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[連載]ITエキスパートのための法律入門
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【法律入門 第32回】
ISPによる児童ポルノのブロッキングは適法に行えるか
とことんわかりにくい法律を とことんわかりやすく解説!
(2010年09月24日)
ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)による児童ポルノのブロッキングが注目を集めている。虐待される児童の権利保護と通信の秘密が衝突する難しい問題であるうえ、「緊急避難」「正当行為」「検閲の禁止」といったわかりにくい法律用語が飛び交っている。今回はこの問題を解説しよう。
森亮二/弁護士法人英知法律事務所 弁護士
ISPによるブロッキングを巡り
2つの団体が報告書を公表
このところ、ISPの自主的な取り組みとしての児童ポルノのブロッキングが注目を集めている。議論が活発化したきっかけは、「ISPは児童ポルノのブロッキングを適法に行うことができるか」という問題について、「安心ネットづくり促進協議会」と「児童ポルノ流通防止協議会」(以下、「流通防止協議会」と記す)という2つの団体が報告書を公表したことだ。
安心ネットづくり促進協議会は、青少年インターネット環境整備法の成立を受けて2009年2月に設立された団体だ。活動の2つの柱のうちの1つ、「調査企画委員会」の下に「児童ポルノ作業部会」が設置されている。この作業部会がブロッキングの法的問題を検討し、2010年3月に「児童ポルノ作業部会 中間発表 法的問題検討の報告」を公表した(その後6月に同作業部会の最終報告書が公表されているが、法的問題の部分は中間報告と同じ)。
一方、流通防止協議会は、インターネット上の児童ポルノ流通を防止する対策について検討を行うため、2009年6月に設立された。今年3月に「児童ポルノ流通防止協議会 ブロッキングに関する報告書」を公表している。
今回は、これら2つの報告書を紹介しつつ、児童ポルノとブロッキングにまつわる問題を解説しよう。なお、筆者は安心ネットづくり促進協議会で児童ポルノ作業部会の主査を務めたため、その意味では「中立の立場」ではないことをあらかじめ申し上げておきたい。
ブロッキングとフィルタリングの違いは
「ユーザーの同意」の有無
「ブロッキング」とは、インターネット・アクセス・サービスを提供するISP等が、ユーザーの同意を得ることなく、あらかじめ決められた一定のサイトやデータの閲覧を遮断する措置のことである。
具体的な手法は次のとおりだ。まず、ISPはあらかじめ、遮断対象とするサイトやデータのホスト名、IPアドレス、URL等(以下、まとめて「URL等」と記す)をリスト化しておく。そのうえで、ユーザーが閲覧しようとするサイトやデータのURL等を検知し、遮断対象リストと照合し、合致したものについて閲覧を遮断する。遮断対象リストの作成は人の手で行われるが、ユーザーがアクセスしようとするURL等の検知、遮断対象リストとの照合、閲覧の遮断は、すべて機械的に行われる(図1、2、3を参照)。
以上の説明からもわかるように、ブロッキングの仕組みは、基本的にフィルタリング・サービスと同じである。ただし、決定的に違うのは「ユーザーの同意なしで」行われる点だ。ブロッキングは、違法情報を見たいと望むユーザーにもそれを見せないようにする措置なので、同意を前提とすることはできない。ユーザーの同意を得ずに、ユーザーがアクセスしようとするURL等をISPが検知することから、通信の秘密を侵害するおそれがある(詳しくは後述)。
他方で、ブロッキングは海外でも実施されており、児童ポルノの流通を防止するうえで効果的な方策であることから、わが国でも導入の可否が検討されてきた。
図1:通常のWeb閲覧におけるISPの役割 |
図2:ブロッキングの仕組み(1)(DNSポイズニング) |
図3:ブロッキングの仕組み(2)(URLベースのブロッキングの一例) |