佐賀市で2007年、知的障害者の安永健太さん=当時(25)=が警察官に取り押さえられた直後に死亡した事件で、付審判請求により特別公務員暴行陵虐致傷罪に問われた佐賀県警の巡査長松雪大地被告(29)の初公判が29日、佐賀地裁(若宮利信裁判長)で開かれ、松雪被告は「保護しようとしたことは認めるが、殴打したことも傷害を負わせたこともありません」と述べ、無罪を主張した。付審判決定による公判は県内で初めて。
公判前整理手続きで、争点は「被告の暴行の有無」と「暴行と遺体の傷との因果関係」の2点に絞られている。
検察官役側は冒頭陳述で、松雪被告がパトカーから安永さんを見つけ、取り押さえるまでの状況を説明。松雪被告があおむけになった安永さんの胸や首を拳で数回殴ったとし、その動機については「手足を激しく動かして抵抗する安永さんを制止するため」とした。
被告側も冒頭陳述し、松雪被告らは安永さんを適法に保護しただけで、殴って抵抗を抑止するのは「そもそも不可能で無益」と反論。暴行があったとする目撃証言については「もみ合いの中で互いの腕が激しく動いている状況を見間違った可能性がある」とし、「通行量があり、多くの目撃者がいる状況で突然、暴行に及ぶとは考えられない」と否定した。
その上で、安永さんの傷も「皮下出血の状況からみて、圧迫によっても生じる程度のもの」と述べた。
冒頭陳述に続き、松雪被告と事件当時、共に行動していた上司の巡査部長を証人尋問。巡査部長は法廷で弁護士を相手に体を使って取り押さえ場面を再現した。
巡査部長は「『静かにしろ』と声を掛けても安永さんは意味不明のわめき声をあげ、抵抗した。これまで保護対象者から抵抗されたことはない」と証言し、自分で傷付けたり他人に害を及ぼすのを防ぐための適切な保護だったと強調。松雪被告については「口数が少なくおとなしいが、仕事ぶりはまじめ」と述べた。
次回は9月6日に開き、引き続き巡査部長などが証人として出廷し、取り押さえ場面などについて尋問する。
【写真】初公判を迎え、佐賀地裁に入る佐賀県警巡査長の松雪大地被告(中央)と弁護団=29日午前9時46分、佐賀市中の小路
「知的障害者の取り押さえ死問題」
安永健太さん取り押さえ死問題 2007年9月25日夕、自転車で佐賀市内の車道を蛇行運転していた知的障害者の安永健太さん=当時(25)=が、警官に取り押さえられた直後に死亡した。遺族は08年1月、警察官を特別公務員暴行陵虐致死容疑で告訴したが、佐賀地検が嫌疑なしの不起訴としたため、警察官5人を佐賀地裁に付審判請求した。地裁は09年3月、1人について特別公務員暴行陵虐罪で審判開始を決定。その後、同致傷罪に訴因変更され、公判では被害者参加制度により安永さんの父孝行さん(49)と弟浩太さん(26)が出廷する。
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