しかし今回の事件はあくまで平時の事件であり、有事に発展する恐れが極めて低いケースでした。そのような場合、先に自衛隊を出せば中国の反日世論を煽り、中国政府を追い込みすぎることになりかねません。また国際世論の支持を日本に引き寄せるにも障害となるでしょう。また、交渉で収められるところを、むやみにエスカレートさせるメリットはあまり大きくありません。
なにごとも状況と目的に応じて
他方で、今回の揉め事がいったん収まった後に、日本の実効支配を強固にするため、海保だけでなく自衛隊を含めた警備強化を行うことは、有効でもあるし、必要な措置でもあるでしょう。実際、防衛省は南西諸島への警備強化を計画しつつあり、与那国島への陸自配備などの案があがっています。また国会においても民主党の議員から自衛隊の尖閣配備、尖閣周辺での日米共同演習実施などの提案がなされています。しかしそちらの方も、「尖閣諸島そのものにだけ自衛隊を常駐させる」で奏功するほど簡単な問題でもないのですが、これについてはまた次回見ていくことに致しましょう。
ともあれ、軍隊を出す、自衛隊を置くといったことは国境係争における手段の一つです。それ自体は目的ではないし、唯一の手段でもありません。是が非でも自衛隊を前面に出さねばならない事態も起こり得ますが、それほどではない事態はより頻繁に起こり得るでしょう。状況に応じ、目的に適した手段を選択することが肝要です。
参考
非武装調査船であることの強さ。―― 漁政・海監の狙い-蒼き清浄なる海のためにお勧め文献
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