今から20年前、知人からこんなことを言われたことがあります。「僕は医者なんて好きじゃない。いろいろ難しい検査をして、ちゃんと説明もしないで高い金を取る。それで、症状がよくなるかっていうと全然だ。だから、僕は民間療法の方を信じている。腰痛持ちだけど、病院に行ってもちっともよくならない。今、僕が通ってる治療院はいろんな意味で最高だと思う。痛みが取れてスキッとするし、メンタルにも最高に調子がよくなる。医者も見習ってほしい」
それからしばらくして、彼の腰痛の原因が腎臓癌(がん)であることが分かりました。腎臓癌の治療は進歩していますから、もう少し早く気づいていたら、命を落とすことにはならなかったはずです。
もうひとつ、こんな経験もしました。肩が痛むと言う友人から相談があって、いろんな病気の可能性を考えて大きな病院の友人の医師を紹介しました。ところが、仕事に追われている彼は受診をしなかったようです。義理堅い人でしたから「せっかくいい医師を紹介してもらったけど、忙しくてしばらく行けそうもない。でも、マッサージでよくなったので、しばらく様子を見ようと思う」と連絡がありました。
数カ月後やっと受診したようで、友人の医師から報告がありました。遅すぎた検査の結果は「肺尖(せん)部肺癌」。肩の痛みの原因は肺癌でした。この例も、もう少し早く受診してくれていたら、それなりに対応の仕方があったのに、と悔やまれました。
私自身もアロマセラピーという民間療法を医療に取り入れています。しかし、正しい診断をきちんと済ませてから民間療法を行うべきだと考えています。また、診断をした後に民間療法を始めたとしても、症状がひどくなったり何らかの変化があった場合には、もう一度改めて検査をすることが必要です。
治療には患者の多様な選択も可能です。でも、大きな病気の可能性があるのに検査をしないという選択は絶対に存在しません。・すべき検査をしないと言う姿勢は患者力ゼロと言うべきでしょう。自身だけでなく、周りもつらくなります。
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◆相談室
Q.にきびが、なかなか治らない
にきびができて、なかなか治りません。市販のにきびの薬を使って、洗顔もていねいにしているのですが、どんどん悪くなっているような気がします。にきびくらいで皮膚科を受診するのも大げさなような気がして、どうしたらいいものか悩んでいます。福岡市中央区、38歳、女性
A.カビが原因の可能性も
まず、最初に言っておきたいのは、にきびは医学的には「尋常性ざそう」という病気です。単なる肌のトラブルではありません。毛穴がふさがると「白にきび」になり、進行すると「黒にきび」になって、さらに炎症を伴ってくると「赤にきび」になります。
多くの場合、炎症を起こす原因は皮膚の常在菌のアクネ菌です。これは抗菌剤を使うことで治ります。まれにマラセチアと言うカビが原因の場合があり、通常の抗菌剤は効きません。この「マラセチア毛包炎」は、皮膚科専門医の診断が不可欠で、治療も一般のにきびとは異なります。皮膚科医を受診してまず正しい診断を受けるべきでしょう。
Q.胸の激痛、心電図は異常なく
最近、食べた後におなかが張ります。以前は、食べても食べてもおなかがすく感じだったのですが、すぐおなかがいっぱいになります。また、夜寝ている時に胸やけがして、激痛になることがあります。心電図は異常ありませんでした。福岡市早良区、57歳、女性
A.疑われる「逆流性食道炎」
お話をくわしくうかがうと、「胸痛」で循環器科を受診していろいろ検査をされたようですね。ホルター(24時間)心電図までして特に異常なかったようです。おなかの症状を詳しく伝えていなかったので、担当医はとりあえず心臓に関連した検査を中心にしたのだと思います。
症状や経過から一番疑われるのは「逆流性食道炎」です。胃酸の分泌を抑える薬を内服することで症状は治まるはずです。消化器科を受診して検査をし薬を処方してもらうことをお勧めします。胃癌や食道癌の可能性も否定はできませんから検査はちゃんと受けて下さい。
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回答まとめ・小野村健太郎さん
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〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2010年10月5日 地方版