもらおうかな?
 男の子だから甘えるなって怒られるかもしれないけど、誕生日くらい許してくれるかな?
 それとも、本を読んでもらおうかな?
 昔の聖王様たちのお話は全然飽きないし。
 あ、でも、お母さまの話も良いかもしれない。
 いつも『大きくなったら』って言っていたし、そろそろ話してくれるかな?
 
 
 そんな風に日々を過ごしていたんだ。

 でもある日、伯父さまの遣いだと言う人がお屋敷にやって来た。
 その人は、お父さまは国の勝利のために戦って、体の一部も残すことなく亡くなってしまったと伝えてきた。

 ボクは実感の湧かない父の死に首を傾げた。

 よくわからないうちに、伯父さまが敵国を倒したことを国民の人たちに宣言して、お父さまのお葬式もやってくれた。
 厳かなって言うのかな。
 葬式は国を挙げて行われ、みんなが黒い服を着て道の両脇を歩いていく。
 道の真ん中を誰も入ってはいない棺が何人かの騎士によって運ばれていく。
 ボクはそのお葬式に行っちゃダメだと言われていたからモニターでしか見れなかったけど、たぶん、この時お父さまがいなくなっちゃったんだと心に刻まされたんだと思う。

 それから、泣いた。
 たくさん泣いた。
 寂しくて、寂しくて。
 お父さまの温もりが欲しくて、お父さまの寝室のベッドで体を丸くして眠った。
 
  
 それから何日かして、お父さまの死を伝えに来た人とは違う人、この騎士がお屋敷にやってきた。
 彼は伯父さまがボクを呼んでいることを告げて『ゆりかご』にボクを連れていくと言い放った。
 赤くなった目を擦りながら、ボクは文句も言えずにただ彼に着いて行く。
 お父さまが亡くなった今、お母さまもいないボクが頼れるのは伯父さましかいない。
 悲しいけど、泣くのを我慢した。 

 
 
 
 
 カツン、と音を響かせ騎士は扉の前で立ち止まる。
 ボクもそれに合わせて足を止めた。
 彼はこちらに体を向けずに険しい目でボクを見据え、口を開く。


「………ユウナ・ゼーゲブレヒト、この扉の向こうに陛下はおられる。
 決して陛下の御前で粗相のないように」

「は、はい!」

 ボクは若干緊張しながら返事をするも、彼は舌打ちをしてから扉を開いた。
 
 
 ―――穢れた月の民が。
 
 
 騎士が呟いた言葉。
 この時、ボクはこの言葉の意味を理解していなかったんだ。
 
 
 



[18634] 第三十話 ダンボール
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:755ff025
Date: 2010/09/01 13:16



 ユウナです。
 シグナム・フォン・ルクセンブルクらしき人物に遭遇しました。
 
 ユウナです。
 トラウマのせいで嘔吐しました。

 ユウナです。
 熱を出して寝込みました。

 ユウナです。
 フェイトのイジメ、もとい看病がひどかったです。

 ユウナです。
 それでも、剣道の仕事を止めさせてくれないフェイトです。

 ユウナです。
 フェイトがべたべたくっ付いて来て暑いです。

 ユウナです。
 十月になりましたが、まだフェイトが離してくれません。暑いです。

 ユウナです。
 シグナムがストーカーらしいです。

 ユウナです………。


 ◆◆◆


「夏が終わったっていうのに………」

「そうだね、暑いよね………」

 暑さはまだ遠のかない。


 スーパーからの帰り道。
 気温は一年のピークを過ぎ、段々と過ごしやすい温度まで下がって来た。
 しかし、フェイトに六月辺り、特にシグナムと出会った頃から腕を無理やり組まされるようになったため、とても暑い。
 それでもこの腕を振りほどかない理由は、もちろんシグナム対策だ。

 あいつのことは思い出したくもない。
 だけれど、この海鳴で生きていく以上、避けられない人物でもある。
 だから、フェイト曰くのこの作戦で行くしかない。
 とりあえず、現在までの成績は悪くない。
 よくわからないが、フェイトがいると避けてくれるようなのでオレとしては願ってもないことだ。

 ありがとう、フェイト。
 キミのおかげで平穏は保たれている。

 と、言っても仕事場ではそうは問屋が卸さない。
 あいつは積極的に話しかけてくる。
 『私について語ってくれ』とか、『私をどう思う』とか、気味の悪いことを言ってくる。
 なんだ? オレはお前の耳元で愛を囁けとでも言うのか?

 フェイトに相談してみたら、『そいつはストーカーだよ、ユウナ。関わっちゃダメだからね?』と回答された。
 ストーカーってなんだろうな?


「ねぇ、ユウナ。
 あそこでアイスを食べてから帰ろう?」

 フェイトは帰宅ルートにある公園の中のベンチへと引っ張っていく。
 あの、フェイト? 決定事項なら訊く意味ないと思うぞ?

「………フェイトに言うだけ無駄だよなぁ」

「? ユウナ?」

「なんでもない」

 溜息をついてベンチに座る。
 フェイトはすぐにレジ袋からアイスバーを取り出しオレに一本渡し、自分の分も取り出し食べ始めた。
 袋を破り、出てきた淡い水色のアイス。
 口に含むとソーダの味が冷たさと一緒に広がっていく。

「暑い時はやっぱりアイスだな」

 日本に来て、だいぶこちらの文化に染まってきた気がする。
 公園の噴水に目を遣れば、学校が終わった子供たちがその周囲で遊んでいる。
 
「本当、平和だな、フェイト」

「そうだね、あむ」

 ベンチの周囲は木陰になるように調整されているのか、日差しも直接当たらず、心地良い風が吹き抜ける。
 そうだ、今度山にでも行こう。
 きっと涼しいに違いない。  


「なぁ、フェイト、今度さ山にでも―――って、食べるの早っ?!!」

 フェイトに声をかけると、棒の本数から考えて三本と半分。
 買って来ていたのは六本入りのボックスタイプ。
 それをすでに半分以上平らげていた。

「? そうかな?
 普通だと思うよ?」

 首を傾げるフェイト。
 とても美味しそうに食べるのはいいけど、お腹壊すぞ?

「あっ、最後の一本ももらうね」

 返事も聞かずにその食いかけを口の中へ消し去り、箱からラスト一本のバーを取り出し、食べ始める。
 
「最後の一本だから、じっくり食べよう」

「もう好きにしてくれ」

 オレは項垂れて地面を見る。

 やぁ、蟻さん達。
 キミたちは本当に働き者ですね。 
 腕を組んでくる誰かさんとは大違いですね。
 
 誰か、愚痴に付き合ってくれる人、いないかな。

 
 
「ああああああああああああああっ!!!!
 お前はあの時のっ!!!!」

 と、公園に子供の声が響き渡る。
 なんだと頭を上げれば、赤い髪のおさげの少女がフェイトを指さして叫んでいる。

「フェイトの知り合いか?」

「え? ユウナじゃないの?」

 フェイトに尋ねると知らないようだ。
 だが、少女は目をキラキラさせ、ダッシュで近寄ってくる。
 いや、知り合いっぽいぞ?

 少女はフェイトの目の前につくとフェイトの手を取って、

「名前もシラネ―姉ちゃんっ!!!
 あの時の言葉っ、あたしは忘れてなーからなっ!!!
 アイスは世界を救ってあたしは信じてっからなっ!!!」

 ………スケールのでかいことを言い放った。

「えーと、食べかけだけど、これ、食べる?」

 さすがのフェイトも引き気味だった。
 だからってそれを渡すか?

「あぁ、食べるっ!!!」

「………食うのかよ」

 少女はフェイトの食いかけを食べて、よくわからないうちに去っていった。

「嵐みたいな奴だったな」

「そうだね」

 その彼女の背中を見送っていると、公園の出口で車イスの少女と大きな蒼い犬(?)と遭遇したらしく、何故か車イスの少女に殴られていた。
 赤毛の少女は殴られた頬を擦り、さめざめと泣きながら謝っている。
 車イスの少女はなにやら説教をした後、こちらに頭を下げ、赤毛と犬を引き連れて公園を後にした。

「………なんだったんだ」

 今度こそ、その背中を見送った。

「とりあえず、帰ろうか」

「そうだな」

 暑いせいで、頭が痛いユウナです。


 ◆◆◆


「フェイト、オレの頭はどうかしちまったのか?」

「ユウナの頭がおかしくなったって言うなら、私もだよ」


 マンションに帰ってくると、その、部屋の中央にダンボール箱があった。
 部屋を出る時にはなかったのに、だ。

 これは、なんなんだろうな?

 しかも、ダンボールの隙間から金色の髪と黒色の髪がはみ出ているんだ。

「人食いダンボール………」

「フェイト、こいつを知ってるのか?」

 オレとフェイトはそのダンボール箱に注意しながら会話を続ける。
 ごくりとフェイトは唾を飲む。

「この間、夏恒例の番組だって言う『世にも奇妙なお話ですぜ』の中で語られていた話に出てきたんだ。
 ユウナはお風呂に入ってたから見逃したストーリーだよ」

 フェイトは恐る恐るダンボールをモップでつつく。
 オレは手に汗を握りながら、とりあえず夕飯の材料をテーブルに置いてエアコン起動。
 十月でも閉め切った部屋は暑いんだ。

 フェイトは額の汗を拭いながら、テーブルにつき、話の続きをする。

「人食いダンボール。
 
 この話をする前に、ユウナはあるスパイの潜入方法を知ってる?」

「あるスパイ?」

 オレもフェイトの横の席につき、髪がはみ出たダンボールを眺める。

「そう、スパイ。
 そのスパイは結構有名な作品に出てくるスパイ。
 彼は、潜入する時にね、ダンボールを用いて忍び込むんだ。

 それでね、その時期にスパイブームが起こって子供たちもそれをマネして遊ぶようになったんだ」

「子供ってのはそうゆう所があるからな」

「うん、だから大人たちもまた遊んでるなぁって思うくらい広まってたんだ。
 それで、ある田舎の小学校のイベントでおにごっこ大会が毎年行われてたんだけど、その年はスパイブームに乗って少しルールを変えたおにごっこが行われたんだ。

 まぁ、言ってしまえばスパイごっこみたいなものかな。
 肝試しの要素もまぜて、薄暗くなった校舎で行われるおにごっこ。

 まず、企業側という名の鬼チーム。
 このチームはスパイチームを捕まえるチームだね。
 ただし、勝利条件はスパイを全て捕まえるんじゃなくて、ターゲットの資料を半分以上守り切りそれを持って逃げられないこと。

 そして、スパイチーム。
 こちらは制限時間内に半分以上のターゲットを奪取して、指定された場所に帰還することが勝利条件。

 ただし、ターゲットがなにであるかを知っているのはスパイだけ。
 鬼はそれを知らないから、スパイを捕えて情報を得るしかない。

 スパイはターゲット一つにつき何名かが割り振られてて、ターゲットの名前が書き込まれている紙を持っているんだ。
 それが情報。

 ルールとしては、暴力行為禁止とかがあるけど、そこは常識。

 かくして、おにごっこという名のスパイごっこは始まったんだ」

 フェイトは少し落ち着くために席を立ち、冷蔵庫からリンゴジュースを持って来て自分とオレのコップに注ぎ、一気に呷る。
 オレもコップに口を付け、フェイトは口をまた開いた。

「ふぅ。
 この学校の児童の数はそんなに多くない。だいたい上から下までで五十人くらい。
 それで、五分の一が鬼となる。
 校舎は団塊の世代の頃に作られたもので、児童五十人に対して大きいものだった。

 この話の主役として現れたAちゃんはスパイチームとしてこれに参加した。
 Aちゃんはこの広い校舎をなんとか利用して逃げ切ってみせると決意したんだ。
 Aちゃんの帰還場所は体育館裏の駐車場、チョークで描かれた○の中。
 ターゲットは最上階である四階の端、家庭科室にある『光る玩具の石』。
 家庭科室は体育館とは真逆の位置にあるため、結構大変。
 そこで同じターゲットを狙う同士四人に作戦を伝達しました。

 内容はこう。

 あからさまなダンボール作戦でした。
 三人がそれで敵の注意を惹きつけている間にAちゃんともうひとりがターゲットを奪いに行くでした」

「囮作戦か」

「そう。
 ちなみに、その三人はダンボールを廊下にばら撒いたりして、ダミーも作りました。
 他のチームにも有利に働くようにと。

 作戦は開始されました。
 けど、速攻で一人捕まってしまったので、残りのメンバ―で家庭科室までダッシュしました」

「………作戦の意味ないな」

「Aちゃんは双子の妹のFちゃんと他のメンバーを捨て駒にして走り続けます。
 ちなみに、鬼チームは高学年から選抜されるので体力差がありました」

「だから、鬼チームの人数が少ないのか」

「AちゃんとFちゃんは走ります。
 スパイ用にと先生方が用意したダンボールタワーをAちゃんは鞭を使って崩し、Fちゃんはスタンガンを使って鬼たちの足どめをします」

「………今、おかしな描写がなかったか?」

「そして、家庭科室に辿り着いた二人は無事、青く光る石を手に入れ、帰還ポイント目指し始めます」

「暴力禁止じゃなかったのか?」

「………ユウナ、うるさい、真面目に聞いて」

「オレが悪いのかっ?!」

「こほん。
 とりあえず、今来た道には死屍累々とした鬼や仲間がいます。
 そして、崩されたダンボールタワーのなれの果て。
 二人はこれを利用してダンボール作戦を決行しました。

 Aちゃんを先頭に廊下を進み、中央階段では一段一段注意して下りて行きます。
 鞭をロープ代わりにダンボールとダンボールを繋ぎ、離れ離れにならないようにします。
 途中で、Fちゃんが転げ落ちて、ちょっと頭を悪くします」

「表現あってるのか?」

「なんとか一階に辿り着けた二人は、さらに慎重に進みます。
 何故か鬼の気配はなかったのでさくさく進めました」

「四階で全員ヤったんじゃないのか?」

「スタート時のダンボールたちが役立ち、体育館が見えてきます。
 もうすぐだよ、とFちゃんに声をかけるも、Fちゃんは慎重派なため返事を返してくれませんでした。

 そして、Aちゃんは帰還ポイントに到着しました。
 任務達成、Aちゃんは大喜びです。
 しかし、Fちゃんはなかなかダンボールから出て来てくれません。
 お姉ちゃんと喜びを分かちあうのが恥ずかしいのかな? とAちゃんは思いました。

 でも、いくら呼びかけてもFちゃんは出てきません。

 心優しいお姉ちゃんを自称するAちゃんでも堪忍袋の緒が切れました」

「それで………」

「うん、AちゃんはFちゃんが入っているであろうダンボールを怒りにまかせて放り投げます。
 鞭がついていたのですが、それも外さずに、です。

 しかし、おかしいのです。
 Fちゃんが入っているにしてはダンボールが軽かったのです。

 Aちゃんは不思議に思い、放り投げたダンボールに駆け寄り蓋の開いたダンボールを覗きこみます」

 フェイトはリンゴジュースを注ぎ足して口を潤す。
 コトっとコップは音を立ててテーブルに置かれた。

「そ、それで………中身は」

「中には………誰もいませんでした。

 Aちゃんは固まってしまいました。
 暗い夜の帳、虫たちの音色がぴたりと止みます。
 Aちゃんは何故Fちゃんがいないのか、さっきまで一緒にいた妹はどこにいったと錯乱し始めます。
 小学生の低学年のAちゃんには酷なことでしょう。

 Aちゃんは周りを見渡しますが、Fちゃんは見つかりません。
 鞭で繋がれていたダンボールしか手がかりはなかったのです。

 Aちゃんは意を決してダンボールを覗きこみます。
 何か妹の手がかりはないか。
 暗くて良く見えないので手を入れてみます。
 すると、何かを掴みました。

 Aちゃんはゆっくりそれを外に出します。
 それは、
 
 
 
 
 血に濡れた、Fちゃん自慢の金色の髪でした」

「それが、」

「うん、人食いダンボール」

 フェイトは真剣な眼差しでダンボールを見つめる。
 オレもつられてそちらを見る。

 ダンボールの隙間からは金髪と黒い髪がもこっと出ている。

「つまり、このダンボールはFちゃんと黒い髪の誰かまで食べて、ここに来たんだよ。
 次の獲物はお前たちだ、ってね」

「なるほど。
 だが、オレたちはスパイごっこなんてしない」

「そう、私たちはそんなことしない。
 つまり、」


「「オレ(私)たちの勝ちだっ!!!」」


 そう、ダンボールに宣言ずると、ゴトっと身ぶるいした。

「う、動いた?」

「ダメだよ、ユウナっ!!!
 あいつにはまだ秘策があるみたいだよっ!!!
 注意してっ!!!」

 オレたちはデバイスを展開してダンボールに向ける。
 さっきの話ではこのダンボールの正確な攻撃方法がわからない。
 嫌な汗が噴き出る中、ダンボールは一際大きく動き、
 
 
 
 
「うるさいよぉ」
 
 
 
 
「「は?」」


 中から、所々黒い髪をした小さなフェイトが目を擦りながら現れた。

「「「………」」」

 目が合うも、三人とも動けずじまい。
 一体何が起きているんですか?


・あとがき

 一言。
 なんか、暴走しました。
 まだ、A's始まってないから、いいよね?
 あ、ダメですか。

 感想・ご指摘・アドバイス、お待ちしております。
 早く冬が来ますように。
 暑いの嫌です。
 
 
・あとがき2

 諸事情によりA's始まりました。
 
 2010.09.01 

 
・アリサ部屋

「暑いわね、が挨拶になりそうなアリサ・バニングスよ。
 早く涼しくなればいいのにね。

 感想の返信よ。

 パウルさん
『一応復活と行きたいです』
 それはひどいわよ………私だって、私だって。

 バタフライエフェクトさん
『小説だとないんですかっ?!
 えーと、このSSでは海鳴の近隣の街ということで通します』
 なるふどね、アドバイスありがとう。

 midoさん
『ありがとうございます。
 ただ、なのはさんはもうすぐ強制送還される時期になりますので………』
 なのは、帰ってきたら更生させてもらうわよ。

 囲い火蜂さん
『ちょっと、見えるかも』
 ゼスト隊の人たちにご武運を。

 露出卿さん
『A's前だったので、ついなのは寄りに………。
 ここから盛り返して行ければと』
 原作主人公は手強いのよ」
 
 
 
・舞台袖


「ヴィータ、知らない人にほいほいついて行ったらダメ言うたよな?」

「ご、ごめん、はやて」

「それに、他人様の物をねだるなんて………。
 私の教育方針がまちごうてたんかな」

「こ、今度ははやての分のアイスも買ってくるから許して、はやて………」

「はぁ………。
(最近、体が痛くて痛くて辛いのに。
 死ぬ前に真人間に育て直せるんやろか)」
 
 
 
 
 
「ふと思ったんだけどさ、階段のあたりでFちゃんがダンボールから脱出してたんじゃないか?
 血とか髪は転んだ時のとか」

「その可能性もあるかも」

「ってか、それだろ」
 
 
 
 
 
「???」
 
 
 
 
    



[18634] 第三十一話 ラストウィル
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/09/01 13:16


 ダンボールから現れた謎の女の子。
 オレとフェイトは彼女にデバイスを突きつけた状態で固まってしまった。

 彼女はフリルがたくさんついた真っ白な服を着て、ポカンと口をあけて見上げてくる。
 瞳は紅。
 金髪をベースに黒のメッシュ、黒い線となって彼女の印象を強烈なものとする。 
 顔立ちがフェイトに似ている、というか、そのままだ。


「「「………」」」 

 ………動けない。

 フェイトと彼女は同じ顔同士でフリーズしている。
 オレも若干困惑している。

 なんで、この子、ここにいるの?

 帰宅時にも考えたが、ここはオレとフェイトのマンションのリビング。
 ミセス作の特殊な結界内で、登録したリンカ―コア以外の人間が入れる場所ではない。
 そもそも、なぜダンボールに入っていたんだ?

 謎が深まるばかり。

 動こうにもデバイスを出してしまっているため、変に話しかけて警戒されるのも嫌だし行動停止。

 
 だから、三竦み(正確には違うけど)状態を崩したのはオレたち三人のうちの誰でもなく、

 
 
 ザ………
 ザザ………ザ……… 
 
 
 

『―――久しぶりになるのかしらね、フェイト。
 これをあなたが見ているということは、アリシアは無事だったみたいね』

「………母さん?」

「………ママ?」

 
 突如現れた立体映像―――プレシア・テスタロッサだった。


 ◆◆◆


 Side フェイト

 私そっくりの女の子が現れて呆けていると、目の前に母さんが急に現れた。
 
「………母さん?」

 所々欠けていたりするところを見ると、立体映像みたいだ。
 停止した思考が少し動き始めた。

『元気に暮らしているのかしら?
 私は見ての通り、もう持たないみたい』

 白衣を着た母さんは化粧をしていない顔で弱弱しく微笑んだ。
 よく見れば、唇の端から血が垂れている。
 袖の辺りにも血を拭った跡もある。

 私は、そっか、と口の中で呟いた。

 時の庭園で別れた時に覚悟していた。
 もう母さんとは会えないと薄々感じていた。

 だから不思議と心は落ち着いていた。

 悲しくないかと言えば、もちろん悲しい。
 でも母さんがもうダメだって事実はストンと胸の内に収まってしまう。

 私は取り乱さずに、記録映像へ微笑み返す。


『フェイトには、その、寂しい想いをさせていくら謝っても足りないのことはわかっているわ。
 生きてあなたのもとに帰れたら、あなたとアリシアと一緒に暮らしていきたかった。
 あなたの料理をまた食べたかった。
 今までの分も一緒にいたかったわ。

 でも、ごめんなさい。
 母さんは帰れないみたい』

「謝らなくて良いよ、母さん。
 仕方がなかったんだから」


 母さんは映像に新しく現れたイスにトスンと座り込んでしまう。
 立っているのも辛いのだろう、額に汗が浮かんでいる。

 母さんはアリシアお姉ちゃんを生き返らせるために頑張ってたんだから。
 私も大切な人のためだったらそれくらい必死になる。
 だから、昔のことはいいよ。

 生きて帰れないのも………寂しいけど、我慢するよ。


『アルハザードには私の病気を治せると思われるものもあったけれど、時間がなかったの。
 アリシアを生き返らせる方法を見つけ、完成させるので精一杯だったわ』


 それもそうだ。
 母さんの願いは姉さんだ。
 そちらを優先させるのもわかるよ。


『それに、治ったとしても結果は変わらなかったの。
 私がなんとか見つけられた成功確率の高い蘇生法には生きている人間のリンカ―コアが必要だったから。

 ―――アリシアの体に、私のリンカ―コアが移植しなくてはいけなかったから』


 母さんは自分の胸に手をあてて目を瞑る。
 

『だから、アリシアの中に私が生きている、なんて考えてもいいかもしれないわ』


 クスッと母さんは笑う。
 優しく笑う。

 ユウナも女の子も何も言わない。
 母さんの言葉は誰にも邪魔されることなく、続く。


『この蘇生法は機械任せにできるからちゃんと実行に移せるの。
 蘇生が成功してある程度安定したら、フェイトが使うと予想される結界内に転移させるよう設定しておいたから、たぶんあなたのもとにアリシアは辿り着けるわ。
 勝手なことだけれど、アリシアをお願いね、フェイト』

「うん、お姉ちゃんのことは任せて」


 頬を温かい雫が流れる。
 でも、しっかり笑顔でいられる。

 いつの間にか近づいて来ていた女の子、アリシアが私の服の裾を掴んでエグエグと泣きながら母さんを見つめる。


『たぶん、蘇生が成功してもリンカ―コアが完全に定着するのには時間がかかると思うから、魔法が使えるようになったからって魔力を使いきるまで使わせたりしないこと。
 ヘタしたら死んでしまうから注意してちょうだい。
 副作用もなにが起こるか把握しきってはいないから、気をつけるのよ』

 
 ザ………
 ザザ………

「母さん………」

「ママ………」

 映像にノイズが走りだす。

『………言わなくちゃいけないことは、言い尽くしたかしら?
 アルハザード技術はすごいわね。
 容量は取るけど、立体映像の形で保存できるみたいだし』
 
 
 ゆっくり瞼を上げる。
 そして、こちらを視線を向ける。
 
 母さんも、目元から涙を流しながら、笑っている。
 ぐしゃぐしゃになった、泣き笑顔。

 
『フェイト、アリシア、二人とも愛してるわっ!
 幸せになりなさいっ!』


 その言葉を最後に映像は途切れた。 

 湿っぽい雰囲気になってしまったけど、私の胸の中は温かい気持ちで満たされている。


「アリシア、お姉ちゃん」

「ママ………えぐ」

 私は涙を流すお姉ちゃんを胸に掻き抱く。

「私、お姉ちゃんをしっかり護るから。
 母さんの分も頑張るから」

 優しく、安心させるように話しかける。
 
「えぐ………」

 見上げてくるお姉ちゃん。
 母さんとちょっと違うぐしゃぐしゃの泣き顔。

「だから、今はすっきりするまで一緒に泣こう」


 その言葉を皮切りに、二人して堰を切った様に大声をあげて泣き出す。

 母さんにもう会えない。
 もう、一緒に食事も取れない。
 ホントは離れ離れになんてなりたくなかったよ。
 ついて行って母さんとぎりぎりまで一緒にいれば良かったと思っちゃうくらい悲しいよ。

 ユウナも私の後ろで声を殺して泣いている気配がする。

 母さん。
 私、この二人と一緒に幸せに生きるから。
 だから、見守ってて。
 母さんが望んだ幸せを掴み続けて見せるから。


 Side out


 ◆◆◆


 不覚にも泣いてしまった。
 ちょっと気恥ずかしい。

「えーと、お姉ちゃん、私がお姉ちゃんの妹のフェイトだよ」

「………フェイトお姉ちゃんがわたしの妹なの?」

 オレが夕食の準備をする後ろでは、泣きやんだ二人が自己紹介を始めていた。
 アリシアの声には当惑の色が見てとれる。

 それはそうだろう。
 自分より年上の妹なんだから。

「お姉ちゃん、気にしちゃ負けだよ」

 フェイトがいつもの調子を取り戻し始め、力強く言った。
 アリシアはそれに飲まれ、「そうなんだぁ」と納得したようだ。
 さすがフェイトの姉。
 というよりも、幼いせいだろうか。

「それで、あの首輪をつけた人が」

「銀髪のお姉ちゃんが?」

 ………オレ、男だからな。
 普段、女になってるけど、男だからなっ!!!

 怒鳴らないために一心不乱に料理する。
 ニンジンやジャガイモの皮を剥く。

「あの人はね、私の大切な人でね、絆パワーを生成できるんだ」

「? なんかよくわからないけど、一緒に暮らしてるってこと?」

「そう、つまり私たちは家族なんだ」

 話が微妙に噛み合わないフェイト。
 さすがフェイト。
 ぶっ飛んでるよ。

 ちらっと様子を窺うと、アリシアは唇に指をあてて頭の中で整理しているようだ。
 フェイトはいつの間にかアリシアを膝の上に座らせて打ち解けようと話しかけている。
  
 まぁ、仲良くするのは構わないだけどさ。
 フェイトさん、そう言えば料理、練習するってミセスと別れる時に約束してたけど、キミが練習してるところを見たことがないんだ。
 もしかして、その、子守りまでオレに投げないよな?
 ミセスと約束したことを全てオレ任せにしないよな?


 ………ジャガイモを多めに剥いてしまったから、ポテトカレーにでもして構わないよな?
 
 
 結果、アリシアに好評でした。
 もともと二人分の二食分、つまり四人前作ったのだけれど、まさか二人分食べるとは。
 
 食後はさっさとお風呂に入り、ベッドに入った。
 二人は泣き疲れたこともあり、すぐに寝入ったようだった。

 フェイトの腕に抱かれて眠るアリシア。

 そのアリシア。
 髪の黒い部分がちょうど触覚に見えてしまうんだ。
 アリシア、ごめん。
 笑いそうになる。
 

 ◆◆◆

 Side フェイト

 ○月×日 晴れ

 今日、ダンボールからアリシアお姉ちゃんが現れた。
 ………うん、おかしいよね。
 書いてる私も意味分からないと呟きそうになる。
 でも、実際に現れたんだから仕方がない。

 お姉ちゃんが入っていたダンボールの中には母さんが入れてくれたデバイスが二つあり、一つは私のバルディッシュと似た白いプレート型、もう一つが紫色の水晶型だった。
 そのうち水晶型のデバイスが立体映像だけど母さんと会わせてくれた。
 母さんは………やっぱり帰って来れなかったみたい。
 でも、お姉ちゃんがいるし、私なんとか幸せになるよ。

 手始めに、ユウナの仕事量を増やさなきゃ。
 養うって大変なんだよ?
 頑張って食い扶持を稼いでね。

 母さんの財産はできるだけ貯金。
 ユウナの持ってた財産はマンションの部屋を買うのにほとんど使ったから、これから必要なものも出てくるんだからなんとかしてね?

 とりあえず、アリシアの教育もお願いするからね、ユウナ。


 Side out



  
・あとがき

 キリが良いので短いですがこうしました。

 A'sは始まりました。
 三十話投稿後に決めたので挿入話入れましたが……。

 感想・ご指摘・アドバイス、来週から追試が始まるので、九月十三日までさよならです。 


・アリサ部屋
「熱帯夜……もう、いや……。

 夏バテ中の、アリサ・バニングスよ……。

 う、うなぎでも、食べようかし、ら……。

 感想の、返信、よ………。

 ヨシヲさん
『ユーノの存在をまた忘れてた……』
 赤毛の子が喜んでその世界に行くわね。

 アズマさん
『外れているようで惜しいような』
 というか、パターンは限られてくるからね。

 maigoさん
『完璧に犯罪者扱いされてそう』
 奥様方の話のタネになりそうね。

 バタフライエフェクトさん
『ユニゾンデバイス……その手がありましたね』
 夏番組と姉のイメージが反応を起こしたのかしら?」

 
・舞台袖


「そういえばなんでダンボールに入っていたんだ?」

「転送先に違和感なく溶け込むための機能かな?」

「ユウナお姉ちゃんっ!!! カレー、おかわりっ!!!」

「だから、オレは男だって………」

「は~や~く~」

「………はぁ、もうどうでもいいや」
 
  
 
 
 
 
    



[18634] 第三十二話 ジョーンズ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/09/21 08:33


 アリシアがやって来て、三日が経った。

「ユウナがそんな人だとは思わなかった」

「フェイトがそんなに頑固だとは思わなかった」

「………?」
 
 
 
 初日に泣いて表面上はすっきりさせていたように見えたアリシアだったが、やはり心の底では母を亡くしたことに泣いていた。
 夜、思い出したように泣きだすこともあれば、食事している時にじわりと瞳を潤ませることもあった。

 そんなアリシアを慰めようと右往左往するオレとフェイトだったが、最後にはフェイトまでもらい泣き。

 途方に暮れたオレはアリシアに気を紛らわす何かを見つけてもらおうとフェイトに提案し、それは良いと肯定されたのだが、


「アリシアに魔法を教えるなんて何を考えてるの?」


 リビングのテーブルを挟んで睨みあうオレとフェイト。
 アリシアはオレの隣でポカーンと口をあけてフェイトを見つめている。

 オレがしようとしたことは魔法を教えること。
 アリシアに訊いてみれば、使えるようになったんだから使ってみたいと笑顔で返された。
 だからこれは結構いい案だと思われたのだが、まさかのフェイトからの反対意見。

「アリシアは魔法を使うと死んじゃうかもしれないんだ。
 それなのに、魔法を使わせるなんて考えられないよ」

 フェイトは目を吊り上げてこちらを見据える。
 彼女の言い分としてはアリシアのリンカ―コアと命の事情により、アリシアが心配で堪らないというもの。

「ミセスの情報では魔力枯渇を起こすほど使った場合だろ。
 最初はそこまでさせない。
 アリシアにはこの世界で生活するのに必要な偽装魔法をしっかり使えるようにしてもらうだけだ」

 それに対し魔力をそれほど消費せず、必要不可欠なものを覚えてもらおうというもの。
 命に関わらせるようなことなどする訳がない。
 それでもフェイトはアリシアに魔法関連には触れて欲しくないようで、

「アリシアには絶対魔法は教えないこと」

「本人は習いたいと言ってるし、アリシアの意思も尊重すべきところもあるんだぞ」

「それでも危険なことをさせないのが保護者なんだよ」

 といった具合に言い争うこと一、二時間。
 アリシアは飽きてテレビを見ている。

 こちらの決着はつきそうになく、ギスギスした雰囲気になり始めている。
 
「アリシアには学校に通ってもらって、この世界で生きて行けるように育てるんだから」

「それを言ったらフェイトだって通うべきだろ」

「………私は関係ない」

「いや、あるだろ?」

「うぅ、ユウナは私の幸せを考えてないんだ」

 ギスギス(?)した空気が漂ってるんだよ、うん。
 頬を赤くしてフェイトは、「そんなことよりアリシアだ」と会話の修正にかかる。

「アリシアの将来を考えればこうすべきなんだ。
 魔法なんてヤクザな世界に関わらせちゃダメ」

「………いつからヤクザなものになったんだよ」



 ◆◆◆


 Side アリシア

「どうせユウナは私を学校に通わせようとしてるんだっ!!!
 そしてあのストーカーと一緒にどこかに行っちゃうんだっ!!!」

「どうしてそんな話になるんだっ?!!
 オレがシグナムと一緒にいるのが嫌なの知ってるだろっ!!!」

「そんなのわからないよっ!!!
 男なんて体目当てで乗り換えるものだってドラマでも言ってたよっ!!!」

「昼ドラの見過ぎだっ!!!」

 ユウナお姉ちゃんとフェイトお姉ちゃんはずっと激しい口論を続けてる。
 正直飽きたなぁ。
 
 わたしはジュースをストローでちゅぅちゅぅと吸いながら映画を見ていたけど、二人の話し合いが終わらないからもう最後まで見ちゃったよ。
 
「ユウナにとって私はどうでもいい存在なんでしょっ?!!
 じゃなきゃそんなこと言わないよっ!!!」

「アリシアの話でどうしてフェイトの話になってるんだよっ?!!」

 はぁと溜息。
 たぶんまだまだ終わらないと思う。
 
 ソファーの上で足をバタバタさせても退屈は去らない。
 どうしよう?

「ほら話をそらすっ!!!
 ユウナのバカっ!!!
 バカバカバカっ!!!」

「そらしてるのはフェイトだよなっ?!!」

 ………外に冒険、しようかな。
 
 幸い二人は熱くなってわたしにまで気を配ってない。

 わたし、アリシア・テスタロッサは冒険者なんだ。
 こんなところで『くすぶってる』女じゃないんだ。
 打ちこめるものを探せというユウナお姉ちゃんの言う通りにしてみようかな?
 今見た映画の影響もあるけど、外に出たくてたまらない。 

 ママのことは………えぐ、思い出すと泣いちゃうけど、頑張って泣かないようになるから。

 ソファーから下り、部屋の隅にあるダンボールから白いプレートを取り出しポッケにしまう。

「名前もないあなたも手伝ってね」

『Miss?』

 足音を殺しそーっとそーっとリビングのドアへと向かう。
 そして何事もなく廊下へと出る。

「ふぅ、それじゃ名前もないあなた、ママが入れてくれてるギソーマホ―を出してくれる?」

『………Yes,Miss』

 一瞬視界を光で満たした後、白いプレートのデバイスはわたしの髪を真っ赤に染めてくれた。
 うん、これで魔力もインペイできるし、見た目もわたしじゃないから大丈夫だよね?

 わたしは玄関のカギ入れにいるバルディッシュに挨拶して外に飛び出した。
 そういえば、バルディッシュはフェイトお姉ちゃんのデバイスだよね?
 なんでガギ入れにいるんだろう?

 ………まぁ、いっか。

 さて、心を入れ替えて、すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。
 よしっ!!!
 
「そう、わたしの旅はここから始まるんだ♪」

 と口にして一歩踏み出すが、

「えっ―――あぅっ!!!」

 何もない所でつまずいて転んでしまった。
 い、痛くないんだからね。

 ふらふらとした足取りでエレベーターを目指すわたしはきっと冒険者なんだ。 

 ママ、わたし、頑張ってこの試練を乗り越えるから。


 ◆◆◆


 外は快晴。
 うん、わたしの未来を明るく照らしているようだ。

「どこにいこうかな?」

 マンションを出たわたしに目指す場所はない。
 目的?

 ふふん、そんなの暇を潰せるものか心ときめくものに決まってるよ。

 とりあえずわたしは道を歩き出した。
 住宅地が続く道。
 そんな中をあてもなく歩く。

「空をね自由に駆けたいな♪
 はい、デバイスだよ♪」

「って、なんやねんそれっ?!!」

 テキトーな歌詞を口ずさみながら進んでいると、どこからともなくツッコミがやってきた。
 振り向くと車イスに乗った少女がダッシュでやってくるところだった。

「………モンスター?」

「だれがモンスターやねんっ?!!」

 車イスとエンカウントしてしまった。
 えーと、こう言う時はどうするんだっけ?
 うーんと、えーと………あ、そうだ、これだよね。

「………わたしの名前はリシィ。リシィ・ジョーンズ。
 好きなものはママとお姉ちゃんたちと冒険。
 嫌いなものは退屈とピーマン。
 憧れの人はインディ・ジョーンズ。
 さぁ、あなたのお名前はっ!!!」

「ここで自己紹介っ?!!」

 初めて会った人へのレイギだってママが言ってたことだから問題はないはずだよね?
 ギメイなのはお姉ちゃんズが言ってた気がするからしたけど、レイギに欠けるのかな。
 どっちにしても、モンスターは驚いてるから、レイギを知らないヒトみたいだ。
 
「レイギを知らない人に用はありません。
 さようなら」

 わたしはこうしてサッソウとその場を後にした。
 レイギの『れ』の字も知らない人に興味はありません。
 わたしが求めるのは冒険者になりたいレイギをわきまえる人なんだから。
 旅のお供にふさわしくないあなたとはさよならです。 

「え、ちょっと、置いてくんっ?!!
 私のこと、置いてくんっ?!!」

 さぁて、次はどこに行こう。

 ◆◆◆

「おぉ、これはダンジョンかな?」

 とても大きな建物に入ると中は適温。
 所狭しと本が積み上げられている。
 
「ここのどこかに宝物があるのかもっ!!!」

「ちょっと、静かにしなさいよね。
 ここは図書館なんだから」

 わたしが興奮して声を上げると、フェイトお姉ちゃんくらいの金髪さんに怒られてしまった。
 ………そうか、ここでのレイギは静かに探検することなんだね。

「お姉さん、ごめんなさい。
 レイギに欠けた行動を許して下さい」

 そう言って頭を下げるとお姉さんは少し顔を引き攣らせながらも許してくれた。

「変な言葉遣い………」

 って呟いてたけど、なにか変な所あったかな?

 わたしは目的もないので金髪のお姉さんにトコトコついて行く。
 お姉さんはついてくるわたしに首を傾げながらも本棚の間を歩いて行く。
 彼女は難しい言葉がタイトルの本ばかり選んで読書コーナーに向かったので、わたしも動物図鑑を持ってついていく。

「一緒に座ってもいい?」

「まぁ、別にいいわよ」

 お姉さんは怪訝な顔をしながら隣のイスにわたしを座らせてくれた。
 とりあえず図鑑を開く。
 猫のページを開いてリニスを探してみたけど、見当たらない。
 リニスは有名じゃないのかな?

 お姉さんに目を向けると難しそうな顔をして本を読んでいる。
 『荒れる青少年』『ゆとりの弊害~心の病~』『殺人心理学』『殺す側の理論』『殺される側の理論』『どうして彼は暴力に訴えたのか?』『彼女を更生させた十二の段階』。
 ………全然意味がわからないけど、きっとお姉さんは頭が良いんだなぁと結論づけた。

「お姉さん頑張ってね」

 さすがに図書館はすぐに飽きてしまった。
 文字ばかり読んでも眠くなっちゃう。
 ついでに静かだしね。
   
 わたしはお姉さんに別れを告げて図書館を後にした。

「変な子だったわね」

 ちなみにこの言葉は右耳から左耳へと通過していったみたい。


 ◆◆◆

「ショートケーキとタルト、それからオレンジジュースを下さい」

「はい、それじゃ席に届けに行きますから座って待ってて下さいね」

 お腹が空いたので近くの喫茶店に入ってみた。
 お金?
 大丈夫、ユウナお姉ちゃんのお財布から軍資金を強制援助してもらってるから。

 わたしは喫茶店「翠屋」
に入り注文して席につく。

 えへへ、わたし一人で買い物出来てるよ。
 これで冒険者へまた一歩近づいたかも。

 そんな風にケーキを待ってると奥からハニーブロンドの髪の、またフェイトお姉ちゃんと同じくらいのお姉さんがやってきた。
 ケーキを運んでいることからお店の人みたいだ。
 お姉さんはわたしの席にケーキを並べ、決まった口上を言う。

「お待たせしました、どうぞごゆっく―――」

 けど、途中で詰まってこちらを凝視してくる。
 
 ???
 わたしの顔に何かついてるのかな?

 彼女はそのままこちらを指さして、

「ふぇ、フェイト・テスタロッサぁああああああああっ?!!」

「―――っ!!!」

 大声を出してくれました。
 おかげで耳がキーンとなってくらくらしてしまった。

「ユーノ君、ここはお店なんだから大声を出しちゃダメだぞ」

「すみませんっ!!!」

 ユーノお姉さんは奥から顔を出したお兄さんに叱られ、素直に謝る。
 うん、謝罪することは良いことだよ。

 わたしは気にせずケーキを食べるけどね。
 お姉さんはわたしのことをちらちら見てくるけど、なにかあるのかな?
 
 少しして食べ終わったのでお金を払ってお店を出ると、ユーノお姉さんがウェイトレスの格好を止め、パーカー姿で外にいた。

 お出かけかな?
 そう思って脇を通り抜けようとすると、

「フェイト・テスタロッサ、なんでキミがここにいるんだっ?!!」

 わたしの手首を掴んでそんなことを言われてしまう。
 というか、その名前はお姉ちゃんの名前でわたしじゃないから関係ないんですけど。

「そんなこと言われても、わたしはそんな名前じゃないんだけど………」

「それじゃキミは誰だって言うんだっ!!!」

 困ったように言うと誰かと問われた。
 うーん、お姉ちゃん関係の人か。
 確か、お姉ちゃん関係の知り合いはストーカーで危険だから逃げた方が良いって言われてた気がするんだけど。

「まぁ、良っか。

 わたしの名前はリシィ・ジョーンズ。
 この世界の遺跡の秘密はいずれわたしに暴かれるだろうっ!!!」

「なんだってっ?!!」

 わたしの言葉に驚くお姉さん。

「もう一度言うよ。

 わたしの夢はインディのようにこの世の全ての遺跡を暴き、食人文化の住民と戦いながら生き残ることなんだっ!!!」

「キミは………くそぅ、ボクもスクライアの人間だ。
 キミの夢が遺跡探索だなんて。
 ボクもその夢を追いかけたかった」

 お姉さんはその場にへたりこんでブツブツ呟き始めたけど、どれも意味を為さないものだった。
 高町家への償いだとか、なのはが更生するまでなんでもするつもりでいるのにとか、でもスクライアとしてのボクはとか。
 
 よくわからないけど、さっきまで見てた映画の内容がこんなところで役に立つとは思わなかった。
 冒険はしたいけど、インディさんみたいなことはしたくないから、この赤いわたしの人物設定上の夢なんだけどね。

 それじゃ、ユーノお姉さん頑張って生きてね。


 ◆◆◆


「む、お前は………」

「え?」

 そろそろお家に帰ろうかと思っていたら。

「銀ノ森にひっついている女に似ているな」

 ピンク色の髪の変な人に絡まれた。

 ジロリと睨まれた。

 ガシと頬を抑えられた。

「目元も似ている。
 口元、鼻筋、その他もろもろあいつに似ている点が多いな。
 まさか、あいつの子供か?」

 ぐりぐりと顔をこねくり回される。

 ジワリ。
 
「えぐ」

「なっ、おいっ、どうして泣くっ?!!」

 アリシア・テスタロッサ、この人恐いです。

「ぅ、ぅええええええんっ!!!」

 何するの、この人。
 いきなり睨んでくるし、頬を抑えて逃がさないようにするし。
 知らない人はなにするかわからないって言ってたけど、恐いよママっ!!!

 ピンクの女の人はわたしをあやそうとしているようだが、近づいてくるだけで恐いから逆効果です。

「困ったな、一体どうすれば―――」

 額に手をあてて途方に暮れる彼女。

「アリシアっ!!!」

「シグナム・フォン・ルクセンブルクっ、お前がアリシアを誘拐したのかっ!!!」

 そんな時、路地の角からフェイトお姉ちゃんが現れ、続いてユウナお姉ちゃんまで来てくれた。
 
「おねえちゃんっ!!!」

 すかさずフェイトお姉ちゃんに抱きつく。
 
「怖かったよ、この人がいきなりなんかしてくるし、うぅ、おねえちゃぁああんっ!!!」

「もう大丈夫だよ、アリシア、お姉ちゃんたちがついてるからね」

 フェイトお姉ちゃんはぎゅっとわたしを抱きしめてくれる。
 お姉ちゃんの良い匂いがして、すぐ安心し始めた。

「おい、銀ノ森、少しは話を―――」

「うるさい、あんたとはいつか決着をつけなくちゃいけないとは思ってたが、もう許せない。

 ―――戦争だっ!!!」

 ………あれ?
 わたしのせいでなんか大ごとに?


 Side out



・あとがき

 追・再試終わって授業始まった。
 夏休み戻ってこないかな、なんて考えて書いてたらアリシアさんが暴走。
 クオリティーも下がる一方。
 
 感想・ご指摘・アドバイス、よろしくお願いします。 



・アリサ部屋

「本編に一応出られたアリサ・バニングスよ。

 最近の寒暖の差で体力が持っていかれているアリサ・バニングスよ。

 戦場のヴァルキュリアのアリシアに、こっちのアリシアのイメージが強くて最初の頃、違和感を感じてたアリサ・バニングスよ。

 う、どうせネタがないのよ。
 感想の返信よ。

 ヨシヲさん
『その場合、フェイトは心を入れ替えてくれるかもしれませんね』
 クール便でお願いされてるんでしょうね。

 junkyさん
『フェイトにニート脱却して欲しいユウナ君でしょうね』
 一度つき放せばいいのよ。

 Mさん
『少し心あたりがあったりします』
 改善……できるの?

 aanoiさん
『ごめんなさいとしか言えません』
 夕凪は所詮、ここまでだったということよ。

 バタフライエフェクトさん
『そんな時代が……なんか寂しいような』
 裏を読み過ぎっ?!!

 パウルさん
『シャマルさん、しっかりキャラになってください』
 頑張ってアリシアとしか言えないわよ?

 皇光仁さん
『ウィキで読みましたが、たしかにやりそうなキャラ設定ですね』
 アリシアはそうゆうキャラに……?

 ジョバンニさん
『ただし、捕まった。ですね』
 あんな見つかりやすい場所に放置じゃね」


・舞台裏

「なんでスル―されたんやろ?
 もう少し惹きつけるようなツッコミが必要なんやろか?」

「はやて、シグナムが帰ってこないんだけど、どうしよう?」

「………しゃーないな。うん、シグナムの分のケーキも食ってええよ。
 賞味期限が切れるのはダメやからな」

「マジか、はやてっ!!!
 それじゃ食うからなっ!!!
 頂きますっ!!!」
 
 
 
 
 
「ボクはどうすれば……。
 夢を諦めるか、償いをすべきなのか……。
 うぅ……」
 
 
 



[18634] 第三十三話 バリアジャケット
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/09/21 08:30

 
「戦争って言ってもヤクザ的な戦争なんだね」

 アリシアを無事マンションに連れ帰ってからフェイトに突っ込まれてしまったことだが、シグナム・フォン・ルクセンブルクと戦争、というかヤクザ的な戦争、なんてものより小規模な決闘をすることにした。
 
「う、うるさい、ノリで大げさに言ってしまったんだよ………」

 恥ずかしさでテーブルに突っ伏す。
 アリシアが頭をよしよしと撫でるが、むしろ逆効果なんだよ。
 
 オレとシグナムの決闘。
 これにオレが勝てばシグナムはもうオレたちに関わらないと約束した。
 仕事場からも出て行き、もう顔を合わせることはなくなるだろう。

 日にちは十月の最終日、三十一日の深夜。
 臨海公園に一人で行く。

 それまでに実践の勘を取り戻さなくては。

「………フェイト、特訓の相手をしてくれ」

「あ、ホントに戦う気なんだ」

 カチャカチャと音がすることから紅茶の準備でもしているのだろう。
 フェイトは「遊びに行くの?」的なニュアンスで返答する。

「戦う。なんだかんだ言っても、勝った時のメリットを考えれば蔑ろにもできないからな」

 アリシアもフェイトの手伝いでもしに行くのか、キッチンの方へとパタパタと駆けていく。

「ユウナお姉ちゃんも飲むよね」

「あぁ、頼む」



 それからフェイトとアリシアが用意した紅茶をみんなで飲んで一服した。
 インスタントだから味は推して知るべし。
 まぁ、フェイトにしては珍しく動いてくれたんだから、それに喜ぶことで満足しよう。



「そういえばアリシアは偽装魔法をマスターしたのか?
 髪の毛だけ真っ赤だけど」

「この子にやってもらってるんだ。えっへん」

 そう訊ねると胸を張って応えるアリシア。
 アリシアの手に握られた白いプレートは点滅して存在を主張している。
 
 うん、偉いぞアリシア。
 もう魔法を有効活用できているとは。
 
 だが、この問答で今までスル―されていたアリシアの魔法使用問題がここで浮上した。
 
 オレ的には進んで魔法技術を習得、慣熟訓練をすることは良いことだと思うのだが、如何せん相手があのフェイトだ。
 過保護を売りにするアリシアの姉(妹?)はカチャッと音を立てる。

「………アリシア、魔法を使ってたの?」

 そのひどく静かな声が部屋に落ちた。
 フェイトはいつだか喧嘩した時を彷彿させる状態、前髪で目元を隠しながら感情の色のない声音でアリシアに訊く。
 
 ヒトはキレすぎるとキレてないようにも見えるもの。
 フェイトは、その、うん、キレてないように見えてハラワタが煮えくりかえってらっしゃるようです。

 アリシアも何かを感じたのか、ビクッと震えて顔を青くしていく。
 そんなアリシアが答えを返せる訳ない。

「アリシア、どうして応えてくれないのかな?」

 前髪を退けてアリシアを覗き込むフェイト。
 口元は笑っているようだけど、目が笑ってないですよ?
 アリシアじゃないけど、背中に嫌な汗が滲みだす。

 アリシアはフェイトと視線を合わせないようにこちらを向いて救難信号を出してくるが、ごめん、助けられない。
 絶望に染まるアリシア。

「ふふふ、アリシア、あっちでちょっとお話しようか。
 大丈夫、私は約束を守る子が大好きだから。
 悪いことと無縁なアリシアは関係ないよね?」

 そう言ってアリシアの襟を掴んで寝室に引きずっていくフェイト。
 アリシア、約束なんてしてもいないのに律儀に付き合うキミを忘れない。

 例え反論する勇気がなかっただけだとしても、オレはキミを忘れない。
 
 
 
 その後、アリシアはジャミング系や転移系といった逃げるための手段や潜伏系の魔法の使用許可をなんとか手に入れたそうだ。
 シグナム対策の訓練の横でアリシアが練習するといった光景が目に浮かぶ。
 

 ◆◆◆


 Side アリシア

 一夜開けて朝になった。
 わたしはまだ眠り足りない時間帯だけど、ユウナお姉ちゃんとフェイトお姉ちゃんに手を引かれて人気のない公園に連れて行かれた。
 後で訊いたら、結界を張ったから人がいなかったらしい。
 そこに辿り着く間、意識が何度か飛んでたから聞き逃したんだろうね。
 でもフェイトお姉ちゃんもフラフラしてたし、うん、大丈夫怒られる理由にはならない。
 一応目的が訓練らしいから、ヘタに気を抜くとフェイトお姉ちゃんに怒られるかもしれないんだ。
 ………あれだけ魔法を覚えるのに反対だったフェイトお姉ちゃんだ、真面目にしてないところを見られただけで『そんなんじゃ危険な目に会うっ!!!』ってデバイスを取り上げられるかもしれないし。
 

 二人は着いた早々体操したり、そこらへんを走ったりして訓練の準備にかかる。
 ユウナお姉ちゃんは目を覚ましてるからしっかりした動きで体をほぐしていく。
 それに比べてフェイトお姉ちゃんは体操の途中で動きが急に鈍くなって停止したり、急に地面に倒れて動かなくなったり………。
 本当に朝は弱いんだね、フェイトお姉ちゃん。

 わたしはベンチに座って見学。
 朝の匂いって言うのかな、朝焼けを眺めながらの空気はおいしいよ。

「それじゃ、フェイト、構えて」

「………」

 気付けば準備は終了してたみたいで、ユウナお姉ちゃんはフェイトお姉ちゃんに振りかえりながら声をかける。
 けど、地面に横たわって動かないフェイトお姉ちゃん。
 わたしはベンチから立ちあがってフェイトお姉ちゃんに近づいてみると、かすかな呼吸音が聞こえた。

「寝てるみたいだよ」

「フェイト………」

 ユウナお姉ちゃんは膝をついて打ちひしがれる。
 フェイトお姉ちゃんのダメさに絶望したのかな。
 まぁ、その、頑張ってね。
 ユウナお姉ちゃんが一生面倒みてくれると思ってるみたいだから。
 わたしも努力して独立して助けるから。
 ね?

 わたしはユウナお姉ちゃんの肩に手をのせて、目があったお姉ちゃんに首を振ってあげた。
 ちょっと涙目だった。
 
 
 
「気を取り直して、アリシアに魔法を教えることにする」

「はーい」

 フェイトお姉ちゃんのことは地面に放置。
 公園に設置してある木でできたテーブルに着いてユウナお姉ちゃんと話します。

「まず、偽装魔法の件だが、髪色を変えるだけじゃダメだ。
 それだけじゃ染髪してるのと同じで印象は多少変わるが、見知った人物や捜索者の目をごまかすには厳しい。
 それで年齢、髪型の変更、それから言動や行動を変えることでごまかすんだ」

 それか、完璧な別人に変身するかかな、とユウナお姉ちゃんは続けた。
 そういえば、結界に入る前とか昨日外で助けられた時とか、ユウナお姉ちゃんとフェイトお姉ちゃんは黒髪黒目の大人バージョンだったっけ。
 
「まぁ、一番の利点は魔力を感知され辛くするところなんだけどな」

「ふーん。
 ………ということは、わたしでもインディさんになれるってことっ!?」

 魔力うんぬんはよくわからないけど、まさかインディさんごっこができるとはっ!!!
 このデバイスにウィップモードがあれば完璧だ。

 だけど、期待に目を煌めかせるわたしにユウナお姉ちゃんは無慈悲にも「声はそのままだぞ?」と現実を叩きつける。
 そんなのインディさんじゃない………。
 女の子ボイスのインディさんなんて変態だよ………。

 この数秒で感情の浮き沈みが激しいわたし、アリシア・テスタロッサ、五歳、この世界に絶望しそう。

「青いバラはね、現実に存在しないから美しいんだよ」

 インディさん、あなたは現実に存在しないからこそのインディ・ジョーンズなんだね。
 瞳に溜まった涙を拭っていると、ユウナお姉ちゃんが『何を悟ったんだ?』と頭を傾げていた。

「あ、そうだ、この子に名前なかったっけ。
 なんて名前がいい?
 ヘンリー?
 マット?」

 突然話を振られたデバイスちゃんは『Miss, my gender is female』と女の子的な名前を遠回しに要求してくる。
 テーブルの上に置かれた状態でピカピカ光って主張する。
 ヘンリーって名前、ダメなの?
 インディの本名なんだよ?
 マットの本名だよ?
 
「もう、わがままだね。
 わかった、じゃぁあなたの名前はマリオンで決定。
 インディさんとちゃっかり最後は仲直りして式を挙げてる奥さんの名前だよ。
 反対意見は聞かないからね」

 ちょっと怒り気味に言うとマリオンは沈黙をもって肯定した。
 せっかくヘンリー・ジョーンズ四世を名乗らせようと思ったのに。

 それにしても、インテリジェントなデバイスって無口な子ばっかだね。
 バルディッシュもマリオンも全然喋らないし。
 もしかして、AIとしてまだまだ開発途中なのかな?
 よし、今度二人(?)で会話を強制させて知能教育をさせてみよう。
 これで喋るようになるよね、きっと。

「………話、終わった?」

「あ、ごめん、ユウナお姉ちゃん続けていいよ」

 色々考えてたら、お姉ちゃんを無視する形になってたみたい。
 それからいろいろジャミングの意義とか結界の種類とか説明されたけど、ちんぷんかんぷんだった。
 マリオン、状況に合わせた選択は任せたからね?

 それと、フェイトお姉ちゃんが寝てるのを良いことに、戦闘系の魔法も教わった。
 ママの水晶型デバイスにウィップ形態があったのに気付いたマリオンはとっても偉い子だった。
 次からはあの子も持ってこないと。
 
 あと、ママが設定してくれてたバリアジャケットは、その、なんかえっちだった。
 白い水着にマントに二―ソックス。
 
「………ユウナお姉ちゃん、設定し直すの、手伝って」

 ユウナお姉ちゃんは「それが普通の感性だよな」と妙に頷いてた。
 帰ったら一緒にバリアジャケットのデザインを考案してくれるって言ってくれた。
 ありがとう、お姉ちゃん。
 わたし、恥ずかしくて戦えないところだったよ。


 Side out

 ◆◆◆


「その、なにやってんるんだ?」

「………落ち込んでるの」
 
 夕飯の買いだしから帰ってくると、フェイトがリビングの隅で膝を抱えて丸くなっていた。
 アリシアはまた映画に夢中になっている。
 インディ・ジョーンズの一番新しい映画を何度も見返している。
 なんでも年老いたインディをこの目に焼き付けるんだとか。
 昨日借りてきたばっかだからなのか、まだ飽きてない。
 
「うわぁ、アリって人間を食べるんだぁ………」

 暢気な声で言うけど、内容的にそんな雰囲気のものではないよな?
 普通はアリシアの年齢って恐がるところだよね? そこらへん、どうなの?

 疑問の尽きることのないアリシアは置いとくとして。

「で、なにがあった?
 まさか、あの映画を見るアリシアに絶望したとか?」

 本当に五歳なのかと疑問に思う時もあるけど、そこまで落ち込むほどではない。
 フェイトも首を横に振って否定する。

「じゃぁ、なんなんだ?
 言葉にしないと伝わらないぞ?」

 オレもフェイトの横に座って言葉を待つ。
 
「………」

 三秒。
 十秒。
 一分。

 映画の音とアリシアの独り言だけがリビングに響く。
 フェイトは黙して動かない。

 オレは溜息をつき、映画を見る。
 途中からだが、一度は見た映画、すでにクライマックス手前のシーンに入っているのがわかる。
 アリシアは「クリスタルスカル、万能だね」と呟く。
 コテンと肩に重みがかかる。
 
「ユウナ………」

 フェイトは頭をオレの肩にのせて、涙目でこちらを窺う。
 泣きそうだったのか、頬もほんのり赤くなってる。
 いつの間にか、腕を絡めてきてもいる。

 えーと、フェイトさん、その、急になんですか?
 どうして、いきなりそんな雰囲気を作りますかね?
 し、心臓バクバクいってますけど、本当に唐突にそのモードになるの止めてください。
 いつものしょうがないフェイトから変貌された時のこっちの身にもなってください。
 ギャップですか?
 最近テレビで有名なギャップで攻撃力(?)を増すタイプの人間ですか?
 
 と、思考が混乱気味になりながらも、フェイトと視線を交わす。
 
「あのね、その………」

 意を決して言いだそうとするが、フェイトの言葉は尻すぼみになり、また口は閉ざされた。
 肩にのせたまま、フェイトは顔を俯かせる。

 その間も腕を絡めながら手も絡めて来たりと………。


 本、当に、どう、なって、るん、です、か?

  
 顔が火照ってきてるのがわかる。 
 体温だって上がってる。
 
 なんだこのもじもじフェイト。
 初めて会った頃以来じゃないか。
 というか、スキンシップのし過ぎだ。
 マジで離れて。
 ショートしちゃいますよ。

 そんなオレの状態を知らないフェイトはまだもじもじしてる。
 オレはフェイトの閉じた唇がいつ開くのか見つめるだけ。

「………」

「………」

「………」

 気付けば、映画は終わり、スタッフロールが流れている。
 音楽的にそうだろう。
 
「………その、さ、言う気になった?」

 そろそろアリシアも気づく頃合い。
 いい加減、この恥ずかしい状態から抜け出したいオレはどう見てもその気じゃないだろうに、そんな質問をする。

「その、ぅ………」

 そして、やっぱりなにも言えず俯く。

「ぁ」

 限界だったオレはフェイトに悪いと思いながらも絡められた腕を解き、立ちあがる。
 そんな目で見てもダメだからな。
 オレは夕飯を作らなきゃダメなんだからな。
 す、捨てられた犬みたいな目で見たってダメなんだからなっ!!!
 
 
 
 
 それから、夕飯の席でもフェイトは俯き元気がなさそうで、アリシアに心配されてたが、途中で飽きたアリシアが、

「そうだ、元気がない今こそ戦闘系魔法を極める時なんじゃっ?!!」

 と、マリオンとバルディッシュ、それからミセスのデバイスを抱えて寝室に去って行った。
 マルチタスクで練習するんだとか言ってたが、アリシアはマルチタスクを使いこなせてるのだろうか?
 それ以前に、他のことをやりながらじゃないから、マルチタスクじゃなくてもいいような。
 アリシアが年相応の頭でよかったと頷いておこう。
 
 
 
 
 食器も洗い終わり、今日も寝るだけとなった。
 寝室に行くと、アリシアがベッドの端でマリオンを握りしめて、「イリーナ、知識欲があなたの敗因だよ」と寝言を呟いていた。
 フェイトは今日も日記をつけているようで、オレはベッドサイドに置いておいた本を開き、ベッドに横になりながらアリシアが眩しくないようにスタンドを調節して読み始める。
 最近の日課みたいなもの。
 図書館の存在を知ってから、フェイトがベッドに潜り込むまでの間か眠くなるまで、こうやって借りてきた本を読むようになった。

 静かな時間が流れる。
 アリシアの寝息。
 本をめくる音。
 ペンを動かす音。
 それ以外の音はない。

 短針が頂点を指す前に、フェイトはベッドにやってきた。
 オレもキリがよかったし、栞を挟んで本を閉じ、明りを消す。

「ユウナ」

 潜り込むとすぐにフェイトは声をかけてきた。
 アリシアを起こさないようにか、耳元で囁いてくる。
 正直夕方の表情が脳裏に思い起こされるが、すぐに首を振って意識から追い出そうとするが、そう簡単に行くわけがない。

 オレはアリシアの方に体を向け、フェイトを背にする。

「夕方の続きか?」

「うん」

 フェイトは背中側から腕を伸ばして抱きしめてくる。
 トクントクンとフェイトの心臓のリズムが伝わってくる。

「実はね、昼間、ユウナがいない時に、アリシアに言われたんだ」

 オレの顔がしっかりと見れないおかげか、さっきとは打って変わってすらすらと言葉が紡がれる。

「その言葉にね、私、結構ショックを受けたんだ。
 そうゆう風に周りから見られてるだなんて思ってなかったんだ」

 ギュッと腕にこもる力強くなる。

 フェイトの独白は続く。

「私は、効率的にこれはとっても良いものだと思ってた。
 母さんもそうだったし、リニスもなにも言わなかった。
 だから、これが普通だと認識してた」

 ふぅ、とうなじに吐きだされた息がかかる。
 
「フェイトがそこまで考えさせられた言葉ってなんなんだ?」

「それはね、
『フェイトお姉ちゃんのバリアジャケット、えっちだよ』
 だよ」

 ………。
 ………………。
 ………………………。

「フェイト、今度アリシアのバリアジャケットのデザインを作り直すんだけど、フェイトもする?」

「………する」

 こうして、今日も終わり、十月二十七日が始まった。



・あとがき

 いつかはいれたいと思ってた話。
 タイミング的にここしかなかったんです……。
 実習も始まり、学祭に向けての準備にポケモンとあれですが、最低でも週一はやりたいです。

 感想・ご指摘・アドバイス、お待ちしております。


・アリサ部屋

「ポケモンの季節のアリサ・バニングスよ。
 どんな季節か知らないけどそうゆうことよ。
 ヨドバシなカメラとかの大型店舗は完売してるのに、その近くの本をオフする店には普通にある現象を目にすると今回はそれほどでもないのかなと思っちゃうわね。
 まぁ、予約すれば関係ないんでしょうけど。

 ………そうよ、遂に他の作品までひっぱてきちゃったわよ。
 ポケモンを出すほど私のセリフに行き詰ってる事実を露呈してんのよ。
 しかもいつもこのパターンじゃない。
 やってられないわよ。

 とか言いつつも仕事よ。 

 火消しさん
『そんなにお金を使わないものじゃないとフェイトさんに怒られるユウナくんです』
 ユーノは責任感が強過ぎね。
 負わなくてもいいものまで負おうとするんだもの。

 バタフライエフェクトさん
『バルディッシュはアリシアが有効活用中?』
 成果はきっとたぶんおそらくあるわよっ?!!

 パウルさん
『赤毛だけじゃユーノ君の目はごまかせませんでした。
 多少小さくても顔立ちとかそのまんまですし。
 ……四歳差は大きいでしょうか?
 きっと、スクライアの洞察力でしょう。
 うん、最悪、愛で。
 クローンだからと油断した夕凪の失敗です』
 そ、それを言わないでよっ!!!

 ヨシヲさん
『このままだと確実に起こる逆転図ですね』
 ありがとう。でも、当分出番がない気がするわ。
 ユーノはウェイターじゃなくてウェイトレスなところがまたあれよね」


・舞台袖

「肌はなるべく出さない感じで………こんな感じならどうだ?」

「これだとムダなところが多すぎるよ。ここはこうして………」

「前より露出度が高くなってるような気がするのはオレだけか?」

「お姉ちゃん、身内として恥ずかしいよ」

「………うぅ、どうすれば私は救われるのっ?!!」



 

 



[18634] 第三十四話 ザンメルン
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/09/28 08:54


 Side シグナム

 十月二十七日。
 その日もこれまでの朝のように始まった。
 
 一軒一軒に新聞を投函する新聞配達員。
 壁の上をちょこちょこと歩いて行く猫。
 朝のジョギングをする近隣の人々。

 私はザフィーラを連れていつものように散歩をし、それから家へと戻る。

 リビングへの戸を潜れば、主はやてが皆の朝食を準備しているのだろう、忙しく動く音や食事の匂いが漂ってくる。
 私とザフィーラが帰って来たことに気付いて笑顔で迎えてくださる主はやて。
 それに合わせて起きだしてきたのか、目を擦りながらやってきたシャマルが主はやてにヴィータを起こしてくるように言われ、起き抜けのたどたどしい動きでヴィータが眠る主はやての寝室に向かったりと、本当に微笑ましい朝だった。
 
 全員が席についてから皆で朝食を取り、他愛無い話をしながら過ごし、それから各々の時間となり家を出たりと。

 ヴィータは最近嵌ったというゲートボールをしに行ったり。
 私は自分のオリジナルについて想いを馳せながら道場を借りて竹刀を振ったり。
 ザフィーラは家を守ったり、主はやてに付き添ったり。
 シャマルは料理の本とにらめっこしながら主はやての買い物に付き合ったり。

 そう。
 本当に。
 この日も。
 ただただ平穏に。
 今までのように。
 何事もなく続いて行くと思っていた。

 だが、そんな私たちの日常はあっさりと砕け散った。


 
「ごめんなぁ。
 本当に心配させて、ほんとにごめんなぁ」


 そう病院のベッドの上で謝る主はやて。
 その表情はどう見ても辛いのを我慢しているものだった。

 手を握れば汗でびっしょりと湿っている。
 呼吸もたまに荒くなる。
 笑顔を維持しようにも苦しいのだろう、気を抜いたところで引き攣ったものとなる。

 私たちの日常。
 主はやて。
 
 この二つは決して切り離せるものではない。
 
 主はやてがいたからこそ、私たちはこんなにも人間に近い感情を持てた。
 それぞれのオリジナルが過ごしたかもしれないような日々を自分たちに与えてくれた主はやて。
 
 
「はは………。
 みんな、そんな辛気臭い顔止めぇ。
 お願いや。
 私の最期を看取る時は笑顔でぇな」

「はやてぇ………」

「ヴィータは私のお願い聞いてくれへんの?」
 
 主はやては号泣するヴィータの頭を撫でながら微笑む。
 そのヴィータは頑張って笑おうとするが、うまく笑えない。
 他の皆も俯いてしまう。

 あぁ。
 本当にどうして気付かなかった。
 主はやてがここまでひどくなるまで、どうして私たちはっ!!! 私はっ!!!

 無意識のうちに歯を食いしばる。
 
 主はやてはヴィータと今すぐ死ぬようなことを前提に会話をしているが、まだそれは先だ。
 だが、先と言ってもそう長い訳ではない。
 石田先生による診断結果から考えて、主はやての命を奪おうとしている正体はおそらく闇の書の呪いだ。
 
 主はやてを正式なマスターにしていないから、蒐集しきっていないから、主の命へと手を伸ばしてきているのだ。

 そんなことさせてなるものかっ!!!

 出会った頃に主はやてに蒐集行為を禁じられたが、主はやての命には代えられない。
 例え騎士としての誇りを捨ててでも主はやてを救って見せる。

 ベッドの上で横になる主はやてを見つめる。
 なんとなく、そう、なんとなく主はやてに桃色の髪の少女を幻視したが、もう『今は』そんなことを考える時ではなくなった。

 私はヴォルケンリッターの将、シグナム。
 主はやてを死なせないために、主はやての平穏のため、再び剣を取ろう。

 血反吐を吐こうが、泥を啜ろうが、主のためなら何事にでも耐えて見せよう。
 主はやての平穏を血で穢れたものにしないよう不殺を誓おう。
 もし、主はやてに初めの誓いが破られたことが知られたとしても構わない。
 
 そして、世界の全てに憎まれようとも、私の全ては主のために。
 
 主の望みを、幸せを、そして平穏を守って見せる。

 必ず、なにがなんでもだ。
 
 
 
 
 手始めに、まずは………。
 
  
 
 
 Side out


 ◆◆◆


「………ユウナ、本当に行くの?」

「あぁ、今日全て終わらせてくる」

 マンションの玄関でフェイトはアリシアの手を握りながら、少し涙ぐんでいる。
 アリシアはアリシアでそんなフェイトを見て『オーバーリアクションだよ………』と呆れた顔をしている。
 
 今日は三十一日。
 外はもう夜の帳が下りてだいぶ経つ。
 窓から見た限りでは、雲がまばらだが、月明かりで明るい夜のようだった。
 決闘日より、と言って良いのかわからないが、ふさわしい天候だろう。
 

「―――ユウナ、やっぱりダメだよっ!!!
 嫌な予感しかしないんだっ!!!
 考え直してっ!!!」

「ふぇ、ふぇいと………」

 フェイトはアリシアの手を離し、オレの肩を掴んで必死の形相で説得にかかってきて動揺したが、オレは一つ息を吐き、決意を新たにする。
 今度こそあいつとの縁を断ち切る。
 こんな機会が訪れたんだ。
 それをふいにするのもなんだし。
 ここで行かなかったら多分後悔するだろうしな。

「大丈夫だってフェイト。
 フェイトが心配するようなことは起こらないって。
 今は戦時中じゃないし、決闘と言っても命のやり取りを目的にするような類のものじゃないし。
 賭け試合みたいなものだって」

 あえて明るい表情や話しぶりでフェイトを安心させようとするが、泣き虫なフェイトはまたぼろぼろと涙をこぼす。
 こうしてフェイトと接していると、いつも泣いているような気さえしてくる。

 普段はぼぅっとしたり、昼ドラ見たり、ソファーでおやつ食べたり、ベッドの上でごろごろ寝転がったりしてるのになぁ。
 日常と異なることが起きるたんびに凛としたり、泣いたり、顔を真っ赤にさせたりと、その時々にドキッとさせられるんだよな。
 なんだろう、先日も考えたが、これがギャップに来るという現象なんだろうか。
 
 微笑ましいものを見るような目でフェイトを見てたら、前後にガクガクと揺さぶられた。
 
「真面目に私の話を聞いてないんだねっ!!!」

「聞いてる、聞いてる」

 荒くなった息を整えるフェイトだったが、いい加減にして欲しかったのか、アリシアがフェイトを引き剥がしてくれた。
 アリシアの顔からは『もううんざりだよ』といった心情が読み取れるし。
 とりあえず良くやったアリシア、今度なにか欲しいもの買ってあげよう。

「離してアリシアっ!!!
 私はユウナを止めるんだっ!!!
 寝室のベッドに縛り付けて身動きとれなくしてやるんだっ!!!
 あのストーカーのところになって絶対に行かせないんだっ!!!」

 フェイトは腕にしがみつくアリシアを振りほどこうと暴れるが、アリシアも引けを取らないようなしがみ付きっぷり(?)を披露する。

「今朝の夢だってユウナが落とし穴に落ちて戻ってこなくなったものだったし、テレビの占いでもワースト一位、二位を二人で独占しちゃったんだよっ!!!
 しかも外に出れば靴ひもが切れるし、道を歩けば棒にあたるどころか鉄骨が降ってくるし、観たかった映画は旧作なのに全部レンタル中になってるし、何もない所で転びそうになって工事中のマンホールに落ちそうになるし、快晴かと思ったらにわか雨でずぶ濡れになるし、スーパーに寄ればアイスが氷を残してほとんど買い占められてるし、マンションに戻ってもエレベーターは故障中で階段を上るはめになるし、シャワーを浴びればシャンプーとリンス間違えて使っちゃうし、今日の料理も手抜きだったし、最近ユウナはアリシアにばっかり気を配って私の相手をしてくれないし、前は私がユウナの髪の手入れしてたのに自分でやるようになっちゃうし、ねぇっ!!! 私のことどう思ってるのユウナっ!!!」

「えーと、色々ツッコミどころが多すぎてもう何がなんやらって感じだろうか」

 あまりのフェイトの思考展開に目頭を押さえてしまう。
 これはもう、暴走フェイトだ。
 うん、どうしようもない。
 こうなったフェイトはもう止まらない。

「はぐらかさないでよっ!!!
 良い、ユウナ、人という漢字は支え合って形作られてるんだ。
 だから、人間は支えあて生きていく生き物なんだ。
 なのに、私をないがしろにするなんてひどいよユウナっ!!!
 それにね、ユウナは―――」

 フェイトはアリシアをぶら下げたまま、あれやこれやと文句を述べまくる。
 それも時が経つほどに熱くなっていき、オレが玄関の戸を閉める時には『家庭とはなにか』について拳を握りしめながら語っていた。

 熱くなりすぎて周りが見えなくなるのは悪いくせだよ、フェイト。
 首からぶら下げたフェイトとの絆アイテムとして出会った頃購入した剣十字のネックレスをいじくりながら、臨界公園を目指す。
 
 さて、

「吐かずに戦闘を終えられるだろうか」

 ここが一番心配です。


 ◆◆◆

 Side シグナム


 夜の風がそよぐ臨界公園。
 空を見上げれば下弦の月が雲に隠れるところだった。
 今夜の雲の動きは早いなと思いながら、私は奴が来るのを待つ。
 ただただ、空を仰ぎながら思考する。
 
 私はこの地にやって来て主はやてという心優しき主を得た。
 その上、私の情報を持つ人間に出会えた。
 これほど幸運なことはもうないかもしれない。
 このような条件が、もう揃うことはないかもしれない。

 だから、私は今選択しなければならない。
 いや、もう選び終えたのだから、それを実行に移すだけなのだろう。

 
「来たか………」

「………」


 人の気配、道場や道端でであった時に記憶した奴の気配に気づき、空から公園に目を移す。
 銀ノ森夕那は公園の外灯に照らされた空間に立っていた。
 その出で立ちは普段のものと異なり、長い黒髪を邪魔にならないように後ろでひと房に縛り、記憶に残る管理局などの武装隊が着るようなバリアジャケットを纏っていた。
 黒色のそれは依然見た白銀の騎士甲冑と比べると防御性能が劣ると見えるが、なにか理由があるのだろうか。
 とりあえず、結界を張り、外から中を感知されないようにする。


「お前はベルカの騎士の末席に連なるものだとばかり思っていたが、ミッドの魔導師だったのか?」

「いや、らしくないとは思ってるが、一応これでも騎士ということになっている」

 銀ノ森の表情は目元まで影となって窺うことはできないが、口元は堅く引き結ばれている。
 
「そうか。
 ところで決闘を始める前に二三訊きたいことがあるのだが、良いか?」

「………あぁ」

 数瞬の逡巡を経て、感情の籠らないが返答を得た。
 どうせ、最後の会話だ。
 勝っても負けても、こいつとはもう会うことはないのだ。
 少しでも未練が残らないようにしよう。
 それで、私はヴォルケンリッターのシグナムに戻ろう。
 そう、主のための将に。

「銀ノ森、お前は私を知っているな?」

「………当たり前だ。あんたを忘れるはずがないだろ」

 銀ノ森の口から、また感情の籠らない声が紡がれる。

「それは、『ヴォルケンリッター』としての私か?
 それとも、『オリジナル』のシグナムか?」

 ピクッと銀ノ森の手が反応する。

「………どういう意味だよ」

「言葉通りの意味だ。闇の書の守護騎士『ヴォルケンリッター』の将・シグナムか、この守護騎士プログラムの『元となったシグナム』か」

「闇の書………プログラム………そうか、そう言うことか。
 執務官が三百年たったと言っていたのに、あんたが同じ姿でいる理由はそれか」

 銀ノ森はぶつぶつ呟いた後、

「オレが知ってるのはオリジナルだ」

 私が待ち望んだ答えを出してくれた。
 自然と口の端が吊りあがる。
 あぁ、当たりだ。
 ようやく、私は真実に一歩近づけるっ!!!
 長年私を悩ませ続けた解に手を伸ばせるっ!!!

「そうかっ、なら教えてくれっ!!!
 オリジナルの私はどのように生き、剣を振るっていたんだっ!!!」

 どれほどの時を過ごしても、この解は自力で見つけ出すのは不可能な代物。
 私がどれほど渇望しようとも、己だけではそれを導きだせない。
 それを識る者に訊ねるしか方法はなかったのだから。
 だが、こいつは識っている。
 そう、識っているのだっ!!!

 だが。
 こんなにも喜ばしいことのはずなのに。
 奴の答えは思考が停止しそうになるほどショックを受けさせるものだった。
 
 
 
 
 曰く、味方狩りのシグナム。
 曰く、血濡れの鷹。
 曰く、主人殺しの騎士。

 どれも、騎士の二つ名に相応しいものには聞こえない。
 銀ノ森は口元に手をあて、肩を震わせながらそれだけを語った。
 私もあまりのことに茫然としてしまう。


「これ以上、オレは何も語りたくはない。
 そもそも、オレに訊きたかったことはそれだけか?
 付きまとう理由がそれだけなら、決闘に意味はなくなるよな?」

 奴はそんなことを言い、この場を去ろうとする。
 そこで自失しかけていた意思に鞭を打ちつけ、レヴァンティンを起動し、地面に突き立て爆発を起こす。

「―――勘違いするな、銀ノ森夕那。
 確かについ先程までする予定だった決闘に意味はなくなるが、『これから戦うことに変わりはない』っ!!!」

「どういう意味だよ?」

 怪訝そうに振り返る銀ノ森。
 あぁ、知りたかった内容に納得することはできない。
 だから、この思考には一度終止符を打つ。
 悔いはあるが、ここからはただのシグナムではなく『ヴォルケンリッターの将・シグナム』に戻るっ!!! 

「私たちヴォルケンリッターは管理局から追われる身でな。
 私の訊きたかったことを説明するために正体を明かしたが、この情報を貴様に与えたままにするのは危険だからな」

 ふっ、と笑う。

「さぁ、戦いの理由は出来てしまった訳だ。
 だから、貴様もデバイスを出せ。
 さもなくば、貴様はここで終わるっ!!!」

 ザッと音を立ててレヴァンティンを引き抜き、奴に肉薄する。  


「ルーナっ、フォルム・ツヴァイシュベーアトっ!!!」

 それに対し、銀ノ森は血色の双剣を展開し、後退しながら私の一閃を防ぐも、胸元のネックレスの鎖が断ち切られ地面に落ちる。
 銀ノ森は私の攻撃の衝撃も利用したのだろう、空中に逃げた奴はこちらに攻め込んで来ず、その場でこちらを睨みつけてくる。

「どうした?
 顔色が悪いぞ?
 勝負に臆したか?」

 銀ノ森は私の挑発にも乗らず、その後も防戦一方で攻撃を仕掛けて来ない。
 双剣を巧みに操り、受け流すことに意識を割いているようにも見える。
 魔法も飛行魔法やバリアジャケットといった最小限のものだけしか使用しているように見えない。
 なにかあるのかと考えるも、顔色からただ単に力量不足だと判断したが、これがなかなか決着がつかない。

 体格も同程度。
 
 スタミナ切れを待つのもありだが、ここはさらに攻めるべきっ!!!

 私は一端距離を置き、

「カートリッジロードっ!!!
 シュランゲフォルムっ!!!」

 ガションと一つカートリッジを消費し、レヴァンティンは連結刃へと形態を変える。
 これで中距離よりの立体的な攻撃可能となる。
 奴は今までの行動より遠距離、中距離の攻撃がないか乏しいようだ。
 故に戦局はさらにこちらが有利となるっ!!!
 

「行くぞっ、レヴァンティンっ!!!」

『Jawohl』

 
 蛇のように銀ノ森に迫る連結刃。
 
 だが、銀ノ森はいきなり黒髪の女性から九つほどの銀髪の少女に変貌し、いつだか見た白銀の騎士甲冑を展開した。

「あんたのそのクセは知ってるんだよっ!!!」

 そのまま、双剣の片方で連結刃を防ぎながら、もう片方の剣をこちらへ投擲する。
 先程まで硬く結ばれていた口は、口の端を吊り上げた笑みとなる。

「っ!!!」
  
 シュランゲフォルムは私の意思で自由自在にコントロールできる半面、敵の攻撃を防ぐことが難しくなってしまう弱点がある。
 私は体を捻り避けようとするが、避けきれず、右わき腹を掠めてしまう。

 その隙に今度は銀ノ森が肉薄し、攻守逆転になってしまう。
 即座に元の状態であるシュベルトフォルムに戻し、奴の攻撃を凌ぐ。
 銀ノ森は残された片方の剣の柄から伸びる赤い魔力で構成されたヒモにより投擲した剣も回収したようで、手数で勝負して来た。
 どちらにも貫通系のエンチャントをしているのか、パンツァーガイストを展開してもあまり変わらない。
 しかし、時間が経てばもちろんスタミナが切れるのが先であるのは双剣だ。

 肩で息をし始めた銀ノ森。

「どうした?
 もう疲れたのか?」

「っぐ」

 その隙を突き、奴を蹴り飛ばす。
 奴はそのまま公園の地面に叩きつけられる寸前で体勢を立て直す。

「まだだ。
 まだ、行けるに決まってるだろ」

 奴はそんなことをほざき、銀髪が輝き始めるが、もうそんなことは関係ない。

「なっ!!!」

≪つかまえ……たっ!!!≫

 銀ノ森はその場で膝から崩れ落ち、仰向けに倒れかかる。
 その胸の上では、銀ノ森のものではない腕が生え、その手の中には銀ノ森のリンカ―コアが握らている。 

「残念だが、こちらはお前にこれ以上付き合うヒマはないのでな」 

 そう、ヒマなどあるものか。
 主はやてには時間がないのだ。
 だから、あえて隙まで与えて貴様が私にしか気を配れないほどまで集中させ、かつ立ち止まる瞬間を待っていたのだ。
 
 蒐集する隙を得るために。

≪シャマル、手早く済ませろ。
 主はやてに気取られぬうちに帰宅するんだ≫

≪わかってるわ、ちょっと待ってね≫

 そう念話で返すシャマル。
 そして蒐集が開始される、
 銀ノ森は苦しいのか叫び声をあげるが、そう時間はかからない。
 少しの辛抱だ。

≪あっ?!!≫

≪どうした?≫

 蒐集も終わりかけたその時、シャマルの驚きの声が上がったかと思うと、
   
「は?」

 銀ノ森夕那が足元に現れたベルカ式の魔法陣に吸い込まれて消えてしまった。

≪………おい、シャマル、これはどういうことだ?≫
 
 私も今までに前例がないことゆえに、反応するのに少し間が空いてしまった。

≪えーと………、失敗しちゃった?≫

≪………≫

≪………≫

≪………おい≫

≪だ、大丈夫よ、蒐集はちゃんとしたし、彼女も他の誰かが攫ったとかじゃなくて闇の書に吸収されただけだから、し、死んでないわよ?≫

≪動揺しすぎだ、シャマル………≫

 まぁ、何はともあれ、蒐集は無事成功しページも稼げた。
 明日からはヴィータたちのように別の世界の生き物からリンカ―コアを狩り取ることになるだろう。

 ………銀ノ森夕那、貴様の犠牲は忘れはしない。


 Side out


・あとがき
   
 戦闘描写なんて書けません、夕凪です。
 ユウナ君にあえて偽装魔法で戦ってもらいました。
 無印編でやろうか悩んでた偽装魔法の使用方法ですが、どうでしょうか?
 双剣はなんとなくフェイトのバルディッシュを参考にしてみました。

 たぶん、次回かその次あたり、そろそろなのはさんが出張ってくるかと思います。

 では、感想・ご指摘・アドバイス、おかしな点がありましたらお願いします。
 修正する時の参考になるのでありがたいです。


・アリサ部屋

「一週間ぶりのアリサ・バニングスよ。
 もうそろそろ私の出番もあるわよね?
 なんて呟いちゃうくらいは出番を確保できる位置にいるアリサ・バニングスよ。

 日曜日の夜、バイオⅢの後、インディさんが放送されることを知って、なんだか妙な気持になったわ。

 感想の返信よ。

 ヨシヲさん
『きっと、アリシアさんが自力でレンタルしてくるでしょう』
 プレシアさんは研究系の魔導師だと思ってたわ…。

 パウルさん
『もうすぐです。ですが…あまりパワーアップはしてませんよ?』
 ユウナが見てられなかったのよ、きっと。
 アリシアもきっと同じ理由よ。

 バタフライエフェクトさん
『青い髪の子は別に出したいので……。
 い、言われてみれば、あったかもしれない』
 だ、大丈夫よ、決闘と言う名前なだけだから…ダメかしら?

 γさん
『青いバラに関してはあくまで比喩表現で用いたので……。
 まぁ、ミッドと地球をごちゃ混ぜにするのもおかしいですが、仮にミッドと地球の純粋な青いバラを誕生させたのが同じ時期だとして、二十六年前に死んだアリシアが地球に復活して四日目です。
 アリシアがレンタルで観ていたクリスタル・スカルが発表されたのが2008年で、今年2010年ですから誤差二年とします。
 青いバラの誕生が六年から四年前でその頃は話題に上がったとしても、二十六年前の人間であるアリシアはそんなことを知りません。
 地球にやってきて四日。朝方の会話より三日くらいの経過時間です。この三日のうちにテレビで青いバラに関する話が起こるとは考えられませんし、アリシアはレンタルのDVDを観ていますから、さらに番組を見る機会が減りますし、他のことをする可能性が大きいです。それに誤差二年ですと、去年発売されたバラは話題に上がる前の時間軸の可能性もありますし、なにより十月後半ですから。
 それに、ミッドで先にこの『青いバラを遺伝子操作により生み出す』というアイディアを得た人がいたとしたら、地球の歴史での話は意味がなくなってしまうんですよね。

 シグナムに喧嘩売るに関しては、痛い目にあわされたのとはまた違うトラウマなので、そこはこれから書いて行く感じなので控えます。
 アリシア関連では話が進まないのでこうしました。
 リーチ関連は上の物語で。
 結界は、確かにバレる時はバレますね。
 と、長くなりました。すみません』
 な、長すぎよ…」


・舞台袖

「ユウナ……遅かった」

「フェイトお姉ちゃん、そのネックレスってユウナお姉ちゃんの?」

「うん、ユウナの、ぐすっ、ユウナ、攫われた」

「お、お姉ちゃんっ、泣かないでよっ!!!」

「うぅ、ゆうなぁ………」
 



[18634] 第三十五話 リスタート
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/10/04 20:12

 Side なのは

 シャカシャカとヘッドホンの隙間から音がもれるのも気にせず、わたしは周囲の雑音が耳に入らないようにと音量を上げて廊下を進む。
 首にはマフラー、私立聖祥大学付属小学校の白い制服の上に紺色のコートを着込んでいるものの、十二月の寒さは伊達じゃない。
 吐息は口から出るや、すぐさま白色の靄となって視界に現れる。
 
「半年とちょっとぶりかぁ」

 わたしは誰もいない廊下で呟いた。

 

 半年。
 ミッドチルダで過ごして半年。
 あちらで魔法の技術を磨いた期間。
 色々思うことがあった月日。
 ゼストさんやクイントさん、メガーヌさんや………おまけにゼスト隊の人たちと奇妙な仲間意識を持ったり、充実した半年だった。

 本当のことを言うと、辛い任務も多かったけど、地球になんて帰らずにゼスト隊にずっといたいと思ったりもした。

 けど、『半年の教育期間』の終わりが来てしまった。
 それはつまり、地球へ、強制的に連れ戻されることを意味した。

 初めての任務でたくさんの死体とかを見て以来、なにかと優しくしてくれたり、稽古をつけてくれたゼスト隊のみんな。
 妊娠してからなにかと産まれてくる赤ちゃんの話を幸せそうに通信でしてくるメガーヌさん。
 休日にわたしの気分を晴らすためかどうかしらないけど、ギンガちゃんやスバルちゃんと会わして遊びに連れて行ってくれたクイントさん。
 アースラに引き渡される時、不器用に頭を撫でてくれたゼストさん。
 
 お別れは辛かったけど、悪ぶって、「今度帰ってくる時は目にもの見せてあげるのっ!!!」って意味不明なことを口走った恥ずかしい記憶(ちなみに昨日の昼)が今でも頭の中でリフレインしてる。
 わ、悪い子なのはは、ば、バカな子じゃないって今度証明してやるのっ!!!

 ………何はともあれ、地球に戻ってきてしまったの。

 しかも、わたしを監視するためかどうか知らないけど、リンディ提督やクロノ執務官が近所に住むことになったとか。
 気分は最悪なの。
 こっちの気持ちも考えないで、いっつも勝手に決めて命令してくる人たちだし。
 
 
「………止めよう、あの人たちのことを考えても良いことなんてないもん」

 わたしは頭をぶんぶんと振ってこの事柄を思考の隅に追いやる。
 その動作に合わせて結んでいない髪も揺れ動く。 
 
 前までしていた二つ結びは止めたの。
 理由は単純。
 子供っぽいから。
 悪い子にそんな要素は不要なの。
 クイントさんみたくストレートが一番なの。

 ………鏡で見て、お母さんみたいだと思ったけど、関係ないの。

 ピタっと足を止める。
 見上げれば、自分のクラスのプレート。
 中を覗けばホームルームの真っただ中で、先生が出席を取っていた。
 わたしは「はぁ」と溜息をつく。

 地球に戻る。
 それはすなわち、小学生に戻ること。
 はっきり言って、

「めんどくさいなぁ」

 友達関係なんてもう滅茶苦茶。
 修復とかする気もない。
 勉強? そんなことより魔法だよ。

 ゼスト隊の人たちとは済し崩し的に良好な関係になっちゃったけど、わたしの目的はユウナ・シルバーフォーレストとフェイト・テスタロッサを追い詰めること。つ、ついでに、あのトラックの恐い金髪の子も。
 そのためにはもっと強くならなきゃいけないんだ。死ぬなんて真っ平ごめんなの。
 それにアルフさんとの契約もフェイト・テスタロッサを捕縛することだし、今度は独りじゃないんだ。
 今はどこに潜んでるか知らないけど、待ってて、絶対ギッタンギッタンにしてあげるのっ!!!
 ………ま、まぁ、内臓とかはぶちまけないように気を付けるから。
 
 初任務の光景がフラッシュバックして気持ち悪くなってしまったけど、なんとか我慢できた。
 この頃緩んでたほのぼのハートも、これで来て引き締まったと思えば安いものだ。

 手のひらをギュッと握りしめて、コートのポケットに拳をいれる。

 自分のやりたいことをするなら、悪い子であれ。
 良い子は自分を押し殺した八方美人。
 そんな子には二度と戻らない。

「それに………『良い子』の席は埋まっちゃったしね」

 わたしはポケットに手を突っ込んだまま、足で扉をスライドさせる。
 その音に気付いてこちらを見やる目、目、目。

 みんなの目には驚愕と怯えといった感情が混ざりあった色が浮かんでいる。
 それもそうなの。
 半年前、一番心が荒れてた時を知ってるだろうし、この眼帯もある。
 忌避して当然なの。

 先生がなにか喚いてるけど、ヘッドホンでなにも聞こえないの。
 聞こえても聞く気ないけど。
 
 わたしは一つ空いている席に座ってそのまま机に突っ伏す。
 カバンなんて持ってきてないの。
 出席してるだけマシだと思ってなの。

 この半年で席替えがあったみたいで、わたしの席は窓側最後尾。
 窓からは日の光が差し込んでお昼寝日より。

 さぁ、寝よう。
 おやすみなさい。


 Side out 

 ◆◆◆


 Side アリサ

「ふふふ………ついに、ついにこの日が来たわよ」

「アリサちゃん、その、ちょっと怖いよ?」

 すずかが引き気味にそんなことを言ってくるが関係ない。
 ついにターゲット、なのはが学校にやってきたんだからっ!!!
 海外に行ってるとか色々噂があったけど、この際どうでもいいわ。
 
 ホームルーム中に雰囲気が滅茶苦茶変わったなのはが入ってきたのには驚いたけど、今の私の心は歓喜の嵐が吹き荒れている。
 そう、例え髪をおろしていようと、ヘッドホンで「聞く耳持たん」という意思を表現していようと、眼帯をつけて威圧してこようとも、彼女が『高町なのは』であることに変わりはないのだ。
 なのはに訊きたいことは一杯ある。
 半年前に何をしていたのか。
 誰をヤってしまったのか。
 あの大型犬のこととかも一杯一杯あるんだからっ!!!
 そして、なのはを止められなかった私の責任を果たすっ!!!

 さぁ、なのは。
 この半年で研究したネジ曲がった心の矯正法を受けてみなさいっ!!!
 
 ずかずかとなのはの席へと足を進める。
 それを周りの連中は恐る恐る見守る。
 あのなのはを元に戻せるのかといった表情だ。

 ふん、見てなさい。
 私がなのはを改心させてみせるわよ。

「なのは、半年ぶりね。
 ちょっと二人きりで話したいことがあるからちょっと来てくれない?」

 まずは挨拶、そして二人きりでカウンセリング。
 そこでなのはの荒んだ心をお花で埋め尽くされた心に戻して見せるわ。
 話さえできれば、そのとっかかりくらいは掴めるだろうし。
 ふふん、私の作戦に隙はないわ。

 一秒経過。
 二秒経過。
 三秒経過。

 一向に返事がない。
 ホームルームの時から同じ姿勢で動かないなのは。
 耳元からずれたヘッドホンからシャカシャカと音がする。
 眼帯で判断できなかったが、起きてるものとばかり思ってたなのはの背中は一定のリズムで上下している。
 つまり、寝てる。

「―――っ!!!」

 プツンと頭のどこかで音がする。
 それはそうだ。
 自信満々で行ってみれば、相手は寝てる。
 キレて当然。 

「起きなさいよっ、起きろって言ってるのよっ、なのはぁああああああっ!!!」

 逆ギレしてなのはを揺さぶるも効果なし。
 コートやマフラーも装着したままで暖かいのだろうか幸せそうな顔して、涎まで垂らしている。
 その様子に周りも幾分かなのはへの恐怖心が薄れたようだ。
 ちょっとギクシャク具合が少しマシになったみたい。

 ………えーと、これも作戦の内よ?
 う、うん、なのはへの周りの態度を緩和させる作戦よ。 
  
 そんな風に納得しているうちに休み時間が終わってしまった。

 うぅ、なのは、一筋縄じゃ行かないわね………。


 Side out


 ◆◆◆

 Side アリシア

「お姉ちゃん、入るよ」

「………」

 わたしが寝室のドアを開け、中を窺えば昼間だというのにカーテンは閉め切られたままで、心なしかこの部屋の主の心情を投影しているのか、空気も淀んでいる気がする。
 停滞した空間。
 見れば、ここ半月ばかりと変わらない様子のフェイトお姉ちゃんの姿が目に映る。
 どこを見ているのかわからない瞳。
 ベッドの上で布団に包まってユウナお姉ちゃんの枕を抱いて過ごす毎日。
 時々、「ゆうなぁ………」と呟くくらい。
 ベッドの周りには栄養補給用のゼリーのゴミ。
 たぶん、昨晩と今朝の分。
 
「はぁ」

 わたしは溜息をついてそれを片付け、カーテンを開け放って窓を全開にする。
 冷たい新鮮な空気が部屋に流れこむ。
 これでお姉ちゃんの気持ちも持ち直さないかと考えるが、すぐに頭の中で否定する。
 
 ―――こんなことで治るわけがない。

 お姉ちゃんはか細くまたユウナお姉ちゃんの名前を呼んだ。

 
 一カ月前。
 決闘の翌日。
 帰って来ないユウナお姉ちゃんを捜しに行ったフェイトお姉ちゃんが見つけられたのは、フェイトお姉ちゃんとおそろいのペンダントただ一つ。
 それから半月、フェイトお姉ちゃんは街中捜したけど、ストーカーもユウナお姉ちゃんも見つからなかった。
 道場の人に住所を訊いて行ってみてもその番地に辿り着くことができなかったらしい。
 情報を聞いて回って何も得られない。

 お姉ちゃんは必死にユウナお姉ちゃんを捜索したけど、半月経って過労で倒れたきりこの状態。
 ゼリーだけの食事に寝る時間を惜しんで捜してこれじゃ、しょうがないよ。

 フェイトお姉ちゃんとユウナお姉ちゃん。
 二人はわたしと知り合う前から一緒だったみたい。
 どれくらいかは知らないけど、フェイトお姉ちゃんのユウナお姉ちゃんへの依存具合はとてもすごかった。
 なんだかんだ理由をつけて構ってくれと言わんばかりにユウナお姉ちゃんに迷惑かけてた。
 ちょっとでも落ち込むとユウナお姉ちゃんに泣きついてた。
 心の支え。
 そんな感じ。
 だから、ユウナお姉ちゃんがいなくなったフェイトお姉ちゃんはとても弱ってる。
 
 絆パワーもあながち嘘じゃないのかも。

 そんな風に思えてくるほど、お姉ちゃんの様子はひどい。
 せめて、ストーカーさんを見つけられれば………。
 
 わたしはそっとお姉ちゃんに近づいて、頭をなでる。
 お姉ちゃんは目を細めて、また、眠りについた。

「これじゃどっちがお姉ちゃんかわからないよ」

 苦笑しながら、そっと寝室を出る。

『Miss』
 
 すると、タイミングよくリビングのテーブルの上に置いてあるデバイスたち、その中の白いプレート、マリオンが声をかけてきた。
 こちらがマリオンの方へ顔を向けると、彼女らの上に海鳴周辺のマップが表示される。
 それに一つ、二つと次々に赤いマーカーが増えていく。

 自然と口元が緩む。

「さすがバルディッシュにマリオン、インテリジェントデバイスなだけあるね。
 ママのデバイスも役に立ってるし。
 個別のシグナルは捕えられるものだけで構わないから登録して」

 わたしは二人(?)にやることを伝えて外出の準備に取り掛かる。

 目的は当然、

「ストーカーさん、わたしのお姉ちゃん、取り返すからね」


 Side out
 

 ◆◆◆


 Side なのは

「にゃっ」

 突然意識が覚醒したわたしは壁掛け時計をチェックする。 
 時刻は十時半を過ぎたところ。

「お昼の時間………ラーメン屋………」

 そのままヘッドホンをかけ直して教室の出口に向かう。
 早く行かないと、最近人気出てきたから込んでしまう。
 おじさんとのラーメントークタイムがなくなってしまう。
 それがわたしの数少ない密かな楽しみなのに。
 ミッドチルダで半年前からお世話になってるラーメン屋さん。
 どうしても行けない時を除いてほとんど毎日通ってる。

 それなのに失敗した。
 最近はクイントさんがこの時間帯の訓練担当官で、任務以外の時は必ず一緒に行ってたのになんで起こしてくれなかったのっ!!!
 そうクイントさんへの怒りが込み上げてくる中、少しの違和感を覚え、周りを見渡す。

「(あ、そうだった………)」

 瞬間、クイントさんへの感情で熱くなった心が冷めていく。

 周囲は小学生ばかり。
 みんな、席に座ってて、わたしが外へ向かおうとしているのを見て何事かと窺っている。
 先生もムスッとした顔でわたしの席を指さしている。

「(ここは、地球だったの)」

 わたしは先生に負けないくらい不機嫌な表情で席に戻り、窓を見る。
 そこに映る自分の顔はイライラ半分、退屈半分といったもの。
 
「(つまんない)」

 外は曇りのためか薄暗く、わたしの心はさらにマイナスに傾いてしまう。
 いっそのこと学校から抜け出してしまおうか?
 そうすればこの窮屈な時間とはさよならできる。

「うん、名案なの」

 決まれば即行動。
 ガタッと音をたてて立ちあがると、先生がコメカミをピクピクさせてこちらを微笑みながら睨む。

 ………器用なの。 
 
 それはともかく、
 ヘッドホンを首の方にずらして、周りの声が聞こえる状態にする。

「先生、飽きました。つまらないです。そーゆーわけで帰ります」

「た、高町、先生を怒らせるのも大概にしろよ。
 授業聞かずにヘッドホンつけて寝るわ、授業中歩きまわるわ、あげくにサボタージュ宣言だと?」

 頬が引き攣る算数の先生。
 歩き回ったのは謝るけど、これ以上ここにいたくないのでさっさと教室を出るに限る。

「じゃ、先生、頑張ってください。
 わたし、腹痛で早退しますから」

「さらっと嘘をつくなっ!!!」

 そう言って教室を出ようとするわたしにチョークを投げる先生。
 
 ―――体罰って禁止じゃなかったのっ?!!

 そう思いながらも、クイントさんやゼストさんに鍛えられた反射神経で飛んでくるチョークを上半身を反らして避ける。

「えっ?!!
 あの運動音痴で有名ななのはが避けたっ?!!」

「うそっ?!!
 なのはってこんなことできたのっ?!!」

「だから言っただろっ!!!
 高町の眼帯の下にはサイキョーの眼があるんだってっ!!!」

 わいやわいやと口を開くクラスメイトたち。
 先生は余程自信があったのか口を半開きにして固まってる。

 ………チョークを避けるだけでこの言われ様。
 なんだろう、みんな殴っていいかな?

 とか思いながらドアを足でスライドさせて教室を出る。
 再起動した先生は騒がしくなった生徒を鎮めるのを優先したようで追ってこなかった。

 にゃはははは、体罰なんてしようとするからなの。
 でも、真面目に授業受けてた人たち、ごめんなさいなの。
 こ、ここまで大ごとにする気はなかったの。
 
 ちょっと冷や汗を流しながら街へと繰り出すわたしこと、高町なのは。
   
 面白いもの、あるかな?


 Side out


 ◆◆◆


 Side クロノ

「報告。ターゲットN、教育機関より移動を開始。
 脱走した模様。
 ターゲットはそのままショッピングモールへと向かっている様子」

「報告。ターゲットN、ショッピングモールへは向かわずゲームセンターへ標的を変更した模様」

「報告。ターゲットN、射撃ゲームでハイスコアを更新中。
 魔法と異なるのに質量兵器での射撃も守備範囲の模様」

「報告。―――」

「………エイミィ、ヒマなのはわかるが、そんな事細かに状況を説明しなくていい」

「むぅ、クロノ君、つれないなぁ。そんなんだから背が伸びないんだよ」

 そう言ってエイミィはムスッとした顔でこちらを睨んでくる。
 僕は最近また再発した胃痛を和らげるために胃薬を飲んでスル―する。
 
 僕たちがいる部屋は薄暗く、光源と言えるものはエイミィが座っている席の目の前の機械類のディスプレイのみ。

 そのディスプレイにはこの街の立体的な地図と『ムスッとした表情のなのは』のデフォルメされた画像がマークとして映し出されている。

 内心、なんでこんなことをしなくてはいけないのかと嘆息するも、全ては母さんの命令だ。
 上司命令には逆らえない。

『闇の書の騎士と思われる魔導師、魔法生物への傷害事件がこの近辺の次元世界で起きてるらしいわ。
 というわけで、エイミィと二人、ユーノ君の部屋の隣に住んでなのはさんを監視兼周辺警備、よろしく頼むわね♪』

 アースラを出る時はなんの冗談かと思ったけど、母さんは本気だった。
 確かに前回の闇の書事件からの年月を考えれば、最近の被害状況はプログラム体のものによる可能性がでてくるのは確かだ。
 だからと言って、ほぼ休暇のようなこの現状、なにかしなくてはいけないような気がしてうずうずする。
 ワ―カ―ホリックとかいうものかもしれない。

 とりあえず、母さんがアースラのメンテナンスの手続きを踏み終わるまでだ。
 それが終わったら書類仕事でもして気を晴らそう。

 そんな気の抜けたことを考えていたからか。

「く、クロノ君っ?!!」

「現状報告っ!!!」

「つ、つれたのはクロノ君じゃなくて犯罪者っ!!!」

 薄暗い部屋にアラートが鳴り響く。
 
 こうして、事件の幕は開けたのだ。

 Side out


・あとがき

 ごめんなさい、なのはが主人公に成り替わりそうな予感びしびしの三十五話、夕凪です。
 今回こそはシリアスにっ!!! ………できるはずがないですよね、はい。
 この拝啓・オリヴィエ様を書き始めた時も思ったけど、シリアスな雰囲気出せないです。
 かといって戦闘描写も書けません。
 そして、読み返した時に「これが黒歴史ってやつか」と妙に納得してしまいました。
 放りなげずに完結目指しますけど、他にもやりようがあったのにと後悔中です。

 感想・ご指摘・アドバイス、あったりすると嬉しいです。

 では。


・アリサ部屋

「なのはが手強いわ………。
 でもまだやれるわよっ!!! なアリサ・バニングスよ。
 ふふふ、私も出番が増えて嬉しかったり、もう、なんて言うか、うん、嬉しいわ。
 次回こそ、なのはに正しい道を指し示すのよっ!!!

 え、次回に私の出番はないの?

 感想の返信よ。

 あなやさん
『はい、夕凪自身も改めて読んでみて、その場のその場の流れでやってるようにしか…。
 いや、そうゆう風に書いた夕凪が悪いんですが。
 改善できるかわかりませんが、今後のユウナ君の行動を書く時、もう少し考えて書いてみます』
 い、いまさら変えられるの?

 パウルさん
『た、確かに…。
 子守りユウナ君だ。
 ユウナ君はこのまま保育士に…?』
 いや、ならないでしょ、その職業には。

 バタフライエフェクトさん
『し、自然だ!!
 というか、ヴィータも子守り騎士に?』
 苦し紛れに資金不足だったとかで逃げられなかったとか?
 でも、普通それでも逃げるわよね」


・舞台袖

「ふふん、狙い撃つのっ!!!
 犯罪者はみんな、地獄に堕ちろぉおおおおっ!!!」
 
 
 
「あのちびっ子、またベストスコア更新してるよ」

「マジかよ。ってか、ゾンビって犯罪者なのか?」

「さぁ?」
 
 
 
 
 



[18634] 第三十六話 ヴァイス&シュバルツ
Name: 夕凪◆9099fa56 ID:100c20d1
Date: 2010/10/06 08:46


 Side なのは

『でね、そろそろお腹の子に名前をつけてあげようと思うんだけど、なのはちゃんはどんな名前が良いと思う?』

「………地球とミッドじゃ感覚が違うと思うよ、メガーヌさん」

 カプッと噛みつくと、チーズバーガーに小さな歯型が残る。
 揚げたてアツアツの塩分過多と思われるフライドポテトを摘まみながら、口の中をジンジャエールで湿らせる。
 
 ゲームセンターで遊んで、お腹が減ったわたしは近くのファーストフード店に入り、現在窓際の席で半年振りの日本のジャンクフードを食べながら、国際どころか次元を超えてメガーヌさんと電話している。

 いかにも体に悪そうだけど、半年振りだとものすごくおいしい食べ物のような気がする不思議。
 今夜は健康に配慮してアルフさんとサラダでも作ろう。お母さんと顔を合わせないように早い時間にやろう。
 なんてことを考えながらメガーヌさんと会話してたら、急に名付け親になれなどと言ってきた。
 数瞬の思考停止状態から回復し、妥当な返事をするもそれでもメガーヌさんは話を続けてくる。

「そもそも、そうゆう役はクイントさんやゼストさんに頼むのが普通なの」

『なのはちゃんが良いの♪』

 電話の向こうでニッコリと嫌味のない笑顔を浮かべてるメガーヌさんが簡単に頭に浮かぶほど、上機嫌な声だ。
 ちょっと肩を落としながらミッドっぽい名前を考えてみる。
 メガーヌさんじゃなかったら考えてあげることすらしないけど、この人だから少しくらいなら考えてあげよう。
 ちなみに女の子らしい。
 わたしはとりあえず、思いついただけ言ってみる。

「コークローチ・アルピーノ、クリケット・アルピーノ、モスキートー・アルピーノとか?」

『なんだか微妙な発音ね?
 どんな意味なの?』

 純粋に不思議に思ったのか、メガーヌさんはクエスチョンマークを大量に返してくる。
 え?
 本当に思いついたものを言っただけなんだけど。
 ど、どうしよう、お、怒るかな?

 内心冷や汗たらたらの状態で、

「い、言わなきゃ、ダメなの?」

『? 
 えぇ、せっかくなのはちゃんがつけようとしてくれた名前だし、知りたいな』

 悪あがきにも失敗してしまう。
 しょうがないと溜息をつきながら口を開く。

「………ゴキブリ、コオロギ、それから蚊」

『………』
 
 沈黙するケータイ。
 喉が渇くような感覚。
 ジンジャエールを炭酸のピリピリに注意しながら飲む。
 ふぅ。

 よし、覚悟完了なの。
 テキトーなこと言うものじゃないのと後悔しながらケータイに耳を近づける。

 

『―――なのはちゃん、それ、どうゆうつもりでつけたのかな?』


 機能を回復したメガーヌさんのお説教タイムの始まりだった。
 
 
 
 
  
 結局、

『ルーテシアかルーテシアかルーテシア。
 なのはちゃんがこれだって思う名前をつけてあげて♪』

「………そ、それじゃルーテシアでお願いするの」

 わたしに選択権なんてなかったみたいなの。
 
 
 
 
『それじゃ、なのはちゃん、学校にもしっかり行くのよ?
 またね』

 話したいことだけ話して切れるケータイを見つめ、冷めたポテトを口に運ぶ。
 うん、メガーヌさん、クイントさんみたいになって来たの。

 ケータイをポケットにしまい、なんとなしに窓の外を見る。
 外はアーケードになっているため、雪や雨が入りこまない通りだけれど、歩く人たちの頭や肩には雪が乗ってかっている。
 降り始めたみたいなの。
 
「雪かぁ」

 去年、アリサちゃんとすずかちゃんと一緒に雪合戦やカマクラを作ったりして遊んだ記憶が思い出される。
 雪合戦は身体能力が高いすずかちゃんの圧勝で、わたしとアリサちゃんは必死に逃げて、二人で協定を結んで対抗してみたけど惨敗。
 カマクラでは、アリサちゃんちでみんなで作って、鮫島さんとかが補強してくれたため、普通の小学生のレベルじゃない頑丈なものになった気がする。
 それで、三人そろってその中で鍋を食べて、楽しい想いをしたの。

「(まぁ、今年はそんなことにはならないけどね)」

 ズズッと音がする。
 ジンジャエールも底をついたみたいだ。
 わたしはヘッドホンをかけ直し、トレイを片付けて店を出た。

 音楽プレーヤーから流れてくる情報に耳を傾けながら、思う。
 
 魔法に触れてから置かれた立場。
 魔法に触れてから経験したものごと。
 魔法に触れてから変わってしまった自分の心。

 もし、あの時。
 ユーノ君の声に耳を傾けていなかったら。
 
 もし、あの時。
 魔法というものに心を惹かれていなかったら。

 もし、あの時。
 あの二人に強烈な想いを抱くことがなかったら。


「(今年もみんなと一緒に楽しめたのかな?)」

 
 アーケードを抜けると、灰色の空から深々と真っ白な雪が降りてきた。
 ポケットから手を出し、そっと雪を掬うように差し出す。
 手のひらの上に降りた雪は、すぐに溶けて透明な水となる。

「(もしかしたら、こんな雪みたいに純粋な心でいられた未来もあったのかも?)」

 口元が緩むけれど、果たしてその未来を自分は望んでいるのだろうかとも思う。
 だって、それを望むということは、今までの行動、想いを否定することになる。

 あの二人の逮捕への意気込み、この眼帯の下にある眼、ゼストさんたちとの出会い、金髪の子、任務で垣間見た世界。

 全部、なにもかも、今のわたしを構成する心のパーツ。
 したいことをする。しがらみを捨てて。
 それが今のわたしの心の形。
 色はきっと白じゃない。
 
 水を払い、温かなポケットに手を再びしまって、人通りの少ない路地へ行く。
 まだ小学生は学校に行ってる時間帯。
 警察に補導されるないようにと決して広くはない道を歩く。

 
 
 
「お、お嬢ちゃん、飴玉あげるから、お、おじさんと遊ばないかぃ?」

 
 
 
「今時の小学生は飴玉なんかじゃつられないの」
 
 
 
 
 
 現れた息遣いの荒い小太りの変態さん。
 その人の死角、後頭部が桜色に光ったかと思うと、その場に倒れ込む。
 顔面からアスファルトに叩きつけられたけど、犯罪者だ、自業自得だ。
 彼を無視して道を進む。

「(きっと、わたしの色は―――)」

 それからしばらく、わたしは無意味な思考を続けることとなる。
 シャカシャカとヘッドホンから音をこぼして。
 粉雪が舞う道を、ただただ独りで。
 
  
 
 Side out
 
 ◆◆◆

 Side フェイト

 何もしたくない。
 もう、何も考えたくない。

 ベッドに転がって、動きもせず、ただユウナをかすかに感じられる彼の枕を抱いて、日々を過ごす。
 
 ユウナがいない。
 それだけで、私は何もできなくなってしまった。

 最初は必死に捜すことができた。
 ユウナが勤めていた道場に行ってストーカーの住所を聞き出し、そこへ行くとか。
 街でユウナの特徴やストーカーの特徴で街を歩く人たちに訊き込みをするとか。
 海鳴の隅から隅まで歩き回って捜すとか。

 そう。
 毎日体が悲鳴を上げても頑張れた。
 すぐに見つけてみせる。
 ユウナをまた自分のもとに連れ戻す。

 それを目標に頑張れた。
 でも、一日が経ち、二日が経ち、三日が経ち―――なんの成果も上がらない日々に心が削られていった。
 道場で教えてもらった住所に行ってみても、その上下の数字の番地が存在するのにストーカーの家の番地がなかった。
 足元で二匹の猫が自慢気に鳴いていた。意味もなくムカついた。
 訊き込みをすれば、皆が首を揃えて横に振る。
 そんな人物に心あたりはない、と。外に出されず、ユウナは監禁されてるのか。早く助けたい。
 倉庫や廃屋も捜した。
 でも、いなかった。腹いせに、その場にいた態度の悪いやつら全てに雷を放った。

 それからすぐに体調を崩し、同時に気力もなくなってしまった。

 もうユウナは見つからない。
 そんなことは認めたくないけど、手掛かりすら掴めない。

 つぅと涙が頬を流れる。
 ユウナの枕に顔を埋めても、もう自分の匂いしかしない。
 ユウナのネックレスの十字架を握りしめる。
 
 ユウナとの繋がりはこれしかない気がするから。
 そんな錯覚すら起きてしまうほど、私は弱っていた。

 ふと、頬に冷たい感触がした。
 手で拭ってみると、それは水。
 顔を上げれば、アリシアが開けた窓から雪が入りこんでいた。
 どうやら正体はこれのようだ。

「ねぇ、ユウナ、どこにいるの?」

 白い雪はユウナの銀の髪を思い起こさせ、自然と口から出た言葉。
 会いたい。
 会いたい。
 会いたいよ、ユウナ。

 寝返りをうち、またユウナの枕に顔を埋める。

「寒いよ、ユウナ。
 ユウナの胸で温めてさせてよ」

 その言葉に、返事が返ってくることなどないとわかっていても、紡いでしまう。

「ゆうなぁ………」

 冷えた午後は、始まったばかり。


 Side out

 ◆◆◆

 Side なのは

 自業自得。因果応報。
 正確には今回のケースに当てはまる言葉ではないけど、自分の行いが自分に返ってくるという意味においてはしっくり来る言葉だろう。


「よぉ、ちょっとあたいにツラ貸してくれねーかな」


 世界から人の気配が消え、彼女はそんな言葉と共に現れた。
 


「へぇ、わたしに用があるんだ。
 どんな用なのかな?」


 わたしはヘッドホンを首にかけて、挑発的な笑みで彼女に答える。

 彼女はわたしと同年代か、それより下の年齢に見える。
 赤いゴシックロリータ風のドレスを身につけ、被る帽子には口を縫われたウサギの人形がついている。
 着飾るものと似た長い赤い髪は後ろで二つに分けられ三つ編みにされている。
 気が強そうな吊りあがった眼。
 それ以上に攻撃的な印象を持たせるのは、彼女が担ぐハンマーだろう。
 ミッドにいた時は結構周りがそうだったからそんな気がしないのだが、あまり使い手がいないアームドデバイスの類だ。
 普通のミッドの魔導師の天敵。
 騎士と呼ばれる種類の魔導師。
 そんな人物が現れたのだ。

 彼女はわたしの挑発に気が触ったのか、すぐに肩に担いだデバイスを構え、

「もちろんっ、用っつったらこれだぁあああああっ!!!」

 鉄球を生成し、ハンマーでそれらを投擲してくる。

 ガツンガツンガツンと、三度音を立てそれらがこちらへ殺到してくる。

「甘いのっ!!!」

 クイントさんと練習したシュートイベーションの要領で高速回避。
 教室でチョークを避けるのと違い、魔法で空中を滑り、段違いの回避能力で移動し、地上から空中へと昇る。

 鉄球はそのままアスファルトを砕き、クレーターを作りだす。


 それを見て、わたしは安易に魔法を使うべきじゃかったと思い返す。
 先程、変態を倒す時に魔法を使用したため、この子はわたしが魔導師だと気付いたんだ。
 そうでなくてもわたしの魔力量は普通の人に比べると多いらしいし、見つかるのは時間の問題だったのかも。

 彼女はこちらをキッと睨んで次の攻撃の体勢に移っている。

 相手の目的は不明。
 だけど、わたしが魔導師だから襲ってきたのだろう。

 ニヤリと口元を歪めて笑う。

「犯罪者が自分から来てくれるんだから、捜索しなくていいぶん楽なの」

 ポケットから黒い水晶を取りだす。
 ゼストさんから貰ったストライクフレームの試作機の最終調整版。
 レイジングハートはインテリジェントデバイスでアームドに近いこのフレームとの調整が難しいらしくてまだ完成してないらしい。
 
 わたしはこれを起動して、黒いバリアジャケットを纏う。
 ベースはレイジングハートに登録してあるバリアジャケットだが、色を変え、胸元のリボンをなくし、代わりにブレストアーマーが見えるようになっている。
 袖や靴も金属味のある光沢を放つものと成り、腰には防護用のアーマーも追加され、重厚なものとなった。
 ゼストさんたちに言わせると、バリアジャケットというより騎士甲冑らしい。
 
 ストライクフレームも初期型の灰色から黒にカラーリングされた槍となる。
 レイジングハートのカノンモードに似てるけど、翼も出なければ、トリガーもない。
 未だ砲撃魔法が使えないままだが、体裁きは完成形に近づいているはずだ。
 十分戦えるっ!!!
 
 だが今回は部が悪い。
 ハンマーと槍、直に打ち合えば力負けするのはこちらだ。
 つまり、


「行くぞっ!!!」 

 相手はスピードを乗せた打撃攻撃をしてこようと、接近。

「ディバインシューター、セット。
 アクセルシューター、セット」

 わたしの声に合わせてシューターが十門開く。
 周囲に桜色の球体が浮遊する。

 わたしは相手との距離を測りながら、回避運動を取り、ビル陰へと姿を隠す。

「くそっ、逃げるなっ!!!」

 そんなこと言われても仕方がないの。
 ビルの合間を高速移動しながらサーチャーを放ち、相手の位置を確認。

「えーと、位置は―――」

 見えない左目の視界に相手の位置を示したマップを投影しているのだが、

「(あれ? この位置って)」

 今日で何度目かの冷や汗を掻くわたし。
 風の音の向こうから何かを破壊する轟音が響いてくる。


「(ま、まさかっ!!!)」


「あたしはっ、ここだぁああああああっ!!!」


 わたしより上に位置するビルの壁が膨らんだかと思うと爆音を立てながら派手に吹き飛ぶ。
 
「うそ………」

 その中から先程より巨大化したハンマーを振りかぶって現れた少女。
 ニヤリと笑う彼女。

 
 だが、

「ディバインバスタ―八門全てシュート」

「なっ、それ反則っ?!!」

 次の瞬間、桜色の魔弾に打ちのめされるハンマー少女。
 壁抜けには驚いたけど、わたしのシューターを舐めないで。

 頭上から降ってくる瓦礫をフラッシュムーブを細かく使用し掻い潜り、なんとか何もない空へと抜けられた。
 クイントさんとの訓練が一番役にたってる今日この頃なの。

 サーチャーで観測しながら、まだ平気そうなハンマー少女にアクセルシューターとディバインシューターの速度差攻撃をして、こちらを探す余裕をなくさせる。
 ………させているはずなのだが。

「なんでこっちの場所がわかるの?」

 何故か、いくら別のビル陰に移動してもハンマー少女はこちらへ真っ直ぐ突き進んでくる。
 サーチャーを飛ばすような器用な子にも見えなかったし、そもそもそんな時間がないように弾幕を張っているんだ。

「おかしい。やっぱり、なにかあるんだ」

 


「それはそうだろう、お前と違ってこちらは複数なのだから」
 
 
 
 
 
 ゾワッと肌が粟立つ。
 即座に訓練通りに体が動き、死角になる左側へデバイスで防御態勢を取った瞬間に衝撃が襲いかかってくる。

「くっ!!!」

 衝撃に身を任せて相手との距離を取ると、先程までいた場所に剣を振り抜いた形でいる桃色の髪の騎士がいた。
 相手が二人もいるなんて状況は厳し過ぎなの。
 今こうしている間もハンマーの子もやってくるっていうのに。
 
 剣の騎士はその場でカートリッジをロードし、剣に炎を纏わせる。

「(やっぱり、クイントさんたちと同じシステムっ!!!)」

 瞬間的に魔力を高めるドーピング。
 そんなものやられたら、ただのアームドのこちらに勝ち目が薄いのは明白だ。
 
「あぁもうっ!!!
 部が悪過ぎっ!!!」

 すぐさまフラッシュムーブ連続使用で逃げに移る。
 こうなれば、どーせ監視してるだろう執務官と『良い子』ポストに落ち付いてるあのフェレットが来るのを待つのが得策だ。アルフさんはまだミッドの方の片付けでいないから、今回は計算外だし。
 沸々と味方陣営の方に怒りが湧き出してくるが、この際我慢。
 ちなみに念話も妨害されていることに今気付いたの。
 

 戦闘に集中しようとサーチャーに気を配る。
 シューターのウザさでハンマー少女の方へは多少の進行妨害を行えているが時間の問題。
 剣の騎士は―――捉えていた姿が掻き消える。

「えっ?!!」

 次々と切れていくサーチャー。
 切れる直前には必ず剣の騎士の姿が垣間見える。

「早過ぎっ?!!
 フェイト・テスタロッサより速度あるよっ?!!」

 ダメだ。
 このままだとハンマー少女の方のサーチャーまで潰される。
 そうすれば、確実に二対一の状況になる。

 勝ち目ゼロ。
 
 
 
 
 バンッと頬を自分で叩く。

 弱気になっちゃダメだっ!!!
 
 わたしはなんのために強くなろうとしたの?
 
 ―――あいつらを捕まえるため、そして、死なないためだっ!!!

 なら、ここで負けるということはどういことなの?

 ―――今までの全てが無意味だったことっ!!! ゼスト隊のみんなに顔向けできないってことっ!!!

 じゃぁどうする?

 ―――生き残るんだっ!!! 撤退できないこの状況、勝てないなら、負けないことだっ!!!


「よしっ!!!
 負けないっ!!!」


 で、その方法は?
 
 
 
 
 
 ―――模索中。

 ………。
 ………………。
 ………………………。

「ダメなのっ!!!」


 頭を掻き毟り、混乱の極みにある状況でついにタイムリミットはやって来た。


「待たせたなっ!!!
 このミッドの逃げ腰魔導師っ!!!」

「誘導弾のコントロールは褒めるべきだろう、ヴィータ」

「はんっ、逃げてばっかのやつをあたしが褒めるわけねーだろ、シグナム」

 ハンマー少女がムダに壁抜きして現れると、その後ろから悠然とした動きで剣の騎士もやってくる。

 ハンマー少女改めヴィータは眼を欄欄と光らせ今にも飛びかかってきそうだ。
 剣の騎士改めシグナムは片目を瞑り、こちらの様子を観察している。

 早速、背水の陣。

 どうする?
 どうするっ?!
 どうするっ?!!

 焦りばかりが募り、なにも行動しないまま時間は流れる。
 
「さぁ、今度こそアイゼンのしつけ―汚れにしてやるよっ!!!」

「おい、殺しはダメだと―――」

 ヴィータがわたしに攻撃しようと踏み出す、
 
 
 
 
 
 
 
「見つけたっ!!!
 わたしんちの家庭崩壊の元凶さんっ!!!」
 
 
 
 
 
 どこかで聞いたことがあるような声があたりに響き、
 
 
 
 
 
「バインドッ、バウンドッ、バインディングッ!!!」

 
 次の瞬間、黄金色のバインドが次々と現れ、ヴィータとシグナムを雁字搦めに締め上げていく。

「なっ?!!」

「伏兵だとっ?!!
 魔力反応はなかったはずっ?!!」

 二人とも驚きの声を上げ、捕縛されて動けなくなっていた。
 そして上空から現れる声の主。

「今、ここにっ!!!
 我が家の希望の星を捕えたのですっ!!!」

 真っ白なバリアジャケットを纏って現れた金髪に黒のメッシュを入れた五歳くらいの少女。
 大き目のマントを羽織り、頭にはちょこんと小さな白いシルクハットが斜めにくっ付いている。
 そして振り返ると、マントの下は赤いワイシャツに黒のスカート、白の二―ソックス。

「協力ありがとう、黒い人っ!!!
 ストーカー兼誘拐犯を捕える手助けをしてくれて」

「え?
 あ、うん、どういたしまし―――」

 そう、ここまではよかった。
 ここまでは。
 この少女の顔以外、そのバリアジャケットに防御力あるのかな? とか、そんな疑問どうでもよかったのだ。

 だってその顔は、

「ふぇい、と、てす、たろっさ?」

 あいつそっくりだったのだ。

 わたしの呟きは、「えへへ~」と喜ぶ少女の耳には届かなかった。



 Side out


・あとがき

 なんか、なのはさん書くと筆(?)が進む不思議。
 なのはさんのバリアジャケットは映画版を参考にしてこうなりました。
 アリシア登場。
 シリアス風味な雰囲気を壊してくれるのはもうアリシアしかいないっ!!!
 と、思う夕凪です。
 
 感想・ご指摘・アドバイス、お待ちしております。
 
 では。


・アリサ部屋

「本当に今回出番がなかったアリサ・バニングスよ。
 ふふふ、でももう荒れたりしないわ。
 だって、なのはサイドがあるんだから私の出番は保障されたようなものなのよ。
 まぁ、すずかはどうかしらないけど。

 感想の返信よ。

 バタフライエフェクトさん
『ま、まさか、全員なのはベースのマテリアルズ?!!』
 被害出ちゃったわね。

 外剛さん
『ということは、なのはさんはリーゼロッテ(猫)とチート勝負を?!!』
 言葉にはね言霊ってものがあってね、だから、その、そんなこと言うと現実になるかもしれないじゃないっ?!!

 パウルさん
『黒になりましたが、ビームは出ませんよ………たぶん』
 ちょ、ちょっと、なのはの眼はあるわよっ?!!
 取る気なのっ?!!

 ヨシヲさん
『星光さんが本当になのちゃんになりそうで恐いな思います』
 違うわ、私がトップよっ!!!(嘘)

 Nameless'さん
『サイコガンでも自然と思われるなのはさん?!!』
 本当に高町家ではどうなってるのかしら?」


・舞台袖

「ディレイドバインド………さぁ、ひっかかれ、ひっかかれぇ。
 わたしの衣食住の食の楽しみとか、家事とかいろいろ困らせてくれたストーカーさん、ひっかかれぇ」

『『………Miss』』
 
 
 
 
 
 
 


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