妹の考えた愛と恋について
「――ねぇお兄ちゃん。『愛と恋の違い』って、なんだと思う?」
同じベッドの上。俺の隣で寝ている妹が、唐突にそんな議題を切り出した。
今の時刻は深夜。
そして季節は、まだ寒さも残る冬の暮。一つの掛け布団を共有する妹の体温がありがたい、二月も半ばに入った頃だ。
こんな時間で同じベッドに妹が、しかも中学生の妹が隣で寝ているという表現は、謀らずともいけない妄想を膨らましてしまいそうなのだが……俺と妹は、決してそんな関係ではない。
年齢も思春期に差し掛かかり、俺にそんな質問をしてくるようになっても妹は、時たま一緒に寝たくなるのだという。
そして今夜も妹は、愛用しているピンク色のパジャマ――少しサイズが合っていない、大きめのパジャマ――をダボッと着こんで、ピンク色の大きな枕を抱えてトコトコ歩き、俺の部屋にやってきた訳だ。
そんな、妹萌えの奴らが見たら一目で飛びかかってしまうような、ズレたパジャマから鎖骨が見える無防備な姿で兄の部屋にやってくる妹に、俺は我が妹ながら少し呆れる。
が、まぁ俺の妹は、世間様によく居るような兄に向って悪態を吐くような妹ではなく、俺によく懐いてくる素直で可愛い妹なので、特段冷たくあしらう理由もない。
なので、たまに甘えてくる妹を、俺はこうやって快く受け入れているのだった。
「ねぇお兄ちゃん? ちゃんと聞いてる?」
同じ布団から顔だけ出した妹が、俺の方に少し寄ってくる。
まぁ、『快く受け入れる』と言っても、俺だって思春期の健全な男の子だ。控えめに言っても整った容姿の妹――いや、正直に言うと学校の可愛い子ランキングで一、二を争う程の美少女――が隣で寝ていては、いくら妹とはいえ、その『女の部分』に多少困惑してしまう事もあった。
なら一緒に寝なければいいのだが、慕う妹を無下にする事もできず、心なしか胸も膨らみ始めた妹に『俺は今度から床で寝る』という妥協案を示した事もある。
だが、数年前に発案されたその方法は、妹の潤んだ瞳により強制的に却下されてしまっているのだった。
なので、俺と妹の間では『たまに同じベッドで語り合いながら寝る』というちょっと変な習慣ができてしまっているのだ。
軽く睡魔が襲ってきた頭でそんな事を考えていると、隣から、また妹の声が聞こえてくる。
「……ねぇお兄ちゃん。もう寝ちゃったの?」
少女特有の、甘く香る髪を頬に流して、俺の顔を覗き込んでくる。
吐息がかかる程の距離まで遠慮なく近づいてくる妹に、俺はまたも呆れながら返事をした。
「ああ、起きてるよ。えっと……何の話だっけ?」
「だから、愛と恋の違いについて。お兄ちゃんはどう思う? 私はね、恋よりも愛の方が立派なモノだと思うの。それで、その違いについて、お兄ちゃんの意見も聞こうと思って」
「う~ん……愛と恋の違いねぇ? そんな事を『彼女居ない歴イコール年齢』の俺に聞くのはどうかと思うけど――」
愛と恋の違い。何かあるだろうか? パッと思い付いたのは、ありきたりな豆知識だった。
「――『恋は下に心があるから下心、 愛は真ん中に心があるから真心』なんて言うけどな」
「私が聞きたいのはそんな低能丸出しの言葉じゃなくて、もっと真剣なやつ」
横目で見ていた妹の眉が、少しつり上がる。
まだ眉毛も切ったりしない年頃だというのに、妹の端正な顔立ちは、その眉さえも整って見える。
いや、最近の子なら妹くらいの年になれば眉くらい整えるのだろうか? まぁどうでもいいけど。
「真剣なやつってなんだよ……それじゃあさっきの……ことわざ? みたいなのを考えた人は、真剣じゃないみたいじゃないか。それはそいつを考えた人に失礼だろう」
「別に私も、最初に思い付いた人を悪く言ううつもりはないよ。だけど、人の考えた言技を、あたかも自分の考えのようにひけらかして、自慢気に語る人が嫌いなだけ」
「ふむ。お前がよく分からんこだわりを持っているのは分かった」
「『よく分からん』って何よ。じゃあお兄ちゃんは『俺はこんな事も知っているんだぜベイビー。どうだ、俺って凄いだろベイビー。しかも、こんな事を知っている俺は他の奴らとは一味違うんだぜベイビー。だから、俺は君の事を大切にできるんだぜベイビー』ってな感じで言い寄ってくる男の子が真剣だと思う?」
「ふむ。とりあえずベイビーがゲシュタルト崩壊しそうな事は分かった。あとそいつの語尾はずいぶんと特徴的だな。もしかしたら萌えキャラになれるかもしれん」
「……お兄ちゃんも嫌い」
「イタタタタ。嫌いな人の唇を引っ張るのはどうかと思うぞ?」
嫌いな奴だったら触れたくもないだろう。
「嫌いにも色々あるの。愛の形みたいに」
「ふにゅ……まぁ少なくともアヒル口の形ではないな」
男の俺をアヒル口にしても可愛くないだろう。女の子が自分自身でやっちゃう姿も可愛いとは思わんけどな。
やっぱり、人にやられてちょっと涙目になるくらいの方が可愛いいんじゃないか?
「お兄ちゃんって茶化すからふにゅー」
こんな風に。
「おお、以外と面白い顔になるな。これは写メろうか」
ふんふん言っている妹を尻目に、俺は片手で枕元を探って携帯を手に取る。
しかし、携帯を開く俺の手が、妹の細い指によって思いっきり抓られた。
「痛たた――ギブギブ」
そう言って妹のプニプニな唇から手を放してやる。妹も、俺の手を抓るのは止めてくれた。
「そんな写メ撮ったら逆パカするよ?」
やめてくれ、これの中には色々と入用なモノが……。
「……なんかムカつくからやっぱり写メ撮らなくても折る」
「だぁっ!? なんでっ?」
「心の声が聞こえた気がしたから」
「いやいや、それはきっとお前の勝手な妄想だ。決してそんな事はない」
「そうかなぁ? たぶん当たってると思うけど……」
ああ、当たってるけどな。折るのは止めてくれ。
「まぁそれより、今日はもうそろそろ寝ないか? 俺、あした日直なんだよ」
「え? そうなの? ……ごめん、付き合わして」
「いや、いいけどな。それじゃあ……おやすみ」
そう言って俺が話を切り上げようとすると、妹が一言付け足してきた。
「あ、お兄ちゃん。明日は雨が降るから傘持っていきなよ? 明後日は晴れるけど、明日は雨だって」
「ん? そうなのか? ……分かった、持っていくよ。ありがとう」
「もし忘れたら私が持って行ってあげるね?」
他意のない微笑みを、妹が浮かべる。
こういうところがあるから、俺も甘えてくる妹を拒めないのだ。
「大丈夫。忘れないよ」
そう締めて、今晩の語らいは終わった。
今晩の、と言っても、明日も妹が俺の部屋に来るとは限らない。どちらかと言えば、たぶん来ないだろう。
最近は俺と一緒に寝たがるのも月に数回程度で、そう連日来たりはしなくなっていた。
寂しがりで甘えん坊な妹も、少しずつは成長している、という事だろう。
そのうち一人で寝れるようになる日が来るのだろうな……。
その事を、少し寂しくも感じながら妹の成長を嬉しく思う、というありがちな二律背反を抱えた俺は、その命題と部屋の景色から目を閉ざし、眠りにつくのであった。
次の日。
今日は来ないと思っていた妹が、また俺のベッドに潜り込んでいた。
「――だからね、わたしは恋と愛って二律背反なモノだと思うの」
月明かりが差し込んでくる部屋――だったらちょっとカッコイイのだが、生憎と、都会でそういう幻想的な部屋は少ないだろう。
俺の部屋も例外ではなく、差し込んでくるのは街灯の明かりだ。しかし、そんな人工的な明かりでも、妹の大きな瞳を魅力的に輝かせるには事足りるらしい。
隣からこちらを見つめてくる妹は、まるで夜に煌めく妖精のようにも見えた。
まぁ、元が良いからそんな風に思えるんだろうけどな……こいつ、毎晩俺と一緒に寝たりして、彼氏ができたりしたらどうするつもりなんだろうね?
俺の友人が言うには、「あれだけ可愛ければ学校でも告られまくりだろう」という事だし。俺だって客観的に見れば――見なくても、だな、さっき元が良いとか考えたし――そういう事の一つや二つ、あってもおかしくないと思う。
しかし妹は、彼氏を作るつもりはないらしい。まぁ俺も、過保護ながら妹にはまだそういう話は早いと思うので、その姿勢には賛成だったりするのだが……。
時に、そんな妹はらんらんと瞳を輝かせて、今夜も俺に持論を語っていた。
「私、考えたんだけど……最初は恋と愛の違いって、『相手にああして欲しいこうして欲しい』そう思うのが恋で、『相手にああして上げたいこうして上げたい』って思うのが愛だと思っていたの。でもね、それってどっちも恋だと思うのよ。どっちも、自分の気持ちを相手に押し付けてる訳でしょ? 『こうして欲しいああして上げたい』って。その押し付けた気持ちに見返りがないと、不満に思ったりするし」
「まぁ人間『相手にああして上げたいこうして上げたい』とか思っても、相手の反応がいまいちだと『これだけしているのになんで?』とか思ったりもするわなぁ」
今日の妹はまた特別饒舌だよなぁ、なんて感想を抱きながら、俺はそんな返事をした。
妹は適当に答えを返す俺の気がない返事は気にも留めず、語る内容と同じように、少し真剣な眼差しで熱弁をふるってゆく。
「だからね、お兄ちゃん。私は、愛って恋とは反対で、もっと相手を思いやる気持ちだと思うの」
掛け布団の中ら小さな手をニュッと出して、妹は俺の鼻に人差し指を当てた。
「たとえば、愛には色々な形があるでしょ? 夫婦の間にあったり、親子の間にあったり、極論を言えば同性の間にある思いやりの気持ちとかも愛だと思う。でも、『無償の愛』って言うくらいだし、愛って見返りを求めないモノだと思うの。たとえば……夢を追う恋人がいて、望まぬ別離が二人の間に迫ったりしたら、引き留めるより笑って送り出す方が愛っぽいでしょ? 他にも……自分と一緒になるより違う人と一緒になる方が相手の幸せになるのなら、自分は気持ちを押し殺して身を引く方が愛っぽいでしょ?」
「うーん、まぁそうかなぁ?」
「だから、私は恋よりも愛の方が立派だと思う。だって、凄く大変な事だと思うの。それって」
「まぁな。今の例えだと、好きな人を諦める方が愛っぽいって話だし。それは大変なことだろう」
至った結論の論拠が正しいかどうかはさておいて、いやに熱く語る妹に、俺は感じた事をそのまま口にした。
しかし、よく考えるね妹も、よっぽど愛について考えたいのだろう。
「ふむ。まぁお前が愛の探究者ドンファンだという事は良く分かったよ」
「お兄ちゃん、ドンファンさんを引き合いに出すのはちょっとどうかと思う。少し語呂が良いからって、間違った引用はダメだと思うよ?」
ああそうかい。しかし俺も、まだ子供の癖にちょっとエッチな映画を見ているお前をダメだと思うぞ?
「まぁいいけどな。……それよりも、なんでまた突然、愛だの恋だのを考え出したんだ? ちょっと前まではそういう事には興味なしって感じだっただろう?」
「クラスの子がね。恋がしたい恋がしたい、って仕切りに言うの。けど、恋とか愛って、そんな風に自分からがっついて合コンに行って相手を見つけてきたり、友達から紹介された相手と試しに付き合ってみたり、そういう方法で見つけたモノは嘘だと思うんだ」
俺はお前みたいな年頃から合コンをする今時の子供を嘘だと思いたいけどな。
「恋って、自分からムリに作ろうとするようなモノじゃなくて『ある日気付けば、元からそこにあった』そういうモノだと思うんだよね」
「まぁたしかに。合コン行きまくってるような奴とかを見ると、ちょっとなぁ、とは思うけどな」
「でしょ? それに、無理からに作った相手じゃなくて、自然に見つけた相手こそが、本当に好きになった人だと思うの。そして、本当に好きな相手だったら、自分の気持ちを押しつける恋なんかよりも、相手の事を本当に大事に思う愛を届けたいと思うの」
「ふむ、それで愛と恋の違いについて考えていた訳か……でもそこまで気張らなくても、愛なんて人それぞれ、色んな形があると思うけどなぁ」
「ううん。やっぱり、恋よりも愛だと思うの。本当の愛の方が立派だと思うの」
そう語る妹のテンションと同じ様に、布団の中は熱く籠っている。
熱弁を振るう妹が、知らずのうちに俺との距離を縮め、手や足が少し触れているのだ。
しかし、離れて欲しいと思うほど暑苦しい訳でもなく、今の時期なら眠気を誘う温かさになるくらいだった。
思わず、口から眠気のサインが出てしまう。
「ふわぁ~。……話の途中で悪いんだが、俺はもうけっこう眠い。なので、今日はそろそろ寝ようじゃないか。俺、明日もちょっと早起きしないといけないんだ」
まぁ愛だの恋だのについて考える事は、思春期に入れば誰でも経験する事だろう。
妹はまた一段と愛と恋の違いについて熱心になっているみたいだが……そのうち熱も冷めるだろう。
そう思う俺の考えた通り、愛やら恋やらについてのこだわりは、眠たそうにする俺に無理やり語る程ではないらしい。
妹は語るのを止め、俺に聞いてきた。
「お兄ちゃん、明日も早起きするの? 明日は学校がお休みだよ? お兄ちゃん、お休みの日だといつもは昼まで寝てるのに……なんで?」
「あぁ、ちょっと遊びにな」
うとうとする頭で、明日の予定を考える。昼前に待ち合わせなので、あまり夜更かししては寝坊するかもしれないし、相手を待たす訳にはいかない。
「なんで、俺はもうホントに寝るわ」
「そっか……どこ行くの?」
「うん? ちょっと駅前のカラオケとかその辺だよ。それじゃあ、俺はもう寝るぞ? おやすみ」
俺がそう言うと、妹は心地よい声色に乗せて、就寝の挨拶を返す。
「うん分かった。おやすみ、お兄ちゃん」
そして俺は、瞼を閉じる。
明日こそ、妹は俺の部屋に来ないだろう。さすがに二日連続で俺の部屋にやってくる事はここ半年くらいなかったし……それに明日は、来られてもあまり相手をできないかもしれない。朝から遊ぶのでちょっと疲れているだろうしな。
そんな事を考えながら、俺は夢の世界に旅立つのだった。
そして俺の予想は外れ。
妹はまた、俺と同じベッドの上で、俺と同じ掛け布団にくるまっている。
小雨も降った今日は一段と冷え込んでいるので、僅かに触れた手足から伝わる妹の温もりがありがたかったりするのだが……昨日思った通り、俺は少々眠かった。
しかし、そんな俺の眠気に気付いているのかいないのか、妹は、いつもより俺との距離を縮めてベッドに入っている。
布団に潜り込む時に「うう、さむさむ」なんて言って、柔らかくて小さいその手を俺と重ねていたりするのだった。
そんな妹の態度に多少の疑問を抱きつつ、俺は話に付き合ってやる事にする。
明日も学校が休みだしな。妹も、ここ二、三日のあいだ話していた議論を続けたいようだったし。
「ねぇお兄ちゃん、私、やっぱり愛と恋の違いなんてどうでもいい事だと思ったの」
いや、いきなり議題を全否定した。
「いきなりだな……なんでまた、そんな急に考え方が変わったんだ?」
「うん……『本当に好きな相手だったら、自分の気持ちを押しつける恋なんかよりも、相手の事を本当に大事に思う愛を届けたい』って、私、そう言ったでしょ?」
「ああ、言ってたな」
「それに『自分と一緒になるより違う人と一緒になる方が相手の幸せになるのなら、自分は気持ちを押し殺して身を引く方が愛っぽい』とも」
「ああ」
「けどダメ。そっちの方が本当の気持ちなんだから、そっちの方が立派な気持ちなんだから、そう思い込い込もうとしたけど……ダメだった」
「……何の話だ?」
「お兄ちゃんは、三日前に『彼女居ない歴イコール年齢』って言ったよね?」
「ああ、言ったけど……」
いきなり変わった話題に、俺は戸惑う。
そんな俺の手の平。添えたあった妹の小さな手が、ギュッと指を握り締めてきた。
「じゃあなんで、今日、女の人とデートしてたの? 仲好さそうに相合傘なんてして」
そう言った妹の瞳には、昨日のような人工的な明かりでも煌めいている輝きがあった。ただしそれは、語る言葉に自信を持った、内から出てくる輝きではなく、目に溜まる『何か』によって生み出された輝きだった。
妹の言った言葉と、その表情から予想される答えを、俺の頭が理解する。その前に、うろたえた俺の口からは言葉が漏れた。
「あ、ああ。それは……日直で早めに家を出た日、あっただろ? あの日、バレンタインだったじゃん?」
これ以上言うと、『何か』が決壊する気がした。
それでも、つい前日まで彼女居ない歴イコール年齢だった俺が、こんな場面で上手い対応ができるほど、経験豊富な訳がないのだ。
「あの日、同じ日直だった女の子に、告白されたんだよ」
朝の誰も居ない教室で、チョコを渡された。
その日、その巡り合わせに、少しばかりの運命を感じて心が高鳴ってしまった俺は、その子の告白を受け入れて付き合う事にしたのだ。
そして、今日は初めてのデートに出掛けていた。途中降ってきた通り雨に、その子が持ってきた傘を二人で差しながら――。
「――あ」
そこまで考えて、俺は気付く。
妹が、なぜその出来事を知っていたのかに。
二日前、妹から今日は晴れだと聞いていた俺は、今朝、傘を持っていくのを忘れて家を出た。
だから俺は、女の子と一緒の傘に入っていたのだが……。
「お前、傘を届けようとしてくれたんだ」
「……うん」
悲しそうに、妹の細い眉が歪む。
「私、お兄ちゃんが濡れていないか心配して、駅前まで行ったの……でも、お兄ちゃんは……」
もう問い返すまでもない。次に妹の口から出てきた言葉は、俺の予想通りの言葉。
かすかに開いた妹の唇から儚げに、しかし、強い意志の籠った言葉が紡がれる。
「私、お兄ちゃんが好き」
――妹は、語る。
「私は、お兄ちゃんが幸せになるのなら、私の気持ちを押しつけたりしないで、ずっと黙っていようと思った」
――その小さな体に、溢れる想いを抱きながら。
「けどダメ。知らない女の人と歩くお兄ちゃんを見ていたら、心が苦しくて、切なくて、張り裂けそうだった。あんな辛い気持ち、我慢なんてできない」
――その細い指で、俺の手をギュッと握りしめながら。
「だから、私はお兄ちゃんに言う」
――その濡れる唇で、涙を流したであろう想いのみなもとを。
「私は、お兄ちゃんの事が好き」
再度告げて、妹は体を起こして肘を付き、俺の事を潤む瞳で見つめてくる。
「だから、他の女の人と一緒に居るお兄ちゃんを見たら、私は、難しい事を考えられるほど、冷静でなんていられない。心が締め付けられて、お兄ちゃんへの想いを抑えられない」
そう話す妹に、何と言葉を返したらいいのか……俺がそう考えている間にも、妹は心情を吐露してゆく。
「お兄ちゃんの事を大事に思うのも本当だし、お兄ちゃんの為なら私は気持ちを押し殺しても構わないと思う……でも」
ふいに、妹が俺に覆いかぶさってくる。
俺の両頬。その横に両手を付いた妹は、さっきまで潤んでいた瞳とは違う、艶のある瞳で俺を見つめて。
甘い吐息と共に、その想いを俺に向けた。
「でも……お兄ちゃんに私の気持ちを知って欲しい、私の全てをお兄ちゃんに上げたい、そう思うのも本当」
ゆっくりと近づく妹の顔に、俺は何の言葉も返す事ができないまま。
熱のある瞳が、艶のある唇が、近づいてくる。
「だからね、私、分かったの」
唇が触れ合いそうになる程の距離で、妹は囁くように言った。
「初めから、『恋と愛の違い』なんて考えるまでもなかったんだよ……だって、私の抱えている矛盾した気持ち、それこそが――」
「――恋愛、そう呼ばれているモノなんだから」
企画「哲学的な彼女」の為に書いてみた短編です。
でも企画の方に投稿する根性がないので、試しにこっちで投稿です。
初のオリジナル小説に挑戦。
そう思って頑張ってみたのですが。
終わり方が、書くのが超絶に早い先生の、某空気ヒロインの出てくる第一巻のパクリだったり。
妹の長ゼリフが、まったく新刊の出ない先生の、某ツンツンヒロインの台詞みたいに聞こえますが……まぁ初挑戦という事で勘弁して下さい。
企画を知って、個人的には「哲学は、色々と小難しく考える事。それをラノベちっくにして萌えを」と受け取りました。なら「萌えに必須なラブ、それを小難しく考えてみよう」という考えに至りました。
思春期なら、誰でもこんな事を考えているハズ。たぶん。自信ないですけど。
少なくとも私は考えました。なので、それをベースにしてちょっと書いてみた訳です。
まぁ考え方なんてひとそれぞれだし、恋や愛についての考え方は、物語の都合上必要な部分しか入れていません。
なので私も、この兄妹の考えた愛や恋が正しい定義だ。とは思っていません。
答えを見つけたと思っては、やっぱり迷い、そしてまた他の考え方を見つけていく。
そんな感じで、人は恋愛していくと思うのです。そんな感じを、伝えられる小説になれば良いと思って書いてみたのです。
これを読んで、あなたはどう思いましたか? 感想はユーザー登録なしでも書けますので、お気軽にどうぞ。一言でも作者は喜びます。
もちろん、ご指摘や批判なんかも歓迎です。鍛錬の為に書いたので、厳しいお言葉も大変嬉しく思います。
なので、一言感想から、長文感想まで、お気軽にお寄せ下さい。
PS 作中の二人が、この後どうなったか。気になる人は「わっふるわっふる」と書いて(ry
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