メイド服と斬鋼剣


<オープニング>


 満園兄弟はいずれも二メートル近い巨漢、体重も百キロを優に超す。鍛え上げた全身はまるで鋼だ。この寒空、しかも深夜だというのに、タンクトップ一枚でランニングを続けている。
 兄弟はプロレスラーだ。デストロイホーク1号・2号というリングネームで活躍している。まだ無名、しかしいずれ、世界に名を轟かすという夢を持っている。
 2号、すなわち弟の栄二が足を止めた。
「兄者」
「どうした? む」
 兄の栄一も止まる。
 兄弟の行く手に、刀を構えた人影が、ひとつ。待ち構えるように立っている。
 その刃が、真剣であることは輝きで知れた。
「辻斬り、あるいは腕試し……我ら兄弟に挑むか。修業時代を思い出すな」
「兄者、しかし、相手は女だぜ」
「弟よ。道を究める者に男女は関係ないのだ。構えよ」
 兄弟は、金剛力士像のようなポーズをとる。
「見よ、これぞ奥義、羅漢仁王の構え! 破れるものなら破ってみよ!」
「ハァァァアッ!」
 一分後。
 冷えたアスファルトの上に、兄弟二人の死体が転がっていた。共に奇麗に輪切りにされている。
 女は、エプロンドレスの裾で剣を拭った。
 血の染みひとつ、ついていなかった。

「みんな、集まったね。それじゃあ話を始めようか」
 運命予報士の少女は、ぶっきらぼうに切り出した。
「野太刀、ってわかるかい。日本刀の一種なんだけど、刀身が一メートル近くあるんだ。だから普通に構えるのは難しい。背負うように構えたりするそうだね」
 この依頼で破壊してほしいのは、そうした形状を持つメガリスゴーストであるという。名は『斬鋼剣』、鋼鉄すら断ち切る剣という意味だろう。
「この剣に魅入られたのはなんと、女の子だっていうじゃないか。しかも、ゴシックなメイド服を着た子なんだ。いわゆるメイドカチューシャ、ニーソックス、ブーツといった『いかにも』な服装に身をかためているよ。メイド服と野太刀……なんとも奇妙な組み合わせだね」
 このメガリスゴーストは夜な夜な、強者を求めある街を徘徊している。すでにプロレスラーの兄弟がその手にかかって命を落としたという。
「敵はマッチョなタイプがお好みらしいね。でなきゃ、なんらかの形で強さを誇示するとか。いずれにせよ『強者』と認められた人が襲われることになりそうだよ」
 魔剣を持ったこのメイドは、剣によって超人的な能力を得ている。重い剣も軽々と振り回し、数人を同時に攻撃することができるという。身のこなしも軽い。とりわけ蹴り攻撃が得意で、剣を軸にして回転し蹴りを見舞うなど、様々な攻撃方法で惑わしてくるだろう。
「スカートが短いらしいから、思いっきり蹴ってきたら……まあ、ご想像の通り。そういうことを期待するのは感心しないけどね」
 また、こちらの人数が多いと見るや、メイドは十人前後の「手下」を召喚するという。いずれも一般人だが、やはりゴシックなメイドやボーイの格好をしているそうで、包丁など身近な武器で武装しているそうだ。
「彼らはメガリスゴーストの力に魅入られている。だから斬鋼剣を破壊するか、刀から離れた場所まで引きつけておけば元に戻す事ができるよ」
 この剣と使い手は現在、一心同体の状態なんだ、と彼女は言った。
「魔法的な力で守護されているので、メイドの女の子は戦闘不能になるまでダメージを受ける事はない。だから思いっきり戦っても大丈夫。その反面、この子を戦闘不能にして武器から引き離さないと、剣を壊すことはできないんだ。つまり、戦闘中に武器だけ狙って破壊する、というのはできないってこと。あくまで正攻法でやりあわないとだめなんだね」
 斬鋼剣を砕くことができれば、操られていた一般人は気絶してしまう。目を覚ました時には、彼らはその間の記憶を失っているだろう。
「その一方で、メイドの子……つまり使い手本人は、自分がやった事を覚えているらしい。けれど、出合った能力者や不思議な現象についての記憶は曖昧になるんだってね。このあたりは、自分の目で確かめてみて」
 少女は、眼鏡の位置を直し話を締めくくる。
「冬の夜中に出会うには、少々恐ろしい相手ではあるけど、戦い甲斐はあると思うよ。まずは『強者』と認められる扮装なりスタイルで、敵をおびき寄せてみよう」
 がんばってね、と彼女は言った。

マスターからのコメントを見る

参加者
鷹田・理沙(ヤクザのお嬢様・b00140)
黒崎・涼(闇なる使者・b00373)
霧山・葉月(隷属冷笑のフラットクイーン・b01735)
響・はるか(古拙の微笑・b05133)
九曜・尚人(葛乃葉・b05691)
斑目・桔梗(オイレンシュピーゲル・b20531)
八神・戒(鉄蜘蛛・b33768)
パーシア・タチバナ(セレスタイト・b40635)
玖珂・ひかり(中学生魔狼剣士・b42674)
渡良瀬・燐太郎(父と鍛えたド根性・b44141)
照山・もみじ(陽だまりの歌い手・b53306)




<リプレイ>

●一
「ハァァァアッ!」
 相手の腰に両腕まわし、ブリッジ! バックドロップの体勢だ!
 八神・戒(鉄蜘蛛・b33768)の視界が上下逆転する。だが大地に叩きつけられる直前、彼女は空中で体を捻った。
「浅い!」
 言いざま、技をかけてきた渡良瀬・燐太郎(父と鍛えたド根性・b44141)を逆に押し潰す!
「へへ、さすがは戒」
 フォールされそうなのを巧みに逃れ、燐太郎は唇の血を拭って立つ。
 あくまで演舞だが実戦さながら、戒はさほど、加減する気はないらしい。
 戒は力比べの体勢を取って言う。
「燐太郎殿、まだ遠慮があるようだな」
 凛然たるその姿、胸にサラシを巻いただけの諸肌脱ぎ、寸分隙無く鍛え上げられた肉体だが、女人の艶やかさも持っていた。
 ここは深夜の建設現場。熱気は湯気となり、白く夜空へ立ち昇ってゆく。
 二人きりのステージに見えるがさにあらず、オーディエンスは資材の陰にいた。
「依頼はこれが初めてだったな。あの二人を見てどう思う?」
 九曜・尚人(葛乃葉・b05691)が問いかける相手は、弟子にあたる照山・もみじ(陽だまりの歌い手・b53306)。
「は、はい。全力でぶつかっているように見えます」
「何故かわかるかの? それは、互いを信頼しあっているからだ」
「信頼関係……ですか」
「うむ。我らは一人で戦うにあらず、隣に信ずべき仲間がいるのを忘れるな。緊張するのは分かるが、気負いすぎてはいかんぞ」
 と言って尚人は、もみじの頭を優しく撫でるのだった。もみじは頷いて目を細めた。
 霧山・葉月(隷属冷笑のフラットクイーン・b01735)は物陰から、
「お、いい展開♪」
 と身を乗り出した。燐太郎が戒にハイキックを繰り出す構えとなったからだ。
 その蹴りが、命中する寸前にぴたりと止まる。星灯りの下、彼らは「彼女」の接近を知ったのだ。
「さらにいい展開っ♪」
 葉月も自身の長物(ながもの)、佩いて舞台へと向かう!

●二
 工事現場のライトが灯る。
 逆光に浮かぶそのシルエット。丈の短いエプロンドレスに、ボブカットの黒い髪、フリルのついたカチューシャは白、脚は膝上ニーソックス、ブーツ履きにて太刀を抜く。
 メイドは、背負うようにして野太刀を構えた。
「鞘を捨てたわね。それはもう帰れないという暗示よ……野太刀メイド、破れたり!」
 その眼前に姿を見せるもメイド。鷹田・理沙(ヤクザのお嬢様・b00140)の見参!
「こ、この格好は、敵に対するあてつけだからね。変な勘違いしたら、地下クラブに売り飛ばして、口に出せないような御奉仕させるからね!」
 敵が黒白なのに比し、理沙は赤基調のメイド服、手に匕首を提げていた。匕首、とはもう少しストレート表現すると『ドス』である。
 理沙の隣もメイド。玖珂・ひかり(中学生魔狼剣士・b42674)の参上!
(「メイドさんで野太刀……何故だろうか、どこか既視感を覚える光景だな」)
 との思い胸に秘め、
「相手が誰であろうと全力を尽くす、それだけだ」
 ひかりは長槍を回転させ、真正面にぴたりと止めた。
 さらにもう一人メイド。白燐光を発動し二人の間から顔を出す。
「みなさん、今回のお相手の方々と似た姿をしているからといって、私たち三人を間違えて攻撃してはいけませんよ〜♪」
 斑目・桔梗(オイレンシュピーゲル・b20531)の推参!
「さあ、はじめますよ〜♪ 今宵の『風葉』は血に飢えておるぞ〜♪」
 と言って竹ボウキを剣の如く構える。これが桔梗なりの「本気」の示し方だ!
 残る仲間も同時に、敵の前に繰り出した。
 白燐光が敵の姿を浮き上がらせていた。メイド剣士は、丸い眼鏡をかけているのが印象的だった。
「笑えば美人だろうに、にこりともしないな」
 黒崎・涼(闇なる使者・b00373)は寸評する。
「それもまた悪くない。ああいう娘を落として、俺にだけ特別の表情を見せてもらう、とか」
 涼は微笑するが、動きにわずかな無駄もなかった。チェーンソー剣、鎖剣、二刀流で固める。
 メイド剣士は左腕を頭上に伸ばし、パチンと指を鳴らす。
 するとたちまちその背後から、黒ずくめの少年に少女、ゴシックな出で立ちで現れる。男女ほぼ半々で七人。少女はメイド服のようだが、黒一色なので剣士と区別しやすい。
 いずれも目線が定まらず、ふらふららと左右に揺れている。メガリスゴーストの力に魅入られ、その手足として操られているのだ。ナイフや包丁を手にしていた。
 剣士を先頭に、どっと敵集団が押し寄せてきた。
 能力者も退かじ! それに倍する勢いで飛び出し、激突する!
 理沙、葉月が先頭、燐太郎と戒もぴったりとつけている。前衛中央は涼だ。
 火花が散る、金属同士のぶつかりあい擦れあう音が空気を満たす。冬の深夜、ひりひりするような風が吹きすさぶ。
 その後衛にあって、パーシア・タチバナ(セレスタイト・b40635)は懐中電灯を手に、油断無く左右と背後を窺っている。
(「手下は十名前後のはず……いま出ている数は少なすぎます」)
 戦闘集団の質を分けるのは前衛の攻撃力でも、ましてや各人の経験の多寡でもない。不測の事態に備える心構えであり、それができる環境であろう。たとえ敵が雑魚にすぎぬとも、今、パーシアの冷静な観察がなければ、戦いの流れがどうなっていたか知れない。
 あえて前線に背を向け警戒していたパーシアは、見事にその役目を果たした。
「真後ろです! 操られた一般人がさらに四人来ます!」
「挟撃というわけか。我らの待ち伏せ策は、最初から見破られていたのかもしれんな……」
 しかし、それもまた面白い。響・はるか(古拙の微笑・b05133)はリフレクトコアを発動し、振り返って来たる者たちに備える。押し寄せるはメイドにボーイである。奇麗な顔こそしてはいるが、人形のごとく無表情なのが奇怪、手にはそれぞれ、凶器の刃をぎらつかせている。
「……武器持ちて襲いかかるなら、手加減は無い」
 はるかの口元に静かな――されどある種の凄みを持った――笑みが浮かんでいた。
 後衛は半円型の一列だ。はるかとパーシアが左サイド、尚人ともみじが中央、ひかりと桔梗が右サイドをつとめている。

●三
 理沙は速攻をかけた。包丁の切っ先かわして身を躍らせ、
「私はあてつけだってば、あなたたちの仲間じゃないの!」
 と匕首で頭上から、手下メイドを一刀のもとに斬り伏せた。メイドに怪我をしている様子はないが、うずくまって戦闘不能となる。
 葉月は二本の長物で挑む。メインは長刀『ロングブシドゥー』、狂気すら感じさせる刀身だ。もう一本も長剣、ゆえにリーチは凄まじい。並大抵の膂力では、実戦はおろか構えるも難しい。
「向こうがメイドさんなら、こっちはお嬢様、なんてね♪」
 だがそれを、葉月は悠悠と振り回すのだ。
「雑魚相手にいちいち守りに入る必要はないよ!」
 旋剣の構えは発動済み、二刀、風車のように回転させ、繰り出す一撃はパラノイアペーパー!
 散る! 散る! 葉月の妄想が漫画原稿と化し舞い散る! 漫画の内容は、少女が突然巨乳になるとかそんな話だ! 尖った紙の端で手下たちを切り裂く。
 たとい眼前、刃の林と化そうと、一歩も退かぬが武士の意地!
「葛城山が土蜘蛛、八神戒。――参る!!」
 森羅呼吸法は既に済ませた。戒は拳で、操られた男たちに立ち向かう。黒糸威(おどし)の手甲で撲てば、ボーイの体は「く」の字に折れる。
 メイド剣士の眼光が、涼の正面で音もなく止まった。
「やあ、チャーミングなキミ、ちょっとお茶しないか?」
 ふっ、と微笑む彼を無視して、メイドは斬鋼剣を回転させる。狙うは涼だけではない。刃は葉月の袖も掠め、理沙に傷を与えた。だが深刻な傷ではないだろう。最初に狙われた涼も、これを見事にかわしてみせた。
「冷たいな。ま、冷たくあしらわれるのも慣れっこだ。だからこそ落としがいがある」
 と言って彼が繰り出すは、怒濤の勢い黒影剣、メイドは躱しきれず地を転がった。
 立ち上がり構え直した剣士メイド、その眼鏡の奥、狼のような目が、燐太郎の視線とぶつかった。
 燐太郎は、自身のハチマキを指して、
「こいつの裏には、デストロイホーク1号・2号のサインがあるんだ」
 鯉口切って鞘走らせる。
「お前が手にかけたプロレスラーだよ。巡業を見にいったことがあるんだ。二人の荒々しくも力強いファイト……忘れもしねぇ」
 閃く太刀、迸る闇光! 黒影剣! メイドに二の腕に命中した。
 じり、と後退しながらメイドは睨みつけてくる。
「デストロイホークの無念、果たさせてもらうぜ!」
 その眼光を跳ね返すがごとく、彼は断言した。

●四
 後方チームは、まず手下四体を片付けることに全力を注いだ。
「我はただ威を狩る者であると心得よ!」
 と叫んだ尚人の初手は、魔弾の射手の発動合図だ。以後、尚人は果敢に炎の魔弾を使い、敵接近を許さない。しかし彼の役割はそれに留まらなかった。
「ブラストヴォイスを続けるがよい」
 戦況を見ながら、尚人はもみじに呼びかけているのだ。もみじは忠実に
「はい、尚人さん……いえ、師匠!」
 と応じ、この戦い三度目のブラストヴォイスを唇にのぼらせた。一度目は無効、二度目も効果が浅かったがここで三度目の正直、
(「手下の皆さん、ちょっと痛いですけど、早く目を覚まして下さいね♪」)
 と魂の力を込めたもみじの歌声、後方の四体はもちろん、前衛が戦っている手下にまでダメージを与えた。しかも、もみじは自分が戦うだけでなく、桔梗を守れるような位置取りを心がけている。
「ありがとうございます、照山様♪」
 ゆえに桔梗は戦いに専念できる。後顧の憂いがない桔梗は、抜群の働きを示した。
「家政婦は見てしまいました♪」
 などと言って白燐拡散弾を破裂させたり、
「安全第一です♪」
 と前衛の回復にも回ったりする。いずれも効果は高い。
 はるかも自分の役割を心得ている。手下の早期減少こそ急務、そう判断して、
「裁きの光を浴びるがいい。見捨てられるより、裁かれるほうが幸せだと思うのだな」
 背に十字架型の後光を昇らせ、放つ光弾でボーイやメイドたちを撃った。
 はるかの狙いは的確だ。これを繰り返すうち、後衛の敵はみるみる勢いを減じる。
 はるかと呼吸を合わせてパーシア、
「確実に討ち取るとしましょう」
 狙い澄ませて破魔矢を投ず。一見、華奢に見えるパーシアなのに、投ず矢は射撃選手のように正確ときている。後方からの敵四体のうち、実に二体を彼女は倒したのだった。
 残り二体を討ち取ったのはひかりだ。
(「戦闘は間合いだ。常に戦場全体の状況の把握を優先し、可能な限り、相手の初動を潰す」)
 ひかりの巧みな位置取りが効いたのか、後方手下はほとんど彼女を集中的に攻撃した。されど彼女は一枚も二枚も上手、ダメージを受けても最小限にとどめ、逆に激しくやり返す。
「相手にならん……」
 ひかりの槍が舞うたび、強力な一撃が繰り出される。回復不能のペナルティがあろうと構わず、クロストリガーを彼女は叩き込んだ。
 かくてさほど時間をかけず、後方の手下は一掃されたのである。
「これ以上の手下はなさそうです」
 パーシアが告げる。
「よし、仕上げといこうか」
 はるかはメガリスゴーストに向き直った。

●五
 後衛全員の参戦により、前衛の勢いはいや高まる。七体もいた手下だが、あれよあれよという間にボーイ一人となった。
「そろそろリミッターレリーズ行くわよ」
 理沙はインフィニティエアを発動させた。いよいよ大詰めだ。
 残るボーイに桔梗は目をやり、
「これはまた見目麗しい給仕さんですね♪ でも、なかなか倒れてくださらない方には」
 と、手に光の槍を握る。
「家政婦桔梗からの贈り物ですの〜。てい♪」
 投じた槍の効果てきめん、ボーイは包丁を取り落とし、ぱたりと倒れた。
 焦ったか剣士のメイド、ここで大胆な攻撃に出た。剣を突き立て、これを軸にしてぐるりと回転蹴りを見舞ったのだ! 刃のような蹴りである。
 だが、
「大層な攻撃だが所詮は虚仮威し……」
 これを体で止める者があった。傷受けど負けず、これを止めてしまう!
「我が首は獲れぬ!!」
 戒だ。彼女は戦神の化身か、身一つでこれを成し遂げた!
 反動で飛ばされ地に落ちたメイドに、
「狐焔よ、舞え!」
 と尚人の魔弾が飛ぶ。もみじも、ひかりも、追撃する。
「さあ、一気に終わらせましょう」
 呼びかけながらパーシアは、赦しの舞で味方を癒し、鼓舞した。
 涼はメイド剣士との間合いを詰める。
「一生懸命な娘って好きだな。だから」
 と凄まじい速度のロケットスマッシュを決めた。
「手加減は失礼に値するね。とことんやってやろうか!」
 勢い、爽なり。涼の一撃はメイドを味方陣営に吹き飛ばした!
 しかしそれでも、敵は強大であった。必死に応戦して倒れない。
「ふーん、でも、攻撃が大振りになってきたんじゃない?」
 理沙は笑った。よく見れば敵が、衰えてきたのがわかったのだ。
「野太刀も良いけど、そうなると辛いかしら。ほらっ!」
 巧みに敵の足払いをかわし、理沙は匕首の重さでバランス取りつつ空中蹴りを放った。クレセントファング! 三日月の光輪が描かれる。
「太刀装備じゃ出来ない、大胆かつ繊細な攻めって奴よ」
 ぽんぽんと、匕首で肩叩く理沙である。
 入れ替わるように葉月が攻める。
「どっちが長刀使いとして上か、勝負!」
 とロングブシドゥーをふるうが、葉月はバランスを崩し、上半身を敵前にさらしてしまった。いくら彼女でも、長剣二刀流の全力攻撃は重すぎたか!?
 好機到来、とばかりにメイド剣士が野太刀を振り上げるのが見えた。
 ところが!
「なーんてね」
 葉月は身を伏せた。
「肉を斬らせて骨を断ってもらう、だよ!」
 そのとき葉月の後ろに、金剛力士像のような姿勢を取る剣鬼が見えた。
 いや剣鬼ではない。それは、剣を構える燐太郎!
 そして彼の姿勢こそ、奥義・羅漢仁王の構えだ!!
「デストロイホークの魂、今、このオレの身に宿ったぜ!」
 振り下ろされる一刀、黒影を帯びて光り、唸り、袈裟懸ける!!
 メイド剣士はこれを避けようがなかった。
 大地に叩きつけられ、跳ね、猛烈な勢いで建築資材に叩き込まれ、ようやく静止したのだった。
「ケリは……つけたぜ!」
 燐太郎の両眼に、熱いものがこみあげていた。

●六
「このメガリスゴーストは何故メイドに取り憑いたのだろうな……」
 はるかは野太刀を取り上げ、刀身の峰を鉄材にぶつけた。剛剣『斬鋼剣』もこうなっては脆い。砕けてただの鉄屑に帰す。
「さて終わったか。じゃあ、気がねなくナンパできるな」
 と、涼はメイド少女を抱き上げるが、微笑して彼女を安置するにとどめる。
「ちょっと今日は日が悪いよね。またの機会にしよう」
 そんな涼を、ひかりがじっと見ている。
「変? 俺だって年中ナンパしてるわけじゃないんだよ。ところで玖珂さん、電話番号教えて」
 ひかりは、やれやれ、という顔をした。


マスター:桂木京介 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:11人
作成日:2009/01/23
得票数:楽しい4  カッコいい34  知的7  せつない1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。