人民日報曰く「琉球群島は尖閣諸島を含む」

2006年03月29日

前回のコメント欄でa Jupさんが紹介してくださったブログの記事を眺めてみます。

この記事は、1953年1月8日付けの人民日報の「琉球群島人民反対美国占領的斗争(琉球島民の米国占領に対する闘争)」と題された記事を全文転載して紹介したものです。中国の検索サイト百度で検索してみると、この文章を掲載しているページが65ヒットしました(29日現在)。ブログや掲示板に掲載されているのがほとんどです。ですのでこの人民日報の記事の存在の真贋はわかりません。

日々是チナヲチさんの「経済制裁。・下 」という記事のコメント欄でもこの記事が紹介されており、紹介された方が次のようなコメントを添えておられます。

最近、中国人のブログでこんな文章が流布しているようです。出始めたのはもう去年の春あたりらしいのですが、ご存知でしたか?
日々是チナヲチ「経済制裁。・下(コメント欄:人民日報の良識? (東華菜館))

a Jupさんが紹介してくださったブログ記事(蛍火曼陀羅)に引用先が記載されています。引用先のブログは「安替関于新聞和政治的毎日思考 」で該当記事の投稿日時が2005年4月23日とあるので、このブログが初出でしょうか。

少し話が逸れますが、今回の人民日報の記事を掘り起こしたと思われる「安替関于新聞和政治的毎日思考 」というブログ、とある事件を追いかけているときに覗いたことがありました。とある事件とは、昨年末に北京の地方紙である新京報が報道姿勢を巡って当局と対立し編集長が更迭され、それに抗議する為に記者たちが大規模なストをしたという事件です。

この新京報の幹部更迭に対して自身のブログで厳しく批判を行ったのが「安替」ことジャーナリストの趙京であり、この批判を掲載したブログは米マイクロソフト社が中国内で運営しているMSNブログサービスで、MSNは中国当局の要請でこのブログを強制削除し騒ぎが大きくなりました(註1)。

「安替」こと趙京は、このような言論弾圧に屈することなくアメリカにある自身の別のブログでこのMSNの処置に対しても批判を展開しました(註2)。この「安替」こと趙京がアメリカで運営しているブログこそ「安替関于新聞和政治的毎日思考 」なのです。つまりこの記事は、中国当局の弾圧に抗議するような気骨あるジャーナリストが発掘し掲載したものなのです。ですので、この人民日報の記事の存在の信憑性は高いと思ってもいいかも知れません。

この人民日報の記事を紹介するに当り、冒頭で次のように綴っています。

釣魚島(台湾が釣魚台列嶼、日本が尖閣諸島と称する)の論争に関する文章を書く時、私が調べた多くの資料の意義を消し去るような信じられないような1部の中国政府の報道を発見した。更に私におかしいと思わせたのは、こんなに重要な資料を私達の国家や多くの釣魚島の学者や専門家の研究で全く引用されたことがないことである。私は、日本の資料を見る時、日本の右翼の言い方を見て、デマを飛ばしていると思っていたが、《人民日報》倉庫を調べて下のニュースを見つけた。悲しい!私は今むしろこの研究をしなければよかった。
安替関于新聞和政治的毎日思考「両[イ分]令人吃驚的文件

1953年1月8日の人民日報の記事に戻ります。

この記事に対する中国人の反応はほとんどが驚きです。なかには「なぜ米軍が占領した直後に抗議し領有宣言しなかったのか!」と憤っている書き込みもありました。

記事は、アメリカ軍に占領された琉球群島に多くの基地が建設され、ここから毎日飛び立つB29が北朝鮮を爆撃し、また島民たちがアメリカの占領下で苦しんでいるさまと闘争しているさまを伝えているものです。尖閣諸島の帰属に関する部分と興味深かい部分だけを訳出してみます。

その前に記事が発行されたとされている1953年の前後の主要な動きを少し。

  • 1945年:第二次世界大戦終結
  • 1949年:中華人民共和国の成立
  • 1950年:朝鮮戦争勃発、同年10月中共解放軍が「志願兵」として参戦
  • 1951年:サンフランシスコ平和条約を締結し日本独立
  • 1953年1月:今回取り上げている記事を掲載した人民日報が発行
  • 1953年7月:朝鮮戦争停戦
  • 1970年:中共、尖閣諸島の領有権を宣言
  • 1972年:沖縄返還

琉球群島とは、我が国台湾の北と日本の九州島の西南の間の海域に位置し、尖閣諸島・先島諸島・大東諸島・沖縄諸島・大島諸島・土○○諸島・大隈諸島など七組の島嶼でそれぞれに大きな島があり、総計すると50以上の名のある島々と4百余りの無名の小島を含み、総陸地面積は4千6百70平方キロメートルになる。

(中略)

アメリカは琉球に軍事基地を建設し使用すると同時に、積極的に琉球群島を永久に占領するために侵略した。アメリカは琉球を占領してまもなく、琉球のすべての政権を独占的に握った。昨年来アメリカ侵略者は、”カイロ宣言”や”ポツダム宣言”などの各国による国際協議すべてにおいて琉球群島を信託統治すると定めていないというソビエト政府と中華人民共和国政府の数度にわたる声明と琉球人民100万人の反対を顧みず、なんと日本吉田政府と結託し勝手に「日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)・・・合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。」とある”平和条約”を締結した。・・・(以下略)

安替関于新聞和政治的毎日思考「両[イ分]令人吃驚的文件:《人民日報》1953年「琉球群島人民反対美国占領的斗争」
(上記サイトが消滅していたので上記ブログ記事を博訊網が転載しているものを。
博訊網「《人民日报》1953年、台湾《聯合報》1968年関于釣魚島的報道」)

以下、アメリカの占領がいかに過酷でそれに対して住民が闘争を繰り返しているさまを記しています。朝鮮戦争真っ只中であるのでアメリカ帝国主義の非道なやり口を非難する記事に仕上がっています。

この記事を見ると中国政府は、尖閣諸島は沖縄返還と共に日本に返還されたという認識を持っていることになります。その上で「釣魚島(尖閣諸島)は我が領土!」などと主張して愛国戦士たちをたびたび上陸させようとしていたのです。どのような理由をつけて中共が領有権を主張しているのか知りませんが、要は尖閣諸島海域に眠る石油を略奪するが為のいちゃもんに過ぎないことがわかります。

この記事を紹介してくださったa Jupさんが次のようなコメントを寄せてくださっています。

対日強硬派が無理やり「(沖縄の)中国帰属論」を展開する理由が分かるような気がしました。
中南海ノ黄昏「反日侮日の引き潮かな

人民日報の記事の通りの認識を中共が持っているのであれば、尖閣諸島”だけ”領有権を主張することに無理があるということになります。しかし日中平和友好条約を破棄し「琉球群島は我が領土!」と主張すればSF条約を根拠に日本領土であるとの主張だけは崩すことができるわけです。

で、以下邪推、邪推。

最初に触れましたが、この人民日報の記事を掲載したブログや掲示板が中国の検索サイトで検索できて65ページヒットしました。ネット上の言論も厳しく規制している中国において放置されているわけです。なぜか。

邪推全開!SF条約や歴史的根拠など一切関係なく「尖閣諸島は我が領土!」→「尖閣諸島は琉球群島に属するのだ!」→「琉球群島は我が領土!」などと派手に喧伝できる余地を残すためなのではないでしょうかね(笑)いや、笑い事じゃなくなるか日が来ないとも限らない。

大切なことは、「日中友好に悪い影響が出るのではないか」などとわけのわからぬ配慮を行い問題を棚上げし先送りにすることではなく、主張すべきことをはっきりと主張し、相手の間違いは間違いであるときっちりと指摘し、はっきりと行動で示し、相手がアホな主張を繰り返している対日強硬派を切らざるを得ない状況になるまで追い詰めることだと思います。

註1
日本経済新聞「(1/7)米マイクロソフト、中国人の人気ブログを閉鎖・香港紙
註2
安替関于新聞和政治的毎日思考「長城脚下,我們2006年継続出発
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posted by タソガレ at 23:56 | Comment(0) | TrackBack(1) | 東シナ海・尖閣諸島 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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尖閣諸島の資源採掘にコストがいくらかかるか考えてみる

Excerpt: 毎週最低4回の更新をなんとか維持している鶏でございます。 今回も「尖閣諸島」です。 海賊すら住まない島なのに、日本中の人はここに首っ丈です。 日本のほとんどの石油は輸入に頼っています..
Weblog: しゃも(鶏)が「勝手に解説するぜ!オイコラ聞けよ!」
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