[CML 005825] 尖閣沖漁船衝突事件について(続)
Ken Kawauchi
kenkawauchi at nifty.com
2010年 10月 3日 (日) 19:43:20 JST
河内謙策と申します。(この情報を重複して受け取った方は、失礼をお許しくださ
い。転送・転載は自由です。)
私が様々なMLに投稿した拙稿「尖閣沖漁船衝突事件について」につき、多くの方か
らコメントをいただきました。有難うございました。私の見たところ、今回の事件は
憲法9条の危機ともいうべき重大事件です。にもかかわらず、無関心を決め込んでい
たり、発言のリスクだけを考えて沈黙したり、「権威ある見解」が発表されるのを
待っていたりする憲法9条擁護論者が多すぎます。これは、日本の平和運動の一部
に、思想的腐敗が発生しているということではないでしょうか。それだけに、多くの
方からのコメントは、その見解の当否は別としても非常に嬉しいものでした。
以下、様々なMLで私の見解に異論を提出された方に対し、私の提起した4大論点に
沿って、私の反論を述べさせていただきます。意見をとりあげることができなかった
方に対してはお詫びを申し上げます。皆様の、再びの御検討をよろしくお願いいたし
ます。
まず、今回の事件の真相について。
私は、「日本の領海で不法操業した中国の漁船船長の公務執行妨害罪の成立は間違い
ない」と述べましたが、新潟の中山様から、尖閣諸島が「日本の領土」であるという
私の主張に対する疑問が提出されました。中山様の見解は、尖閣諸島の領有は「近代
日本のアジア侵略の過程で強奪されたに等しい経緯だった」ということにあるようで
す。しかし、領土問題の国際法的決着というのは、政治的、あるいは道徳的問題と異
なるのです。アメリカ「インディアン」に対する皆殺し政策が許されないとしても、
アメリカ合衆国のアメリカ大陸の領有が否定されないことをお考えください(尖閣諸
島の領有は、国際法的には「先占」と位置づけられます。「先占」についての詳細
は、栗林忠男『現代国際法』慶応義塾大学出版会、228頁以下参照)。中山様の論理
では、沖縄が中国領だという中国の一部の恐るべき見解も否定することは困難になる
のではないのでしょうか。沖縄も近代日本のアジア侵略の過程で強奪されたに等しい
経緯だったからです。
http://kinbricksnow.com/archives/51481894.html
尖閣諸島については、戦前の日本の実効支配は否定されない事実であること、中国は
1970年代まで、海底の石油資源が問題になるまで、自国の領有の主張をしなかった、
というのが決定的だと思います(なお、東本様から、以下のサイトに日本共産党の見
解が述べられていることを教えていただきました。)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-09-20/2010092001_03_1.html
尖閣諸島が日本領だとしても、平和主義者がそんな問題に頭を突っ込むのは問題が
あるのではないか、という見解も多数寄せられました。たしかに領土問題というの
は、いささか胡散臭いところがありますし、過去において支配者が国民を統合する一
手段として利用してきたことも事実です。しかし私は、平和主義者は、国民が大きな
関心を持つ問題については、積極的に自己の見解を対置すべきであり、その上で、排
外主義等の誤った見解にならないように訴えるのが正しいと思うのです。危ない問題
というので遠ざかっていたり、消極的になっていたのでは、国民に平和主義者の見解
に耳を傾けてもらうことはできないし、平和主義者を国民から孤立させるという支配
者の思う壺に入ってしまうと思うのです。さらに、今回の問題は、単なる尖閣諸島の
問題にとどまらず、中国の北東アジアの覇権確立に直結している問題です。日本国民
の生命・財産に直結している問題なのです。したがって、私は、「ここがロドスだ、
ここで跳べ」と言いたいのです。
次に、中国がなぜ大騒ぎして、日本に対し「力の外交」を展開しているのか、とい
うことについて。
私は、中国が、はじめからこのような事件が発生することを予期して漁船を送り込
んだのかどうかは分からないが、この事件を利用して一挙に北東アジアの覇権確立を
意図している、と主張しました。これにたいし、東本様から、異論が提出されまし
た。東本様は、浅井基文氏の「中国が日本に求めている最大のものは、改革開放政策
30年の成果を踏まえて急台頭する、いまや国際関係にとって欠くべからざる存在と
なった、そして21世紀の国際関係においてますます重要性を増すことが衆目の一致す
るところである中国を正確に認識し、日本が『日米を基軸にする大前提のもとで対中
関係のあり方を考える』という20世紀の遺物そのものである発想を根本的に改めるこ
とにあると思う」という見解を支持しています(なお、浅井基文氏の見解は、以下の
サイトを参照。)
http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2010/index.html
しかし、私は、東本様・浅井様の見解は、中国の行動を世界的な視野で分析しな
い、特に南シナ海の紛争や中国の最近の日本周辺への圧力をかけてきた歴史の文脈に
照らして分析しないという決定的な誤りを犯している、と思います。
中国の南シナ海侵略の歴史は、以下のとおりです。
▽1974年:中国軍がベトナム軍を排除して西沙諸島を占領
▽1987~88年:中国軍が南沙諸島の一部を占領
▽1992年:中国が領海法を制定
▽1992年:外国船が南沙諸島海域を通過する際には中国の許可が必要であると宣言
▽1995年:中国がミスチーフ環礁に対空砲や対艦砲を設置
▽1997年:中国が、フィリピンが歴史的に領有してきたスカーボロ環礁の領有権を主
張
中国の東シナ海侵略の歴史は以下のとおりです。
▽1992年:領海法を制定
▽1995年:海洋調査船が活躍
▽2000年:情報収集艦で日本列島一周
▽2003年8月:白樺石油ガス田開発に着手
▽2004年3月:活動家七人が尖閣諸島に上陸
▽2006年10月:ソン級潜水艦が米空母キティホークの近傍に浮上
▽2008年10月:駆逐艦など4隻が日本列島周回
▽2008年11月:駆逐艦など4隻が沖縄本島と宮古島間をぬけて太平洋進出
▽2008年12月:海洋調査船2隻、尖閣諸島周辺に侵入
▽2009年6月:駆逐艦など5隻が沖縄本島と宮古島間を抜けて沖ノ鳥島周辺に進出
▽2010年3月:駆逐艦など6隻が沖縄本島と宮古島間を抜けて太平洋に進出
▽2010年4月:艦隊10隻が宮古海峡を太平洋へ抜け、沖の鳥島を一周
▽2010年5月:中国の海洋調査船が日本の海上保安庁の測量船を4時間追跡
▽2010年7月:駆逐艦など2隻が宮古海峡を抜けて太平洋に進出
以上を見れば、中国の狙いが南シナ海につづく東シナ海の制覇とそこから東に広がる
西太平洋の制覇(=北東アジアにおける覇権の確立)であることは明白であると思い
ます。したがって、そこからは、今回の中国政府の誤りは偶然ではないこと、今後も
同種の事件がかなり継続的に発生するであろう、という結論が出てくるのです。以下
のサイトの記事も参考にしてください。
http://ameblo.jp/lancer1/entry-10507838780.html
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100521/plc1005210335000-n1.htm
なお、T.kazu様は、私が引用した夕刊フジの記事の緻密な分析をされていますが、そ
のことにより何を言いたいのか、私には、よく分かりません。夕刊フジの記事のよう
な「対日工作会議」がなかったと言いたいのでしょうか。そうであるとすれば、私は
「十分にありうる話である」と判断している、としか言い様がありません。
次に菅内閣の態度をどうみるか、ということについて。
これについては、特に大きな反論が提出されませんでした。尖閣諸島が日本固有の領
土であり、中国漁船船長の公務執行妨害罪が明白であれば、菅内閣の弱腰は弁護の余
地がないからでしょう。
それにしても、船長釈放の経緯が不透明なのは大いに問題ですが、最近ビデオテープ
について中国と取引をしたという疑惑が持ち上がっています。これも大変な問題で
す。以下は有力な見解です。
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/221002.htm
菅内閣は、中国政府との間で「落としどころ」をさぐることしか考えていないようで
す。これから、菅内閣の弱腰=売国政権の実態が、ますます明らかになるでしょう。
最後に、日本の平和活動家のとるべき態度について。
私の最初の問題提起が不十分だったと反省しています。私は、まず(!)、中国政府
の帝国主義外交と菅内閣の弱腰外交に抗議すべきではないか、と言いたかったので
す。とくに中国政府になぜ日本の平和運動が抗議しないのか、なぜ抗議声明がほとん
どでないのか、それが異常だということも分からなくなっているのではないか、それ
だと中国政府に日本の平和運動がなめられるぞ、それでもいいのか、と言いたかった
のです。そして、そのような日本の平和運動の弱点の根本を克服するものとして、ア
メリカにも中国にも毅然とした平和国家の創造を目指す方針を明確にすべきだ、と主
張したかったのです。
立川テント村の声明に私は70%賛成ですが、一番納得できないのは、なぜ中国の
誤った帝国主義外交に対する批判がないのか、なぜ中国政府に抗議しないのか、とい
うことです。自国の政府をもっぱら相手にするという過去の誤った平和運動のパター
ンにとらわれているのではないでしょうか。
Motoei様から「(私のいう)過去の誤りとは何ですか」という質問を受けています
が、私は、この問題では、日本の平和運動が過去、中国の覇権主義や人権侵害・少数
民族抑圧に対し闘わなかったことを指しているのです。このまま行けば、拉致問題の
時の日本の平和運動の二の舞になるでしょう。拉致問題が、本当は平和運動を含めて
全国民的な運動であるべきであったのに、日本の「右翼」の専売特許であるかのよう
になったのは、日本の平和運動の「狭量」=セクト主義と北朝鮮に対する甘さ・宥和
的態度にも原因があったのです。
私は、「中国の横暴を抑える国際的な連携・包囲網の形成、中国の自由と民主主義
を求める勢力に対する支援と連帯こそが究極の中国問題の解決である」と書きました
(中国内のチベット民族、ウィグル民族、モンゴル民族との支援・連帯を明示しませ
んでした。申し訳ありません。)。これに対し、井上様が異論を提出し「包括的な二
国間の対話の仕組みを築くことしかない」と主張しています。しかし、私は、この見
解に対し、以下の3点の疑問を持つのです。第1は、今は、中国と「喧嘩」している
最中であるから、当面は、このことを考える時期ではない、ということです。第2
に、この提案の基礎に、憲法9条=話し合いによる解決、という図式があるとしたら
問題です。私は、国際紛争を軍事力によって解決することには賛成できませんが、そ
れ以外は何でもありだと思っています。話し合いが重要であることは、そのとおりで
すが、それによって視野狭窄に陥ってはならないと思います。とくに、国際的な政治
的力関係の変化を重視すべきだと思っています。だから、軍事力によらない「喧嘩」
をすることも、場合によっては必要だと思います。特に中国にたいしては、最終的に
は外交交渉による解決を図るとしても、現在の時点では、中国は恐るべき国であるか
ら、対話での解決は容易でない、という厳しい認識が必要だと思います。第3に、井
上様の主張は、問題を2国間に限定しすぎています。国際司法裁判所への提訴や、中
国の軍事力に恐怖を感じている諸国、ASEANなどとの連携が、なぜ視野に入ってこな
いのでしょうか。私が首相であったら、衝突時のビデオを持った特使を全世界に派遣
していたでしょう。
古森義久さんのサイトの9月28日の記事を参照してください。
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1815477/
アメリカはアセアン諸国の恐怖を巧みに組織化しています。
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/220925.htm
尖閣沖漁船衝突事件は、終わった事件ではありません。軍事的な紛争=戦争の可能
性を秘めて現在も展開中です。私は、日本の自衛隊の尖閣諸島への配置に反対です。
これまで書いてきたように、平和的・政治的解決をあくまでも追求すべきだと思いま
す。憲法9条擁護論者は、今こそ決起すべきなのではないでしょうか。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100927-OYT1T00515.htm
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00185462.html
http://dogma.at.webry.info/201010/article_1.html
(2010年10月3日記)
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