はじめましての方ははじめまして、せると申します。
注:今作は氷室SSです。
士郎×氷室を不快に思う方、回れ右でお戻り下さい。
ここから先は危険です、地獄です。
また、以前投稿した「氷室恋愛劇場」とは何の関係もございませんのであしからず。
それでは皆様方、どうぞ、宜しくお願いします。
『鉄音同盟(仮)』
鉄を打つ音にも種類がある。
ただ武器を打ち鳴らす音にも理はある。
剣戟は何の為に。
歯車が回る意味は何故に。
機械が織る夢は何処に。
自明だ。
無為なる赤鉄には一片の意義を。
剣戟は守る為に。
未来の為に、歯車は回れば良い。
美しい鐘の音が鳴る。
そんな明日を、織れば良い。
* * *
さて少し唐突だが、此処である偉人に曰く。
『世の中は、君の理解する以上に栄光に満ちている』らしい。
また、こう言った者もいた。
『森の分かれ道では人の通らぬ道を選ぼう。すべてが変わる』そうだ。
古来より、知らぬもの、未踏の領域に価値を見出すのは人間の性である。
開拓という言葉と共に、西へ西へと謳いながら馬を駆けた映画などがあるように。
多くの冒険者が停滞した既知を忌み、多くの賢人が隠された未知を求めた。
その試作と思索の果て、世界の法則は徐々にではあるが解かれつつあるのだ。
――そう、解かれつつあると思っていた。
「はは……」
女史、などという呼び名が笑わせる。何のことはない。私も所詮平和ボケした日本人で、情報でしかモノを知らない一衆生の一人だったのだ。
この国には既知しかないと、狭い常識だけで狭い世界を規定し、忌むどころか疑いさえしなかったのは紛れもなく己の落ち度。
物理学者たちの名の下に、世界が理路整然とした神の箱庭であることを妄信していたのだ。
何が才媛だ。本当にそういわれるほどの頭脳を、否、精神を持ち合わせていたらなら、私はきっと、あの狭く優しい世界に還ることさえできただろうに。
(嗚呼、井の中の蛙、頭でっかちの夢想家――氷室鐘の大バカ者め)
目の前の現実に、私は半ば現実逃避のようにそんな事を考えていた。
何せ他にやることがない。
足は震えて動かないし、目は地面に転がったリアル志向のマネキン人形に釘付けだし、おまけに――ああ、これが致命的なんだが――もう既に、頭の上で化け物が腕を振り上げていたので。
現状から結論を出すのは簡単だ。どうやら数秒後、私はこの薄汚い路地裏で死ぬらしい。
阿呆らしい、馬鹿らしい。
化け物に襲われて死ぬ? なんだその犠牲者Aのテンプレートは。
如何様な罵倒と嘲笑を以ってしても飾るには足らぬ、惨めで愚かな滑稽劇 。
それほど意義深い人生ではなかったが、まさかこんな三文芝居で幕を下ろすとも思わなかった。
どうしてこんなことになったのか。
私はこの今際の際で、そんな使い古された問いを脳裏に浮かべたのだった。