きょうの社説 2010年10月6日

◎日銀ゼロ金利復活 円高・デフレに「満額回答」
 日銀がこれまでの慎重姿勢から一転、積極的な金融緩和の手を打った。政策金利の誘導 目標を現行の年0・1%程度から0〜0・1%程度に引き下げる実質的なゼロ金利政策の復活である。このほか、金融資産を買い取る基金創設の検討など、今回の金融政策決定会合の結果は、市場の期待に沿う「満額回答」といえるのではないか。白川方明総裁はゼロ金利政策や量的緩和の有効性に否定的と言われてきただけに、「心変わり」を歓迎したい。

 米国経済の先行き不安や円高・株安などを背景に、企業の先行き不安が強まっている。 円相場も政府の円売り介入で落ち着きを取り戻したものの、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)が11月に追加緩和に踏み切るとの見通しが広がり、円高圧力がじわじわと増していた。日銀の決断が遅過ぎたとの見方もあろうが、FRBの動向がはっきりするまで円高圧力がそう簡単には収まらないことを考えると、この時期のゼロ金利復活は、タイミングとして悪くない。企業や家計に及ぼす心理的な効果も期待できる。

 ゼロ金利以外にも注目すべき政策が二つある。一つは「中期的な物価安定の理解」に基 づき、消費者物価が1%程度のプラスに転じる情勢になったと判断されるまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針を示したことである。いわゆるインフレターゲット論を強く意識した内容であり、腰を据えてデフレ対策に取り組む決意が示されたといえよう。

 二つ目は、日銀が長期国債や国庫短期証券、社債、コマーシャルペーパー、指数連動型 上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などの金融資産を買い取る総額35兆円規模の基金新設である。限りなく量的緩和に近い手法であり、まさに「異例の措置」(日銀)といえる。特に購入資産にETFやREITを加えたことで、株式市場は活況を呈し、日経平均株価は急騰した。

 円高やデフレは日銀が本腰を入れない限り、解消されない。日銀が遅ればせながらも消 極的な態度を改め、大胆な金融政策に打って出たことを素直に評価したい。

◎白山国立公園拡張 地域の視点も重視したい
 環境省の国立・国定公園の指定見直しで、白山国立公園(石川、富山、福井、岐阜)の 拡張が打ち出された。1962年の指定以来、大規模な区域拡大は初めてとなる。建築物の設置など開発行為が規制されるだけに、地元にとっても大きな動きである。

 見直しは全国で6カ所を新規指定、白山など12カ所を拡張する内容で、名古屋市で今 月18日から開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)へ向け、政府の積極姿勢をアピールする狙いがある。温暖化などによる環境変化に加え、自然保護の考え方自体も時代とともに変わっている。指定区域を再検討する時期にきていることは確かだろう。

 白山国立公園はユネスコの生物圏保護区に指定され、自然の希少性は国際的にも折り紙 付きである。一方で、地元では貴重な財産を地域活性化に生かしたいという思いもある。白山を取り巻く各県では「霊峰」の歴史に光を当て、山岳信仰の道である禅定道などの整備も進められている。国が一律的に自然公園の性格付けをするだけでなく、それぞれの歴史や文化を加味した管理手法があっていい。区域拡大の議論では、そうした地域の視点も重視してほしい。

 国立・国定公園は従来、地形や視覚的な眺めが重視されてきた。だが、生物多様性国家 戦略の中で国立・国定公園は生物多様性保全の屋台骨と位置づけられ、野生動植物の豊かな生息も「優れた風景地」の要素になってきた。日本のどこにもあった里山の風景も、近年は山岳地に連なる貴重な自然として評価されている。エコツーリズムや自然体験の場としての新たな価値も出てきた。公園拡張の背景にはそうした変化がある。

 国立公園行政に関しては、地方分権論議のなかで、自治体への許認可権限の移譲が俎上 に乗せられてきた。白山国立公園でオオバコなど外来種の駆除計画が了承されたが、かつては草や小石一つを採取するのも国の許可が必要で、外来種対策も手続きの煩雑さがネックになっていた。国立公園の指定範囲を広げるなら、国と地方の役割についても見直しを進めたい。