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電波望遠鏡:惑星系の誕生追う「アルマ」 日米欧がチリに建設

 日本から飛行機を乗り継いで1日半以上。南米チリの高地にあるアタカマ砂漠で、日米欧が共同で作る電波望遠鏡「ALMA(アルマ)」の建設が進んでいる。ハイテクを駆使して、人類が目にしたことのない惑星系誕生の現場や、宇宙で最初の銀河の観測を狙う。現地を訪ねた。【青野由利】

 ■標高5000メートル

 望遠鏡が建設されるのは、標高5000メートルの山頂施設だ。空気の薄さに加え、強い紫外線が降り注ぐ。過酷な環境だが、この「乾燥した高地」こそ、電波観測の適地だ。空気中の水分は宇宙からの弱い電波を吸収するため、観測の邪魔になる。標高が高いと気圧が下がり、水蒸気も減る。ここアタカマ砂漠は年間降水量も100ミリ以下と、好条件がそろっている。

 現地を訪ねたのは7月。標高2900メートルの山麓(さんろく)施設では、望遠鏡の「目」に当たる日米欧のアンテナの調整が続けられていた。8月末までに7台が、山頂施設に運び上げられたという。

 最終的には、直径12メートルと同7メートルのアンテナを合計66台設置し、一つの望遠鏡として働かせる。「干渉計」と呼ばれる技術で、観測対象によってアンテナの配置を変える。最大まで広げると、直径約18キロ。東京のJR山手線がすっぽり収まるほどの巨大望遠鏡となる。12年の完成が目標で、来年前半にも観測した電波を処理した「ファースト画像」が見られそうだ。

 ■高感度で観測

 アルマの「視力」は、高度約600キロで周回するハッブル宇宙望遠鏡の10倍だ。「東京から大阪にある1円玉が見分けられるくらいの性能」と、国立天文台アルマ推進室長の立松健一教授(電波天文学)が説明する。感度も従来の電波望遠鏡の30~100倍と高い。非常に弱い電波を検出できるだけでなく、観測時間も短くて済む。感度が100倍上がると、それまで1日がかりだった観測が、10秒で済む計算だ。

 こうした高性能は、ハイテク技術が支える。アンテナは、表面の鏡の凹凸を髪の毛の太さの3分の1以下に抑えた。氷点下20度~20度と寒暖の差が激しく、吹きさらしの山頂でも観測精度が保てるよう、設計や素材に工夫を凝らした。

 受信機は雑音を極限まで抑え、多数のアンテナが受け止める信号の処理には、日本が独自に開発した専用スーパーコンピューターが活躍する。

 ■目指す対象三つ

 アルマは、波長0・1~10ミリの短い電波(ミリ波とサブミリ波)をとらえることができる。恒星や惑星の材料となる分子雲や星間物質がよく見える。目指す対象は主に三つ。一つは「惑星系誕生の現場」だ。

 私たちの太陽系の形成には「標準モデル」がある。太陽の誕生と同時に、ガスやちりでできた軽い円盤が生まれ、その中にできた微惑星同士が衝突・合体を繰り返して惑星になる--という考え方だ。

 95年以降、このモデルに合わない惑星系が宇宙で次々と見つかっている。確かめるには、誕生の現場を詳しく見なければならないが、惑星は小さく暗い。そこでアルマの視力と感度が威力を発揮する。

 2番目は、宇宙初期の銀河誕生の様子。宇宙は137億年前にビッグバンで生まれ、その4億年後に最初の星が誕生したと考えられている。現在最古の銀河は、ハワイにある日本の「すばる望遠鏡」がとらえたビッグバンから8億年後の姿。アルマは、さらに古い「夜明け直後の宇宙」に誕生した第1世代の銀河の様子を突き止めると期待される。

 3番目は生命に関係する分子の発見だ。たんぱく質を構成するアミノ酸が宇宙空間に見つかれば、生命誕生の謎に迫れる。

 ■初の国際計画

 日本が負担するアルマの建設費は256億円。全体の25%にあたり、応分の観測時間が配分される。日本が作るアンテナは66台のうち16台で、「いざよい(十六夜)」の愛称が付けられた。求められるアンテナの性能は共通だが、実現する技術は日米欧で異なる。

 「欧米と対等な立場で進める国際大型プロジェクトは、基礎科学ではアルマが初めて」。現地で観測所全体の副プロジェクトマネジャーを務める長谷川哲夫・国立天文台教授が強調した。協力と競争が混在する国際プロジェクトは、日本の科学の弱点を克服し強みを生かすための方策を考えるきっかけにもなりそうだ。

 ◇南極にも天文台計画

 地球上における天文観測の適地は限られる。晴天率が高く、光害や人工電波の影響がないことに加え、大気が薄く乾燥している必要があるからだ。そうした場所を求めチリの高山やハワイのマウナケア山に各国の望遠鏡が集中する。

 過酷な環境だけに、アルマで働く研究者・技術者たちはメディカルチェックや安全確保などに関する講習を義務づけられている。それでも、富士山頂より高い標高5000メートルの山頂施設に長くとどまることはできない。今回、記者は、高地を甘く見たせいか、標高2900メートルの山麓施設で軽い高山病にかかってしまい、山頂施設訪問をあきらめざるを得なかった。

 いま、地球最後の適地として注目されているのは南極。極低温で空気が乾燥し、大気中のちりも少ない。日本の東北大や筑波大、中国、欧州、オーストラリアなども天文台の計画を持っているが、これまた過酷な環境。簡単に訪問できないのが残念だ。

毎日新聞 2010年9月21日 東京朝刊

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