番外編 おいらの自伝です・その一
昨日は、あの有名編集者、赤田祐一氏が来ていて、何しに来たのかというと、「取材」です。COMについて書いてるそうで、そんな中で、漫画史の中でも三流劇画ブームにおけるおいらの関わりについて調べに来たらしい。三流劇画ブームというのが何かというと、1977年~1978年頃なんだが、漫画大快楽、漫画エロジェニカ、劇画アリスといった、漫画・劇画の世界でも最底辺だった雑誌をおいらが持ちあげて騒いで、最初は個人誌でやってたんだが、それが「漫画新批評体系」という、当時でもかなりの大部数が出ていたコミケ系の漫画評論同人誌誌につながり、そこから関西で出ていた「プレイガイドジャーナル」という情報誌で座談会が開かれるに至り、しまいには別冊新評という商業総合誌で特集が組まれ、最終的には11PMで特集までやったわけだ。まぁ、三流劇画ブームなんてぇのは、実際には中身はあまりなくて、全共闘崩れみたいなアジテーションばかりが賑やかだったんだが、まぁ、今にして思うと、あの時代を象徴するようなムーブメントではあったわけです。ブームの当事者であった劇画アリスの亀和田氏は、その後SF小説家を経てTVタレントになり、今では週刊誌に連載してますね。漫画エロジェニカの高取英氏は、ご存知のように「月蝕歌劇団」という劇団を主催して、女子高生集めて遊んでます。で、おいらもブームの余波で出版社に就職し、その後も長く出版界と付き合うんだが、今回の昭和ポルノ史は、そんなおいらが、出版業界とかかわりを持つに到るまでの自伝的なお話です。
昭和ポルノ史
昭和ポルノ史・序説
第一章 非合法エロ写真と実話誌
第二章 エロ系実話誌の世界
第三章 初期通販本と松尾書房
第四章 エドプロと初期通販本版元
第五章 北見書房と素人モデルたち
第六章 自販機ポルノは港町で生まれた
第七章 初期自販機ポルノの世界
第八章 アリス出版の栄枯盛衰
第九章 アリス出版に関する覚書
第十章 LANDA.SSと九鬼(KUKI)
第十一章 その他の東京雑誌系版元
第十二章 東京雑誌グループ以外の版元
第十三章 ビニ本の発祥
第十四章 ビニ本ブームの狂乱
第十五章 アングラ・グラフ誌の分類
第十六章 擬似少女と擬似レズ
第十七章 自販機本特有の「企画物」という世界
第十八章 余は如何にしてエロ本屋になりしか
第十九章 オンナだけは素人の方が価値高い
第二十章 写真機材と素人モデルについて
番外編 おいらの自伝です その一
話は、おいらの高校時代までさかのぼるんだが、1970年くらいか、時代が大きく変わろうとしていて、出版業界もまた例外ではなく、たとえば少年マガジンの表紙を、当時、新進気鋭のアーティストであった横尾忠則がやる、というような時代だったわけです。また、エロ本業界においても、青年劇画誌が次々に創刊され、それが売れないとどんどんエロ本化して行く。当時、ヌードというとメジャーでは平凡パンチとかのグラビアがポピュラーだったんだが、カメラマンで著名だったのは、立木義浩、加納典明、篠山紀信などですね。若い都会的なヌードモデルが、スタジオで、あまりエロくないポーズを取り、カメラ目線で睨んでいる、みたいな感じです。一方では、二流のエロ本というのもずいぶんたくさんあり、「実話誌」と呼ばれていたんだが、8ページくらいの艶笑系のエロ漫画と、嘘八百の告白体験手記と、グラビアでは真っ赤な口紅塗った水商売っぽいお姉さんがたるんだ肉をさらしているわけだ。洋物と呼ばれる外人ヌードというのも多かったですね。こういう実話誌というのは昭和30年代からあって、なので、1970年代に入ると、そろそろ読者に飽きられて来た頃です。
もちろん、この時代にはおいら、単なる一読者です。高校では文芸部で、オチのないショートショートみたいなのを書いていたりした。若い頃は乱読で、何でも読みましたね。塚本邦雄とか読んでいたので、ジレッタントな高校生です。で、大学は明治大学に進学するんだが、仏文科です。もっとも授業に出たのは一週間で、それでも漫画研究会には顔を出していたんだが、おいらの先輩では「いしかわじゅん」氏とかいます。もっと先輩には「かわぐちかいじ」氏とか「ほんまりう」氏とか。明大漫研て、なんでみんなペンネームが平仮名なのかね? 漢字が読めない?
結局、明大は二年でやめてしまって、さて、どうするか、やっぱりフランス語なんか無理なので、日本語なら判るだろう、というので次は国文科とか日本文学科とか、せいぜい漢文とか、そこら辺だろうというので、ちょっと渋いところで二松学舎というところにターゲットを絞って再受験を考えたわけです。そんなに難関というわけでもないのでタカをくくっていたんだが、受験直前にとんでもない事実が判明。あの学校は「二浪はどんな理由であれ、受け付けない」という内規があるらしいw おいら、再受験で二浪扱いなので、受験するだけ無駄ですねw で、それが判明した時には、すでに受験シーズンが終わりかけていて、まだ受付しているのが、大東文化大学の二次とか三次だけだった。おいらが大東文化大学の日本文学科卒だというのは、そこら辺の事情があるわけです。
大東文化大学というのは、まぁ、今でもたいして変わらないだろうが、あまり利口な人間の行く学校ではないですね。授業も面白くないので必要最低限だけ出席して、あとは同人誌みたいなのを作って遊んでいたわけです。同人誌というのは、たとえば越後瞽女を文化祭に招いてコンサートやって、それをテキストに起こしたり、まだあまり観光地化されてなかった川越をウロついて民俗学的な考察したりとか、特に漫画とか出版に関係ないものが多いんだが、そんな中、貸本マンガについて書いたものがあります。1976年の6月20日発行となっているんだが、文化総合雑誌「ぶかどん-2」特別資料編というもので、「貸本漫画の時代-高度成長に向かって撃て-」という文章だ。この文章は半分くらいは所有本のリストです。目次を転載しているだけです。
おいらはその当時、東上線の上板橋というところに住んでいて、駅の近くに貸本屋の生き残りがあったわけです。その頃でもまだ貸本やっていて、とはいえ、古いA5版のものではなく、少年マガジンとかそういう普通の漫画雑誌の新刊などを貸し出していた。ところが、その店の隅っこには、何十年も前の貸本漫画がまだ残っていたわけですね。それをおいら、チビチビと買い取って、リストを作ったりしていたわけです。で、そんな中、おいらは同じ町に住む少女漫画マニアの冴えないニーチャンと知り合う。狭い四畳半の部屋で、少女漫画に埋もれて暮らしている人で、その人物がおいらを渋谷の井の頭線改札口の二階にあった「ばら苑」という喫茶店に連れて行ってくれたわけです。
その頃、ばら苑では、土曜日の夕方から「迷宮」というグループの集会が開かれていた。迷宮というのは「漫画新批評体系」の母体であり、コミケットの母体でもある。中心になっていたのは亜庭じゅんという人物と、原田てるおという人物です。亜庭氏が「漫画新批評体系」の担当で、原田氏がコミケの担当です。で、その後コミケの主催者になる米澤くんというのは、その両方に関わっていた。
ところで、当時はマニアの目はすっかり少女漫画だけに向いていて、合言葉は「漫画を読む前には手を洗おう、劇画を読んだら手を洗おう」というモノで、どちらかというとCOMよりはガロ、漫画よりは劇画が好きなおいらにとっては無縁の世界だったんだが、そんな中で唯一、米澤くんだけはダボハゼみたいに何でも食いつく男で、貸本漫画はもちろん、漫画だったら何でもテリトリーに入っているわけだ。で、おいらは毎週、渋谷に通うようになり、その他の迷宮のメンバーとも付き合うようになる。とはいえ、少女漫画はまったく読まなかったがw
迷宮の集会は土曜の午後なんだが、おしゃべりに火が点いた漫画マニアがそれで大人しく引き下がるわけもなく、毎週のように誰かしらの家に行っては、徹夜で語り明かすわけだ。当時、米澤くんは「グロテスクマガジン・グロッタ」という同人誌を作っていて、そこに載せる漫画を青コピーで刷ったり、コミケットの準備をしたり、そんな感じです。
さて、そんな感じで1976年が過ぎ、明けて1977年7月。おいらが作った個人誌が「A5版の夢-貸本漫画小論-」というものです。これはいつもの本と同じようにガリ版刷りで、図版のページだけはコピーです。当時、コピーの代金が高くて、ガリ版の方が安かった。コミケでも、ガリ版刷りの同人誌は少なくなかったです。中には文字だけでなく、ガリ版で漫画まで描いてしまう人もいました。もちろん簡易オフセット印刷の同人誌というのも多かったが、それなりの部数を刷らないと採算が取れない。ちなみに「A5版の夢」は発行部数100部です。コミケでほとんど売ってしまったような気がする。赤田祐一くんも、コミケで買った、と言ってましたw で、引っ張り出して誌面を見ると、コミケやグロッタの宣伝が載っていたりして懐かしいです。
急に自伝なんか始めてどうしたんですか?
まさかこのブログを閉じるとか、有料化とか?
そんなことないですよね
投稿 ニンフォ | 2010/10/03 15:28
大東大の日本文学科って、後に筑波大教授から高崎女子大学長になられた平岡敏夫先生が講師として教鞭をとっていたと思いましたが、野次馬さんは御存知ないでしょうか。私の高校時代の恩師で、いまだに年賀状のやりとりはしているのですが。
投稿 阿井卯栄男 | 2010/10/03 16:22
野次馬さん、おいらの先輩だったのかww
これはワロタ。先輩おいらは一応明大卒業しました。
投稿 生まれてすみません | 2010/10/03 16:30
COMとガロ。どっちも読んでいました。(中学生で1年生のころ)
竹宮恵子センセの原作付きSFもの、灯台の霧笛を首長竜がぶち壊すストーリー・・・レイ・ブラッドベリの「霧笛」だ。
名古屋もナゴヤドームの近くに貸し本屋さんがまだあるのか、もうたたんでしまったのか?瀬戸へ行くバス専用道の高架下だったか?
投稿 インスタント山伏 | 2010/10/03 17:14
>女子高生集めて遊んでます
オイラも18歳以上の女子高生集めて遊んでみたいもんですwww
>1977年~1978年頃なんだが
その頃生まれた、おねーちゃんも32~33歳ですねorz
投稿 海DQN | 2010/10/03 17:26
その野次馬さんがエロ業界に突入した頃、中学生だった俺は塾帰り男連中で、こっそりエロ本の自動販売機にて、持ち金合わせてボタンを押したら、二つ前くらいの少年ジャンプが出てきて、何かのミステイクとしか感じ無かった俺らは、もう一度なけなしの金集めていれたら、また少年ジャンプが出てきて、600円×2くらいだして、古い少年ジャンプを買わされた思い出は、今もみんなで笑える話でガンスw
投稿 仕事人 | 2010/10/03 17:34
こういう話は貴重な資料になるので、忘れる前にどんどん書いてください。昭和時代のエロ文化史は私も興味があります。
投稿 ピンちゃん | 2010/10/03 18:12
いろいろ考えて、多くの人と意見を交わして、自分の意志を表現するために工夫した経験のある人って、
利口な大学でてる人でも、今は少ないように感じます。
良いカイシャに入るために大学行け、って。
教育された若い人たちは不幸なんだと思う。
何でも手順書どおりにしかしない人が増えたのは、残念です。
来年度卒あたり、TOEICの勉強ばっかりやってる奴が多く出てくるでしょうか。
投稿 ちんぴら | 2010/10/03 18:40
>亀和田氏は、その後SF小説家を経てTVタレントになり
SFマガジン「まだ地上的な天使」が大変印象に残ってましたがその後、だいぶん後でテレビで司会者で出ていたのであの作品の作者なのか!とビックリw
>篠山紀信
南沙織さんのファンでしたw
貸本屋はなつかしい。
今では漫画コミック本がビニールに入って売られているw
投稿 11PMは面白かった | 2010/10/03 19:52
正直面白いんだけど、ネットでは意味ねぇな。
さっさと単行本化してカッパぐのが吉。
アンタの言説は面白いけど、その遍歴には全く興味がない
文節の業界に入る以上、「消費」に耐えられる心意気があるかと思ったが
こういう、世の中の動乱期に「逃げ」しか打てないのは、誠に残念です。
結局、そこいらの銭ゲバ経営者と変わらんということかね。。。
投稿 ふい | 2010/10/03 20:56
野次馬のおじちゃんもいろいろあったんだね
と思った
こういう言い方も変だけど、色々無い方が幸せなのかもしれないって思い始めてます
なんていうか、波乱万丈はやっぱり疲れます
平々凡々として生きられたらそれはそれなりに幸せなのではと
投稿 ゆりあ | 2010/10/03 22:01
>正直面白いんだけど、ネットでは意味ねぇな。
>さっさと単行本化してカッパぐのが吉。
わざわざ章をつけて書いているあたり、書籍化する気まんまんであろうと思うけど、書籍化しなくたって貴重な資料としての価値がある。
正直面白いのであれば、その時点で意味があると思わないのだろうか?
投稿 ピンちゃん | 2010/10/03 23:09
>>ピンちゃんさん
意味ある云々は個人の価値観ですので押しつけするとその途端にグダグダになります。
価値観って個人で違う以上、結論なんて絶対に出ませんから。
もちろん「社会的に」とか「文化財的に」とかいう前提が付くと、また客観的な判断が必要になってくるので変わってきますけどね。
そう言う意味でお二方の言っていることは微妙に違う部分の話しになってきちまうわけです。
まー、そんな感じです。議論するなら前提をきっちり揃えないと空転して結論なんか出ませんよぅ~
投稿 魄 | 2010/10/03 23:34
齋藤磯雄先生がリラダン全集を翻訳しておられた頃でしょうか。同じキャンパスの空気を吸われたとは羨ましい。
投稿 aw | 2010/10/04 00:08
>こういう、世の中の動乱期に「逃げ」しか打てないのは、誠に残念です。
組織や規制に縛られずに、24時間世界中どこからでもリアルタイムに表現可能で、音声も動画も発信できる新たな媒体の先駆者じゃないの。物凄いアクセス数で証明しているじゃん。
追い詰められた旧媒体派の腐ったミカンだろ、オマエは!
投稿 FT | 2010/10/04 00:27
フランス語苦手なら専攻変えればいいじゃん。
投稿 茂原 | 2010/10/04 01:17
ホントは「フランス語が嫌い」なんじゃなくて、「学校が嫌い」なんですw
投稿 野次馬 | 2010/10/04 01:27