軍事管理区域でビデオ撮影したとして中国側に取り調べを受けていた建設会社「フジタ」の社員ら4人のうち3人が釈放された。中国側が尖閣諸島沖の漁船衝突事件をきっかけに悪化した日中関係の修復に動き出したものとみられる。中国側は残る1人も早急に釈放すべきである。
中国政府は4人の拘束と衝突事件との関連を否定しているが、中国側の一連の動きを見れば対日けん制の狙いがあったのは明らかだろう。遺棄化学兵器の処理という日中間の戦後処理事業に携わる人たちを「軍事目標を撮影した」という理由でいきなり拘束するのはあまりにも一方的である。
どのような理由で中国側による「居住監視」の扱いを受けなければならなくなったかもはっきりしない。日本政府は残る1人の早期釈放を強く申し入れるべきである。
一方、衝突事件をめぐる政府対応についても不透明さが払しょくされない。臨時国会開会を前に行われた衆院予算委集中審議で政府側は中国人船長を拘置期限前に処分保留で釈放したことについて「政治介入は一切ない」と繰り返したが、とても納得できるものではなかった。
国民が疑念を持つのは那覇地検が船長釈放の理由のひとつに「日中関係への考慮」を挙げたことだ。仙谷由人官房長官は、外交配慮は事件処理にあたっての諸事情のひとつにすぎないと答弁したが、検察が外交に配慮することの異例さの説明としては不十分だった。
仮に、政治による指示が一切なかったのが本当だとしたら、逆に政府の外交に対する構えに不安が募る。外交は政府の仕事だ。にもかかわらず対中関係への影響を考慮もせず検察に一切を任せたというのならこれも大きな問題である。
菅直人首相をはじめ政府の危機管理意識の低さも指摘しておかなければならない。首相は中国漁船の悪質さを指摘する一方で、衝突の経緯を海上保安庁が撮影したビデオは見ていないと明かした。尖閣諸島問題の重要性に対する認識が甘かったのではないか。仙谷官房長官も先日の記者会見で「(日中間の)司法過程の理解がまったく異なることを我々が習熟すべきだった」と中国の反応を見誤ったことを認めている。
いま大切なのは日中のハイレベル対話の実現を急ぐことだ。レアアース(希土類)の輸出再開など中国側にも関係修復への模索と見られる動きが出始めている。4日からは菅首相や温家宝中国首相も出席するアジア欧州会議(ASEM)がベルギーで始まる。対話の枠組みの再構築へ向けた努力をとりわけ中国側に求めたい。
毎日新聞 2010年10月1日 2時31分