背後で聞こえていた、虎の足音が止まった。歓喜の瞬間、派手な胴上げはない。前代未聞の優勝シーンもまた、オレ流の新たな歴史の1ページだ。
「これは、7年間積み上げてきた練習量の差だと思います。ことしのような暑い中、絶対ヨソはへばってくるだろうと。ある程度思惑通りに、最後は進んだんじゃないかと思います」
会見でも、その言葉に自信があふれていた。
2日のヤクルトとの最終戦を前に、全体練習を終えると選手は帰宅。午後8時過ぎから本拠地に選手と家族、関係者が再集合。祝勝会が始まった。試合がない日に優勝が決まったのは、88年の西武(全日程終了)以来。セでは87年の巨人以来、23年ぶり。胴上げは2日にファンの前で行う予定だが、クールな落合監督も「この日のために1年間禁酒しました。きょうは全身で味わいたい」と、歓喜のビールかけの輪の中で笑顔をみせた。
「ことしはCSじゃないんだ。セ・リーグの優勝を、ペナントを獲りにいく」
春季キャンプ前日の1月31日、夜のミーティングで選手を前に宣言した。
政権を任され7年目。身上とする守りの野球が揺らぎ、チーム失策「91」は過去10年で最悪。守備陣形を巡り、担当コーチを激しく叱責したこともあった。「いくじのない試合」。「緊迫感がない。優勝争いしているチームのする試合じゃねぇ」。「おれの前で痛い、かゆい言うやつはいらない」。昨季2冠王のブランコを2軍降格。主砲・和田は自打球を当て、骨折していた左足首の痛みを耐えて出場し続けた。
「CS? まだ考えてません。考えるようなメンバー、まだそろっていませんので、これから日にちを追ってゲームプランを練り上げていくようにじっくり考えます」
最大8ゲーム差からの大逆転。この日ばかりは、心から喜んだ。目にしみる美酒もうれしかった。しぶとく、粘り強いオレ竜は、日本一に向かう。(山田結軌)