ビジネス
EPUBというファイルフォーマットでは雑誌を作れない。
Toru Mori
2010.04.09
日本における電子書籍マーケットにおいてクリアしなければならないこととして、まず、気になるのはフォーマットだ。フォーマットは端末、配信方法、DRM(デジタル著作権処理)とも密接に関わっており、電子書籍普及の鍵を握っている。そして、現在、電子書籍用フォーマットとして、主なものだけでも、EPUB、AZW、T-Time、XDMF、PDFなど、一説には20近くがあると言われているのだ。
この中で、Macユーザーとしても最も気になるのはiPadが採用したことで日本でも知られるようになったEPUBだろう。EPUBは、アメリカの電子書籍標準化団体、International Digital Publishing Forum(IDPF)が公式に策定したファイルフォーマット。実はこのフォーマット、ベースはXHTML。
これを、ウエブページのようなネットワーク接続を前提とせずに、非接続状態で単体でコンテンツが読めるようデータをパッケージ化したものだ。試しにEPUBのファイル拡張子.epubを.zipに変更し、zipファイルとして解凍してみて欲しい。すると、中にはXHTMLファイルが見える。これこそEPUBがXHTMLベースであることの証拠だ。
EPUB=電子書籍
アプリ=電子雑誌
では、このEPUBの長所と短所は何か? その両方が、XTMLをベースにしているという出自に依拠している。長所は、シンプルでデータが軽い(=ダウンロードに適している)ということ。そして、ウエブページのテキストと同様に、デバイスのディスプレイ幅に合わせて文字の並びが自動的に変わる(リフロー)ということだ。このリフローは電子書籍フォーマットとして見た場合のPDFとの違いでもあり、EPUBの最大の機能的特徴となっている。
リフローがあるということは、文の最初に来る文字がデバイスによって変わるということだ。一方、手元にある縦書きの書籍のページを見て欲しい。文の頭に「』」のような閉じ括弧や「、」、「。」が付いているページは皆無なはず。文章が読みにくくなり、見栄えも悪くなってしまうので、編集段階で、文の頭に閉じ括弧や「、」、「。」が来ないように処理をしているのだ。このことを禁則処理といい、日本語の書籍の特徴の一つになっている。
リフローが出来るということはデバイスのディスプレイサイズによって一行の文字数が変わることになる。同時に、上記のような日本語の禁則処理はEPUBにそもそも定義されていないので、これも現状できない。また、基本的に縦書きやルビ(フリガナなど)がウエブページにないように、EPUBではこれも定義がされていない。もともと1バイト文字(乱暴に行ってしまえば英数字)のために極力シンプルに作られた標準化フォーマットだからだ。
CD-ROMが世に出たころからパソコンによる電子書籍の啓蒙、普及活動を行ってきたJEPA(日本電子出版協会)の下川和男氏はこう言う。
「リフローが出来るということは、写真や図版や表も崩れるということなのです。それはHTMLで組まれたウエブページを見るのと同様です。アメリカによくあるハードカバーの書籍、あれは表も図版もないですよね? EPUBは、あれが画面上で再現できる程度の、えらく簡単なフォーマットなのです」
つまり、雑誌のような段組(複数に文字や図を分けて配置する)があって、そこに写真や大小の見出しを配置してデザイン化するという雑誌には向いていない。EPUBは、あくまで書籍、新聞、論文むけのフォーマットなのだ。
「そう、皆さんEPUBが凄いフォーマットだと誤解されているんです(笑)あれで雑誌というのは無謀ですよ」(下川氏)
※禁則処理部分の記述のあいまいさを若干修正しました(4月9日)
(続く)
筆者:森 亨
キャスタリア・リサーチャー/マネージングエディター。青山学院大学フランス文学科在学中よりよりフリーライターとして活動開始。2000年よりディレクター業、編集業に移行し、ライフスタイル誌など活動。2005年弁護士、会計士、医師専業新聞のメディアに参画。2006年ラグジュアリーライフスタイル誌「zino」編集部員を経て独立。プランナー、ディレクター、編集者。株式会社つながる及びPRオフィス ラグランジュを設立、同社代表取締役。
Twitter:@torumori