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[22314] 【ネタ】憑依チャレンジ、返金不可
Name: ゆつばの◆246d0262 ID:e5937496
Date: 2010/10/03 12:44
俺には夢があった。
それは別の世界で別の人間として生きることだ。

――憑依、転生。

ネット上にもこの手のネタを使った小説は多く、それだけ憧れている人間も多いのだろう。
俺は胸を張って言える。
そんな人間の中で最も、それらに対する願望が大きいことを。
誰よりも望んでいた。
七夕には毎年『異世界に行きたいです』と書いたし、クリスマスにはいい歳して『漫画の中のキャラクターに憑依したいです』とお願いをした。
生涯を通して、俺は望んだ。
笑ったっていい。
正直イタイと思うだろう。
それでも俺は望んだ。
果てには望んで叶わないのならと、別世界へ転生出来るマシンを発明することに尽力した。
その為に人生の殆どを費やしたが、結局作ることは出来なかった。
副産物としてワープマシンを発明したが、目的のものは出来なかったので俺には意味が無かった。
そんな俺も寿命で死を迎えることに。
布団の側には同じ志を持った人間が集まっていた。
転生を望む同士達。
こんな俺に付き合ってくれた心からの友人達だ。
俺が死んでも彼らが俺の志を引き継いでくれるだろう。

「俺は先に行くよ」

同志達に別れの言葉を残す。
悔いはある。
いや、悔いだらけだ。
結局望みは叶うことは無かった。
しかし、俺はまだ諦めていはいない。
次。
次の人生。
来世があるのなら、俺はそこでも願うだろう。
夢は潰えない。
俺という魂は決して夢を忘れない。
異世界へ。
転生を。
憑依を。

そして俺は永い眠りについたのだった。



††††


「もうっ、感動したっ!」

目が覚めると、涙目の少女のどアップだった。
短い眠りだった。

「もうあんた馬鹿だよ! 最高の馬鹿!」

何故か興奮した様子の少女に抱きしめられる。
意味が分からない。
俺は死んだハズだ。
はて、一体どういうことだ?

「あっ、ここ死後の世界ね。あとあたし神様」

少女は俺の疑問に一瞬で答えてくれた。
死後の世界、神様。
かなり突飛な展開だが、俺は自然と受け入れた。
もしかして。
もしかして、こうなるかもしれないという予感はあった。
ネット上ではありガチな展開なのだ。

……しかし目の前の神様。
恐ろしいほど神々しさが無い。
何故かジャージだし。
胸のところに『か み』って書いてるし。
ふざけてるとしか思えない。

「そもそもいきなり何で感動してるんだよ」

声を発してから気づいた。
若い。
声に張りがある。
ふと、自分の体を見下ろした。
……当然の様に若返っていた。
20過ぎの頃の体か。全盛期の体だった。
まあいい。
よくある展開だ。

俺の質問に神はジャージの裾で涙と鼻水と拭いながら、はにかんで応えた。

「いやね、あんたずっとお願いしてたでしょ? 異世界への転生」

なんと、願いはしっかり届いていたらしい。

「たまにいるんだけどね、そんな願いする奴。でも大体がその場限りの願望で、歳を経るとそんな願いを望んだことすら忘れる。でもね、あんたは違った。あんたの願いは本物だった。死ぬ寸前まで願い続けた。流石のあたしもね、もうグッときちゃってね……ずずっ」

再び瞳の端に涙を溜め、鼻を啜った。
涙もろい神だな、おい。

「もうね、流石にそこまで願われたらネ。あたしも応えてやらないと」
「マジで!?」
「もうマジよ大マジ。ほんとはあんたが生きている間に叶えてあげたかったんだけどね、そこまでの力はあたしに無いのよ……ごめんね」
「いやいやいいよ! 叶えてくれるなら何でも!」

最高の気分だ。
死して遂に願いが叶った。

「そう? そう言ってくれると嬉しいわ」
「じゃ、早速! 早速! 早く! ハリー!」
「ちょ、ちょっと急かさないでよ、もう」

これが落ち着いてなんかいられるかって。
やっと願いが叶うんだ。
俺の願い。
別の世界で、別の人間として生きる。
小説の中でしかありえなかったことが、現実になるんだ。

「まず言っとくけどね。あたし本来一人の人間を別の世界で別の人間として存在させるなんて力は無いの。あたしの仕事は死んだ人間を輪廻の輪に組み込むことだから」
「ああ」
「だから転生は無理。別世界で一から人生をスタートさせることは出来ない」

転生は無理、か。
残念だ。

「あたしに出来るのは、ちょっと力を応用して別の世界の存在にあんたの精神を上書きすること」
「憑依か」
「そう。そしてどんな世界のどんな存在に憑依するかは分からない。もしかしたらいきなりバーサーカーの目の前の主人公に憑依してバッサリされたり、マリモちゃんに憑依して『脳髄おいしいです^^』みたいなことになるかもしれない」

実に分かりやすい例えだ。
例えが全部エロゲってのはどうかと思うが。

「それでもいい?」

神は俺の覚悟を試すように言った。
俺は鼻で笑った。

「そんなもん覚悟の上だ。それを含めて憑依に憧れてんだよ」

いきなりの詰んだ状況に憑依して、オワタ状態。
最高じゃないか。
想像するだけで興奮する。
俺の返答に神はやっぱりと微笑んだ。

「そう言うと思ったわ。うん、やっぱそうよね」

うんうんと頷く。
今日初めて会ったのに、俺のことを随分理解しているらしい。
多分俺のストーカーなんだろう。

「じゃあ、いいわね。あんたも我慢出来ないだろうし、早速行くわよ?」

神がパチンと指を鳴らした。
真っ白な空間に黒い渦が現れる。

「この先が別世界――」
「よっしゃあああああああああ!」
「の入り口……って早っ!?」

神が何か言っているが、興奮している俺には聞こえなかった。
黒い渦の中に飛び込む。
吸い込まれていく。
ぐるぐると。
意識が薄くなっていく。

「死んだらここに戻るからねー! いい? 他に戻る方法は無いからー!」

神の声が遠くで聞こえる。
既に俺の意識は限りなく薄くなっていた。
意識だけじゃない。
俺自身、俺の存在が薄くなっていく。
ああ、そうか。
これが憑依か。
理解した。
俺という魂が圧縮され、別の世界へ流れているんだ。
もう俺の体は無い。
俺は精神だけになっていた。
精神だけになった俺は、完全に意識を手離した。



††††



目覚めは頭痛と共にだった。

「……っっ」

頭が痛い。
どうやら俺は倒れていたようだ。
頭を押さえながら立ち上がる。
周囲を見ると、先ほどの真っ白な空間ではなくどこかの村のようだった。
自然が多い。
空気がおいしい。

「ここが別世界か」

遠目の家がポツポツと見える。
さて、ここはどんな世界なのか。
まずは情報収集だ。
これぞ憑依の醍醐味。

「……ん?」

ふと、自分の体に違和感を感じた。
妙にゴワゴワしている。
手を目の前に持ってくると、茶色い毛で覆われ、肉球がついていた。

「着ぐるみ?」

どうやら今の俺は何か、動物の着グルミを着ているらしい。
胴体を見下ろすと、Tシャツと半ズボンを履いていた。
体格は小学生の子供くらいか。

「子供になったのか」

何故この子供(もしくは小さい大人)が着グルミを着ているかは分からないが、俺は感動していた。
遂に願いは叶ったのだ。
思わず涙が流れる。
人生で最高の瞬間だ。
この瞬間を二度と忘れない。

「……さて、そろそろこの体の主と顔合わせといくかね」

これから人生を過ごす体だ。
顔を拝んでおきたい。
さてチャックチャックは……。
ん?
あれ?
チャックはどこだ……?

「あれ? 背中にも……ない。……んん?」

どういうことだ?
腕を組み、考える。
体中に触れてみたが、どこにもチャックは無い。
それに、この着ぐるみの毛……、どうにも本物っぽい。
まさか……。


「――ちょっと」


思考に没頭していると、キツめな声が背後から俺にかけられた。
気の強そうな少女の声だ。
第一異世界人との遭遇。
少し緊張するな……。
俺は声を上擦らせながら、振り返った。

「な、なにかな……うおっ!?」
「何よ、人の顔見てそんなに驚くなんて。名誉毀損で通報するわよ」

少女の言う通り、俺は少女を見て驚きの声をあげてしまった。
何故なら少女に凄まじいインパクトがあったからだ。
ウサギ。
ウサギだった。
ウサギ人間とでもいうのか。
ウサギを擬人化したような姿をしている。

「さっきから遠くで見てたけど、一体ゴソゴソ何やってるのよ? 通報するわよ?」
「い、いやちょっと……」

この子も着ぐるみを着ているのか?
もしかしてこの世界は着ぐるみを着る習慣でもあるのかね。
それにしてもこのウサギ少女、どっかで見たような……。

「いや、ちょっとね。チャックを降ろそうかと……」

この世界の人間にしか分からない所にチャックが隠されているのかもしれない。
そう思ってチャックがどこにあるかを、少女に聞いた。
すると、突然少女の様子が変わった。

「――」
「目こわっ!」

少女は突然目を限界まで開き、その血走った瞳を俺に向けてきた。
恐ろしい光景だった。
思わず失禁しそうになった。
少女はその怖い目で俺を見つめながら、無言で携帯を取り出した。
そのまま三回、ボタンを押した。

「はい。目の前で今まさに股間のチャックを降ろそうとしてます、ええ。間違いなく変態です」
「ええっ!?」
「はい、またクマ吉君です。ええ、パトカー一丁すぐに」

はあ!?
クマ吉?
クマ吉って……ああああああああああ!
そうか分かった!
つーかふざけんなあのクソ神が!
ここギャグ漫画日和の世界じゃねーか!

「何でよりにもよってクマ吉なんだよ! 誰得なんだよ!?」

つまり目の前で携帯をかけているのはウサミちゃん。
名探偵のウサミちゃん!
そしてこの後の展開は……


†††


その後、俺はやってきた犬のおまわりさんに連れられて、刑務所にぶちこまれた。
そしてすぐに出所して学校に向かったが、昨日ネコミちゃんを商店街のど真ん中で襲おうとした事件が露呈し、再び通報された。
その後も何かと通報され、入所と出所を繰り返し、最後は獄中にてその生涯に幕を下ろした。

――完。


†††


そして俺は再び真っ白な空間に戻ってきた。
目の前には期待感か輝いた目を向けてくる神様。

「ど、どうだった? 初めての憑依は? か、感想は?」
「最悪に決まってんだろテメエエエ!」
「ひっ、ふぎぎぎぎぎぎぎ! ひ、ひたい! ひたいよ!」

溜めに溜めた怒りを開放し、神の頬を掴み横に引っ張った。
涙目で怒りの表情になる神。
だが俺の怒りはそんなレベルじゃなかった。

「お前こら! 何でよりにもよってクマ吉なんだよ!」
「だ、だから最初にどんな存在に憑依するか分からないって……」
「だからってアレは無いだろ! しかもアレだぞ? 自殺しようとしても何か謎の力が働いて自殺出来ないし! 無駄に寿命長いし! 80年の人生の9.5割以上をムショで過ごしたんだぞ?!」

俺はもちろん犯罪行為なんてしようとしなかった。
しかし何らかの力が働き、どうあっても俺が犯罪を起こす流れになってしまうのだ。
もう最後の方には諦めて『ふふふ、これが最後だとは思わないことだね。この僕がいる限り、三角定規の悲劇は終わらないよ、クフフ……』なんて台詞を連行中に言えるようになった。
もう最悪の憑依だった。
トラウマレベルだった。
最低の初体験だった。
こんな覚悟してねーよ。
ギャグ漫画日和の世界に憑依するなんて想像出来んわ。
まだラクーンシティに全裸で放り出される方がいい。


俺の憑依は始まったばかりだ!


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