きょうのコラム「時鐘」 2010年10月6日

 ノーベル賞の時節である。毎年、日本人が下馬評に上がる。事前に原稿を用意して、朗報を待つ。何度もそんな原稿を書いて、ボツにした

頭を痛めるのは業績の紹介で、最先端の中身は、門外漢には歯が立たない。今年の医学生理学賞は体外受精の開発者に決まったが、こんな分かりやすい事例は珍しい。いきおい、業績より人柄に関心が集まる。作業服姿で会見に臨んだ田中耕一さん、受賞の弁が「大してうれしくない」だった益川敏英さん。今も強い印象を残す

田中さんは富山に里帰りした折の会見で、平易な言葉を選んで業績を説明した。それでも素人には歯が立たなかったが、その折に聞いた「前かがみの日本人」の話だけは、忘れない

英国での研究から帰った田中さんが驚いたのは、道行く人々の姿勢の違いで、背筋を伸ばし、胸を張って歩く姿が極端に少ない。日本人はどこか頼りなげで、自信を無くしているように見えたという

あれから8年、少しは前かがみは治ったのか。ノーベル賞でも治らぬほど、世間の元気は薄れてしまったのだろうか。悩ましい気持ちを抱いて、朗報を待つ日が続く。