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きょうの社説 2010年10月2日
◎所信表明演説 外交、経済での不安隠せぬ
菅直人首相が所信表明演説で、苦手とされる外交・安全保障政策に多くの時間を割いた
のは、沖縄・尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件の対応のまずさを考えれば当然だろう。中国人船長の釈放は中国の圧力に屈したとの印象を内外に与え、菅政権の危機管理能力に疑問符がつく格好になった。党内対立を恐れ、外交・安保の論議を避けてきたツケであり、不勉強のそしりは免れない。首相は尖閣諸島について「歴史的にも国際法的にもわが国固有の領土であり、領土問題 は存在しない」と強調し、中国に対して「透明性を欠いた国防力の強化や、インド洋から東シナ海に至る海洋活動の活発化には懸念を有している」と述べた。もっともな指摘だが、耳を疑うのは「国民一人ひとりが自分の問題としてとらえ国民全体で考える主体的で能動的な外交を展開せねばならない」という結びである。 故ケネディ大統領の名演説に着想を得たのかもしれないが、当事者能力を欠く対応で批 判を受けた首相が言うせりふだろうか。国民に外交責任を負わせ、責任回避をしているようにも聞こえる。 経済政策にも不安がある。民主党代表選でも強調した雇用最優先の景気対策を再度掲げ 、「政府を先頭に雇用を増やす。医療・介護・子育てサービス、環境など需要のある仕事はまだある」と訴えた。 だが、これまでも指摘してきた通り、「雇用を増やせば雇用不安もデフレ圧力も軽減さ れ、経済が活性化する」という主張には無理がある。雇用は遅行指数であって、雇用情勢が好転するのは、あくまで景気回復の結果である。入り口と出口の論議を間違えると、景気浮揚の効果は見込めない。また、医療・介護などでの大幅な雇用拡大は、現場の実態を反映していない。無理に増やそうとしてもひずみを生むだけだ。 衆院予算委員会の中国漁船衝突事件の集中審議では、仙谷由人官房長官ばかりが目立ち 、首相の存在感は薄かった。衆参の多数派が異なる「ねじれ国会」で、首相がどこまで指導力を発揮できるのか、真価が問われることになろう。
◎輪島測候所廃止 観測精度の維持が課題
輪島測候所が1世紀を超える観測の歴史を終え、9月末で廃止となった。気象業務の合
理化や公務員削減の流れに沿った措置とはいえ、頻発するゲリラ豪雨や竜巻、猛暑など昨今の異常気象をみれば、観測拠点の重要性はむしろ高まっている。気象データも地域に密着した形での提供が求められており、気象観測のリストラが機能低下を招かないか不安視する声もある。輪島測候所は機械化、無人化され、10月から自動観測に移行したが、全国的には観測 システムのトラブルも発生し、先月はアメダス機器にツタが大量に絡んでいたことが分かり、9月の国内最高気温の記録が取り消されたばかりである。いくら高性能の機器でも、管理が行き届かなければデータの精度を維持することは難しい。 きめ細かな気象データは地域の防災力とも密接につながっている。飛躍的に増えた情報 を自治体や住民が使いこなすには、提供の仕方にも一層の工夫が必要である。測候所廃止を機に、気象台は関係機関との連携を強化し、全県的な体制を整え直してほしい。 気象庁は1996年から測候所の廃止・無人化を進め、2006年には「原則廃止」が 閣議決定された。輪島など6カ所の廃止で測候所は例外的に残る帯広(北海道)、名瀬(鹿児島県)の2カ所になった。無人化された施設は「特別地域気象観測所」となる。 輪島測候所は1896(明治29)年に開設され、地上観測や地震観測のほか、気球を 上げて高層の気温や風などを調べる「ラジオゾンデ観測」の拠点として知られていた。これらは自動観測で継続されるが、視界の範囲などを確認する視認業務や「初鳴き」「開花」など季節の移り変わりを調べる生物季節観測は打ち切りとなった。 気象観測はITの進歩で高度化、多様化し、自動観測システム網が整備された。大事な のは、それらを最大限に活用し、防災対策などに生かすことである。データをただ提供するだけでなく、活用できる人材の育成も含め、気象台はこれまで以上に地域と積極的にかかわっていく必要がある。
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