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2010年10月1日(金)付

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政治介入?―首相は責任を引き受けよ

尖閣諸島沖事件をめぐる集中審議が衆院予算委員会で開かれた。中国との外交を、どう立て直していくのか。極めて差し迫った課題であるはずなのに、議論は深まらなかった。[記事全文]

北方領土―訪問は不毛な対立深める

尖閣諸島の領有をめぐって中国との緊張が高まる日本外交の足元を、見透かしたようなロシアの動きだ。メドベージェフ大統領が「北方領土を近く必ず訪問する」と表明した。[記事全文]

政治介入?―首相は責任を引き受けよ

 尖閣諸島沖事件をめぐる集中審議が衆院予算委員会で開かれた。

 中国との外交を、どう立て直していくのか。極めて差し迫った課題であるはずなのに、議論は深まらなかった。

 中国人船長の釈放に「政治介入」はあったか、なかったか。不毛な攻防に多くの時間が割かれたためである。

 「検察の自主的な判断」を繰り返す菅直人首相らの姿勢が大きな原因だ。

 釈放が高度な政治判断であったことは疑いがない。民主党の長島昭久氏が指摘したように「外交は検察の手に負える問題ではない」にもかかわらず、首相らはその判断を追認したのだと言い続けた。政治の使命と責任を放棄していると言われても仕方ない。

 首相は「外交を含め責任はすべて私にある」と述べてはいる。だが一般論ではなくて、今回の対応についての全責任を自分が負うと言い切らなければ、国民の納得は得られまい。

 なぜ、これほどかたくななのか。考えられる理由はふたつある。

 第一に、同様の事態が起きた場合、そのつど政治判断を求められることになり、さらなる混迷を招く。

 第二に、検察捜査に介入し、権力分立を侵したと批判される。

 たしかに難しい問題ではある。だがやはり、このようなごまかしと逃避がもたらす弊害は小さくない。何より、政治に対する国民の信頼を失わせる。

 前者の懸念については、まさにこうしたことが繰り返されぬよう環境を整えていくのが政治の役割である。

 後者の懸念に関しては、法相が指揮権を発動し、ほどなく内閣が倒れた造船疑獄がトラウマになって、硬直した対応をもたらしてはいないか。

 法律は、個々の事件処理について、法相は検事総長を通じてのみ指揮できると定める。検察の独善を抑えて民主的なコントロールの下におくとともに、政党の利害や都合で捜査が左右されることのないように設けられた。

 政権維持のために訴追をやめさせるといった発動は許されないが、今回問われたのは、隣国との関係をどう保つかというすぐれて政治的な問題だ。

 内閣は指揮した事実とその内容を明らかにして、主権者である国民の判断を仰ぐ。それが、独裁体制とは違う、民主主義の強さと奥深さではないか。

 その意味で、仙谷由人官房長官が政治と検察との関係についての議論の蓄積や先例の少なさに触れ、「どういう場合に許されて、どういう場合にはやってはならないのか、大いに議論しなければならない」と述べたのは、遅ればせながら的確な問題提起である。

 外交は、どの政党が政権を担っても困難な対応を迫られる。現内閣への批判は批判として、政権交代の時代に入ったいま、野党にも「ではどうあるべきか」の真剣な検討が望まれる。

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北方領土―訪問は不毛な対立深める

 尖閣諸島の領有をめぐって中国との緊張が高まる日本外交の足元を、見透かしたようなロシアの動きだ。

 メドベージェフ大統領が「北方領土を近く必ず訪問する」と表明した。

 尖閣と違って北方領土は、1993年の東京宣言をはじめとする公式文書で、両国政府が交渉で解決を目指すと確認している。だからこそロシアの歴代指導者も、訪問を避けてきた。

 今回の動きには、「第2次世界大戦の結果、帰属が我々に移った」との主張を強めるロシアが実効支配の現状を強調し、四島を固有の領土とする日本の立場を揺るがす狙いがうかがえる。だが、強引なやりかたは交渉を不毛なものにするだけである。

 「日ロ関係に重大な支障が生じる」と前原誠司外相が、ロシア側に懸念を伝えたのは当然だ。引き続き、強く訪問中止を働きかけるべきだ。

 このところ、ロシア側には領土問題で強硬な動きが目立つ。まず夏には、北方領土の択捉島で兵士1500人が軍事演習をした。

 さらに日本が連合国への降伏文書に署名した9月2日を「第2次大戦終結記念日」に制定した。続いて今週、中国を訪問していた大統領が胡錦濤国家主席と、領土保全の原則的立場を保持するとの共同声明を出した。尖閣や北方領土で主張の正当性を確認しあって日本に圧力をかけるような内容だ。

 日本の政権が自民党から民主党に代わっても、領土問題で立場が変わらないのに業をにやしたのかもしれない。しかし、こうした動きがロシアの長期的な利益にかなうとは思えない。

 石油や天然ガスなどの資源に大きく依存するロシアの経済は、2年前の金融危機で大きな打撃を受けた。このためロシア政権は、経済の「現代化」を目指し、技術や投資の受け入れ先としての欧米や日本と良好な関係を築く政策に乗り出していた。

 またロシアは、開発の遅れたシベリアや極東地区の底上げのために、アジア・太平洋諸国との協力強化に努めている。今後は東アジアサミットに参加し、2012年に極東のウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議の首脳会議を主催するのもそのためだ。

 それなのに、地域で積極的に協力しあうべき日本と領土問題でもめ続ける損失の大きさを、ロシア側はよく考えるべきだ。

 民主党政権にも課題がある。

 鳩山由紀夫前首相は、東アジア共同体構想を唱えたが、その中で日ロ関係をどう位置づけるかを示す間もなく退陣した。菅直人首相も、メドベージェフ大統領との会談は顔合わせ程度の一度きりだ。中ロの首脳会談は今年だけで5度を数える。

 ロシアを含む日本の東アジア政策の立て直しが必要である。

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