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崩壊・特捜検察:/3 ヤメ検と裏取引

 ◇捜査優位の弁護依頼 大坪前部長ら「現役とOB一体」批判も

 郵便不正事件の捜査終結から間もない09年9月。大阪地検特捜部は、全国精神障害者社会復帰施設協会(東京都)を巡る不正経理事件に着手し、協会の元事務局次長(59)を業務上横領容疑で逮捕した。この事件では、協会の裏金が「政官」に渡ったとの疑惑もあり、元次長はカネの流れを熟知したキーマンだった。

 「先生、(元事務局次長の)弁護人になってもらえませんか」。特捜部長だった大坪弘道容疑者(57)=犯人隠避容疑で逮捕=は「ヤメ検」と呼ばれる検察OBの弁護士に元次長の弁護を頼んだ。この弁護士は大坪前部長と親しく、刑事弁護人の受任を無報酬で元次長に持ちかけたが、断られたという。特捜関係者は「郵便不正事件で狙っていた政治家を逮捕できなかっただけに、この時は大坪さんが執念を見せていた。ヤメ検を使って捜査を優位に進めようとしていた」と指摘する。

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 「ヤメ検は容疑者に事実関係を認めさせる。代わりに特捜部は捜査情報を流して保釈や求刑で便宜を図る」。ある特捜OBは「特捜」と「ヤメ検」による持ちつ持たれつの構図を、こう解説する。検事長などの経験者は「ボス」と呼ばれ、特捜事件の弁護依頼があると、傘下のヤメ検に仕事を振り分ける。現役とOBが一体の「特捜利権」との批判もある。

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 08年にも大坪前部長のこうした手法が問題になったことがあった。神戸地検特別刑事部長だった06年に手がけた神戸市議(当時)の汚職事件。あっせん収賄容疑で逮捕された市議は、自分に不利な上申書を勝手に提出したとして、自身の弁護人への懲戒を大阪弁護士会に請求。同会綱紀委員会は、大坪前部長の知人でヤメ検の弁護人を「懲戒相当」と議決したうえで「依頼者(市議)の有罪の証拠を検察に提出する一種の取引を行った疑問をぬぐえない」と異例の言及をした。しかし、大阪弁護士会は弁護士を最終的に処分しなかった。

 大坪前部長が重用した検事、前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=も東京地検特捜部から大阪特捜に異動した08年「大坪流」の裏取引を容疑者に持ちかけていた。

 「前田検事から『ヤメ検の弁護士なら執行猶予になる。私が紹介する』と弁護士の交代を求められた」。経営破綻(はたん)した英会話学校「NOVA」元社長(59)による業務上横領事件の控訴審が結審した9月28日、無罪主張の元社長は被告人質問で、前田検事を名指しし、裏取引の打診を暴露した。元社長は大阪府警が逮捕し、起訴したのは前田検事だった。

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 「東京と大阪の全面戦争だ」。前田検事が逮捕された9月21日夜、大阪地検特捜部前副部長、佐賀元明容疑者(49)=犯人隠避容疑で逮捕=は神戸市内の自宅前で記者に向かって声を荒らげた。大坪前部長も大阪府吹田市内の自宅前で、最高検批判を繰り広げ「現場の責任という形で幕引きを図ろうとしている」と話していた。

 関西のヤメ検の間では「逮捕までする必要があるのか」と疑問の声が上がっているが、特捜部在籍が長かった検事は「隠ぺいの真相はよく分からない。だが特捜捜査の手法を見直す時期が訪れたことは間違いない」と声を落とした。=つづく

毎日新聞 2010年10月4日 東京朝刊

 

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