(cache) 魔女と優しい王国
・・・・・・・・・・・・・・・
十五章[ハッピーエンドを目指して](1/48)
終わりは始まりでしかなく、始まりはまた終わりへのスタートでしかない。
・・・・・・・・・・・・・・・
さあ、幕を上げよう。
終幕ではなく1つの始まり。
それとも、次の舞台までの束の間の凪。
誰も起こさないよう足音を忍ばせて、外へ。
優しい王国は、浜辺の波と同じで寄せては返す。
不条理という海原から、たまさかに来る波を阻もうと、砂のお城を築くような日々。
そんな徒労のような繰り返しにこそ、価値があると見出して。
あとわずかで薄明の時刻。
空け切らぬ空の群青が、東から白々と追われていた。
「さて、夜が明けきったら動き出すだろうから、それまでに捕まえないとマズイか……」
この夜明けがタイムリミットだ。
昨日一日、神無とスティングは動かなかった。
花先生の言葉を借りれば『自壊していない』。
それを頼りに、蜘蛛の糸にも似た可能性を手繰ろうとする。
蜘蛛の糸――
せっかく下りた救いの糸に、他人を退けて縋ろうとし、結局全てを失ってしまうという憐れな物語だ。
神様は人を試しはすれど、救いはしない。
結局人を救えるのは、人の知恵と人の手だけだ。
夜明けを待って仕掛ける。
視界の利かない夜では勝ち目はない。
この朝が、おそらく最初にして最後の機会。
スティングの時計が5年戻れば、後は全ての接続者を狩る怪物が帰還する。
誰にも頼らず、誰をも顧みず。
人は誰もが怪物を抱えて生きている。
聖人君子も悪鬼羅刹も変わりなく、心理の井戸から汲み上げれば姿を現すのは、貪欲で凶猛なる幻想種。
欲望という種、幸せという揺籃、絶望という箱庭。
閉じた怪物になって、小さな部屋から窓の外を眺めて生きるのも、それはそれで幸せだろう。
優しい王国はそれさえ許す。
生きる者だけがそれを望まず、故に王国の境界を敷く。
ホテルの外、猫のように背を伸ばした。
一晩中の考え事でろくに眠れはしなかったが、意識ははっきり冴えている。
「我ながら、王子様にはなれそうもないな」
おとぎ話の荒野の魔女は、倒されて終わる。
故に物語は閉じる。
めでたしめでたし。
魔女を救ったところで、後に残るのは、積み重なった怨嗟と憎悪の轍跡。
喝采はなく、歓声もない。
それでも、と。
生きるという痛苦へ、生きるという地獄へ、連れ戻すために手を伸ばす。
(閲覧:27)
- 761 - ・・・・・・・・・・・・・・・
前n[*]|[#]次n・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
=しおり
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
⇒作品艫激rュー
⇒モバスペ脾ook
・・・・・・・・・・・・・・・
[編集]
・・・・・・・・・・・・・・・
[back]