「阪神3‐1巨人」(29日、甲子園)
阪神が逆転勝ちで、マジックを7とした。負けられない試合で、能見篤史投手(31)が踏ん張った。6回を1失点に抑え、巨人戦7連勝。「これぞエース」と声をかけたくなる好投だった。残りは7試合。7連勝すれば、優勝できる。ファンも、ナインも、負けるつもりはない。
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どんな形でも勝てばいい。勝って、次につなげたい。運命的な背水のマウンドでも、期待は裏切らなかった。逆転Vへの希望をつなぎ、巨人の4連覇の夢を打ち砕いた痛快な白星。秋風に乗り、六甲おろしの大合唱が聖地を包む。勝利の中心に、能見がいた。
「最少失点というか、野手がいっぱい助けてくれたんで。(重圧は)そんなのは気にしないで慌てないように。状態は良くなかったけど、久保田にも球児にもいつも助けられてます」
苦しみながらも、傷口を広げなかったことが勝因だ。五回まで、毎回走者を背負ったピッチング。三回にラミレスに先制の適時打を浴びたが、追加点は与えない。逆転した直後の四回無死一、三塁も、後続を3人で抑えて無失点で切り抜けた。
六回に初めて3者凡退で抑えると、裏の攻撃で代打を送られた。6回6安打1失点。フォークの制球に苦しみながらも粘ってゲームを作り、勝利を手繰り寄せるところに価値がある。
これで巨人戦の連勝が、79年の小林繁氏以来の7連勝に。負ければ自力優勝が消滅した一戦。重いムードのまま、夜明けを迎えるわけにはいかない。翌30日の横浜戦、矢野の引退セレモニーが行われる試合。「恩人」の大切な一日は、勝利で迎えると決めていた。
「矢野さんは、僕の性格に気をつかってくれていた。頑固で直接色々と言われてもへこむというか。だから、新聞を通じて僕に話してくれていることをいつも読んでた」
いつしか身に付いた習慣がある。可能な限りスポーツ紙に目を通し、矢野の言葉を探すようになった。期待されながらも、結果を出せない申し訳なさ。同時に、紙面で感じる気配りがうれしかった。だからこそ、直接言われた言葉は忘れない。
「『でも、殻を破るのは自分や』って言われてね」。最後は自分がやるかどうか。胸に響いた合言葉。支えとなり、だからこそ今の自分がある。「Gキラー」と呼ばれ、この日の勝利がある。
試合後は、ヒーローインタビューの最中に淡々とした表情でロッカーへ。「今日は僕じゃないですよ」。お立ち台に上がる可能性もあったが、それを良しとしなかった。まだ、これからだ。宿敵の4連覇を阻止し、2位再浮上を導いた左腕。「約束」の勝利で奇跡への扉を力強くこじ開けた。
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