前回に引き続き、STI(性感染症)予防のための腟性交時のコンドーム装着の最大の目的はHIVの感染予防といって過言でない。他のSTIと違って、HIVに感染すると薬ではHIVを完全に体内から除去できないからだ。
ただ、HIV感染の広がりでいえば、むしろ男女間の腟性交での感染は少数派だ。
地域医療振興協会・ヘルスプロモーション研究センター長を務める厚木市立病院・泌尿器科の岩室紳也医師は「いまや日本人男性の20人に1人はMSM(男性とセックスする男性…バイセクシャルやホモセクシャル)」と指摘する。
そこにHIV感染予防の難しさがある。男性同性間の肛門性交では妊娠しないためコンドームを(「STI予防に使おう」といえず)使えないことが、コンドーム装着の習慣が定着しない理由という。
「一般にコンドームは避妊具という認識が強いが、総販売数が減っているのにもかかわらず、妊娠中絶数は減少。STI感染数も全体的には減少傾向で、セックスレス時代を如実に表している。それなのにHIV感染は一向に減らず増加傾向。それはHIV感染の大半が男性同性間の感染だからです」(岩室医師)
昨年の新規HIV感染者1021件(エイズ患者含めず)でみると性的感染は904件で、うち男性同性間が694件、76・8%を占めている。
男性の年齢層別の割合では、20〜34歳の76・3%、35〜49歳の71・8%、50歳以上でも52・3%が男性同性間の感染だ。
岩室医師は「これまで自分の性的指向を抑圧して女性とセックスしてきた男性が、中高年になって社会的な抑圧から解放されてMSMに向かう人が増えているのではないか」と話す。
既婚者ならバイセクシュアル・デビューしたことは当然、妻にはいえず、中高年だと避妊(コンドーム装着)をしない。結果、家庭内でHIV感染を広げてしまうケースが実際にあるという。
「閉経後の中高年女性はとくにHIVに要注意。男性は急にコンドームを使うのも変なので、危険性は分かっていても使えない」と岩室医師。
どんな形のセックスであれ、HIV感染予防・検査は必ず心がけよう。