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[21905] (改題)神は犀を振らない(振らせることは、ある)/二次・転生オリ主
Name: 初心者◆c0f1eb02 ID:626314b9
Date: 2010/10/02 00:48
はじめまして、初心者です。

最近ふと思い浮かんだネタが脳内劇場を続けるので投稿してみました。

名前通り初心者なので色々大目に見て下さるとありがたいです。

題名変更しました。(10/2)

BASARAです。

オリ主最強系です。他にもオリキャラが(いつか)登場します。

能力クロス系です。

ご都合主義です。

主人公の性格は最低では無いと思ってますがよろしくないです。

TSあります。

以上に不快、嫌だなっと思う方はブラウザバックをお願いします。

それでも別に構わない方はよろしくおねがいします。




※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※



“ダイスを振りますか?振りませんか?”

目の前の立て札にそれなんてローゼンメイデン?と思いつつ辺りを見回した。
微妙な乳白色にオパールの彩りを散りばめたような世界に立て札とその下にサイコロが1つ。

某ライオン番組、ご〇げん〇うに出てくる何が出るかな~♪の巨大サイコロだ。
描かれているのは「〇〇な話」ではなく普通のサイコロと同じ。

そして現実感が無いくせに妙にはっきりしている気がする思考・・・・・・
ここまで何もない夢は初めてだなっとサイコロを見つめていると、どこからともなく声が聞こえた。


“お初お目にかかります。”


いや、声だけでお目にかかれてないんだが。


“現在、「異世界トリップしたい」「誰も自分を知らない所へ行きたい」と一度でも思ったことのある、10代前半から30代後半の、軽度から重度のオタク要素を持つ人間がランダムで666人選ばれ、同じ内容の夢をみてます。”


「なんで666!?」

“ネタ振りです。”

答えられた!?
しかもネタ振りかよ!!


“選ばれた皆さんには、異世界トリップのチャンスが与えられました。
勿論、世界には平和なものからそうでないものまであります。そこで、特典を用意させて頂きました。”


おお、トリップ補正やトリップ特典というやつか。


“皆様の前に用意されているダイス。こちらを振って、出た目の数だけ特典がつけられます。”


最大6つ。最低でも1つは特典が得られるわけか。


“ダイスを振ると表示された数字の数だけ特典が記入出来る用紙が出現しますのでご希望の能力、容姿等、お好きなものをお書き下さい。尚、ダイスを振った時点で、異世界トリップすることを同意したものとみなされます。”


ふむ。振ったら後戻りは出来ないぞってことか。


“次に注意事項をお伝えします。特典内容についてですが、666人の特典内容が重複することは出来ません。例を上げるなら、666人のうち1人が「ハーレム設定」を希望し用紙に記入した時点で、他の665人は「ハーレム設定」を記入することが出来なくなります。”


「なんで重複禁止なの?」

“同じ設定ばかりの人間がいてもつまらないからです”

うお!また返ってきた。意外と律義だな……。

まぁみんなトリップしてまで苦労したくないだろうしな。「最強」「チート」「俺Tueeeeeeeeee!」とか一度はやってみたい。


“ただし、近い特典は許容範囲です。頑張って応用してください”


ええーっと、つまりあれか?
「ハーレム設定」は無理でも「5人の美少女に愛される」とか、「最強設定」は無理でも「超怪力自慢」とか「世界最速」とかにはなれるとか、「四次元ポケット」は無理でも「どこでもドア」は手に入るってことでいいんだろうか?

聞いてみたが答えは返ってこなかった。ハズレ?


“最後に、質問は随時受け付けておりますが、こちらも重複した質問にはお答えすることはありません。
1つの質問に1つの答え、それを知るのもまた1人だけです”


マジすか!?
じゃあさっきの答えが返ってこなかったのは、別の奴が質問した後だったからか。


「ダイスを振らないとどうなる?」
「トリップには転生、憑依なども含まれているのか?」
「異世界で死んだらどうなる?」
「異世界トリップの終わりの基準は?」

…………………………………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………
………………………

出遅れたorz


“ちなみに、666人中1番最初の質問は「なんで666!?」でした。答えを知るのもこの質問者ただ1人です”


ピンポイントで羞恥プレイキターーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

最初の質問が突っ込みでしかなかったって地味に恥ずかしいんだけど!?
例え自分だと知られなくても、自分が知りたく無かったよ!!
しかもわざわざ言う事じゃなくね!?
ネタ振りだったんだろ!?
すっごい意味深に聞こえるんですけど!
ネタ振りのクセに!

「わ、……わざとか?」

“わざとです”

なにそれイジメ!?

何で夢の中で弄られなきゃならんのだ!!

頭を抱えたまま転がりたい衝動に駆られたが、誰かに見られるような気がするからやめとく。
ムカついて不貞腐れたので起きようと思った。
自慢にはならないが夢を見ていて強く「起きろ!」っと意識すると目覚める事ができる。目覚めは良くないが。

しかし何度やっても起きない。
…………なぜ?
特技欄には何の役にも立たないので書いたことが無いが、コレまで1度だってこの方法で目覚めなかった事は無い。

止めて欲しいな。不安になるから。










それからどれくらい立ったのか、目が覚める様子は無い。

不安は膨張していく。

そのうち思考が現実逃避を始めて某歌詞の一節が頭をよぎる。
どうしたら……どうすれば……

「なっ泣いてなんか、ないんだからね!」

思わず口に出した言葉に自分でダメージを受けた。orz

キモイ

“ツンデレ乙”

「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

嫌だ!!
今のを聞かれたのが嫌だ!!!(ピンポイント羞恥プレイ第二段か!?)
質問でも無いのにわざわざ言ってきた声が嫌だ!!!!!!
ウゼェ!!!!!!!!!!!!!!!!

「参加しないから返せ!」

返事が無い。ただの屍……なわけがない!

イライラしていたがしばらくするとなんだか投げやりな気持ちになってきた。
何時までも目が覚めないし、所詮夢だし、と矛盾した気持ちが螺旋状になって限界突破した。

夢の中だというのに更なる現実逃避。

サイコロを蹴り飛ばした。




[21905] 神は犀を振らない(振らせることは、ある)2
Name: 初心者◆c0f1eb02 ID:626314b9
Date: 2010/10/02 00:53

蹴り飛ばしたサイコロは見えなくなったが、数字はわかった。
声が言っていた特典記入用紙が現れたからだ。
ご丁寧にボードとボールペン付きで。

記入欄は3つ。

やっちまった感でいっぱいだがしょうがない。
取り合えず定番ものを書いておく。

「美形」⇒使用済みです
「最強」⇒使用済みです
「Fateのエミヤ投影」⇒定番です
「Fateのギルのバビロン」⇒お約束です
「ベルカミッドでSSS」⇒遅すぎます
「煩悩文珠」⇒自分で楽しんでください
「緋の目」⇒眩しいです
「夜天の書」⇒1冊だけです
「ドラえもんの四次元ポケット」⇒完売です

その他、スキマ能力だとか、ブリーチの技だとか、ナルトの忍術とかFFのジョブ能力だとかを書いてみたが全てダメだった。途中からダメだしがおかしくないか?
個人的に完売って表示された四次元ポケットが気になる。

「なんで四次元ポケットだけ完売?」

“注文が多かったので、締め切りました”

容赦ないな。
しかしそんな理由で締め切られるのか……ああでも、「どこでもドア」とか「スモールライト」とか「とりよせバック」とかあればそれだけで生きていけそうな気がするわ確かに。

タケコプターとか希望した奴いないかな?

しかし自分が乗り遅れてるのはわかるんだが、みんな決断早過ぎないか?
ここは夢の中だとして、異世界トリップしたら現実の自分がどうなるかとか1人以外だれも知らないんだろ?
所詮夢だしって軽い気持ちでやったのか、それとも現実に嫌気が差したのか……。

まぁ自分だってやっちまったんだ。
考えても仕方が無いか。
取り合えず最近のメジャーものから外していけばいいかな。

色々考えて記入してみた。

「シャドウスキルに登場する能力全般を最高レベルで使用可能なクルダ人」⇒可能です。Yes or No
「上記の能力を自分の意思で完璧に使いこなせるようになる修行ができる能力」⇒可能です。Yes or No
「超直感を超える勘」⇒可能です。Yes or No

これ以上考えるのが面倒なので全てYesに○をつける。
うんうん、やっぱり強さは欲しいでしょう!
超直感のほうはダメだったんでその上をっと試してみたけど、これっていいのか。
セブンセンシズとかエイトセンシズみたいなものだろうか?
霊感はいらないけど、これでいざとなったらギャンブルで生計が立てられる!
賭博王にオレはなる!いざとなったら。

用紙に「決定」という文字が浮かび上がる。


“ご利用ありがとうございます。それでは束の間の遊戯を楽しみましょう”


声と共に急に眠くなる。
夢の中なのに寝るのか、でもそういう夢も見たことあるな……


ブラックアウト。









※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※










遠くで風に揺れる樹の音がする。
……近くで荒い息遣いもするけど。

それが変態的な「はぁ、はぁ…」といったものではないことに安心するが、すぐ「ハッハッハッ…」という動物的なものでコレはコレで危険では?と思い直し瞼を上げる。

朧気な視界は意識の浮上にあわせて明確になっていく。

視界いっぱいに広がる犬・・・・ではなく狼!?

                    っ!!」

悲鳴は衝撃過ぎて声にならなかった。
自分に迫ってくる牙に二度目のブラックアウト。

最初っからクライマックスってどうよ?

責任者出て来い。




[21905] 神は犀を振らない(振らせることは、ある)3
Name: 初心者◆c0f1eb02 ID:a6ec60dc
Date: 2010/10/02 01:02

「知らない天井だ」

とりあえずテンプレってみた。

責任者は出てこなかったが、自分も死ななかったっぽいので良しとする。

知らない天井は見るからに岩肌で剥き出しです。

まぁ当然か。ここ狼の巣だし。

どうやらあの狼は母狼だったらしく、なぜか今は子狼と一緒くたにされております。
いいんだけどね。生きてるだけで丸儲けさ。

そんなこんなで狼人間生活、始まります。





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痛い乳幼児期を勝手に繰り上げました。

だって兄弟狼なんだぜ?

みんながワラワラ動き始めても、自分!まだですから!!
母狼が授乳期過ぎても、自分!まだですから!!
みんなが外でマーキングするようになっても、自分!まだですから!!
ついでに言えばこの赤ちゃんボディは立派な男の子でした。漏らして気付く自分の性別……。

成長速度が違うんだし、仕方がないのだが痛い。そしてキツイ。

人間の尊厳はどーでもよくなったけど、巣の中で垂れ流しや、母乳がないから飢え死には嫌だ。
何のための異世界トリップ?
羞恥プレイで人生終わりたくなくて頑張ったよ。
首据わってないのにバタバタ体をおかしくしたり、親から与えられる生肉を気合と根性で飲み込んだり……うん、頑張った。
そして明らかにほかの子狼と違ってデキが悪いと判断され、運が悪かったら見捨てられるか食い殺されてたかもしれない中、最後まで育ててくれた母(かか)、感謝します。

とりあえず3年で四つんばいでも二足歩行でも、兄弟たちと同じくらい早く駆け走れる様になったし、体力もつけたので、そろそろ修行を開始したいと思います!

特典2の「能力を自分の意思で完璧に使いこなせるようになる修行ができる能力」のおかげで、どういう修行をすればいいのかわかるのでありがたい。
これがなかったら折角の体術が使いこなせないところだったな、他の人たちはどうしてるんだか。

そうして鍛錬し続けていたら本当に真空波が出た。

凄いなクルダ人。

調子に乗って色々やったら死に掛けた。
やはり神移(カムイ)はまだ早かったか……。
できないのはわかってたんだけどね、どんなものかは体験してみたかったんだ!
風を感じるとか、空気を切るとか以前の問題だったね。グッときてガッときたら終わった感じ。

予想外だったのが特典3の「超直感を超える勘」の有用性だった。

これはいざという時の賭博用のつもりで記入したんだけど、技を放つ前のダメ出しは当然として(出来ないのはわかってたし)、放っている瞬間、何が足りないのか、何が悪いのか、わかるのだ。
そういえば漫画でも戦闘において重要な役割を果たしていた気がする。
聖闘士の「同じ技は通用しない」という特性のように、これのおかげで「同じ技は失敗しない」で使うことができるという優れもの!!

……でも聖○士☆矢の主人公達は同じ技を何度も繰り出して最後は倒すよね。

なので、流派を問わず、死殺技含め、全部やりました。

自分たちの住処に影響が出ないよう、実行する場所は変えたけど、全部やりました。

トル○コよろしく、倒れたら兄弟が回収してくれます。
蹴っ飛ばされないけど引きずられるんだぜ!

このまま鍛錬を続けて体が成長すれば、全部使えるようになると思う。

………………………消滅せず、形を残したまま、しっかり生きてるクルダ人凄ぇってマジ思いました。





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狼人間生活4年目、事件が発覚しました。


俺、食われとる。


事の発端は偶然見てしまったのです。

爪刀(ソード)を使う兄弟たちを。

聞いても兄弟たちは「やってみたら出来たー」という答えしかくれません。
だからなんで出来るんだよっという突込みを内心へと押し込み、そのときはそのまま流しました。
一瞬、ここは自分が知らないだけでモンハン系のなんだか恐ろしい世界なのでは!?っとビビリもしました。
そういえばみんな獣なのに頭良いよなーっと不思議に思ったのもこの時でした。

でも、謎はすぐに解けた!!

一通りの技を繰り出し、コツを掴んでからは肉体を限界まで行使し、そのあと深い睡眠をとるようにしている。これで筋肉は通常の二倍の速さでつくらしい。
4才児でも大丈夫なのか、という疑問はクルダ人スゲーで解決。

体力がついてきたのか、いつもより早く目が覚めた俺は被害者は自分という傷害事件の第一発見者になりました。

生きることに精一杯で忘れていたんだが、特典1の「シャドウスキルに登場する能力全般を最高レベルで使用可能なクルダ人」により俺は闘士であり魔導士でもある初代クルダ王カイ・シンクの再生能力を持っていた。
何度も死にかけたと思っていたがひょっとしたら死んでいたのかもしれない。

トル○コは倒れると今まで拾ったアイテムと装備品全部とられて帰ってくるが、俺は血肉をとられていたらしい。

どっちも等価交換・・・・・・じゃ無いと思います!

兄弟たちの主張「わざわざ運んであげてるんだから、ちょっとくらい齧ったっていいじゃん!」

俺の主張「ちょっとじゃないじゃん!結構がっつり食べてるよね!?それに最初のころだけでそれからはずっと寝たあと一人で帰ってるもん!!はっ!もしや今までも!?」

兄弟たちの主張「ぎくーん!」

何してくれとんじゃいワレェ!っと切れたところ、犯獣は自供しました。

兄弟たちの主張「だって美味しかったんだもん!!!!!!!!!!!!!!!」

何ということでしょう。
俺という存在は兄弟たちにとって、家族であり、仲間であり、3時のお菓子だったのです。

泣けるね。

事の次第を母(かか)に訴え、兄弟たちは二度としないと誓ってくれました。
誓いを破ったら牙を抜きます。
俺の力で元に戻すけど、痛いと思います。
次に誓いを破ったら尻尾を抜きます。
俺の力で元に戻すけど、痛いと思います。

兄弟たちは二度としないと誓ってくれました。

やはり大事なことは二度言っておくべきだと思いました。

母(かか)が兄弟たちを叱っている時もそうでした。

「美味しいのはわかるけど、家族は食うもんじゃないよ!美味しいのはわかるけど」

大事なことだから二度言ったんですね、わかります。……わかりますとも!!!!!










美味しいのがわかる母(かか)はブルータスでした。

得意技は対獣魔用「重爪(チェンソウ)」です。




[21905] 神は犀を振らない(振らせることは、ある)4
Name: 初心者◆c0f1eb02 ID:a6ec60dc
Date: 2010/10/02 01:56

兄弟たちとある意味、骨肉の争いをしたわけだが今は平和にやっている。
俺というドーピング剤のおかげで通常より遥かに強くなった狼一家はあっさりこの山の長になった。
力、体力といったものだけでなく、知能も上がっているらしく、母(かか)が女帝として君臨している。

兄弟たちと日向ぼっこしながら思った。

なんかもうこのまま狼人間として一生を終えてもいいかもしれん。

色々出来るようになったが基本、能力は戦闘系に特化している。
強くなって見たい!という気持ちがあったし、それで選んだシャドウスキルがそういう漫画なんだから当然だけど。
でも自分が戦闘狂なわけでもなく、本物のクルダの傭兵のように誇り高い牙をもっているわけでもない。
守りたいのはここにいる狼の家族たちだけだし、このままだらだらごろごろ狼人間生活でもいいよなー。
ハラハラドキドキワクワクはないけど、修行して色々な技や術を覚えるだけでも十分楽しいし。
狩りをして兄弟たちとじゃれて一日が終わっても何の問題もないし。

そのうち山を下りてみてどんな世界なのか調べようと思ってたけど、どうでも良くなってきたなー。

なんて思ったのが悪かったのか、知っているが初めて聞いた音が響いた。


銃声だ。


なにいまの?きけん!こわいの?やだ!いまのなに?
兄弟たちもすぐさま警戒態勢に入る。
母(かか)が鋭く吠え戻るように訴えた。

自分が見てくるからお前たちは周囲を警戒してなっ!と言われたが、銃を使うということは人間かそれに近い生き物だろう。
母(かか)は十分強いがこの世界のヒトがどれだけ強いのか分からない以上、不安は消えない。
思いきってついていくことにした。
何かあったら盾になれるのは自分だ。
痛いのは嫌だけど、かなり嫌なんだけど!
ああ、呪符くらい作っとくんだった!
あっ、でも防御魔法あるからそれでいいか。
……この世界の常識レベルによっては化け物→退治のフラグが立つな。
それも嫌だ。
よし!こっそりいこう、こっそり……って兄弟たちは付いてきちゃダメー!!

母(かか)と並走しながら濃くなる匂いに眉を寄せた。
嗅ぎなれた血の臭いと知っている匂い。山にすむ動物、それも、同じ狼だ。

思わず母(かか)を追い越して先に進んだ。


木々の間をすり抜け拓けた視界に入ったのは、血だまりに横たわる幼い、狼の、子供。
母(かか)が女帝として君臨してから交流を持った、群れの子供だ。
母(かか)に小さいの、と呼ばれる自分よりも幼い子。
好奇心旺盛で元気で、いつも自分に突っ込んでくる子供だった。


うぉっ! なんだよ、親が来たのかと思ったぜ。
脅かすな坊主。


触れる。

しかし、狐かと思えば狼とはついてねぇな。
こう小さいと取れるもんもないしな、血の匂いで他の獣が寄ってくる前に離れるぞ。


鼓動は、ない。

欲しいんならくれてやるぞ坊主。
使い道のねぇもんだ。好きにしな。






コレハ 敵ダ。





※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※





何か聞いた気がする。
なんだったっけ?
ああ、そういえば、初めてこの世界の「人」に遭ったんだった。
でも、もう……。




  ど  こ  に  も  い  な  い  。




血の海が広がって
あの子の血と「人」の血が混じりあって
境界がわからなくなる。

脅威が去ったと理解しているのか、いつのまにか現れた兄弟達が「敵」の残骸を食っている。

正しい、姿だ、と思う。
獣は無駄な狩りをしない。
命を奪い、命を食らい生きていく。
命を、奪ったことは、ある。
命を、食らったことは、ある。
それは俺にとって「獲物」だ。

今、殺したのは「敵」だ。
「敵」だから食わない?

違う。

「人」だから食えない。


あの子を殺したのは「人」

俺が殺したのは「敵」

殺されたあの子は「狼」

あの子は俺の「仲間」

「狼」の「仲間」を殺されて「敵」の「人」を殺した俺は     なに?





小さいの!呼びかけとともに腕に感じた僅かな痛みにはっとしてそちらを見ると母(かか)が俺の腕を噛んでいた。

「あ   っ」

思考が、視界が、クリアになっていく。

「ごめん……」
正気になったと判断したのか、母(かか)は開放した腕を軽く舐めた。

「母(かか)、この子、埋めても良いかな?」
じっと見ているとしょうがないっというように、鼻を鳴らした。
好きにしなっと告げられ、そっと子狼の亡骸を抱えて移動した。
後ろで母(かか)が残骸を食べに行ったのがわかる。

血の海から距離を取り、近くに花が咲いている木の根元に穴を掘った。

小さな骸だが、少し深めに掘った。

穴にそっと横たわらせて、静かに土を被せた。

近くの茂みから、雌の狼が出てきた。
この子の母親だ。

「……ここに埋めた」

ひょっとしたらこの子の亡骸も食べるものだったのかもしれない。
でも、俺は食えない。
殺されたこの子も、殺したあいつらも。
埋めたのは俺の身勝手だ。
「あの子は一足先に、大地に還ったんだ」
奇麗事だ。

                 本当は、生き返らせられるんじゃないかとも、考えた。

でもしなかった。

勢いで禁忌(人殺し)を犯した俺は、勢いを失って禁忌(死者蘇生)を犯せない。

俺の勝手で甦り、
俺の勝手に従い、
俺の勝手で消える。

そんな命はあっちゃいけない。そんな命は気持ち悪い。そんな命は、恐い。

でもこれが母(かか)だったら?
兄弟だったら?

俺はそう思えるだろうか?

「俺も、お前も、死んだら大地に還る。それまで、お別れだ」

俺はちゃんと死ねるんだろうか?

母狼は一鳴きすると去っていった。
自分の群れに戻ったのかもしれない。
あの残骸を食べに行ったのかもしれない。

勢いで殺してしまったからかもしれないけれど、「人」を殺しても罪悪感はなかった。
俺はもう人じゃないのかもしれない。
生きる余裕があったからかもしれないけれど、殺した「人(命)」を食べることは出来なかった。
俺はまだ狼でもないのだろう。
どっちでもない俺はまだ「小さいの」だ。





俺は母(かか)と兄弟たちが迎えにくるまで、そこを動けなかった。





※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※―――――※※※※※




母(かか)と兄弟が迎えに来たのは日が暮れた頃だった。

母(かか)が気を遣ってくれたのか、みんな血の痕もなく綺麗だった。
水浴びでもして来たのかな?
毛皮乾いてるけど。

寧ろ俺のほうが汚いな。
血も乾いてパリパリだし。
頭から被らなかっただけマシか。

気持ちが落ち着いてきたので他のことに思考が働く。
体洗いたい。お腹減った。
現金だな。

さぁ帰ろうっという時に、遠吠えが聞こえた。
母(かか)を呼ぶ声だ。

母(かか)と兄弟は呼び声に応えて移動したが、危険は無さそうだったので俺は川で身体を洗うと伝え着いていかなかった。

とりあえず腹を満たしてから身体を洗おう。
俺だけ何も食べてないし。
果実と兎を獲って、下拵えをしていざ頂きます!っという時に兄弟が戻ってきた。
まだ食ってないのに……!

呼んでる、呼んでるのー、狭いのー、なんかいるー。
みんな兎を見ながら言うなよ!
あげないよ!俺のご飯だから!!

食べようとすると騒ぎ出すのはわざとだよね兄弟!?
仕方なく食糧を持ったまま移動した。
みんなもう食べただろ!?
見んなよ!

兄弟達に先導された場所には茣蓙の掛かった荷車。
どうやら昼頃俺が殺してしまった奴らの持ち物みたいだ。
ここに荷物を置いて狩りをしていたのか。
気になるのは荷車の後ろの方にある大地に刺さった杭。
その杭に縛られている縄が荷車へ伸びている。
……繋がれてるってことは生き物?
母(かか)たち狼に囲まれ恐くなって、逃げられないから荷車に隠れたんだろうか?
犬とか狸(狸なら鍋決定)かな?と荷車全体を覆い隠している茣蓙を掴んで勢い良く持ち上げた。

舞い上がる茣蓙。
流れる空気と砂埃。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

茣蓙が元の位置に戻る。


いま見えたの……人っぽかったんですけど!?

いきなり外の空気が入ってきて驚いたのか、中の生き物は大きくビクリと震えるとそのまま固まってしまった。

なんかこっちを凝視してたぞ!?

もしかして俺が殺した奴らの子供!?
いやいや、子供を縄で繋ぐとかないよな、ないよな!?

どかそうとした茣蓙を無意識に丸めながら気分はオープン・ザ・カーテン。

登場したのは年代物ではなく、贋物だねっと評価を受けそうなイロモノ的な物々と、縄を繋がれた子供。


首に。


衝撃的な出会い。
どっきーんでもびっくーんでもなく俺の中で響いたのはカッチーンだった。



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