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きょうの社説 2010年10月5日
◎小沢氏強制起訴 市民感覚が示した重い判断
小沢一郎・民主党元幹事長の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件で、東
京第5検察審査会が「起訴議決」の判断を下したのは、小沢氏のこれまでの供述を「不合理」「不自然」と感じている多くの国民の声にほかならない。検察が嫌疑不十分として小沢氏を起訴しなかったのは「有罪判決を得るには証拠が足りない」ためであり、小沢氏が言うように「不正はなかった」と立証されたからではない。小沢氏は市民感覚の判断を重く受け止める必要がある。政治資金規正法の趣旨・目的は、政治資金の流れを広く公開し、政治活動を国民の「不 断の監視と批判の下」に置くためである。小沢氏は、それを偽る行為を「収支報告書のミス」などと軽く扱い、陸山会の土地取引や原資の4億円について詳細な説明を避けてきた。検察の2回の不起訴処分が、国民の判断によって覆されるという異例の事態を招いた主因は小沢氏自身にある。疑わしいところがある以上、法廷という公開の場で、事実関係や責任の所在について、明らかにすべきという検察審査会の主張は、もっともだ。 陸山会の政治資金規正法違反事件を巡っては、元秘書3人が起訴されている。市民感情 からすれば、「秘書に任せている」と言えば、政治家本人は許されるのかという疑問は消えない。公判で捜査資料などが開示されれば、国民の「知る権利」に応えることにもなるだろう。 ただ、プロの法律家から見て、確実に有罪に持ち込むだけの材料がそろっていない状況 下で、公判を維持し、政治資金規正法違反(虚偽記入)を立証していくのは相当の困難を伴う。プロの法解釈と市民感覚のズレをどう埋めていくのか、検察審査会制度の在り方も含めて、重い宿題が残された。 小沢氏は今後、東京地裁が指定する弁護士によって、強制的に起訴されるが、先の民主 党代表選で小沢氏が勝利していたらどうなっていただろう。小沢氏は起訴議決があった場合、訴追に応じる考えを示していたから、現職首相が刑事被告人として法廷に立つことになっていたかもしれない。悪夢としか言い様のない光景である。
◎クマ大量出没 里山定住説への対策急げ
木の実の不作で、北陸でクマの大量出没が予想されていたとはいえ、住宅地にまで行動
範囲を広げ、人を襲う今年の状況をみれば、クマが里山に定住し始めたという専門家の不気味な指摘も説得力を増す。「里山定住」説が本当なら、人との接触はさらに増える恐れがある。クマ対策は新たな局面を迎え、人への被害防止を最優先にした取り組みの徹底が求められている。住宅地に近い場所では、駆除するにしても、周囲の安全確保が大前提である。猟銃を使 用するのか、麻酔銃で眠らせるのか難しい判断を迫られるケースも増えてくるだろう。捕獲体制の強化が急務になるなか、現場で迅速に判断できるよう、自治体や警察、猟友会など関係機関が出没時の対応ルールを確認しておく必要がある。 クマの推定生息数は石川県で700頭、富山県で740頭とされる。北陸では2004 年、過去に経験のない大量出没があり、ブナやミズナラなど山間部での豊凶予測調査に基づく情報提供を充実させた。クマの出没状況は一定の見極めが可能になったといえる。 クマを里山に引き寄せないためには、カキやクリなどエサとなる果実をもぎ取ることや 、クマが隠れやすい薮や下草の刈り取り、生ごみ処理など、対策は出そろっている。大事なのは、これらの対策を地域ぐるみで実施する仕組みづくりである。山間部の木の実が凶作だと早い段階で分かれば、危険地域を定め、官民が足並みをそろえて一斉に対策を講じたい。 クマはすでに里山で子どもを生み、生活の拠点にしているとの指摘もある。出没地域で は、クマが住みにくい環境に変えていく努力が求められている。 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が今月、名古屋市で開かれ、北陸で も関連会議が予定されている。生態系保全など幅広いテーマが議論されるなか、この地域で最も身近で深刻な課題の一つがクマ対策である。 地域全体で認識を共有し、知恵を絞る絶好の機会でもある。グローバルな視点とともに 足元を見据えた現実的な議論を交わしたい。
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