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社説

途上国援助 外交力強化のために 10月3日(日)

 2011年度の予算編成作業が進んでいる。この機会をとらえ途上国援助についてあらためて考えたい。ここで力を入れ直さないことには、戦後営々と積み上げてきた成果も損なわれると思うからだ。

 世界140カ国の首脳が途上国開発を話し合う国連ミレニアム開発目標(MDGs)サミットが先日、米ニューヨークの国連本部で開催された。合意文書は、各国が10年前の会議で合意した数値目標の実現に向けて「あらゆる努力」を傾けることを誓っている。



   <かつての世界一が>

 1990年を基準として2015年までに、▽飢餓・貧困人口を半減させる▽5歳未満の幼児死亡率を3分の1にする▽妊産婦の死亡率を4分の1にする▽エイズのまん延を阻止し減少させる−。

 文書が掲げたこれらの目標の多くが達成を危ぶまれている。サミットは、取り組みの不足をあらためて確認する場になった。

 目標達成が難しい最大の理由は資金不足だ。国連は会議に先立ち、先進国から途上国への援助額が200億ドル(約1兆7千億円)不足している、との報告書を発表している。

 中でも日本である。ここ十数年の政府開発援助(ODA)予算を見ると目を覆いたくなる。

 ピークは1997年度の1兆1700億円。世界一だった。その後減り続け、昨年度は6700億円。9・11テロをきっかけに援助拡大に転じた米国、ドイツ、英国、フランスに次々に追い越され、世界5位に甘んじている。

 国連はODA予算の国民総所得比を0・7%にする目標を掲げている。日本は0・19%。話にならない水準だ。橋本、小渕、森、小泉…と、歴代政権が大なたを振るい続けた結果である。



   <情けは人の…>

 財政が苦しいのに、ほかの国を助けるなんてとてもとても−。そんな声が聞こえてきそうだ。

 そう思えるのは、援助を一方的な恩恵と考えているからではないか。発想を切り替えよう。

 軍事力の行使を自らに禁じている日本にとり、ODAは発言力を確保するための大事な手段の一つである。いわば国際社会で生き抜くための道具だ。民主化、軍縮など日本が世界で目指すものを実現するてこになる。

 地球の裏側の出来事が直接、日本に響いてくる。途上国の暮らしがよくなり社会が安定すれば、日本経済の成長にもつながる。そして何より、貧しい人々に手を差し伸べることは国際社会の一員としての義務である。

 先の戦争の後、米国は日本に対しララ物資、ガリオア・エロア資金といった援助を注いだ。それは単に、日本人を助けるためだったのではない。日本を西側陣営にとどめ置いて、米国の国益を実現するためでもあった。

 ララ物資による脱脂粉乳の給食を覚えている人は今でも多い。相手国の人々が求めるものに的確にこたえる援助は、たとえ額は少なくても効果が大きい。

 東南アジアの国々を訪ねると、日本の援助で整備された橋や道路、空港を見かける。そうした施設は先々にわたり「日本」をPRし続けてくれるだろう。

 日本は中国に対し、累計で3兆円を越えるODAを供与してきた。中国が日本に戦争の賠償を求めなかったことに対する見返りの色彩も帯びた援助である。

 中国経済は日本の援助もてこに成長を遂げ、今では世界経済の支え役になっている。対中ODAは、その意味が中国の人々に十分浸透していないうらみはあるとしても、戦後日本外交の成功物語の一つに数え上げていいだろう。

 情けは人のためならず。この言葉はODAにこそ当てはまる。



   <国民の理解がカギ>

 問題は、援助について日本国民の理解が十分でないことだ。本社が加盟する日本世論調査会の2年前の調査では、ODAを「増やすべきだ」とする答えは9%しかなかった。「現状の水準でよい」が70%、「さらに減らすべきだ」は17%。国民がODAに向ける目はまことに冷たい。

 援助の意味について、政府の国民に対する説明が決定的に足りない。加えて、援助にからみ、贈収賄、裏金といった不祥事が多発してきた現実もある。

 政府が行った事業仕分けでは、援助の実施機関である国際協力機構(JICA)職員が飛行機のビジネスクラスで出張していることに厳しい声が寄せられた。無駄や不透明にメスを入れないことには、国民の理解は得られない。

 菅直人首相は先のサミットで、途上国の母子保健や教育のために5年間で総額85億ドルを拠出する「菅コミットメント」を発表した。口約束で終わらせてはならない。2011年度予算ではODA予算を着実に積み増し、姿勢の転換を内外に印象づけたい。

 ODAの予算規模は公共事業費や防衛費に比べれば一けた少ない。増やせないはずはない。

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