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球児で自力V消滅…村田に逆転3ラン

 矢野は涙をこらえながら藤川(左から2人目)、久保田(左)と握手をかわす(撮影・山口 登)
 矢野は涙をこらえながら藤川(左から2人目)、久保田(左)と握手をかわす(撮影・山口 登)

 「阪神3-4横浜」(30日、甲子園)

 冷たさを増した秋風が、見る間に顔中の汗を消し去っていく。阪神の藤川がまさかの逆転被弾。白球が突き刺さった左翼席を、球児はマウンド上からただぼう然と見つめた。

 「力がないだけです」

 血色を失った体を、守護神の本能が支えていた。試合後の通路。全身の虚脱感を懸命に振り払う守護神の右頬(ほお)から、ぬぐい忘れた涙の滴がこぼれ落ちた。

 こみ上げる感情が過剰なアドレナリンとなり、守護神の直球から力を奪った。矢野のテーマ曲とともにマウンドを踏み締めた2点リードの九回。連続四球で無死一、二塁とされると、迎えた4番・村田にカウント2‐1から投じた4球目、高め149キロを完ぺきにとらえられた。打球は虎党の悲鳴とともに左翼席へ。まさかの逆転3ラン被弾。悪夢の凶弾が別れの儀式を奪い、自力優勝の可能性をも奪い去った。

 命を預けて戦える唯一無二のパートナーだった。飛躍の手応えをつかんだ04年オフ。可能な限り矢野とともに時を過ごし、教えを請うた。「もっとフォークを磨いたら、あの真っすぐがもっと生きるよ」。その言葉通りにフォークの研究を重ね、05年には球界を席巻する大ブレーク。「矢野さんの導きがあったから、今の僕がある」。ともに笑い合った日もあれば、泣いた日もあった。こん身の1球を矢野のミットに投げ込み、師の花道を飾りたかった。

 しかしそれは、かなわなかった。

 この敗戦でマジックが消滅。首位中日にマジック1が点灯した。残り試合の全勝はもちろん、敵の敗戦を待つしかない状況。運命はもはや、手の中にはない。

 「責任取って最後までやり抜きたい」

 全身を貫く自責の念が、守護神の胸を焦がす。あまりにも酷すぎる結末。背中を震わせながらロッカールームに消えた守護神の背中を包むように、無二のパートナーは言うのだ。

 球児のおかげでどれだけの幸せをもらえたか。お前のおかげで、いい思いをいっぱいさせてもらったよ‐。

(2010年9月30日)







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