目を覚ました時に俺は見知らぬ場所にいてベットに横になっていた。
頭痛がひどい--ぼやけながら思考が鈍っている頭で考えてみる。
確か--そう、俺は自殺したはずだった。
俺こと山井光は、北海道の人通りのない道路で
自殺しようと酒を飲み眠って凍死して自殺しようとしたはずである。
体が鉛のように重く、酷く頭が痛む。だるい体を起こし、周りを見渡してみる。
医療器具と思われるモノ以外何もない部屋だった。
点滴が施され、体温や脈を図るのか体に無数の線がからまっていた。
そうか。俺は自殺に失敗したのか…。ここは病院か…。
そう思いつつ俺は何か違和感を感じた。
何だ? 何かがおかしい…。
まず気付いたのは目線が低いことだった。
そして、点滴をされている腕を見ると見慣れた自分の肌の色が違い
手を見てみると子供のような小さい手だった。
まるで別人の子供になったような…。
混乱していると突然に部屋のドアが開いた。
そして白衣を着た中年の男性が現れ、こちらに近づいてきた。
「目覚めたか。F14型。」
F14型…? 疑問は数多くあるが、まずはここがどこだか知りたかった。
「ここはどこですか」
そう言った自分の子供のように高い声に驚いた。
「グレン第4研究所だ」
にやけながら中年のおっさんは答えた。
何となくバカにされたようで少し腹に立ったが質問を続ける。
「どこですか。それは…。それに何で体がおかしくなってるんですか?」
それを聞いたおっさんは驚いたような顔をしてブツブツ言いながら
部屋を出て行ってしまった。
おっさんが部屋を出る前にいろいろ問い詰めようと思ったのだが
疲れていたのか急激な眠気に襲われ気絶するように俺は寝てしまった。
次に目が覚めた時も同じ場所のベットに寝ていた。
目を覚ましたが前の時のような頭痛も体のだるさもなくなっていた。
体を起こし自分の状況を改めて考えてみる。
「あ、あ」と声を出してみる。
明らかに声が高い。手を見てみると子供のように小さい手だ。
夢じゃなかったんだな…。どうやら俺は子供の体になってしまったらしい。
現在の状況の説明を聞こうと誰かが来るのを待っていたが一向に来そうにない。
とりあえず部屋を出てみるか…。そう思っているとドアが開いた。
前に部屋に来たおっさんだ。
「体の調子はどうだ?」
「まぁまぁです。それより何がどうなっているか説明して欲しい」
俺がそう言うと、おっさんは「ついて来い」と言った。
点滴や体中に張り巡らされている線を無理やり外し、おっさんについて行く。
取り調べ室の様な密室空間に連れて来られ質問を受けた。
「まず、お前の名前は何だ」
「山井光。北海道で酒を飲み凍死しようと自殺を図り、気付いたらここにいたんですけど
どういうことですか」
おっさんは眉をひそめ無言になったがまた質問を始めた。
「記憶があるのか?」
何を言ってるんだコイツは…。
「それより何故ここにいるのか。何故子供の体になっているのかを教えて欲しい」
「いいから俺の質問だけに答えろ」
おっさんは冷たい口調で言ってきた。
何て傲慢な奴だと思い、腹が立ったが、とりあえず質問に答えることにした。
それからおっさんは自分の住んでた場所や家族構成、俺について
しつこく多くのことを聞いてきた。
また自分の星の名前など分けの分からんことも聞いてきた。
そして、魔法、ミッドチルダとかよく分からん単語について分かるかと聞いてきた。
知らないと答えたが、一瞬リリカルなのはにそんながあったなーと考えていたが
おっさんは「管理局は分かるか?」と言ってきた。
ホントにリリカルなのはかよ。俺は一瞬固まったが
「犯罪者を取り締まっている組織」
とリリカルなのはで知っている知識を言ってみた。
そう言うとおっさんも一瞬固まったが今度はデバイスについて聞いてきた。
何がしたいんだ。このおっさんは…。
「リリカルなのはのことですか?そんなこと聞いてどうするんですか?」
「リリカルなのはとは何だ?」
知ってて聞いてんだろ。そう思いつつ好きなアニメだったので
少しだけ嬉しくなったが、それより苛立ちの方が強くなってきていた。
「アニメでしょう。そんな事聞いてどうするんですか」
そう言うと長い沈黙の後、急に席を立ち上がり「ついて来い」と言われ
こちらの質問には一切答えず
状況が全く分からないまま、また元いた部屋に戻された。
何なんだ一体。何がどうなっているのかを知りたい。
変な研究に巻き込まれてしまったんだろうか。
死んだ俺もしくは死ぬ前の俺を使って何かの実験でもしているのか。
ホントにアニメみたいだな。
そういえば、おっさんはリリカルなのはについて言っていたな。
まさかリリカルなのはの世界にでも来てしまったというのか。
何がなんだか分からない。
少し立つと部屋に白衣の若い男性の医者? なのか分からないが食事を運んできた。
そいつにもいろいろ聞いてみたが、何も答えてくれなかった。
持ってきて貰った食事は病院の質素なメニューだったが
久し振りの食事のせいか、やけに美味く感じた。
どれくらい経っただろうか。何しろ時計もないし窓もなく
ドアもこちらからは開けられず密室に閉じ込められているため
時間が分からないのだ。
誰も状況を説明してくれず自分が何なのか分からないまま
おそらく2、3日経っただろうか。
また、おっさんが俺の前に現れた。
「一体何がどうなっているのか、いいかげん教えてくれ」
俺は疲れた声でそう言った。実際、不安と苛立ちで疲れていた。
「いいだろう」
おっさんは俺の存在を説明し始めた。
「お前はF14型。人造生命体であり、管理局の魔導師ツガイ・リオンをベースにしたクローンだ。
記憶の転写のミスにより記憶が混乱しているようだがそれが事実だ」
他にも何かよく分からん難しい事を言っていたが俺には理解できなかった。
「現在、お前は魔法を使うことができるか?」
「分からない…」
混乱している俺がそう一言言うとおっさんは部屋を出て行った。
俺がクローン? 人造生命体? 本当にリリカルなのはの世界に来てしまったということか?
フェイトと同じ人造魔導師? ばかな…。
しかし、実際には俺は子供の体になっているわけだ。
それに、おっさんが嘘を言っているようには見えなかった。
これは夢なのか。指をかじってみる。痛い。夢じゃない。
いや、もしかしたら実際の俺は本物の病院のベットにでも寝ていて
それで夢を見ていて体が動く状態なのかもしれない。
そうならば、周りに医者や患者、家族がいるかもしれない。
俺は指をかじりながら「僕を叩いて下さい。叩いて下さい」とかなり長い時間、言い続けた。
しかし、何も反応がなかった。当たり前か。
もしそうなら今までに食事や物に触れることができているのがおかしい。
だとしたらマ○リックス(名作? 映画)のように視覚、聴覚、痛覚は分かるが
ずっと夢を見るような装置に入れられているのだろうか。
しかし、現代技術では、そんなことは不可能ではないだろうか…。
初めから装置に入れられていると考えると、今までの人生が全て夢ということになる。
もしくは夢だが自分が勝手に現実として認識しているだけかもしれない。
夢という現象でないかもしれない。もっと別の--。
俺は混乱して頭がおかしくなりそうだった。
そうだ。夢だ。こんなことありえない。むしろ全てが夢であって欲しい。
俺は自殺した。家族はいた。迷惑かけっぱなしだった。悲しんだのだろうか。
いや、悲しんだだろう。それが分かっていて俺は自殺した。
自分が楽になりたかったからだ。何も考えたくなかった。全てから逃げたんだ。
全てから逃げたはずなのに俺はまだ生きている。
いや生きてるかも分からない。夢かもしれない。現在の状況が分からない。
もう何も考えたくない。自然と涙があふれてきた。
自殺する前の自分に戻ったようにその場に座り込み何も考えず
俺はまた自分の殻に閉じこもった。
-モニター室-
モニター室でF14型(山井光)を見ながら研究員が同僚に聞いた。
「F14はどうなってんだ? 記憶転写ミスったと聞いたが。
オリジナルの記憶は転写してないからありえないと思うんだが…。」
「だが、実際に死んだ前の記憶が残っている。自分が自殺したのは覚えていると言ってるらしい。
おそらく記憶が混乱しているんだろう。何でも自分は辺境世界の地球人だと言って、
管理局とかについては地球のアニメで知ったと言ってるらしい」
「アニメときたか。そういえば、オリジナルは自殺したんだったな。何で地球人とか言ってんだろーな?」
「地球人の友人でもいたんじゃないか? それで記憶が混ざったとか。実際のところは分からないが」
「それって危険じゃないか? もしかしたら記憶が戻るかもしれないし。自我も強いし」
「危険になったら上が処分命じるだろう」
急にモニターを見ながら研究員が叫ぶ。
「おい。何かF14が面白い事やってるぞ」
「なんだ?」
同僚の研究員もモニターを覗き込む。
そこにはF14(山井光)が指を咥えながら
「僕を叩いて下さい。」
と連呼している姿があった。
しまいには研究員全員が集まりモニター室は爆笑に包まれた。
笑いを抑えながら研究員は言った。
「はーはー。そういえば、もうすぐ人造魔導師4体が完成するらしいぜ」