きょうの社説 2010年10月3日

◎長谷川等伯記念事業 息長い地域おこしに育てたい
 七尾出身の画聖、長谷川等伯没後400年にちなんだ各種の記念事業が展開されている 七尾市で、等伯を顕彰し、文化・教育、地域振興につなげる動きが広がっている。能登、石川が誇る偉人を通した地域おこしの芽を息長く育てていってもらいたい。

 等伯の偉業を次代に継承するうえで、若者たちの関心が少しずつ高まってきていること が心強い。小・中・高校生を対象に行った「等伯と私」感想文コンクールでは780点余の作品が寄せられた。人生の目標に向かってまい進する先人の生き方や見る者を圧倒する作品に感銘した若者も多かっただろう。等伯に関する「子ども検定」も実施されることになった。今後も若者たちが等伯の足跡を学び、彼とその作品を生み出した郷土の文化に触れる機会を多く設けてほしい。

 等伯ゆかりの事業は、展覧会や茶会、花展、演劇など多岐にわたるが、「等伯効果」は 経済面からも注目される。金利の一部を活用してファンドを創設し、等伯の足跡調査や作品収集などに役立てる、のと共栄信用金庫の「等伯預金」は100億円を完売し、50億円を追加発売した。「ふるさとの偉人である等伯への関心の表れではないか」という同信金側の見方が現実であればうれしい話だ。

 観光・飲食面では、等伯にちなんで初の「長谷川とうふ伯グルメ博覧会」を展開し、豆 腐料理を七尾の名物にしようという取り組みも行われている。等伯ゆかりの地の七尾、能登を訪れる観光客の満足度を高め、リピーターにつなげたい。「等伯」をキーワードとしたまちおこしの種は多方面にあるはずで、それらの取り組みは能登、石川の魅力を高めることになる。さまざまな視点から可能性を探ってもらいたい。

 能登時代の等伯の足跡については、北國新聞社が県七尾美術館と七尾市の協力で取り組 む「長谷川等伯ふるさと調査」が行われている。これまでの七尾市や羽咋市などの寺院を巡る調査で、最も初期とみられる制作年代や長家家臣との交流が浮かび上がるなど、知られざる等伯像がしだいに明らかになってきている。

◎希少金属の確保 備蓄制度の補強を常に
 経済産業省が、中国の輸出停止措置で問題になったレアアース(希土類)の安定確保を 図る総合対策をまとめた。備蓄、代替材料の開発、リサイクルの強化、新たな鉱山開発支援などが柱で、今年度補正予算案にすぐ反映させるのはよしとしても、対策のほとんどは政府が昨年まとめた「希少金属(レアメタル)確保戦略」に盛り込まれており、目新しいものではない。備蓄など日本の資源戦略の見通しの甘さや、取り組みの不十分さが、中国の輸出規制で図らずも露呈したと受け止める必要があろう。

 政府は、産業に用いられる非鉄金属のうち、産出量が限られ文字通り希少な31種類を レアメタルと定義付けている。レアアースはその一種で、電気・ハイブリッド車のモーターに必要な強力な磁石などの製造に欠かせない。

 日本は、産業のビタミンとも呼ばれるレアメタルの確保を輸入に頼らざるを得ないため 、1983年から備蓄制度を設けている。当初からの備蓄対象はニッケル、コバルト、マンガンなど7鉱種で、国内消費量の60日分を備蓄目標としてきた(国家備蓄42日分、民間備蓄18日分)。レアメタルの多くは鉄の特性を変える性質があり、備蓄制度の主な狙いは鉄鋼の安定生産にあった。

 その後、レアメタルの用途は広がり、携帯電話やパソコンなどハイテク製品の製造に必 須となる一方、中国など新興国の経済成長で需給がひっ迫するようになった。が、備蓄対象は長年変わらず、昨年策定のレアメタル確保戦略でインジウム、ガリウムの2鉱種が追加されたものの、焦点のレアアースやプラチナなどは「要注視」の鉱種に位置づけられた。今回の中国の輸出規制で、この戦略が早々と修正を迫られた形である。

 レアメタルの需給は、鉄鋼やハイテク製品の生産状況や新たな鉱山開発、代替技術の普 及などで変化するのは無論、産出国にとってはまさに「戦略物質」であり、政治的な要因などで供給が左右されがちである。世界の市場動向に応じて、備蓄制度も絶えず見直し、補強していく必要がある。