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尖閣諸島沖で勃発した中国漁船の衝突事件をきっかけに急速に悪化した日中関係。反日、嫌中といった国民感情だけではなく、日本企業への影響も甚大だ。場当たり外交がもたらした失点は、いまだ拡大中だ。

 「誰が聞いているか分からないので、その(尖閣諸島の)話はやめましょう」

 日中関係が急激に悪化した9月下旬、日本の大手メーカーの中国合弁のトップは、話題が尖閣諸島に及ぶと、こう言って口をつぐんだ。日本人だけの会合でも警戒を怠らないのは、中国ではオフィスなどに盗聴器が仕掛けられている可能性があるからだ。

 沖縄県の尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件の悪影響は、日本企業の中国事業に確実に広がっている。

 中国政府が閣僚級以上の交流の暫定停止を決めた9月19日。翌週に予定されていた日立製作所協賛の環境関連イベントが突如延期された。イベントを主催する国務院傘下のシンクタンクから「延期する」と連絡が入り、日立関係者は対応に追われた。

広がる困惑、凍りつく現場

 ハイブリッド自動車やハイテク製品に欠かすことができないレアアース(希土類)の日本向け輸出の事実上の停止で産業界に困惑が広がっていた最中、日本企業を凍りつかせたのが、24日に明らかになった、中国当局による中堅ゼネコン、フジタの社員の拘束事件だ。河北省の軍事関連施設をビデオ撮影したとして現地の警察に身柄を拘束された。

 20日には浙江省杭州市で、トヨタ自動車系の金融会社が、販売店に対して違法なリベート(販売奨励金)を渡していたとして、罰金を支払うよう通達があった。「ほかの外資や中国のメーカーも同じようなリベートは出しているのに不可解だ」と別の日系自動車メーカー関係者は首をかしげる。

 公共事業など、政府や各自治体が直接発注に関与するプロジェクトでの日本勢への影響も大きい。

 中国共産党の機関紙、人民日報系の「環球時報」は20日、中国で相次いで計画されている環境関連のプロジェクトについて、「日本企業を排除すべし」との専門家の意見を掲載した。日本企業は技術やノウハウでは勝っていても、巨額プロジェクトの入札から締め出しを食らう可能性も出てきた。

 そして、多くの日本企業が最も恐れるのが、今回の決定が与える中国ビジネスへの長期的なマイナスだ。

 「政府や中国企業、現地従業員から『日本人は強くゴリ押しすれば何とかなる』と思われるのが何よりも恐ろしい」。広東省・深せん市に工場を持つ電子部品メーカーの社長はこう嘆く。

 様々なトラブルが日常的に発生する中国では、取引先や従業員とだけでなく、公安や税関、地元政府などと良好な関係を作っておくことは欠かせない。そうした各方面から恣意的な嫌がらせや圧力が高まれば、特に中小の進出企業にとっては死活問題にもなりかねない。

 従業員のストライキの再発も不安材料だ。今年5月、広東省のホンダ子会社に端を発したストライキの波はあっという間に全土に拡大した。そこでは、労働者の所得向上を方針として掲げる中国政府の思惑もあり、日本企業がスケープゴートにされてきた感がある。

 既に進出企業の多くが賃上げなどを実施し沈静化しているが、労使間のトラブルが多発する旧正月前後での「次の波」への警戒感を強めている。

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