<リプレイ>
●一 「ハァァァアッ!」 相手の腰に両腕まわし、ブリッジ! バックドロップの体勢だ! 八神・戒(鉄蜘蛛・b33768)の視界が上下逆転する。だが大地に叩きつけられる直前、彼女は空中で体を捻った。 「浅い!」 言いざま、技をかけてきた渡良瀬・燐太郎(父と鍛えたド根性・b44141)を逆に押し潰す! 「へへ、さすがは戒」 フォールされそうなのを巧みに逃れ、燐太郎は唇の血を拭って立つ。 あくまで演舞だが実戦さながら、戒はさほど、加減する気はないらしい。 戒は力比べの体勢を取って言う。 「燐太郎殿、まだ遠慮があるようだな」 凛然たるその姿、胸にサラシを巻いただけの諸肌脱ぎ、寸分隙無く鍛え上げられた肉体だが、女人の艶やかさも持っていた。 ここは深夜の建設現場。熱気は湯気となり、白く夜空へ立ち昇ってゆく。 二人きりのステージに見えるがさにあらず、オーディエンスは資材の陰にいた。 「依頼はこれが初めてだったな。あの二人を見てどう思う?」 九曜・尚人(葛乃葉・b05691)が問いかける相手は、弟子にあたる照山・もみじ(陽だまりの歌い手・b53306)。 「は、はい。全力でぶつかっているように見えます」 「何故かわかるかの? それは、互いを信頼しあっているからだ」 「信頼関係……ですか」 「うむ。我らは一人で戦うにあらず、隣に信ずべき仲間がいるのを忘れるな。緊張するのは分かるが、気負いすぎてはいかんぞ」 と言って尚人は、もみじの頭を優しく撫でるのだった。もみじは頷いて目を細めた。 霧山・葉月(隷属冷笑のフラットクイーン・b01735)は物陰から、 「お、いい展開♪」 と身を乗り出した。燐太郎が戒にハイキックを繰り出す構えとなったからだ。 その蹴りが、命中する寸前にぴたりと止まる。星灯りの下、彼らは「彼女」の接近を知ったのだ。 「さらにいい展開っ♪」 葉月も自身の長物(ながもの)、佩いて舞台へと向かう!
●二 工事現場のライトが灯る。 逆光に浮かぶそのシルエット。丈の短いエプロンドレスに、ボブカットの黒い髪、フリルのついたカチューシャは白、脚は膝上ニーソックス、ブーツ履きにて太刀を抜く。 メイドは、背負うようにして野太刀を構えた。 「鞘を捨てたわね。それはもう帰れないという暗示よ……野太刀メイド、破れたり!」 その眼前に姿を見せるもメイド。鷹田・理沙(ヤクザのお嬢様・b00140)の見参! 「こ、この格好は、敵に対するあてつけだからね。変な勘違いしたら、地下クラブに売り飛ばして、口に出せないような御奉仕させるからね!」 敵が黒白なのに比し、理沙は赤基調のメイド服、手に匕首を提げていた。匕首、とはもう少しストレート表現すると『ドス』である。 理沙の隣もメイド。玖珂・ひかり(中学生魔狼剣士・b42674)の参上! (「メイドさんで野太刀……何故だろうか、どこか既視感を覚える光景だな」) との思い胸に秘め、 「相手が誰であろうと全力を尽くす、それだけだ」 ひかりは長槍を回転させ、真正面にぴたりと止めた。 さらにもう一人メイド。白燐光を発動し二人の間から顔を出す。 「みなさん、今回のお相手の方々と似た姿をしているからといって、私たち三人を間違えて攻撃してはいけませんよ〜♪」 斑目・桔梗(オイレンシュピーゲル・b20531)の推参! 「さあ、はじめますよ〜♪ 今宵の『風葉』は血に飢えておるぞ〜♪」 と言って竹ボウキを剣の如く構える。これが桔梗なりの「本気」の示し方だ! 残る仲間も同時に、敵の前に繰り出した。 白燐光が敵の姿を浮き上がらせていた。メイド剣士は、丸い眼鏡をかけているのが印象的だった。 「笑えば美人だろうに、にこりともしないな」 黒崎・涼(闇なる使者・b00373)は寸評する。 「それもまた悪くない。ああいう娘を落として、俺にだけ特別の表情を見せてもらう、とか」 涼は微笑するが、動きにわずかな無駄もなかった。チェーンソー剣、鎖剣、二刀流で固める。 メイド剣士は左腕を頭上に伸ばし、パチンと指を鳴らす。 するとたちまちその背後から、黒ずくめの少年に少女、ゴシックな出で立ちで現れる。男女ほぼ半々で七人。少女はメイド服のようだが、黒一色なので剣士と区別しやすい。 いずれも目線が定まらず、ふらふららと左右に揺れている。メガリスゴーストの力に魅入られ、その手足として操られているのだ。ナイフや包丁を手にしていた。 剣士を先頭に、どっと敵集団が押し寄せてきた。 能力者も退かじ! それに倍する勢いで飛び出し、激突する! 理沙、葉月が先頭、燐太郎と戒もぴったりとつけている。前衛中央は涼だ。 火花が散る、金属同士のぶつかりあい擦れあう音が空気を満たす。冬の深夜、ひりひりするような風が吹きすさぶ。 その後衛にあって、パーシア・タチバナ(セレスタイト・b40635)は懐中電灯を手に、油断無く左右と背後を窺っている。 (「手下は十名前後のはず……いま出ている数は少なすぎます」) 戦闘集団の質を分けるのは前衛の攻撃力でも、ましてや各人の経験の多寡でもない。不測の事態に備える心構えであり、それができる環境であろう。たとえ敵が雑魚にすぎぬとも、今、パーシアの冷静な観察がなければ、戦いの流れがどうなっていたか知れない。 あえて前線に背を向け警戒していたパーシアは、見事にその役目を果たした。 「真後ろです! 操られた一般人がさらに四人来ます!」 「挟撃というわけか。我らの待ち伏せ策は、最初から見破られていたのかもしれんな……」 しかし、それもまた面白い。響・はるか(古拙の微笑・b05133)はリフレクトコアを発動し、振り返って来たる者たちに備える。押し寄せるはメイドにボーイである。奇麗な顔こそしてはいるが、人形のごとく無表情なのが奇怪、手にはそれぞれ、凶器の刃をぎらつかせている。 「……武器持ちて襲いかかるなら、手加減は無い」 はるかの口元に静かな――されどある種の凄みを持った――笑みが浮かんでいた。 後衛は半円型の一列だ。はるかとパーシアが左サイド、尚人ともみじが中央、ひかりと桔梗が右サイドをつとめている。
●三 理沙は速攻をかけた。包丁の切っ先かわして身を躍らせ、 「私はあてつけだってば、あなたたちの仲間じゃないの!」 と匕首で頭上から、手下メイドを一刀のもとに斬り伏せた。メイドに怪我をしている様子はないが、うずくまって戦闘不能となる。 葉月は二本の長物で挑む。メインは長刀『ロングブシドゥー』、狂気すら感じさせる刀身だ。もう一本も長剣、ゆえにリーチは凄まじい。並大抵の膂力では、実戦はおろか構えるも難しい。 「向こうがメイドさんなら、こっちはお嬢様、なんてね♪」 だがそれを、葉月は悠悠と振り回すのだ。 「雑魚相手にいちいち守りに入る必要はないよ!」 旋剣の構えは発動済み、二刀、風車のように回転させ、繰り出す一撃はパラノイアペーパー! 散る! 散る! 葉月の妄想が漫画原稿と化し舞い散る! 漫画の内容は、少女が突然巨乳になるとかそんな話だ! 尖った紙の端で手下たちを切り裂く。 たとい眼前、刃の林と化そうと、一歩も退かぬが武士の意地! 「葛城山が土蜘蛛、八神戒。――参る!!」 森羅呼吸法は既に済ませた。戒は拳で、操られた男たちに立ち向かう。黒糸威(おどし)の手甲で撲てば、ボーイの体は「く」の字に折れる。 メイド剣士の眼光が、涼の正面で音もなく止まった。 「やあ、チャーミングなキミ、ちょっとお茶しないか?」 ふっ、と微笑む彼を無視して、メイドは斬鋼剣を回転させる。狙うは涼だけではない。刃は葉月の袖も掠め、理沙に傷を与えた。だが深刻な傷ではないだろう。最初に狙われた涼も、これを見事にかわしてみせた。 「冷たいな。ま、冷たくあしらわれるのも慣れっこだ。だからこそ落としがいがある」 と言って彼が繰り出すは、怒濤の勢い黒影剣、メイドは躱しきれず地を転がった。 立ち上がり構え直した剣士メイド、その眼鏡の奥、狼のような目が、燐太郎の視線とぶつかった。 燐太郎は、自身のハチマキを指して、 「こいつの裏には、デストロイホーク1号・2号のサインがあるんだ」 鯉口切って鞘走らせる。 「お前が手にかけたプロレスラーだよ。巡業を見にいったことがあるんだ。二人の荒々しくも力強いファイト……忘れもしねぇ」 閃く太刀、迸る闇光! 黒影剣! メイドに二の腕に命中した。 じり、と後退しながらメイドは睨みつけてくる。 「デストロイホークの無念、果たさせてもらうぜ!」 その眼光を跳ね返すがごとく、彼は断言した。
●四 後方チームは、まず手下四体を片付けることに全力を注いだ。 「我はただ威を狩る者であると心得よ!」 と叫んだ尚人の初手は、魔弾の射手の発動合図だ。以後、尚人は果敢に炎の魔弾を使い、敵接近を許さない。しかし彼の役割はそれに留まらなかった。 「ブラストヴォイスを続けるがよい」 戦況を見ながら、尚人はもみじに呼びかけているのだ。もみじは忠実に 「はい、尚人さん……いえ、師匠!」 と応じ、この戦い三度目のブラストヴォイスを唇にのぼらせた。一度目は無効、二度目も効果が浅かったがここで三度目の正直、 (「手下の皆さん、ちょっと痛いですけど、早く目を覚まして下さいね♪」) と魂の力を込めたもみじの歌声、後方の四体はもちろん、前衛が戦っている手下にまでダメージを与えた。しかも、もみじは自分が戦うだけでなく、桔梗を守れるような位置取りを心がけている。 「ありがとうございます、照山様♪」 ゆえに桔梗は戦いに専念できる。後顧の憂いがない桔梗は、抜群の働きを示した。 「家政婦は見てしまいました♪」 などと言って白燐拡散弾を破裂させたり、 「安全第一です♪」 と前衛の回復にも回ったりする。いずれも効果は高い。 はるかも自分の役割を心得ている。手下の早期減少こそ急務、そう判断して、 「裁きの光を浴びるがいい。見捨てられるより、裁かれるほうが幸せだと思うのだな」 背に十字架型の後光を昇らせ、放つ光弾でボーイやメイドたちを撃った。 はるかの狙いは的確だ。これを繰り返すうち、後衛の敵はみるみる勢いを減じる。 はるかと呼吸を合わせてパーシア、 「確実に討ち取るとしましょう」 狙い澄ませて破魔矢を投ず。一見、華奢に見えるパーシアなのに、投ず矢は射撃選手のように正確ときている。後方からの敵四体のうち、実に二体を彼女は倒したのだった。 残り二体を討ち取ったのはひかりだ。 (「戦闘は間合いだ。常に戦場全体の状況の把握を優先し、可能な限り、相手の初動を潰す」) ひかりの巧みな位置取りが効いたのか、後方手下はほとんど彼女を集中的に攻撃した。されど彼女は一枚も二枚も上手、ダメージを受けても最小限にとどめ、逆に激しくやり返す。 「相手にならん……」 ひかりの槍が舞うたび、強力な一撃が繰り出される。回復不能のペナルティがあろうと構わず、クロストリガーを彼女は叩き込んだ。 かくてさほど時間をかけず、後方の手下は一掃されたのである。 「これ以上の手下はなさそうです」 パーシアが告げる。 「よし、仕上げといこうか」 はるかはメガリスゴーストに向き直った。
●五 後衛全員の参戦により、前衛の勢いはいや高まる。七体もいた手下だが、あれよあれよという間にボーイ一人となった。 「そろそろリミッターレリーズ行くわよ」 理沙はインフィニティエアを発動させた。いよいよ大詰めだ。 残るボーイに桔梗は目をやり、 「これはまた見目麗しい給仕さんですね♪ でも、なかなか倒れてくださらない方には」 と、手に光の槍を握る。 「家政婦桔梗からの贈り物ですの〜。てい♪」 投じた槍の効果てきめん、ボーイは包丁を取り落とし、ぱたりと倒れた。 焦ったか剣士のメイド、ここで大胆な攻撃に出た。剣を突き立て、これを軸にしてぐるりと回転蹴りを見舞ったのだ! 刃のような蹴りである。 だが、 「大層な攻撃だが所詮は虚仮威し……」 これを体で止める者があった。傷受けど負けず、これを止めてしまう! 「我が首は獲れぬ!!」 戒だ。彼女は戦神の化身か、身一つでこれを成し遂げた! 反動で飛ばされ地に落ちたメイドに、 「狐焔よ、舞え!」 と尚人の魔弾が飛ぶ。もみじも、ひかりも、追撃する。 「さあ、一気に終わらせましょう」 呼びかけながらパーシアは、赦しの舞で味方を癒し、鼓舞した。 涼はメイド剣士との間合いを詰める。 「一生懸命な娘って好きだな。だから」 と凄まじい速度のロケットスマッシュを決めた。 「手加減は失礼に値するね。とことんやってやろうか!」 勢い、爽なり。涼の一撃はメイドを味方陣営に吹き飛ばした! しかしそれでも、敵は強大であった。必死に応戦して倒れない。 「ふーん、でも、攻撃が大振りになってきたんじゃない?」 理沙は笑った。よく見れば敵が、衰えてきたのがわかったのだ。 「野太刀も良いけど、そうなると辛いかしら。ほらっ!」 巧みに敵の足払いをかわし、理沙は匕首の重さでバランス取りつつ空中蹴りを放った。クレセントファング! 三日月の光輪が描かれる。 「太刀装備じゃ出来ない、大胆かつ繊細な攻めって奴よ」 ぽんぽんと、匕首で肩叩く理沙である。 入れ替わるように葉月が攻める。 「どっちが長刀使いとして上か、勝負!」 とロングブシドゥーをふるうが、葉月はバランスを崩し、上半身を敵前にさらしてしまった。いくら彼女でも、長剣二刀流の全力攻撃は重すぎたか!? 好機到来、とばかりにメイド剣士が野太刀を振り上げるのが見えた。 ところが! 「なーんてね」 葉月は身を伏せた。 「肉を斬らせて骨を断ってもらう、だよ!」 そのとき葉月の後ろに、金剛力士像のような姿勢を取る剣鬼が見えた。 いや剣鬼ではない。それは、剣を構える燐太郎! そして彼の姿勢こそ、奥義・羅漢仁王の構えだ!! 「デストロイホークの魂、今、このオレの身に宿ったぜ!」 振り下ろされる一刀、黒影を帯びて光り、唸り、袈裟懸ける!! メイド剣士はこれを避けようがなかった。 大地に叩きつけられ、跳ね、猛烈な勢いで建築資材に叩き込まれ、ようやく静止したのだった。 「ケリは……つけたぜ!」 燐太郎の両眼に、熱いものがこみあげていた。
●六 「このメガリスゴーストは何故メイドに取り憑いたのだろうな……」 はるかは野太刀を取り上げ、刀身の峰を鉄材にぶつけた。剛剣『斬鋼剣』もこうなっては脆い。砕けてただの鉄屑に帰す。 「さて終わったか。じゃあ、気がねなくナンパできるな」 と、涼はメイド少女を抱き上げるが、微笑して彼女を安置するにとどめる。 「ちょっと今日は日が悪いよね。またの機会にしよう」 そんな涼を、ひかりがじっと見ている。 「変? 俺だって年中ナンパしてるわけじゃないんだよ。ところで玖珂さん、電話番号教えて」 ひかりは、やれやれ、という顔をした。
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参加者:11人
作成日:2009/01/23
得票数:楽しい4
カッコいい34
知的7
せつない1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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