ここから本文エリア 金正恩氏へ後継決定「先軍政治の継続、嘆かわしい」2010年10月2日
■北朝鮮の権力継承、山梨学院大教授 宮塚利雄さん(63)に聞く ――北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男正恩(ジョンウン)氏が、朝鮮労働党の中央委員と中央軍事委員会副委員長に選ばれました。後継者として認められたということですか。 「金正日総書記に健康不安があり、今回の代表者会は『ポスト金正日』を決める重要な会議だった。金総書記の権限はすぐには委譲されないが、正恩氏を中枢にあてたということで、金一族を側近が支える集団指導体制が続く。正恩氏が軍の大将に収まった時点で、後継者に確定したといえる。また、中央軍事委員会の副委員長職は、金総書記が正恩氏のために設けたもの。北朝鮮は(軍事がすべてに優先する)先軍政治をこれからも続ける。なんとも嘆かわしい」 ――今後、どんな形で表舞台に出てきますか。 「当面予想される舞台は、北朝鮮が党創建65周年の10月10日に大々的に行う軍事パレードだ。すでに代表者会で姿を見せたが、改めて大将服姿でひな壇に登場させ、一言でも発することがないだろうか、注目している。正恩氏については、出身地に生家を建設するなど神格化の作業が着々と進められているという話も耳に入っている」 ――北朝鮮の市民は後継者指名をどう思っているのですか。 「私は決して快く思っていないと思う。確かにテレビの街頭インタビューに答える市民は賛辞を送っているが、それは、北朝鮮はものいえば唇寒しの国だからだ。8月に中朝国境付近に行って改めて感じたが、今年は水害や洪水に襲われ、穀倉地帯は軒並み、やられている。非常に悲惨な窮乏生活を強いられている市民は、金総書記が人徳に満ちた指導者ではないということをわかっている。北朝鮮の市民は民主主義を体験していないが、国内に外部から少しずつ情報が入ってきている。正恩氏の子どもが権力を受け継いだり、独裁を進めたりすることは不可能だろう」 ――中国はどうみているのですか。 「世襲を認める独裁体制の国は本来認める対象にならないが、面倒のかからないいまの状態でいいと思っている。中国は体制崩壊に伴う反動を一番恐れているからだ。ただ、金総書記の死後は中国の影響はいまより大きくなる。個人による独裁色は小さくなっていくだろう。経済については開放に向かわざるをえないのではないか。正恩氏の次の世襲は、さすがに認めないだろう」 ――北朝鮮に拉致されたと家族らが主張している山本美保さん(甲府市出身)の救出を呼びかける集会で講演されるなど拉致問題の解決に積極的に発言されています。正恩氏の登場で日朝関係に変化はありますか。 「一日も早い進展を願っているが、そう簡単に変わらないとみている。昨年のデノミ(通貨単位の切り下げ)の実施で国内経済が混乱しているだけでなく、軍人のなかでも、今回の後継指名をおもしろくないと思っている人間がいる。立場が不安定な正恩氏の頭の中は、国内問題でいっぱいだ。だから膠着(こうちゃく)状態にある拉致問題までとても頭が回らない」 ――国内経済の悪化が変化を与えることはありませんか。 「経済援助や国交正常化を引き出すために、北朝鮮が拉致問題の解決を引き換えの条件にするなど新しい動きを見せるかもしれない。だが、北朝鮮はずるい国で、住民が飢えに苦しんでもぎりぎりまで国際支援を求めることをしない。正恩氏の後継指名で、北朝鮮がどう出るか、注意深く見守る必要がある」 ◇ 〈みやつか・としお〉 1947年秋田県生まれ。高崎経済大卒、韓国・檀国大学校大学院博士課程修了。92年に山梨学院大商学部(現経営情報学部)助教授に就き、現在は経営情報学部教授。専門は朝鮮近代経済史、パチンコ産業論。北朝鮮の国内情勢に詳しい評論家の一人。「北朝鮮観光」「アリランの誕生」「パチンコ学講座」など著書多数。北朝鮮関連グッズのコレクターでもある。甲府市在住。
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