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日本のエネルギー安全保障には開発で主導権を持つ「日の丸油田」が必須、としてきた政策が転機を迎えた。イランのアザデガン油田から日本企業が完全撤退する方針を固めたことはその象徴である。[記事全文]
たばこが値上げされた。1箱300円が400円以上になった。価格を上げて喫煙者を減らす。それによって本人はもちろん、周囲の人の健康も守る。そういうねらいだ。[記事全文]
日本のエネルギー安全保障には開発で主導権を持つ「日の丸油田」が必須、としてきた政策が転機を迎えた。イランのアザデガン油田から日本企業が完全撤退する方針を固めたことはその象徴である。
2004年に欧州勢や中国との競争に勝ち、世界最大級とされるこの油田の権益の75%を国際石油開発(現国際石油開発帝石)が確保した。その後イランの核兵器開発疑惑で米国に配慮し、06年に権益を10%に縮小した。今回は制裁を強める米国の要請を受け、全面撤退となった。
撤退は残念だが、イランの核疑惑が晴れない以上、やむをえない。すでにアザデガン油田の意義は小さくなっていた。石油消費が減少に向かっている国内情勢や将来の低炭素社会も考えて冷静に受け止め、今後のエネルギー戦略に生かすべきだ。
今後は共同開発などで石油をめぐる情報を確保しつつ、資源を融通し合う国際ネットワークの一員としての資格を得るようにしたい。そのためにエネルギー関連技術や資金を活用し、産油国との連携を深めることが必要だ。
天然ガスや自然エネルギーの活用を含む多角的なエネルギー開発を加速させることも大切である。そうした努力を続けてこそ、グローバルな時代の資源市場の機能を維持するために、日本が貢献できる道が見えてくる。
中東での独自外交の立て直しも、今回の撤退に示された厳しい状況を踏まえて進めたい。
イランは日本にとって第4の原油供給国であり、1979年のイスラム革命後に米国とイランが国交断絶した後も、日本は友好関係をつないできた。しかし、これまでの日本の外交は、イランの核問題に対して何ら有効な影響力を持ち得なかった。
米国は今夏、ロシアの国営原子力企業がイランで原子炉を稼働させることを認めた。それと対照的に日本に撤退を求めたことは、日本の独自外交の限界の表れでもある。
これまでに日本が放棄したアザデガン油田の権益の大部分は、中国企業が取得した。イランに対して米国、ロシア、そして新参の中国が影響力でしのぎを削るという構図は、中東全体にもあてはまると考えるべきだろう。
日本は、中東で大国のように国家戦略を遂行できる力を持っていない。その現実を認識した上で、今後何ができるかを考える必要がある。
中東では、軍事力の行使を含め強圧的な対応に陥りがちな米国と、時にはうまく距離をとることも賢い外交ではあるまいか。一方で、産油国などには技術援助や社会開発の分野でもっと貢献し、信頼関係を築くことだ。
中東に必要とされる国になるための努力を惜しんではならない。
たばこが値上げされた。1箱300円が400円以上になった。
価格を上げて喫煙者を減らす。それによって本人はもちろん、周囲の人の健康も守る。そういうねらいだ。
これを機に禁煙に挑んではどうだろう。財布も助かる。
本人の喫煙が原因で肺がんなどの病気で亡くなる人は、1年に13万人以上にのぼる。
それとは別に、他人の煙を吸わされる受動喫煙の被害について厚生労働省の研究班が先月、推計を発表した。
因果関係がはっきりしている肺がんと虚血性心疾患だけでも、毎年6800人が亡くなっているようだ。
昨年5千人を切った交通事故の死者をはるかに上回る人が、他人の喫煙のせいで死んでいることになる。
喫煙者が減れば、これらの死者は確実に減る。命を守るうえで禁煙は、最も重要な対策なのである。
自民党政権の時代は、たばこ税収入を守りたい財務省やたばこ族議員の意向を受けて、たばこ価格は低く抑えられてきた。今回、健康を目的にした値上げが実現したのは、政権交代による成果の一つといっていい。
日本の喫煙率は男性で約4割と、なお高い。女性は約1割だが、若い女性で増えているのが気がかりだ。たばこ大国を抜け出す政策を進めたい。
日本のたばこは、ほかの先進国と比べてまだ格段に安い。今回を一歩として、将来は1箱千円も考えよう。
社会の禁煙化も進めたい。受動喫煙の被害を防ぎ、吸いにくい環境にすれば禁煙する人の支えにもなる。
世界保健機関のたばこ規制枠組み条約は「たばこの煙にさらされることからの保護」を定め、職場や飲食店も含む公共空間の完全禁煙の法制化を求めている。喫煙室を設けるなどの分煙ではなく、完全な禁煙だけが健康を守る、とする。世界各国でバーやレストランなども含めて、人が集まる場所の禁煙化が進んでいる。
この条約は日本も批准しているが、受動喫煙防止策として分煙を認めているうえ、努力義務にとどまる。
事業所を対象にした厚労省の2007年の調査では、事業所全体の禁煙は18%、喫煙室以外禁煙の分煙は28%で、対策なしが54%と過半数だった。これでは働く人の健康は守れない。
厚労省の審議会は、多くの人が利用する公共空間は禁煙とするべきだとの報告を受け、職場での受動喫煙防止を法制化する議論を始めた。条約が求めている方向である。
国に先駆けて受動喫煙防止条例を今年4月に施行したのが神奈川県だ。飲食店やホテルも規模によって対象とし、横浜中華街でも禁煙の店が出てきた。空気がきれいなら、食事もきっとおいしいはずだ。