2010年8月10日 20時57分 更新:8月10日 22時47分
日銀の白川方明総裁は10日、金融政策決定会合後の会見で、米国経済の減速懸念を背景に円高が進んでいることについて、「日本経済に与える影響を注視する必要がある」と警戒感を表明した。日銀は景気判断を維持したが、市場では「さらに円高が進んだり、円高が長期化した場合、日銀は追加緩和策を迫られる」(アナリスト)との見方が浮上しており、政府内でも日銀に対応を求める声が出ている。
決定会合では、足元の景気判断を「緩やかに回復しつつある」と据え置き、先行きも「回復傾向をたどる」と従来の見方を変えなかった。政策金利(無担保コール翌日物)は現行の年0.1%に据え置いた。
今週の市場では、米国景気の先行きが弱含んでいることを材料に、一時1ドル=85円割れ寸前まで円高が進んだため、日銀がどう反応するかが注目されていた。白川総裁は「米国経済や為替相場の動向は、日本経済に大きな影響を与えうる。時間をかけて議論した」と警戒感を強調した。しかしその一方で、米国経済については「見通しの枠の中で動いている」と過度な悲観論をけん制し、日銀が描いている景気回復シナリオと現状に大きなズレはないとの認識も示した。
今回の決定会合は、追加緩和の是非を議論するとみられる米連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)の声明が11日未明に公表されるのを控え、日銀内には「FRBの出方が分からない以上、動けない」(幹部)と様子見の空気が強かった。FRBがもし追加緩和を打ち出せば、昨年11月に記録した1ドル=84円82銭を超えて15年ぶりの円高水準に突入する恐れがあり、年末にかけて日本経済も減速感が強まる可能性がある。その時には、日銀に対応を求める声が強まるため、限られた追加緩和手段を今は「温存」しておきたかったというのが実情だ。
第一生命経済研究所の熊野英生氏は「日銀の判断はあくまで『現時点』のもの。1ドル=80円を突破するリスクが高まれば、追加緩和に動くだろう」とみている。【清水憲司】
10日の閣議後会見で、閣僚からも円高を懸念する声が相次いだ。政府内には、円高回避に向けて、追加緩和など日銀の金融政策への期待感が強まっている。
野田佳彦財務相は、足元の円相場について「偏った方向をたどっている。為替の過度の変動は経済や金融の安定化に悪影響を及ぼし、望ましくない」と市場をけん制。直嶋正行経済産業相も「民間企業の想定レートからすると相当高い」と懸念した。荒井聡経済財政担当相も「回復期の現状にとって好ましくない」と述べた。
菅政権は6月にまとめた新成長戦略で「過度の円高は回避」と掲げた。ただ、直接的な円売り・ドル買い介入については「輸出主導の景気回復を図る米欧の理解を得られない」(財務省幹部)と及び腰だ。けん制発言は「口先介入」に頼らざるを得ない手詰まり感の裏返しと言える。
打つ手のない政府内には、日銀への期待が強まっている。10日朝の月例経済報告関係閣僚会議では、閣僚が日銀からの出席者に対し、為替動向を注視し政府と認識を共有するよう注文した。みんなの党など、日銀に追加緩和を求める勢力は議会で増えている。円高が一段と進行すれば、政府の日銀への風当たりが強まる可能性がある。【坂井隆之】