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[連載]ITエキスパートのための法律入門

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アタッカーズ・ファイル

【法律入門 第32回】
ISPによる児童ポルノのブロッキングは適法に行えるか

とことんわかりにくい法律を とことんわかりやすく解説!

(2010年09月24日)

ブロッキングは「通信の秘密」を侵す

 「通信の秘密」とは、第三者に通信の内容や宛先を知られたり、漏えいされたりしない権利のことをいう。通信の秘密は日本国憲法によって保障されている(第21条2項:「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密はこれを侵してはならない。」)。もともとは手紙に関する権利だったが、今日では電報やデータ通信もその対象になるとされている。また、憲法により制限されるのは国の行為(つまり「国が」通信の秘密を侵してはならない)だが、電気通信事業法では、電気通信事業者にも通信の秘密を守る義務を課している。

 話をブロッキングに戻そう。ブロッキングについては、ほぼ異論なく「通信の秘密の侵害」に当たるとされている。ユーザーの同意を得ずにアクセス先を検知するのだから、これは当然のことだろう。機械的に検知する場合でも、通信の秘密の侵害に当たる。

 ただし、児童ポルノの流通を防止するためにブロッキングを行う場合は、違法性が阻却される場合がある。「違法性阻却」は法律の専門用語だが、簡単に言えば「通常ならば違法行為であるが、違法にならない特別の事情(事由)があること」である。例えば、通常は人を殴って気絶させれば傷害罪が成立するが、ボクシングの試合中ならば成立しない。また、強盗に襲われて反撃した場合の「正当防衛」なども、まさに違法性阻却事由に当たる。

3種類の「違法性阻却事由」

 違法性阻却事由には「正当行為」「正当防衛」「緊急避難」の3種類があり、このどれかが成立すれば違法ではなくなる。では、児童ポルノの流通防止を目的に行われるブロッキングについては、この3つのうちどれが成立するのだろうか。

 実は、先述した2つの報告書では、どの事由が成立するかについて異なる見解がとられている。流通防止協議会では、正当行為と緊急避難の2つが成立する可能性があるとしているのに対し(どちらについても成立を認める見解と、成立を否定する見解の両方を紹介している)、安心ネットづくり促進協議会は、正当行為が成立する可能性を明確に否定し、緊急避難についてのみ成立の可能性を認めている。

 まず、正当行為とは、法令に基づく行為や業務行為など、社会的に正当性が認められる行為をいう。先ほど例に挙げたボクシングや、警察官が被疑者を逮捕する行為などがこれに当たる。成立の要件としては、(1)目的の必要性、行為の正当性、(2)手段の相当性という2点を満たすことが必要である。

 次に、正当防衛とは、不正な権利侵害に対する反撃行為をいう。ブロッキングでは、問題のないサイトにアクセスしようとするユーザーについても通信の秘密を侵害することになり、「侵害者に対する反撃」という形にはならない。そのため、どちらの報告書でも、正当防衛によって違法性が阻却される可能性があるとはしていない。

 最後に、緊急避難とは、自分や他人に対する危険が差し迫っている状況で、その危険を避けるためにやむを得ず行う転嫁行為を指す。例えば、車にひかれそうになった人が近くの花壇に飛び込んで難を逃れるような行為がこれに当たる。意図的に花壇に飛び込んで花や木を折れば、通常は器物損壊罪となる。だが、ここでは差し迫った危険(車にひかれる危険)を避けるため、という違法性阻却事由が認められるのだ。

ブロッキングで
「緊急避難」が成立する理由

 緊急避難が成立するためには、(1)現在の危難がある状況で、(2)やむを得ない避難行為をすること(補充性)、(3)それにより生じる害が避けようとした害を超えないこと(法益権衡)の3つの条件を満たす必要がある。2つの報告書とも緊急避難による違法性阻却の可能性を認めているが、特に安心ネットづくり促進協議会の報告書は(1)〜(3)のそれぞれを詳細に検討している。報告書をそのまま要約すると難しくなるので、若干表現を変えながら説明しよう。

 (1)の「現在の危難」についてだが、Webに児童ポルノがアップされている状況では、今にもそれがだれかに見られたり、ダウンロードされたりする可能性がある。つまり、児童ポルノの拡散によって、被写体となった児童の権利侵害を拡大する危険が現に存在する状態なので、現在の危難があるといえる。

 では、(2)「やむを得ない避難行為」はどうだろうか。やむを得ない避難行為とは、「採るべきより侵害性の少ない手段が存在しないこと」だとされている。前述した車にひかれそうな場面を例にとると、もしも道路の左側に花壇が、右側に駐車場があったならば、花壇に飛び込んでも緊急避難は成立しない。この場合には、駐車場に逃げ込むという「より侵害性の少ない手段」があるため、「やむを得ない避難行為」とは評価されないわけだ。

 これを児童ポルノのブロッキングに当てはめてみよう。データの削除要請やアップロードした者の検挙といった対処ができる状況にもかかわらず、ブロッキングを実施した場合、「やむを得ない避難行為」とは評価されない。データが海外サイトに置かれていて検挙が困難だったり、インターネット・ホットラインセンター※注の削除要請が無視されたりするなど、実効性がなかった場合にのみ「やむを得ない避難行為」になりうる。

 さらにここには「オーバーブロッキング」(児童ポルノでないものをブロックしてしまうこと)の問題もある。ブロッキングを実施すると不可避的にオーバーブロッキングも生じるが、できる限りオーバーブロッキングが少なくなるような手法を採らないと、「採るべきより侵害性の少ない手段」が存在しないとは評価されない。

 もう1つ、(3)生じる害が避けようとした害を超えないこと、という条件もある。先の車の例で言うと、「生じる害」は花や木が折れること(財産権の侵害)であり、「避けようとした害」は生命と身体の危険であった。そのため、「生じる害≦避けようとした害」という関係が成立しているが、これが逆ならば「やむを得ない避難行為」とは認められない。例えば、自分の財産を守るために、他人の生命や身体を害することは許されないのだ。

 児童ポルノのブロッキングという文脈において、「生じる害」は通信の秘密の侵害だ。一方で「避けようとする害」は児童ポルノの流通による児童の権利侵害である。どちらも重大な権利侵害であり、いずれを優先すべきかは悩ましい問題だが、児童が性的対象として虐待される画像が流通し続ける事態の異常さと悲惨さを考えれば、それが通信の秘密の侵害に劣らないものであるといえる場面があるだろう。人によっては、児童ポルノの流通によって児童が受ける権利侵害は、生命にも比肩すべき権利の侵害であるとする。児童ポルノの中でも、ひどいものについては「生じる害」(通信の秘密)≦「避けようとした害」(虐待児童の権利)という関係があると考えてもよいのではないだろうか。

 実はここにひとつ、やっかいな問題がある。児童ポルノ禁止法で定められる「児童ポルノ」の中身がはっきりしないことだ。18歳未満のアイドルの水着写真や裸の幼児のおむつの広告ですら、児童ポルノに該当する可能性があるとされている。だが、さすがにこれらの場合には「生じる害≦避けようとした害」という関係は成り立たないだろう。そういう意味では、ブロッキングの対象となる児童ポルノは、同法が定義する児童ポルノのすべてではなく、重大な児童の権利侵害が生じているものに限られるべきだ。

※ インターネット・ホットラインセンターとは、2006年6月に開設されたインターネット上の違法・有害情報の通報受付窓口である。http://www.internethotline.jp/


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