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シリーズ介護:新たに保険適用「お泊まりデイ」--来年度から

 ◇ショートステイ、緊急の対応難しく/家族の負担軽減へ

 厚生労働省は来年度から、高齢者の機能訓練などを行う「デイサービス」に時間延長や宿泊機能を追加する「お泊まりデイ」を、介護保険の新サービスとして始める。家族の負担を軽減するため、日中のデイサービス後、利用者の全額自己負担で泊まりなどを提供する事業者が増えている。保険適用に向けて厚労省は制度の詳細を詰めるが、類似の介護サービスとの整合性など課題も指摘されている。【有田浩子】

 東京都墨田区のAさん(85)は、台東区三筋の問屋街の一角にあるデイサービスセンター「茶話本舗 蔵前」を週5回、午後7時まで利用している。1割の自己負担で済む介護保険の対象は午前9時から午後5時までのデイサービスだけだが、2人暮らしの70代の夫が仕事をしている都合で、2時間の延長サービスを全額自己負担で利用している。

 「蔵前」は介護が必要な高齢者を毎日10人を上限に受け入れ、スタッフ4人でケアにあたる。多くのデイサービス施設よりも少人数で、滞在時間の延長や宿泊もできるのが特徴だ。

デイサービス後の時間帯も介護サービスを求めるニーズは高まっている=東京都台東区の「茶話本舗 蔵前」で
デイサービス後の時間帯も介護サービスを求めるニーズは高まっている=東京都台東区の「茶話本舗 蔵前」で

 茶話本舗の小柳壮輔社長(32)は「家族が自宅で介護を続けるには『時間』『お金』『気持ち』に余裕がないと難しい。夕方4~5時に帰宅する通常のデイサービスでは仕事と両立しにくいため、柔軟なサービスが必要と考えた。料金も極力抑えた」と話す。

 07年6月設立の同社は、今年8月で31都道府県に269カ所を展開。民家の空き家などを借り受けて「設備投資を抑えた」という。

 デイサービスを提供する事業所は全国で約2万6000カ所あり、約130万人が利用している(10年6月現在)。その中でも時間延長や、泊まりができる施設は増えている。練馬区で認知症の母親(91)を自宅で介護し、デイサービスの時間延長も利用していた女性(63)は「いつでも緊急時に預けられる安心感は大きかった」と話す。

 介護保険の対象で、高齢者を介護する家族らの負担軽減を目的としたサービスには、ショートステイがあるものの、利用希望者が多く、都市部では1~2カ月前からの予約が必要。家族の急な出張や葬儀などで、高齢者を預かってもらうことは難しい。また、認知症の高齢者は環境が大きく変わるショートステイにはなじみにくい。

 厚労省は11年度予算の概算要求で全国2000カ所のデイサービス事業所を対象に、8000人分の受け入れを可能とする施設整備費100億円を要求した。スプリンクラーの設置など、宿泊可能な施設として整備するための費用だ。

    ◇  ◇

 「お泊まりデイ」については、関係者から異論も出ている。同様の機能を持つサービスとして「小規模多機能型居宅介護サービス」がある。デイサービスや訪問介護に加え、泊まりも可能で、06年度から導入された。今年6月時点で2473事業所に約4万人の利用者がある。

 全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会の川原秀夫代表は「住み慣れた地域で暮らすために小規模多機能サービスを作ったのに、お泊まりデイができれば、小規模多機能は増えていかない可能性もある。国の対応は場当たり的だ」と批判する。また、「お泊まりデイを制度化すれば、事業者は空いているベッドを埋めようとして、結局、都市部のショートの現状と同様、緊急時には泊まれなくなるのではないか」とも指摘する。

 「お泊まりデイ」を介護保険の対象にする際の介護報酬や、他の介護サービスとのバランスなどは今後、厚労省が議論を進める予定だが、類似サービスとの調整は簡単ではなさそうだ。

毎日新聞 2010年10月4日 東京朝刊

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