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特集:「毎日ジャーナリズム」とは 岸井・毎日新聞主筆×久保田・TBSアナウンサー

 ◇社会をいい方向に変えるために行動し、読者と一緒に考え続けていく

 情報・通信環境が劇的に変化する現代、“老舗メディア”である新聞のあり方が問われています。日本で最も歴史ある日刊紙・毎日新聞はこの時代とどう向き合うべきなのか。岸井成格主筆(66)に、TBSアナウンサー、久保田智子さん(33)が聞きました。岸井主筆は「時代の本質を深く掘り下げ、読者と一緒に考える新聞づくりをしていく」などと語りました。

 毎日新聞は1日、100%子会社の毎日ビルディングと合併し、「毎日ジャーナリズム」の持続的成長のための基盤整備がまた一歩進みました。

 ◇本質に迫るキャンペーンこそ--岸井成格・毎日新聞主筆

 ◇個性と主張…顔が見える--久保田智子・TBSアナウンサー

 久保田 岸井さんといえば「サンデーモーニング」(TBS系)「政策討論 われらの時代」(BS-TBS)でおなじみですが、駆け出し記者のころから政治記者希望だったのですか。

 岸井 私が学生のころはベトナム戦争のさなかで、毎日新聞のベトナム報道は輝いていました。「泥と炎のインドシナ」に結実した大森実・外信部長の指揮するベトナム報道にあこがれたのは私だけではないはずです。ただ、入社すればすぐ特派員になれると思い込んでいたけれど、初任地は熊本支局で、各社同じなんでしょうがまずはサツ回り(警察担当)でした。

 久保田 思い描いた仕事とは違っていた。

 岸井 それでも、熊本ではいろいろな仕事をさせてもらいました。まずは先輩記者がやっていたサリドマイド児の普通学校入学キャンペーン。本人や母親たちのがんばりに心打たれました。激しい偏見にさらされていたハンセン病施設の初公開にも立ち会わせてもらいました。それからなんといっても、「公害の原点」といわれた水俣病関連の取材です。水俣の人たちが国と原因企業チッソを相手取って提訴するというのが、支局時代に書いた最後の記事です。

 久保田 公式確認から半世紀余り。水俣病の問題はいまだに解決していません。

 岸井 そう。私が政治にかかわるのも実はその関係なんですよ。1960年代後半から70年代にかけて日本全国で大気・水質汚染などの問題が持ち上がり、高度成長のひずみが一気に顕在化した。当時の佐藤内閣はこのままでは保守政治は持たないと危機感を持ち、起死回生策として70年末の臨時国会、いわゆる「公害国会」開催となったわけです。そこで新聞各社は全国の公害を抱えている地域の記者を集めて公害国会の取材をさせた。私もその一人でした。

 久保田 岸井さんにとっては、地方での経験と政治報道がつながっているんですね。

 岸井 初任地で水俣病という問題に出合い、そして環境問題や政治報道にかかわり続けた自らのこれまでをつらつら考えていると、ジャーナリズムとは何かということに思い至ります。ジャーナリズムの使命は、まずは事実関係をできるだけ正確かつ迅速に伝えること。これが第一義ですが、事件や事故は次々と起こるから一つのことをやっている余裕がなくなる。本来やるべきは、本質に迫り、ずっと追跡して原因を突き止め、そのための対策をどうしたらいいか考えていくことでしょう。

 そのためには、テーマによってキャンペーンをやらなければいけない。これからの時代のジャーナリズムのあり方として、ここが一番問われるのでしょうね。毎日新聞は新聞協会賞を06年から4年連続受賞しましたが、08年の「アスベスト被害」、09年の「無保険の子」は2年連続、キャンペーンによる受賞です。それから、多数の子爆弾が飛び散り地雷のようになって子供らを傷つける「クラスター爆弾」の廃絶キャンペーンもやりました。ある外交官が私に、「毎日が書かなかったら国際的な流れにならなかった」と言いましたよ。

 久保田 毎日新聞は全体としては中立なのに、コラムが多くて、しかも、そこには個性とか主張がありますね。特に65歳の専門編集委員、松田喬和さんが若い記者に交じって首相番をなさっている。

 岸井 昔、テレビカメラの回っているときに質問すると先輩から怒鳴られました。政治家や官僚はオモテでは本当のことは話さない。事実と真実は違う。政治家がテレビの前で話しているのは事実だが、真実かどうかは見極めが必要なんだと。そのことに変わりはありませんが、いまは専門知識のある記者が堂々と首相でもなんでも追及しないと、国民からはおしかりを受けます。

 久保田 テレビではよりストレートに、そしてワイドショー的に広く浅く伝えることが多いです。これでいいのかなって考えることもあります。でも、最近はジャーナリストの池上彰さんが出る番組が高い視聴率を取っていて、皆さんは考えるきっかけを求めていると感じますね。

 岸井 新聞とテレビは持ち味というか、役割が違うのですよ。映像という強い武器で国民に直接伝えるテレビとは違って、紙の新聞はじっくり真実を見極め、掘り下げていかなければならない。4月から毎日新聞は紙面改革をしていて、第一報と同時にその問題の背景を分析・検証・追跡していく姿勢を明確にしました。まだ試行錯誤の状態ですが、いまどんな時代を生きているのか、どう変わろうとしているのかということを、読者の皆さんと一緒に考えていきたいですね。

 池上さんはうちの紙面でも10月からは月1回、「教えて!池上さん」でニュース解説をやっていただきます。

 久保田 主筆として今後やっていきたいことは何ですか。

 岸井 意外に知られていませんが、新聞社というのは実に多くの事業を主催しています。高校野球のセンバツ大会や都市対抗野球、ニューイヤー駅伝などのスポーツ関係。それから毎日出版文化賞、日本音楽コンクール、毎日書道展、本因坊戦に名人戦。挙げればきりがないくらいあって、それぞれにかかわる人たちの活躍をこれからはもっと伝えていきたい。また、「点字毎日」は1922年の創刊以来90年近い歴史を持っています。これは世界に誇れる事業だと思っています。

 もっといえば、日本の伝統文化を積極的に支えていきたいですね。私が大好きな相撲はもちろんのこと、歌舞伎や能、日本建築など。日本の文化というのは実は、世界に注目されている。

 久保田 私も歌舞伎が好きで後輩を連れて見にいったりするのですが、よく居眠りされる。すごく魅力があるのに。継続して行かないとなかなか目が養われないと思います。それだけ奥が深いんですね。

 岸井 先日、宮大工をやっているフランス人の青年に説教されましたよ。「日本人は地震にも強い木造建築という、こんなに大事な技術を軽視している」と。いずれにしても、世界に類を見ない人口減少が進む中、高齢化も同時に進む日本で、いま何が大切なのか。当然、医療や介護の問題はクローズアップしなければならないし、何より環境問題は世界共通の課題です。

 一番大切なのはやはり、「毎日ジャーナリズム」の原点であるキャンペーンでしょうね。伝えるだけではなくて、社会をいい方向に変えるために行動する新聞、読者と一緒に考えていく新聞です。毎日ジャーナリズムがなくなったら、日本のジャーナリズムも民主主義も成り立たない--そういわれるくらいの新聞づくりをオール毎日の力でやっていきたいと思っているんです。

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 ■人物略歴

 ◇岸井成格(きしい・しげただ)

 44年生まれ。67年毎日新聞入社。政治部長、論説委員長などを経て今年6月から現職。東京都出身。

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 ■人物略歴

 ◇久保田智子(くぼた・ともこ)

 77年生まれ。00年、TBS入社。現在、「報道特集」(土)「政策討論 われらの時代」(BS-TBS、日)などに出演中。広島県出身。

毎日新聞 2010年10月2日 東京朝刊

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